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<ハロウィン2013>万聖節の前に、そっとグラスを傾けて


「ハロウィンって、昔はそんなに騒いでなかった気がするんだけど。
 ……ま、この手のイベントは楽しんだもん勝ちだよな」
 集まった面々にチラシを配りつつ、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言って話を切り出した。
「こないだ、松田と呑みに行ってさ。多国籍ダイニング・バーっての?
 その店で月末、ハロウィンに合わせてイベントやるってんで、お誘いに来たわけです」
 当日は貸し切りで、経費は基本的にアーク持ちになる。
 酒類や料理は勿論のこと、ノンアルコールカクテルやソフトドリンクも揃っているので未成年も安心だ。
「パーティってことで、基本は好きに騒いでもらって構わないんだけど。
 今回は一つだけ、参加にあたって条件がある」
「……条件、ですか?」
 説明を聞いていた『Eile mit Weile』フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) が、ふと顔を上げる。数史は「そ、条件」と言葉を返すと、先を続けた。
「折角のハロウィンだから、仮装してきてほしいんだってさ。
 あまり凝らなくても、簡単なので良いらしいけど」
 成る程――と頷くフェルテンから視線を移し、黒髪黒翼のフォーチュナはその場の全員を見る。
「そこまで高級な店じゃないから、仮装ってルールさえ守ってくれれば大丈夫。
 偶には、羽目を外して呑んだり騒いだりってのも悪くないだろ」
 気が向いたら、足を運んでみてくれ――と告げて、数史は笑った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月12日(火)22:42
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。折角のハロウィン、パーティしてみませんか。
「ハロウィン? 関係ないね、とにかく酒だ!」という方もどうぞ。

●概要
 三高平市内の多国籍ダイニング・バーをアーク貸切にしてハロウィン・パーティを楽しみます。
 時間帯は夕方~夜。『何らかの仮装を行う』ことが参加の条件です。
 (版権に関わる仮装や、露出度が高すぎる仮装などはマスタリング対象となりますのでご注意を)

 店内は広く、カウンター、テーブル席、どちらも選べます。
 落ち着いて楽しみたいカップルや少人数グループ向けの個室もあるため、「賑やかすぎるのはちょっと……」という場合はこちらをどうぞ。

 メニューは『広く浅く』といった感じで、和食、中華、エスニック、イタリアンなど各ジャンルの基本的な料理を揃えています(酒類もカクテル類を中心に各種)。
 ノンアルコールカクテルやソフトドリンクも充実しているので、未成年やお酒が飲めない方も安心です。

 ※飲食店なので、『持ち込み禁止』とさせて頂きます。
 ※状況によっては、プレイングの内容を見て他の参加者と場を共にさせる可能性があります。
  空気を読む努力はしますが、他の人と絡むのはちょっと……という場合は【絡×】とご記載下さい。

【禁止行為】
 ・未成年(実年齢)の飲酒・喫煙。
 ・公序良俗に反する行動、他の方に対する迷惑行為。

●描写人数
 可能な限り全員を描写します。
 (白紙プレイング、上記の禁止行為については描写致しかねます。
  シナリオ概要から著しく外れたプレイングも同様です)

●NPC
 奥地 数史(nBNE000224)、フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)の2名が参加しています。
 いずれも割といける口(数史に至ってはザル)であるため、適当に楽しむ方向です。
 面識の有無に関係なく何らかの反応は返しますので、話し相手にでもどうぞ。

 ※お声掛けがない場合、原則として描写は行いません。
 ※仮装については、リクエストがあれば反映する可能性があります。

●備考
 ・このシナリオはイベントシナリオです。
 ・参加料金は50LPです。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 ・特定の人と絡む場合は『時村沙織 (nBNE000500)』という形で名前とIDをご記入ください。
 ・グループで参加する場合は【グループ名】をプレイング冒頭にご記入いただければ、全員の名前とIDの記載は不要です。
  (グループ全員の記載が必要です。記載が無い場合は迷子になる可能性があります)
 ・NPCに話しかける場合は、フルネームやIDの記載は不要です。
参加NPC
奥地 数史 (nBNE000224)
 
参加NPC
フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)


