● すえた悪臭が、鼻腔の奥を刺激する。 陰に篭った空気を胸いっぱいに吸い込めば、“彼”の心は不思議と安らいだ。 張家の四男坊。それだけの意味しか持たぬ名を厭って家を出たのは、いつだったろう。 長きに渡って闇を這いずり、残飯を漁って生き延びるうちに“彼”は主と出会い、やがて七星の一つたる『文曲』の称号を得たが――やはり、“彼”の領域は光の届かぬ影にこそあった。 美しきものを照らし、醜きものを白日のもとに晒す陽の光。 “彼”はいつしか、それを心から憎むようになった。 いっそ、夜など明けなければ良い。全てが闇に鎖されてしまえば、この世界はどんなにか住みやすくなるだろう。 足元を流れる汚水が、濁った音を立てる。 刹那、辺りを漂っていた昏き思念が渦を巻いて一つの形をなした。 長い黒髪を腰の下まで垂らし、灰の外套を纏った女――嘆きの声で不吉を告げる死の妖精。 その姿を認めて、“彼”は含み笑いを漏らす。 「く、くく……僕に、力を貸しておくれよ……」 主が、その目的に一歩近付くために。何よりも、己の欲求のために。 生贄を捧げて、この世界を壊そう――。 ● 「今回の任務は時間との戦いになる。ブリーフィングが終ったら、すぐに現場に急行してくれ」 全員が揃ったのを確認すると、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は挨拶もそこそこに説明を始めた。 「皆は、『七天』というフィクサード組織の話を聞いたことがあるだろうか。 特殊なアーティファクトを集めたり、アザーバイドの召喚儀式を行ったりといった事件を以前から起こしていた連中で、幹部はそれぞれ星の名を冠した称号で呼ばれている」 過去にアークと交戦した幹部は『貪狼』『武曲』『廉貞』『禄存』『文曲』『破軍』『巨門』の七人。 いずれも、北斗七星を構成する星の名前だ。 「幸い、連中の動きはアークによって殆どが阻止されるに至ったが……まだ諦めずに何かを企んでいるらしい。こいつら幹部の上で、糸を引いている奴が居るみたいだな」 ここまでの経緯を簡単に話した後、数史はいよいよ本題に入る。 「現場は、住宅街の真下に位置する下水道。 幹部の一人『文曲』がエリューションによる大量殺人を実行しようとしているので、皆にはこれを阻止してほしい」 『文曲』は『呼び声の符』というアーティファクトを所持しており、高い知能を持たないエリューションを一体のみ使役することが出来る。それを利用して、一般人に被害をもたらそうというのだ。 「奴の言いなりになっているのは、『嘆きの妖精』という名のE・フォースだ。 数分かけて分身である『子供達』を無数に生み出し、広範囲に解き放つ力を持っている」 『子供達』は充分な数が揃うまで能動的な行動を一切取らないが、その場に存在するだけでリベリスタ達にダメージを与えてくる。また、あらゆる攻撃を受け付けないので、消滅させるには本体である『嘆きの妖精』を叩くしかない。 「皆が現場に着く頃には、既に『子供達』が増殖を始めている。 時間が経つごとにこちらのダメージは比例して増えていくし、放っておけば二分もしないうちに下水道から地上に溢れちまう。そうなれば、もう止める方法は無い」 壁や天井をすり抜けて地上に出た『子供達』は、住宅街で殺戮の限りを尽くすだろう。 よって、タイムリミットまでに『嘆きの妖精』を撃破することが今回の絶対条件となる。 「敵の顔ぶれは、『文曲』と配下のフィクサードが六名。いずれも、『嘆きの妖精』を守るように動く。 詳しくは資料にも纏めたが、『文曲』は暗所での戦いに長けている上、『五里闇中』というアーティファクトで自ら闇を生み出すことが可能だ。 下水道というフィールドでこいつを活用しない理由が無いし、対策は怠らないようにしてくれ」 一通り説明を終えた後、数史は資料から顔を上げてリベリスタ達を見る。 「連中の目的ははっきりしないが、放っておけば多くの犠牲が出るのは確かだ。 ここで『文曲』を倒すことができれば万々歳だが、それが難しくても『嘆きの妖精』だけは時間内にカタをつけてほしい」 よろしく頼む――と告げて、黒髪黒翼のフォーチュナは軽く頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月06日(金)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 悪臭を孕んだ湿った空気が、重く蟠っているようだった。 