●例えるならば、スパルタン 戦場で黒い渦に飲み込まれて、気がつけば血に倒れ伏していた。 かろうじて目玉を動かせば、部下も共に倒れ伏している。 ここはどこだ。 見たことがない色の空が広がっている。 かいだことのない臭い。何もかもがこれは元いた所ではないと伝えている。 しかし。 神殿の天井に描かれた父祖の物語に出てくる空の色。 父祖から代々言い伝えられた敬虔な神官たちが住まう別天地。 願わくば、今一度、我らを仲間の元へ、戦場に戻したまえ。 母なるテミルよ。どうか、われらに恩寵を。 ●ノー・シェイク・ユア・フィスト 「報告書を読んではいたけれど、自分が見るとは思わなかった」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターにごろごろ転がる巨大な生き物を映し出した。 「瀕死のアザーバイト数体がそろそろこの世界に出現する。治してあげて」 討伐依頼ではないのかと、リベリスタ達は首をかしげた。 「自分の世界では他の凶暴種の餌。死ぬと特有の臭いがするんだけど、その臭いがD・ホールの向こうから凶暴種を呼び寄せる。この凶暴種が出てくるとめちゃくちゃ厄介だから絶対死なせないで」 資料によれば、とある廃村が現場。 「ここ、以前にもこの世界のアザーバイドが出てきたところ。同じ種類だけど、別の個体が複数」 状況はそっくりそのままだけど。と、イヴが付け加えた。 「具体的に言うと、流血だらだら。ほっといたら即死ぬ」 何でそんな状態で来るかなー。 「多分、向こうのD・ホールが一定の条件を満たしたときに開くんじゃないかと推察される」 戦場で瀕死になったとき神に祈りを捧げると、次元の門が開かれる。とは、さすがのフォーチュナも予想しがたい。 「とにかく、治せてしまえばこっちのもの。凄まじく帰巣本能が発達している。母集団と一緒にいないと、さびしくて死んじゃうみたい。だから、傷が完治すれば自力で帰る。条件がHP満タンなのは、前回で立証されている」 前回の戦闘風景がモニターに映っている。 回復すればいい戦場にしては、癒し手がみんな血みどろだ。 「だけど、大人しく治させてくれない。向こうは全開で攻撃してくる。意思の疎通取るとかも期待しない方がいい」 イヴは、ふうとため息をついた。 「前回、件のアルマジロ『将軍』の思考痕跡を入手できて、現在も解析中なのだけど。どうやら、アルマジロはその宗教的観点に基づき、最大限の感謝の証としてリベリスタを天国? に送ろうとしていた」 う~わ~。現世は地獄。来世こそ楽園的宗教観。 そりゃ、サーベルタイガーに襲われ続けてりゃ、そういう宗教も芽生えるかぁ。 「で、『将軍』は神格化されてしまったみたい。この次元は、アルマジロたちにとって戦士が送り込まれる癒しと試練の場。『将軍』から数世代隔てた子孫の彼らは今度こそ彼らの父祖の果たせなかった『恩返し』を完遂させようとする」 とてもいやな予感がするのですが。 「それはもう、心を込めて、天国に送ってくれる気満々。宗教的偉業が掛かってる」 抵抗しちゃ駄目ですか。 「攻撃しちゃ駄目。癒すだけ。せっせと治して、可及的速やかにお帰りいただいて」 イヴは、あ。と声を上げ、思い出したように付け加えた。 「D・ホール。壊してくるの、忘れないでね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月24日(日)21:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
