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<黒い太陽>外科手術的幸福論

●小生才気煥発的大提案!
 悪い所は全部取ってしまえばいい。
 うん、何も心配する事はない。取ってしまえば解決だから!


                        ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ

●ブリーフィング
「人間は難しい」
『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア (nBNE001000) が呟いたしみじみとした一言は少なからずブリーフィングのリベリスタの『嫌な予感』を刺激する一役を買うものだった。
「人間は難しい。不要と思ったものがそうではなかったり、憎らしいものが愛しかったり。ゼロと一で構成出来るデジタル程簡単なら『曖昧な迷い』何てものも生まれたりはしないのに――さて、今日の仕事はそんな前置きが似合う内容ですよ」
 言わずもがなの台詞にリベリスタは苦笑した。
 何処まで本気かは知れないが、憂鬱そうな魔女の表情は余り見たいものではない。大事な一線が何処か壊れているような女がそんな顔をするならば、大多数の彼女より正常な人間からすればそれはいい知らせではないからだ。
「皆様にはあるアーティファクトの破壊か回収をお願いしたく。アーティファクトの名前は『<切除のブローチ(げかしゅじゅつてきこうふくろん)>』。紫色の大きな宝石の嵌った古いブローチです。製作者の銘はW・P」
「それきたことか」とリベリスタは合点が入った顔である。W・Pの刻印は神秘業界――アーティファクト業界では名の知れた『名匠』のサインである。アシュレイと同じバロックナイツにその名を置く天才魔術師ウィルモフ・ペリーシュは使えば必ず破滅を引き寄せるとも言われる程の悪辣な品を作り続け、好事家達に絶賛を受ける些か困った男なのだった。アークのリベリスタ達も今までに幾つかのW・Pシリーズと関わっているが『使用者(ぎせいしゃ)』が辿った顛末は積極的に語りたくなるものばかりではない。
「どんな品なんだ?」
「嫌なものを使用者から切除してくれるアイテムです」
「切除?」
「はい。使用者が嫌だと感じた存在と本人のそこに纏わる記憶を抜本的に消し去ります。消し去るって言っても、まぁ――この国で言う呪いや式神の使役に近いんですけど。例えば使用者に嫌いな同僚が居たとしますよね。そうしたら、まぁ――本人が寝ている間にブローチが『何とかしてくれる』訳です。後腐れないように本人の記憶も消して『無かった事になる』」
「……本人のものが消えた所で影響は出るだろう?」
「勿論。ですが、本人は完全に忘れているのでまぁ――何とも言えない話ですね。奇妙さや不自然さを感じる事もあるかも知れませんが、それが『嫌な事』ならそれも何れは消える訳で。W・Pシリーズの常ですが、所謂これはインテリジェンスアイテム(いしをもったどうぐ)なのでその辺は抜かりは無いでしょう」
 アシュレイの説明にリベリスタは小さく頷いた。
 そして、問題の核心に踏み込んだ。
「……で、どの辺りがペリーシュらしい?」
「薄々想像はついているかも知れませんが『際限が無い事』です」
 端的に答えたアシュレイはその後に説明を付け加える。
「人間は難しい。人間はいい事も悪い事も含めて自分を構成します。
 例えば普段は良い事でも時に悪い事にもなりますし、逆も然りです。『切除のブローチ』の外科的処置はその区別をつけないんですねぇ」
「……分かりやすく言えよ」
「はい。例えば凄く優しい両親がいるとしますよね。一人娘の少女はその両親が大好きだったとします。けれど父親は仕事の出張で約束していた少女のピアノの発表会を見に行く事が出来なかった……パパなんて大嫌い!」
「……」
「これでバッドエンドが成立するアイテムって訳ですよ。
 そして、丁度例の通りですが、このアイテムを現在手にしているのは小学六年生の少女な訳です、はい。クラスメイトやら先生が何人か『外科処置』済みなのが何ともはや……困った話な訳で」
 アシュレイの言葉にリベリスタは渋い顔をした。
 何事の区別もつけずに『切除』を行うブローチはひょっとしたらば――
「使用者自身も例外ではありませんから、その点はお忘れなく。
『外科的処置』で彼女は幸福ですが、真実を正しく伝え、理解させれば彼女自身が『切除』の範囲に含まれる可能性は否めません。まぁ、強い自立型とは言え、道具である以上は持ち主が居た方が『切除のブローチ』もより能力を発揮しやすいとは思いますから――いっそ少女を『切除』するのもありかと思わなくも無いですが。あ、これフィクサード的発想ですかね?」
 コロコロ笑うアシュレイに答え難いリベリスタの仕事は難しい。
 果たして何をどうするのが『正解』なのか――本人次第は否めまい。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月15日(金)23:45
 YAMIDEITEIっす。
<黒い太陽>はアーティファクトクリエイター『ウィルモフ・ペリーシュ』の作品に纏わる事件を取り扱ったシリーズでこの話も含め個々の話に殆ど連続性はありませんが、興味がある場合は過去作を参照すると若干参考になるかも知れません。
 以下詳細。

