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しゅうかくげぃむ


 種を蒔き、見守り、そして刈り取る。
 大きな鎌を振るい、豊かな実りを、育った命を、サクリと切り落とす。
 収穫する為に育てた。喰らう為に種を蒔いた。
 数多く蒔いた種から芽生えて育ち切ったのは極僅か。
 嗚呼、嗚呼、嗚呼、最大の感謝を。
 天高く、月が輝く。
 鴉は丸く満ちたる月を見上げて一声鳴くと、赤い血肉を啄ばんだ。
 捧げよ汝が運命を。今宵こそが収穫の時。


「諸君、今日の任務を伝えよう」
 集ったリベリスタを前に、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。
 その表情を見る限り、彼は些か不機嫌なようだ。
「諸君等は死神を知っているかね? 死の擬人化にして魂を収穫する者、神に仕える農夫であるとも言われる存在だ」
 死とは生れ落ちたその瞬間から、もっとも親しき隣人である。
 生と死はワンセット。例え人を超えた革醒者であろうともそれは変わらず……、否、寧ろ戦いに身を置く彼等にとって死は常人よりも遥かに近しい存在だろう。
「ああ、こんな話を持ち出したからには、無論今回の件に関わるのは上位世界の存在だ。神秘の影響を与え革醒を促し、フェイトを得た者が育った後に刈る、アザーバイド『死神』」
 差し出されたのは、今回の敵の詳細が記された資料。


 資料

 アザーバイド『死神』
 巨大な鎌を持つローブ姿の白骨体。肩に鴉のアザーバイドをとまらせ、白骨化した馬のアザーバイド(別個体)に跨る。
 上位世界の本体がボトムに落とした鎌の欠片から生成されたアザーバイドである。
 本体はとある世界では農耕と死の神と崇め畏れられている強大な存在。
 様々な世界に手を伸ばす彼がボトムで種を蒔き、刈り取るのはフェイト。
 落とした欠片の影響でボトムの人間の革醒を促してマーキングし、対象がフェイトを持ったならば時を置いて成長後に収穫する。稀なケースではあるが特に成長の見込みがある個体に対しては育つ為の助力を行う事も。
 その為、過去にはこのアザーバイドを崇める小規模な宗教集団がボトムにも存在したらしい。
 はっきりとした意図をもって世界に影響を与えんとする上位存在な為、非常に危険度が高い。
 現在日本の崩界度が上昇している為、この国での活動が活発化すると予想されるので注意されたし。
 本体の力が強大な為、欠片から生成されたアザーバイドも侮れない力を持つ。
 攻撃手段は主に鎌と眼光、そして虚無の手。
 鎌の一撃は遠物単、弱点致命必殺失血、非常に高威力。
 眼光、心砕く魔の瞳。遠神複、ブレイクMアタックショック。
 虚無の手、魂を掴み取る死神の手。死への誘い。神防を無視する近神単、更に魅了が付与される。
 特殊能力『収穫祭』を持ち、付近でフェイトが消耗された場合其れを吸い取り、吸い取ったフェイトに応じてステータスを上昇させる。また吸い取ったフェイトを吸う度に身体に闇を纏って行き、吸い取ったフェイトが10点を越える度(10、20、30と)に3ターンの間、通常の光を通さぬ闇を広域に展開して視界を阻害する効果を発揮する。
 再生能力も所持し、また幾つかのバッドステータス(出血系や精神系や呪い系等)はこのアザーバイドに対して効果を発揮しない。
 このアザーバイドが収穫の役割を果たし終えた後は、周辺の人間を強制的に革醒させる能力を発動すると予測される。


 アザーバイド『アルキバ』
 鴉の姿をしたアザーバイド。その鳴き声は不吉を呼ぶ。
 飛行能力、再生能力を所持し、また幾つかのバッドステータス(出血系や精神系や呪い系等)はこのアザーバイドに対して効果を発揮しない。
 攻撃手段は鋭い嘴での近接攻撃の他、ダメージは伴わないが不吉、呪い、混乱の鳴き声を遠2距離から単体に飛ばす。


