●いまそこにある未来 その橋は復興の橋だった。 嘲られ、認められ、裏切られて、そんな末に掛けられた大橋。 二つの主塔が高くそびえ、吊り橋の命であるメインケーブルは一つが三百本のストランドから成り、そのストランド一本は百三十本のワイヤーから成る。即ち、四万本弱のワイヤー群が一つのケーブルを構成する。大陸側から一つ目の主塔まで、主塔―主塔間、そして二つ目の主塔から島へ、そのケーブルによる三つの美しい放物線が観測された。 この様な大規模な橋には、なんだか人の心をざわざわと騒がせる何かがある。構造上の何か、というよりは、心情的な何か、が。その正体はついに知る由も無かった。 夜のライトアップが美しく彩るその大橋。その周辺を動き回る怪しげな影が、不吉に蠢いた。 海面約三百メートル。その主塔の頂上。 「作りたがる者が居れば、壊したがる者が居る」 世の常だ。自分が後者だったというだけのこと。 一際強く風が吹いた。男は消えていた。 ●ブリーフィング 「昔の兵法上は確かに有効的な戦略ではあったのだけれど」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が特に感情の浮かばない顔で続ける。 「現代ではあまり見かけることも無くなったわね」 日本が比較的平和な方であるからかもしれないけれど、とイヴは続けた。 今回報告が上がったのは、フィクサードによる橋の爆破事件。 「橋を三等分するその位置に、主塔が二つ立っている」 その主塔にはそれぞれ右側、左側にそれぞれ足があって、橋を支えている。 「つまり足が四つあって、そこに爆弾が仕掛けられている。これが未然に防げれば良かったのだけれど」 イヴが小さく溜め息をついた。 「つまり、だ。その爆弾を処理してほしい、ということだな?」 「まあ、そういうことね。ただ、近くで様子を窺っているフィクサードが居ると考えられるから、彼らとの戦闘も十分考えられるわ」 「なるほど」 リベリスタは腕を組んだ。もしこの爆破事件が現実になったら、六千億円弱の予算が国家を圧迫し、何より道路単独橋として設計・建設されたこの橋が落ちれば、交通の便を大きく断たれることを意味する。 「ついでに言えば、この橋は内部に水道管を内蔵しているから、本州対岸の島は深刻な水不足にも陥るでしょう」 「悪いこと尽くしだ」 そうね、とイヴは首肯した。 「何より、この橋、ライトアップが綺麗なのよ」 「……ん?」 「私、まだ肉眼でそのライトアップを見てないの。美しい夜景と相まって、本当に素敵らしいわ」 私が観る前に破壊されるだなんて、絶対に許さない。 「……無事に終わったら、その夜景でも楽しんできたら?」 そう続けたイヴの言葉に、リベリスタは苦笑した。素直じゃないなあ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月09日(月)00:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「一つ、気になる事があります」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が言った。男は肯定も否定もしない。 突然、強い風が吹いた。海上ならではの不安定な気候。そうして燻る不穏な雰囲気。 「ただ爆破するにせよやり方は幾らでもあった筈です」 例えば、四個と言わずもっと沢山の爆弾を仕掛ければ良い。 例えば、時限式と言わず遠隔操作式にすれば良い。 「そうすれば私達もまた今以上に苦戦を強いられた筈です。 ―――それは何故ですか? 貴方達なりの『美学』だとでも言うのですか?」 ミリィの少し後ろで、『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)が小さく頷いた。キリエの視線はその男に注がれている。注意深く彼を観察する。世界から悪意が失せることはなくとも、起こり得る悪夢を防げる気はするから。 