●任務達成条件
・アーティファクト『<切除のブローチ(げかしゅじゅつてきこうふくろん)>』の破壊か回収

●放課後の公園
 時間を置く事と新たな被害が出るリスクを天秤にかけた時の任務遂行の推奨タイミング。現場はそこそこの公園。『切除のブローチ』の持ち主である野瀬りりかが一人になる、任務を遂行するに最も都合のいい状況。『24、The World』による占い結果です。一般人対策は日のある時間なので推奨。

●野瀬りりか
 小学六年生。
 優しい両親を持ち、それなりに良い子に育った女の子。
 性格的には若干内向的なので友達が少ないです。
 特別な覚悟を持つ生まれでもなければ、天使のように全てに潔白な訳でもない極々普通の思春期の少女。少し夢見がちな所があり、偶然手に入れた『優しいブローチ』をテレビアニメの中の出来事のように(好意的に見て)受け入れています。

●『<切除のブローチ(げかしゅじゅつてきこうふくろん)>』
 W・Pの刻印を持つ紫石の嵌った古い大きなブローチ。『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュの作品で使用者の『嫌な事』を取り除く力を持ちます。取り除くとは言ってもアーティファクトが発生させる擬似的なエリューション・フォースが『物理的に消えるまで斬り刻む』という手段を取りますので、誰でも何でもすぐに消滅するという訳ではありません。意志を持ったアイテムでりりかに甘言を囁き『使用者』にしている状態です。自立性の高い作品で自律的に動き、戦う事も出来ますが『使用者の有無』は能力を上下します。
 以下、攻撃能力等詳細。

・斬殺メスを毎ターン開始時5~20召還する。(オート。手番消費なし)
・行動不能系バッドステータスの無効
・真空刃(神遠域・出血・流血・失血・致命)
・個別解体(神近単・弱点・連・超CT)
・EX 快哉絶賛才気煥発的大手術!

●斬殺メス
『切除のブローチ』が作り出す使役エリューション・フォース。
 空中を浮遊する鋭利なメス。速度命中回避攻撃力に比較的優れます。
 又、基本的に攻撃する性能しか持たず庇う等の特殊動作を行いません。
 擬似的存在で一定時間で消滅しますが、戦闘中に消滅する事はありません。『切除のブローチ』が破壊された場合、全ての斬殺メスは消滅します。
 以下、攻撃能力等詳細。

・斬殺メスはその場に存在する数が多い程攻撃力が高くなる。
・斬撃(物近単・流血・CT)
・刺突(物近単・致命・CT)


 割と真面目に戦闘シナリオでもあるので注意。
 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
★MVP
クロスイージス
大御堂 彩花(BNE000609)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ナイトクリーク
折片 蒔朗(BNE004200)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)

●Twinkle Twinkle Lettle star
 もし願いが叶うなら――嗚呼、辛い事なんて何も無い世界になればいいのに!


