● アタランテはギリシャ神話に出てくる世界一俊足の王女様。 山のように押し寄せた求婚者さんとかけっこして、負けた男は殺してしまった。 あなたが若い男性なら。 どんなに急いでいても、人混みを早足で通り抜けてはいけない。 人混みアタランテに愛されるから。 「歩行者天国にいる」 「足が速い若い男が大好きだって」 「10人追い越すと目をつけられる」 「後ろからずっとついて来る」 「脇目も振らずに追いかけてくるんだって」 「お姫様みたいな格好をして、すごく高いヒールの靴を履いてる」 「こつこつこつこつすごいヒールの音がしたら、人混みアタランテ」 「走っても振り切れない」 「人混みアタランテは、絶対走らないんだって。歩いてるのにすごく速いんだって」 「電車より速い」 「バスとかタクシーとかに乗っても歩道をずっとついて来る」 「降りたとたんにやられる。電車に乗ってもホームに先回りして待ってる」 「立ち止まっちゃいけない」 「振り返ってもいけない」 「うちまで自分の足で帰らなきゃいけない。どんなに遠くても」 「うちに帰るまでに追いつかれちゃいけない」 「そうでないと、『つまんない』って傘で切り殺される」 「うちまで逃げ切ると、電話が来る。『許してあげる』って言われたら、セーフ」 「りんごが好物だから、りんごを後ろに投げるとそれに気をとられてる間は追っかけてこない」 「逃げ切った人は、オリンピックの強化選手で、たまたまうちがすごく近所だったから助かったんだって」 「買い物帰りで、りんご持っててラッキー」 「でも、ぎりぎりタッチの差」 「うちの前でずっと女の子の笑い声がしてたらしいよ」 「ノイローゼになって、その人はそれからずっと精神病院に入院しているんだって」 子供の頃に聞いた怪談が矢継ぎ早に頭の中をぐるぐる回る。 全力疾走。でも全然離れていかない規則正しいヒールの音。 嘘だろ。 だって、俺、今、りんご持ってないし。 うちまで、10キロ以上あるんですけど。 ● 「サマーキャンプでするにはもってこいのちょっと怖いお話」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、全然怖がっていない様子でモニターに複数の写真を表示させる。 「残念ながら都市伝説じゃなくて、実在のフィクサード。話どおり、速度特化。多少尾ひれがついているけれど。犠牲者、数知れず。通り魔の被害者として処理されている」 確かに格好は違うが、全部同じ女、いや少女だ。 写真が白黒からカラーになり、町並みがむき出しの土、石畳、アスファルトに変わっても、流行に従い衣装は変わっているが同一人物だ。 総じてひらひらした服に、縦ロール。 「出現年代や活動期間、現れる場所がばらばらで非常に補足しにくい。今回たまたまシステムに掛かってくれた……といっている場合じゃない。緊急事態。人混みアタランテが再び一般人を追い掛け回そうとしている」 とある都市の繁華街。 電車の時間を気にして急いでいた青年がたまたま目にとまると、イヴは言う。 「目に留まったらおしまい。アタランテはターゲットを殺しか許すかするまで浮気はしない。彼より先に人混みアタランテに好かれて。今から行けば十分間に合う」 好かれる方法は簡単と、イヴはモニターを操作し、人のよさそうな青年の写真を出す。 「歩行者天国ですごく急いでる彼を追い越せばいい」 出来ないとは言わせないと、イヴはリベリスタを見回す。 「人目につかない場所は選定済み。そこにアタランテを誘導して倒して」 強い語気にリベリスタ達は顔を見合わせる。 「アタランテはあなた達より技量が上のフィクサード。彼女はごくまれにリベリスタに襲撃される以外は、一般人か自分より弱い相手しか相手にしない。導き出される答えは一つ」 その技量は、強敵ではなく、手に掛けた数で培われた。 アタランテが歩いてきた道は、おびただしい敗残者の屍で出来ている。 「犠牲者は、もう要らない」 イヴは、わずかに目を細める。 「相手は、戦後からずっとリベリスタから逃げ続けてる妖怪。自分の速さを武器にする術を知り尽くしている。油断させることはあっても、油断しないで」 真っ向からリベリスタを見据え、イヴは言う。 