● 固い殻は、過酷な状況に生まれてくる証。 新しい命を生き残らせるために、代々受け継がれる遺伝形質。 D・ホールから転がり出た先は、元いた世界と似ても似つかぬ所。 分厚い土の中の中、卵は夢見る。 この厚い殻を突き破って、外界に触れる日を。 そして、そのときは訪れようとしていた。 ● 「これ、前にも例があるね~。いや、よかった。海外で言葉も通じない人と身振り手振りでやるにはきつい案件だわ」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、資料を配りながら言う。 「え~、みんなには海外に行ってもらいます。南の島だよ。うらやましいね。このこの」 地図でべしべし叩かれているのは、南太平洋の環状諸島の上。 イヴ張りの無表情で言われても嬉しくない。 「この間、この島で崩落事故があってね。幸い、山奥だったから人的被害は無し」 それはよかったと、リベリスタは胸をなでおろす。 「だけど、あまり喜べないんだな、これが。長らく眠りについていた神秘が目を覚ましそう」 モニターに映し出された崖は、いかにも南の島で椰子やらソテツやらの濃い緑が生えている。 「画像がぶれぶれなのは許してね~。衛星から撮った奴だから」 かなりの高さだ。 崖下に転がる、崖の高さの半分を占める楕円形の塊。 岩か? それにしてはやけに幾何学的な形をしている。 「敵は、アザーバイドの卵。どうやら、暖める必要がない。元々生みっぱなしにするタイプ。化石にでもなってくれたらよかったんだけど、生きている。というより、もはや孵化寸前」 それでは、お手元の資料をご覧下さい。といきなり、四門は解説口調になった。 「現時点で、卵からどんな生物が出てくるかは不確定要素が多すぎて予測できない。生まれた状況によって、自分を最適化する傾向がある。前回、同種の案件では個体進化として対策した」 多次元で生き延びる知恵。 場合によっては擬態することもありえる。 「この大きさで、一個。カマキリの卵とかみたいに小さいのがドバッと言う訳じゃない。とてつもなく大きい何かが生まれる。今回も、以前の案件に倣い、複数チームで攻める。みんなの仕事は、外殻。熟する前に、叩き割ってほしいんだぁ。存在が不安定な状態なら、中身チームが戦いやすくなる。当然だけど、大きさに比例して殻も硬い。それから、以前見つかった国内ものと違って、より熱に強い仕様みたい。その辺り考慮しつつ、全力で叩き割ってね」 大きさから想定される厚さ。と言って、イヴは小さく前ならえして見せた。 「孵化までの時間は、最大限15ターン。それ以上は戦闘リソースを使いきっての接触は危険と判断し、即撤収。二分半に心血を注いでください。前回は、回復二の次にして、無事に討ち取ってる」 四門は、ただし。と、言葉を切った。 「向こうの組織も精々寄り合いレベル。不測の事態に陥ったら、とってもとんでもないことになるから、準備は怠らないこと」 それから。と言って、四門は目をそらした。 「場所は非常に辺鄙な島です。飛行機を三つ乗り継ぎ、船に乗って、バスに乗って、ボートに乗って川をさかのぼること三時間くらい? 掛かるから。向こうにつくの、二日か三日掛かるかな。酔い止めとか持ってくといいんじゃないかな」 バックをひっくり返すといつものペッキの他にレトルトご飯とお茶漬けの素、インスタント味噌汁が転がり落ちてきた。 「よかったら、食べてね。いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月19日(火)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「初めての南国っ!」 『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)が、やけ気味に叫ぶ。 (バカンスよりもサバイバルって感じだけど頑張るよ) 時差がほとんどないのが、せめてもの慰めだった。 飛行機が直通便なら半日も掛からぬ距離だろうに、リベリスタを待っていたのは仮眠を取るには短いフライトと長い乗り換え待ち時間。 双葉は、そのたびに秋冬服から、サマードレスとお着替えお着替え。 これも体調を維持するため。