闇に鎖された下水道の中を、リベリスタ達は先へ、先へと進んでゆく。 比較的、滑り難そうな壁を足場にして走る『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)の背を追う離宮院 三郎太(BNE003381)の足元で、べしゃりと水がはねた。仲間と異なり、まったく夜目が利かない彼にとって、この暗さは厳しい。足場の悪さが、それに拍車をかけていた。 軽く眉を顰めつつも、前方に目を凝らす。時間が限られている以上、ここでもたついてはいられない。 今回、現場に至る道は三つあった。敵が居るT字路の突き当たりを正面とする道と、その左右に伸びる道である。移動距離も含めて検討した結果、チームは右手からのルートが最善と判断したのだった。 粘り気のある水が、爪先にどろりと絡みつく。大切なブーツサンダルが汚水に塗れていく様を心の中で嘆きながら、『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)は口をへの字に引き結んだ。下水道に履いてくるのは正直気が進まなかったのだが、こんな場所でも支障なく歩ける靴が他に無かったのでやむを得ない。戦いが終わったら、念入りに洗っておかなくては。もっとも、自分達が風呂に入るのが先決かもしれないが。 「――星川、距離分かるか? 向こうは音で気づいてんぞ」 持ち前の平衡感覚で危なげなく進むツァイン・ウォーレス(BNE001520)が、隣を行く『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)に声をかける。 「そろそろ、だね」 彼女の超人的な五感は、暗闇に潜む敵の気配を鋭敏に捉えていた。 ツァインが危惧した通り、こちらの接近は既に察知されているらしい。道幅いっぱいに立ち塞がり、壁を作るフィクサード達の姿が見える。頭数が少し足りないのは、曲がり角の奥に伏せているためだろう。 T字路とその周辺を覆い尽くすのは、アーティファクト『五里闇中』により生み出された真の闇。 「暗いのも嫌いじゃないんですけど……」 輝く羽飾りを手にした『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、照明代わりのそれを壁に刺す。 背の翼を羽ばたかせて低空を舞う『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)の手から、淡い光を宿した電球がふわりと浮き上がった。 二人を含め、殆どのメンバーは暗視能力を有しているため、どんなに暗かろうと行動に支障は無い。彼らが明かりを点けるのは、それを持たない仲間のためであり、『闇の深さに比例して力を増す』敵に対する備えでもあった。 「小細工したって無駄だよ。闇を従えるのが僕、僕こそが闇なんだから」 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)の言葉に、道の中央に立った小柄な男が口元を歪めて笑う。この痩せぎすで陰気な青年こそが、フィクサード組織『七天』幹部の一人たる『文曲』――張・四だった。 「……く、く」 含み笑いを漏らす文曲の背後で、灰色のマントを纏った黒髪の女が両手を広げる。刹那、闇が一斉にざわめいた。親指ほどの大きさをした半透明の人影が、群れをなして囁き声を上げる。この場に存在するだけでリベリスタの生命力を喰らっていくそれは、黒髪の女――E・フォース『嘆きの妖精』が生み出した『子供達』。際限なく数を増やしていく彼らが地上に溢れる前に、大元のE・フォースを叩くのが今回の任務だ。 闇から取り出した漆黒の武具を纏う文曲をしげしげと眺め、天乃が口を開く。 「厄介者、は早々に排除して……存分に楽しませて、もらおう」 彼女が地を蹴った瞬間、『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)がT字路に火炎弾を放った。 ● 一斉に炸裂した火炎弾が、文曲を除く三人のフィクサードを纏めて吹き飛ばす。 行く手を阻む壁が崩れた隙を逃さず、天乃とロアンは『嘆きの妖精』に向かって全力で駆けた。 「アークの死神のお通り、なんてね」 壁面に立って目標を近接射程に収めたロアンが、法衣の裾を靡かせて嘯く。直後、『嘆きの妖精』が凄まじい絶叫を上げた。 