● しにたくないです。 しにたくないです。 けれど、おびえて、ふるえて。 それだけしか、できないんです。 ――このクソガキが! いい年で家事の一つもまともに出来ねえのか! けられて、なぐられて。 いたいのを、ひっしでこらえて。 なみだも、ひめいも、ぜったいにださないように、しながら。 だって、そうすると、おこるんです。 おこったら、ころされるんです。 ――テメエの親は誰だと思ってるんだ! 養ってやってるのは誰だって言うんだよ! ああ!? 『ごめんなさい』を、なんどもいいます。 ゆるされるまで、なんどもいいます。 だって、ころされるから、しんでしまうから。 おかあさんのように、なってしまうから。 ――クソっ、死ね! 死んじまえ! テメエなんか引き取るんじゃなかった! がつがつ、というおととともに、ぴちゃぴちゃ、というおとがします。 それがなんなのか、よくはわからなかったけれど。 すこしだけ、さむくなって、ねむくなって。 ああ、このまま、すこしだけねむろうかな、なんて、おもったんです。 ごめんなさい、おとうさん。 おきたら、ちゃんとがんばりますから。 おとうさんがほしいわたしに、なりますから。 だから、ほんのすこし、すこしだけ。 ● 「アーティファクトの引き取りに、行って貰えませんか」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達へ、天原・和泉(nBNE000024)は淡々と説明を始める。 「引き取り?」 「ええ、ある一般家庭に置かれている骨董品の掛け軸ですね。 これ自体は実のところ精巧な偽物で、金銭的価値はありません」 問うたリベリスタに対する解答は淀みない。 だと言うのに――些少、拭いきれない表情の硬さが、リベリスタ達に不安を抱かせる。 「非戦スキル等で強引に奪うことも出来ますが……流石に飾られた掛け軸を丸ごと持っていくのは少々無理が過ぎますし。 今回は時村財閥の名を借りて、『名のある骨董品』を引き取り、持ち主に幾らかの謝礼を贈る、という形で話が纏まりました」 「……。注意事項は?」 「そう、ですね……」 手元のファイルを確認しながら、和泉が言葉を濁す。 数秒の沈黙。後に口を開く和泉に、リベリスタは首を捻った。 「リベリスタとして、行動してください」 「……何?」 「多少の逸脱は、皆さんへの依頼である以上容認はしますが、神秘以外への過度な干渉は控えるようにしてください、ということです」 意味がわからない。 それを口にするまでもなく、和泉は無言で、コピーした資料を全員に配布し――それに目を通した彼らから、目を逸らした。 「忘れないでください」 自らの罪から、逃げるように。 「私達は、所詮『神秘程度』でしか、人を救えないんです」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月07日(木)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 少しだけ、空がくらい日。 傷あとを見られないように、あつい日も着ていた長袖の服が、ようやくあったかくなってきたころ。 「……?」 学校の帰り道、めがねを掛けた知らない女の人が、私を見つめていた。 先生は、こういう人とお話ししちゃいけないと言っていたから、知らないふりをして帰ろうとしたけど。 「――――――、ちゃん?」 「……っ」 知らない人が言った、私の名前。 それにおどろいて、足が止まる。 ふり返って、声を掛けた女の人は、私に目を合わせていた。 「怖がるのは解る。けど、少しだけお話ししない?」 だめだと言いたかった。 でも、言ってはいけない気がした。 さそい込まれるような真っ黒な目と、もう一つ。 「あたしは、あなたの味方だから」 お日様のような笑顔は、どうしても、私にうそをつくように思えなかったから。 ● 「いやあ、どうも申し訳ありません。こんな狭苦しい家の中で。 あ、よろしければお茶など如何でしょうか? 丁度先日良い茶葉を知人から貰いましてな。