「足を止めなきゃ、大丈夫」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月25日(月)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 邪魔だ、どけどけ。 速攻急行乗らなきゃ、面接間にあわねーんだよ。 ちんたら歩いてる奴らを次々追い抜きながら、頭は煮え煮えだ。 ホコテンは走るには人がぎっちりすぎる。 「そこのなんだか幸薄そうなあなた! 財布を落としましたよ!」 こんな呼びかけで、足を止めたくない。 「リクルートスーツでやたらと急いでるっぽいあなた!」 ……俺だよ。 しぶしぶ振り返ると、女が立っていた。 「はい」 差し出された財布は、カエル柄のがま口。 いや、もう、ありえないから。 「俺のじゃないです。それじゃ」 ぐるんと方向転換、さらに加速。 「あ、ごめんッス。避けるッス」 女の子と進路が合致。 あはは~と、笑顔の女の子がまた避けた。俺と同じ方に。 お互い苦笑いを浮かべながら譲り合ってるけど、なぜか必ず同じ方。 読め! てめえ、空気読め! 俺が指差してるんだから、そっちにわざわざ避けんじゃねえ! とか叫べたらいいけど、この手のちっこい女子にそんなこと言ったら、泣き出すかわめき出すかしそうだし。 マジでぶち切れる五秒前。 ようやく、女の子が俺と別の方に避けた。 えへえへと意味のない笑いを浮かべてお互いぺこぺこしながら別れるのが、正しい日本人だ。 今の女の子、外人だったけど。 駅へ、駅へ。とにかく、駅へ。 歩行者天国から消える青年。 彼は気がついていない。 先ほど彼の脇を緊張した面持ちのスキンヘッドがとおりすぎたことを。 その後を鼻歌混じりで追いかけ始めたゴスロリ女がいたことを。 変な女と空笑いする女の子のおかげで、命拾いしたということを。 ● 「幸薄い青年の無事確認ッスよ! 電車に飛び乗れたみたいッス!」 「それはよかった。われわれも現場に急ぎますか」 ぽへへへへとアーク購買部提供スクーターが二台併走する。 カエルがま口の女、『空蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)と、善意の譲り合い少女『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)。 半ば嫌がらせに近い歩行妨害は、ひとえに幸薄い青年をほとんど妖怪フィクサード「人混みアタランテ」 のターゲットにさせないための作戦である。 「後は戦闘準備ッスよ」 「フツさん、無事に緑地帯に来れたらいいですが」 「御津代さんとウェスティアさんに任せるッス。アタシ、超集中するっすよ」 「わたしも、フツさんをかばってかばってかばいまくります」 「ま、犠牲者出させるわけには行かねぇッスし、ネタの割れた都市伝説には退場頂くッスよ」 (アタシの伝説の礎になって貰うッス) イーシェ、正義の高みに登る気満々。 「あなたにお願いしておきます。必要ならば私ごと攻撃しても構いません 耐え切って見せます」 (意地でも この悪行を 二度と行わせてはならない!) アンリエッタは強い決意をしていた。 二台のスクーターは程なく緑地帯に横付けされた。 人混みアタランテは急がない。 急がなくても早いから。 今日は、とても楽しそう。 だって、この空気の色。人も車も離れて行く。 こんなことができるということは、いつものお魚より上等のお魚。 さあ、おっかけっこをはじめましょう。 おうちまで逃げられたら許してあげる。逃げられなかったら、つまらないから命をちょうだい。 ● 最初はそれほど負担にも思わなかった。 後ろから追いかけてくる気配はとても希薄で、逆に本当に追いかけてきているのか不安なくらいで。 『振り向いてはいけない』 頭にヘッドライトをつけた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は、いつの間にか、本気で走っている。 こっこっこっこっことアスファルトを叩く靴の音が、少しづつ近づいてきている。 はじめから同じ感覚だ。アタランテは歩いているのだ。 こっちは、わざわざバランス感覚を研ぎ澄ませて、道の悪いところを選んで走っているのに。 一番初めの信号だ。 歩き出したときから、強い人払いをしているせいか、歩道に人はまばらだ。 だが、車は急に進路を変えられない。 