叩きつけるような呪いの声がリベリスタの気力を削り、全身を痺れさせる。まずは足場の不利を打ち消すべく、『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)が仲間達に小さな翼を齎した。 超集中により演算能力を高める三郎太の傍らで、ユウが己の感覚を研ぎ澄ませる。敵に体勢を立て直す暇を与えまいと、隆明が前線に躍り出た。ベルトに下げたワークライトを点灯し、曲がり角の先を横目で窺う。予想通り、三人のフィクサードが控えていた。 「よぅ、そこにいたのか文曲、暗いし小さいし見落としそうだったわ」 後に続いたツァインが、『嘆きの妖精』の傍に陣取りながら文曲をあげつらう。出来れば英霊の魂を宿す闘衣で守りを固めておきたかったのだが、先を急ぐ状況では付与を行う余裕など無かった。今は、隊列を整えるのが先決だろう。 「下水に潜むとかゴキブリみてぇな奴だなぁ、オイ」 畳み掛けるように悪罵を重ねた後、隆明はわざとらしく肩を竦めてみせた。 「……あながち間違いでもねぇか。闇を這いずる汚らしい虫、だったか? 自分で言ってたんだからな」 「そう、だよ……。よく……覚えてたね……く、けけ」 二人のあからさまな挑発に対し、文曲はさも愉快げに笑う。長く伸びた前髪の隙間から見え隠れする黒の双眸は、薄暗い闇を湛えていた。 「陰湿チビが、コソコソと何企んでるのかねぇ……」 軽く舌打ちしつつ、ツァインは文曲を睨む。いけ好かない男だが、小物じみた外見と振る舞いにそぐわぬ実力者であることは以前の戦いで知っていた。下水道というフィールドが、奴にとって『うってつけ』であることも。 「アタシといろんな意味で正反対な人っぽいね、張さん」 遠距離戦にも対応した剣型アーティファクト“サジタリアスブレード”を両腕で構えて、陽菜が呟く。 お嬢様育ちで、遊び好きで、虫が苦手な自分は、『文曲』と呼ばれる彼とは対極の位置に居るのだろう。だからこそ、その凶行を止めるのは己の役目である筈。 淡い光を帯びた刀身を左右に展開させ、露になった発射口から神秘の弾丸を放つ。降り注ぐインドラの火が下水道を紅蓮に染めた時、聖がすかさず手投剣を投じた。 正直なところ、『七天』に関しては「またか」という思いがある。連中は、今までにも大胆とも言える手口で騒ぎを起こしてきたからだ。 だが、今回はアザーバイドの召喚儀式を目論んだり、一般人の命と引き換えに次元の穴を生み出そうとするといった過去の事例とは一線を画している。文曲が実行しようとしているのはE・フォースを利用した大量殺人であり、異界に絡む要素は何も無い。組織的に動く彼らが単なる愉快犯やテロリストであるとも考え難いため、おそらくは共通の目的に根ざした行動なのだろうが――問い詰めたところで、素直に教えるような相手でもあるまい。 「……まぁ、答えが得られないってんなら話は早い。 その目的に関係なく、全ての企みをぶっ潰すだけだからな」 唸りを上げる白黒の刃が、視界内に存在する全ての敵を目掛けて闇を切り裂いてゆく。ほぼ同時、ルナの初撃で後方に追いやられた三人が動いた。リベリスタの猛攻に身を削られながらも前線に復帰し、『嘆きの妖精』を守らんとする。ナイトクリークと思しき二人が、全身からオーラの糸を伸ばして前衛を抑えにかかった。 「チッ……!」 避け損ねた隆明の四肢に、糸が絡みつく。間髪をいれず、曲がり角に待機していた三人のうち二人が追撃を浴びせた。的確に弱点を狙ってくる彼らは、おそらくプロアデプト。『嘆きの妖精』を庇いに動いた一人がクロスイージスと考えると、プロアデプトのさらに後方に立つ一人がホーリーメイガスだろう。 推測を裏付けるかのように、ホーリーメイガスと目された男が聖句を唱える。癒しの息吹がT字路に満ちる中、『子供達』の囁き声が俄かに音量を増した。 咳き込んだ三郎太の口から、鮮血が滴り落ちる。戦いが始まった直後、彼の周りに存在する『子供達』はほんの二、三体に過ぎなかった。それからたった十秒程しか過ぎていないというのに、その数は既に三倍以上に達している。この調子で増殖を繰り返すとなると、受けるダメージは加速度的に増えていくだろう。 『子供達』に蝕まれるリベリスタを眺めやり、文曲が前髪に隠れた目を細める。嫌らしい笑みを顔に張り付けたまま、彼は底無しの悪意を解き放った。凶運を孕んだ闇が戦場を駆け抜け、激しく荒れ狂う。