年頃の女の子には必要なことねー。着たきりすずめありえないねー。 今は、サバイバル対応長袖長ズボン軍手にブーツだ。 事前にあれこれ調べ上げ、あちこちにメールをして現地組織と打ち合わせをしていた『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)から聞いていなければ、現場につく前にくじけていたかもしれない。 「何より重要なのは旅を楽しむ余裕だろー。体調は精神に左右されっかんなー。折角の南海の孤島の探検をEnjoyだー」 露出度少な目、足元安全靴。正しいジャングル体験ルックの『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は、何も間違っちゃいないが、サービスが足りない。兄ちゃんのせいだ。 最終的には、16人のリベリスタと操縦士でぎちぎちのセスナ機で、島の飛行場という名の小石一杯の空き地に着陸。 今度は、スプリングが突き抜けて尻を貫くのも時間の問題なバスのシートでバウンドすること数時間。 バスの中が霞がかっているのは、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が蚊取り線香を焚いているからだ。 『誠の双剣』新城・拓真(BNE0006449)が涼しい顔をしているのは、ハイバランサーで腰を浮かせているからだ。ずるではない。日ごろの鍛錬の賜物だ。 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)がストレス解消になめていたはずの飴を噛む音が定期的に響いてくる。 絶対に自分で走った方が速いとか思ってるが、そうした場合ジャングルの中で迷子とか面白いことになるのは分かっているのだ。 バスから降ろされたとかと思うと、「水に手を入れないで下さい。ワニ(?)が来ます」と片言の英語と手振りで説明される。 単語自体が方言らしく、AFの翻訳アプリにも、「ワニ?」とか「トカゲ?」とか「主竜類」?」 としか表示されない。 ここで戦闘して戦闘リソースを減らすわけには行かないし、あまりの小船具合に戦闘したらまじヤバイと確信できるモーターボートで川を遡ること三時間。 「わー! わたくしこんな長い時間ボートのるのはじめてですよー!……ゆらゆらす……うっ……」 『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)が口元を押さえた。 『はいたらいけません。危険な??が寄ってきます』 AFに翻訳アプリを入れて来た者たちの顔色が変わる。 「え、あっごめんなさい日本語わかんないですよね!? わたくしも英語わっかんねんだよなあ……うっ」 「はくなっ!」 「エチケット袋っ!」 「それ、僕のリュックぅっ!!」 ただいま、殻割り班に混乱が生じております。少々お待ち下さい。 拓真は、島のリベリスタを見つめた。恋に落ちた訳ではない。心話を試みたのだ。 (バベル程とは言わないが、下手な英語を喋るよりも確実だろう) 『まもなくか』 『まもなくだ』 目は口ほどにものを言う。重々しく頷く拓真の背に、地元リベリスタは憧憬のまなざしを向けた。 『ジャパニーズ・ソードマスター。ヒー・イズ・ケンゴー』 と囁かれることになったのだ。大体合ってる。 リベリスタは来ました、世界の果てまで。というか、ここが世界の真ん中だ。赤道のちょっと下。 「ジュラ……」 恐竜さんがいつコンニチハしてきてもおかしくなさそうな始原の森。 熱くて蒸す。 崖の下。 見上げるばかりの卵が――卵と知らねば隕石みたいな――リベリスタを待っていた。 ● 「これで3度目ー? 多すぎねー! アザーバイドのぜんぜん貴重じゃない産卵シーン!」 岬は叫ぶが、産卵シーンは数万年前に済んでいる。 このタイプの卵に関しては、岬はアークでも最多出動している。 「卵……意外といろんなとこでぐっすりしてたんだね……」 終は、二度目の卵を見上げる。 「擬態するわけだし、こんだけ多いと孵化しちゃってその辺に紛れてんのもいるのかもねー」 岬の言うのにそんな馬鹿なと言えない状況が怖い。 崖の様子をしげしげと見る。 (崩れやすい所とか傾いてるとことか、危ないところはないよねっ☆) すでに崩れるところは崩れきっているようだ。