■メイン参加者 34人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
マグメイガス
セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ホーリーメイガス
リサリサ・J・丸田(BNE002558)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
スターサジタリー
蛇目 愛美(BNE003231)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
覇界闘士
雑賀 真澄(BNE003818)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
ダークナイト
館伝・永遠(BNE003920)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
レイザータクト
梶原 セレナ(BNE004215)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)
プロアデプト
柊・雅行(BNE004801)
マグメイガス
ゼルマ・ゼーゲブレヒト(BNE004820)

粋狂堂 デス子(nBNE000240)
ナイトクリーク
スタンリー・マツダ(nBNE000605)


 ハロウィンの飾り付けがなされた店内は、心地良い喧騒に満ちていた。
 商業地区の一角に位置する、多国籍ダイニング・バー。アークのために貸し切られた空間は煩すぎず、さりとて静かすぎず、絶妙のバランスを保っている。
 その中で、ゼルマは期待に胸を弾ませながら周囲を見回していた。『仮装すれば食べ飲み放題のイベント』と聞きつけ、イルカの着ぐるみで参戦である。
「レッツ・パーーーリィーーーー!」
 大きな声で開会を宣言すれば、楽しいパーティの始まり始まり。賑わうテーブル席についたゼルマのお目当ては、故郷(ラ・ル・カーナ)では馴染みのなかった料理の数々。
「お肉が食べたいんです、ステーキとかもうこの世界の文化の粋じゃないですか! 多分!」
 メニューを手に力説するイルカの背びれが、座った椅子に激突する。この着ぐるみ、可愛いけどちょっと動き難い。
 気にせず注文を済ませ、運ばれてきた料理を早速賞味。お供のカクテルは、グラスホッパーだ。
「チョコレートの味とお酒のいいとこ取りってジャスティスすぎます!」
 さあ、次は何を頼もうか。

 一方で、この場の趣旨を理解しないまま連行されてきた者もいる。
「……何ですか、この服は」
 困惑する佳恋が纏っているのは、体の線が露になった黒のレオタード。首元に蝶ネクタイを飾り、頭に長い耳を揺らしたその姿は、まさしくバニーガールそのものだ。
 仕事だからと言われて来たは良いが、どうしてこのような格好をしなければいけないのか、佳恋にはさっぱり分からない。恥ずかしいし、こんなにヒールの高い靴では思うように戦えないではないか。
「ほら、しっかり歩く! 大丈夫よ、スタイルいいんだから」
 魔女を思わせるレースクイーン風の衣装に身を包んだセレナが、佳恋を引っ張る。重度の『干物女』になりかけている佳恋を救済すべく、一計を案じたのは彼女だ。
 ここまで連れ出すのは大変だったが、この期に少しでも若い娘らしい『遊び』を覚えてくれたらと思う。海賊に扮して同行する桐も、佳恋を何とかしたいという気持ちは共通していた。
(佳恋さんは、恥じらいとかそういうのが一般よりかなり脱落していますし)
 荒療治ではあるが、人目に晒されることで女性の慎みに目覚めてもらえたら――。
 そんな二人の願いをよそに、佳恋が合点がいったように「ああ」と声を上げる。
「つまりこれは、カジノに潜入してリベリスタの仕事をする時の訓練……」
 すぱこーん。天然ボケが過ぎる一言に、セレナが佳恋に一撃。
「……痛いです」
 後頭部をさする佳恋を横目に、桐は苦笑しながら口を開いた。
「先に席についていてくださいね。お酒や食べ物、頼んできますから」
 どうも、佳恋育成計画は前途多難のようである。

