● 『うらのべ? うらのべ! いっちにのさーん! どんどんぱふぱふー!! 今夜も始まりました、裏野部ラジヲ! DJはこのワタシ、死葉ちゃんでーす!』 一つ、拳が顎に当たれば。 「キャアン!」 二つ、蹴りが腹部にめり込めば。 「ヅッ、グァギャッ!!」 三つ、骨をへし折られれば。 「ヒャウンッ、あっあっんんあああ、んはひぃ!!!」 打撃が飛ぶ度に、血が神楽真琴の身体を染めた。其の血は彼では無く不死偽・香我美のモノ。只のご褒美、只の前金、裏野部一二三にすれば只の遊び。其れを半目でじっと、真琴は見つめていた。 『さーぁ、今夜は楽しいお祭り!! だーって、地図上から村を消すってすっごくぞくぞくするでしょ?!』 「は……ンあはァ、もっと、もっとォ!! もっと欲しィの……一二三様ぁ、んふふふ、きひっギヒヒヒ……キャハハハハハハハハハハハ!!」 殴打の華を身体中に着けられた香我美だが、狂気的な笑顔と欲情した吐息と一緒に、一二三の足に縋っている姿はまるで犬だ。真琴は目線を背け、帰り道の方向を見つめて湧き上がるホームシックを抑えるので精一杯か。 「なァ、坊主。一丁前に嫉妬でもしてるなら可愛げもあるってもんだぜ」 一二三の言う嫉妬とは恋愛的な綺麗なソレとは全く違うものだろう。 肯定か否定か、何を応えれば殺されないかを瞬時に考えた。だが何も答えない事こそが延命処置だろうと、兎に角、蛇に睨まれた蛙の様である己が許せない。 『完膚無きまでに潰すんだから、皆のお手伝い大、大、大募集!! 沢山応募してくれたら、死葉はすっごく嬉しいな!』 「……取り急ぎ、ご命令を」 遊びを終えた一二三は長いソファの上に腰を下ろした。足には香我美が相も変わらず縋りつき絡みつき、二人の目線が真琴を捕える。 「血が好きだろ? 死が好きだろ? イイ仕事させてやるよ、これは前の一件のご褒美だ。村を一つ、跡形も無く潰して来い」 「御意」 御意の『い』を言った後、暫く其の儘。笑って裂けた口が元に戻らなかったのは、己が裏野部である事を実感させてくれるいい機会であったかもしれない。 ● 「お急ぎのお仕事を、村が一つ裏野部に強襲されますので、どうか命を助けてあげてください」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へそう言った。資料にあったのは『武振村』という文字。杏理はその説明を始めた。 「最近裏野部が『まつろわぬ民』という類のアザーバイドと共に行動している事が多いのですが、それらと闘った革醒者の末裔が、この武振村の人達です。今ではもう村の革醒者は両手で数えられる程度の数しかいませんが……おそらく裏野部は此の村の歴史がもう一度繰り返される事を恐れたのでしょう、この村を潰しに来ています」 実際にまつろわぬ民への対抗手段が今もこの村に存在するかは謎だが、それでなくとも裏野部による虐殺と村を地図から消す事は止めなければならない。 「敵はアリスと呼ばれた幹部の女『不死偽・香我美』と、『神楽真琴』の二人と土隠の一体。それと彼等の部下達ですね。使える戦力をガチガチに揃えて来た印象です。徹底してこの村を潰しに来ているのでしょう、敵の数は多く、全員がバラバラに行動しています」 つまり敵の手法は、雑魚を蹴散らす為に手の数を増やして、撒いて、一掃という事か。舞台が村であるだけに、広域に戦力がバラけているだろう。 「屋内の獲物を外に出すためか、建築物は基本的に燃やされているか、彼等のお得意で爆破されております。人の殆どは屋外に出ていると見ていいと思いますよ」 逃げている村人に混じって、村の革醒者が数名だが裏野部に応戦していると思われる。しかし長くは持たないだろうという事は解っている。上手く支援すれば戦力になるであろう事だけは明確だが。 「ですが女性の革醒者には特に目を向けてあげてください。このどさくさに紛れて拉致の可能性もありますしね」 というのも、最近裏野部はやたら女性の革醒者を攫っているからだ。