男の――榛原の――右腕が静かに宙を舞った。キリエを挟むように丁度隣に位置していた『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)と『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)はその咄嗟の動きに全く後れを取らなかった。墨染めの黒い刃と、禍々しい銃口が彼へと捧げられた。男はきっと最後の言葉を紡ぐのだろう。 「俺はな―――」 閃光。 轟音。 振動。 ● 「確かに綺麗ね、ライトアップ」 作戦開始三十秒前。爆弾起動時間を相手取った駆けっこの始まり。『薄明』東雲 未明(BNE000340)のぼうとした視線がその点滅を視界に入れた。 どこか屋内から見られたらもっと良かったのに。 彼女たちが位置する本州側には、煌びやかな建物が立ち並んで見えた。この絶景を売りに、ロマンチックな時間が売り出されている。それらを装飾するような同様に綺羅びやかに佇む街並みが引き立てるように修飾されている。こんな暗闇に姿を隠す自分たちとは天と地の差だ。 「海風、寒いわ」 横に座る『泥棒』阿久津 甚内(BNE003567)の大きな頷きと共に、その声色は対岸へと消えて行った。 「さて、工作ならば俺の領域ではあるが……? どんな手を使ってくるのか、見てみるとしよう」 陽動を行うために一足先に端へと飛び出した『淫魔Lv1』囁 ぐるぐ(BNE004823)の後姿を眺めながら、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が呟いた。視界に収められていた色とりどりのライトアップはそのままに、車の流れが止んだ。アークの交通規制が掛かり、橋の上を通る高速道路から車のライトが消えた。 作戦開始。 オーウェンの姿が、その闇の中に躍り出た。 ● 突如本州側から数台、島側からは一台の車両が走り出した。 全長三キロメートルに及ぶその巨大な吊り橋の上を進んでいく。 あばたの車両に同行する未明は、その屋根の上に腰を低くして位置している。激しい空気抵抗に瞼を薄くしながらも、その眼が周囲を凝らした。 少なくとも橋の上には敵の姿は見えなかった。そもそも、自分たちが向かう先に敵が居る事自体が少々考えにくい。時限式の爆弾であるのなら離れて様子見するのが普通だろう。起動直前まで付近で警護しているというのは、かなり危険性の高いやり方だ。普段なら。 それがリベリスタからの妨害を考慮しての配置なら、十分あり得る配置であろう。橋外から見守っているだけでは、彼らに追いつくことはできない。何が何でもこの爆破を成功させたいのなら、何が何でもリベリスタを阻止する必要があった。橋上に手駒を置いておく行為はその一途さを否定しない。 (橋ってのはー走り屋ーにとっちゃ、 ソコソコありがたいスポットなー訳ですよー) ゴーグル越しの甚内の眼が微妙に角度を変えた。元々走り屋出身の彼は、作戦抜きでこのシチュエーションを楽しんでいた。遅々として進まない渋滞などは以ての外、制限速度も前の車も歩行者も気にせず、それでいて最高速度を出せと言われているのだから、楽しめない訳がなかった。 そうした中でも仕事を忘れてはいないのが甚内の偉い所だろう。前方から降り注ぐ無数の火矢に気づかない方がおかしいという意見も多数派だろうが。 そうして火矢に紛れて振ってくる人影。男のフィクサードたち。 「こういう時にはさ」 キリエが呟いた。 「振ってくるのは女の子だって相場が決まってるんだけど」 リベリスタたちの周囲を正しく炎の海が襲う。激しい熱風が彼らを包み込み、その視界すら奪った。 空気が冷たい。その弾幕を抜けた瞬間に吸ったその味は突き抜けて美味しかった。そうして次に目に入ったのは、濁流の如くうねり迫りくる黒鎖。 それは橋の上に居たリベリスタたちをそのまま飲みこんだ。本州側の付け根にまで及ぶその攻撃は二人のフィクサードが放つ終局への代償。 