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ふわもふアニマル


 アーク本部のブリーフィングルームに集まったリベリスタを出迎えたのは、くたびれたスーツの背から黒い翼を生やした三十がらみの男だった。
『どうしようもない男』奥地 数史 (nBNE000224)――予知能力により事件の情報を収集し、任務に向かうリベリスタをサポートする『フォーチュナ』の一人である。
「全員揃ったかな? それじゃ、任務の説明を始めるぞ」
 数史は室内をぐるりと見回すと、そう告げて手元のファイルをめくった。
「皆に向かってもらいたいのは、動物園だ。
 動物たちの一部が革醒してエリューション・ビーストと化してしまったので、倒してきてほしい」

 この世界には、一般の常識で測れない様々な“神秘”が存在している。
『エリューション』とは、“神秘”の悪戯で人智を超えた力を得た(『革醒』した)ものの総称であり、『エリューション・ビースト(E・ビースト)』は「革醒で変異した動物」を意味する。
 普通の動物には無い能力を持つE・ビーストはそれだけでも危険な存在だが、何よりも厄介なのは、「エリューションを放置していると世界が滅亡に近付く(『崩界』する)」という点だろう。
 そのため、“世界の守護者”たるリベリスタはエリューションを狩らねばならないのである。

「E・ビーストはレッサーパンダ、フェレット、ハムスターの三体。
 外見は、そのまま2メートルくらいに巨大化していると考えてくれればいいかな」
 変異の程度を示す『フェーズ』は『戦士級』と呼ばれる2。
 極端に恐れることはないが、油断すると敗北もありうる……というレベルの強さである。
「こいつらは一体ずつ異なる能力を持っているから、今から言うことをざっと頭に入れておいてくれ」
 束ねた資料を一人一人に配った後、数史は順番に敵の説明を始めた。

 まず、レッサーパンダはパワー型で、単純に攻撃力が高い。
 パンチが直撃すると体力を大幅に削られる恐れがある上、体当たりで陣形を崩される危険がある。

 次にフェレットだが、こちらはスピード型だ。
 素早く纏わりついて自分の周囲にいる敵の守りを崩したり、全身から電撃を放って複数の対象をショック状態に陥れる能力を持つ。

 最後のハムスターは耐久力に優れている上、全ての状態異常(バッドステータス)が効かない。
 加えて、愛らしい動作で注目を集めることで敵の攻撃を自分に惹き付けたり、噛み付いてスピードを鈍らせたりするといった技を使う。

「三体のうち、どれから倒すか――優先順は、しっかり統一しておくべきだろうな」
 敵が持つ状態異常はいずれも致命的なものではないが、積み重なると厄介だ。
 各自の方針がバラバラでは、勝利はおぼつかない。
「動物園の西門から入って真っ直ぐに進めば、先の『ふれあい広場』でE・ビーストたちと遭遇できる。
 ここなら邪魔な障害物はないし、一般人や無関係の動物が巻き込まれる心配もないから、安心して戦いに専念してほしい」
 件の動物園にはアークが裏で根回しを行っているため、“神秘”による事件が明るみに出ることはない。今回、リベリスタはE・ビーストを倒して帰ってくるだけで良いということだ。
「……とりあえず、俺からはこんなところかな。
 元は動物だし、戦いにくいって思うメンバーもいるかもしれないが、アークとしてはエリューションを放っておくわけにはいかない。ここで、きっちり片をつけてきてくれ」
 数史は資料から顔を上げた後、どうか気をつけて――と言って説明を締め括った。


 人気がなくなった動物園を、巨大なレッサーパンダとフェレット、ハムスターが闊歩していた。
 檻の中で怯え、縮こまる“普通の”動物たちを横目に、彼らは広場の方へと進む。
 今日は天気が良いから、あそこで昼寝したらきっと気持ちが良いだろう。

 ふわふわもふもふの毛皮を風にそよがせて自由を謳歌する彼らは、何も知らない。
 世界に満ちる“神秘の力”が、自分たちの体に変化をもたらしたことも。
 その変化が、この世界を緩やかに壊しつつあることも。
 アークのリベリスタが、『世界を守るために』自分たちを倒しに来ることも。