お茶請けは此方で用意してありますので……」 「……いいから、早く案内して」 時刻は午後三時、少し前。 正しく媚びるような表情を隠しもせず、現れた『引き取り手』に対してひたすら平身低頭する男を見て、『愛を求める少女』 アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はせめて外面には感情を見せまいと、淡々とした体を装って男に話しかけた。 ――見捨てられない。見捨てたくない。それは唯の自己満足でしかないのかもしれないけれど……。 和泉からの説明、そして与えられた資料に示された情報は、此の少女に怒りを抱かせるには十分に過ぎた。 誰かの都合で嬲られる子供。それはアンジェリカにとって、鏡の中の自分を見るような痛みを伴わせている。 今も、それは変わりない。 集音装置、千里眼。神秘を介して少女を探るアンジェリカには、声を押し殺し、ゴミだめのような物置の中に蹲る矮躯が視界に映っている。 父親を殴りたい。今すぐ彼の子供の元に駆けつけ、その身体を抱きしめてやりたい。 その思いを抱いているのは、彼女一人であるはずもなく。 「………………」 『レッツゴー!インヤンマスター』 九曜 計都(BNE003026)。 自らにとって許されざる一線を越えたこの依頼の影に対して、彼女の気性は荒く、猛っている。 自らが得た望外の力。一般社会の制限などものともしない夢のような其れ。 だからこそ、其処には責務が在った。 望むことに力を振るえず、望まれざる時に力を振るわされ、そうして蓄積したココロの汚泥は彼女だけではなく、多くのリベリスタ達を侵す毒である。 それでも、耐えなければ。 耐えなければ、彼女はセカイを守れない。 ――しかし、けれど。 『見捨てるなんて、できるわけないだろうがよッ!』 枠組みに嵌められた仕組みの中で、その外に眼を向けるべきではないのか。 否だ。其処に手が届かなくても、声が届くことがある。想いが届くことがある。 (……隠匿もできたはずの情報。 あえて教えてくれたのはそういうことなんだろう) だから、『ディフェンシブハーフ』 エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は揺るがない。 精悍な身体を活かして、物々しい保護器具を家中に運ぶ。作業員然とした彼が小さく取り出したメモは、愚鈍な父親に気付かれることは無かっただろう。 内容は、『健全ロリ』 キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)が調べた、この家を中心とした地図。 流石に小学生が此方にいるとなれば、家主も怪しむだろうという判断で、彼女当人はこの場には居ない。 その分を取り戻すべく、彼女が手に入れた情報――『匿名の通報』に適した場所や、近隣の住居との距離をしっかりと覚え込みつつ、彼は口の中で呟く。 ――いろんな意味でデリケートな問題ではあるが、ご期待に沿えるよう頑張ってこうか。 一部除かれた面々は別に、作業はつつがなく進行していく。 父親は何かと在ればリベリスタ達を気遣い、もてなそうとする。 (以前はどうだったか知らないが、今のコイツは……) 歎息を交えたのはクリス・キャンベル(BNE004747)だった。 当初、与えられた依頼の目的に対して、余りにも『過ぎる』実働部隊の人数の多さ、力量の高さに対して、此度が初依頼となるクリスは首を捻ったものである。 が、実際にその人柄に会って、彼女も他の面々と僅かながら想いを等しくした。 多様な主義、思想を持つ人種を抱えるアークにはそうでない者も居るかも知れないが、少なくともクリスにとってこの男は――『気に入らない』。 同様に。 「あー、早々と適当に仕事して帰ろ、たりー」 篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)もまた、吸えない煙草(骨董品の移送という名目もあるため、だ)によるストレスも併せ、その心中は穏やかとはほど遠い。 