信号無視してこのまま突っ切りたいところだが、ここはまだ近くに歩行者天国がある繁華街。 交通量もけっして少なくなかった。 信号は無情に赤。 こつこつという靴音がどんどん近づいてくる。 「あらあら、追いついちゃった、つまらないな」 明るい少女の声。 「つまらないから、命をちょうだい」 『ふりかえってはいけない』 フツは、ポケットからりんごを取り出し、背後に差し出した。 「あら、りんご。ふぅん。ちゃんと調べてきたんだ。お利口さんだから、おまけしちゃおうかな。もっとがんばって逃げないと捕まえちゃうよ」 背後で、きゃははと笑う声。 しゃくしゃくとりんごをかむ音。 自分のつま先に落ちる日傘を差したアタランテの影。 耳の奥がどくどく脈打ち、自分の呼吸音が耳障りだ。 夏の夕暮れ、頬を汗のしずくが滑る。 ● (都市伝説なんぞ、話の種だけで十分だ。急ぎたい時に急げないというのも不便極まりないし、伝説は伝説らしくただ話だけの存在となってもらおう) 二人の後を、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が追いかけている。 全力疾走だ。あと、1キロはありそうだってのに。 前を行く二人は、そのくらい早い。 前を見ればアタランテの後方を『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が地面を蹴って、低空飛行でショートカットして行った。 速度を上げるため、水着の上にマントを羽織っている。 (焦燥院は猛ダッシュ、アタランテは鼻歌交じりで歩きかよ。もしものときは、アタランテの前に躍り出て進路妨害してやる) 素直に後を追いかけていたのでは、鉅の足では差が広がるばかりだ。 (こっち行けば、先回りできる!) 自分の直感を信じて、角を曲がった。 足を止めたら脱落なのは、サポートする者も同じことだった。 そのとき、鉅のAFに連絡が入った。 緑地帯に一番近い植え込みの中。 『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)は、鉅とAFで連絡を取ろうとしていた。 「まもなくですね。こちらも準備してます。お二人は既に。お待ちしています」 既にウォームアップは済ませている。 飲みさしだった紅茶を最後まで飲むと、緑地帯にいる仲間にまもなくと告げた。 「もう、おなかいっぱいだから、りんごいらな~い」 『アタランテはりんごが大好き。りんご食べてる間は、止まっててくれるんだって。でも、3個までしか受け取らない』 一つ目の信号と二つ目の信号でりんごを渡した。 三つ目の信号は青でなんとかそのまま追いつかれなかったけど、その分休むことも出来なかったから、四つ目の信号でもりんごを渡した。 そして、緑地帯は目と鼻の先の五つ目の信号。 「追いついちゃった。つまんないから、命ちょうだい」 アタランテは、余裕だ。 都市伝説としての様式的行動を続けている。 フリル満載の黒い日傘の持ち手を引くと、中から小振りで細身の剣が現れた。 「うふふっ。さよなら、坊主君。結構がんばったね」 しゃしゃしゃしゃ……と衣擦れの音が、否、フツを刻む音だ。 体の半分以上を一気に持っていくダメージに、一瞬目の前がかすんだ。 だが、まだ終わりじゃない。 まだ動ける! アタランテを突き飛ばすようにして、再び走り出す。 「あらあら、結構丈夫なのね。おもしろぉい。もうちょっと追いかけちゃおうかしら」 歩道のタイルの上に、ぽたぽたと血が滴った。 「治すよ、フツさん! 走って!」 自分に符を貼ろうとしたとき、前方から声がかかった。ウェスティアだ。 先回りして飛んできていたのだ。 術を使いながら移動できるのは精々10メートル。 今度アタランテにつかまって一撃を食らったら、今度こそ危ない。 福音に癒されながら、緑地帯に駆け込む。 先回りしていた仲間が、てぐすね引いて待っていた。 今度はこちらが狩る番だ。 『アタランテはずっとついて来る』 『アタランテは殺すか許すかするまでは浮気はしない』 焦燥院フツは、生きている。 つまんないと頬を膨らませていたアタランテが、はじけるように笑いながら驚くほどのスピードで歩いて緑地帯に入って来ようとした。 