 広場に辿り着いた後、レッサーパンダがふと頭を振る。
 誰かが、こちらに近付いてきているようだ。
『れっさあああああああああああ』
 昼寝の邪魔をされてなるものかと雄叫びを上げるレッサーパンダに続いて、フェレットとハムスターも身構える。
 戦いの時は、すぐそこまで迫っていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月26日(火)01:42
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。
 ふわもふの動物たちと戯れ……戦ってみませんか。
 バロックナイトイクリプスで初めてシナリオに参加する、という方も大歓迎です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●重要!
 このシナリオは『レベル20以下』のキャラクターのみ参加が可能です。
 レベルが21以上のキャラクターは参加そのものが行えませんのでご了承下さい。
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●成功条件
 全ての敵を倒すこと。

●敵
『革醒現象』により巨大化した動物、エリューション・ビースト(以下E・ビースト)が3体。
 変異の程度を示すフェーズは2(戦士級)で、いずれも2メートル前後まで巨大化している上、普通の動物が持ち得ない様々な能力を備えています。
 常識外れのサイズを除けば、ふわふわもふもふで非常に可愛らしい外見ですが、かなり凶暴なので注意が必要です。

■E・ビースト(レッサーパンダ)
 二足歩行のもふもふレッサーパンダ。可愛い外見に見合わぬパワーファイターです。
 その巨体から繰り出される物理攻撃は威力が高く、時には吹き飛ばし(ノックバック)で陣形を乱してきます。

 【れっさーぱんち】→物近単/高威力
 【たいあたり】→物近単[ノックバック]

■E・ビースト(フェレット)
 真っ白なふわふわ毛皮のフェレット。速度に優れています。
 スピードで敵を翻弄したり、全身から電撃を発する能力を持ちます。

 【ふぇれっとあたっく】→物近複[隙]
 【ぱちぱち】→神遠複[ショック]

■E・ビースト(ハムスター)
 おしりがキュートなハムスター。防御力とHPが高く、全てのバッドステータスが効きません。
 愛らしい動作で敵の注目を集めたり、噛み付いて足取りを鈍らせたりします。

 【おしりふりふり】→神遠全[怒り][弱体]
 【かみつき】→物近単[重圧]

●戦場
 とある動物園。
 西門から入って真っ直ぐ進んだ『ふれあい広場』で3体のE・ビーストと戦うことになります。
 時間帯は日中で、障害物は特に無し。
 一般人や、檻の中に残された動物たちが巻き込まれる心配はありません。

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●プレイングの書き方(必要ない方は読み飛ばして構いません)

・基本は、【本部利用マニュアル】の【■4、プレイングについて】をご参照下さい。
(【戦闘ルール】へのリンクがありますので、可能であればその次のページの【戦闘ルール(詳細と流れ)】と併せて読んでおくと良いでしょう)

・プレイングは全角600文字まで記入できますので、可能な限り埋めることをお勧めします。
 字数を大幅に余らせてしまうと、活躍できるチャンスはそれだけ減ってしまいますし、最悪の場合はシナリオの失敗に繋がります。
(難易度:NORMALは『作戦に致命的な隙があった場合は失敗する』難易度です)

・全てのスキルは活性化していないと使えません。プレイング送信後、【プレイング確認】で使いたいスキルが活性化されているか確認することをお勧めします。
(なお、[装制]の表記があるスキルは、対応する武器を装備する必要があります。スキルの表示が暗い色になっている場合は使用できません)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●補足
 椿しいなSTの『おしゃべりアニマル』と内容が酷似しておりますが、関連はないため参照する必要はありません。
(当シナリオの攻略に必要な情報は全てオープニングに記載されています)

 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
覇界闘士
花屋敷 留吉(BNE001325)
ナイトクリーク
ニーナ・ドール(BNE003317)
ナイトクリーク
折片 蒔朗(BNE004200)
ダークナイト
七海 紫月(BNE004712)
ミステラン
ミミ・マーキス(BNE004739)
ナイトクリーク
常盤・青(BNE004763)