● 「いつも以上に頑張って! 一生懸命お相手しまっす!!」 『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)は、盛り上がっていた。 「D・ホールの塞ぎ忘れとは痛恨のミスでしたね。本当の駆け出しの頃で目の前の事で精一杯でしたし……。あの頃より少しは成長出来ていると思いたいところですが」 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は、反省しきり。 「あの時」のことを思い出して、ちょっと目が遠いところを眺める。 「あの将軍が伝説って聞くと感慨深いわ」 そう言う来栖・小夜香(BNE000038)に、そうよね。と、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は相槌を打つ。 「だけど、あぁぁ、なんてことなの。異文化の理解ってほんと難しいわよね」 よもや、あのときの「将軍」が「お礼に、素敵な天国に送ってあげるね!」とか考えていたとは夢にも思ってなかった。 (もう、完膚なきまでにぶっ治してあげるわ) 淑女の決意もまた固い。 「まったく、感謝が天国行きとは」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は、ニニギアに相槌を打つ。 (完全に他人事なら野垂れ死にして貰ったんだが。まあ良い、向こうがどんなところか知らないが直ぐにお帰り願おう) 「ゲートを放置してしまった私達にも問題があるが」 (まあ、死ぬなら自分の世界で死ねという事だな) 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)は、以前の結論に再度至る。 「今度はしっかりと破壊しなければな」 それそれと、周りも頷く。 前回も忘れていた訳ではなく、現場ではAFの機能がロックされるということが周知されていなかっただけなのだ。 アークのリベリスタの活動黎明期の微笑ましいエピソードともいえる。 再び、ゲートから瀕死のアルマジロが四体も転がり出てこなければ。 ● 猫の額ほどの狭い広場に、でっかいアルマジロが四体も仁王立ちしている。 噴き出す血液、足元に広がる血だまり。 一部のリベリスタに、軽い既視感。 そのアルマジロの前に立ち塞がるように、三人の戦士が飛び出した。 (命を助ける任務か。実に、いいな。たまにはこういうのがあってもいい) 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883) は、赤いアルマジロの前に立ち塞がる。 「敵と味方を分断するんだ! 後衛に敵を寄せ付けるな!」 雪白 桐(BNE000185)が、青いアルマジロの前に立ち、もう一方の黄色いアルマジロにもちょいちょいと指で手招きする。 「協力して目的達成されては?」 (させる気は欠片もありませんが) 涼しげなスカートをはいた少女のなりをした少年は、二体のアルマジロに向けて、守るための剣を構えた。 (できることなら、異界の戦士たちに敬意と労いを示したかったが、時間がない) 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、新将軍の前に立ち、高らかに言った。 「――来るが良い、勇猛なる者、尊き信仰者よ、私に汝が武を示し、糧とせよ!!」 「……アルマジロさん……可愛い姿なのに……物騒。」 エリス・トワイニング(BNE002382)から、ほとばしる光。 アルマジロ達の体表面から吹き出していた血の流れが徐々に収まり始める。 更に、詠唱を終えた癒し手達の福音が、ユニゾンで空から降り注ぐ。 カルナ、俊介、ニニギア、瞳、『ごくふつうのオトコノコ』クロリス・フーベルタ(BNE002092) 、氷夜 天(BNE002472) の六重奏。 生気を失い、後は死の腕を待つばかりだった四対の目に、感動と感謝と決意の焔が点った。 ● 言い伝えは本当だったのだ。 偉大な母なるユミス、父なるテモス。 この身に余りある恩寵に感謝いたします。 そして、父祖以来の宿願を果たす機会をお与え下さいましたことを感謝いたします。 伝説にある姿そのものの神官もいる。 まさしく、彼らこそ至高のゲラネクマセに住まうべき存在なのだ。 神々は、われらに、彼らをくびきから解き放てと仰せなのだ。 何を言っているのかは微塵も分からぬが、この身が癒えていくではないか。 そしてわれらが前に盾を構え立ちたる神官達。 まさに戦士の名にふさわしい者たち。 おお、敬虔なる異郷の神官団よ。 我らは父祖の残心をこの場にて断たん。 必ずや、我らが貴殿らを美しき至高のゲラネクマセにお連れしよう。 