「ゴミ処理だなあ」 その鎖が止んだ時、そうして立っているあばたの姿を目にして、フィクサードたちは一瞬狼狽した。 あばたとその眼があった。 「燃やされて吹き飛ばされるべきなのは、お前等『ゴミ』の方でしょ?」 即座に手元周りを打ち抜かれたフィクサードは、後退した。 リベリスタの側から取りあえず視認できるのが七名。単純に考えれば、残り三名が島側のぐるぐへと向かっている可能性がある。 未明がAFで通信をしようとしたその時、対岸から大きな音と光が響いた。向こうも交戦に入ったらしい。 フィクサードが入れ替わり構えた。敵は遠距離、広範囲攻撃でリベリスタ側を抑え込む魂胆の様であった。 「そう……」 レイチェルがその姿を視界に収めた。投降するのなら捕縛だけれど。 「あくまで抵抗するというのなら、仕方ないですね」 殺すしかない。 そう思ったのと、その閃光が吹雪のように道路を駆けていくのは同時だった。 「……!」 フィクサードたちが思わず防御態勢を取るのが確認できた。彼らとリベリスタとの距離は二、三十メートルと言ったところ。 「それじゃあ、反撃といきましょうか?」 ミリィのタクトが、優雅にフィクサードを指した。 ● ぐるぐが軽自動車で突っ込み、乗り捨てようとしたときには、その漆黒の魔弾が彼女目掛けて打ち出されていた。 紙一重で車両から飛び降りると、そのさっきまで座っていた運転席は木端微塵に吹き飛んで行った。その後爆発音が響くより早く車体から火柱が上がり、燃料に引火した炎が瞬く間に周囲を覆っていった。 「ご、ごめんなさいー!許してぇー!」 振り向きざまに気糸を打ち込む。狙いは緻密で尋常離れしている。大勢を崩しながら放ったものとは思えないが、如何せん重さに欠けた。フィクサード二名の内一名が逃げるぐるぐの背を追った。 ぐるぐにしてみれば完璧な流れであった。思惑はほとんど全てが思い描いた通りに進んでいる。問題は、ここからであったが。 リベリスタとしての戦闘経験を欠く彼女にはそのフィクサードは手に余るだろう。 逃げているのは作戦であって、作戦ではなかった。 (オーウェンさん早く、早くー!) 一刻も早く逃げたい。顔を顰めたぐるぐは全力で走り始めた。 特に橋の下側は風が強い。海上の変則的な動きと、疑似的なトンネルによる風の対流が巻き起こり、オーウェンの髪を激しく揺らした。 ぐるぐの派手な陽動のおかげか、オーウェンは敵の襲撃を受けずに主塔まで辿りついた。そのまま壁を伝い、足の方へと降りてゆく。無論、証明などは無く、ただ激しい波の音が響くだけの暗闇であった。その様子が、妙に禍々しい。 約一キロメートルの距離を、身を隠しながら進むのは容易な事ではなかっただろう。しかし、オーウェンは疲れの様子も見せずに、すぐさま爆弾を探し始める。時は正確に刻まれ、タイムリミットは確実に一歩一歩彼らに近づいてきている。 透視の能力を活性化させている彼にとって、それを見つけるまでに時間は掛からなかった。 近づこうと動き始めて、大きな振動が響いた。視線を本州側へと向けると、橋の上から人影が落ちていくのが分かった。オーウェンにはそれが敵なのか、それとも味方なのかの判別は出来なかった。味方でなければいい、と彼は思う。 敵ならば。 「冬の海はやや冷たいが……。まあ、我慢してくれたまえ」 独りごちて視線をそちらへと戻す。質素な黒いプラスチックに覆われた、高さ二十センチ、幅、奥行き三十センチほどの長方形の箱。一見粗末に視えるこの筐体だが、オーウェンには一目で良く出来た仕掛けであることが分かった。 「なるほど」 アークを出る時にミリィの呟いていた疑問も強ち的外れではないことをこの瞬間に理解した。 愉快犯で、これは出来ない。 しかしその爆弾も、意図も簡単に無効化された。 残るはあと三個。 オーウェンの耳に届く戦いの残響は、次第に大きくなっていた。 ● 敵の攻撃は思っていたよりも強力だった。 統率が取れており、能力の扱いも良く心得ている。 だからフィクサードたちにとってもそれは良く理解できない状況だった。