 穏やかな風が吹く、天気の良い昼下がりだった。
 西門から突入した六人のリベリスタは、迷わず直進して『ふれあい広場』を目指す。
 普段なら家族連れで賑わっている筈の動物園も、今は人っ子ひとり見当たらない。長閑な風景に漂う張り詰めた空気が、園内に異様な不協和音をもたらしていた。
 周囲に視線を走らせつつ、『ロストワン』常盤・青(BNE004763)は今回の任務を頭の中でおさらいする。
 討伐対象は、フェーズ2のE・ビーストが三体。対応するメンバーが六人ということを考えると、少し厳しい仕事になるかもしれない。
(場所が動物園なのに変な感じだね)
 心の中で独りごちて、青は意識を前方に戻す。音も無く歩を進める少年は、気配というものをまるで感じさせない。傍らを走る同行者たちですら、彼が“そこにいる”ことを一瞬忘れそうになる程だ。
 視界が開けた先、目的の『ふれあい広場』が見える。その中央に仁王立ちした巨大なレッサーパンダが、リベリスタの接近を認めて雄叫びを上げた。
『れっさあああああああああああ』
 おそらく威嚇のつもりなのだろうが、緊張感が皆無というか、かえって気が抜けるというか。
「あの、その鳴き声はちょっと違いませんか……?」
 思わず突っ込みを入れる折片 蒔朗(BNE004200)の後方で、『ラストダンス』ミミ・マーキス(BNE004739)が三体のE・ビーストをしげしげと見やる。
 レッサーパンダにフェレット、そしてハムスター。確かに、元は文句無しにかわいい動物なのは認めるけれど。それが2メートルのサイズまで膨れ上がっているとなると、あまりかわいくないような。――なーんて、出発前には思っていたのに。
「……くやしい。何よあの、ふっかふかなもふもふ感」
 髪に隠れた黒猫の耳が、ぴくりと動く。ああ、この敗北感は何だろう。
 後足で立つレッサーパンダの、物理的な腹黒さ。
 真っ白な体をにょろりとくねらせる、フェレットのとぼけた表情。
 餅か大福に足が生えていると錯覚しそうな、むっちりとしたハムスターのお尻。トドメに、申し訳程度にちょこんとついた、無意味に丸いしっぽ。
 反則だわ、と声を上げるミミの隣で、七海 紫月(BNE004712)がゆっくりと頭を振った。
「可愛らしい動物たちなれど、討たねばならないのなら討ちましょう。
 やるべきことをやってこそリベリスタ、可愛いだなんて、そんなのには――」
 惑わされはしないとE・ビーストたちを指し示そうとしたその時、ふわもふの毛並みを揺らして広場の占有権を主張する彼らの姿が視界いっぱいに映る。
「……ぐぅ」
 うっかり二の句が継げなくなった紫月が喉の奥で唸った時、ニーナ・ドール(BNE003317)が動物たちに語りかけた。
「おひるねのところ、ごめんね。あのね、たおしにきたの」
 流れる水の構えを取った『千歳のギヤマン』花屋敷 留吉(BNE001325)が、前に進み出る。
「動物さんたちがこわがってる。自由になったきみたちのこと、そのままには出来ないんだ……」
 園内に客は居らず、職員も全員が退避を済ませたと聞いているが、飼育されている動物たちは檻の中に残されている筈。今頃は、ただならぬ雰囲気に怯えていることだろう。
 思えば、望まぬ革醒を強いられてしまったE・ビーストたちも気の毒だが、放っておけば、他の動物たちにも累が及びかねない。エリューションは『増殖性革醒現象』を引き起こす存在であり、時間の経過とともに周囲の革醒を促してしまうからだ。
(……しかたない、しかたないんだ)
 しくしくと痛む胸を押さえて、ニーナはそう自分に言い聞かせる。
 彼女は顔を上げると、知己である留吉に声をかけた。
「留吉、がんばろうね。けがしちゃ、だめだよ」
 ニーナに頷きを返し、留吉は荒ぶるレッサーパンダのブロックに向かう。
 晩秋の太陽が照らす『ふれあい広場』で、リベリスタとE・ビーストたちの戦いが幕を開けた――!


