● 私は悪い事してないもん。 欲しい人に欲しいものあげて、何がいけないと言うのです。 落ち込んでる人を元気づけ、告白できないならそっとひと押しして、治らない病は消しましょう。 善い事してるつもりなのに、リベリスタたちったらひどいのよ。 静かに暮らしたいだけなのに。 だから私はマジョリティパーティー。 迷える魔女に、力を与えましょう。薬でね。 ● ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達。其処で待っていたのは『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)であった。 「……遅い、何分待たせる気よ」 成程、今日は機嫌が悪いらしい。 マリアがそう言った後にモニター画面に映し出されたのは見知らぬ男の顔だった。おそらくヴァチカンの使いだろう。己の名前なんて重要では無いと割愛した後に、さっさと話を始めたあたり彼方も彼方で忙しいと見える。 「今回、皆様にはフランスにて魔女とその取り巻きを如何にかして頂きたい。 『メアリー』と呼ばれたマグメイガスの女が居るのですが、最近街で良くない薬を売っている。表向きは外傷を治す薬だとかで聞こえは良いですが、神秘の類です。増殖革醒が発生してしまいノーフェイスが出来上がる。それは非常に困るのです。 事件の実態を知ったのは最近で、ヴァチカンが後手に回ってしまったのは此方のミスですが……薬の回収で手を裂き過ぎてしまっていて人手が足りない。 そこでアークの貴方達に根本を叩いて頂きたいのですよ」 状況は理解できるだろう、が、しかし理由はそれだけでは無い。 「それに、丁度十年前にできた『マジョリティパーティ』については、そちらの……少女の方がよく知っているでしょうしね」 マジョリティパーティとは何のことか。使いの男が見た先にはテディベアをくるくる回していたマリアが居た。彼女は嫌そうな目でモニターを睨んでいたものの、すぐに口を開いたのだ。 知っているのだろう、其処はマリア自信が元々居た場所なのだから。 「マジョリティパーティーを知りたいのならマリアに聞いても無駄だわ。今更あそこに未練も無いから知っている事を教えてあげるけど、 ……ヴァチカンとかリベリスタから逃れたい魔女達の傷の舐め合い場。元々フィクサードとして好き勝手している奴等だから、討伐されるのに理由はそれ以上必要無いわね。そういう神秘に長けた女共がお互いに守り合い、支え合う組織のような集団の総称。 ―――やってる事はサバトとミサを足して割ったようなものだけど。定期的に集まる場所は変わるから今何処なのかマリア知らなーい」 マリアがどうやって日本に来たのか等。まだまだ彼女の謎は多そうだ。 場の雰囲気を区切る様に、使いの男は手をパンと鳴らした。 「話は戻しますがそのマジョリティパーティーの一人だと思われます。魔女の捕獲と、その他ノーフェイスフィクサードを討伐して下さい。ああ、捕獲した後の魔女にはマジョリティパーティーの事を吐かせますので、そういう用途ですとお伝えしておいた方がいいですかね」 『薬売りのメアリー』と呼ばれた女は、上位世界の生物や物を調合して薬を作るフィクサードだ。彼女の薬を買った者は結果的には治らない病が治ったり、好きな人が振り向いてくれたり、天にも昇るような気持ちになれたり、と必ず利益をもたらす。 しかし薬の神秘的影響は強すぎるのだ、薬を服用したほぼ全員がノーフェイスとなり、一握りも革醒してしまっている。 「そういう信頼と中毒性を得たメアリーの信者が、彼女の周りにメイドや執事として護衛しているものと思われます。現在薬を買ったとして行方不明になった人達は全てそうなってしまっているものとして、此方で調べておきました。この数が絶対に合っているとは言いません、多少の誤差はあるでしょうが、ま、大丈夫かと思います。あ、そこの資料です」 机に座っているマリアの隣に積まれている紙の束の事だろう。実際にフォーチュナが探索して纏めたものでは無いため、多少のイレギュラーはあるだろうが。 「それではよろしくお願いしますね。噂通りの活躍を期待していますよ」 強引にぷつん、と切れたモニター。音の無い砂嵐が画面いっぱいに広がっている中、リベリスタはマリアを見た。 「……マジョリティパーティーに居たのは数か月。だから本当に何も知らないわよぅ。マリアは手を引かれて、そのまま日本に逃げたわ。