年長者の意地で耐え抜いたルナが、気丈に口を開いた。 「大丈夫、私に任せて……!」 彼女の呼びかけに応えたフィアキィ達が、T字路に再び爆発を巻き起こす。あえなく宙を舞う敵方のクロスイージスを横目に、ロアンが冷ややかに笑った。 「――ごめんね、今はお嬢さんの方に用があるんだ」 再び庇いに戻れぬよう身を割り込ませつつ、極細の鋼糸を指先で手繰る。銀の光が煌いた瞬間、守り手の居なくなった『嘆きの妖精』に死の印が打ち込まれた。 軽やかにステップを踏んだ天乃が、神速の手刀を繰り出す。範囲内の敵を等しく切り刻むこの技も、『子供達』を減らす役には立たない。本体である『嘆きの妖精』を倒さぬ限り、『子供達』は無限に増殖し続けてしまう。 「文曲さん、でしたっけ」 “Missionary&Doggy&Spoons”の銃口を天井に向けたユウが、文曲に声をかける。 嫣然たる微笑みを浮かべて、彼女は銃のトリガーをゆっくりと絞った。 「陽光と暗闇が混ぜまぜされた夕闇に佇むってのも悪くないですよ。 ちょこっとだけ、光に当たってみませんか――?」 放たれた弾丸が天井を穿ち、無数の火矢となって四方に散る。 燃え盛る炎に照らされた文曲の面が、遠目でも分かる程にはっきりと歪んだ。 ● 数手の攻防を経て、『七天』のフィクサード達は『嘆きの妖精』を庇うことを諦めた。いくら防御陣を敷いたところで、その度に根こそぎ吹き飛ばされてしまうのでは意味が無い。この局面では、守りを捨てて攻撃に徹する方が有効だろう。 ナイトクリークがバロックナイトを再現する赤い月を打ち上げて呪いをばら撒き、プロアデプトは扇状に気糸を奔らせて前衛たちを撃ち抜く。 レンズに薄く色がついたサングラスの位置を直しながら、聖が眉を寄せた。こちらの火力も決して負けていないものの、一分一秒を争う状況では敵方のホーリーメイガスがどうしても邪魔になる。とっとと落とすなり封じるなりしたいが、曲がり角の先は死角になって後衛からは直接狙えない。 業を煮やした隆明が、聖の意図を察して曲がり角に飛び込む。 「詰まんねぇ事しやがって……纏めてぶっ散らす!」 鍛え抜いた拳に大蛇(オロチ)の殺意を宿し、衝動のままに荒れ狂う。暴風の如き一撃を浴びて、プロアデプトの一人とホーリーメイガスが麻痺に陥った。 その隙に体勢を立て直そうと、三郎太とミミミルノが相次いで詠唱を響かせる。 「皆さん、回復はボク達にお任せくださいっ!!」 具現化した癒しの息吹がリベリスタ達を柔らかく包み、その傷を塞いだ。 「後衛陣! 見せ場だ頼むぜ、薙ぎ払ってくれよッ?」 あらゆる状態異常を無効化する英霊の衣に身を包んだツァインが、肩越しに振り返って叫ぶ。頷いた陽菜がインドラの矢を落とすと、ユウが一瞬遅れて後に続いた。 「強烈な光で晒しあげられるのは嫌なものですよね」 前から、後ろから、そして横から――間断なく降り注ぐ炎を苛立たしげに払う文曲を見やり、彼女は「でも」と言葉を継ぐ。 「……だからって、暗闇に鎖され続けたらどこにも進めないんですよ」 沈まぬ太陽が存在しないように、明けぬ夜も無い。光と闇、秩序と混沌、相反するそれらが一体となり、この世界を形作っているのだ。 「全然、構いやしないよ……眩しさに、目が眩むくらいなら……闇に蹲っていた方が楽だもの」 そもそも、僕はこの世界を壊したくて仕方ないんだ。上の連中は、そのための生贄さ――。 陰に篭った文曲の声は、どこまでも暗い。『子供達』が交わす死の囁きをBGMにして、彼は漆黒の闇を放った。耳をつんざく『嘆きの妖精』の絶叫が、そこに重なる。直撃を受けた三郎太とミミミルノが、ほぼ同時に運命を削った。 砕けかけた膝を支えつつ、三郎太が奥歯を噛み締める。攻撃を避けようにも、暗闇の中では思うように動けない。仲間達が持ち込んだ数個の照明では、その不利を打ち消すには到底足りなかった。 「かいふくしますよ~~っ! まだまだこれからですっ!!」 負けじと声を張り上げ、ミミミルノが聖神の息吹を呼び起こす。 苦しいのは、敵も同じだ。ナイトクリークの一人は既に倒れ、守るべき『嘆きの妖精』もダメージを蓄積させている。一気に勝負を決めるべく、ロアンとツァインが仕掛けた。 「可哀想なお嬢さん、嘆くのはもう終わりにしよう」 「狭くて臭ぇなかでキーキーうっせぇんだよ! そろそろ黙れや!」 死の接吻を受けてよろめく妖精のマントが、輝ける剣の一閃で裂ける。すかさず、聖が白と黒の十字剣でE・フォースに“神罰”を下した。 