 アザーバイド『エクゥウス』
 白骨化した巨馬のアザーバイド。上記アザーバイドの下僕にして盾にして移動手段。
 背に死神を載せたままでも移動に差支えが生じない。移動距離が通常よりも多い。
 攻撃手段は蹄での踏み付けや体当たり等。体当たりは最大3名にまで命中し、ノックバックがかかるので注意が必要。
 再生能力も所持し、また幾つかのバッドステータス(出血系や精神系や呪い系等)はこのアザーバイドに対して効果を発揮しない。


「今回死神が狙うのはマーキングを施された……、フィクサードだ。本来ならば放置しても構わんのだが、このアザーバイドは収穫に成功すれば、次は大規模な種蒔き、革醒を促す作業に移るだろう」
 種蒔きの段階に移れば、もうそれを阻止する手段はないのだと逆貫は言う。
 多くの人間が革醒し、大きな騒ぎと悲劇が起きるだろう。
「……何故か今回狙われているフィクサードは自ら死神に接触しようとしているが、そちらは別班が対応する。諸君等は死神側を対応し、両者の接触を防いでくれ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月01日(金)23:45
 さて夕影STとの連動です。夕影ST側の『だんざいげぃむ』との同時参加は不可となります。よろしくお願いします。
 こちら側の勝利条件は、死神の突破を許さず死神を撃退する事。

 但し細かな条件が幾つかあります。
 戦闘開始時の状況は、
 フィクサード → 夕影ST側リベリスタ l20ml らると側リベリスタ ← アザーバイド死神
 となります。大通りをやって来る両者を間に立って食い止めるイメージをして頂けると良いかと。
 時間は深夜になります。事前付与の暇はありません。ギリギリのタイミングで割り込めたとお考え下さい。
 アザーバイド死神に戦列を突破されてしまえば、結果的(あちら側の活躍で)にフィクサードとの接触が行なわれなかったとしてもこちら側は失敗です。
 逆に死神撃破に手間取る間に、あちら側がフィクサードに突破されてしまい、更にこちら側も破られて死神と接触すれば矢張り失敗です。
 死神の『収穫祭』はあちら側の戦場にも効果が及び、特にあちらのフィクサードがフェイトを消耗した場合は、通常の3倍の効果で死神を強化します。
 また連動先のフィクサードが操るエリューションの影響で、あちら側のエリューションが存在している限り常時BS猛毒がWP判定やスキルでのBS回復を無視して効果を及ぼします。(*毒無効、呼吸不要のみBSダメージを無効とします)
 アザーバイド達は闇による視界阻害の効果をうけません。


 アザーバイド死神は非常に強敵だと思われます。くれぐれも油断されませんよう。
 様々な状況が想定されると思います。
 それではお気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ナイトクリーク
荒苦那・まお(BNE003202)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)


 目標との間にずらりと並んだ彼等を見て、死神は馬の足を止める。
 あまり想定していなかった事態だからだ。
 構える彼等の個々の力量を推し量り、その真意は掴めねど、彼等の取るであろう行動が自分への敵対である事を察し、死神は鎌を手に取った。
 伸びた雑草を掃う為に。
 武器を構えた事で彼等の闘気、殺気、戦意、敵意が更に強まった。
 彼等の中の女性型の個体が何かを此方に喋りかけていたが、特に理解する必要も感じなかったので、死神は馬の腹を軽く蹴る。
 肩の鴉が一声鳴く。大きな鎌を頭上に翳す。
 雑草も、刈れば何かに使えるかも知れない。無論それを判断するのは自分ではなく、自分は只管に刈るだけだけれど。
 夜は短い。収穫を急ごう。

 無感情で無感動で無個性な個体の死神に、主から役割しか与えられていない単なる欠片に、悪態を吐く事が無意味である事はわかっていても、
「神の農夫だなんて忌々しい」
 彼女は、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は神と言う単語に対して嫌悪を隠す事が出来ないで居た。
 例え子供の八つ当たりの如き理不尽な感情であるとしても、内側からにじみ出る其れは魂に刻まれた傷が流す血の様なもの。
「ここから先は通行止めだ。迂回もUターンも許さんぞっ!」
 けれど感情に流されすべき事を忘れてはなら無い。
 刃を引き抜き一歩前に踏み出した『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)の、そして仲間達の背に海依音の翼の加護がささやかな飛行の力を与える。
「ふむ、種まいて放置か、原始農耕みたいだな。いや焼畑か? 好き勝手荒らし回るだけの能無しが」
 普通と書いてあくまと読む、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の毒をたっぷりと含んだ言葉にも、やはり死神は何ら反応を示さない。
 種を撒く、刈り取る、機能と役割だけの端末は、しかしそれを乗せた馬が一歩を進めるごとに圧倒的な瘴気と存在感を撒き散らす。
 挑みかかったリベリスタ達を、死神の眼光が貫いた。