 素早く動いたフェレットが、侵入者を睨んでか細い鳴き声を上げる。
 純白の毛皮がふわりと波打った瞬間、青白い火花が宙に散った。ぱちぱちと音を立てて襲い来る電撃をすんでのところで避け、蒔朗は背の翼を羽ばたかせる。低空を滑るように前進した彼は、フェレットの視界を遮るべく、その眼前に立ち塞がった。
「……おれも2メートルあればよかったんですけど」
 そう零しつつ、ハムスターに視線を移す。投じられた道化のカードが目標を過たずに捉えた時、ミミがファイアオパールの瞳を輝かせた。
「速さなら負けてないんだからね」
 傍らに、淡く光る妖精のシルエットが姿を現す。お転婆なフィアキィがちゃんと言うことを聞いてくれるかどうか、少し心配だけれど――。
「――『シシィ』、凍らせちゃいなさい!」
 主に名を呼ばれたフィアキィが、その身に冷気を宿して空中を翔ける。舞い踊る氷精が力を解き放てば、ハムスターはさも寒そうに体を震わせた。指定したポイントから半径5メートル以内を凍てつかせるこの技は敵と味方を区別できないが、戦場が広く、かつ目標が隅の方に位置しているため、味方を巻き込む心配は無い。
「本当に大きいね」
 もはや“小動物”と呼ぶのも憚られそうなE・ビーストたちの巨体を間近で見て、青が呟く。ハムスターに接近したニーナが、可憐なドレスの裾を靡かせながら金の双眸を揺らめかせた。
 こうやって見上げる大きなからだは、とてもかわいいけれど。
「手のひらにのらなきゃ、かわいがれないね……」
 ぽつりと言って、煌くオーラの糸を無数に伸ばす。全身に絡みつく気糸に構わず、ハムスターはニーナにがじと噛み付いた。
 フィールド全体を見渡せる位置に立った紫月が、仲間達に翼の加護を与える。
「堕天使の翼ですわよおほほ。――私たちは闇より舞い降りた堕天使なのです!」
 全員の背に顕現した翼を見て思わず悦に入ってしまった後、こほんと一つ咳払い。小さな仮初の翼でも、皆の回避力を高める役には立つ筈だ。何よりカッコイイし。
『れっさああああああ……ぱんっ』
 太い尻尾をぶぉんと振ったレッサーパンダが、前足で留吉に殴りかかる。
 間の抜けた掛け声と、ぬいぐるみじみた外見にまるで見合わぬ重い打撃が、咄嗟にガードを固めた留吉の両腕を痺れさせた。
 それを横目に見て、青が小さく溜息をつく。
「動物は嫌いじゃないけど、こんなふれあい広場は嫌だね……」
 彼は軽く地を蹴ると、ハムスターの側面に回り込んだ。攻撃を避けるのはあまり得意ではないので、敵の正面に立つのはなるべく避けたい。戦闘中に自らの気配を遮断することは不可能でも、狙われにくくなるよう立ち回る方法は幾らでもあった。
 ハムスターを間に挟んでフェレットからの斜線を遮り、青は集中を高めていく。
 単身でレッサーパンダと対峙する留吉が、固めた拳に燃え盛る炎を纏った。
「――こぶしとこぶしの戦いだよっ!」
 お返しとばかり、灼熱の一撃をレッサーパンダのお腹に叩き込む。仲間達がハムスターとフェレットを倒すまで、レッサーパンダを足止めするのが自分の役目だ。一人は怖いけれど、近くに皆がいるから大丈夫。

 電撃を警戒して散開するリベリスタを見て、フェレットがどこから狙ったものかと首を巡らせる。
 チィ、と声を上げたハムスターが、もっちりしたお尻をふりふりと揺らして注目を集めた。
 愛らしさに抗いきれず、最後尾にいた紫月がふらふらと前に彷徨い出る。離れた場所から攻撃する手段が無いわけではないが、ハムスターに心奪われた彼女に技を選ぶゆとりは無い。
「わたくしの糧になることを光栄に思うがいいのです」
 ハムスターに爪を突き立て、血と生命力を同時に啜る。直後、投擲されたミミのスローイングダガーがハムスターの毛皮を掠めた。
「ちょっと、大人しくしなさいよ! 反則じゃない!」
 でかい図体でちょこまかと動くハムスターを睨み、ミミが毛を逆立てる。紫月と同様、精神攻撃で我を失っているようだ。猫のプライドにかけて仕留めてみせると狩りの構えを取る彼女の前で、蒔朗は慌てず騒がず戦況を窺う。
 レッサーパンダの抑えを担当する留吉は影響を免れており、ブロックに綻びは無い。回復スキルを持つ二人が同時に行動を制限されてしまったのは痛いが、現状における最優先目標がハムスターであることを考えると、そこまで大きな不都合は無い筈だ。
 手の中に魔力のカードを生み出し、それをフェレットの頭越しに投げる。死と不吉を運ぶ道化が、ハムスターの胴を鋭く穿った。 