その後は剣林に居たわね。なつかしいね、バロックナイトのクリスマス。その後は―――今、ここに居るでしょう?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月03日(火)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 来た道は薄暗く、其れこそ侵入者を阻む様であった。けれど、屋敷を見つけて入ってしまえば洒落た明りが奥へと導いてくれている様でもある。 ノーフェイスが屋敷の中を案内してくれたのは、リベリスタ達にとってなんとも不思議な光景にも見えたが。 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)。そして『現の月』風宮 悠月(BNE001450)はよく映えた木の色の美しいテーブルを囲んで、紅茶と、並べられた甘いものを目の前にしていた。 「不自然ですね。これが自然と言った方がいいのでしょうか」 カチャリと、真っ赤な紅茶が入ったカップを受け皿に置いた悠月は、屋敷の内部という内部を千里眼で辿る。如何やら周囲にノーフェイスはいないか、皆忙しく家事やら掃除やらをしている。勿論魔女の姿は見当たらない。本来ならテレパスで会話するところだが、声を出しても大丈夫だと悠月は踏んだ。 「……ええ、そうね。警戒心が無さ過ぎるわ。主人がいないのなら、尚更の事だけれど」 ケーキの苺を摘まんで、少し潰してみた氷璃。顔はバレまいと被っていたフードだが、今は外しても良いのだろう。悠月が喋っているという事はそういう事なのだろうと察して。 「大方、魔女だと思われたのでしょう。簡単すぎますねぇ、マジョリティパーティは平和ボケしているのでしょうかね」 ひとつ、ふたつ、みっつと角砂糖を紅茶に入れてかき回していく海依音。もう片方の手でAFをテーブルに置き、通信を始めた。少しのノイズが入ったものの、漏れた声は『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)だと思われるもの。 『よぉ。生きてっか、魔女共……あと』 「はぁい、此方はお茶会できちゃうくらい平和です。竜一君は……」 海依音の影から伸びて来たのは影に潜んでいる『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の手。其れが机を這い、タルトが乗っている皿を掴んで影へ引き寄せた瞬間。 「待ちなさい。其れは私のよ」 「あっつ!!?」 氷璃の手にあった紅茶のポットの中身が竜一の手に降り注いだ。 『俺も一個くらい食べたい!! 紅茶も飲みたいのに俺のカップがない!! 後、皆がシマパンじゃない!!』 『ハウス』 『容赦ないですね……氷璃さん……』 『ってかんじで、皆さん元気なので何も問題ありません。敵も周りにいませんし』 「ああそうかい、そんならいい。あんまり遠足すんなよ」 瀬恋がAFから目を離し、『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)が顔を覗きこんでいるのに「なんだよ」という目線を送った。 「マリアもケーキ食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいー!!」 「わー!? マリアさん静かに、バレてしましますから!!」 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は地団駄を踏みまくるマリアを抑え、彼女の口を両手で抑えた。抑えながらもマリアは抵抗しつつ、右手だの足だのが真咲の身体にポコスコ当たっていく――今日も非常に機嫌が悪いか。 「三高平に帰ったら、沢山食べれるかもよ。依頼が終わった後でもいいだろうしね」 「ほんとに!? マリアいっぱい食べたいわ」 「う、うんー……」 なんとなく口からその場凌ぎが漏れ出た真咲だが、思ったより丸く纏まったので良しとした。 そのままマリアの目線は瀬恋のAFへ向き、顔を近づける。 「氷璃お姉様。さっき聞かれた事に答えるわ。どうもヴァチカンが居ると面倒になりそうだったから言わなかったけど」 『マジョリティパーティの代表者や……いえ、マリアが覚えてる事を教えて頂戴』 「うん。マジョリティパーティに代表者はいないわ。でも創設者の通称は『イグナイト』。