宗教的高揚感が、新将軍の闘志を後押しする。 アラストールの眼前の新将軍から闘気が吹き上がった。 ● 直立アルマジロ達は、空に向けて吼え、天地に向かって礼をし、リベリスタ達にも礼をし。 無挙動で、剣を振り下ろした。 ゲルトが、アラストールが、桐が、全力でその攻撃を受ける。 ほとばしる雷撃に、辺りが一瞬白く染め上げられる。 しゅうしゅうと地面から煙が上がり、下生えが黒く焦げ、青臭い異臭を放つ。 いずれ劣らぬ鉄壁の騎士達である。 ゲルトと桐は、体から抜けきらない電気の気配に眉をひそめる。 アルマジロは、ふんふんと鼻息を荒くし、口からごふっと血を吐いた。 「あんたらの親切は迷惑千番なんでな。帰ってもらうぞ」 ゲルトの体が光を纏い、より強固な加護を手に入れた。 アラストールは、新将軍に自動治癒の加護を授ける。 「ふむ。世代を超えて成長しているようだな」 前回のデータと照らし合わせて、アルマジロの分析を終えた瞳が呟く。 体はより強靭に。技はより研ぎ澄まされ。 「よっしゃ! んじゃ新将軍サマのお相手するな!」 俊介は、アラストールの後ろに陣取り、新将軍に柔らかな風を送る。 (だって凄いやりたかったお仕事だもん。超頑張るもん) 「では、こちらの方を……」 青いアルマジロに、カルナが癒しの微風を吹かせる。 「喚くな。暴れるな。怪我人なら怪我人らしく大人しく癒されろ」 ユーヌが戒めの呪印を組み、黄色いアルマジロを縛り上げにかかる。 会心のかかり具合。 見えない何かに動きを阻まれた黄色いアルマジロは、ぼおーっぼおーっと吼えた。 (僕、この世界生まれで本っ当に良かったぁ……のに、凶暴なの引き込まれても困るし!) アルマジロの死臭につられて出てくるサーベルタイガーもどきは極力避けたい天は、カルナに合わせて青いアルマジロを癒した。 幾重にも重なる天上からの福音。 自らの魔力の循環を促す魔法陣と共に、辺りは荘厳な雰囲気に包まれた。 ● なんという不名誉! 恥ずるがよい、@@@@@(発音不可能)よ! 敬虔にして屈強かつ清廉な神官団より、聖なるヘゲンタホを受けることになろうとは! 小さな神官は@;@;@(発音不可能)が既に剣を交わしていた。 お前は待つべきであった! 名誉ある戦士にふさわしい、一対一であるべきだったのだ! おお、@@@@@(発音不可能)よ。 そなたの勇み足は、私の責任でもある。 嘆くな。心を強く持つのだ。 他の神官を至高のゲラデクマセにお連れする任をそなたに与えよう。 奮い立て! ● 新将軍が吼えた。 黄色いアルマジロは、しゃくりあげるような声を出しながら吼えた。 アルマジロを戒めていた呪縛が、崩壊した。 俊介に猛烈な勢いで突っ込み、雷の剣を振るう。 ばっくりと断ち割られた胸部から、しとどに血があふれ出る。 失血から来る急な寒気に歯をがちがち鳴らす俊介に、恭しくアルマジロは礼をした。 血で赤く染まった剣を大事そうに天にかざし、アルマジロはボーっと吼える。 他の三匹も遅れはとらじと剣を振り回す。 ゲルトの防御に落ち度はなかった。 しかし、それ以上に赤いアルマジロの発奮は凄まじかった。 押さえにかかるゲルトの盾ももろともと打ち叩いた剣よりほとばしる雷撃が、ゲルトの内部を白く沸騰させた。 それでも『鋼鉄の砦』、健在。 その身の半分以上を一撃の雷撃で痛めつけられようと、膝をつくには及ばず。 痺れが残り、ともすれば滑り落ちそうになる盾を掲げ、赤いアルマジロの前に立ち塞がり、その身から痺れをのぞく光が放たれる。 癒し手の詠唱が途切れることはなく、アルマジロも前衛三人も同じように癒されて行く。 傷を負ってからものの数秒でゲルトの傷は完全に癒えたが、アルマジロたちに刻まれた傷が完全にふさがるには、まだまだ時間がかかりそうだった。 ● 治しても治しても、アルマジロ達が帰る気配がない。 黄色いアルマジロが、癒し手達に雷を振りまき、血反吐を吐かせる。 痺れて覚束ない指先を癒すべく、何度となく広場が光で満たされた。 「痛くたって、もうだめだ~なんて顔しないっ」 ニニギアは、歯を食いしばる。 負担の大きい福音召喚をずっと続けている。 