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罪なき者と、罪ある者、裁くのは誰か?

●罪なき者と、罪ある者
 罪なき者は、まだしも軽い手つきで。
 打ち殺されるというよりも、むしろ脇へ追いやられて。

 結局のところ、二人とも変わることは無く、罰を受けて殺される。

●連続する選択
 彼には罪は無かった。彼は誠実に生きてきた。
 彼には罪が有った。彼は好き放題に生きてきた。

 そして一つのアーティファクトが在った。

 この罪なき者と、罪ある者とを結びつける絆のアーティファクト。
 結び付けてやがて審判を下す鋏のアーティファクト。

 本質がどちらにあれ、このアーティファクト『ヴァリアント』が彼ら兄弟の手に渡り、そして彼らが望んでしまったのは、不幸中の不幸であったと言って間違いないであろう。
 罪なき弟は罪深き罪人へ。
 罪ある兄は潔白の罪人へ。

 瀬上神楽(せがみ かぐら)と瀬上雅秋(せがみ まさあき)。
 名字の示す通り、二人は血の繋がった男兄弟である。
 二十歳の弟と、二十六歳の兄。

 両者の身に埋め込まれた『ヴァリアント』は、どちらをも裁く。

●ブリーフィング
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)を筆頭に、ブリーフィング室に居るリベリスタ達は一様に重く口を閉ざしていた。
 リベリスタ達は、プロフェッショナルである。彼らの大多数は多かれ少なかれ自分の仕事にけじめをつけている。作戦遂行上、一般市民が命を落とすこともあるだろう。相手が動物だからと言って、無暗に命を奪って良いものでもない。
 彼らはその業の中生きてきた。それが未来を明るくするものと信じて。

 両親は兄の雅秋が中学生の頃に他界。それ以降は、親戚伝手に転々とする。
 十九歳の秋、雅秋が人を殺めて服役。今年仮釈放され、一カ月が経っている。
 神楽は兄を赦す為にアーティファクトに手を伸ばし、
 雅秋は弟に赦される為にアーティファクトに手を伸ばした。

「アーティファクト『ヴァリアント』は現在、瀬上兄弟の体内にある。彼らの肉体と完全に同化して、彼らを繋ぎ、彼らを裁く」
 イヴの静かな声が響いた。
「裁くというのは、彼ら二人の命を奪うということよ。どうやって入手したのかまでは分からないけれど、瀬上兄弟はその本質を理解していない」
 閑雅なオッドアイがリベリスタ達を見回した。思わず目を背けてしまう者も居た。
「肉体の同化した『ヴァリアント』は作戦予定日の深夜零時丁度、瀬上兄弟の命を奪い、自らもこの世を消え去る。二人共が神秘の力で命を奪われる事態は出来るだけ避けたい」
 そして、とイヴは続ける。
「この『ヴァリアント』の破壊方法は一つ。瀬上兄弟のどちらかを殺めること」
 ――――結局のところ、二人とも変わることは無く、罰を受けて殺される。
「貴方たちに選んで貰わなければならない」
 そしてその罪は、貴方たちだけには背負わせないわ。
 イヴは無表情で呟いた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:いかるが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月23日(水)00:33
いかるが、です。宜しくお願いします。

●作戦現場状況
・アークの者が話をつけており、二人の住むアパート近くの空き地で、リベリスタ達と二人が面会する予定になっています。
・後述しますが、条件次第でフィクサード駁儀が出現します。
・ぽつぽつと街灯があります。夜です。
・平均を少し下回るような住宅街で、その時間帯にはほとんど人通りはありません。

●敵状況
・瀬上神楽(せがみ かぐら)、瀬上雅秋(せがみ まさあき)兄弟です。
・2人とも体内にアーティファクト『ヴァリアント』が同化しており、身体能力が飛躍的に向上しています。アーティファクトの影響で、いくつかのスキルを有しています。
・アーティファクト『ヴァリアント』は作戦日の深夜0時丁度に瀬上兄弟の命を奪い消滅します。戦闘等に割ける時間は最大3時間です。
・瀬上兄弟の内、どちらか一方を撃破すると、もう一方の体内からも『ヴァリアント』は消えます。