後は、狙いが大幅に外れるようなことがなければ崖が崩落してくることはあるまい。 向こうで、待機している中身班と手が空いている者が、せっせとスコール回避用のテントを建てている。 急速な雨は体温低下と視界の狭窄。何より集中力を奪っていく。対策するに越したことはない。 (あとは薄い所かな) しげしげと殻を見る。 何しろ、この殻は馬鹿みたいに固いのだ。 「あの辺り、多分落下したときのダメージあるんじゃないかと思うんだよね」 終は、ちょうど下になっている部分を指差す。 「転がして、そこを上にすればいけるか」 「下手に上になると、モノがでかいだけ攻撃しにくい」 「下段から跳ね上げればいけるんじゃないか」 「こっちは転がってほしくないから、こっちからあっちだよね☆」 「あの岩陰なら殻が当たらんのじゃないか」 巨大な卵に押しつぶされ、飛び散る殻に切り刻まれることを考えると布陣や攻撃方向についてよくよく話し合わないと無駄な傷を負いかねない。 癒し手は一人で、しかも専門職ではない。回復量は微々たるものだ。 鼻血吹かせるほど治すのは、今日は別チームの固定砲台だ。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 「仲間が最大の能力を発揮するよう頑張るのが、ミラクルナイチンゲールの務めです!」 後衛、お着替え完了。 ジャングルの中に魔法少女(名誉含む)二人。ミスマッチ。 魔法少女枠、かぶった。でも仕方ないのだ。 「着られる服が、ミラクルナイチンゲールのコスチュームしかないやぁ」 不幸な事故で、智夫のリュックの中身は壊滅しました。 智夫は、あはは、あははと力ない笑いを繰り返していた数分前から、何かを吹っ切ったらしい。 「卵の殻を破壊する事を最優先に行動します。具体的には、BSによる火力低下や足場不備による戦力低下に最優先で対処――」 おめめグルグルでも、ミラクルナイチンゲールはクレバーです。 その場にいた全員の背中に仮初めの小さな翼がつく。 おっさんだろうがメンナクだろうが寡黙な剣士だろうが、ピコピコ動くプチエンジェテイストなのが容赦なくつく。 「むしろ卵が硬いっていうのであれば拙者の出番でござる! 拙者の火力が火を吹くでござる!」 おんぶヒモだの、少女な養女のそこはかとなくかわいいものプレゼント攻撃をかいくぐったおっさんは、ちっこい羽根くらいで精神ダメージを食らったりしない。 草が積み重なった不安定な足場を絶妙の平衡感覚で調整しながら、虎鐵が破壊神の加護を呼ぶ。 呼んでいるのは虎鐵ばかりではない。拓真もすでに請願を終え、ソードミラージュはギアを切り替える。 「デデデデデストローイ……」 そう呟く岬の口元には笑みが浮かんでいる。 恐ろしく邪悪な見た目のハルバード・アンタレスは、岬の闘気を瘴気に変え、呪いの刻印を卵の殻に刻み付けるのが目下の仕事だ。 前衛陣の周囲に嵐の前の静けさ。 「紅き血の織り成す黒鎖の響き。其が奏でし葬送曲――」 今時の魔法少女の詠唱は、若干おどろおどろしい。 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 煩雑な詠唱を技量でこなし、双葉の血を媒体に練成された黒の鎖が、巨大な卵の下部に向かって突き刺さる。 卵が不規則な回転を繰り返し、前衛リベリスタを脅かす。 虎鐵がもろに卵にのしかかれる。恐るべき質量が虎鐵の体内を大きく揺さぶる。はらわたからこみ上げてくる血反吐を吐き出し、しかし、召喚された破壊神は、なお立ち、戦えと虎鐵を鼓舞する。 体を戦闘状態に叩き込む為の10秒がとても長く感じる。なのに、戦闘が許されている時間は驚くほど短い。 「何事も暴力で解決するのが一番だー!」 最後の最後に岬が卵が受けた穢れの数を数えるように、ハルバートを取り回す。 正確な打撃が殻の強度が落ちているであろう場所を正確に穿つ。 手ごたえはある。呪いがその内部に浸透していくのを感じる。 回る卵。更に重ねられる卵による圧殺の恐怖。 巻き込まれ、血反吐を吐きつつもリベリスタに撤退の二文字はない。 「かったいなー。でも、ぶち割るぞ、アンタレスー」 ● 『神速』 が卵をねめつけたまま動かない。 