 この夏に晴れて成人したことだし、仮装してしまえば人目を憚ることもない。
 酒に慣れる良い機会だと勇んで参加した火車だが、実にあっさりと俊介に捕まってしまった。
「飯食いに来たんだろぉ? 食ってろよ! 独りで!」
「独り言うなや!」
 自分はぼっちじゃないと虚空に向けて語り始めた俊介を軽くスルーして、メニューを手に取る火車。
「えー程々の塩味物に……さっぱり系と……常に美味い漬物みてぇな……」
 隣で「ご飯? 適当にいっぱい持ってきて!」と声がしたが、努めて聞こえないフリ。ペースに乗せられたら負けだ。
「んじゃ、コレとソレとアレで。ビールは……何だコレ?」
 トロピカル調のラベルが貼られたタイのビールに興味を惹かれ、併せて注文。
 届いた品物を前に、こないだ覚えたばかりの飲み方を実践しようと箸を手にした時、俊介が無秩序に料理を乗せまくった皿を横から突き出してきた。
「ふはははは、食わせまくって動けなくして太らせる俺の悪戯開始だぜ!」
「オレ自分のあっから!」
「ほら食え! 全部美味しいんだぜー!!」
「つか話聞けよ! いらねぇし!」
「ハロウィンの醍醐味は悪戯だよな! ……って食べてよおお!」
「だぁあうるせえ! 黙って食ってろ!!」
 すったもんだの後、深く溜息を吐いた火車の傍らで俊介が烏龍茶のグラスを手に取る。構ってもらえないので、微妙に拗ねているらしい。
「くそっ、あと一ヶ月ちょいで俺も酒飲めるもん……」
 その時はまた付き合ってな? と声をかけると、火車は「構わねぇよ」と答えて漬物を摘んだ。

 少し遅れて姿を現したのは、二足歩行の奇妙な怪獣……ではなく、鷲祐。
 初めての仮装ということで着ぐるみを選んだのだが、これが存外キツい。視界が狭くて周りが見えないし、おまけに蒸れる。ここまで辛いとは考えてもみなかった。
 やっとの思いでバーカウンターに腰掛け、怪獣の頭を外す。
「あー喉乾いた……。マスター、何かスッキリ入ってくる酒を……」
 そう言って顔を上げた時、着ぐるみの尻から伸びた尾(自前)が跳ねた。
「ゲェー! 新田快!!」
 当然のようにカウンターの内側に立っていたのは、ゾンビの格好をした“アークの酒護神”。
 屍人だか流しのバーテンだか分からない風貌の彼を一通り眺めた後、鷲祐は気を取り直して注文を再開した。
「よし、更にマルゲリータと餃子と、カツ丼を頼む。全部最大サイズで」
 注文を受けた快は、手馴れた様子で鷲祐の酒を作っていく。『ゾンビ』と名付けられたラムベースのロングカクテルは、口当たりの良さとは裏腹に「死人が生き返る程に強い」と言われる一杯だ。ゾンビの仮装をした快がこれを作るのだから、なかなかに洒落がきいている。
 淀みなく手を動かす相棒を見て、探偵姿の夏栖斗が「ホントお前、酒好きだよなあ」と呟いた。
「ついでに、僕にもなんか美味しい酒見繕ってよ」
 ダメとは分かっていても、成人たちに混ざってバーにいると自分も飲んでみたいと考えてしまう訳で。
 また二年後な、と返す快に、夏栖斗は口を尖らせる。
「……あと二年かぁ~。長いような短いような」
 それまで生きてるかな――と零すと、快は露骨に眉を顰めた。
「死んだら承知しないぜ。もし死んでたら、お薦めの酒を墓にぶちまけてやる」
「わかってるよ、不謹慎だった」
 素直に詫びた後、カウンターに頬杖をついて快と視線を合わせる。
「お前もちゃんと生きてろよ。僕らは、バロックナイツを倒さないといけないもんな」
 この戦いの先に待つものは、まだ分からないけれど。道は、求める未来に繋がっているのだと信じたい。
 ノンアルコールで適当にお願い、と夏栖斗が告げると、快は『ゾンビ』とよく似たカクテルを差し出す。元のレシピから三色のラムを抜き、ノンアルコールのラムシロップで代替したものだ。
「名付けるなら『リビングデッド』かな」
 自分用に作った『ゾンビ』のグラスを持ち上げ、彼は乾杯――と笑った。


 籠の中には、パンとチーズ。
 それを頂くのは、暖炉を司る『ドモヴォーイ』と共にスラヴ人の家に住まい、地下室を守るとされる妖精『ドモヴィーハ』の衣装を纏ったベルカだ。
 家庭の平穏を守り、怠惰を戒める――スラヴ神話の座敷童とも言える妖精たちへの供え物として喜ばれるのが、パンとチーズという訳である。
「うむ、忠実な仮装だ! そうだろう同志フェルテン!」
 勢い良く供物を平らげていく彼女に、眠りの砂の精(ザントマン)に扮したフェルテンが笑顔で頷きを返す。黒ビールのジョッキを傾ける彼に付き合いたい気もするが、今回ばかりは我慢だ。
「今日は飲まずに喰らうぞー!」
 空になった籠を手に、ベルカはお代わりを頼む。

