●今月最後の雨 平安時代に生きる人々も、現代に生きる僕達も、きっと同じ雨を見ているのだろう。 鎌倉時代に生きる人々も、現代に生きる僕達も、きっと同じ月を見ているのだろう。 ●10月最後の雨の日に思う事 世の人は、雨の日は憂鬱だと言う。 私はその雨の日という奴が割と好きだ。 雨が安物のビニール傘に当たる音。 水溜まりを踏む靴の音。 地面に急降下してしまう運命だった雨粒が草木のクッションに当たる音。 とても心地良い音だ。歩いているだけで幸せな気分になる。 すれ違う人から視線を隠せるのも良い。なんて思うけれど、それはちょっと卑屈すぎるか。 ぱしゃぱしゃぱしゃ。 気温が安定しない。寒くなったり暖かくなったりする。今日はちょっと暖かい。 ぱしゃぱしゃぱしゃ。 左手をコートのポケットに突っこんで歩く。 真っ赤な傘を差して歩く少女が目に入る。素敵なセンスだ。 少し暖かいとはいえ、はあ、と息を吐くと仄かに白い。雨が降っているから尚更だった。 信号が青に変わって不穏なトラックが発進した。水飛沫を避けるように道路から少し距離を取って立ち止まる。 左手をコートのポケットに突っこんで歩く。 確かに寒いというのもある。だけれど、これは昔からの癖という所の方が大きいだろう。 あまり褒められた記憶は無い。女の子らしくないということだった。尤もな意見だと思う。 そういえば、『女の子らしい』行動自体がそんなに好きではなかった自分と言うのを思い出して、苦笑する。 可愛い自分を作るより、可愛い女友達を作る方が楽しめる。ちょっと歪んだ嗜好かもしれない。 さっき目についた鮮やかな深紅の傘がすれ違う。 左手がコートのポケットから解放された。 ぱしゃぱしゃぱしゃと雨が地面を打った。 ●ブリーフィング 「人斬りフィクサード」 業物はナイフ。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう続けた。 「昼夜問わず、雨の日の市街地で一般人に対して危害を加えている。彼女を処理して欲しい」 真柄(まがら)という名のその女性フィクサード。 「彼女の持つ刃物のアーティファクト『レイニー・アンカライト』は彼女の攻撃スキルを活性化させているわ。それだけじゃなく、雨に効果を付与して、使役者本人以外のE能力者に影響を与える」 「じゃあ、雨の日を避けて戦った方が良いな」 「それも難しい」 リベリスタの声にイヴは顔を顰めた。 「彼女は基本的には雨の日に行動するようね。かなりの変人。まあ、人を斬って愉しんでいるのだから、真面ではないのだけれど」 特に男性のリベリスタには注意しておくけれど、彼女、かなりの美人だからって、油断しないように。 くるりと踵を返してイヴは部屋を出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月03日(日)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● その女は真っ黒な傘を差していた。 他人からの視線を遮るかのような若干の前屈姿勢。 垣間見える口元には薄らと微笑みが浮かんでいるのが伺える。 街はじめじめと湿度が高く、肌寒い。降り頻る雨が体を打って、熱を奪う。 工事中のビルの真横。中央線すら引かれていない狭い道路と、その両脇に気持ち程度に残された歩道。 だから真柄は、ふと足を止めた。傘を気持ち程度上げる。見えるのは数名の男女。 ああ、これは良くない。そう思って、真柄の目が細められた。 「秋の雨は冷えるよね。ご機嫌麗しゅう、真柄ちゃん。美人とのデートのエスコートは大歓迎だけど、風邪ひいちゃうのは嫌だよね」 努めて明るい口調の『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)のその言葉は、真柄のその思考を強く肯定した。 夏栖斗のその言葉に怪訝な様子を示す真柄を認めて、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が柔らかい口調で続ける。 