● 「あー、なあ、肉助、どうするよ?」 「んなの決まってるだろ。あんな壊れた玩具じゃ遊べねえよ」 主流七派が一つ『閉鎖主義』の黄泉ヶ辻のフィクサードである『臓物屋』モツ兵衛と『肉屋』肉助は、彼等が不当に占拠した臨時のアジトである閉鎖された工場内で、気だるげな吐息を吐く。 ふと思いついたように立ち上がった肉助は、地に転がる裸の女性、床の汚れと体液でベタベタになった『ラブドール』彩加の頭に蹴りを入れるが、彼女は僅かに呻くばかりで彼の望む反応は返さない。 「これもそろそろ限界だな」 「アザミちゃん側でトラブルあったらしいからな。てーか、じゃあもう俺等のメリットってマジなんもねえじゃん」 肉助の言葉にモツ兵衛は口にタバコを咥えながら、これからの身の振り方に関して思考を廻らせる。 黄泉ヶ辻糾未に付いて様々任をこなす事でそれなりに美味しい思いをしてきたけれど、彼女はもう壊れてしまったのだから付き従う事に意味は無い。 かといって糾未を見捨てて唯黄泉ヶ辻に残るのも微妙である。出来損ないの壊れた玩具とは言え、糾未は仮にも黄泉ヶ辻が首領の身内だったのだ。 彼等の長の気まぐれな牙がこちらに向かぬとは、絶対には言い切れない。 「つまり俺等の取るべき道は一つしかない訳だが、どうせならでかい所が良いよな。コレ直せるかも知れないし」 モツ兵衛の思考を読んだ様な言葉を吐いて、肉助は彩加の背中を踏みつける。 「でかいとこ、なあ。俺等が潜りこめるったら六道か裏野部か。直せそうなのは六道っぽいけどな、あそこって確か首領の妹が海外に逃げたらしいからな」 「それに比べりゃ裏野部の首領の娘は軽そうで食いやすそうって話だよな」 何処に行っても彼等は自分達が馴染めないのは判っていた。 黄泉ヶ辻の内部に居る時でさえ、肉助もモツ兵衛も、相棒である互いを除いては他のフィクサード達が気持ち悪くてうざったくて仕方なかったのだ。 こんなふざけた偽名を名乗ってまであの組織にもぐりこんでいたのは、唯力を求めて、利益を求めて、安易に美味しい思いをしたくて、我慢して寄生していただけに過ぎない。 六道だろうが裏野部だろうがどうせ大差は無いだろう。それなら少しでも美味しそうな方を選ぶべきだ。 何処でも変わらない、逃げる先、寄生する先を選ぶのに大した理由なんて要らない。 「裏野部の知り合いっつったらアイツか。じゃあ、ま、連絡してみますかね」 ● 「さて諸君、今日の任務を伝えよう」 集まったリベリスタを見回し、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。 「ある<黄泉ヶ辻>のフィクサード達が組織を抜けて<裏野部>に合流しようとしている」 車椅子の肘掛を指でコツコツと叩き、逆貫は慎重に言葉を選ぶ。 この国の闇である7つの巨大フィクサード組織主流七派。中でも特に何を仕出かすか判らなかったり、単純に危険度が高いのが『閉鎖主義』黄泉ヶ辻と『過激派』裏野部の2つだ。 「まあ如何に七派が絡むとは言え、フィクサードの足抜けや組織の移籍話等に首を突っ込む必要は無いのだが……、さて今回問題となるのはそのフィクサードが『黄泉ヶ辻糾未』の事件に出ていた改造型ノーフェイスを裏野部に持ち込もうとしている事だ」 手土産の心算なのか、それとも別の目的があるのかは判らないが、外道の類に属する技術の成果が一端であれ裏野部の手に渡って良い事など一つも無い。 リベリスタ達の瞳に理解の色が浮かぶのを確認し、逆貫は一つ頷く。 「足抜けをしようとする連中が潜む閉鎖された工場に、裏野部のフィクサード達が迎えを寄越す手はずとなっている。まとめて殲滅するにはやって来る裏野部フィクサード達の数は些か多く、そして我々がすぐさまに派遣できる人数は限られている」 そのすぐさまに派遣できる、動ける人数と言うのが、今このブリーフィングルームに集まったメンバーの事なのだろう 「諸君等には裏野部の連中が到着する前に工場内のフィクサードの撃破か、改良型のノーフェイス、或いはそのコントロールアイテムの破壊を行なって貰う」 状況は些か厳しい。時間制限のある、相手のホームでの戦い。 一人一人の顔を見詰め、逆貫が問う。 「諸君、やってくれるか?」 