用途は未だ不明だが、彼等に持っていかれて良い事は何一つ無い。 「それと」 杏理は付け加えた様に言った。 「気にしなくても良い程度の部類かもしれませんが、裏野部ラジヲに情報を渡しているフィクサードが居ます。監視されているみたいです……この村。『裏野部』に―――」 一般人に裏野部に革醒者に。やる事も多く厄介な任務だろうが。 「それでは、宜しくお願いします」 杏理は深々と頭を下げた。 ● 『さぁて、役者は揃ったよ!! 村の状況を、逐一、一二三おとーさまや『皆』に伝えちゃおうかな! とはいえ、死葉は村にいないから見える情報は限られるんだ、ソコは先に謝るね。ごめんちゃい! それじゃあ本題。命懸けの鬼ごっこ、こっちが鬼で、鬼はニンゲンを狩らなくてはいけません! 一人残らず食べちゃおうね。あっ、でもでも可愛い女の子は許してあげて?』 パチパチと、木材が焼ける音が彼方此方で響く。混じって、子供の泣き声に、男女の断末魔の狂騒曲。 「あら? 神楽の姿が見えませんわぁ」 普通、目がある場所に細い指を突き刺さされて、がくがくと小刻みに震える男を放り投げた香我美。力無く重力に従った男を見る事も無く、周囲へ首を回して探したのだが、影を見つけるよりも先に、部下が耳打ちしてきた。 「神楽さんならさっき、闘牙を連れて奥に……」 「あらあらぁ」 白い指に滴る血を吸い上げながら、口から出したり入れたり。香我美は見開いたままの瞳を持った顔を斜めに傾けた。 「まああの子は私の傑作ですしぃ。そうねぇ、見かけても一緒に斬られないように注意なさいな。あの子の辞書には友達という言葉はあっても、味方なんて素敵な文字は無い無いなのですわぁ」 『それじゃあ鬼ごっこ、スタートォ!! ……あれ? もう始まってた?』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月27日(水)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「香我美さんとこ行こうぜー」 『灯集め』殖 ぐるぐ(BNE004311)は球児服にバットを振り回しながら『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)を見たが反応せず。 むしろ大鎌を持って強襲してきた裏野部にカウンターの膝蹴りをしていた彼。胃液混じりの唾液を吐き出した裏野部が再び大鎌を持ち直した所で、ぐるぐのバットがカキーン!からの、キラーン!という感じで裏野部は星になった。 「おい磯野ー、香我」 もう一度ぐるぐは言う。 「う、うん? わかってるけどもうちょっと真面目に!」 二人が目指すのは不死偽香我美。AFから聞こえる『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)の声を頼りに歩を進めるものの、村の全方位に万遍無く散らばっている裏野部が一々進行を止めて来るのだ。 「大丈夫です?」 「うん……慣れたくなんかないけど」 ――鼻がもげそうだ。 鉄の臭いと焦げ付いた臭いが重なって醜悪も最高潮という所。道という道は無く、赤い絨毯と何であったか分からない塊が点々と散乱しては、奥へと誘っているようにも見えるだろう。 ようこそ。 暁遠くに、沈んだ命。 生を貪る獣だらけの地獄村。 「それでも、僕は夜明けを探すよ」 「もちろんです。前へ進みましょう」 ぐるぐは血混じりの奥を指差した。 AFへと口を動かして、周囲へ首を回しつつ目をも動かし、琥珀はしっきりなしに司令塔の役目を全うしていた。 琥珀が追いかけるツァイン・ウォーレス(BNE001520)の背中は既に戦火の中へと身を投じている。 「アークだ、助太刀する! 敵を倒しつつ村人と合流、避難させる!」 相手は裏野部八人と、それに囲まれている村人が数名だ。 琥珀の名を呼んだツァイン――刹那、眩い光が放たれた。