圧倒的な技の威力を制御しきるには、まだ鷲祐の動きは荒すぎる。 「オレの取り得は人より多く動ける事。がんがん行くよ!」 アウトレンジから終が地面すれすれを這うように突っ込んでくる。 二本のナイフが卵にむけて突き立てられる。 ダメージは入っているはずだ。にもかかわらず、その見た目は一切変わらない。 じぃんとしびれる二の腕の感覚には確かに覚えがあった。 「この感覚懐かしい……超……堅い……」 卵の圧を受けながら、搾り出す声。 「ひたすら打つべし! 打つべし!」 返す刀で叩き込むナイフに止まる気配は感じられない。ごろりと転がる卵の抵抗はほとんど避けてなお、アークの改良型防具で防ぎきれない威力を秘める。 「状態異常の方、いませんね!? 歌、いきますっ!」 エプロンドレスの背中に純白の羽根。 呼ばれた天使の歌により、痛みが幾分引いていく。 「魔を以って法と成し、法を以って陣と成す――」 妹は要領がいいのだ。威力増幅と効果安定の為の魔法陣を自分の周囲に展開する。 「描く陣にて敵を打ち倒す術は、紅き血の織り成す黒鎖の響き――」 そこからタイムラグを置かずに攻撃魔法の詠唱に入る。 その鎖の後を追うように、ヘルマンが走った。 「さて! ここまでながかったですがっ……そのぶん万感のおもいをこめてぶち蹴りますよー!」 執事のブーツが光って唸る。 「くう、生まれる邪魔をするっていうのはどうにもアレですがこれも我々がいきのびるためなのです……!」 足裏から浸透する闘気が、殻の構造そのものに直接働きかける。 「……うおわあああああころがってきたあああああ」 殻の上にまで駆け上がって踏み割ろうとしていたヘルマンがその不規則な回転に足を滑らせ、それでも転びもせずに陣に戻る。 「流石に硬いでござるが……」 その脇を、およそ無造作に卵に近づく虎鐵。 思い切り振りかぶって卵を斬りつけたように見えた。 「ぶっ潰せなくはないでござるな」 さもありなん。 電光と共に叩きつけられた斬撃は、経験を積んだ前衛さえ一撃で屠れる威力だ。 この場にいる精鋭さえ、まともに食らったら立っていられる者は半分いない。 卵の殻が盛大に辺りに四散する。後衛の双葉や智夫も無傷ではいられない。 「あっ痛いカラ痛いにわとりのたまごのカラでもゆびにささるとわりと痛いのにこんなでっかいたまごのカラなんて死にかねない痛い」 ヘルマンの冗談めいた泣きごと。 実は食らった全員が同じようなことを考えている。素直に言えるヘルマンは、ある意味大物だ。 「ではそこを狙うとしよう」 拓真は一歩進み出た。 デュランダルは、肉体の悲鳴をねじ伏せて進む道だ。 膨張した筋肉は、これから振るわれる暴力を世界に体現させる為のもの。 (先ずはその強固な壁を突く崩す為の布石を手に入れる) 偶発的に起きる「全力以上」を、意図的に起こすからこその神秘。 そのために払う代償は、常人の命を対価とするのと等しいと拓真は気づいているだろうか。 使うたび、彼の中で常人が一人死ぬ。 双剣が卵の殻を穿ち、激しく殻が周囲に飛び散る。 内側からの負荷と、外部からの負傷。 思いの他、きつい戦いになりそうだった。 天使の歌は確かに効力を発しているというのに、自分の鼓動ばかりがやかましい耳ではひどく遠くに聞こえた。 ● 荒ぶる蜥蜴が生み出した技は、おそろしく制御が困難だ。 結果、まともに技を発動させたければ、鷲祐は無言の集中を余儀なくされる。 重ねられた集中と、動かない卵。 これで当たらなければ、今日は背中に疫病神をしょっているということになる。 「正確に狙う技量はないし、そんな必要もない。今はただ只管に打つ!」 音速の壁が砕かれるとき、それは百万の刃となって敵を切り刻む。その様、さながら竜鱗細工。 不可視の鱗と可視の殻が交錯し、辺りはクレイモアが爆発したに等しい惨状だ。 ミラクルナイチンゲールは、休む暇もない。 (回復も付与も必要なければ、ミラクルナイチンゲールフラッシュと思っていたんですけど……) 常に、唇は高位存在に誓願しっぱなしだ。 聖戦の鎧の加護も付与する暇もない。 1ターンに二度攻撃するのを行動の軸としている鷲祐、終、双葉の三人の誰かは必ず二回攻撃している。結果、卵の報復の回数も増える。 「内薙くん、インチャを!」 鷲祐が魔力枯渇を訴えたのは、中盤。 