 意志の力で我を取り戻したメンバーが、陣形を立て直そうと動く。
 紫月が元通り最後尾に戻ったのを確認した後、ニーナは眼前のハムスターに向けて気糸を放った。
 動物を傷つけるたびに、胸がぎゅっと締め付けられるような痛みを覚えるけれど。この手を、止めるわけにはいかない。
(……たおすんだ。どうぶつえんと、せかいを守るため)
 決意を秘めて極細の糸を手繰り、ハムスターを追い詰める。集中を研ぎ澄ませた青が、絶妙のタイミングで畳み掛けた。至近距離からオーラの爆弾を埋め込み、直後に炸裂させる。爆風に呑まれたハムスターの巨体が、ゆっくりと地に崩れ落ちた。
 次なる標的は、電撃を操るフェレット。一度にダメージを受ける人数を減らすべく円陣を敷いたリベリスタは、互いに連携して火力を集中させていく。真正面からフェレットを抑える蒔朗が、鮮やかに間合いを詰めて死の印を刻んだ。
『れっさぁっ!』
 軽いフットワークと堅い守りで攻撃を凌ぎ続ける留吉に苛立ち、レッサーパンダが体当たりを見舞う。流石の留吉も、これには堪らず吹き飛ばされてしまった。
 すかさずフォローに入った青が、代わりにレッサーパンダをブロックする。気遣わしげに留吉を見たニーナが彼の名を呼んだ時、フェレットがするりと動いた。
 スピードを乗せた強烈な打撃が、周りにいた前衛たちを捉える。直撃を受けて、ニーナの小さな体がぐらりと揺らいだ。
「……ニーナも、あぶないね。きをつけよう」
 運命(フェイト)を燃やして折れかけた膝を支え、少女はフェレットに向き直る。彼女の無事を確かめた後、留吉はレッサーパンダに突進した。
「みんなとニーナくんのところには行かせないぞ! 僕が相手だー!」
 怯まず声を張り上げ、炎の拳を繰り出す。それぞれのダメージを見て取ったミミが、シシィ――とフィアキィに呼びかけた。
 治癒の力を宿した妖精が舞い降り、ニーナの心身を賦活する。続いて、紫月が詠唱を響かせた。禍々しき闇の力を司る少女は、同時に聖なる光の力にも通じている。喜びと悲しみ、光と闇、これらの相反する属性が渾然一体となって自分という人間を形作っているのだと、彼女は信じていた。
 人によっては生暖かいと感じるかもしれない癒しの微風を呼び起こし、仲間の傷を塞ぐ。
「わたくしはここで、皆様の勇姿を見届けて差し上げますわ」
 紫月の激励を受けて、リベリスタは再び攻勢に転じた。柔らかな毛並みの大きな動物が広場で暴れている様は一見するとシュールだが、それでも生き物の命を削っているのだという感覚は嫌という程に伝わってくる。
(やっぱり、やりきれないです)
 神秘の悪戯の被害者でしかない、何の罪もない動物たち。世界を守るという大義名分も、心の痛みを和らげる役には立ってくれない。それでも、手を下さなければならなかった。
「……おれはそのために、父や母の想いに反してまでアークへ来たんですから」
 ありったけの慈愛を込めて、蒔朗はフェレットの額にそっと触れる。優しき死の口付けが、白き獣に穏やかなる永遠の眠りをもたらした。
『れっさああーーーーーーーーー!!』
 たった一匹だけで残され、レッサーパンダが腹の底から叫ぶ。留吉の救援に駆けつけたニーナが、“小熊猫”とは名ばかりの巨体を見上げた。
「れっさあー! きみ、なきごえおもしろいね。ニーナもまねしちゃう」
 まふまふとした毛並みは、つい顔を埋めたくなってしまうけれど。あの太い前足でぺちんと叩かれたら、あっという間に倒されてしまうかもしれない。
 全身からオーラの糸を伸ばし、レッサーパンダをぎゅうと締め付ける。胸の痛みは消えなくても、戦うことは出来るから。
「――もふもふなら、もふもふらしくもふられなさい!」
 手の中に小さな光球を生み出したミミが、なおも抵抗するレッサーパンダにそれを投じる。
 全身の痺れでショック状態に陥った獣に向けて、紫月が黒き閃光を放った。
「暗黒に誘う魔の光をとくと味わいなさいな」
 立て続けに衝撃を受け、レッサーパンダが大きくたじろぐ。間髪をいれず、青が気糸でその四肢を雁字搦めに縛った。
 迷わず懐に飛び込んだ留吉が、動きを完全に封じられたレッサーパンダに組み付く。
 流れるような動きで引き倒された巨体が雪崩の勢いで地面に叩き付けられた時――戦いは、終わった。