両手に抱える魔道書に血が滴っても、あの日と同じように元気な声で全体を鼓舞した。 「いい顔色になってきたわよ、たぶん!」 厚い甲羅に覆われたアルマジロの顔色など分かるはずもない。 たぶん! というニニギアの正直な鼓舞に、一同は、つかの間頬を緩ませる。 内なる魔力を調律し、湧き上がってくる魔力を癒しに変えて。 福音の波動が、守る者たち諸共、アルマジロ達を癒す。 長丁場の中、魔力の尽きた天が、詠唱を終えようとしていたエリスに向かって振り下ろされる雷を代わりに受けて、地面に転がった。 (尽きたら……身代わりよろしく前に出るかな……) 戦場に入る前から、天は考えていた。 体が痺れて動けない。 心身ともに、ここが限界だった。 「他者の主義志向に口は挟まんさ。可及的速やかに、お帰り願うよ!」 後は任せた。 そう言って、静かに目を閉じた。 「……とりあえず……治すだけの……かんたんな……お仕事……のわりに……危険な気が」 表情乏しく、ポツリポツリと呟くエリスの指が、凄まじい勢いで魔道書を繰る。 現れる魔法陣に祈りをこめて。 柔らかく吹く風が、目の前の黄色いアルマジロを癒し、次元の向こうへときびすを変えさせた。 (まじい。息、後五回無理かも) 俊介の脳裏に、いやなものがよぎる。 癒し手は、倒れない。滞らない。途切れない。 使った魔力を補わなくてはならない。 通常の依頼なら問題はない。 「敵」を攻撃して、吸血で強奪すればいいのだ。 攻撃も出来て、一石二鳥の良策といえる。 しかし、今回は勝手が違った。 アルマジロの血肉は、仲間の努力の結果。 それでなくとも、体に負担をかける技を連発してくる命知らずさん達だ。 何かの拍子で昏倒されては本末転倒だった。 青いアルマジロも次元の扉をくぐり。 魔力の細い命脈を保つため、福音の数が減り、広場を柔らかな風が包み込むことが多くなってきた頃。 新将軍が鼻息も荒く、アラストール目掛けて気合裂帛、鋭い打ち込みでアラストールにかけられた加護をすべて弾き飛ばしている。 「人の結界を無にしたな。無駄に元気なナマモノめ、それだけ元気ならさっさと還ればいいものを」 術の負荷が少ないユーヌが率先して味方の背に癒しの符を貼り付けている。 戦線が縮小した分、維持は容易になっていた。 反面、魔力不足が露呈し始めていた。 魔力循環呪文を用いようと、使用量が常に供給量を上回っている。 それぞれの術の発動が、たまに途切れるようになっていた。 必要な魔力が身の内より湧いて来るのを待たざるを得ないのだ。 そんな中。ついに決断した男がいた。 「すいません申し訳ありません今回だけ吸血させてくださいお願いします!」 ● 吸血は、そもそも攻撃だ。ダメージを伴う。しかも、俊介はこの技に特化しているのだ。 下手すれば、癒し手が二人消えるし、余計な回復が必要になるかもしれない。 生半可な覚悟でいいとは言えない。 「がぶっといっていいわよ! お礼はコンビニスイーツでいいわ!」 ニニギアはあっさりOKを出した。 事前に相談していたこともあるが、拍子抜けするくらい簡単に答えた。 「いやっ吸血って噛まなくてもいいとかなんとかだから、女の子だし、せめて傷は残さないように!」 しどろもどろに弁解し、へこへこ何度も頭を下げ。 「ごめんな、力貸してもらうな?」 おずおずと、俊介の指がニニギアの太い血管、首の頚動脈に伸びた。 肌に触れれば、ニニギアは大きなダメージを受ける。 ニニギアを癒すため、念のためエリスが待機した。 まさに触れんとした瞬間。 「赤いのが帰っていく!!」 わっと、一同が沸いた。 「え、ほんと!?」 くるりとD・ホールの方を向くニニギア。 標的が外れて、術発動ならず。コケ気味俊介。 「いける。後は息で一気に畳み掛けていけるぞ!」 分析を進めていた瞳の声に、皆顔を輝かせた。 前衛三人が順に新将軍の前に立ち、負荷を減らす。 前衛を癒さなくてもいい分だけ、新将軍への回復量が増える。 「よし、皆、アルマジロに集中だ!」 風が広場の空気を攪拌する。 癒し手の祈りが、新将軍の傷口に取りつき、その血の跡さえぬぐって行く。 「よかったね! 俊介くん。