身の毛もよだつ叫びを上げて、『嘆きの妖精』が『子供達』を道連れに消滅する。それを見届けた後、聖は文曲に問いを投げかけた。 「一つ聞きたいんだが、毎回毎回、どうやってエリューションを確保してんだ? 道を歩けば出会うような、其処まで気軽なもんじゃないだろ」 エリューションを引き寄せるようなアーティファクトでも持っているのか、或いは――。 「……さあ、ね?」 はぐらかしつつ、ついと踵を引く文曲。瞬間、ユウが魔弾の一射で彼の右膝を過たずに撃ち抜いた。 「逃がさないよ!」 疾風の如く飛び出した陽菜が、退路を断とうと側面に回り込む。同じことを繰り返させぬためには、ここで決着をつけねば。 しかし、『七天』とてむざむざ幹部を失うわけにはいかない。死力を尽くして抵抗するフィクサード達の猛攻を浴びてユウが倒れ、聖と陽菜が運命を燃やす。直後、隆明が文曲に躍り掛かった。 「ぷちっと潰してやっからよ、虫けらみてぇに死ねや!」 腹の底から吼え、恐るべき威力を秘めた拳を真っ直ぐに繰り出す。必殺の一撃を辛くも凌いだ文曲の足元で、巨大な蜈蚣(むかで)の影が蠢いた。 「――来るぞ!」 ツァインの警告で振り向いた隆明の首筋に、死毒を帯びた顎肢が喰らいつく。運命と引き換えに意識を繋いだ彼に、三郎太が大いなる癒しの息吹を届けた。 「まだ、いけます……!」 回復役が健在である以上、撤退するには及ばない。ホーリーメイガスの対処をロアンに任せ、天乃は文曲と対峙する。ようやく会えた、最後の星。待ちかねた分、楽しまなくては損というもの。 「さあ……あなた、も踊ってくれる?」 虚空に現れたオーラの糸が、文曲を目掛けて奔った。 ● 全体攻撃を有するナイトクリークが倒された後、『七天』の攻撃は自然と前衛に集中した。 気糸に胸を貫かれた隆明が、とうとう力尽きて膝を折る。彼の抜けた穴を埋めるべく、三郎太が迷わず前進した。ここまで来て敵を取り逃がすのは、戦略家の名折れだ。 「ボクは前でも戦えるプロアデプトですっ!!」 一息に間合いを詰め、魔力鉄甲に覆われた拳で突きを見舞う。攻撃を捌きながら突破口を探ろうとする文曲の左足首を、聖の手投剣が掠めた。 「勝手に帰ろうとしてんじゃねーよ。少しはこっちの用事に付き合いな」 もともと血色の悪かった文曲の面は、もはや蒼白に近い。追い詰められつつあるその姿を見て、ツァインが舌打ちを漏らした。 「……チ、小さ過ぎて斬るのもアホらしくなってくる」 仮にも星だろうが――と言葉を叩きつけ、破邪の剣で斬りかかる。“サジタリアスブレード”を掲げた陽菜が、劫火の如きインドラの炎でフィクサードを焼いた。 「張さんが『生贄を捧げて、この世界を壊そう』とするなら。 アタシは『救える命を救って、この世界を守る』よ」 その為に殺さなければならない命があるとしたら、躊躇いはしない――! 一人、また一人と燃え尽きてゆく部下たちを横目で眺めながら、文曲が口元を歪めた。 「気に入らない……気に入らない、ね。眩しくて……嫌になる……!」 無造作に片腕を振り、絶望の闇で前衛たちを薙ぎ払う。陽菜を打ち倒してほくそ笑む彼の眼前に、天乃が立ち塞がった。 「さすが、に……楽な相手、ではない、ね。……さあ、もっと……やろう?」 運命を削ってなお、彼女の戦意は衰える気配を見せない。その背を支えるように、ルナが心身を賦活する緑色のオーロラで戦場を包んだ。 体勢を立て直した天乃が、転移させた気糸で文曲を縛り上げる。彼女は組織や他の幹部について聞き出そうとしたが、彼は頑として口を割ろうとしなかった。 運命を代償に差し出して糸から逃れた文曲に、ホーリーメイガスを仕留たロアンが「お待たせ」と迫る。 「改めて、初めまして。――そして、永遠にさようならだよ」 煌く銀の三日月(クレッセント)が死の印を刻んだ瞬間、文曲の首筋から鮮血が飛沫いた。 「いい気に、ならないことだね……僕如きに、時間をかけるよう、じゃ……」 負け惜しみを最後まで言い終えることなく、痩せた身体が淀んだ水に沈む。 星の一つを失い、『七天』は果たしてどう出るか。 「……しつこいのって、モテないよね」 流れゆく死体を見送るロアンの軽口が、光差さぬ戦いの幕を引いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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