・瀬上兄弟との戦闘が始まった場合、戦闘開始から2T後に男性フィクサードの駁儀(まだらぎ)が出現し、瀬上兄弟の援護をします。
・駁儀は瀬上兄弟に『ヴァリアント』を与えたフィクサードです。
・瀬上兄弟は駁儀に全幅の信頼を寄せており、説得等でリベリスタ側の味方に付くことはありません。
・駁儀は撃破可能です。

【瀬上神楽】
「春」(物近単、毒、流血)
「夏」(物遠複、追:連)

【瀬上雅秋】
「冬」(神近範、麻痺、流血)
「また明日」(神遠2単、流血、追:連)

【駁儀】(フィクサード、ジーニアス)
クリミナルスタア(中級)程度までのスキル

●要約
・戦闘を行わず、瀬上兄弟二人を失う。
・駁儀を撃破あるいは撃退し、瀬上兄弟を撃破せず、瀬上兄弟二人を失う。
・駁儀を撃破あるいは撃退し、瀬上兄弟の一方を撃破し、一方を助ける。

●達成条件
・リベリスタ方の行動次第で判定を行います。

フィクサードを撃破あるいは撃退し、かつ兄弟の一方を救ったとしても、そこに合理的な根拠(心情)が無いなら失敗の判定を出します。
戦闘すら行わずに二人を見殺しにしたとしても、そこに合理的な根拠(心情)があれば成功の判定を出します。


二人の一般人を見殺しにしようと、一人を助けようと、フィクサードだけでも倒そうと、そこに至る合理的心情が描写されていれば成功の判定を出します。
従って、今回は成功条件を具体的に規定していません。

リベリスタ方が選択してください。

皆様のご参加心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)


 (罪を赦そうとする弟と赦しを請う兄、か)
 『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の眼がサングラス越しに二人の兄弟を見つめた。