……ヴァ……」 「ヴァ?」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は止まったマリアの瞳を覗き込んだ。紅蓮に彩られた瞳に、何か嫌な記憶を回想しているか。 「ヴァルプルギスの夜―――」 刹那、何かにピクリと反応したのは『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)と杏樹だ。いりすは鼻を効かせ、杏樹は音に耳を澄ました。 「何か―――来るな……足音が複数か?」 「そうね、そうだね。美味しそうな魔女の臭いさね」 「皆、もうちょっと奥へ行こう。此処じゃバレてしまうかもしれないからな」 杏樹はマリアの手を握り、三人を先導しながら暗い林の奥へと消えて行った。 日は傾き、夜の闇が世界を支配しようとするその手前の話。 ● 「あら、いらっしゃい。珍しいお客様たちね? どうしたの、道に迷ったの?」 窓から見える外の景色は、何も見えないに等しい程の黒。夜が訪れたと共にメアリーは三人(竜一抜き)の前に姿を現した。 「ケーキは美味しかったかしら。いつも道に迷った子が突然来た時用に沢山作っておいて良かったわ」 笑顔、笑顔、非常に美しい笑顔か。この顔に何人の人間が騙されているのかは知らないが、喋る声も優しくリベリスタ達の耳に入っていく。 「ごきげんよう。お逢い出来て光栄だわ。アポも取らずに突然訪ねてごめんなさいね?」 「いいのよ。此処はそういう所だわ。もう大丈夫だから、フードをとってもいいのよ?」 一番最初に口を開いたのは氷璃であった。隠した顔と六枚の羽が疼く――しかし此れは外す訳にはいかない。此の國で顔は出せない個人的事情が突き刺さるのだ。 間に入る様にして海依音が口を開いた。 「秘密のサバトのお話を聞きに。ワタシたちも貴女の言う迷える子なのですよ」 「でも……修道服とはまた変わってるわね」 「待って、この服はヴァチカンに反旗を翻すために。自分を鼓舞するために着ているの。だから赤い修道服。ワタシも魔女として追われる身だわ、ね、貴方のサバトの話を聞かせて」 海依音へ背を見せたメアリーは紅茶の葉がどれだけ減ったか見ていた。それは特に何も意味の無い行動であったが。小刻みに動く肩に、海依音は少しの不穏が見えていただろう。 「ふふ……良いわよ。そうね、何が聞きたいのかしら。いえ―――何を吐かせたいのかしら?」 瞬時。練り上げられた魔力の圧力。其れを此の三人が感じ取れない事は無い。 先手はメアリーに奪われたのだ。振り向き様に飛び出した鎖が、完全に不意打ちの三人の身体を貫き、呪い、巻き付いていく。 「アハハハハハハハ!! 隠れんぼが下手ねぇぇぇ? ね、『アークのお月様』?」 「……くっ」 苦い顔をした悠月の顔。そう、リベリスタから逃げるためのマジョリティ。特に今をときめくアークの精鋭の顔が解らない事は、無い。 扉から続々と入ってくるノーフェイスとフィクサードの多さに対象の焦りの色が見えるリベリスタ。動けぬ鎖に、身体を引き裂かれつつ海依音は己の影を蹴った。 メアリーは命ずる、薬漬けの子たちへ。 「殺さなくていいわ、この子たちを捕えてイグナイトの所に――」 迫る、敵の手――。 「させねぇけど?」 海依音の前に飛び出した竜一の露草とJe te protegerai tjrsが、けして広くは無いその部屋に巨大な暴風をまき散らしたのであった。 その間、メアリーは来た道を戻る様に部屋の扉の奥へ消えて行こうとする。竜一は手を伸ばし、足を向けたが目の前にはノーフェイス。 バタン、と閉まった扉に追いかけた腕は届かない。ただ、その腕が横に振られてノーフェイスの頭を殴れば骨は容易く折れ曲がったという。 陶器が割れる音か、叫び声か。兎に角ノイズ混じりで聞こえやしない。聞こえないなら聞く必要も無いと瀬恋はAFを仕舞った。 「なんかあっちはおっぱじめやがったな」 「マリアも早く遊ぶ遊ぶ遊ぶ遊ぶったら遊ぶ!!」 隣にはいりす、杏樹、真咲が一緒だ。はっちゃけたマリアに、いりすはよく世話をしてくれる人が居る様で良かったと思う。 道中、横の扉が開けば其処からノーフェイス祭りか。片腕が完全に刃になっているそれが振り上げられて杏樹を狙った。が、杏樹は足に急ブレーキをかけつつ、横へ逸れていったために回避。 其処で天井を走っていたいりすが落ちて来た。杏樹の足止めをしていたノーフェイスの背に乗り、勢いのままに地面にキスさせた。