資料 フィクサード1:『臓物屋』モツ兵衛 黄泉ヶ辻に所属する男性フィクサード。人間の解体作業に非常に長けている。 所持EXスキルは『モツ抜き』。所持アーティファクトは『カオマニー』。 フィクサード2:『肉屋』肉助 黄泉ヶ辻に所属する男性フィクサード。人間の解体作業に非常に長けている。 所持EXはスキルは『The・肉』。所持アーティファクトは『カオマニー』。 特別製ハッピードール×3:ラブドール・彩加、ラブドール・佳美、ラブドール・早苗。 酷く汚れてしまっている美少女達。ただし全裸でノーフェイス。 ハッピードールの中から見目の良い物をモツ兵衛が好みで見繕い、特別な術式を組み込み更に強化した。フェーズは2。 限界が近い為に性能は低下しているが、暴走状態と成る事でダメージと引き換えに一時的に元の性能を取り戻す事がある。 ・ブレインキラー:近単、物防無、虚弱 ・ブレインバインド:遠単、ショック、麻痺 ・ブレインショック改:遠2複、混乱 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月18日(月)23:04 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 因果応報。 行いは廻り廻って其の身に返る。 悪徳を積み重ねた咎人は、いつか必ずその報いを受けるだろう。 果たしてその言葉を投げ掛けられたのは何時だったか。 素手で人をバラせる術を覚えたばかりの頃に、気まぐれで押し入った寺の僧侶の言葉だった。 精進料理ばっかり喰ってる奴の内臓の色はどんな色をしているのだろうとか、そんな下らない興味からの行動だった筈だけど、坊主の肉の色はもう忘れたけれどその言葉だけは今も耳の奥底に残っていた。 馬鹿馬鹿しい、と不意に思い出した肉助は嗤う。 今までさんざ相棒と一緒に暴れたが、報いらしい報いを受けた事は無い。 廻った因果に捕まる奴は、きっと運が悪いか要領が悪いか、それとも単に弱いかだ。 凡人とは違って運命に愛され、狡賢く、そして力もある自分達には全く関係の無い話。 投げ棄てていた衣服を身に付けながら、肉助はこの後に待つ未来を自分に都合良く夢想する。 けれど積もりに積もった悪徳は最大の報いを呼び寄せた。 アークのリベリスタと言う、世界の主人公である彼等を。 ● 「任務を開始する」 工場内に冷たく響いた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の言葉を合図にその戦闘は始まった。 軋む身体を動かして立ちはだかる全裸の美少女、ノーフェイス・ラブドール達の姿にも眉根一つ動かさず、リベリスタ達は交戦状態へと突入する。 挨拶代わりに視界を白く焼いたは神気閃光。ラブドール、フィクサード達、全てを巻き込んだ『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の白の鉄槌。 「久しぶりだね。借りを返しに来たよ。さあ、バラし合いを始めよう?」 障害の前に足を止めた前衛達……、否、彼等、彼女等はわざとタイミングをずらして足を止めたのだけれども、その前衛達を追い越してフィクサードに伸びるは魔力と殺意で作られた光の柱、スターダストブレイカーを放つは『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)だ。 嘗て虎美と相対した列車での戦いでは銃弾をも素手で払った肉助、モツ兵衛の2人だが、流石にこの技は素手で受け止める訳にもいかず、掠めた光柱の余波に身を焼かれつつも身を翻して直撃を避けた。 けれどフィクサード達の顔に浮かぶのは痛みによる苦痛ではなく……、疑問だ。 「……あー、誰よお前?」 決して余裕がある訳では無くとも、肉助がどうしても問わずには居られなかったその疑問。 そもそも他人を自らの欲を満たす為の道具としか思わぬ彼等が敵対者の顔を覚える事自体あまりある事では無いのだが、だが流石に過去にこのレベルの攻撃を受けていれば印象くらいには残っている筈だったから。 列車での戦いで攻撃スタイルを封印する事になっていた虎美を蹂躙した事等すっかり忘れているフィクサード達に、彼女の眉根が僅かに歪む。 