                        ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ

●承前
 人生には幸福の二倍の不幸があると言ったのは誰だっただろうか。
 この世界に生を受けたその時から始まる『不公平』はその些か暗鬱なる価値観を万人に肯定する事はあるまい。
 成る程、世の中には全てを持ちながら生まれてきて幸福の内に生涯を終える人間も居る事だろう。さりとてそんな例外はこの星に六十億以上を数える人間を見回した所で一握り中の一握りに過ぎまい。
 多くの人間は自分が持ち切れない程の荷物を抱えて歩いている。人生はままならぬからこそ人生で、大なり小なり己を誤魔化さずに生きていける人間は――幸福なのだろうが、何処か冗談めいている。
「……気に入らないね」
 故に――夕暮れの公園のブランコに揺られるその少女を見た時。
「気に入らない。人生に悪い事も大切だとかは思わないし、無い方が良いに決まってるけど。それを言ってる奴の事がね」
 半ば無意識の内にポツリと呟いた『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)の一言は、恐らく人間が人間として生まれついたが故に考えなくてはならぬ『業』と決して無関係ではあるまい。
 ロアンを含めたアークのリベリスタ十名が今日受けた依頼はとあるアーティファクトの破壊回収任務であった。W・P――つまり『黒い太陽』の異名を持つウィルモフ・ペリーシュの名を刻まれたそれの名を<切除のブローチ(げかしゅじゅつてきこうふくろん)>という。所有者の嫌うものを文字通り物理的に『消失』させ、所有者の記憶すらも改変するこのアイテムは『不完全な外科手術のツギハギによって主人の望まぬものを切除する』という効力を持っている。アシュレイの言によれば古来より日本で行われてきた呪詛のメカニズムにも近いというそれは丑の刻参りに代表されるそれ等が『式神』を使役するのと同じように対象を害するという。
「本当に悪魔の甘言というものがあるならば、ウィルモフ・ペリーシュの破界器に他ならないわ」
「切除のブローチ……
 嫌な事を取除いてくれる、記憶も一緒に消し去ってくれるっていうのは少し魅力を感じてしまったです。
 ですがそれではいけないのです」
 信仰を捨て、神を憎悪したとしても悪魔に与する心算は無いらしい。『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が吐き捨てるように言い、半ば独白するような『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が、ややオーバーアクションで首をぶんぶんと横に振った。
 呪いというものは元来誰も幸せにしないものだ。呪いというモノの本質が時に己に跳ね返る通り――否。
 W・Pの名を冠したアーティファクトが意思を持ち、他者より積極的に所有者を呪う以上はこのアイテムは決して『人によっては肯定的に使えるような存在』では有り得ないのだ。
 それは確かに海依音の言う、言葉巧みに子羊をたぶらかす悪魔の所業にも等しかろう。
 ペリーシュ・シリーズはアークの把握している限り唯の一例を除外すれば、総ゆる使用者を破滅の淵に追っている。中には『<Red or Black(あかかくろか)>』のように比較的『性格のマシ』な代物も無い訳では無かったがそれさえ結末は使用者の死である。唯一の除外例が黄泉ヶ辻京介では参考になろう筈も無い。
 結論としてそれは最悪と災厄そのものだ。
「趣味が悪い。ほんの少しの悪意を拡大解釈するなんて……」
「あら、そうですか?」
「そうだよ」
 うんざりした口調で漏らした『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は冷たい十一月の風に吹かれてふわりと靡いた長い髪を片手で抑えた『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)に二度頷いた。
「こんなの、間違ってる」
 悠里の言葉には強い確信と断固とした結論が滲んでいた。
 今回、不幸にもW・P印の所有者と『なってしまった』のは弱冠十一歳の少女である。
 この近くの小学校に通うやや内向的ながら概ね良い子であると言える極普通の少女は――己が知らない内に、己の記憶の無い場所で神秘的事件の加害者となってしまったのだ。切除のブローチが本当に対象が心から厭うものだけを取り除くならば、或いはそれは所有者にとってもある種の納得のいく効力となろう。
「他人など気にせず振舞えばいい、なんて事を餓鬼が考えても無理だろうよ。
 俺だってブチ殺したくて仕方がない奴は居る。正直後一歩で我慢が利かなくなる時だってあるさ。
 いちいち人間は難しい、心から獣になれた方が幾分マシかも知れん位にはよ」
 されど、悠里の、そして渋面の『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)の言う通り――この困った藪医者は人間が人間として他と関わる以上、どうしても発生する些細な軋轢や敵意までも全て切除の対象とするから始末に悪い。少女が――野瀬りりかが『無くなる事を決して望んでいない対象までも認識外で処置している』以上は一体誰が、何が悪いのが何か等言うまでも無いだろう。
「野瀬りりかの生存は任務目標ではないけれど……可能な限りの範囲で手を尽くしたいわね」
「それはそう思いますけどね」
 しかし、憤慨した調子を見せる悠里、低く呟いた『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の一方で一つ嘆息した彩花の方は義憤とは少し異なる冷静な観察と感想を抱いていた。
(正直を言えばW・Pの作品にしては生温い性質ですね。見境の無さは兎も角『嫌な物を物理的に切り刻む』程度とは)
 ある意味でこれは彩花『らしい』感想であると言える。
 例えばこの場合、恵梨香等の考えも任務優先が何よりであって、りりかの救出は『一行の意向を考えた場合の努力目標に過ぎない』が、単純嫌悪より先にロジックに注文をつけた彩花の場合、やはり仲間とは違うアプローチになる。
 無論、彼女とてそれが『良いもの』であるとは思っていない。『他人より面倒臭い家に生まれついたが故』にやや別の見地でそれを見ているに過ぎないと言えるだろう。げに恐ろしきは人間それそのものであるという『極当たり前』を彼女は嫌という程知っている。殊更に神秘に頼らなかったとしても『物理的排除』より余程おぞましいやり口等、常識の世界にも幾らでも転がっていると――それを敢えて口にする程、彩花は機微の無い人間では無いのだが。
「――とんだ失敗作ですね」
 しかし、仲間には兎も角、敵に向けられる温い嘲笑の方は別。
 なまじ凛とした美人なだけによりそれが際立つ、まさに辛辣そのものといった具合である。
「……ま、どうしたってやる事は変わらないわ」
 徐々に緊張感を湛え始めた空気を『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)が攪拌した。
「あたし達がね、リベリスタで居ようって考えるなら結論なんて一つなのよ」
 彼女の抱く強大な異能は一帯を覆うように用無き者を無意識の内に遠ざける強結界を形成した。彼女が張り巡らせたそれはこの変哲の無い公園がこれから戦場になる事を強く証明している。全くその言葉は端的ながら正鵠であり、この場に立つ人間が厳然と共有する事実であった。
「あたしはそういうの得意じゃないけど――『期待してるわよ』」
 セレアの言葉は裏を返せば『信頼してるから、任せた』という意味を持つ所だろうか。
「助けよう」
 短く言ったロアンに『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が頷いた。
「ええ、必ず」
 彼女だけではない。折片 蒔朗(BNE004200)も又、あどけなさの残るその顔立ちに真摯な意志を貼り付けた。
「守らないと――いえ、守ります!」
 いざ、神秘のステージとなる公園へパーティは視線を向けた。
 不出来な世界、赤く染まる黄昏時に幾度目か開幕のベルが鳴る。
 何度聞いても聞きなれない、何処か胸を締めつけるような――胸を潰してしまいそうになる、予感。
(おれにも、守れるものがあるなら――)