その攻撃の中進んでくるリベリスタたちの姿が、その状況と一致していなかった。 その体は、フィクサード共を薙ぎ払おうと、一直線に彼らに向かってきている。爆弾の下へ直行出来ない以上は、敵を蹴散らすしか方策は残されていない。 レイチェル、キリエ、ミリィ、あばたの後方援護を受けながら、未明と甚内が敵前衛の目前へと迫った。 「地元走り屋の為にも一肌脱ぎますかー★」 甚内の腕が振るわれる。顔には軽薄そうな笑みを浮かべたまま、凍えるような風がフィクサードを襲った。 フィクサードの剣が応戦するかのように弧を描く。黒光を帯びたその軌跡は甚内の目の前を通り過ぎた。瞬き一つすることなく彼はその体躯に再度拳を叩きつけた。矛を持たぬその拳で。 呻き声を上げて動きを止めたそのフィクサードの横を未明が駆けていく。 「全くお互い、寒い中ご苦労な事よね」 口調は柔らかいが、眼光は鋭い。怒りと言うよりは呆れが蓄積していた。 だからそれはそういう複雑な負の感情が載せられた重い一撃だった。その剣が振るわれる速度は、従来のそれとは一線を画していた。同じ剣技とは思えない。剣戟と言うよりも、もっと暴力的な何かと表現される、けれど凄まじい攻撃だった。 そのダークナイトは、細身の双剣で一瞬はその未明の攻撃を受け止めた。それだけでこのフィクサードは褒められて良い。それすら出来ずに、無自覚に殺されていく覚醒者は無数に存在するであろう。 程なくして大きな衝突音と共に、そのフィクサードの体が吹き飛んで行った。その姿はワイヤーと同じような放物線を描いて橋の向こう側へと落ちていく。不気味な波音と暗闇だけが支配するその海域の中へ。 その光景に、一旦は止んでいた後衛フィクサードたちの攻撃が再開された。それは恐怖から来る本能的な攻撃だった。生きる者が持つ当然の行動だった。 前に立つ二人がそれを真っ向から受けるのと同時に、レイチェルとミリィの攻撃がそれを押し返すかのように打ち出された。 激烈な閃光の後に襲い掛かる、その聖風。 そして、そうして生まれた敵の隙を打ち抜く、正確無比な弾丸。 「……今の内に!」 レイチェルのその言葉に、キリエは力強く頷いた。予想されていたよりも、時間を削られている。 戦力的には、数の上で上回られているものの、質では明らかにリベリスタ側が上であろうが、時折AFから悲鳴が聞こえるぐるぐの方が心配であったし、何より時間が心配だった。今回ばかりは、敵を圧倒すれば良いという性質のものではないことを、全員が深く理解していた。 「行って!」 キリエはミリィの声を背に受けた。あばたの援護射撃を受け、既に走り出している。 ● 「これで二つ、か」 AF通信でキリエが本州側の解除に向かったことを聞いたオーウェンは、すぐに主塔を上っていった。 「……」 逃げ回るぐるぐの姿を滑稽だと思うのは可哀想だろう。オーウェンはすぐさま自分の感情をそう分析して、彼女を追いまわす二人のフィクサードの下へと走った。 ● その最後のフィクサードが倒れて、レイチェルが呟いた。 「ぐるぐさんの方は甚内さんとオーウェンさんが加勢されたそうですが、連絡の内容と合わせると、一人足りませんね」 ミリィが深く頷いた。それは彼女も懸念していたことだった。 「まだ何処かに隠れているのかしら」 首を傾げながら未明がそう言うと、キリエからの困惑したような声色がAFから流れてきた。 「最後の一個が、見当たらない」 四個の爆弾の内、島側の二個はオーウェンが無効化している。そして本州側の一個も、既にキリエ自身が解除していた。 「本当に見つからないのか?」 「上から下まで探したんだけど……」 オーウェンの問いにキリエがすぐさま答えた。無い筈は無かった。少なくとも四個設置されているところまでは完全に把握されている。 「そんな訳……」 ない、とあばたが言いかけて、その視線が一点に定まった。 「……居た」 あった、では無かった。あばたのその声に、AF越しのキリエ、オーウェン、甚内そしてぐるぐは戸惑った。 しかし、未明、レイチェル、ミリィはむしろ『合点がいった』。 