虚実に心を置く神秘の力も在って、表面上の平静を保つことは出来ているが……事が済んだ後の彼女の思考を知るものは、少なくともこの中には居なかった。 「……それじゃあ、こんなに勧めてくれていることですし、お茶でも頂きましょうか?」 作業の半ば、そう言ったのは『心殺し』 各務塚・思乃(BNE004472)だった。 普段の姿とは違い、スーツを着てキャリアウーマンを装う彼女がそう言えば、父親の側は慌ててそれを手伝おうとするが、思乃が二、三言を話せば、意外にもあっさりと父親は引き下がった。 但し。 「それじゃあ、台所は其処にありますので、お客様にお手数をお掛けしてしまいますが、よろしくお願いいたします」 「……え?」 その後の展開は、思乃にとっては予想外だったと言える。 台所に行く隙に場を離れ、こっそりと娘が居る場所へ向かう、と言うのが思乃の考えだったが、生憎と事前情報に在るとおり、この家の部屋数は多くない。 結果、台所が居間の片隅に引っかかっているような体となっており、これでは到底父親の目を盗んで……という事は出来ない。 「取引に興味あんまりないんで、ちょっと家の中探検してきていいですか?」 「え? いや、ご覧の通りですよ。部屋もなくて何もない家です」 同じくして、見計らったタイミングで言った『三高平の悪戯姫』 白雪 陽菜(BNE002652)に対しても、父親の声は肯定的ではなかった。 当然だ。元より彼らリベリスタのイメージを上げて、謝礼金を上乗せして貰おうとしている父親からすれば、『見られたくないもの』を覗かれてしまうことは避けたい。 かといって、安易な否定で彼らの評価を損なうことも避けたいと言うのが、父親の考えである。 「……では、物置以外なら。突き当たりの部屋です」 「うん、ありがとう」 「……ああ、俺もちょっとトイレに」 併せて、エルヴィンも手を挙げ、部屋を離れていく。 早速も胸中穏やかでなくなった父親は、其れに目に見えて慌て始める。 許可したばかりの『探検』を止めるべきかと、その身体が廊下に向かうより、早く。 「……はい。お茶をどうぞ」 正に絶妙なタイミングで、思乃がその動きを留めたのである。 ● 真っ暗な物置の中。私はひざを抱えて、じっとうずくまっている。 家の中のお酒のビンとか、缶とか、そんなものに埋もれながら。 ……ヤだな、なんて。 小さくつぶやいた私の前で、音もなく、とびらが開いた。 けれど。 ――こんにちは。貴方が――――――ちゃん? 見えたのは、お父さんじゃなくて、知らない女の人、男の人。 にげることは、出来なかった。 ここが、物置の中だからっていうのもあるけど。 ――こんな狭いところにずっと居たのか? よく我慢できたな。 大きくて、かたい手が、傷だらけの私のうでに、そっとさわった。 おんなじ大人の男の人なのに、お父さんのげんこつとは、全然ちがう手。 ――私達ね、お仕事で此処に来てるの。 ――他のみんながお仕事してる間、私達はあなたのお話相手になりたくて。 きれいな金色のかみと、緑の目。 ぼうっと見とれてた私に、女の人が小さく笑うと、私はあわてて目をそらした。 ――だめかな? 女の人が、そう言った。 男の人は、やさしい顔のままで、私の傷にばんそうこうや、包帯を巻いてくれる。 どきどきして、顔が赤くて。 何だかはずかしいけど、それでも、私は小さくうなずいた。 女の人が、それを見て手を伸ばしてくれる。 私は……、 その手を、ぎゅっとにぎりしめた。 ● 依頼自体はつつがなく終了した。 一部のリベリスタが不自然に席を立ったり、偶に何かを堪えるように動きを止めることもありはしたが、元より過酷な環境に置かれ続けてきた彼らは、そのような所作を一般人の父親に気取られることもなく、現在。 「さーて、会社勤めのOLよろしく、アフター5を楽しもうかねェ」 一同から離れ、動きを始めたのは杏香だった。 ウィッグや工具箱、ロングコート等、工務作業員でも見えそうな風体を装い、最後に抜き身の包丁を工具箱の中にしまい込む。 ――それが彼女が取ろうとしている行動の、明確な証左だ。 