●野瀬りりかI
「こんにちは、りりかちゃん」
「野瀬さん、こんにちは」
 優しく私に呼びかけたのは全然知らないお姉ちゃんとお兄ちゃんの二人だった。
 お姉ちゃんのお日様色のとっても綺麗な髪の毛が夕日に赤く染まっている。私より少し上だと思う。中学生か高校生のお兄ちゃんはとても真剣に私の顔をじっと見ている。
「おねえちゃんは、舞姫っていうの。よろしくね」
 反射的に「りりか」と答えた私にお姉ちゃん――舞姫さんは優しく笑う。
「おれは折片蒔朗」
「こんにちは。は、はじめまして。よろしくおねがいします」
 舞姫さんの時よりは――続く蒔朗さんにはきちんと挨拶が出来たと思う。
「そ、それで……わたしになにか……」
 何が何だか分からなくて――でも二人共とっても優しそうで。私は何とか勇気を振り絞ってそれだけ聞く。
 相変わらず穏やかに笑ったままの舞姫さんはそんな私の胸元をじっと見ていた。
「そのブローチ、綺麗ね。りりかちゃんの宝物かしら?」
「うん……」と答える。ブロちゃんは言っちゃ駄目って言ったから……この子がお話出来る事は言わないでおく。でもブロちゃんを褒めてくれるお姉ちゃんに私は少し嬉しくなった。
 思わず胸元にそっと触れた私にどうしてだろう――お姉ちゃんもお兄ちゃんもちょっと困った顔をする。
 少しの時間。多分それはほんのちょっとの時間だったと思う。
 顔を見合わせた二人が小さく頷いて――それからやっぱり真剣な顔で私に切り出してきたのはお兄ちゃんの方だった。
「――実は、俺達は貴女に伝えたい事があって来ました」

●引き算の世界I
「……ッ!」
 至近距離から無数の輝きを放った硬質の光に身を翻した舞姫が鋭く呼気を吐き出した。彼女の驚異的とも言える反射反応は常人ならば数秒の内に解体完了となる死の風さえ間一髪で避け切ったが――肌を伝う冷たい汗は十一月の外気には不似合いな、場違いなものである。
「……やはりっ……!」
 耐久力の関係から舞姫の位置関係と合わせて絶妙に『後衛』に身を置いていた蒔朗が息を呑む。
 まず最初にりりかに接触を試みたのは作戦の中でも説得に強い比重を置いたこの舞姫と蒔朗の二人であった。二人はりりかに――可能な限り傷付けない形で――『真実』を告げ、切除のブローチの所有者たる事を辞めさせる事を企図していた。しかし、これが当のブローチ自身の妨害に遭えば簡単に破られる状況である事は言うまでも無い。
 果たして、状況はパーティの想定した通りとなっていた。
 舞姫と蒔朗の動きを注視していたブローチは恐らくそれが己の敵である事を始めから理解していただろう。猫を被ったそれは当初よりリベリスタ達を排除しようという構えを取ってはいなかったが、話が核心に迫ろうとすれば別だったのである。
「来ますよ――!」
 実戦経験こそ浅いものの、蒔朗の判断行動は的確でそして早かった。
 りりかと会話するその隙にも集中力を研ぎ澄ませていた彼は舞姫を猛然と襲った銀色の光目掛けて素早く道化のカードを投げつける。やはりその経験に比すれば恐ろしい程の精密さを持っている……と言っても過言ではないその技は少なくとも敵をまず牽制するには十分な冴えとキレを秘めていた。
 既にパーティは状況の展開を終えている。戦闘態勢は十分だ。

 ――りりかちゃん、ボクがきっとキミを守ってあげるからね!