「突然お邪魔するけれど、出会ったのは偶然じゃないんだ真柄さん。無意味な血を流したくないし、話を聞いてもらえるかな?」 ぱしゃぱしゃぱしゃと雨が降っていた。 真柄の視線がとらのそれと重なった。美しくも翳りのあるその視線。 「私、あまり他人とお話しするのは好きじゃないの」 「もし今の自分に違和感があるなら、うちらと一緒に来ない? 真柄さんの力になれると思う」 とらの口調はどこまでも優しい。しかし、その一言は『お前のやっていることは全てお見通しだ』と宣告する残酷さも含まれていた。少なくとも真柄はそれを感じ取った。 「雨をどう楽しむかは人それぞれだけどさ、ナイフ遊びは趣味悪いと思うぜ」 『野良リスタ』シャルン・S・ホルスト(BNE004798)の一言が真柄の疑念を決定的なものとした。ある意味で、真柄は警戒することを止めた。知られているのなら、しょうがない。 真柄の目に鮮やかな朱い傘が目に入った。 細身のやや長身の体型に、黄金色の艶やかな髪が見事に調和した麗らかな姿を、真柄は気に入った。 「素敵ね、その傘」 真柄のまるで悪意の無いその声に、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)はにこりと微笑んだ。 「真柄さん。貴方はもう逃げられません。投降してもらえませんか?」 舞姫の声に真柄は首を傾げた。 「投降、ね……」 そのまま真柄はぐるりとリベリスタ達を見回す。ふと、傘も差さずに佇む彼女を認めた。 「あなた、どうして傘を差さないの」 「メイドというものは基本的に傘を差さないものです」 他のメイドもそうかは知りませんが。『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)はあくまで無表情でそう続けた。 「良く分からない理論ね」 真柄はそう言って思わず苦笑した。 「私、雨というやつは嫌いではないですよ」 自分の傘を差すことは無くても、誰かの傘を持つことはありますから。 誰かの為に傘を持つから。 真柄は笑うのを止めた。モニカの目に、自分と似たような感情を視た。 「雨の日に傘を差さない自由はあっても、人を刺す自由なんてものはないンだよ」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の堅い声が響いた。正しく正義を問う声色だった。 それはそうだ。フツの言っていることは正しい。真柄にもそれは理解できる。 だが、その種の『正しさ』が真柄には気に食わなかった。昔から嫌いだった。 「じゃあ、貴方たちに、私を『斬る』資格はあるのかしら?」 『ロストワン』常盤・青(BNE004763)は真柄に見つめられて、少し戸惑った。 初めての実戦。いつか必ず訪れる人殺し。青はそこに完全な決着をつけられているわけではなかった。 ぱしゃぱしゃぱしゃと雨が降っていた。等しく皆を打った。 一瞬静寂が支配して、自然な動作で、真柄は左手をコートのポケットからするりと出した。 鈍く光るその鋭利なナイフ。偽善を穿つ正義のナイフ。 真柄は右手の傘を放り投げて捨てた。彼女の肩先で揺れていた柔らかな栗色の髪が、一気に湿った。 やっぱり雨は良い。真柄は思った。 ● 「Auf jeden Regen folgt auch Sonnenschein、とは言ったものの……」 (日本語にするなら『雨が降った後は必ず日が差す』みたいな意味だけど。 殺されちゃったらその後に日も何もないもの) ジークリンデ・グートシュタイン(BNE004698)は祖国の諺を思い出した。 真柄を挟撃するような編成。彼女の退路を断つ一本の裏路地。 突如赤が舞った。比喩では無く、実際的に舞った。 朱い傘がゆらと揺れて瞬きの内に真柄と対峙した。視線だけが互いに交わる。 舞姫の左手に握られていた傘が、すっと上に放られた。そしてそのままの流れで、左手が業物の柄を握った。 くん、と抜かれた刀身が確認できない内に無数の飛沫が跳ねた。甲高い金属音が一際強く響いて、そして数多の衝突音が霧散した。 