いりすは其の侭、首を刈り取る。 だがまだ、首を失いつつ動くかノーフェイス。首は暴言を吐いていたため、いりすは「うるさいのよね」と、窓の外へ投げ捨てた。 真咲は振り上げた大戦斧をノーフェイスへ振り落し、身体を上と下を分かつ。同時にいりすは投げられてきたナイフを回避しつつ、再び足場を壁に。 「あんまり嬉しくない歓迎だな」 続々と出て来たノーフェイスの数は五人か。混じってフィクサードが一人。 錆び付いた白に隠した魔銃を取り出した杏樹は、続けざまに銃声を放った。弾丸六つ、全てが紅い線を空中に引いては着弾した刹那に焔が爆ぜる。 「さくっとやっちまうか」 敵フィクサードのダンシングリッパーか。瀬恋は全身に傷を着けられつつ、頬を裂かんとしたナイフを避け。フィクサードへ辿り着く。 薬の臭いか、キツイ病院の香りに瀬恋は眉間にシワを寄せた。ガンドレッドで穿つ薬臭の男。そしてうねる様に壁を蹴り、地面を蹴り進行していく彼女はまるで蛇が暴れる様であった。 「歌いなさい! そして死に絶えなさい!! 絶望色の、断末魔ァ!!」 魔陣展開したマリアは真っ黒の石化閃光にて、敵を穿つ。仲間を綺麗に避けて飛ぶ鎖の中で彩った死に大笑いをしながら――……。 「ん。さっきの臭いがするね」 「やけにテンポの速い足音だな。間違いないだろう」 経過した時間はほんの二十秒。 固まった石を崩すのは簡単だ。廊下に敷かれた絨毯の上に石やら砂塵やらが撒かれた上にリベリスタ達は立っていた。 「もうそれ、決定じゃないですか」 真咲は言う。其方の方向に行くべきだと。だって――メアリーだろうからね。 ● 「鳥籠の鳥が逃げたわ」 「きっと平気ですよ。それより先に」 氷璃の言葉に悠月は言う。 最速で葬送の鎖を引き千切った氷璃は其の侭同じ鎖を構成した。とは言え、魔力によって色は違うか、メアリーの鎖がくすんだ赤色であったが氷璃のそれは淡い光を放った。ノーフェイスとフィクサードを貫き、部屋の壁にぶつかっては壁が弾ける鎖の殺傷能力は高い。だが氷璃の背後に居たノーフェイスが長い爪を彼女に突き刺すのであった。 淡い光を放つ鎖の間を縫って、今度は白い霧を纏う羽が悠月の足下から舞い上がる――。 「貴方達に不殺は約束できませんが、どうしてそこまでメアリーを慕うのです」 「侵入者め、貴様等に言う事なんて、なにも、なにも!!」 銀の指輪をはめた指が位置を定め、その周囲に絶対零度の羽たちは突き刺さっていく。突き刺されば氷柱が発生し、身を焦がしていくノーフェイスたち。いくら断末魔を奏でようが、悠月の手は止まる事を知らず。 ただフィクサードの男が一人、口を開いた。そのフィクサードこそ、竜一の剣を胸の奥深く飲み込んで瀕死の状態であるが。 「メアリー……さ、まを殺さない……で……」 「そのつもり」 竜一の腕を掴んでいる男の手は、もはや血に塗れすぎていてよく滑る。 「……良かった」 それだけ言い残し、剣を抜き取った彼に返り血が降りかかった。そして力無く倒れた男。 「ノーフェイスだのフィクサードだの作ってたけど、彼等が何かしら救われていたのは本当の話なのでしょうね」 聖神を放ち氷璃の傷を癒していく海依音だが、もう反対の手で違う形の魔法陣を組んだ。其方は癒すでは無く、破壊という名の審判。 「まあ、ノーフェイスでフィクサードである時点で色々アウトですが」 眩い光――その光が消えていけば部屋中弾けて消えたノーフェイスとフィクサードの死体が転がっていた。 「あら」 ふと、海依音の目に見えたマリア像。其れへ彼女はジャッジメントレイを放った――。 「当たりですなぁ」 「当たりだな」 己の感覚を信じて走ってみた杏樹といりすはばったりメアリーと会った。背後には二人のノーフェイスと一人のフィクサードを従えて。 「……っ、どこからどこまでもアークですか!!」 般若の顔を見せたメアリーから葬送の音色が飛んでいく。そのメアリーの既に後ろ。 「……悪いけど、逃がさないよ」 真咲が斧を回転させメアリーの體を吹き飛ばして壁へと当てた。そのまま真咲の周囲をマリアの葬送曲が飛んでいった。 鎖に囚われたノーフェイスだったが、フィクサードが一人、瀬恋の肩を剣で抉るように押し当てていく。取れかけた腕を抑えつつ瀬恋は蹴りで暴れ大蛇を行いフィクサードへ麻痺を施すのだ。 「やめて、やめて!! 私の子たちを壊さないで!! これだから、これだからリベリスタはあああ!!」 迸った雷鳴。