植え込みの陰に隠れるようにしながら、慧架は自らの力を高める型をなぞっていた。 (悪い噂はここで終わりにしましょう。アタランテさん、お説教の時間です) 全力疾走のフツが通り抜ける。口の端に冷たい笑みを浮かべたアタランテがレースの手袋に包まれた指でフツの襟元を掴もうとしたそのとき。 アタランテの横腹に、慧架の焔を携えた正拳が深々とねじりこまれていた。 ● 『アタランテは、いつも青か緑の服なんだ。信号の『進め』の色だって』 『その地域の信号に合わせて、着る服の色を変える』 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は、ずっと集中していた。 構えから抜き放つ。疾風が、アタランテを切り裂く。 何度も頭の中で思い浮かべて、イメージをどんどん具体化させる。 イーシェとアンリエッタが戦闘準備を始めたのも、目の端には入ってたが意識の上には上がってこない。 抜き打ちの間合い、空気の流れ。 『そろそろ来ますよ!』 すぐそこにいる慧架の声が遠くに聞こえる。 フツが緑地帯に飛び込んでくる。その脇をウェスティア。 別のルートから鉅が緑地帯に駆け込んでくる。 転がり込むように慧架が飛び込んできて、その後ろを緑色の服を着て眉を吊り上げた女が細身の剣を振りかざして大またで歩いてくる。 (悪い妖怪はさくっと退治して、ただの都市伝説にしてやるよ) 振り抜き一閃! 放たれたかまいたちが、アタランテの胴を切り裂いた。 「食らえ! 今必殺の! ッス!」 慧架の知らせから、イーシェもずっと意識は通りの向こうから現れるアタランテに集中させていた。 闘気を身に纏い、魔力を雷にかえて、武骨な刃に宿らせる。 これ以上集中できないギリギリに張り詰めた精神の糸が、ばねのようにイーシェの背中を後押しする。 必ず殺す業。 痛手もさることながら、集中していた三人がかりでそれぞれがアタランテを燃やし、血を流させ、雷で焼いた。 「いやだ。レースは焦げてるし、フリルはざきざきだし。スカートが台無し」 アタランテは、いやん。と小さく呟いた。だが、その口元は笑っている。 スカートからのぞく彼女の足には流れ出る血で赤い筋が幾本も走っている。 「そう言えば、なんとかいうのが出来たんだっけ。とっさに名前が出てこないけど。年は取りたくないものね」 ぶら下げていたバックから大判のスカーフを取り出すと、くるくると腹に巻いてにこっと笑った。 笑みの無邪気さに、逆にリベリスタ達の背が泡立つ。 「楽しくなってきたから、みんなまとめて遊びましょ。あたしに勝てたら許してあげる。勝てなかったら、つまらないから命をちょうだい」 ● 『機鋼剣士』神嗚・九狼 (BNE002667)は、ソードミラージュだ。 アタランテの戦い方は分かっていた。 (対応としては相手の剣を操作するか間合いを活かしての先制。実際の構えは不明だが、こちらに切先を向けていれば絡め取って払うか打ち落としからの斬撃。両手武器の長さと重さを活かして強引に打ち込むのもいい) 極めて凡庸な結論が導き出されたな。と、一人ごちる。 目の前にいる子供のような女と自分を比較するまでもない。 女の手にあるのは、ひよわな刺すことしか能のないレイピアで、自分の手にはより敵を倒すのに適したバスタードソードがあるのだから。 「あら。きられちゃった」 アタランテは、九狼を見て楽しそうに笑った。 「ソードミラージュね? うふふっ! 若い子が育とうとしてるの見るの嫌いじゃないわ。幻影剣はこうやるの。真似してもいいの……」 最後の「よ」は、誰の耳にも入らなかった。 背後に下がっていたウェスティアとアンナにかばわれたフツ以外の全員が、自分を切り刻みながら頬にキスをするアタランテの幻を見た。 血煙が上がる。 何が起こったのかわからない。 直撃を受けた者は、あまりのことに叫び出し、デタラメに得物を振り回し始めた。 「ふ~ん、まともには受けなかったんだ。感心、感心」 えらいね、ぼーや。と言った、小娘にしか見えない女の目の奥に刻まれた年月が九狼の背中を冷たくした。 武器の不利さも体格差も、神秘を研鑽した者たちの前では瑣末なことにすぎない。 神秘の入り口に手をかけたばかり。 九狼は、まだ原石に近く、これから磨かれるべきものなのだ。 ● すかさずウェスティアが高次元からの福音を召喚する。 