「まあ誰でも良くね。このレベルの女なら誰だって大歓迎だ。迎えが来るまでの暇つぶしにグチャグチャにして遊ぼうぜ」 肉助の言葉を引き継いだのはモツ兵衛。その値踏みする様な視線は虎美だけでなく、やって来たリベリスタの女性達に等しく注がれている。 身体を弄び、内臓を抜き取って眼前で潰して、内も外も心までをもグチャグチャに。 中でも特に視線が熱を帯びたのは『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)に向けられた時だ。異世界からの来訪者である女性型アザーバイド・フュリエである彼女は、肉助やモツ兵衛にとっては大層珍しい珍味に見えるのだろう。 しかしそのゲスな物言いはかえって虎美の心を冷静にした。以前の戦いでモツ兵衛の手によって体内を引き裂かれた、蹂躙された感触がゾワリと反芻される。 忘れようも無い気持ちの悪さが呼び覚ます怒りは、熱を帯びず酷く冷たい。 忘れているならそれも良い。どうせ今日で永久の別れとなるのだから。 ならば最後にせめて、 「虎美の本気を見せてあげるっ」 虎美の構える2丁の銃が、ギラリと輝く。 宙を裂いて乾坤圏、乾元山金光洞の宝貝の名を冠する2対の白い腕輪が飛ぶ。 神速の腕の振りが生み出す抜き撃ちの技、嘗て2人のフィクサード達と相対した時よりも更に高められた『無銘』熾竜”Seraph”伊吹(BNE004197)の速射はバウンティショット『スーパー』スペシャル、B-SSSへと達している。 伊吹が彼等の顔を見るのはこれで3度目だが、その心根の醜悪さが相も変わらずである事には最早溜息しか出ない。 黄泉ヶ辻の次に裏野部を選ぶ節操の無さ。利用価値の無くなった黄泉ヶ辻糾未をあっさりと見捨てる彼等の様は、そう、醜悪と呼ぶ他に言い様が見当たらぬ。 伊吹はこの戦いに臨むにあたって一つ心に決めている。 黄泉ヶ辻糾未は非道にして外道の娘。その行いを肯定することは到底出来そうにも無いが、けれどそこに至る経緯には、伊吹は同情を覚えていた。 離れて暮らす娘を持つせいだろうか? 見た目よりもずっと年を重ねている伊吹は年頃の娘に少し甘い。 今更糾未を救い出せるとは思わぬけれど、それでも1人黄泉路を歩くのは大層寂しい事だろう。 故に、手向けにこの眼前の2人のフィクサード達も共に黄泉路の共連れにしてやろうと伊吹は拳に力をこめた。 こんな騒がしいゲスの共連れはきっと誰も望みはしないのだけど、その辺りは伊吹の少しずれた所である。 白い指先が踊る。 フュリエであるルナには先程のモツ兵衛の視線の真の意味はわからねど、それが酷く悪い性質の物である事だけは感じ取れた。 ルナは肉助とモツ兵衛、2人のフィクサードとは初めて顔を合わしたが、ここで逃がせばまた誰かがきっと悲しむと確信を持つ。 なら戦う理由はそれで充分だ。 眼差しに力がこもる、翳した指先から世界に魔力が広がっていく。 道を阻まれた前衛達が、悪意の元へと辿り着けるように、切り開くのがルナの役割。 「ディアナ、セレネ。――行くよっ!」 傍らを舞うフィアキィ達に声をかけ、発動させるはエル・バーストブレイク、ルナの声に応えて天より降り注ぎ炸裂する火炎弾は、狙い違わずラブドール達を捉えて弾き、前衛達の眼前を抉じ開ける。 ルナの攻撃で敵を崩せた時間はほんの数秒。だが神秘の力を活用して戦うリベリスタ達にはその数秒で充分だ。 敵戦列に穴が開く事を確信し、待機していた前衛の2人が強引に出来た穴を突破して悪意の元、2人のフィクサードへと肉迫していく。 ● けれどそう、戦いはここからが本番である。 リベリスタ達の一連の攻撃にその戦力を脅威と見做した2人のフィクサードがカオマニーを使ってラブドールを故意に暴走させたのだ。 だがこれは肉助やモツ兵衛にとっても本来であれば避けたい手段だった。 ラブドールが限界を迎えつつあった最大の要因は、コントローラーであるカオマニーの劣化である。 アークにより、母体アーティファクトであるヘテロクロミアを破壊されたカオマニーは力の補充を受ける事が不可能となった。 コントローラーの出力が乏しければ当然の様に操り人形の性能も落ちてしまう。