「白々しい……ッ!」
 忌々しそうに呟いた恵梨香は『ブロちゃんのその声』で子供の頃に見たアニメのマスコットを思い出した。十年一昔とは言うが、流行り廃りはあるものだ。今日日の『可愛げなマスコット』なんてものが必ず信用出来るものでない事はアカデミー賞の長編アニメ部門のノミネートでも見れば明白過ぎて釣りが出る。
「綺麗な薔薇には棘があり、甘い言葉には裏がある。
 ……とはいえ、幼い子供に物事の本質を見極めろだなんて難しい事。
 人の心の隙に入り込み、不幸をばらまく下衆め(ウィルモフ・ペリーシュ)……絶対に許せない……!」
 フィクサードに只ならぬ憎悪を持つ恵梨香にとってそれは吐き気を催す邪悪であった。
 しかして相手が『そういう心算』で来る事自体がある意味リベリスタ側の想定の内である。舞姫と蒔朗は少なくともりりかの近辺まで肉薄している状況である。一行のコンセンサスが基本的に『りりかの救出』を目標に含めている以上は『彼女が切除される事態こそ最も防がなくてはならない事態』に他ならない。つまる所、パーティは説得に邪魔が入らないと考えていたのではなく、りりかの近辺に戦力を配し、序盤から『事態を理解し、最悪の事態(じこけんお)を生じた時にりりかに向けられるであろう切除』を防ぐ為の状況を作り出していたという訳だ。
「兎に角、アレを減らさないとね――!」
「そうね――」
 白銀の篭手が硬い拳を作る。
 真白い制服にその姿を変えた悠里が地面を蹴り上げれば、土が宙に舞い上がる。
 間合いに咲く雷華は蒼く白く武技の繚乱を閃かせる。
 美しく、妖しく、疾く強い――迅雷の迸りに負けじと碧の本を開いたのはその全身に雷気を溜めた魔術師――セレア・アレインと高原恵梨香だった。
「思ったより早く出番が来たわね。一般人もまだ居ないみたいだし」
「いい加減にペリーシュの凶行を止めさせたいところだけど、毎回後手に回るばかりで、決め手がないのが残念ね。
 いつか、いえ。早く追い詰められれば……でも、ペリーシュは兎も角、それは追い詰める事が出来る」
 恵梨香の双眸――赤いネメシスの炎を湛えた大粒のルビーが『敵』を見据えた。
「――一気に行くわよ!」
 セレアの一声、呪力を開放した恵梨香に応え――耳を劈く雷鳴の如き叫び声を従えて猛烈な威力を誇る雷光が間合いを引き裂く。拡散した魔力と威力の塊は周辺に浮遊するブローチの手足――斬殺メスに猛然と襲い掛かっていた。
「まだまだこんなもんじゃないわよ」
「……気が済んでいるかと言えば、全くその通りだわ」
 セレアが景気良く言えば、恵梨香の方も冷淡に嘯いた。
 見せ場も見せ場、魔術師(マグメイガス)の本領発揮に誰かが小さく口笛を吹く。
 歴戦のリベリスタ達の連携は極めて高いレベルで状況と行動を結びつける。
「りりかちゃん、貴方には今取り返しのつかない程の危険が迫っている」
 怯んだ斬殺メスの間を縫うように状況に惑うりりかの付近まで肉薄した彩花が端的に告げた。その身に聖骸闘衣の加護を纏った彩花は或いはりりかには『テレビの中のヒロイン』に見えたかも知れない。
「そのブローチはとても危険なものです。そのブローチは貴方が『嫌った』何かを見境無く――ッ――!」
 言葉を妨害するように斬撃が彩花に襲い掛かる。
 高い防御と継戦能力を誇る彼女は多数の猛攻さえ防御の型で受け止めている。
 切除のブローチが如何に状況を塞ごうとしてもリベリスタは十人居る。
 乱戦を引き受けた彩花に代わり同様に敵陣に踏み込んだロアンが言葉を続ける。
「初めまして、りりかちゃん。混乱するのは良く分かるし、僕達が何者かは……正直全然分からないと思う。
 でもね。僕らは王子様とかヒーローとか、そんな感じで――悪いアイテムに騙されてるお姫様を、助けに来たんだ」
「……悪い……アイテム?」

 ――りりかちゃん! 聞いちゃいけないよ! そいつ等はボクをキミから取り上げようとしてるんだ!

「う、うん。でも……」
「りりかちゃん。りりかちゃんには――そのブローチ、優しく見えるかな?」
「――――」
 普段のりりかならば即答していただろう。
 しかし、現状の彼女は非日常の真ん中で見慣れぬ血を見ているような状況だ。
「見て、みんなが怪我をしてるよ! それは、怖い悪いブローチなのよ!
 このままだと、りりかちゃんの大事なパパやママやお友達も怪我をしちゃう――りりかちゃん、そのブローチを捨てて!」
 舞姫の言葉は状況を証明していると言えるだろう。
 少なからぬ怯えは『見知らぬリベリスタ』に向くばかりの話ではない。『いつも優しいブロちゃんが他の人間を切り刻もうとしている』事実そのものこそがりりかの中に違和感を生じているのは確かだった。リベリスタが特別な能力を持っている事は小学生にすら分かる事だ。現状までにリベリスタが自分を害する行動を取ろうとしていない事もりりかの判断を迷わせていた。
「そいつを使い過ぎると、代償を要求してくる。君や周りの人を不幸にする、酷い奴なんだ。
 例えば君のお父さんやお母さんが――居なくなってしまうかも知れないんだよ!」
「……っ……」
「これはね、僕の我儘なんだけど……僕には君と似た名前の妹が居て……
 その子も君と同じ、そのブローチみたいなのに騙されて傷ついて。そういうの、もう見たくないんだ。
 ……君は悪くない、大丈夫だよ。大丈夫だから――」
 不安と恐怖の混ざった視線でりりかはロアンとブローチを見比べた。

 ――嘘ばっかりの、悪い魔法使いめ!