誰にも気付かれず、動こうとした彼女を……けれど、いつの間にか近づいていたキンバレイが、止めた。 「……退け」 「嫌です」 短文の応酬。 自らよりも遙かに年下の少女に対して、杏香が溜息混じりに頭を掻いた。 「あたしゃ神秘を使わずに活動してんだ。神秘に関係ないことに首突っ込むな、ってのがアークの方針だろ? まさか干渉はしねぇよなァ?」 「私だって――人でなしキンバレイとしては、あの少女がどうなろうが知ったことではないのですが」 一旦、言葉を切る。 次いでキンバレイが取り出したのは、携帯電話だ。 「――市――、――丁目で娘が父親に暴力をふるわれています。傷害か殺人未遂に思われたので警察の方に連絡しました。 消防にはこちらから通報します。通報があったのに助けられなかったとかマスコミに叩かれるのは嫌でしょう? ちゃんと行ってくださいね。では」 通話ボタンを押さずに、淡々とした口調で其処までを言った彼女は、再び杏香を見上げる。 「この程度のことでフォーチュナーとリベリスタの機嫌が取れるなら多少の残業は構わないでしょう……今回、私と同じコーポの人までいますし」 「……お優しいね」 両手を挙げ、降参のポーズを取った杏香が、其処で漸く折れる。 そうして――両者の視線は、ほど近くにぽつんと立つ、公衆電話のボックスに向けられた。 「クソ……クソ、クソがっ!!」 場所は変わる。 昼にリベリスタ達が向かった家。其処では未来視にあったとおり、父親から娘に対する凄惨な虐待が始まっていた。 「……っ!!」 響く殴打の音は、生々しくも痛々しい。 蹲って、ただ暴力を耐え続ける少女に対して、けれど父親の怒りは止むことがなかった。 「あの程度の謝礼金で、どう暮らせっていうんだ、畜生!」 ひゅう、ひゅう、と呼気が漏れる。 通常では出ないような呼吸の音を出す少女の命は、故に其処まで削られていた。 「そもそも、手前が……!」 「――――――止めて!」 適当な物を掴んで振り上げた父親に対して、少女を守ろうと飛び出したのはアンジェリカだった。 瞠目する父親を無視して、微かに顔を上げた少女の身を優しく抱きしめる。 覗いた顔は、何処も腫れ上がっていた。 その痕跡を――父親が為した非道の証を見て、アンジェリカが思わず幻想纏いを出ださんとする。 けれど、止めた。 理由は解らない。彼女の中にあるリベリスタとしての矜恃か、彼女自身の弱さか……或いは、生来の優しさが故か。 「……女の子が、怪我をして倒れています。今すぐに来てください。場所は」 「おいアンタ、何を勝手に!」 携帯電話を取り出し、救急車を呼ぶアンジェリカを、父親が止めようとするも。 「……まぁ、心情的にも放っておくのは気分が悪いしな」 その足を綺麗に払ったクリスが、地に伏した父親を踏みつけにする。 暴力と言うよりは、動きを止めるための拘束だ。通報を終えたアンジェリカの携帯電話を受け取り、彼女も彼女で児童相談所に連絡を入れる。 「人の家に勝手に上がり込んで何のつもりだ、アンタら! 警察に通報するぞ!?」 「……その有様でよく言えるな。そもそも、呼ばれて困るのはお前の方じゃないのか?」 何を、と言いかけた父親に対して、次いで現れたエルヴィンと陽菜が、にこやかな笑みで各々の携帯電話を取り出した。 画面に映るのは映像データ、並びに録音データの再生画面。 「すいませんね、さっきここに携帯電話を忘れてしまって」 「アタシはちゃんと許可取ったもんね? 物置以外なら、何処を探検していても良いって」 それを見て青くなった顔が――刹那、爆発したように沸騰する。 「クソッ、ドイツもコイツも馬鹿にしやがって! 手前離せ! 殺す、殺してやる! お前等全員ブチ殺してやる!」 「……巫山戯んな、クソ親父」 語彙の無い罵声をものともせず、髪をひっつかんで無理矢理頭を上げさせた計都が、その目を――魔眼を、合わせた。 催眠状態に掛かったことを確認して、計都は視線を少女の側に移す。 彼女の前には、先ほど言葉を交わした陽菜とエルヴィン、そして思乃が付き添っている。 