十から九を引いた後に残った一。 降り立ったその男。 「御機嫌よう。壊したがる者が居るのならば、 またそれとは別に阻む者が居るという事はご存知でしょう?」 ミリィは平然と言って退けた。 「あなたが榛原ですか」 レイチェルの問いに、男はこくりと頷いた。 即座にあばたの重火器が持ち上げられた。その銃口が彼の頭部を狙って、榛原は腕をそちらへと向けた。 「ちょっと待て」 「待てませんね」 短いやり取りの後に、その右掌を銃弾が貫通し、血が噴き出した。 「時間が無いことは分かっている。それに俺は抵抗しない。だから」 ちょっと待て。 手を打ち抜かれてなお表情一つ変えないその姿に、あばたの次の銃声は一旦止んだ。 「ありがとう」 髪は黒く、見た目は若々しいが、覚醒者の見た目などはアテにはならない。しかし、その男の雰囲気が、重ねてきた年月を感じさせた。 「君たちの探している四つ目の爆弾は、私の左腕にある」 レイチェルには既に分かっていた。だから榛原が嘘を言っていないことはすぐに分かった。 「目的は何」 「どちらのだね」 「今ここに立つ意味よ」 ミリィが短く問うた。与えられた時間はあと二百秒程だった。万が一の場合の事を、頭の中の七十パーセント程の自分が考えていた。 「素晴らしい手際だった。そして能力だった。だから、俺が出ても出なくても失敗するだろうと分かった。だから諦めた。出るのも壊すのも」 「随分諦めが良いんですねえ」 あばたの返答に、榛原は小さく笑った。 「失敗するのならどうでも良かった。どうせこの稼業はもう俺には続けられない。『船』から降りたくなってしまってね」 「船?」 「そう、船……。爆破して、能力を使って、そうやって生きていく船。それで得られる何かを求め旅をしていく船」 「……人の趣味に口出しする気はないけど、せめて自分で作って壊して頂戴」 未明の呆れたような声が響いた。 残り百五十秒。レイチェルとあばたが目配せした。 「そんな訳のわからない言葉を言いに、『そこ』に立ったんですか?」 「ああ、そうだ」 それでも、彼の言葉が嘘だとは思えなかった。 「終わるなら、こういう終わり方をしたいと、ずっと思っていた」 榛原が歩いた。三人が咄嗟に構えた。榛原は何も言わなかった。 向かい側から、オーウェン、甚内、ぐるぐの姿が見え、主塔を上ってきたキリエの姿も現れた。 ● 「一つ、気になる事があります」 ミリィが言った。男は肯定も否定もしない。 彼女のその問いに、男は『やはり』こう答える。 「俺はな―――」 そして、その先は『やはり』聞こえない。 大切そうに抱えた仕事道具共に宙に舞った彼の体は、着水する寸前に光と音と風に包まれ、蒸発した。 ● 「お前らも降りたくなる時が来るだろう」 「俺は先に行って、『向こう』で壊すことにしたよ」 「さあ、お前らは何処に行きつくのかな?」 「それはいつか、お前らも向かい合う事実さ」 「また答えを聞かせてくれれば有り難い」 ● 「綺麗だねえ」 甚内が感慨深そうに言った。交通規制は未だに続いている。爆弾というよりかは、神秘対神秘の戦闘による余波の方が大きかった。結局のところ、現状橋は使い物にならなかったし、修復期間が必要だろう。 もうあんな道を走ることもないのかと思うと、少し寂しかった。 すぐに、不謹慎だなあと思うが、笑みは取れない。 ライトアップだけが昏い海と対照的に輝き続けている。 深夜十二時。 そして、目の前のライトアップが消灯する。そこには何も無い。 認知できないモノは存在しない、などと言った心理学者の名前を思い出そうとして、すぐに止めた。難しいわ、そんなもん。 そこにあるのは、復興の橋。 嘲られ、認められ、裏切られて、そんな末に掛けられた大橋。 いつだってそこに架けられている、一つの救われた橋。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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