彼の魔力は、竜鱗細工がごっそり持っていってしまった。 最大火力の大技は、恐ろしく魔力を消費する。普遍化されていないなら、なおのことだ。 あり得ない神秘ほど、具現化されるのに代償が要る。 「みなさん、ちょっとの間だけ持ちこたえて下さいね!」 破壊最優先ということは、ダメージソースを有効に回すためならば回復は二の次にするということだ。 『仲間が最大の能力を発揮するよう頑張る』 ためには、時として厳しい判断が必要になる。 「大丈夫」 智夫に答える声は、双葉が自分自身で思っているよりか細かった。 治しきれない傷が蓄積され、致命傷になりかけている。 表面上、傷はふさがれているが、失った血は双葉の命を削るには十分な量だ。 (汗臭そうだから水浴びしたいけど厳しいかな……) 川にはワニだかトカゲだかがいるのだ。 (ブルーシートを枝から垂らしてって可能ならやって入りたい) 朦朧とする意識。飛んでくる殻。双葉の技量ではよけ切れない。 体中に、穴が開く。殻の粒子がのどを痛める。咳に血が混じっているのが不快だ。詠唱が滑らかに出来なくなるではないか。 「――まだ倒れられないって言ってるでしょ」 次女は要領がいいのだ。恩寵を磨り潰し、もう一分足らず立ち続けて見せよう。 双葉だけではない。 前衛で、卵に轢かれ、自らの技の代償を払い続けている拓真と虎鐵も満身創痍だ。 外殻の破壊は恐ろしく順調に進んでいるが、それに輪をかけてリベリスタの損耗が激しい。 恩寵を磨り潰し、生命力を炉にくべる。デュランダルは、諸刃の刃だ。 破壊神は、剣士の体を破壊して、彼らを天上で愛でたいらしい。 魔力だけは供給され、魔力枯渇で止まることすら許さない赤い靴のようだ。 ある意味最も優しくない癒し手が、卵の割れ具合を確かめる。 「損耗率、75%です! 一気に畳み掛けないと、後に続く方にご迷惑をかけることになっちゃいます!」 割れるか割れないか、誰かが倒れたら危ない。遮二無二全力で叩き割れ。 「これが最後の回復! ラストまで魔力持たない人も言って下さい! その補填が終わり次第、後は攻撃に専念します!」 柔らかな口調と裏腹に、要求は苛烈だ。 後は自力で何とかしろということだ。恩寵を使うのは織り込み済み。 しかし、三日もかけてこんなところまできたのは何のためだ。酔い止めで胃を痛めながら来たのは何のためだ。 この卵をぶち割って、中身を掻き出してやるためだ。 「俺もデュランダルとして己の一撃には矜持を持っている。故に、例えどれだけ堅かろうと──その防御、打ち砕く! 一撃で足りぬなら、何度でもぶつけてやる!」 虎鐵は、効率的に移動して、殻と中身の間に電撃をしみこませるように剣で殻をなぎ払う。 「拙者の強みは燃費のよさでござるからな。もとより攻撃しか考ええてないでござるよ!」 拓真が振りかぶる。 「これで終わりだ!」 然り、そうあれかし。 ● 黄身割り班の後は任せろという声を聞きながら、リベリスタは戦闘区域外にでる。 「ミラクルナイチンゲールは、勤めを果たしましたぁ」 駆け寄ってきて、癒やしてくれる南方美人がブロマイドを差し出した。 「何で、これ。送られてきた?」 そんなもの、アークは送っていない。 南方美人はポケットを探るが、目当てのものがないらしい。 「……世話になったな」 鷲祐はお土産のアークボールペンセットを差し出した。日本製は世界中で喜ばれる。 南方美人は、にっこり笑って智夫にそれを握らせると、「サイン、プリーズ」と言った。 技を酷使しすぎた拓真は、声もない。 死相がでている。うっかり擦り傷でもこしらえたら、死神が嬉々としてよってきそうな有様だ。 「さて、拙者達はここまででござるな……後は頼んだでござるよ」 虎鐵は、そう言って戦闘領域から外れる。 「バカンスして帰りたい……」 双葉が魔力すっかすかの空虚さを感じながらそう呟く。 「うあああん、はやく日本にかえりたいよおー!」 生活年齢五歳のヘルマンが、戦闘から開放されて一気に何かが放出して泣き出した。 それは、この後の黄身割り班に掛かっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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