アンジェリカの手によって新たに巻き直された包帯やガーゼを身体中に付けながら、少女は忘とした表情でリベリスタらを見上げていた。 自らの名を名乗り、少女の名を聞く思乃。 あの時出来なかったこと。今なら、かんたんに出来ること。 ――その時間の最中に、これ程にも、可憐な矮躯は穢されてしまったけれど。 「……ねえ、――――――ちゃん」 「なあに?」 「お母さんのこと、好きだった?」 「……うん」 小さく、頷く。 視界の端に覗く父親に怯えながら。けれど、はっきりと。 「好きだったよ。一緒に、居たかったよ。 でも、お父さんがころしちゃったから。もう会えないのが、すごく、つらいけど」 だけどね、と、少女は言った。 そしたら、お父さん、ひとりぼっちだから、と。 「こわいけどね。痛いけどね。お父さんがさびしがっちゃうの、いやだから。 それに、死にたくなんてないけど、もし私が死んじゃっても、天国でお母さんが待ってるから、だから」 「……駄目よ」 その頭を、思乃は抱き寄せた。 涙もない。凡そ只の伽藍となった幼子を、自らが母親となったように、愛おしく。 「お母さんのために、生きてね。 お母さんの分まで――死なないでね」 ……少女に、本当の思いを吐き出させようと魔眼を用意していたエルヴィンは、その必要がないことに苦笑する。 最初から、彼女は純粋だった。純粋に無色で、だから自分の思いを持っていない。 だから、それに、これから色を付けていこう。 少女のココロを、少女自身の手で。 「……本当のことを、言え」 計都が、父親に向かってそう命じる。 母親が死んだあの日、父親が吐いた嘘が、そうして無くなっていく。 少女は、それからリベリスタ達が去るまで、泣き続けていた。 ● 「……心情は理解できますが」 後日。一同が和泉の元に呼び出された。 向かい合う姿は、歎息を交えながらの同情。それでも、和泉は静かに自らの役目を全うすべく、全員に対して処分を告げる。 「大本の依頼の条件はクリアしておりますし、本件は大きく一般社会に関わるような事態では在りませんでした。ですので、この件に関しては処分は見送ります。 ですが、これが本来認められる行為ではないという自覚を、しっかりと持ってください」 曖昧に頷く者、明確に反抗を示す者。 その中で珍しく、素直に反省していたエルヴィンが、形成されつつある険悪なムードを払うよう、小さく問うた。 「……そうそう、あの後ふたりはどうなりました? 当然調べてるんでしょ?」 「……懲りない方ですね」 苦笑を浮かべた和泉もまた、それがまんざらでも無いことなど、きっと誰もが気づいていただろう。 「彼女は、現在――」 ● 見える景色は、何も知らない場所のもの。 きらきらかがやく太陽と、ざわざわと鳴く森の音と。 誰もいない、小さな駅のホームで、私はそればかりを聞いて、ながめている。 お父さんがどこかへ行った、あの日のあと。 私はよく解らない人に、私も知らなかった、とおいとおい親戚の、おばあちゃんの話を聞いた。 その人の元で暮らすのか、それとも、この近くにある施設で暮らしていくか。 聞かれた私は、何となく、おばあちゃんの方をえらんでいた。 いじめられてた子供だと、みんなに言われるのがいやだったこと。 お父さんと居た場所で、もうお父さんと会えないこと。 理由は色々あるけど、多分、本当のわけは…… ――あら、貴方が――――――ちゃん? 初めて聞く声に、ぱっとふり返る。 見えたのは、小さなおばあちゃん。 「……はい!」 言って、タン、とかけ出した。 腕に巻いた、蝶々結びの包帯が、風をうけてふわりと広がる。 「これから、よろしくおねがいします」 かけつけて、一つ礼をする。 いっしょうけんめいの挨拶をして、返ってきたのは、言葉じゃなく、ただの笑顔。 いつか、あの女の人がしてくれた、お日様のような、笑顔だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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