 タキシードにモノクルといった装いで、義弘は店内を気ままに歩いていた。
 皆と飲む酒は好きだ。こういう場所では、何よりも雰囲気を楽しみたい。あちこちのテーブルを巡り、ゆっくりと談笑する。酒の席であれば、普段あまり話す機会が無いメンバーとも気軽に交流出来るだろう。
 過去の依頼で何度か同行したあばたを見つけて、声をかける。つけ耳や尻尾で猫の仮装をした彼女は、軽く挨拶を返すと小さく肩を竦めた。
「バーで飲む機会なんてそうありませんからね。一人で行くと未成年を疑われるし」
 以前にクライアントから貰ったと語る猫セット一式は、童顔の彼女が身に着けると微妙にいかがわしいが、元よりそういう目的のブツなので仕方が無い。
 あばたのグラスが空になっているのを見て、義弘が「何か頼もうか」と尋ねると、彼女は表情を変えずに答えた。
「ではお任せで。軽いものをたっぷりと長く飲みたい気分なのです」
 しばし世間話をした後、義弘は席を辞して店内を見回す。カウンターの隅に数史の姿を認めると、彼は栓を開けたばかりのビールを手に歩み寄った。
 ビール瓶を掲げる義弘を見て、数史は「どうも」と空のジョッキを差し出す。
「たまには奥地の兄さんも労ってやらなければ、な?」
「ありがとう、おかげ様で楽しんでるよ」
 のんびりビールを味わう数史の背後に、汚れた白衣に身を包んだスタンリーが立った。
「Trick or treat,Mr.Okuchi.――お菓子よりも血を。下さらないなら悪戯を」
 反射的に首筋を押さえた数史が振り返れば、「冗句ですよ」と囁いて隣に腰を下ろす。
 血狂いのドクターがカウンターで注文したのは、ブラッディ・マリー。乾杯の後、彼はハロウィンの思い出を訥々と語った。
 我侭な主のために菓子を作る。それだけだった一日を、自分が楽しむ時が来ようとは。
「こうして、平和に愉快に、賑やかさの中に居るのは……悪くないですね」
 生きていて良かったと口にするスタンリーに数史が笑って頷いた時、『相模の蝮』に扮する虎鐵がやって来た。
「おー? なんだ珍しい組み合わせだな」
 その様子を認めて、カラミティ・ジェーンの仮装をした瀬恋が集った三十男たちをしげしげ見やる。
「……あれだな、駄目な大人の見本市だ。ロリコンとロリコンとマダオ」
 虎鐵、数史、スタンリーと順に指差していく彼女に、数史が血相を変えた。
「俺はロリコンじゃ……」
「犯罪者はみんなそう言うんだ。まーアタシも大して変わんねえけどな」
 慌てて弁解を試みるも、容赦なくぶった切る瀬恋。
「数史……拙者はおぬしの味方でござるよ?」
 虎鐵が、数史の肩をぽんと叩いた。
「魔法使いでもいいではないかでござる。拙者も数史と同じロリコンでござるから」
「いや、ですから俺は」
 反論しても、衣装からして『魔法使い』なので説得力が無い。頭を抱える数史をよそに、虎鐵はスタンリーに矛先を向けた。
「スタンリーは何か……拙者と同じ臭いを感じるでござる!!」
 対するスタンリーは、黙って眼鏡の位置を直している。場をとりなすように、瀬恋が言った。
「ロリコンが悪いって訳じゃねえ。こう、何だ、アイってのがあれば構わねえと思うぜ」
 でもアタシにはあまり近寄るな、と念を押す彼女に、虎鐵が力説する。
「違うでござる! 拙者が好きなのは雷音でござる……!」
 この世にたった一人、愛らしい彼女さえ居れば自分は満足なのだ。
 スタンリーは彼の“特別な友達”に対してもっと素直になるべきだし、独り身の数史にも相手ができると良い。
 そう思って虎鐵が顔を上げると、数史が永遠(16歳)に声をかけられていた。
「奥地様、ハッピーハロウィンでございます!」
 瀬恋がやはり、という表情になる中、スタンリーがくすりと笑う。
「応援しておりますよ」
 何ですか、この言い逃れできない雰囲気。