 アニメのマスコットめいた可愛らしい声とは全く裏腹――人を殺すに適したメスが乱舞する。
 鮮血が公園の遊具に降りかかる。赤いペンキを散らしたようなそれはりりかの頬にも赤い軌跡を残している。
 彩花、ロアン、戦闘を展開する舞姫等仲間のダメージをそあらが力強く賦活した。
「駄目なのです」
 そあらの声色には平素の彼女には無い――泣き出しそうな位の想いが込められていた。
「それだけは駄目なのです。そのブローチはとても危険です。
 危険が起こる前におねいさんに渡して欲しいのです
 渡してもらえないならあたしは無理やりでもそのブローチを貴方から取り上げなければいけないです!」
 自身が嫌悪され、『切除』の対象になったとしても。
 己がパーティの扇の要であり、攻撃を受けてはいけない立場だとしても。
 そあらは他の選択肢を持ち得ていなかった。彼女の視界の中、公園の風景に『あの暑い日』の風景が滲む。

 ――遊園地行くって言ったです。

 ――どうして? どうして嘘つくのです? 

 ――仕事なんて知らないです。代わりの日なんて嫌なのです!

 ――馬鹿。ばか、きらい。だいきらい。ぱぱもままもいなくなっちゃえ――

 ……心に巻き付いた茨のような記憶はしくしくと痛みばかりを伝えてくる。
 十四年前のあの日に最後に交わしたやり取りはディティールを薄れさせながらも消えない傷として彼女の根幹に刻まれたままだ。恐らくは生涯消えない。幸せになっても、そうでなくても。
 毒だ。病だ。それでも人間は生きていく。
 覆水は盆には返らない。吐いた唾を飲み込むなんて器用な事が出来る筈は無いのだから。
「――そんなのは、絶対に駄目なのです!」

 ――ねぇ、りりかちゃん。嫌なものなんていらないよね。
 ボクが全部守ってあげたらキミはいつだって幸せ。ニコニコしてられるよ。
 何もおかしな事は考えなくても平気だよ。ボクがいるから。全部『やって』あげるから、ね?

 気持ちの悪い猫撫で声。
 りりかがもし一端の経験を積んだ大人であるならばすぐにその軽薄さを見抜けるであろうそんな声。
「嫌なものがなくなる、それって本当に幸せ?」
 海依音と手にした白翼天杖が生み出した強烈な裁きの光が斬殺メスの大半を黙らせた。
 それはすぐにまた新たに生み出されるのだろうが――彼女は黙らない。こんなものに黙らされはしない。
「それは、貴方の『嫌なもの』を壊してくれる。いいえ、無かった事にしてくれる。
 でも、思い出して? 貴方の嫌なもの『本当』に<なくなって>しまったの?」
 徐々に本性を現わし始めたブローチにりりかの表情が強張っていた。
 確かに彼女の中に記憶は無い。『切除』されたものは彼女の中では『無かった事』になっている。しかし、周囲の言葉と自分の記憶のギャップが『おかしなもの』であった事は一度二度の話では無い。
 猛烈な勢いで解け始めた『悪い魔法』にりりかの顔は最早蒼白そのものだった。
「チッ――」
 敵が本性を現わし始めたという事は危険が増すという事に他ならない。
 暴風の如き赤色――ランディが状況を見極めて動き出す。
(ま、餓鬼のお守りが得意かどうかって言えば、な――)
 獰猛な笑みを口元に湛えるランディは自身が可憐な少女にどんな威圧を与える人物だか良く知っている。されど、女子供の面倒を見る事は兎も角、『気に食わない野郎をブチ殺す』に関しては彼は並々ならぬ自信を持っていた。
「――ブチ消えろ! クソ道具が――」
 好機を敢えて待っていたランディのグレイヴディガー・ドライが恐ろしい程器用にりりかの胸元の服一枚だけを切り裂いて切除のブローチを宙に浮かせた。
 宙空でピタリと止まった『それ』は「あーあ」と心底うんざりした声で呟いた。

 ――どうしてリベリスタってヤツは空気が読めないかなぁ。
 ボクはキミ達に恨みはないし、りりかちゃんだって同じ筈なのにね!