 髪の毛を短く刈り上げ攻撃的な色の眼をした兄、雅秋。
 何処にでもいそうな平凡な、しかし人の良さが滲み出る弟、神楽。

 訝しげにリベリスタ達を眺める雅秋に『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が言った。
「僕たちは神秘による一般人の不幸を止める組織の者だ」
 神秘、の言葉に雅秋が若干眉を動かす。
「妙な連中。思ってたのと違うな」
 少し低めの声が空気を揺らして、その微かな疑念を伝搬した。
「で、こんな時間に俺らを呼び出す用件は何だよ」
「お前達は、駁儀の行いにより、零時に死ぬ」
 絶妙な間だった。
『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)の現実味に欠けるであろう一言が兄弟の鼓膜を揺らした。
「世の中難儀な事だらけでな。このままでは君達二人とも共に死ぬ。だが共に救う可能性も探している」
 そう続けた『足らずの』晦 烏(BNE002858)の言葉に雅秋が苛立たしげに返す。
「……何言ってんの、あんたら」
「『ヴァリアント』。それが貴方達兄弟を殺すアーティファクトと呼ばれるモノの名前」
 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の真直ぐな瞳が、そして、その名前が兄弟二人を動揺させた。
「どうしてその名前を?」
 今まで沈黙を保ってきた神楽が声を発した。強面の兄とは正反対の無害そうな顔が緊張に支配され、頬を汗が伝っていた。
「全部話すよ。包み隠さずね」
 その一言に『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は一瞬怪訝な表情をしたが、すぐに無表情に戻した。『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は真実その理由を語った。アーク、そしてフォーチュナの能力を。
「加えて、未来予知と来るか。いよいよ胡散臭せえ」
 言葉尻だけは果敢だった。しかし、雅秋の表情は動揺の色を隠せていなかった。
「本来神秘の秘匿は破られるべきじゃないんですが」
 モニカは軽く肩を竦めた。
「『駁儀』はフィクサードと呼ばれるタイプの能力者です。どう言われているのか存じ上げませんが、救われるだなんて約束なら、それは嘘ですよ」
「……うるさい」
 雅秋の口から洩れ出た低い唸り声。
「二つだけ質問させてくれないかい」
「質問?」
「君は何故『ヴァリアント』を受け入れた?」
 烏のその問いに雅秋は笑った。
「それはあんたらの予知だとかでは視えなかったんか」
「万能と言うわけじゃないんでね」
「弟を赦す為だ」
 神楽の肩が揺れた。
 烏は内心首を捻った。彼には雅秋が嘘を言っていないことは分かっていた。
「それは逆じゃあないかい。人を殺めるという業を背負った君を、弟の神楽君が赦すというのなら話は分かるんだけれどね」
 先程とは比べようも無い程神楽の肩が踊った。
 その一方で、動揺を露わにしていた雅秋は開き直ったかのように、その表情に笑みまで浮かべていた。
「そこまで知ってんの。まあ、あんたがそう解釈するんならそれで良いよ。言い直す。弟に赦されるために受け入れたんだ」
 雅秋の口ぶりに烏は違和感を感じたが、そのまま続ける。
「分かった。じゃあ二つ目だが、それじゃあその『ヴァリアント』を受け入れた上で君達はどうなると聞かされているのかな」
「『どうにもならない』。駁儀さんはそう言ったよ。あんたらとは違ってね」
「『どうにもならない』?」
 堪らず烏は聞き返した。
「あんたらは、今日、俺たちがコレのせいで死ぬって、そう言いたいんだよな?」
 雅秋は烏の問いを無視して、リベリスタに問い返した。
「しかし、生き残る可能性はある。どちらかだけ」
 鷲祐の言葉に雅秋は思わず苦笑した。
「それで、生き残る方をどうやって決めるんだ?」
「貴方達が決めるべき」
 と、私達は考えている。涼子の滑らかな声が空き地に響いた。
「まるで悪魔じゃねえか!」
 遂に雅秋が声を上げて笑った。歓楽も悲哀も持ち合わせない不思議な笑い声だった。
「そこの若い兄ちゃんさ、それ、俺らが信じると思ってんの?」
 問いかけられた夏栖斗はやはり穏やかに返す。
「正直な所、あまり思ってない。信じてくれたら、それがベストだった」
 過去形の言い切りを選んだ彼の心情を何人が理解しただろう。
「あんたの言う通りだ。その寝言みたいな話を信じなかった場合、どうなる?」
「もひとつ質問追加」
 烏のあくまで飄々としたその声に、雅秋は特に気にも留めず顔を彼の方へと向けた。
「二人死ぬという事実があってもなお『ヴァリアント』を使う勇気があるのかい」
「それは愚問だ」
「いや、君に訊いているんじゃないんだ」
 おじさんが聞きたいのは君の答えだよ。
烏の異様な風貌が神楽へと向いた。
「君も本当に信じられないのか」
 雅秋の体が半身だけ神楽の前に出た。
「……僕は、僕たちは、やっとこの生活に辿り着いた。全て駁儀さんのおかげだった」
 神楽の口が忌々しく歪む。
「神秘の不幸から守る? 貴方達が一体僕達に何をしてくれた? 僕達が死ぬだなんてことは信じられない」
 神楽のその言葉にもやはり偽りは無かった。
「オレは正義の味方ではない」
 沈黙を続けてきた『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)が静かに、しかし力強い声色で言った。その眼光は兄弟を射抜いた。
「故に、全ての命を救う等という事は出来ないし、言えない」
 オレの仕事は『神秘による事件』を防ぐ事だ。
 
 選ばなければならない。そのどちらかを。
 
 兄弟の表情が変わった。自らの生活を壊す者への憎悪が剥き出しに。
 『ヴァリアント』から得た狂気を剥き出しに。
「最後に一つだけ訊かせて」
 魅零の小さな呟きに、雅秋は目線で応えた。
「真面目に聞いて。君達がもし選択を迫られたのなら、どっちを選ぶの」
「その答えは、こうだ」
 ――――俺達二人共死ぬ気は無え、交渉決裂だ。