 動揺していた数史が漸く落ち着いた頃、永遠は改めて今日の衣装を披露した。
 三角帽子を被り、マントを羽織った魔女のコスチューム。似合ってるよと数史が告げれば、少女の表情も綻んで。南瓜のパイをお供に、お喋りの時間。
 ふと、永遠が数史の顔を覗き込む。
「……Trick or treat. 奥地様から、まだ頂いておりませんよ?」
 あ、と声を上げた男にお菓子の持ち合わせがないと見るや、少女はそっと彼の手を取った。
 胸の高鳴りを抑えて、自分より一回り大きな手の小指に赤いリボンを結ぶ。二人の視線が、不意に交錯した。
 これは、今出来る精一杯の悪戯。
 もし、恋が魔法だというなら。どうか、解けない魔法がかかりますように――。


 ハバネロから生まれたハバネ郎に三匹のお供の力を合わせた『全部乗せフォーム』の衣装を纏ったコヨーテの傍らには、バンカラ・スタイルに身を固めた真澄の姿。
「年甲斐ないけど一度は着てみたくてねぇ」
 そう語る彼女だが、持ち前の母性と番長の装いが意外にマッチしている。
 互いの仮装を一通り褒め合った後、コヨーテはメニューを差し出して笑った。
「ハッピーハロウィンッ! 今日くらい『お母さん』休憩して、スキなモンいっぱい食って飲んじまえッ」
 文字通り、親子ほども歳が離れた少年の気遣いに、真澄も微笑みを返す。
「……今夜だけは休憩、させてもらおうか」
 メニューを開く彼女の仕草は、少しはしゃいでいるようにも見えて。横からそれを覗くコヨーテの声も、自然と弾む。
「お、日本酒のカクテルなんてあンだ」
「そうそう、美味しいんだよ」
 真澄の声を聞きつつ品書きを追っていたコヨーテが、ふと『撫子』と書かれた紅色のカクテルを示した。
「コレなんてどォだ? 確か日本美人のコトこんな風に呼ぶんだろ?」
「大和撫子なんてガラじゃないけど、いいのかね?」
「イイじゃん、オトナな真澄にピッタリだぜッ」
 遠慮がちだった真澄も、コヨーテに太鼓判を捺されて嬉しげに笑う。はにかんだその表情は、えもいわれぬ程に艶やかだ。
 炭酸水とカクテルで乾杯した後、コヨーテは真澄に語りかける。
「オレが飲めるよォになったら……そン時は酒と酒でッ! 乾杯しようぜッ!」
「ああ、約束だよ?」
『その時』が来るのは、そう遠くない筈。