時間にして一秒にも満たないであろう。しかし、そこには紛れも無く数えきれない程のやり取りがあって、剣戟があった。 どちらともなく互いに数歩下がった。舞姫がその刀をかん、と鞘に納め、丁度落ちてきた傘を静かに左手で掴んだ。彼女は一切濡れていない。 「やりますね」 舞姫の素直な感情だった。完全な殺意が込められている訳ではなかったとはいえ、その斬撃を真柄は神速の閃でもってほとんどを受け止めた。 舞姫の抱いた感情とほぼ同等のものを真柄も感じていた。しかし、彼女はそれに答えることは無かった。それで終わりではないから。 とらの身から放たれるその気糸。真柄を呪縛し、死に至らせる残酷な糸。 真柄はそれを確認して、むしろ間合いを詰めた。鮮やかなステップが共に気糸を切り刻み、最後の一閃がとらへ致命の一撃とするべく振り翳される。 「っ!」 水滴が舞って、寸での所でとらが回避する。内心ひやっとするが、とらの表情はあくまでも柔らかい。 「ねえ、よく見て。うちらも真柄さんと同じだよ。貴女に興味があるんだ、真柄さんはどう? うちらに興味はない?」 あくまでも彼女を救うために。 真柄は、ナイフの持ち手を逆手に変え、回避されたその斬撃をそのまま再度体軸を捻りとらへと振り翳した。とらの杖が辛うじてそれを受け止めて、思わず後退する。 (拒絶されても気にはしない。慣れてるし) その表情の奥の確かな感情だった。 真柄の目が、陣地作成に専念するフツへ向いた。そしてその気配を、夏栖斗は確かに感じ取った。 その射線を塞ぐように立った夏栖斗は真柄に問う。 「ね、一応聞いておくけどさ、人斬りを辞めるつもりはない?」 真柄はそれを聞いて、口の端を歪めた。 「さっきも言ったけれどね、貴方達だって、人を斬るのよ。私が駄目で、貴方達が許される、その道理はいったい何なのかしら?」 「……僕達は君とは違うよ」 本当に違うのか、と奥底で奴が囁く。 「君にとって人斬りは意味があるのかな」 「無いと言えば嘘になるけれどね」 「それは是非お聞きしたいね」 「雨が止んだら、教えてあげる」 それは明確な拒絶だった。この雨は、あと一日は降り続く。 真柄が動いた。しなやかな肢体が獣のように跳ねて、夏栖斗へと間合いを詰める。 夏栖斗はその深紅のトンファーを構える。彼女のその血を貪るために。 けれど、その仕儀は彼にとって不本意なそれであった。夏栖斗はフツを庇うように、その斬撃を受けた。 「かずくん!」 「御厨!」 近くに位置していた舞姫とフツが思わず叫んだ。それほどの直撃だった。 リベリスタとして幾多の戦いを超えてきた夏栖斗にとっては致命傷程ではない。彼は苦々しく上を見上げて、降り頻る雨を見た。 真柄の右手が、彼女の髪を靡かせた。滴が舞い、すぐに元通りに濡れる。 彼女は群れない。群れるのは嫌いだ。そこには必ず偽善が付き纏う。 群れるのは弱いからだ。群れずに生きるためには、力を得るしかない。 偽善を打ち砕く力を。私を独りにしてくれる力を。 美しく斬る力を。 「やっぱり、雨は素敵ね」 あはは、と真柄は笑った。 ●夏の記憶 「変わってるわ、貴方」 自分も変わっている方だとは思っていたけれど、貴方程じゃないわ、と真柄は呟いた。 「普通、雨なんか降っても憂鬱になるだけ。学校に行くのも面倒だし」 さばさばとしたその言葉に、整った顔立ちの男は少し首を傾げた。 「そっちの方が好きだなんて、性格が捻じ曲がってるわね」 はあ、と真柄は溜め息をついた。 良く分からない男だ。見た目は申し分ないが。 高校最後の夏休み。まあ、確かにこんなにも暑い日に多少雨が降るくらいは、気温が下がってちょうどいいくらいだが。 「雨のどこが良いわけ」 真柄の問いに、男は「音がええ」と関西のイントネーションで答えた。 「冷たいんもええね。冷ましてくれるやろ」 「冷ましてくれる、って、貴方ね……」 呆れて言うべき言葉も見つからない。 「時代が感じられるのもええよ」 「時代?」 「きっと、源頼朝も同じ雨に打たれてたんやろうね」 そう思うと素敵やん、と彼は笑った。 「それは」 確かにちょっと素敵だ、と真柄は思ってしまった。 ● ジークリンデは確実に攻撃の要であった。 真柄自身の斬撃も凄絶であったが、彼女単体であるならば、リベリスタ八名の前に容易く敗北していたに違いない。しかし、その『雨』の効果はリベリスタ達の攻撃を惑わせた。 ある者は味方をも傷つけ、ある者は攻撃もできず、混戦の様を呈していた。 ジークリンデは集中する。詰まる所は、エネルギー的な安定であって、その凹凸の最深部を見極める作業である。 例え雨の日があっても、その後の晴れた空を見れるように。 真柄も彼女の重要性を一見して理解した。 「貴女みたいに美しい女性を斬るのは」 愉しくて仕方ない。真柄が微笑んで、ジークリンデに迫った。 「させるか!」 シャルンの放つ光弾が真柄を牽制する。そのいくつかが真柄に着弾するものの、その威力は普段のものに比べて劣っている。 真柄とシャルンの間合いは完全に縮められた。しかし彼はそこを退くわけにはいかない。 「正直、傷が浅いうちに負けを認めたほうがいいと思うぜ。―――俺だったらそこの先輩方とか相手せずに逃げるよ」 半分強がりで、半分真実だった。真柄は口元に笑みを浮かべて、まずはこの少年から斬ることに決めた。 彼女の両椀が交差し、跳ねるその瞬間、しかしその攻撃を完遂する前に、真柄は瞬時に伏せる。 青の放つ黒気が真柄を掠めた。 (痛みだけは鮮明だ……) 『雨』が確実に彼の体力を削っていた。殺し、殺される、そんな世界に居て、彼は思う。 これは現実なのか。 一瞬そんなことを思って、でも数秒後には炸裂音が響いて、これが現実だと認めざるを得なかった。 「あ」 続いて、真柄の小さな悲鳴が上がった。彼女の左腕が肘から先を失い、『レイニー・アンカライト』が地面へと落ちた。 真柄はとっさに右手でナイフを拾い上げる。シャルンと青に庇われたジークリンデの、更にその向こう。そこで禍々しい重火器を構えるメイドは、やはり無表情であった。ただし、それが無感情を意味するわけではない。 絶好の攻撃の機会である。しかし、何時この『雨』が、誰を錯乱の中へと陥れるか分からない。 実際この時も、夏栖斗は舞姫からの攻撃を受けていた。 「舞ちゃん! しっかりしろ!」 深紅のトンファーと一尺二寸の漆黒の刃が激しくぶつかり合う。紛うことなく、リベリスタ随一の闘士と剣士である両者。その結果が軽微なものである筈が無い。 共に仲間として戦えば心強いが、もし敵に回せば、ぞっとする。 (ごめん) 夏栖斗は心の中で舞姫に謝った。 手加減は出来ない。手を抜けば、自分が殺されることを、彼は理解していた。 酷い絵面だ。陣地作成を終えたフツは様子を見まわしてそう思った。 真柄は額に汗を浮かべていた。しかし、それも雨が流していく。 左肘から吹き出す血液も、同様に雨が流していく。 真柄は頭を振った。 少なくとも、雨の日に負ける訳にはいかない。しかも偽善を体現したかのようなこんな者達に。 右手に力が入る。『こちらの手』では、人を殺したことは無かった。 そんな感傷は一瞬の内に消えた。数多の『鳥』が見えていた。自らを弔うために、肉を喰らい尽くすその『鳥』が。 その濁流が、文字通り真柄を飲み込んだ。彼女も右手を振るう。 斬って、切って、刎って、その先に何があるのだろう。 真柄はそのフツの放った式神による攻撃を耐えきった。彼らが過ぎ去った後に、彼女は立っていた。意地だった。 しかし、その容姿は既に痛々しい。とらの放つ気糸が、容易に彼女の体を捕えた。 「かはっ……」 苦しげに呻く真柄は、傍に近寄ってきたとらを見た。 「状況を見て。負けを認めるのは悔しいだろうけど、かっこ悪くないよ」 やっぱり落ち着いた口調で、とらは言った。 彼女は最後まで諭し続けるだろう。相手が人殺しであっても。 ―――ここで手を離したら、きっとこの人を助ける機会はないだろうと思うから。 「……」 真柄は無言で口の端を歪める。だってそれを否定しないと、彼女はそうしないといけなかったから。 右腕が固定された彼女は、しかし、『斬る』だけではない。 黒い瘴気が、直ぐ傍のとらの頭部へと目掛けて放たれる。 