身体に痺れを感じながらだが瀬恋はメアリーへ顔を向ける。 「ごちゃごちゃ鬱陶しい言い訳するんじゃねえよクソが」 力を使って好きなように生きて、一般人の人生を狂わせているフィクサードが今更何を言うか。 「静かに生きたいなら薬なんてばら撒かずに大人しくしてりゃ良いだろ」 再び放った瀬恋の蹴りがフィクサードを押し返す。その方向にいたいりすは回転に力を乗せてナイフを横に回せば、ぽーんと飛んだフィクサードの首。 「悪いけど、これが利益の代償だ」 銃を手の中で回した杏樹はトリガーを何回も何回も引いた。廊下に響く銃声が、結果的には悠月たちへ此処にいるよと伝える役割を果たしていたのと同時に、燃やし、火葬し、たった一度の幸運を味わった者達を消していく。 「う、うわあああああ!」 「むっ」 ノーフェイスが一体、いりすと瀬恋、杏樹の横を駆け抜けていく。狙いはマリアか、ツメの長い腕は彼女を掴もうとした。 しかしマリアにその攻撃は当たらない。直前で間に入り込んだ真咲の横腹から、じわりと血が滲んでいく――。 「真咲? 何してるのよ……」 「今のうち、一気にぶっとばしちゃって!」 じ……っとマリアが見ていた真咲の顔は、少し汗ばんでいながらも心配させまいと笑顔が溢れた。 「真咲……」 「大丈夫だよ、マリア」 「え、う、ううん。うん。キ、キ、キャハッ、キャハハ、ギャ、ギャギャハハハハハハハ!!」 ぷつん、と切れたのはマリアの怒りか。練り上げた葬送曲と頭を抱えた小さな身体。 「おいおい暴走すんなよな」 瀬恋だが、ノーフェイスの後頭部を掴んで壁に押し込むのに手いっぱいで。 「また大切ナモノが傷つぐんだああああああああああああ!!!!」 だが、マリアのものでは無い葬送曲が反対方向から命を破壊していく。その間に叫んでいたのはメアリーか、下僕の命が消えるのはやはり悲しいか。 「マリア、もういいわよ」 六枚の翼を広げ、片手を前に陣を描いていた氷璃の姿が其処にあった―――。 「メアリー、今度は逃げられませんよ」 「ゲームオーバーですね」 「は? はは、はあっは、は……何よ、何もしてないのに……」 悠月と海依音は彼女の前に立ち、彼女の両の腕を片方ずつ掴んだ。完全に腰が抜けているのか、メアリーは立ち上がろうとしない。代わりに苦笑いをしながら声にならない声だけを漏らすばかり。これも自業自得か、もはやフィクサードとして戻れぬ道に居たメアリーに悠月は顔を横に振るしかなかった。 「ベったんもういい」 「うん」 「ベったんが殺伐する必要は無い」 「うん」 放つタイミングを完全に失った葬送曲が消えていく。上がっていたマリアを手をそっと掴んだ竜一は、それを下ろしてやった。 「マリア、こっちおいで」 「うん?」 宙に浮いているマリアを抱え、杏樹はそのまま廊下を外へと歩き出した。心のどこかでマリアとメアリーを逢わせてはいけない気がして。 「杏樹。真咲は?」 「大丈夫。海依音が治すさ」 「氷璃は?」 「そういえばいないな」 ギィ……と氷璃が開いたのは地下室の扉か。 『おや、メアリーではナイィんでスね』 「ええ、そうよ。残念ね、見た所フェイトも無い植物型アザーバイドかしら」 『ギャギャッ、な、ナニする……?!』 「さあ。なにでしょうね。コキュートスはお好きかしら」 右手を前に、左手を後ろに。アイシクルの轟く弓矢を構えた。 「此処にある薬も含めて、全部――」 ● 『おい、マリア。飯行くぞ飯』 『飯!! 瀬恋行くわ、飯!!』 『ボクも行きたいー』 『真咲も一緒に行くのね! マリアいっぱい食べるわ!』 『じゃあ皆で行きましょうか。竜一くんは後で合流で良いですか?』 『俺の分残しておいてよ!! カイネちゃん!!』 『気分で宜しければ!』 「おや、お一人ですか? メアリーは確かに頂きました。いやあ、予想以上の手早さですね! 次のお仕事もお願いしてしまいたくなります」 「作り笑いなら笑わなくていいぞ」 「はは」 ブリーフィングルームで見た男が厳重な警備と一緒に居た。 ぶつぶつ言うだけになったメアリーを引き渡した竜一はすぐに其処を離れて仲間の下へと走っていく。 既に夜は終わり、朝が顔を出す。フランスの、少し寒い空にはぁ、と息を吐いた竜一であった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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