●野瀬りりかII
 お兄ちゃんとお姉ちゃん達がブロちゃんと戦ってる。
 皆、私にブロちゃんが悪い奴だって言うんだよ。
 ねぇ、ブロちゃん。違うよね? 何時も優しかったもんね?
 ブロちゃんは魔法のブローチで私のお友達なんだもんね?
 不思議な力で私を幸せにしてくれるって言ったよね?
 悪い事なんてしてないよね? 私、誰も嫌ったりしてないよね? ね?

 ――ねえ、そのブローチ、もしかしてりりかちゃんに話しかけてきたりしない?
 優しいことばかり言って、騙して、最後に騙された人を食べちゃう、こわーいブローチがあるのよ。

 舞姫お姉ちゃんの言葉を思い出す。
 首を強く振る。そんな事無い。そんな事あるもんか。

 ――ねえ、りりかちゃんのブローチは大丈夫かな?
 周りの人が怪我をしたりしたら、それは本当は悪いブローチってことだよ?

 違うもん。『私の知り合いは誰も怪我なんてしてないもん』。
 ね、蒔朗お兄ちゃん。私、何もしてないよね?
「そのブローチは使用者……つまりあなたが少しでも嫌だと思った人間を殺してしまう、危険なもの。
 ですから、この先犠牲が出る前に手放して頂きたいんです。どうか、お願いします。
『まだ誰の犠牲も出ていないその内に』」
 そ、そうだよね? 私悪くないよね? 『何もしてない』よね?
「野瀬さんに非は、何一つ無い。おれは、野瀬さんに生きていて欲しいんです。
 おれがこうして戦うのは、貴女のような人を守るためだから。
 だから必ず守ります。信じてはもらえませんか?
 使用者が居なくなれば、あのブローチを弱体化する事が出来ます。
 力を貸して下さい。一緒に悪いブローチを壊しましょう!」

 ――あー、ボクを完全に蚊帳の外? 無視しちゃう訳? やだなぁ、そういうの感じ悪い!

●引き算の世界II
 ――あー、ボクを完全に蚊帳の外? 無視しちゃう訳? やだなぁ、そういうの感じ悪い!

 戦闘を続ける切除のブローチが不意にそんな風に吐き捨てた。
 斬殺メスに加えて強力な神秘範囲攻撃を備え、近接戦闘にも優れるそれはリベリスタにとっても決して侮れない強敵であった。
(でも、絶対諦めないのです――!)
 勝たねばならない理由を何時にも増して強く持つそあらは何時も以上の力で状況を支えているが……
 五分に近い戦闘はリベリスタ側からも余力を奪いつつある状況だ。

 ――わたしはなにもわるくない。本当に悪くないのかなあ?
 ボクは道具だ。道具は自分の意思だけでは何かをする事はない。
 少なくともペリーシュ・シリーズは『そう作られてはいない』しね。

「聞かないで!」
 ややヒステリックにも聞こえる大声で咄嗟に海依音が叫んだ。
 しかし、仮にりりかがそれに従い耳を塞いだ所で意味は無かった事だろう。

 ――本当に悪くないのかなあ?

 蛇が居心地の良い棲家を見つけるように、全員の頭の中にブローチの声が響いてくる。

 ――本当に悪くないのかなあ? 本当に何も起きてないのかな?
 ボクの能力は『嫌なものを本人の中から無くす』事だ。それは記憶も含めてだよ。
 ねぇ、りりかちゃん。キミ、ホームルームで言われなかった?
 隣の席のみゆきちゃんがいなくなったんだって。担任の山田先生が行方不明だって。
 ねぇ、りりかちゃん。みゆきちゃんって誰だか分かる? 山田先生って誰だろうね?
 皆に聞かれて不思議そうな顔してたじゃないか。
「ブロちゃん、皆変な事言ってるね」ってボクに相談してくれたじゃない。
 ねぇ、本当に悪くないのかな? そこのお兄ちゃんやお姉ちゃんは、キミを庇ってるだけじゃないのかなあ?

「黙りなさい――ッ!」
 灰は灰に塵は塵に――海依音の放った呪言がお喋りなブローチに突き刺さる。
 彼女は言った。心よりの気持ちを込めて、何者にも――例え『神様』にさえも裁かせぬと声を上げた。
「りりかちゃん、大丈夫よ。誰かを憎んだり恨んだりする気持ちは誰にでもあるわ。
 だからね、貴方が貴方を許さなくても――世界が許さなくても――
 ワタシは貴方を許すわ。だから目をあけて。世界の優しさから目をそらさないで」
 単純な割り算はゼロ以下を作り出さないけれど、引き算は容易に作り出す。
『切除』だけで得られる幸福は最後には何もかもをもゼロにする――
 神に裏切られた女が神の代わりに救いを口にする――嗚呼、喜劇!
「りりかちゃん、貴方は手を伸ばしていいの。
 助けてって一言言ってくれたら助けてあげるわ――それが優しい大人なの!」
「……て」
 目に一杯の涙を溜めたりりかはぺたりと座り込み、もう立っている事も出来なかった。
「たすけて、たすけておねえちゃん! でも、でも、もう、わたし――」

 ――やや、これは大変だ。うん、すぐに手術が必要だね!