 黒蝶館の主と、その客人たちを集めたテーブルは、ひときわ賑やかだった。
 場所が場所なので、愛美お手製のケーキは残念ながら持ち込めなかったけれど。卓上には、皆が頼んだ料理や酒、ソフトドリンクが所狭しと並んでいる。
 全員にグラスが行き渡った後、糾華が乾杯の音頭をとった。
「――ハッピーハロウィン! 折角のイベント事ですもの、楽しまなくちゃ」
 芳醇なワインを味わいつつ、氷璃が口元を綻ばせる。
 彼女にとって、この時期はToussaint(万聖節)とDéfunts(死者の日)のイメージが強く、日本のハロウィンはどうしても企業戦略に乗せられたお祭りにしか見えない。
 だから、あまり羽目を外す気にはなれないのだが……それでも、糾華たちが楽しんでいるのなら良いか、とも思う。
「ここ最近落ち着かなかったもの。楽しく遊べる時は遊びましょう」
 微笑む糾華の前で、フツが料理を取り分けながら相好を崩した。
「しかし、女子が多いテーブル席は華やかでイイネ。品があるよな」
 そう言うフツは黒スーツにサングラスで『黒衣の男』の仮装である。MIB(メン・イン・ブラック)ならぬ、MIB(メイン・イン・ボウズ)といったところだろうか。
 串刺し公(カズィクル・ベイ)に扮した悠里を始め、今年のために衣装を新調した糾華や氷璃を眺めて、愛美が口を開く。
「新しくて綺麗な仮装の人達が妬ましいわ……」
 彼女の衣装は、昨年にも使った『レヴィアタン』。嫉妬を司る悪魔というあたり、恐ろしい程のはまり役だ。
 料理を楽しみつつ、全員で歓談する。ふと、悠里がぽつりと零した。
「……大きな戦いが続くし、倫敦も物騒みたいだし、まだまだ頑張らないとね」
 脳裏に、こないだ亡くしてしまった友人の姿が浮かぶ。皆に気付かれないようにと黙祷する彼の耳に、「私も頑張らなくちゃ」という糾華の声が届いた。
「あら、以前から十分に頑張っているじゃない」
 糾華の頭を撫でる氷璃に続き、少女をそっと撫でる。
「――糾華ちゃんは頑張ってるよ。えらいえらい」
 いつまでも落ち込んではいられないと悠里が気持ちを新たにした時、フツが届いたばかりの料理をテーブルの中央に置いた。
「今のうち、このパーティで鋭気を養っておこうぜ!」
 たくさん飲み食いする分、周りにも気を配る彼の働きぶりは、黒衣の男というより黒子に近いかもしれない。
 やがて、お待ちかねのデザートが運ばれてくる。三種のアイスクリームは、一つだけ罰ゲーム用の『当たり』が混ざったロシアンルーレット仕様だ。
 辞退した氷璃を除くメンバーで挑戦することになり、それぞれアイスを選ぶ。
 結果、糾華と愛美がストロベリー、悠里がバニラ、フツがチョコレートを食べることになった。
「どれが『当たり』かしら? 楽しみね」
「イタダキマス。アーン!」
 皆とタイミングを合わせてアイスを頬張ったフツの動きが、不意に止まった。どうやら、激辛のハバネロ入りチョコレートが材料だったらしい。
 どんな『当たり』だって受け止めてみせると辛さに耐える彼を横目に、氷璃が別に頼んだ普通のアイスに蜂蜜をかけたものを糾華に食べさせてやる。
「口に合うかしら?」
「ん、おいし♪」
 自分のアイスを食べ終えた愛美が、アイスティーのグラスを手にテーブルを見た。
 成人しているメンバーは酒も楽しんでいるようだが、酔うとはどんな感覚なのか。辛いことも、酒を飲めば和らげられると聞いたが……。
「……飲める人達が妬ましいわ」
 真偽を確かめられるのは、二年と少し後だろうか。

 その頃、セレナは数杯目のグラスを空にしたところだった。
「お酒の飲み過ぎは体に良くないですよ」
 やんわり窘める佳恋が顔を上げると、色とりどりのカクテルを味見する桐の姿。
「……って、雪白さんもですか」
「私も漸く二十歳過ぎて飲めるようになりましたし♪」
 佳恋が思わず溜息をついた時、セレナは彼女にしなだれかかった。
「!?」
 目を丸くする様子を見て、つい悪戯心が刺激される。
 酔いに任せて腕を伸ばせば、佳恋は慌てて頭を振った。
「待ってください、何故、私は抱きつかれ……ひゃう!?」
 初心な反応を楽しみつつ、じゃれ合いに興じる。勿論、本気で嫌がられるようなことはしない。
 そんな二人の様子を見守りながら、桐は追加注文をするべく店員を呼んだ。

 長すぎるボーダーシャツの袖を垂らして、雅行は気紛れに歩く。
 灰色に塗った肌に縫い目とボルトをあしらったフランケンシュタインの仮装は、狙い通り他と被っていないようだ。
 カウンターに座る数史を見かけて、隣に腰を下ろす。確か、自分と同い年で酒が呑める奴だと聞いた。
「なー、数史って呼んでいいよな」
 返事を待たず自分で頷いた後、雅行は呆気に取られる数史にワインを勧める。
「挨拶代わりにおひとつどーぞ。乾杯っつったら杯を乾かすって習ったろ?」
 改めて隣を見れば、数史は実にいっぱいいっぱいの表情をしていて。先程からさっぱり状況についていけてないと、顔に書いてあった。
 色事においても猛者である雅行には、その理由も何となく察しがつく。
「……まあ、人生そんな時もあるんだよ。これからどーぞヨロシクな?」
 強引に話を纏めると、数史は「こちらこそ」と初めて笑った。