其れを自身の腕で影を作って目を守ったツァインが裏野部を吹き飛ばすように輝剣を振り回す。フラッシュバンの範囲では巻き込めきれなかった裏野部が片手剣を振り回してきたが、ツァインはそれを片手で掴んで止めた。少しずつ食い込んでくる刃に痛いと思う事も無く、空いた片手の剣をもう一度其の儘目の前へと刺し出していく。 刹那にして飛び散った返り血に、顔面を濡らしたツァイン、拭う暇は無い。頭上――跳躍してきた琥珀の、両手に巻かれた気糸が剣の刺さっている裏野部を捕えた。 くん、と力を込めて気糸を引けば、裏野部が糸に引き裂かれてバラバラになっていく――直後AFにかける声。 「神楽と闘牙、なんか探しやがる!」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)と『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)は駆ける。目指すゴールは神楽真琴と闘牙の元だ。 しかし裏野部のフィクサードもそう簡単に奥へは行かせてくれない。 ふと、その杏樹の上からナイフを持った男が落ちてきているのがいりすには見えた。 顔を横に振り、地面の乾いた場所を足で探した。此処だと思った場所を蹴り、吹き飛んだいりすの足が男の脇腹に直撃した瞬間、杏樹は強襲に顔を上げた。男は体勢を空中で立て直し、地面に手足が着いた瞬間再び駆ける。 「その人から離れろ!!」 「小生らは――」 そうだ、この男は裏野部では無い。 ナイフを構えた男、防御の体勢を取ったいりす。そしていりすの眼前で両手を広げて男を受け止める体勢を取った杏樹。はっきり顔が見える様に立ったのが幸か、 「っ!?」 男は即座にナイフを退けたものの止まらない勢いに杏樹へタックルをかます。その後ろに居たいりすが二人を受け止めて、事を終えた。 「アークの、不動峰さんと紅涙さんか?!」 「……死人をこれ以上見たくない。今は信じて従ってくれ」 こくりと頷いた事に少しほっとした杏樹だったが、即座に聞こえた女の叫び声に其方を見た。が、蜘蛛の糸と人の胴体らしきものが残っているだけで、誰もいない。 見上げた夜空。真っ黒の制服に身を包んだ。 「やめてよね、そういうめんどくさい事するのさぁ」 「神楽!!」 ――斬。村人であっただろう、男の首が杏樹の目の前で切り離されて、血飛沫が杏樹の顔を真っ赤に染めた。 「はいはーい! フィクサードの皆さん、アークです。村人のみなさーん、助けに来ました。 ご安心ください、『アークが誇る鉄腕・設楽悠里』を筆頭に、優れたエースたちが襲撃者たちのボスの首を取りに行っています。すぐに首を上げ、残党処理に入る事でしょう。それまでの辛抱です」 『』内の言葉をやたら強調して拡声器へ喋る『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)。その声は囮であり、警告であり、救助に来たアピールでもあっただろう。竜一は満足気に言うが、竜一の名声の方が効果があったような気がしなくもない。 ふとした拍子に竜一の目は一点で止まった。彼の目に飛び込んで来たのは今にも女性が乱暴されようとしているシーンだ。咄嗟に拡声器を投げ、足をそちらへ向かわせては両手の剣で男を突き飛ばした。だが、竜一の背後より四人の裏野部が――。 ――刹那、視界が真っ白に染まる。 「大丈夫ですか?」 「おう、ナイスアシスト」 竜一が手を振る先に『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が居た。その手の中から放った光は、裏野部達の行動を奪うには十分な威力だ。 「あ、ありがとうございます……」 「いえ、それより――」 助けた女性の腕が震えているのが直に伝わってくる。其れを温める様にミリィは両腕で握り、伝える。 「私達だけでも、貴方達だけでも無理なら力を合わせ状況を打ち破りましょう」 助けた彼女は革醒者だ。