ラブドール自身へのダメージも省みない、細かな操作等必要としない暴走状態になれば嘗ての性能を取り戻せるとは言え、……暴走の引き金を引いて更に力を失ったカオマニーが戦闘終了後にラブドール達を停止させれるかどうかは非常に怪しい。 常の肉助やモツ兵衛ならばこの様な状態になれば人形達に足止めを命じてさっさと逃走に移る所だが、今回ばかりはそうもいかない。 1つは面子の問題で、もう一つは彼等の欲がそうさせた。 裏野部の連中が迎えを寄越すのはこのアジトだ。まさか迎えを放って敵から逃げたとあれば無事に裏野部に移籍出来たとしても2人は大きく軽んじられるだろう。 そしてそもそも此処から逃げたとしても2人は裏野部の組織の在り処を未だ教えて貰っていない。迎えとは、安易に組織の所在を広めぬ為の処置でもあるのだ。 それにもうラブドールやカオマニーは幾らでも補充の利く消耗品ではなく、例え使い物にならなくなったとしてもその技術は裏野部への手土産だ。 つまりは、2人のフィクサード達からしてもリベリスタを撃退するより他に道は無い。 常に要領よく、必要以上の危険を避けて美味しい所だけをつまみ食いし、報いから逃げて来た彼等に初めて選択の余地がなくなったのだ。 暴走したラブドール達の猛攻に、虎美やルナ、攻撃は得手とすれど防御に回れば脆いとすら言える後衛達が悲鳴や苦痛の呻きを洩らす。 麻痺や混乱を撒き散らし、近寄れば防御すら無視する暴走ラブドール達の攻撃は非常に厄介でその危険度は侮れない。 だが事この段階に至っては、今更危険度が高いからとフィクサード狙いの目的を切り替える訳にも当然行かない。 既に賽は投げられたのだ 「つかみ合える距離だ。得意だろう?」 ウラジミールの言葉に、肉助が鬱陶しそうに顔を歪める。 嗚呼、此れも互いに見知った顔なのだ。以前の村の戦いで、しつこくしつこくしつこくしつこく肉助に張り付いた、まるで映画に出てくるサイボーグの様なウラジミールは、まあ当然の様に肉助には嫌われていた。 苦痛に顔を歪めるでもなく、機械の様に的確に、けれど時には危険度をまるで度外視して相打ちを狙って来るウラジミール。 肉助は暴力を振るうのは好きだが別段スリリングなバトルを求めている訳では無い。後ろには美味そうな、嬲りがいのありそうな女性達が並んでいるのに、何が哀しくてこんな機械みたいな中年の相手をせねばならんのか。 だがウラジミールの圧力が肉助の意識を他所へとは向かせない。 肉迫した2人の能力者がぶつかり合う。 筋肉を千切ろうと伸ばした肉助の手がナイフに貫かれ、けれども代価にウラジミールも手の筋を切られ、薄汚れた廃工場の床を血が赤く染めていく。 「そろそろ幕引きといきましょうか」 一方モツ兵衛の相手は華やかだったと言えるだろう。『荊棘鋼鉄』三島・五月(BNE002662)の言葉にモツ兵衛は歪んだ笑みを浮かべる。 解体のプロでもあるモツ兵衛は一見女性にしか見えない五月の性別を見破っていた。 例え華奢で女顔であろうとも、骨格に嘘はつけず、歩き方にも特徴は出る。格好は兎も角五月にそれを隠す心算は無いのだから尚更だ。 けれど五月の性別を正確に見破っても尚、モツ兵衛が向ける獣染みた欲求の目は変わらない。 モツ兵衛の意図を察したのだろうか、五月の眉が不快げに顰められる。 じわり、じわりと彼我の距離は縮まるが、互いに未だ手は出さず。五月もモツ兵衛も得意とする戦闘距離が同じ為、不用意には飛び込めないのだ。 しかしそれは静かではあれど薄氷を渡るかの如き緊張感を孕む。或いは火薬庫での火遊びか。 互いの息が届く距離、先んじたのは五月。彼の腕が焔に包まれ、宙を焼く。 既に両者必殺の距離だ。一度始まってしまえば爆発は激しい。 ● リベリスタ達にとって最大の障害となったのは、ラブドールのばら撒くブレインショック改だ。 絶対者であるウラジミールや、揺るがぬ精神を持つルナは兎も角、その他の面子は油断すれば脳を揺さぶられて混乱に囚われる。 ルナのグリーンノアが異常を払うも、それとて確実な手段と呼ぶには程遠い。 混乱に連携を崩されれば作戦は機能せず、攻撃は後回しに状況の建て直しを強いられる。 一方ラブドールにも暴走の反動は著しく、無理な機動は彼女達の体を瞬く間にボロボロにしていく。 