 個室では、恋人たちが二人の時間を過ごす。
 アラビアの踊り子に扮したミュゼーヌの正面には、揃いの衣装でランプの魔人の仮装をした三千の姿。
 三千が頼んだエスニック料理がテーブルにずらり並んだのを見て、ミュゼーヌが「まぁ」と声を上げる。
「食事まで揃えてくれたなんて。流石はランプの魔人さん、抜かりないわね」
 実のところ辛いものは得意ではないので、内心では若干の不安もあったのだが……恐る恐る料理を口に運ぶと、そんな危惧は一瞬で吹き飛んでしまった。
 メニューの中から辛さが控えめなものを選んでくれた彼の気遣いに感謝しつつ、「美味しい」と表情を綻ばせる。
 そんな彼女の様子に、三千もほっと胸を撫で下ろして穏やかな笑顔を見せた。
「賑やかなパーティもいいですけれど、こうして二人でのんびりなパーティもいいですねっ」
 一番奥の個室であるため、バーの喧騒もここまでは届かない。誰に憚ることなく、恋人の晴れ姿を心ゆくまで眺めることが出来る。
 衣装を見せるように腕を広げたミュゼーヌも、「そうね」と相槌を打った。
「ここだけ異国の様で、とても良い雰囲気……」
 高貴に微笑む彼女は本当に綺麗で、時間すら忘れてしまいそうになる。
「きっと、千の夜だって一晩に感じちゃうくらいなのですよ」
 と囁くと、ミュゼーヌは少し不満げに答えた。
「あら、たった一晩にしか感じられないなんて、寂しいわ。
 私は一日千秋の思いで貴方に逢いたいのだから……なんてね」
 席を立ち、三千の隣に座って彼の肩にもたれる。
 普段なかなか会えない分、今夜は思い切り甘えよう――。

 和服に身を包んだ竜一の膝には、昔話に出てきそうな小さな葛籠。
 蓋を開けば、中には艶やかな黒髪と白い肌を持つ美しい少女が詰まっている――と言うと、別の物語になってしまいそうだ。
「あゝ、いとおしい」
 時代がかった台詞で気分を出す竜一に葛籠ごと抱えられながら、ユーヌは軽く身じろぎする。
 ここから出れば普通に動けるのだが、仮装パーティならこのまま参加というのも悪くないか。
「ユーヌたん、あーん」
 文字通り『手も足も出ない』ユーヌの口に、竜一が料理を運んでやる。
 幾つかを平らげた後、彼女は恋人を見上げて悪戯っぽく言った。
「手は出せないが、口なら出せるぞ?」
 竜一から受け取った食べ物を咥えたまま、少し背伸びして彼に差し出す。
 食べないのか、と首を傾げると、竜一は二つ返事で飛びついた。
「はぁん! かわいいよぉ!」
 惜しむらくは直に抱きしめられないことだと悶絶する彼を横目に、ユーヌは葛籠の中で肩を竦めるような仕草をする。
「見せびらかしたいのと、隠したいのと、どちらなのだか」
 彼女の呟きを聞いた竜一の返答は、一片の迷いも無かった。
「見せびらかしながらも、独占する。それが俺のアンサー!」
 まあ、竜一が楽しそうならそれで良いが――。
 このまま行くと、パーティの間どころか、帰り道まで葛籠に入ったままなのだろうか。
 勿論と頷く竜一に、ユーヌはやれやれと息を吐いた。
「……私は別に、箱入り娘ではないんだがな?」


 宴もたけなわという頃、セッツァーが不意に席を立った。
「さて、一曲歌わせてもらうよ」
 声楽家としての顔を持つ彼は、リベリスタ達の拍手を受けて上品に一礼する。
 低く伸びやかな美声が響いた時、パーティに盛り上がる店内がにわかに輝きを増した気がした。
 即興で奏でる声(おと)は耳に心地良く、決して主張し過ぎることは無い。
 主役は音ではなく、この場で楽しむ全ての人々であると、セッツァーは信じていた。
 歌いながら、彼は集ったリベリスタ一人一人の笑顔を視る。
 この笑顔を絶やさぬ為にも、自分はこれからも歌い、戦い続けよう――。