 響き渡る癒しの福音。『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の喚んだ聖神の息吹が、死神の眼光によって齎された衝撃と負傷を拭い去る。
 種を撒き、収穫に喜ぶのは、この世界では太古から繰り返されてきた事。遥かな異世界には色々な世界があれど、多くの世界でそれはきっと共通だろう。
 けれど今回その収穫を成させる訳にはいかない。アリステアは瞳に力を籠めて、両手を広げる。
 どんな命も何時かは終るが、でもそれはこんな形じゃないだろう。例えそれがフィクサードの命でも、だ。
「死神様、ごめんなさい」
 理解されぬ謝罪に意味はなく、例え理解されたとしても矢張りそれが独り言以上の意味を持つことは無かっただろうけど、『もそもぞ』荒苦那・まお(BNE003202)の言葉と共に破滅の黒いオーラが死神の頭部へ糸の様に伸びる。
 撒き散らされる瘴気よりも、夜の闇よりも黒いそのオーラは、突如仁王立ちとなった馬の体に阻まれるも、その巨体を大きく揺らがせその再生能力に蓋をした。
 ユーヌの小型護身用拳銃での銃撃に、白骨化しているとは言え巨体の上に更に死神を乗せた馬の身体が後方へと押し飛ばされる。
 小柄で小さな、更に言うなれば膂力にも乏しいユーヌが放った小さな弾丸が、質量にも膂力にも遥かに勝る相手を弾き飛ばせたのは銃に籠められた神秘の力と、その力を的確に活かせる彼女自身の精密さ。
 ユーヌが押し勝った距離を、風斗が、そして『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)がすかさず詰めて敵の再前進を防ぎ、更には、
「構わない! 俺ごとやれ!」
 ちらりと視線を交わした快の言葉に一つ頷いた『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の身体を、彼女自身の身体から溢れ出した黒のオーラが包み込む。
 形成すは遥か古からこの国に伝わる神話の怪物。八の頭の荒ぶる蛇、度々氾濫して人を苦しめた水の力を神霊に見立てたとも言われる、八岐大蛇だ。
 振るわれた暴威は、馬を、死神を、そしてその抑えを行なっていた為近くにいた快を、彼の言葉どおりに巻き込んで荒れ狂う。

 ここまでの、序盤の攻防を制したのはリベリスタ達だ。
 彼等の攻撃はほぼ想定通りの成果を上げ、死神からの攻撃もアリステアの回復によって作戦に支障をきたすようなダメージは残っていない。
 けれど周囲の魔的な力を取り込み自らの力に変換する技法、マナコントロールにより長期の戦いに備えていた『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は、己の掌が大量の汗に濡れている事に気付く。
 一連のリベリスタ達からの攻撃を、然して意に介した風もない死神の様子があまりに不気味で、嫌な予感が拭えない。
 エルヴィンはちらと背後に目をやって、一体黄泉ヶ辻の男は何をしてこんな化物に狙われるハメになったのかを疑問に思う。
 無論それに返事をくれる者は居ないけれど、それでも死神を通す訳には決して行かない。
 収穫が問題なく行なわれてしまえば、次の種蒔きに数多くの人が犠牲とされてしまうから。
「絶対に護り抜く! 何処からでもかかって来やがれ!!」
 その強い言葉は、己を奮わす魔法の言霊。己の役割、願いを再認識し、生かしたがりで活かしたがりの自分を発揮する為の誓い。