ミリィの指揮下で動いてもらわなければならない。 竜一は自身の上着を彼女にかけた後、くるりと裏野部たちへと向き直った。 「可愛い女の子を泣かせるのは、駄目だよなぁ!!」 竜一の両手に巻き込んだ、爆風の戦禍は今にも作られようとしていた――――が。AFの回線から聞こえる琥珀の声。 『そっちに不死偽が――!!』 「さっきの声は竜一様! それにミリィ様ですわぁ!」 竜一の攻撃は、止まらない。 『おーっと、うらのべ情報! ここで招かれざるお客様の登場か。アークの精鋭が来たからには難易度跳ね上がりのハードゲィム?!』 爆音と、過ぎ去る暴風に砂嵐は舞った。 ● 「君の相手は小生だ」 杏樹との間に割って入ったいりすがナイフを下から上へ切り上げ、しかし真琴は後ろへ引いて頬に縦傷が薄らできたのみ。 いりすの『切った手応え』は頬傷一つだけでは無い。真琴の手にあった黄ばんだ紙が数枚纏められているものが真っ二つになっていた。 「それは―――!!」 杏樹が吼えたが、刹那、横から飛んできた蜘蛛の糸が杏樹の口に巻きかかり言葉を封じられ、そして杏樹の女性としての美しい曲線が露わになる程に糸が彼女の身体に巻き付いた。 言葉が出ないなりに杏樹は拳を強く握った。一目散に奥へと向かった真琴が『目的の代物』を探しに行っていた事は相談にて予感していた事態だ。 真琴が炎へ投げた紙が、突発的に吹いた風に乗った。その一枚がいりすの目の前を横切って行く。 「リョウメンスクナ―――?」 「んー……んんっ」 糸の中でもがく杏樹だがどうやらこの糸は非常に強固。ぐいっと引っ張られたかと思ったときには、既に身体が浮いていた。着地した点には、闘牙の姿。 「キシシ、嬢ちゃんの相手はオイラだし。美味しそうな身体、味見くらいしたっていいさね」 「ん、んん!」 舌なめずりする闘牙に女性として危機を全身で感じた杏樹。だが巻き付いた糸はそう簡単に離れてはくれない。 突如闘牙の変化した大きな影の、丁度顎の部分が杏樹の影に重なった。 拡声器に声を大にしたのは幸か不幸か。香我美が其れを聞きつけ今や大半の裏野部と香我美は竜一とミリィの元に集まっていた。 「やべええ、集め過ぎた!? 四葉ちゃんくんかくんか!」 「今そんな場合じゃないですよ!」 『うらのべ情報! 四葉ちゃんくんかくんか? 気持ち悪ッ!!』 ダダダーと逃げて行った四葉であった。 一三人のフィクサードに一人のネームド。攻撃は雨の様に降り注ぐものの、竜一の烈風陣とミリィのフラッシュバンや神気閃光が上手く取り巻きの足を止めていた。 だが、一つ誤算があるとすれば救助班である二人が完全に戦闘の渦に巻き込まれて身動き取れず、救助らしき事が一切できていないことか。ミリィは指揮棒を持つ指の力を込めた。先程助けた女性も、この敵の数に飲み込まれて姿が見えない事に気がかりだ。 裏野部から拳が一つ飛び、其れがミリィの頬を焦がして身体が吹き飛ぶ。地面の砂を掴み、石を投げ、再びの神気閃光の直後――香我美の足の裏が見えた。 「ミリィ様、こんな村救ったってどうしようも無いのですわよ」 「より多くを、救う。それだけです――!!」 身体を半身に回転させ、香我美の踵落としは回避したものの割れた地面から角の様に出でた土が突き刺さる。貫通した腹部から血が流れていく――しかし、ミリィの口元は笑った。そう、これで良い。これで香我美の視界がこっちを向いているのなら!! 「「「「「おまたせー待ったー?」」」」 「「「「今来たとこ!」」」」」 ぐるぐが、ぐるぐが、ぐるぐが、ぐるぐが……――香我美の振り返った先。振りあがった悠里の拳と、振り上げられたぐるぐの得物が炎の色に煌めいた。 「同じヴァンパイアの覇界闘士として、君に興味はあるけど……」 ほぼ同時に振り落された拳と得物。叫ぶ雷鳴と、多重の影が香我美一つの身に集中する。思わず香我美は向けられた力のままに殴り飛ばされ瓦礫にぶつかって静止した。 