 紳士の優美な歌声をバックに、バーカウンターの端に陣取った義衛郎と嶺はゆるりとグラスを傾ける。
 死神を思わせるローブの上からフード付きのマントを羽織り、王冠と髑髏の仮面を着けた義衛郎の仮装は、空を飛んで美しい女性を攫う悪鬼『コシチェイ』。隣の嶺は、金に緑が混ざったロングのウィッグに花冠を飾り、白いドレスを纏って水の妖精『ルサールカ』に扮している。これらはいずれも、スラヴ神話において語られる存在だ。
 カウンターに並ぶ肴は、カサゴの煮魚に豚の角煮、海老のチリソース。
 いつもは嶺に任せ切りなのだが、今回は珍しく義衛郎のチョイスだ。経費がアーク持ちなのを良いことに調子に乗って高級魚を頼んでしまったが、この程度の贅沢は許されるだろう。
 料理に舌鼓を打ちつつ、ブラッディ・マリーを二人で楽しむ。
 箸で切れる程に柔らかい角煮を口に運んだ嶺が、青白いメイクを施した頬を微かに緩めた。
「ふふふ、今夜は何人分の魂が頂けるのでしょうね」
 気分を出して妖艶な笑みを浮かべる彼女に、義衛郎が軽く肩を竦める。
「役に入り切ってるところ悪いけど、コシチェイは魂取ったりしませんから」
 目深に被ったフードの下からそう告げると、嶺は今日の私たちは悪鬼悪霊ですから――と血色のカクテルを持ち上げた。
“死と不吉を運ぶ者たち”の頭上で、夜は次第に更けてゆく。

 賑やかなパーティも素敵だけれど、こういった雰囲気の中で過ごすハロウィンも良い。
 カウンターの椅子に腰掛け、リサリサは一日バーテンダーの快に酒を注文した。
「お任せで、甘めのものをお願いできますでしょうか……」
 甘口のカクテルを受け取り礼を述べた後、一人物思いに耽る。
 大切なものを護り抜いて散った母の姿が、瞼の裏に浮かんだ。
 万聖節前夜――ハロウィンには、死者の霊が家族に会いに来るのだと言う。母もきっと、この日を楽しんでいることだろう。
 時間をかけてグラスを空にすると、リサリサはテーブルに移動しようと席を立つ。
 後は、皆と楽しく語り合おう。この宴が、終わるまで。

 神を呪う克肖女は、可憐な赤頭巾に変身。
「ね、可愛いでしょ?」
 数史をからかいつつ、海依音は快に葡萄酒を注文した。赤頭巾の飲み物といえば、やはりこれ。
 グラスを傾け、隣の数史に語りかける。
「この前、一緒に飲んだのはいつでしたっけ?」
「確か、鈴の音を聞きに行った時かな」
 あの時から既に半年が経ったのだと思うと、妙な感慨があった。
 海依音がアークに来て、早11ヶ月。色々なことが起こりすぎた一年だった。
「ワタシはね、ここが好きだわ。奥地君はどう? アークってどうおもう」
 問う彼女に、数史は静かに答える。
「……好きだよ。俺が居て良い場所があるとしたら、きっとアークだけだから」
 その声に、報告書でしか知らぬ彼の過去を感じて。
 海依音はふふ、と数史に酒を勧める。
「さ、飲みましょ」
 来年も、再来年も――また幸せでありますように。


 ふと気付いて時計を見ると、もうお開きの時間だった。
 程よく酔いが回ったところで、あばたは席を立つ。
「……適当にアフターも行きたいなあ」
 そう考えている者は、彼女の他にもきっと居ることだろう。

 ――ハロウィンの夜は、まだ終わらない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 グラスを傾けながらのハロウィンパーティ、お楽しみいただけましたでしょうか?
 万が一、どこにもお名前が出ていないという場合はお伝え下さいませ。
(今回は構成上、一部の方は二場面に跨っての登場となっております)

 皆様の思い出の一ページを彩ることが出来ましたら幸いです。
 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!