「ああ!」 だが悲鳴を上げたのは、とらではなかった。 先程と同じように、モニカの放つ死神の魔弾が、真柄の左腿と右掌を抉った。体勢を維持できなくなった真柄は、そのまま不格好に崩れ落ちた。 これだから鉄砲は嫌いだ。全然綺麗じゃないから。 自らの顔面を打ちつける雨を見ながら、真柄はそんなことを思った。 ● 「大御堂のメイドさんよ、これ以上は嬲り殺しになる」 フツの制止に、モニカはこくりと首肯した。 「大丈夫ですよ。殺すつもりはありません」 死にたいというのなら話は別ですが。そう言ったモニカは足元の泥に顔を顰めながら、重火器を仕舞った。 『レイニー・アンカライト』の効力は、真柄の手からそれが離れ、彼女の意識がその使役にまで廻らなくなった瞬間に、消失する。雨はただの水滴へと変わる。 真柄の血塗れの右手には既に『レイニー・アンカライト』は存在しない。 彼女にはこれ以上戦闘を続ける余力が無い。リベリスタ同様に運命に愛された存在である彼女とて、既に瀕死と言っても間違いではない。 その『レイニー・アンカライト』をジークリンデが拾い上げる。何が起きるのか分からないのが戦場であり、リスクを最大限軽減させるのは、軍人としての彼女にとって当然の行いである。例え敵が重傷であったとしても、それに変わりは無い。 舞姫と夏栖斗が、真柄と彼女を囲むリベリスタ達の所へと戻ってくる。丁度、舞姫が正気に戻るタイミングで夏栖斗の攻撃が直撃してしまったことを彼女は少し根にもっているらしく、微妙な空気が両者の間に漂っていた。 体中を苛む痛みに喘ぐ真柄を前にして、青は少し顔を反らした。 「お前はオレを戦闘不能にしない限り逃げることはできない。そしてオレはフィクサードをわざわざ逃してやるつもりはないから、お前さんが投降してくれないなら殺すしかない。そうしないと、お前はいつか人を殺すからな」 フツが表情を変えずに言った。 そして、その前者の可能性は既に潰れた。彼女に残された選択肢は二つ。 助けを請うか、反駁して殺されるか。 「命まで取る気はないよ。君も『そう』だと思いたい」 それを聞いて真柄は苦しげな顔はそのままで、口元だけでにやりと笑った。 「ここまでしておいて、よく言うわ」 「僕もそう思う」 夏栖斗は心底彼女に同意した。自分にもっと力があれば。 味方だけでなく、敵をも救える力が無ければ、正義を名乗る資格は無い。 「素直でいい子ね、キミ」 降参よ。そう言って、真柄は意識を失った。 ●戦う意味 (この人達は本当に彼女に更生の可能性があると思っているのだろうか) 買い物でもするかのように人殺しを楽しんでいた彼女に。青は思った。 シャルン同様に、リベリスタとしての初の実戦。初の、命のやり取り。 けれど、彼は彼女を『人殺し』と罵る気にはなれなかった。明日、人殺しと呼ばれるのは自分かもしれないのだから。 「大丈夫?」 青の不安を読み取ったかのように、とらが笑顔で彼に声をかけた。 「痛さそうだったねえ、フィクサードさん」 「そうですね」 「きっと私たちの事を憎むだろうねえ」 「……そうですね」 きっとそうだろう。結局は憎しみを生むだけだ。 「でもね」 とらは続ける。 「また会いたいと思う。きっと共感できる所があると思うから」 そう言って、とらは笑った。 「そう、私たちに彼女を裁く権利はないのです」 ぴょこ、と舞姫が顔を出すと、 「まあ、仕事ですから、余計なことを考える必要はありません。『自分がやる方が気が楽だから』くらいの気持ちですね、私は」 三人の会話を聞いていたジークリンデが堅い口調で話に加わった。とらは「えー、つめたいねー」と返して、それにジークリンデが「いえ、それはですね」と答え、やいやいと議論が始まった。 今は分からなくても、進んでいくしかない。 世界の為という大義を傘にして、冷たい雨の中を歩むような明日に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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