「にゃんとまあ」
 リベリスタも、そして兄弟も一瞬動きを止めた。それほど異質だった。
 艶やかに長い黒髪。
 性別を曖昧にさせるような中性的に整った顔立ち。
 そしてその『猫撫で声』。
「だから言ったやん、兄弟。力は持つに越したことにゃいゆーてな」
 空き地と道路とを区別するその線を跨いで、彼らとフィクサードを隔ていた。
 そして影がその壁を一瞬で飛び越えた。
「にゃはは、あぶねー」
 駁儀は寸での所で彼の拳を躱した。駁儀の言葉は真実である。直撃していれば彼の体は五体満足では居られなかった。
 視線をその軽薄極まりないフィクサードへ向けて、夏栖斗の口が開いた。
「人心掌握術は半端ねぇな」
「人聞き悪いやんー。ボクは兄弟を心配してん」
「フィクサード様が人助け? そんなこと、素直に信じれるほど―――」
 修羅場を潜り抜けてきてねぇよ!
 夏栖斗の叫びがそのまま行動へと移ると同時に、駁儀は跳躍した。
 空き地の中心に。兄弟の近くに。
「駁儀さん、来てくれたんですね!」
 神楽のその声に「当たり前やろー」と駁儀は手をひらひらと振った。
「そんでにゃによ、あいつら、兄弟を襲ってるんか」
「そうだ。奴ら『ヴァリアント』の事を知って来たらしい」
「力を求めすぎるのは怖いねえ」
 そうするとああなっちゃうわけにゃ、駁儀は兄弟にそう言いながら、リベリスタを指差した。
 にゃはは、と響くその不愉快な笑い声は、一発の銃声に掻き消された。
 きょとんとする駁儀の足元には燻った銃痕が一つ。
「こんな意味の無い事をする貴方の意図が全く分かりませんね。―――だから、それを吐いてもらうまでは、殺しませんよ」
 その後の事は知りませんがね。無表情なモニカの顔が物語った。
「これは分が悪いやん。にゃるほどねえ、そんじゃ、共闘と行くにゃん、なあ、兄弟!」
 しなやかな身のこなしで駁儀は跳躍した。
 その見た目が認識を誤らせる。猫の本質は、狩人である。


 駁儀の跳躍は後衛に位置する結唯にまで及んだ。
 (こいつが余計な事をしなければ、兄弟は死なずに済んだのにな)
 結唯は動揺を見せない。無感情に目の前の敵を撃退させる。
 其の為の拳を振るう。
 その攻撃が掠り、思わず駁儀は目を細めた。
 そしてその足元の違和感に、考えるよりも先に後ろへと回転した。
 彼を封ずる黒き函を、嗅覚が読み取った。
「アークの黄桜。貴方、何しようとしてるの? 馬鹿な事は止めて。箱舟に喧嘩売るの?」
 魅零が駁儀の前に立った。彼女のその言葉に「とんでもにゃい」と駁儀は頭を振った。
「敵対するつもりはにゃいねえ」
「なら、この無駄な戦いを止めさせて」
「それを言うなら、あんたらが引きや!」
 雅秋の気弾の一部がこちらへと襲い掛かるタイミングで、駁儀の左手に収まった銃身が魅零へと向けられた。
「――――にゃ!」
 苛立たしげに舌打ちをして、再度、駁儀は飛ぶ。
「五月蠅い奴らやにゃあ!」
 細められた目が烏を捕えるや否や、仕返しとばかりに、その銃口が烏を向いた。


 雅秋は内心焦っていた。駁儀に対応する敵が多い。早くあちらの加勢に行きたかった。
 しかし、目の前の男がそれを許さなかった。増幅された今の自分の力を上回るその速さは、最早神速の域に達していると言っていい。
「何故、人を殺した?」
 鷲祐のその問いに、雅秋は一層顔を顰める。
「別にそこにドラマは無えよ」
 何も無い。彼等兄弟には何時も『何も無くて』、ただそれが悲しかった。
 言い終えた雅秋を、突然光が襲った。その斬撃が彼の攻撃の手を止めた。
「そうか」
 鷲祐は問い詰めない。答えられない何かがあってもいい。
 それは罪ではない。
 雅秋の攻撃が休んだ瞬間を見て、体の向きを駁儀の方へと変える。
 しかし、それを踏み滲む行為は。
「お前の行いは気に食わないな」
 これは苦しいぞ、駁儀。
 時が止まったような気がした。傍から見ていた雅秋はそう感じた。

 牽制と防御。福松の配分はその目的の為には最適と言って良かった。
 歴戦のリベリスタ二人相手に互角以上で戦っているのだから、『ヴァリアント』を得た神楽は相当の能力であろう。しかし、福松を後退させたと思っても涼子の攻撃が彼を捉える。
 駁儀の苦戦は神楽でさえも見て取れた。
「くそ!」
 苛立たしげに振るう脚が涼子を襲う。ただの蹴りではない。目測の射程を何時の間にか上回り、一度受ければ臓腑を抉る。
 邪魔だ。目の前には、福松が立っている。
「お前の使った『ヴァリアント』の説明は先程話した通りだ。零時にお前等二人の命を喰らう」
「……黙れ!」
 福松が瞬きする前に間合いが詰まる。
「何が目的なんだ! どうして僕達の邪魔をする!」
 何時だってそうだ。
「と、言っても信じないだろう。それでもいいさ。オレはオレの仕事をこなすだけだ」
 オレだってな、好き好んで、死なせたりはしない。


 夏栖斗の闘技をやり過ごそうとした時だった。
しまった、と思って、その瞬間には嫌な音が耳を劈く。
 駁儀は音の方へ眼を遣った。右腕が無かった。
「やるにゃあ」
 駁儀の顔に苦痛と疲労が浮かんでいた。その眼で自らの右腕を屠ったモニカの方を見た。
 笑みを崩さないのは、強がりか、それとも。
「次は左腕を行きますよ」
「腕一本で許してくれんかにゃ」
 にゃはは、と駁儀は苦笑した。
「ボクも死にたないんでな。あれかにゃ、『目的』でも話せば見逃してくれるのかにゃん?」
 駁儀の眼は魅零を向いた。今まさに自分が放とうとしていた言葉を見抜かれた魅零は、黙ってその続きを促した。
「そうこなっくちゃにゃ。でもまあ深い意味はないんよにゃあ。あ、そもそも、何でそない簡単に喋るのかって?」
 今度は烏を見た。駁儀は烏に『視られ』ていることも自覚していた。
「それはにゃ、ボクもあんたらと『同じ』やからさ。答えを探してるだけにゃ。自分にゃりのな」
 だろう? 猫のような眼が、夏栖斗を射抜いた。
「あんたら、これからどっちを殺す? それはどない理由で?」
 駁儀の息は荒い。先を失くした右肩からは血が噴き出し、肉が落ちた。
「あんたらはこう思っとる。『これは正義なんかじゃない』ってにゃ。殊勝やん。やけどや」
 こうも思ってる。
「『自分達は悪では無い』。そー信じとるにゃ。じゃあ一体、あんたら、『何』や?」
 にゃはは! 
「まー、どっちか殺すゆーなら選べばいいにゃ。どっちも罪人にゃ。ボクはその結果だけ分かればいいにゃ。其の為の保険にゃ」
「保険?」
 魅零が訊き返す。
「かたっぽ生き残ったとて『どうしようもない』にゃ。その頃には力も無く、ボクにもあんたらにも復讐なんて到底出来ないにゃ」
 それに。
「従来通り両方死んだらそれもいいにゃ。赦されたと思い込んだ罪人の行く末が楽しみでにゃ」
「弟を巻き込む必要は無かったはずだ」
 夏栖斗の声色に、思わず周りのリベリスタが彼の顔を見た。それほどに怒気を孕んだ声だった。
「ボクからすればあいつも罪人にゃ」
 しかしそれを意に介する素振りも見せない。
「何故態々おまえさんがこの戦闘に介入する必要があったのかね」
 烏の問いに駁儀は首を振った。
「勘違いして欲しくにゃい。ボクはホンマに兄弟を救いたい気持ちもあるにゃ」
 あんたらと一緒やゆーてるやん、だから腕一本捨ててまで来てやったにゃん。
 やけど。
「ま、『ヴァリアント』の都合もあってにゃ」
「ほう、それは一体どんな『都合』なのかぜひ聞きたいのだがね」
「それは言えんにゃあ」
 一瞬だった。駁儀の跳躍が、リベリスタの視線から彼を外した。
「兄弟がここまで出来損ないだとは思っとらんかったにゃ。おかげで良い置き土産ありがと、メイドさん」
 駁儀はひらひらと左手をモニカへ振った。そして、そのまま戦闘中の兄弟達の方へ体を向けて声を張った。
「兄弟よう! 選ぶがいーにゃ! 『選ばれたらお仕舞』やでにゃ!」
 その様子を見た神楽が顔に絶望を浮かべて叫ぶ。
「駁儀さん! 僕達を見捨てるんですか!」
「ほんじゃにゃ」
 ―――ボクを逃したその『選択』、後悔すんにゃよ。
 

「……駁儀に善意は無い」
 夏栖斗のその言葉に雅秋は素直に頷いた。
「あんたらの言う事は事実だろう」
 その一言には諦観が籠っていた。
「俺にはこういう世界は良く分からん。だが、あんたらが身ぃ削ってるのだけは分かった。それは信じなければ嘘だと思った」
「兄さん……」
 神楽は雅秋を見た。恐ろしく悲しい表情だった。
 (辛いね)
 何故彼がこんな顔をしなければならないのか。魅零の手に思わず力が入った。
「残念だが時間が無い。もうすぐでお前等共に死ぬ」
 敢えて冷たいその福松の口調が兄弟に時間を与えない。事実、残り僅かで短針が真上を指す。
 だけれど。
「これは俺達の都合だ。結末がどうあれ、アークは頓着しない」
 だから、零時になるまでは、お前たちは自由だ。
 残り六十秒。それだけだったとしても。
 鷲祐はこの自由を尊重する。
「……選べなかったら?」
 神楽がおずおずと問いかけた。その問いが最も辛かった。
「兄を殺す」
 (一人でも生きる事だけは諦められないし、諦めて欲しくない)
 涼子の瞳が揺れた。揺れたから、神楽もやっとそれが事実だと理解した。
「そん、な」
「別にお前を殺しても構わん」
 結唯の一言に、神楽は黙った。
「戻れる道が無くなったのは、もう仕方ない事」
 どの口が言う。魅零はそんな自分を押し込めて続ける。
「死ななくてはいけない片方のために。この世の中が理不尽たる世界であったとしても」
 雅秋も神楽も、声を発さない。発せない。
「私たちは生を受けた時から、生きる事を諦めてはいけないのよ」
 生きろと。そして、死ねと。
「残酷なことを言ってるよ、でも片方は生きれるんだ」
 選択してくれ。夏栖斗は強く願った。
 これはエゴだ。君だけしか救えない、僕のエゴなんだ。

「俺達には選べない。やはり共に生きたい」
 残り二十秒。
 雅秋の宣言が、リベリスタ達に重く圧し掛かった。
 だが、神楽は理解した。兄のこの発言は、自ら死ぬことを拒否した発言では無いことを。
 それは正しく『雅秋が死ぬ』ことと同値だった。
 そしてそれを神楽へ押し付けない為の言い回しに過ぎなかった。
 リベリスタ達の視線が雅秋を捉える。それはそう『選択』したこと。
 それでも神楽は言えなかった。
 自分が死にたいとは言えなかった。
 足が震えて、喉が震えて、思うように口が動かなかった。

「家族で生きようと思った時には、親が居なくて」
 雅秋が呟いた。彼は悔しそうに神楽を見た。
「一人で生きようと思った時には、愛した人も居なくて」
 それは自分が殺めた女。
 鷲祐を見た。
 ――――俺にも弟が居てな。その為なら命も投げ出せる。
 そう言った彼のことを、雅秋はこの瞬間だけ好きになった。
「やっと残った兄弟で生きていこうと思ったら、今度は俺が居ない」
 死にたいと思っていた時には死ねなくて、どうして、心底生きたいと思っている時に死なねばならないのか。
 その雅秋の無念さだけが溶けて、神楽の肺を満たした。
「兄―――」
 僕が死ぬ。もう少しでそれが言えた。
 今ならきっと言えた。あと数秒早ければ伝えられた。
 言い切る前に、手を伸ばしきる前に。


 神楽はその死に場所を失った。
 死ぬべき時に死ねなかった。
 だから彼は死んだに違いなかった。例え心臓が鼓動を続けようとも。

 結局の所、二人とも変わることは無く、罰を受けて殺された。


 にゃおん、と何処かで猫が鳴いた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

Kafka『アメリカ』の一説に着想を得て作成したシナリオでした。

プレイヤーの皆様に頭を使って頂こうというテーマでした。
しかし、OP文章が分かり辛い旨をお伝え頂いた為、追記を行いました。
不明瞭な文章になり申し訳ありませんでした。今後気を付けていきたいと思います。

個人は別として、全体として『ヴァリアント』や駁儀そのものについての本質的な追及の描写は少なかった為、リプレイ内でもそこの所の描写は曖昧になりました。

僕個人がどんな結末になるか楽しみにしていたシナリオでした。
素敵なプレイングが多かったのですが、例の如く文字数制限に阻まれました。小題名すら書けない程です。
目に見えない部分を解釈して頂ければと思います。

参加いただいたリベリスタ皆様が楽しんで頂けること願っております。
『罪なき者と、罪ある者、裁くのは誰か?』へのご参加有難うございました。