 けれど、そう、エルヴィンの予感どおりに徐々に死神達は脅威を発揮し始める。
 先程の様にリベリスタの敵意に反応しての行動ではなく、明確な排除の意思を持って一人一人を確実に連携で仕留めんと動き出したのだ。
 巨馬の体当たりに快、風斗、まおの3名が大きく飛ばされる。先のユーヌの銃弾の様に神秘的な作用でなく、ただ質量と膂力を最大限に活かした物理的な攻撃が彼等を弾き散らしたのだ。
 そして其れは無論3人が受けたダメージにも反映される。致命打には遠いが決して軽くも無いその攻撃に、アリステアの詠唱が歌声となって癒しの奇跡を乞わんとした時、不意に彼女の口から歌声の代わり血が溢れ出た。
 アリステアの癒しは先程見せている。ならばそれを邪魔せぬ理由も無い。馬を降り、前へと進み出た死神の振るった鎌は遥かな遠方にあったアリステアの胸部を一撃で断つ。
 更に続いた追撃の鴉の鳴き声はアリステアに何の効果も齎さなかったが、それでも死神の一撃は防御、回避ともに得手とせぬ後衛の彼女には重過ぎる物で、痛打となった鎌に耐えるには運命を対価にせざるを得ない。
 弾き飛ばされた前衛達に代わって、ユーヌ、エルヴィン、海依音が進み出、死神を食い止める。馬から下りての前進も、気付いてしまえば二度は許さぬリベリスタ達であろうけど、しかしそれでも死神は運命を収穫した。その身体が闇を纏い始め、振るう攻撃は更に苛烈となっていく。

 無論リベリスタ達とてされるがままにはなりはしない。
 海依音の身体が光を放つ。見る者の視界を白く焼きつける、その強い閃光は裁きの光。
 ジャッジメントレイが死神の纏う闇をも白く塗り潰さんとアザーバイド達を焼き、その光ごと切り裂いて風斗の振るう刃が、全身の力を切っ先に籠めたメガクラッシュが敵を弾き飛ばす。
 まおのブラックジャックは馬を下りた死神を的確に捉えてその再生能力を縛ったし、ユーヌの弾丸は更に敵を押し込んで行く。
 涼子の大蛇は馬も、死神も諸共に飲み込み、その暴虐に縛り付ける。次手で高確率で復帰してくるとは言え、敵の手数が僅かであれ減らせる事の意味は大きい。
 そして快にエルヴィン、2枚の強靭な壁を中心として機能する前列と中列のブロックは着実に敵の弾き飛ばしに対処し、風斗やユーヌが稼ぐ距離を確実な物として行く。更にエルヴィンに至っては2枚目の壁であると同時に、2人目の癒し手でもあるのだ。
 ……だけれども。


 戦いは続き、死神は徐々に強力になっていく。
 死神に喰われるのは彼等の運命ばかりでは無い。彼等の背中の向こう側でもう一つの戦いが繰り広げられ、そちらで弾けた運命をも死神は収穫の対象としている。
 そして運命と共にこちらに届くのは、あちら側のエリューションが齎す猛毒の影響。
 如何様にも拭えぬ纏わりつく毒は、リベリスタ達の体力をじわりじわりと削り取って行く。鴉は己が声の届く相手を判別し始め、馬はタフにも、健気にも盾としての役割を果たし続ける。
 やがては遂に、死神より溢れ出した闇が辺りを覆いつくした。圧倒的に濃い、一片の光も通さぬ漆黒が。
 闇への対処に苦慮したのは、寧ろこちら側よりもあちら側であったかも知れない。しかしあちら側の苦戦はこちらの死神を強化する。こちら側の苦戦はそのまま死神の更なる強化に繋がり、そして再び闇があちらへと届くだろう。
 全ての状況がどうやってでもリベリスタ達を苦しめようと悪意を持って牙を剥く。

 闇の中、エルヴィンが口惜しげに舌を打つ。
 視界を遮る闇に、エルヴィンの持ち込んだアーティファクトでは視界を確保し切れなかったのだ。
 暗闇ならば彼の持つアーティファクトでも見通せたのだろうが、光通さぬ闇は彼の自慢の品を働かせない。
 視界を確保出来なかったのは風斗も同様だ。だが風斗に関しては元より闇を見通せぬ事はハナから承知、闇に包まれる時間を敵への集中力を高める事に費やそうとする。
 そんな視界の効かぬ彼等の為に、快の取った行動は勇敢を通り越して無謀であった。
 敵に浴びせた己が血、この季節の冷える夜は返り血の熱もすぐさま奪い去るが、先程切られて浴びせたばかりの其れならばまだほのかな温もりが残っている。その温もりを目印に、熱を感知する異能に頼り、快は死神にしがみ付く。
「敵は此処だ! 俺の声を俺ごと狙え!」
 己の声を攻撃の目印にせんと、叫ぶ快。余程自らのタフネスに自信を持っているのだろう。確かに快の防御とタフさは集まった面子の中では頭一つ抜けている。
 けれど、違う。
「楠神君、二時の方向!」
 海依音はそれを判っていたようで、輝き始めた死神の目に反応して風斗にその方向を教えるが、だが足りない。
 この闇の中でそれを見通せぬ者達が考えるべきは、敵の位置を如何に捉えるか、如何に攻撃に繋げるかでは無く……、30秒と言う限られた闇の時間を如何に凌ぎ切るかだったのだ。
 攻撃の方向はわかれど攻撃そのものが見える訳でなく、特別回避に優れている訳でも無いのなら、見えぬ敵からの攻撃は的打を越え、或いは不運ならば痛打を越えて更にその上の領域にすら踏み込んでしまう。
 風斗の2回目の自付が引き剥がされる。しかし彼はまだ良い。本当に酷い目にあったのは、よりにもよってこのタイミングで追加行動をとった死神の虚無の手に心臓を握られた快だった。
 常人ならずともリベリスタであろうと凡百ならば即死しかねないその攻撃に、快は運命を対価に踏み止まる。
 彼の揺るがぬ精神は、絶対的な魂は、死の誘惑に、闇の魅了に引き摺られない。
 快は己の行為がこの相手の前では無謀だった事を悟ると同時に、眼前のアザーバイドが正に死神と呼ぶにふさわしいと再認識する。
 ……しかしなればこそ負ける訳には行かない。
「死神だったら、間に合ってる」
 強がりでは無く、心の底からその言葉は出た。
 彼より先に散った仲間が居る。その背に背負う守るべき物がある。
 そして何より、眼前の死神よりずっと恐ろしい、理想と言う名の死神に快は既に取り憑かれているのだから。
 恥じる戦いが出来よう筈がないではないか。
 それは人として生きるには決して正しくも無ければ幸せな事でも無いけれど。死ぬまで足掻け、リベリスタ。
 間髪入れずに快を狙う巨馬は、けれども寸前で届いたアリステアの癒しに阻まれ彼を落とし切る事かなわない。
 闇を見通し、癒すアリステアが放ったのは、デウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神。或いは……、物語をひっくり返す理不尽な舞台装置。
 強すぎる癒しの力に、更に重ねられるは海依音からの神の愛。
「海依音ちゃんビジネスには誠実です」
 癒しの対価に金銭を受け取る。彼女が己に課したビジネスと言う名の制約。
 大嫌いな神に奇跡を乞う行為を己に強いるにはあまりに安くつけられたプライドの値段。
 海依音が欲する物が本当に金銭であるのかは、彼女自身にしかわからねど。


 アリステアに海依音、そして闇が晴れればエルヴィンもが加わるリベリスタ側の回復は非常に手厚い。
 だがその厚い回復を持ってしても死神達の猛攻の前には時折運命の損耗を強いられる。
 果たしてそんな戦いが一体どれ程続いただろう?
「くたばれ糞野郎」
 その言葉に彼女の全てを籠めて、涼子が幾度目かの八岐大蛇を放ち、荒れ狂う大蛇と化す。
 今宵集ったリベリスタの中で、最も死の運命が近いのは涼子だろう。
 それは彼女自身も何となく判っており、寧ろ己の生き方を省みれば仕方ないとすら感じる。
 だけれども、こうして会ってみればやはり刈り取られるのはゴメンだと強く思った。
 死にたくないから、では無い。勿論好んで死にたい訳では無いけれど、でも違う。
 涼子が死神を目の当りにして感じたのは、『エラそうに、高いところから見下ろしてるような奴にくれてやるものは、なにもない』だ。
 少女の鼻っ柱は何処までも強い。
 涼子の命を刈りたいならば、彼女と同じ位置に立つしかない。涼子の命を奪える者は、彼女と同じく泥沼の様な戦いに身を浸せる者のみ。
 そんな出会いが無いのなら、きっと涼子は唯一人で泥沼の様に戦って、擦り切れて自分自身に殺される。激情のままに。
 涼子の攻撃の盾になった巨馬に、武器を振り被った風斗の肉体が一回り大きく膨れ上がる。
 無論人間の筋繊維はそんな膨張をしたりはしない。その形は正に異形、フリークスと呼ぶ他無い。
 風斗がどんなに真っ直ぐで、その心根が正しかろうと、その力は、その姿は、正義の味方の其れではなく、石持て追われる異形の怪物の物である。
 だが故に彼が放つ、自身の肉体の限界を越えた120%の一撃は怪物の放つそれに等しい。
 同じく怪物である巨馬は、本来ならばまだ其れに耐えれた筈だった。強い自己再生能力を持ち合わせていたのだから。
 しかし巨馬は主である死神の盾となり、しつこく纏わりつく蜘蛛、まおの攻撃を受け続け、思うように再生を許されずにここまで来た。
 ビシリと巨馬の体に罅が入る。前足を折り、地に頭を伏せ、少しずつ細かい砂へと変じていく骨の身体。
 長い攻防の末に、漸く本丸への扉が開く。
 けれど風斗は理解していた。此処からが真に厳しい戦いになる事を。
 幾度もの死神の眼光に晒された風斗は既にジャガーノートを使用していない。鴉の鳴き声の混乱から、死神の虚無の手の魅了から、彼を守る物は何も無い。
 巨馬を倒しきった攻撃力は、或いは仲間に対して振るわれるかも知れない。
 勿論だからといって今更立ち止まる選択肢があろう筈も無いけれど。
 嗚呼、また闇が辺りを覆っていく。


 誰も彼もがボロボロで、或いは既に地に倒れて、それでも戦いは終らない。
 快が潰れた後、防御の要となったのはエルヴィンだ。彼のブレイクイービルが無ければ、或いはもっと早くに戦線は崩壊していたかも知れない。他ならぬ仲間達からの攻撃に拠って。
 不意に湧き出た圧倒的な水気が死神と鴉を襲う。ユーヌの高度な符術に生み出された玄武の司る水が、術者に迫る災いを押し潰さんと放たれたのだ。
 その攻撃に、僅かに死神が揺らいだ。しぶとい、死神の体力にも漸く底が見え始めている。 
 けれど攻撃を放ったユーヌも既に限界が近い。いや、元より他の仲間に比べれば体力に劣る彼女が今まで立っていられた事は奇跡に近い。
 回避性能を活かしてダメージを最小限に抑えて来たけれど、それももう限界だ。疲労に揺らぐ視界が、皮肉にも胸に感じた痛みに鮮明になる。ユーヌの胸を、鴉の嘴が貫いていた。
 吐血が鴉の羽を濡らし、ユーヌがゆっくり膝を地に突き倒れて行く。
 だがユーヌを串刺しにした鴉も、彼女の最後の足掻き、抱え込みを脱する事が出来ずにもがく、もがく。
 あと少しなのだ。出てる被害は既に大きく、これから出る被害は更に大きくなるだろう。
 でもあと少しで、被害さえ厭わなければ死神に限界を迎えさせる事の叶う目が五割を越えてあるのだ。
 まおが軋む体に鞭を打ち、けれども表情は少しも変えず、自分の役割、死神の再生を防ぐ事を全うしようとする。死神がここから盛り返す事を防ぐ為に。
 既に回復手段が底を突いたアリステアが、エアリアルフェザード、フライダークに備わる力を使って攻撃にまわる。優れた癒し手すらが最早そうする以外にすべきを持たないこの状況。
 誰も彼もが必死だった。

 なのに、なのになのになのに、戦場に流れる空気は変わる。
 まるで彼等を嘲笑うかの様に。必死な彼らの背中を踏み越えて。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 ギリギリでした。
 ですが結果はこうなりました。
 多く語るのは野暮なので、お疲れ様でした。