「砂蛇に重。それに君。フィクサードは基本的に好きじゃないけど、君達裏野部ははっきりと嫌いだよ」 悠里の周囲に未だ放電の余韻が残る中。 「ぼくたちと遊びましょう!」 ぐるぐはそのまま二度目の幻影を召喚しては、周囲の裏野部に牙を剥いた。ショックの効果が乗っていた事もあってか、飲み込むくらいに容易く混乱していく周囲。 「アァン、悠里様ったら出会い頭に女性を突き飛ばすなんて過激的でゾクゾクしますわぁ!」 「君の相手は僕だよ、過激厨さん」 「でも……一二三様の方がもっと気持ち良くしてくれますの!!」 瓦礫を蹴り飛ばし悠里の懐へ突っ込んで来た香我美。悠里は振り上げていた利き手に氷結の結晶を纏わせ、そして香我美は紅蓮の飛沫を拳に乗せお互いの拳と拳がぶつかり轟音と赤色と青色の風が吹き渡る。 「竜一さん!」 「おうさ!」 ミリィが向けた指の先で先程の女性が裏野部達によって連れ去られようとしていた。目の前の男を剣の柄で殴り除け、走った竜一はそのまま剣の風を纏わせ風圧を投げて暴風と成す。 今度は目の前で誰も攫われないように。竜一の伸ばした手に重なった彼女の腕を引いて、もう一度露草は暴風を吐き出した。 「う……」 血だらけの手でAFに口を押し当てたミリィ。近くに寄って来た竜一がミリィを支えつつ、爆風を放ち敵を近づけまいとした。 『……申し訳無いですが、此方は動けそうにありません』 ミリィの掠れた声が琥珀とツァインの耳に入った。琥珀は千里眼にて其方を見るが、有利に見えるとはお世辞にも言えない状況だ。 「でもそっちかなりの人数のフィクサードが集ってるしさ!! ……って、もしもし、もしもし!?」 『頼みます。貴方達次第なんです、貴方達が希望です』 ブツ、と切れた回線。琥珀は耳にAFを押し当てて何度も呼びかけてみるが応答は無い。琥珀の肩を叩いたツァイン。 そう此の班こそ、何処の班よりも一番自由に動けていた班であっただろう。引き継ぐ救助と、合流できた革醒者は六人と多く、その全員に予備の通信機を渡して琥珀の千里眼に従った。 引っ切り無しに支持を仰ぐ通信に耳を傾け、二人は動く。 「やべ、神楽のとこにもフィクサード向かってるな……ツァインどうする?」 「なら、俺は香我美の所に。そっちは神楽のとこに、でどう?」 「超オッケー」 ● 「はァ……ぁ、ぁ……」 身体に回る毒は強烈だ。杏樹の視界が霞んでいく程に蝕む毒。 「くっ!」 屈する訳にはいかない。これ以上の蹂躙は許さないと決めたからには。 指に力を込め、トリガーを引く。精神力で構成した弾丸を空中に撃ち放ち、それが炎の雨となって周囲に降り注いだ。集まってきた裏野部フィクサードもそうだが、闘牙の身体にも炎は巻き付き燃えていく。 たった一人、全ての雨を跳ね除けて杏樹の目の前にやってきた神楽は杏樹の顎を指で持ち上げた。 「俺とあの男か女か解らない奴とじゃ泥試合だから」 首を傾け真琴の刃を受け止めなかった杏樹、その瞳の中で真琴の後ろを追ってきたいりすがナイフを振り落していた。 「浮気はよくない」 真琴の右肩に刺さるナイフ。咄嗟に横へ跳躍した真琴はナイフを抜き取り、いりす目掛けて投げ返した。 「時に君のどえむさんへの想いは何なのかな。エディプスコンプレックスみたいなモノかしら?」 飛ばされてきたナイフをキャッチしたいりす。真琴はその瞬間、刀を振り回し近くにいた裏野部フィクサードを切り殺した。 「ああ、魅了されていたら質問にも答えられないかしら」 細くなっていく、いりすの瞳。魅了に抗い、ぜえぜえと息を荒げる真琴は転がっていた頭を蹴り飛ばして吼えた。 「ちがぁぁう! 俺の中に入ってくるな!」 回避の優れた者同士が争って泥試合ではあるが、いくらか真琴の体力が削れていたのはいりすの能力の高さを示していたか。 その時蜘蛛の糸が真琴に絡みつき、闘牙はそれを引っ張り上げて担いだ。 「残念ながら時間切れ臭いしー」 「くそぉぉ、てめええ!」 真琴の叫び声は遠くなっていく―――面白い匂いがするのよねと、いりすは考えていたが割と子供であった事も知れたか。 「う……」 毒の回った身体がついに言う事を効かなくなったか。杏樹は倒れ、目の色が薄れていき、足元から崩れていった。彼女を受け止めたのは琥珀であり。 「神楽……もう帰ンのかよ」 「あ? 降ろせ闘牙の糞が!! あいつら全員此処で殺す!!」 「駄目さー今日はもう得物が逃げちゃったさー」 いりすの隣に立つ琥珀は、神楽を追いかけたい気持ちを抑えつつ杏樹を後ろの瓦礫に寝かせた。 「もうちょっと早ければ殺せたかも解らんね」 「一発殴れればよかったんだけどさ」 此処に、フィクサードは七人。 走った琥珀を追いかけるように、暗黒を撃ったいりす。被弾した事に苦しげな顔をしつつ、其の侭銃を琥珀の眉間に向けた裏野部だ。 銃声音ひとつ――しかし琥珀の服に穴がひとつ空いただけで彼自信に命中せず。 「お前で今日のところは我慢してやる」 腰を回して右ストレートを放った琥珀、その拳から漆黒が飛び出す。拳は憎い気持ち混じりか、裏野部の顔に当たりつつ骨が折れる生々しい音を奏で終える。 追いついたいりすのナイフが首を掻っ切っていくのと同時に、 「足下注意だっぜ、裏野部」 琥珀の細い指がさした敵の足下から、真っ白の光が放たれた。刹那、二人の漆黒が敵の断末魔を奏でた。 悠里は迸った雷に蹴りを乗せ、しかし足首を香我美に掴まれた彼は瓦礫に叩きつけられ其処に紅蓮の炎が撒かれた。間一髪で炎を掠めた悠里はそのまま香我美の後ろへ回って右の拳を氷に乗せて撃ち放つ。 「はぁん! 悠里様の氷が火照った体にっ」 「怖い!」 氷結に身を委ねた香我美。しかし悠里こそ息が荒く、なんといっても精神力が吸われに吸われて残りが少ないのだ。 「とぉー!」 「いやぁんっ、もうぐるぐ様ったら!」 香我美の胸の間に顔を埋めたぐるぐ。ただし幻影の一体だ。裏野部を囲み、かごめかごめするぐるぐ達はその後一斉に混乱の陣を引く。其処に突っ込む竜一の麻痺とミリィの神気が完全に敵の手番を奪っていくのだ。 「あらぁ、なんだかいつの間にか此方が不利になってますわー?」 瞬時、倒れていた香我美が消えたかと思えば悠里の足下の地盤が罅割れ崩壊していた。突き刺さる地盤の槍に足が完全に捕らわれながら、舞い上がる砂塵の中で悠里の手を掴み引き寄せたのはツァインであった。 「だからその手甲似合わないから外せって、それに多分、俺との相性は最悪だぞ?」 「……どうしてそんなに心配して下さっているの?」 ツァインが剣を持ち、前に出た。彼女は敵だ。頭の中では殺せない訳ではなく、現に男の目をくり抜いていたし…と疑問が廻る。神秘を纏い、攻勢に出ようとしたツァインの前にミリィが出でる。腹部の出血を片腕で抑えたミリィの指揮棒が香我美の喉に当てられた。 「現時点を以て、生存している村人の避難は完了しました。貴方達がこれ以上ここに留まる理由は無くなりました」 「あらあら? でも」 笑顔のまま、指揮棒とツァインを交互に見つめた香我美。刹那、横から現れた男の思考の濁流がミリィの身体を吹き飛ばした。 「お逃げください、香我美様! 貴方に死んでもらっては困ります!!」 「……過激派にあるまじき状況ですわぁ。そうですわね、私、一二三様の所に絶対帰らないといけないんですもの」 一歩、二歩と後退する香我美に、悠里は未だ追いかけようと抗った。 「覚えておきなよ。裏野部の企みは必ず打ち砕く!」 振りあがった拳。 「僕が、僕達が! この世界の境界線だ!」 トン、と香我美の脚が地面についた瞬間、地盤が割れて瓦礫が悠里の身体に突き刺さっては視界がブラックアウト。 ただ氷結の拳に確かに手応えはあった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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