 幾度目か出現した大量のメスがりりか目掛けて飛来する。
 小さな胸を潰さんばかりのプレッシャーは常人に耐えられるものでは無かった。
 真実を何となく理解した彼女は己が友人を、教師を殺したものと『思ってしまった』。
 救いを求める手と湧き上がる自己嫌悪はほぼ同時に訪れたのだ。
 ざくざくと。
 肉を切り裂き、肉に潜り込む生々しい音がした。
 りりかがうっすらと目を開けた時、彼女を抱きしめるようにそこに居たのは――彩花だった。
「他の、何を……嫌おうとも自分自身を嫌う事だけは絶対にあってはいけない」
 搾り出すように言った彩花の背はべったりと血に濡れていた。強靭なリベリスタと言えども避ける事も叶わず『切除全て』を受け切れば無事で済まないのは当然である。

 ――やめようよ、そういうの!

「るせよ、カスが――」
 すかさずこれに追撃をかけようとしたブローチをランディの放った強烈な光柱が吹き飛ばした。
「――『いい所』で邪魔すんじゃねぇッ!」
 名のあるフィクサードさえ屠った彼の大技に流石のブローチも怯んだ様子を見せていた。
「この世界に誰も憎まずに生きる人なんてきっといない。
 人間は弱い。臆病で卑怯なところだってある。でもそれ以上に優しいんだ――
 だから僕は――僕はりりかちゃんの優しさを信じる。痛くても怖くても、君を信じられるんだ!」
 この一時を守り抜かんと――
「怖がらせて、ごめんね」
 ――悠里が奮闘する。
「大丈夫。おねえちゃんが、りりかちゃんのことは絶対に守るから、ね。
 信じて。約束、するよ。約束するから――立ち塞がる者あれば、これを斬れ!」
「――砕けろっ!」
 ――死力を振り絞る舞姫の剣技が、怒気さえ込めたロアンの一撃が何処までも冴え渡る。
「あの、あのっ、わたし……わたし――」
「――貴女が自分を嫌うというならば私が護ります」
 涙でくしゃくしゃになったりりかを見つめる凛と厳しい美貌に少し不器用な微笑みが浮かんでいた。
 貴方の意志に関係無く、私は私の意志のままに――そう言わんばかりの彩花が『こうまで身を挺した』理由は何処にあったのか。魔窟めいた大御堂の家で育ち、同じ嫌悪を覚えた事があったからだろうか。果たしてその理由は本人ならぬ誰にも分かる事では無いが――
「自己嫌悪する気持ちは判らなくもない。
 それが他人であれ自分であれ、嫌いなものを嫌うな、なんてのは無理だから言わないけど」
 戦いを続けるセレアが声を投げる。
 彼女からすればこれ程に一生懸命になるのは『気まぐれ』で。
 しかしこの気まぐれは――決して心地の悪いものでは無かったに違いない。
「貴方は何人もの犠牲の上に生きてるのよ。だから生きなさい。死ぬとか許さない。理不尽で結構、世の中そんなのだらけよ。貴方が殺した人に申し訳ないと感じるなら、生きることから逃げるな!」
「そう、戦いなさい」
 自身の言葉を糧にしたかのように、彩花の運命が青く燃え上がった。
「消し去りたいと願うべきは他人でも自分自身でもない。貴方が一度は手にした――あのくだらない石ころです!」
 伝えるべきを伝え、敵に向き直った彩花に代わり、りりかに優しく手を差し伸べたのは蒔朗だった。
「大丈夫ですよ。おれが、ついてるから」
「お兄ちゃんが……?」
「この手は、離しませんから」
 少女が小さく頷けば、全ての運命が収束する。
 大魔道ウィルモフ・ペリーシュの定めた『ルール』から逃れられる者は居ない。
 造物主の定めた宿命は唯一つの結末のみを示していた。
「ブロちゃんなんて――」

 ――あ、ボク、死んだわ……

「――大嫌い!」
 斬殺メスが乱舞して紫色の欠片が空気に散る。
 余りにも呆気無い終わりは、それが秘めていた能力を皮肉に証明してみせたのだ。
 粉のようにはらはらと舞うアーティファクトであったものの残骸に目を細め、
「『この場から最も切除されるべきだったモノ』は何か?
 それを踏まえさえすれば至極簡単なロジックです」
 傷だらけの彩花は言った。
「やはり貴方は――退屈な『失敗作』に過ぎなかった」

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIです。

 素晴らしい。ほぼ満点です。
 キャラクターの掘り下げ(心情)から、行動から発言からマッチポンプからフォローから何と言うか良くこれだけ揃ったって位リプレイ映えしたと思います。
 ハードでも大成功って位良かったです。
 MVPは最後の台詞に集約されてます。そういう事です。

 シナリオ、お疲れ様でした。