泥沼の様に互いに消耗を強いられる戦い。それがそのまま続けばどちらが勝つかは判らぬにせよ、後に訪れる裏野部の存在を考えればリベリスタ達が窮地に陥る事は間違いないように思われた。 けれどもだ。精神を揺るがし支配する事が出来るのは、何もラブドールだけでは無い。 勝負の決め手となったのは……。 レイチェルの眼前に迫ったモツ兵衛は、例え外道であれ矢張り彼も運命に愛された者なのだろう、よりにもよってこのタイミング、五月がラブドールからの混乱を受けたこの時にダブルアクションによる追加行動を得たのだ。 「久しぶりだな糸女。もう逃がさねえ」 舌なめずりと共に繰り出された最初の一撃は腹に。右の抜き手がレイチェルの下腹部に突き刺さり、腹腔内を指がまさぐる。それは少しでも多くの痛みを引き出す為に、まるで愛撫の如く執拗に。 そして追加行動で繰り出された左の抜き手は、此れも恐らく間違いなくわざとであるが、レイチェルのスレンダーな乳房を突き破って肺へと達した。 暴力に、引き裂く肉と内臓の感触に、喜びに歪むモツ兵衛の表情。並みの相手なら、決して頑丈そうに見えぬレイチェルならば、間違いなく戦闘不能、下手をすれば死に至るであろうその攻撃。 何、別に死んでも構いはしないのだ。死体は死体で遊びよう位はあるのだから。 生きていようが死んでいようが、他人が使い捨ての遊び道具である事に違いは無い。 ……けれど、モツ兵衛が運命の加護を持つなら、レイチェルもまた同じくだ。 「相変わらずのようで……。安心しましたよ、これなら気持ちよく殺せそうだ」 肺を潰され、溢れ出る鮮血を口から零しながらもレイチェルは言葉を紡ぐ。運命を対価にした踏み止まりで倒れる事を拒絶しながら。 レイチェルの声音にモツ兵衛の背中を怖気が走る。 決して相手を侮っていた訳ではないが、それでもレイチェルはモツ兵衛の見積もりを越えて来た。 そしてその事実に気付こうと、もう既に時は遅い。 この距離はモツ兵衛の必殺の間合いであると同時に、レイチェルの奥の手の間合いでもあるのだから。 「貴方の動きは見えています。……逃がさない」 黒猫の爪は獲物を逃がさない。 常識を超えて研ぎ澄まされた精密な一撃は魔性すら秘める。 意識を絡め取って魅惑するはルーラータイム。呪いの様に染み込み離れぬ支配者の技。 へばり付いた魅了をモツ兵衛が払えたのは、数十秒後の事。 そしてそれは、勝敗を決定付けるには充分過ぎる時間と効果であった。 ● 相棒の様子に肉助は即座に撤退を決意する。 裏野部に参入する事よりも命が大事だ。新しいラブドールを作って欲求を満たしたいけど矢張り命が大事だ。 モツ兵衛は、黄泉ヶ辻でも、そしてこれまでの人生でも唯一と言って良い気の合う相手だったが、それでも所詮は他人で自分の命と引き換えには出来ない。 素の状態のモツ兵衛と肉助はほぼ同等の能力の持ち主。眼前のウラジミールが逃亡阻止に動いたとしても、全てを捨てて全力で逃げに徹すれば他のリベリスタ達からも逃げ切る事は可能だろう。 ……と、肉助が考えた瞬間の出来事だった。 ルナのエル・バーストブレイクに弾かれたラブドールの1体、早苗と名付けた、肉助のお気に入りだったそれが彼の体にしがみ付く。 勿論それは偶然だ。ルナは計算して早苗を弾き飛ばした訳ではなく、暴走状態の早苗も肉助が近場に居たからしがみ付いただけで、そこに居るのが別の誰かでも同じ事をしただろうけど……。 壊れかけの彼女は潰れた右目から液体を流し、より一層強く肉助の体を抱き締める。 肉助が彼女を壊しつくし、その抱擁から逃れた時には、伊吹が、ウラジミールが、そして五月にレイチェルが、遠巻きに彼を囲んでいた。 虎美の銃口がこちらを向いている。そして魅了に捕らわれたままに近付いて来るモツ兵衛の腕が、廻りに廻って遂に訪れた報いが、肉助の胸を貫いた。 因果応報。 行いは廻り廻って其の身に返る。 悪徳を積み重ねた咎人は、いつか必ずその報いを受けるだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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