響き渡る妙なる音の元、同士討ちが始まった。 イーシェの剣が鋼を捉え、慧架の拳が牙緑を抉る。 鉅の投げナイフがアンリエッタの鎧をかすめる。 このチームには正気を喚起する光を発することが出来るものはいない。 本人の意志の力のみがこの最悪の状況を打破することが出来る。 「さて。じゃ、本格的に行こうかな! さっきまでしつこくかばってくれてたピンクの髪の子も、おめめくるくるになってるし」 『アタランテは、殺すか許すかするまでは、浮気しない』 「とっておき」 光の飛沫が辺りにはじけるように飛び散って行く。 剣の切っ先が、剣を握る指が、それを動かす腕が。 人体とはこれほど美しく見える瞬間があるのかとため息を付き、もっと続けてくれと叫びたくなるような華麗さ。 「……いやな坊主君。技の掛かりが浅いわ。痺れてるのかしら」 かろうじて直撃をしのいだフツは、無言でにっと笑って見せる。 先程ウェスティアに癒してもらった分が帳消しだ。 追いかけっこで受けた傷は完全には癒えていない。 アタランテの体は未だ燃え続け、腹を押さえているスカーフの上にも血がじわりとにじんできている。 痺れも抜けていないなら、意志の力はそれほど高くないのかもしれない。 慧架、イーシェ、牙緑が、集中して値千金の一撃を入れていた。 そうこうしている内にさっきのがもう一度入っていたら、負けだ。 フツは懐から白い紙を取り出すと、渾身の念をこめてアタランテに投げつけた。 それを、ごくわずかな動きでアタランテは避けて見せた。 「ざぁんねん!」 笑おうとしていたアタランテにに、フツが諸手刈りの要領で飛び掛った。 「なにそれー!」 アタランテが驚愕の声を上げる。 その背中を、四種類の魔力の波が絡み合うようにして襲った。 アタランテが気付いて、たたらを踏もうとしたが、すがるつくフツが邪魔をする。 紙一重。ウェスティアの魔法が確実にアタランテを捉えた。 「そっちこそ、残念でした!」 毒がアタランテの肌を紫に蝕み、体全体を痺れさせ、繊細な技を封じ込める。 体にまとわりつく不吉な気配がひたひたとアタランテの足元から忍び寄ってきていた。 「うふふふふ。これは予想外。でも、あなた達の勝ちだから、ゆるしてあげる」 そう言って、アタランテは、カランとレイピアを地面に落とした。 ● アタランテの剣技による混乱は、それほど長くは続かなかった。 正気を取り戻したリベリスタをみて、きゃははとアタランテは笑う。 血で服をべっとり汚し、体内に生成される毒で青息吐息。 死ぬまで逃がさないとがっちりしがみついているフツに抵抗するでもなく、すぐ目の前に来ている死に歓喜の表情を浮かべる。 「だって、勝てたらゆるしてあげるって言ったでしょう? うふふ。体は、もういらないわ。あたしは人混みアタランテ。子供達の口から口へ。これからは、消えることはない永遠の存在よ」 緑地帯の広場は、アタランテのステージだ。 演説が続く。 「うれしいわ。お礼を言うわ。ありがとう。さあ、祝ってちょうだい。明日から『人混みアタランテ』はフィクサードの識別名じゃないわ。永遠に死なない存在になるのよ」 困惑気味のリベリスタ達を見回して、壊れたように笑い続ける。 「大丈夫。あたし、きっとうまくやるわ。ごきげんよう、アークのリベリスタ。ひょっとしたら、また逢うかもよ!?」 きゃははははと一声高く笑う。それが不意にやんだ。 「抹殺が命題だ。遅滞なく絶命させる」 余計なおしゃべりなど聞く耳持たないと、九狼はアタランテの首を刺し貫いた。 吹き出る血潮。最後の息。 「いいわ。あたしを殺すのもゆるしてあげる」 目を見開き、晴れ晴れとした笑顔を貼り付けたまま、人混みアタランテは絶命した。 『人混みアタランテは、お坊さんに連れられて黒髪の女の子にお説教されたんだって』 『そのまま、車道に向かってダッシュして、何十台もの車に轢かれて死んじゃったんだって』 『それから、アタランテの着る服は、緑から赤に変わったんだって!』 あなたが若い男性なら、人混みで人を追い越しながら歩いてはいけない。 人混みアタランテに愛されるから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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