 地を揺るがす衝撃の後、レッサーパンダが動かなくなる。
 それを見届けてから、青は控えめに口を開いた。
「終わった……?」
 戦い始めて日が浅いためか、気持ちの切り替えがまだ上手くいっていない気がする。慣れていくうち、何も感じなくなるのだろうか。
 倒した動物たちの亡骸に歩み寄った蒔朗が、彼らをそっと撫でる。
「……ごめんなさい」
 目を瞑って両手を合わせる彼の傍らで、ニーナや留吉も動物たちの冥福を祈った。
「痛くして、ごめんね。もういじわる、しないからね」
「革醒さえしなければ、友達になれたかもしれないね……どうか、やすらかに。おやすみ」
 暫くして、顔を上げたニーナが留吉の頬についた擦り傷に気付く。
「うん? 留吉……けがしてる?」
 彼女は手を伸ばすと、薄く血が滲んだそこに優しく触れた。
「いたいの、とんでけ……よしよし。ばんそうこ、あげる」
 ニーナ本人も決して無傷とは言い難いが、仲間の回復でその殆どは塞がっている。最も攻撃力の高いレッサーパンダを抑えて続けていた留吉と比べれば、自分の怪我なんて何てことない。
「おとこのこだから、つよいこだもんね。えらい」
 そう褒められた留吉が、嬉しげに相好を崩す。
「えらいかな、カッコイイかな? えへへ……」
 思わず頭を掻いた後、彼は「いたた」を顔を顰めた。
 そんな微笑ましい図を横目に、ミミが軽く伸びをする。
「ハムスターって、世話そんなに難しい方じゃないわよね」
 どうやら、先に見たハムスターの愛らしさにすっかり心を奪われたらしい。
 帰りにペットショップに寄っていこうか――と考え、思いつきで生き物を飼うのは良くないと思い直す。
「ほんと、もふもふって反則よねぇ……」
 しみじみと呟くミミに笑みを返してから、紫月が「そろそろ帰りましょうか」と全員に告げた。
「闇から闇へ、誰にも知られていなくとも事件は解決するものです。
 人知れずに平和を守るわたくし達、カッコイイですわね」
 今は、勝利を素直に喜ぼう。失われてしまった命に、報いるためにも。
「せめて、貴方たちの犠牲の下に守られた世界を、大切にします。――ずっと、忘れませんから」
 最後にもう一度動物たちを撫でてから、蒔朗が踵を返す。
 ふと天を仰ぐと、どこまでも澄み渡った秋晴れの空がリベリスタを見下ろしていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「――お疲れ。全員、無事で何よりだ。今日はゆっくり休んで、次の任務に備えてほしい」

 可愛い動物だからといって油断していると痛い目に遭うんだからねっ! とガンガン攻めていくつもりでいたのですが、誰も油断してくれませんでした。
 結果、殆ど危なげなく勝利を収められてしまい、喜べば良いのか悔しがれば良いのか複雑な心境に……。

 ふわふわもふもふな動物たちとの一戦、お心に残るものがあれば幸いです。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました!