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<黄泉ヶ辻>秩序と混沌

●問い質す秩序の正義
「お、おい! 大丈夫か!?」
 リベリスタ組織『White Fang』。
 遠き北海道に本居を構え、本州のリベリスタとは余り交流も無い。
 しかしアークの庇護下に無いリベリスタ組織としてはかなりの規模を誇る北方の白き牙。
 その立地からアークと交わる事その物が余り無かったとは言え、北陸は彼らの活動圏である。
 内部にフォーチュナをすら有する彼らがその一件に携わったのは、とは言えただの偶然だった。
「柚子、正樹、来てくれ! 癒し手が必要だ! 後、本隊に連絡。思ったより酷いぞこりゃ」
 慌てた様に声を上げるのは『白牙衆四番隊隊長』工藤勇二。
 続く2人は同隊の隊員でありホーリーメイガスの冲方柚子とその兄であり副長の正樹。
 四番隊の中核と言える3人が手を分けて被害を被った人々を一所に集めだす。
 周囲に残された痕跡は、まるで大型の獣を思わせた。
 爪跡はアスファルトすら抉り、遺体の殆どは上半身を抉られて絶命している。
「一体ここで、何があったんだ?」
 組織の“予知”では、強力なアザーバイドが出現し、ここで暴れている。
 その筈だった。だがそのアザーバイドは見たところ何処にも居ない。
 辿り着くのに随分時間をかけてしまったからか。既に事は“終わった後”の様だった。
 沈痛な色を湛えながらも酷と知りながら問い掛けた勇二の言葉に、
 顔を蒼白にさせた老人は小さく頭を振ると掠れた声で応える。
 曰く――子供が、村人を喰い殺してしまった。逃げようとしたが逃げられなかった。

「子供……男か、女か?」
「女だ! 赤い、赤い瞳の――ごほ、ごほっ!」
 咳き込む老翁を、介抱していた正樹が眉を寄せる。他の村人は黒い男がどうのと言っていた。
 となると、最低2体。被害の規模から考えると万が一戻って来ないとも限らない。
 何せ、周囲は山また山だ。人里に辿り着くのは容易ではない。
 それが、アザーバイドであるなら尚更。特異な能力でも無い限り食事にも困るだろう。
「勇二、医療班を呼べるか。ああ、仕方ないだろう。近隣の街へは二番隊に回って貰おう」
「それしか無さそうだな……こんな事になってる人を放ってはおけない」
 合理的に思考する正樹の言葉に、情に篤い勇二が頷く。
 また被害者に感情移入しているな、と察するも彼らとて革醒者だ。
 余りロクでも無い経緯で以って、こんな世界に飛び込むしかなかったのは正樹も同じ事。
 それでも、彼らは力に溺れる事無く弱者の剣になる事を選んだ。
 牙無き獣の、牙になる事を選んだのだ。なら、恐らく正しいのは勇二の方なのだろう。
「お兄ちゃん、先輩、集め終わったよ。集会場みたいな所が空いてたからそこに!」
 柚子が声を上げると、正樹が携帯端末を開く。だが流石は田舎、電波は0だ。
「出来れば何所かで電話を借りれないか。医療班と連絡を取らないと」
「うん、これ以上1人だって死なせられ無いもんね!」
 こくりと頷く後輩に、端末を横から覗いていた勇二が強く頷く。
 
 自分もそうだった。突然の悲劇に見舞われ行く場も無く、絶望していたその時。
 手を差し伸べてくれたのは偶々その事件を担当しただけのリベリスタだった。
 その偶然に、一体どれほど救われただろう。その温かさに、一体どれほど強く想ったろう。
 弱い人々を。力無い人々を。自分の様な、神秘の被害者達を守り抜く。
 例えそれが茨の道であろうとも。例えそれが、如何に辛く苦しい物であろうとも。
 その出会いが偶然でも、誰一人決して理不尽に殺させはしない。
 自分の手が届くなら、無理であろうと、無茶であろうと。無制限に守り抜く。
 それが、勇二の誇りだった。それが、彼の信念だった。何時かそれに救われた自分の様に。
 リベリスタは、セイギノミカタでなくてはならないのだから。

●黄泉の交差点
「――10人、殺して来て」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)のその言葉は、
 書道紙に一滴落とした墨汁の様にじわりと響いた。何を言われたか分からない物も少なく無い。
「感染するタイプのアザーバイドが出現した。そう、例の“憑鬼”」
 “憑鬼”と呼ばれるアザーバイドが居る。サイズは実に細菌大。
 異世界のウイルスとでも言うべきそれは、寄生した生き物を変質させると言う性質を持つ。
 強靭な身体。鋭敏な反射神経。死んだ脳をも動かす程の過剰極まる生命力。
 代償に、宿主に同族喰いを強いると言う特性さえ無ければ多くの者がその恩恵を被れたろう。
 憑鬼は寄生した者を鬼へと変ずる。故に名を、“憑”依する“鬼”。
 これらは極々容易に接触しただけで感染する。熱消毒すらも意味を持たない。
「探知が遅れたみたい。既に手遅れ。目的地に辿り着く頃には全部終わってる」
 正確には、未だ始まってすらいない。けれど、立地が悪過ぎた。
 北陸の山中。静岡県東部の三高平からではヘリを飛ばしても1時間は掛かる。
 その頃には全てが終わり、そして事態は始まっている。
「生存者はきっかり10名。どれが“感染”していてどれが“感染”していないか。
 現代医学。それに現在の神秘では探知不能」
 細胞を徐々に徐々に汚染する“憑鬼”は発症後1週間程で宿主がアザーバイド化する。
 しかし、その段階に至るまで発症しているかどうか分からない。普通の病と区別が付かない。
 このままだと被害者の10人は漏れなく感染した上で病院に輸送されるのだと言う。
 そんな事になれば、院内感染は確定的だ。10人所ではない被害が、出る。
 そして縦しんば輸送を食い止めた所で、感染源が特定出来ないならそこは行き止まりだ。

「確かに、皆が辿り着いた時点では感染者は極少数かもしれない」
 死ななくて良い人も居るかもしれない。けれど、それは時間の問題だ。
 或いは、既に全員感染しているかもしれない。下手な仏心は被害の拡大をしか招かない。
「社会秩序を守るのが、私達の仕事」
 小を殺して、大を救う。それがアークの、リベリスタのやり方。彼らの正義。
 だからそう。万華鏡の姫はこう告げるのだ。“神秘事件の被害者10人を殺して来て”と。
「それと注意点。現地には、リベリスタが居る。
 北海道のリベリスタ組織『White Fang』のメンバー3人+1人」
 但し、現地到着時点で1人は山村を離れているのだと言う。
 過剰に時間を掛けない限り、原則として遭遇することは無い。問題は村に留まる3人だ。
「この『White Fang』、玉石混合だけどこの3人は至って善良。
 ……善良過ぎるくらい。多分、ううん。間違いなく、皆が村人を殺す事を許さない」
 説得は、非常に困難だ。例え残酷であろうと、物理的に抑えこんだ方が早い。
 全て終わった後であれば、言葉を交わす事も適うだろう。
 相手もリベリスタだ。まるで話が通じないと言う事は無いだろうと、イヴは瞳を伏せる。
「幸い、10人は1箇所に密集してる。全体攻撃か、領域攻撃か。
 纏めて攻撃出来る神秘で1撃でも入れれば一網打尽……皆なら、簡単なお仕事」
 簡単な。そう、とても、とても――簡単な。

「だからこそ、失敗するととても困ったことになる」
 念を押すのは、アークのリベリスタの“お人好し”さを彼女が一番良く知っているからだ。
 ここで、甘えは許されない。リベリスタは、リベリスタの仕事をしなければならない。
 そうでなければ、彼らは力で以って秩序を覆す者へと堕ちる。
 彼らが散々に裁いて来たフィクサードと呼ばれる存在に成り果てる。
「よろしくね」
 何時もと同じ、背を押す言葉と共に万華鏡の姫はリベリスタ達を送り出す。
 特殊な力など持たないただの人間を相手にするのだ。
 渡された資料に記されたのは、『White Fang』のメンバー3人の記述のみ。
 障害にすらならない。これはそう。本当に“リベリスタならば簡単な仕事”なのだから。

●問い掛ける人性の在処
 それは、万華鏡が探知に至るほんの数十分ほど前の話。
「――――良いぞ、綾芽。夕餉としよう」
 低く、小さく、力強く。男はただそれだけを告げた。
 隔離された世界。誰も逃げられない。逃げる術も無い。虐殺は僅か数分で終わる。
 そして直ぐに姿を晦ます。万華鏡の探知より早く。探知した姫君が追っ手を差し向けるより速く。
 山奥の寒村。交通に難の有る地区を優先的に選択し電撃的に――処理を済ませる。
 主流七派、“閉鎖主義”の『黄泉ヶ辻』に於いて行動を隠匿するノウハウに困る事はまるで無い。
 邪魔をさせまいと痕跡を徹底的に秘すれば、誰であろうと彼らを追い詰める事など出来はしない。
 その様なやり方を彼らの主は“詰まらない”と称するが、それはそれだ。
 黒い、黒い、黄昏にぽつりと落ちた闇の様な男。『屍操剣』黒崎骸からすれば必要は十善を凌駕する。
 例え詰まらぬやり方であろうと、それが彼の評価を落とす事に繋がろうと。
 男は既に完結し、完了している。それ以上を求める事は無く、それ以上を望む事も無い。
「んぅ……パパ、私偶には若い子が良いなぁ。飽きちゃった」
 それに対し不満げに声を漏らすのは、中学生程の少女だ。
 その両手と口元、そして胸元は酸化する前の鮮血で赤く赤く染まっている。
 爛々と輝く瞳は、けれど鮮血より尚赤い。それはその娘が人で無い事を如実に表している。
「ふむ。そうだな。流石に余り若い人間は居ないか」
 住人たるや精々20人程の小さな村だ。一番若い村人でも30は超える。

 とある一件以来似たような寒村ばかりを巡っていた為か、
 ここに来て遂に彼の“異形の娘”の不満がピークに達した様だ。
「……最近の、調子はどうだ?」
 何所か気遣いの色濃い問い掛けと共に、少女の表情を備に観察する。
 少女――黒崎綾芽は元人間だ。そして現在、彼女はあらゆる意味で人間ではない。
 黄泉ヶ辻に於いて、“憑鬼”を研究し続けた骸はこの鬼を死を操る神秘で以って制御し、
 一度死んだ娘を黄泉返らせた。正に人喰いの、鬼として。
 “黒崎綾芽だった物”は、既にフェイトを持たぬアザーバイドだ。
 帰る世界も無く、社会を蝕むだけの少女の姿をした“人喰い”。それを庇護するフィクサード。
 2人にはこの世に寄る辺が無い。本来であれば、逃げ続け追い詰められ死に絶えるだけの命だ。
 けれど、『黄泉ヶ辻』はこれを容認し続けている。その逸脱が何所に至るのか観察を続けている。
 であればこそ『屍操剣』とて、ただこのまま逃げ隠れし続ける訳には行かない事は分かっていた。
「うん、大丈夫。調子良いよ、パパ」
 にっこりと微笑む“それ”は元となった“娘”の面影を残しつつも、
 徐々に徐々に、けれど確実に変容を遂げている。男の制御を外れていっている。
 男の知る“黒崎綾芽”はもっと表情に乏しい子供だった。もっと物静かな少女だった。
 しかし、眼前のそれは。まるで自我に目覚めた様なそれは、彼の知る綾芽とは明らかに異なる。

“――本当に“あれ”が綾芽さんだと思っているのですか”
 そんな問い掛けを、どこかで聞いた。だが、そうだったとしてそれが何だと言うのだ。
 自己満足である事など。畜生道にも程が有る行為だ等と、そんな事は百も承知の上。
 それでも尚、彼はこの道を選んだのだ。自らの意思で。自らの――手で。
「そうか、だったら次は……」
 人を獲物として、殺すべき対象として選別する。そんな作業に対し心に漣すら立たない。
 これが慣れだというのなら。これが、人間だと言うのなら。
 では、人間と化け物(あれ)の境界線など、一体何処にあるのだろうか。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月26日(火)01:08
 94度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 誰にでも出来る簡単なお仕事です。以下詳細。

●作戦成功条件
 村人達の全滅

●注意事項
 このシナリオではカオスゲージが大きく変動する可能性が有ります。
 参加の際には予め御了承下さい。

●村人達
 10人の村人達。男女比は3:2。老人ばかり。
 どれが“感染”しており、どれが“感染”していないかは、不明。
 神秘に依る手段で以ってこれを判別する事は出来ない。

●White Fang
 北海道に居を構えるリベリスタ組織。主に北海道及び北陸を中心に活動する。
 過去、魔神ビフロンスへの対応や楽団による混沌組曲の案件で、
 アークが矢面に立って戦ったことを知っている為概ねアークに対し好意的。
 特に四番隊隊長の工藤勇二はアークのリベリスタに憧れの様な物を抱いている。

・白牙衆
 『White Fang』の実動隊であり、リベリスタのみで成る戦闘集団。
 一番隊から五番隊まで存在し、今回の案件に当たっているのは四番隊となる。

・『白牙衆四番隊隊長』工藤・勇二(くどう・ゆうじ)
 ジーニアスのデュランダル。切り込み役ながら正義感が強く求心力に優れる。
 年齢は19歳。中二病が抜け切らない若干痛い子だが人並み外れて意志が強く、
 言葉より行動と結果で以って周囲を納得させるタイプの熱血漢。
 物理攻撃とHP、物理防御が高く、命中と回避も程ほど有るオールラウンダー。

・『白牙衆四番隊副長』冲方・正樹(うぶかた・まさき)
 ビーストハーフ(狼)のソードミラージュ。勇二の補佐を務める大人びた青年。
 年齢は21歳。理詰めで物を考えがちな分、勇二の在り方に敬意を抱いている。
 ソードミラージュの基本を外れ、命中回避に特化した絡め手重視の剣士。
 耐久力こそ劣るものの卓抜した体捌きはアークのエースにも引けを取らない。
 
・『白牙衆四番隊員』冲方・柚子(うぶかた・ゆず)
 ビーストハーフ(狼)のホーリーメイガス。全体的にすとんとした小柄な少女。
 年齢は16歳。正樹の妹であり四番隊のマスコット的存在であり、ヒーラー。
 命中と回避を捨て神秘攻撃のみに全力特化した極端な能力の癒し手。
 絶対者でもあり、状態異常によって彼女を妨げる事は出来ない。

●任務予定地点
 山奥の村。国道に出るまで大人が徒歩で3時間程かかり、交通の便は最悪に近い。
 ヘリを飛ばしパラシュート降下したとしても三高平から1時間強かかる。
 また、山村内は大型の獣が暴れた様な跡と共に散々に散らかっており、
 足場は極めて悪い。但し視界は良く通る。
 村人達は村の奥の集会場に集められており、その周辺を白牙衆が交代で見張っている。
 凡そ3時間後に『White Fang』の救護班と援軍が到着予定。

●『屍操剣』黒崎・骸(くろざき・むくろ)
 初出シナリオ:<Blood Blood>赤と黒
 30代後半。『黄泉ヶ辻』所属の研究者であり元外科医。
 黄泉ヶ辻の幹部候補として名前が挙がる程の実力者。黒髪黒眼に黒服の男。
 今回の一件の元凶ながら、既に村には居ない。

●『屍鬼童子』黒崎・綾芽(くろざき・あやめ)
 初出シナリオ:<黄泉ヶ辻>預言者は指し示す/表
 外見年齢は10代中盤。アザーバイド『憑鬼』による“黄泉返り”唯一の成功例。
 今回の一件の元凶ながら、既に村には居ない。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ナイトクリーク
折片 蒔朗(BNE004200)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)
ナイトクリーク
鼎 ヒロム(BNE004824)

●対する正義
「彼らを諦めるのはおれたちだけでいいと思ったから」
 折片 蒔朗(BNE004200)の返答に、勇二は何かを噛み締める様に告げた。
「――――なら、自らを偽る事も貴方達の正義か」
 問い掛けは静かに。ただ、静かに
「それは違う、感染を広めず感染者だけを隔離する方法はなかっ「分かってる」
 『無銘』 熾竜 “Seraph” 伊吹(BNE004197)の言葉を、その途中で切り捨てる。
 向けられた視線は、冷たいのでも、熱いのでもない。けれど、何かが燻っていた。
 それは恐らく――失望、なのだろう。
「どうしようもなかった。貴方達がそれを言葉にするならきっとそうなんだろう。
 俺は知ってる。五稜郭の閉鎖結界。
 不甲斐ない俺達より早く結界へ突入し、事を解決し、人々を護ったのは貴方達だった」
 知っている。彼らが大勢を護った事を。
 知っている。彼らが誰より率先して傷付いて来た事を。
 知っている。彼らを糾弾する権利など決して無いだろう事を。
「けれどだったら――」
 それでも。どうしても。

「どうして貴方達は彼らを! 人間として死なせてやれなかったんだっ!!」
 その言葉を告げずにはいられなかった。
 
●任務開始
 自分の仕事を正義の味方だと思った事は一度も無いけれど。
 無事降下に成功した事を確認しながら、胸を過ぎった感傷を切り捨てる。。
 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が周囲を見回すと、
 其処には幾つか見慣れた顔が有る。突入以前に事故発生、と言う事は無かった様だ。
 ひらひらと手を振る蒔朗と、周囲を見回す『人非人』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)
 2人を視界に収めながら、先ずは幻想纏いである「オルガノンVer2.0」を起動させる。
“皆、無事か”
 直後、響いたのは『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)の声。
 本来は村の中に直接降下したかった物の、如何せん先行して降下している人物が居た為、
 急遽村の外の芝生へ降りる事になってしまったのは想定外だった。
 決して遠くは無い物の、より村の傍へ降下した者は既に村へ入っている事だろう。
 拓真とお互いの位置関係を把握し合い、合流の為にパラシュートを畳む。
 続けて、再度幻想纏いが接続される。響いた声は女――少女の、それだ。
“これから村へ入ります。そちらは大丈夫でしたか”
 何所か淡々と。空虚に響く『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の言葉に、
 彩歌が僅かに眉を寄せる。両者とも、リベリスタになってから長い。
 だからこそ、覚えるのは僅かな違和感だ。この娘は、前からこんな声で喋っていただろうか。
「ええ、少ししたら配置に着くわ。其方は?」
“大丈夫だ。こっちはもう合流出来てる”
 今度は鼎 ヒロム(BNE004824)が応答する。どうも先入班は既に揃っている様だ。
 千里を見通す魔眼などあれば、それは移動に困る事は無い。
 ヒロムの異能を軸として集合した3人は、流石に待伏せ班を大きく先行している。

“了解、それじゃこっちも新城さんと合流次第配置に着くわ”
 そんな彩歌の声を聞きながら、伊吹はサングラスの向こうからじっと瞳を細めていた。
 そちらには少女と女が各1人大きな声で何かをやりあっている。。
 “荒れている村の中央”に直接降下すると言う割と露骨な無茶をした、
 『魔性の腐女子』 セレア・アレイン(BNE003170)の居る方角で有る。
「この辺とか、大丈夫ですか?」
 当たり前ではあるが特殊な異能も無しに用意して来た靴は“何故か滑らない”ハイヒール。
 流石に障害物に足を取られ挫いたセレアが『White Fang』の治療を受けているのだ。
 場に対する向き不向きと言うのはやはり有ると言う事か。何故こうなった感は拭えない。
「大丈夫大丈夫、って痛たたたた、痛い痛い、か弱いあたしに何てことすんのよ!」
「ご、ごめんなさい!?」
 理不尽、と言うべき光景が其処には有った。絡まれている少女が哀れだ。
 癒しの神秘が光を帯びて瞬く最中、ヒロムがそっと息を吐く。
「えーっと、少し良いか?」
「え、は、はい? あ。アークの方々ですか?」
 セレアにごねられていた少女の視線が、割り込んだ声へと向けられる。
 他方、彼の視界にはその少女以外の人物が近付いているのが映っていた。
 鋭利な瞳の男。恐らく事前に聞いていた『冲方 正樹』の方だろう。
 ヒロムの役割は正樹を現場から遠ざける事。ついてないと思っていたが流れとしては悪くない。
「知らせておかないといけない事があるんだが、神秘秘匿の観点からちょっと話し難いんだ」
「あ、伺っています。アザーバイト関係でここを調査したいんですよね? どうぞ」
 あっさり了承を出す推定、冲方 柚子。ヒロムが一瞬たじろだ様に言葉を失う。
 無用心――ではない。それはアークの積み重ねが齎したネームバリューのなせる技だ。

 或いはセレアの説明が少々突っ込み過ぎていた所為もある。
 “アザーバイト関係でここを調査している”事が分かってしまえばそれを断る理由は無い。
 そしてそれ以上何も伝えずとも、アークはただそれだけで信用されている。
 事情を説明する人間が分散し過ぎた弊害だ。互いにやろうとした事が噛み合っていない。
「……ああ、アークの。始めまして」
 その躊躇いに割り込む様に、刀を携えた男が近付いて来る。
 裏社会に通じた博徒であるヒロムなら見れば分かる。
 これは、一対一ならまるで歯が立たないだろう事が。
「『White Fang』の冲方 正樹だ。本当に日本中を巡っているんだな、驚いた」
「ああ、彼らはある病原体に感染した疑いがある。調査に協力してもらいたい」
 澄んだ声音の中に探る様な色を見て取ったか、伊吹が方向性を修正する。
 どうも舌先三寸が通じる相手では無さそうだ。人格交換か偽り仮面か。
 自分自身をすら騙し切る神秘でも宿していればともかく、相手も熟練のリベリスタなのだから。
「病原体? いや、それにしては……軽装の様だが」
「医療班は到着が遅れるので、まずはアザーバイド接触時の状況を確認しに来ました」
 フォローに回った舞姫の言に、少し考えた様な素振りを見せた正樹が小さく頷く。
「事情は分かった。柚子、勇二を呼んでくれ」
「はい、わかりました!」
 元気の良い声を上げ、少女が駆ける。その様を眺めセレアが僅か眉を寄せる。
 ここから、正樹を村の外へ引き離すのは至難の業だ。
 半端な理由で彼らが自らの護っている村を離れる事は無いだろう。
(50m……大丈夫かしら)
 最悪味方を巻き込んででも陣地を張る意志を固め、女は小さく一人散ごちる。
 
●任務完了
「誘き寄せには失敗したみたいですね」
「うーん、困りましたね……」
 キンバレイが機会的な程淡々と告げた言葉に、蒔朗が頷きながら首を傾げる。
 予定では、連れ出した『White Fang』を彼らが足止めする筈だった。
 しかし、彼らは村を出そうに無いのだと言う。であれば此方から出向く他無いだろう。
 一番の誤算は、生存者は“村の奥で集められている老人達10名が全て”である為、
 「周りに聞かせられないので」と言う理由が使えなかった事だろう。
「村へ行くしかないでしょう。万が一3対3何て事になったら最悪よ」
「そうだな、今は目の前の難題をどうにかする方が先決だ」
 彩歌の言に拓真が頷く。事が成らないならば臨機応変に動く。
 リベリスタがチームで動くのはそれが理由である。
 1人ではどうしても不慮の事態に弱くなる。互いを補い合う為に数を揃えるのだ。
 しかしそれは時に、内部に軋轢を生む事も、ある。
(――くだらない。精々右往左往すれば良いじゃないですか)
 そのやりとりを見つめるキンバレイの瞳は何所までも醒めている。
 戦う事は嫌いだが、大好きなおとーさんを守りたくてやって来た。
 その筈だった彼女の心がここまで歪んだのは、何故か。問い掛けても答えはあるまい。
 ただ、彼女にとって彼らは何所までもただの偽善者であり、
 彼女自身を含む全ての革醒者は等しく皆ひとでなしだった。それが当たり前だった。
 どうしてその当たり前を取り繕うのか分からない。理解出来ない。
 ただ、どうしようもなく苛々する。
 それが何故なのか。彼女自身にすら、分かってはいないのだが。

「なるほど、それじゃ一応俺が立ち会おう。柚子と正樹は見張りを頼む」
 アークの使者、と聞いた勇二の対応は迅速だった。
 幻想纏いで連絡し合っていた事もあり身分の証明は思った以上に容易だったのだ。
 確かにこれは簡単な仕事だ。簡単な仕事――なのだろう。恐らくは。
(そなたなら何と言うのだろうな)
 記憶に問う。最期まで救いを望み続けた、黒翼の射撃手に。それを感傷と知りながら。
「ここです。どうぞ」
 勇二が扉を開け放ったその施設は、集会場とは名ばかりの学校の体育館の様な空間だった。
 傷付き包帯を巻かれた老人達が石油ストーブを囲んで転がっている。
 それらを一つ一つ確かめる様に眺め、舞姫が穏やかに声を掛ける。
「大丈夫ですか。痛いところは、無いですか」
 視線が向けられる。疲れきった、何かを諦めた様な眼差しが。
 けれど、確かに生き。生きようとしている人達の眼差しが。
(これは、)
 そんな目を、一体どれだけ見て来ただろう。
(わたしの罪)
 そんな命を、一体幾つ見捨てて来ただろう。
「此方が――」
 紹介でもしようと思ったのか。困った様に笑った勇二の言葉は。
「――熾竜さん、セレアさん。始めます」
「わかった」
 けれど舞姫から、熾竜から。それぞれ告げられた一言で途切れ、
 そして永遠に喪われた。

(今頃は既に戦場ヶ原達が動き出している頃か)
 村の入口に立った拓真達を迎えたのは、面立ちに何所か似た部分を残す2人の男女だった。
 冲方兄妹へ何所まで事情を知っているかを尋ね、それを場に残ったヒロムとセレアが補足する。
「“憑鬼”と言うアザーバイドが居るんです。
 ウイルスみたいに感染して、人間をアザーバイド化させてしまう……」
 蒔朗が時間を稼ぐ為により細かい部分の説明に入った瞬間、
 幻想纏いより響いたのはほんの短い合図だった。
“熾竜さん、セレアさん。始めます”
「はいはい。まあ……」
 直後、全くの無詠唱で展開される“陣地”。
 セレアの曲芸とすら言えるその技巧に、柚子だけでなく正樹すらも一瞬呆気に取られる。
 或いはこれが敵意を持った戦闘行為であったなら、超反射神経はこれを察知しただろう。
 けれど場の誰にもそんな意志は無く――だが、しかし。
 立て続けに集会場の方から響いた銃声は、彼らの意思などまるで置き去りに状況を動かす。
「深く考えないほうがいい仕事よね、これ」
 ぽつりと溢したセレアの呟きは、きっと何よりも彼女の本心を示した物だったろう。
「銃声!?」「――勇二!」
 駆け出そうとした青年を、彩歌が。少女を、蒔朗が。引き留める。
 セレアを背に護りの体制を整えた拓真が敵意の眼差しを向ける兄妹へ問いかける。
「たった今述べた事は、全て事実だ。言いたい事があるなら、聞こう」
 何かを言おうとした柚子がそれを吐き出すより、ほんの少し前。
 銃声が止む。始まり、終わるまで僅か10秒。
 それは誰かの慟哭の様に聞こえた。

●白き牙
 そこは、もう何物でも無かった。
 集会場ではなく。体育館でもなく。避難場でもなく。
 強いて言うならその場所は殺人現場であり、死体置き場だった。それだけだった。
「――っ」
 戦いの経験に乏しいヒロムが口元を抑える。
 人との駆け引きであれば幾らも冷静でいられる彼であれ、人間のミンチは流石に厳しい。
 視線を隣へ向ければ、やはり若年層である柚子も口元を抑え壁に蹲っていた。
「…………だ」
 掠れた声の主。勇二は、武器を抜かなかった。それをしているのは正樹の方だ。
 彼は1人でも息の有る者はいないかを確認し、全てが手遅れである事を理解し、叫んだ。
 けれど駆けつけた正樹が勇二を抑える舞姫に斬り掛かろうとした時、彼はそれを制止した。
 そのまま誰一人言葉無く数分。全ての遺体には布が掛けられている。
「……何でだ」
「――村人は、『全員が』“憑鬼”というアザーバイドに感染していました」
 間髪を入れず、舞姫が答える。明らかな嘘だ。けれどその嘘で自分自身をすら、騙す。
 狂気すら感じるその言の真偽を、外目に見せずとも動揺している正樹は、勇二は、見抜けない。
「騙し討ちのような事をして、ごめんなさい。
 でも、多くを救うために諦めなくてはいけない事もある……これが、おれたちの正義なんです」
 継いだ蒔朗が、頭を下げながら奥歯を噛む。
「話して、すんなり通るのであればそれも考えただろう」
 拓真が勇二に視線を向ける。彼の信じる正義のままに。
「だが、君達はそうではない」

「でも! こんなの、ただの人殺しじゃないですかっ!」
 柚子の言葉は感情論だ。ただ、衝動に任せて声を上げているに過ぎない。
「そうね。ただの人殺しかもしれない。
 でも、犠牲は減らしたいから私達は『White Fang』との関係は悪化させたくない。
 これで終わりじゃないのよ。似たような事が起こる可能性は高い」
 だから、彩歌の冷静な対応には行き場を失った様に口元を戦慄かせる。
 理性を大切にしながらも、決して理性だけでは動けない。
 人間は感情の生き物だ。衝動は容易く道理を凌駕する。理解と納得の間の溝は、深く広い。
「だとしても、だ。この村の被害者の管理は俺達がしていた。
 そこに虚偽を告げ無理を通しけれど関係は悪化させたくない、は筋が通らないのではないか?」
 次に口火を切った正樹の論は明確だ。事前に組織間で取引でも有ったならともかく、
 突然に他組織の管理する事件に対し横車を押したのはアークである。
 現場の責任者としては苦言を述べずにはいられない。誰もがまず謝罪の一つも有るべきだろう。
 道理と礼節はまた異なる。礼を欠けば悪感情を抱かれる事は、免れない。
「リベリスタである以上理解は出来る。だがお前達は納得させる為の努力を十分にしたか。
 俺にはそうは思えない。その言い分を言い訳だとは言わないが――」
「すまない。だが、そなた達の思いを断ち切る為必要だったのだ」
 頭を下げる熾竜。その様に、正樹が憮然とした表情で口を噤む。
 3人の中では最も理性的な男だ。ここは責める事が必要だと感じたからの苦言。
 批判する心算は無かったのだろう。が、それで終わりはしない。
「何でだ」
 それは静かな眼差しだった。けれど決して穏やかではなかった。

「何で、とは?」
 彩歌が受ける。けれど、同時に直感する。これは――駄目だ。
 正義とは、人を動かす支柱の様な物だ。
 それは百人居れば百通り在り、ずれたり逸れたり歪んだり、曲がったり折れたりする。
 正答など無い。正解など無い。
 けれど2つの正義がぶつかった時それらが和解する可能性は、2つの正義の親和性に依存する。
 近い理念であれば有るほど、2つの道は寄り添い易い。
 故に、白牙衆より噂に聞く“黒い男”よりの“正義”を持つ彼女は誰より早く理解する。
 工藤勇二の抱く理想は、彼らが定めた“アークの正義”を決して許さない。
「何で最初から全て話さなかった。何で例えぶつかってでも納得させようとしなかった。
 何で、自らの正義を説く事無く偽る事を選んだんだ」
 その問い掛けへの答えを、誰も持ってはいなかった。
 作戦遂行の効率を優先して考えれば、彼らの行動は文句無しに正解だ。
 事実として、多少のすれ違いが有って尚これといった障害も無くその役割は執行された。
 けれど。
 秩序を護る為に、一体自分が何を犠牲にするのか。
 行動した彼ら自身ですら、本当の意味でどれだけ理解出来ていただろうか。
 故に白き牙の糾弾は、冒頭へと収束する。

●黒き痕
「全く、付き合ってられません」
 一人踵を返したキンバレイは、迎えのヘリを待ちながら緑の芝生で佇んでいた。
 勇二の問に、誰も答える事は出来なかった。
 自分達が殺す者が、人間で有ると。これは最初から分かっていた事である筈だ。
 けれど、誰一人として人間らしい死に方とは何かと言う点について考えた者は居なかった。
 合理的、ではあるだろう。だが、その彼らがどの口で正義だの理想だの語るのか。
 キンバレイからすれば滑稽でならない。結局、誰も彼も同じ穴の狢だ。
「人道抱いて溺死するって決めたんでしょう?」
 対話は中座した。『White Fang』との関係はアークがどうとでも繋ぐだろう。
 けれど、あの部隊との協調は絶望的だ。
 最も必要な返答を誰も用意せず、問い掛けしか持たないのでは対話にならない。
 それを見て、何所かですっとした。正義何て語る愚か者は皆不幸になれば良い。 
 ――それが、自己愛の欠如から生まれる“ズレ”だと、彼女が気付く事は決して無い。
 自分よりおとーさんを優先する。それを当然と教えられている彼女には絶対に気付けない。
 他者をまるで塵芥の様に感じるのは必然だ。何故なら彼女は決して自分を愛していない。
 極論それでおとーさんがよろこぶなら、自分がどうなろうと構わない。
 未成熟な自我は他人からの自己肯定を欠損したまま育ち、危うい方向へ逸れ始めている。
 神秘の界隈に於いて人はそれを――逸脱――と呼ぶのだが、彼女はそれに気付いていない。

 内面に沸く苛立ちを持て余したまま、それは燻る灯火の様に。
 それは――混沌の萌芽の様に。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
イージーシナリオ『<黄泉ヶ辻>秩序と混沌』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

任務は卒無く無事成功です。
『White Fang』との関係悪化も交戦レベルまで至っていない為、
然程大きな問題になる程では有りません。約1名の個人的感情除く。
対話には問いと答えのバランスが大切です。

この度は御参加ありがとうございました、またの機会にお逢い致しましょう。