私達、間に合いそうよ!」 すごく嬉しそうに癒しの風を呼ぶための詠唱を始めたニニギアに、今まで思いつめていた俊介は 「吸血する前になんとか全部送還できればベスト、だよね」 と、やや魂抜け気味に返し、お脳に血がめぐった三秒後、 「い、痛いの痛いの飛んでけ~っ!」 それは気合のこもった渾身の風を新将軍に贈った。 ● おお、偉大な母なるユミルよ、父なるテモスよ、父祖よ。 力及ばぬ我をお許し下さい。 代々の宿願を果たせぬ力弱きをお許しください。 女王の声に応えねばなりませぬ。 民の声に答えねばなりませぬ。 どうぞこの敬虔にして屈強な、父祖より代々聞き及びしより遥かに崇高な神官団に、あらん限りの恩寵を。 例えこの地より去ろうとも、わが氏族の心は常に貴殿らと共にありとお伝えください。 そして、いつか我が氏族より彼らを至高のゲラネクマセに誘う英雄をお授けください。 そのために、愛しいもの一万と聖なるゲヘロン5000枚と赤きスノメナ百樽と……(以下、解読不能。貢物の一覧と思われる) ● それはいきなりのことだった。 ぼろぼろぼろとアルマジロの目から滝のような涙がしとどに頬を濡らし、その外皮を濡らす。 ぼーっ、ぼーっと、天に向けて何度か咆哮し、剣を握った手で血に染まった胸をどんどんと叩く。 剣を地面に突き刺し、リベリスタに向けて拳を何度か突き出し、ぼーっ、ぼーっと咆哮した。 「そろそろでしょうか」 「そうね。この間もこんなことしたあと帰ったわよね!」 カルナとニニギアが顔を見合わせ、うんうんとうなづきあう。 「なに!?」 今まで、新将軍とずっと顔を突き合わせていたアラストールが、剣を地に差した。 「守る為に、仲間の為に、子の明日の為に。尊いを祈るもの、汝を称える」 新将軍が足を止めた。 尻尾がビタンビタンと帰巣本能に急かされ振られるが、それでも新将軍は踏みとどまった。 「我等は汝の望む神ではないが、此処に我等がある事は少なからず、その神の加護が働いたのだろう」 小さな、けれど威厳に満ちた様子のアラストールの声が朗々と響き、アルマジロのこの先を寿ぐ。 「祈りこそが我が根源、故に――汝の祈りに応えよう。武運を」 彼女の二つ名、『祈りに応じるもの』そのままに。 アルマジロは、両手を天に掲げ、双の手でドンと自分の胸を打った。 その手をアラストールに恭しく向け、剣を手に取ると慌ただしく次元の扉に潜って行った。 「身を挺して誰かを守るその姿勢は嫌いではなかったよ。存分に戦って死んでこい」 アザーバイドを好まない瞳にしては好意的な言葉が、穴の中に贈られた。 「迷惑な伝承もなんとかしてほしいものだがな」 ゲルトが呟いた。 「悪意がない分、対応に困る。出来ればこれが最後になれば良いんだが」 ユーヌが応じた。ゲルトの背にはユーヌが張った符で翼が出来たようになっている。 まだゲルトは気付いていない。 つかのま、一同は、大きく口を開けた次元の扉をぼんやり見ていた。 詠唱とそれに応じる福音の響きもなく、ボーボーわめくアルマジロがいなくなり、辺りは静かだ。 達成感が徐々に収まってくるに従い、やらなくてはいけないことを徐々に思い出してくる。 「「「ブレイクゲートしなくっちゃ!」」」 「またのご利用、お待ちしてませんってな!」 「どうにも憎めませんし、少しだけ勿体無い気もするのですが……」 「そうたびたび……こちらに……来られたら……私たちも……大変」 口々に勝手なことを言いながら、リベリスタ達はゲートを破壊した。 これでもう、はた迷惑な血みどろ瀕死アルマジロがここに現れることはない。 誰とも知らず、ため息が漏れる。 でも。と、カルナが何かを思いついたように微笑んだ。 「まあ、何故かまた別の機会にお会いできる気もしなくもありません」 え~。と、顔をしかめる一同。 その背後に立っていた小夜香も、うふふっと笑った。 「次に来るなら何世代後かしらね」 それもこれも、偉大な母なるユミルの思し召し。 アルマジロの残したものは、土の上に流されたおびただしい血の痕跡と焦げた下生えのみだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|