●エフィカさんがんばります 「いらっしゃいませっ、ようこそ三高平へ!」 『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)と言えば、 アーク本部を地下に内包する三高平センタービルの受付嬢である。 日がな仕事を受けに来るリベリスタや三高平市民へ常に絶やさず微笑みかける様は、 受付の天使と方々より呼び称されて随分久しい。相応のファンも居るほどだ。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)と並ぶ名実共にアークのマスコット。 さて、しかし一方で彼女の職務にはアークの事務周りの処理も含まれている。 これに関しては同僚である『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)や、 新規参入した多くのフォーチュナらの尽力も有り昨今徐々に改善の兆しを見せているが、 プロトアーク時代は殆ど彼女主体で書類管理をしていた。と言えばその敏腕っぷりが知れるだろう。 とは言え、最近はこれらの業務から離れる事も多かった。任務が有るからだ。 マスコットであり受付嬢であり事務員である傍らリベリスタでもあるエフィカは戦いにも赴く。 こう聞くと実に多忙である。多忙を極める。けれどそれはそれとして報告書はどんどん増える。 それと言うのもアークに舞い込む事件と事件を解決するための戦闘要員に比して、 内務要員がこれはもう露骨に足りていないのが原因だ。処理が追いつかない。 更には現場レベルでまでこの問題は波及している。此方もやはり、処理が追いついていない。 各リベリスタらが皆報告書に逐一目を通している訳ではないのだ。日々仕事は増える。 任務はこなさなくてはならないが、その事件前後の事情など把握しきれる物ではない。 目的達成の為に必要な書類は彼女やフォーチュナらが資料に纏めて手渡すが、 それ以外の枝葉末節部分の追調査は各人に丸投げしているのが現状だ。 例えば組織について。例えば有力フィクサードについて。例えば大きな事件の概要について。 必要であれば逐一資料に纏めもするが、そうで無ければ報告書に纏めて後は放置である。 事件に関わった人間しか知らない事は、思う以上に多い。 あまつさえそれらは整理されないまま日々の忙しさの中に散逸してしまっている。 それでは駄目だ。駄目だと思う。 偶々スケジュール的に午後が空いたある日、何故かエフィカはそんな事を思い付き、思い出し。 改めて過去の報告書を纏めてあるデータベースを開いてみた。 エフィカさんはA型気質だ。基本的に真面目である。気になった事を放り出すのは性に合わない。 ●年末大掃除(知識的な意味で) さて、だが、しかし。 そこに表示された報告書の情報量は“電子の妖精”と呼ばれる異能を有し、 情報処理を四肢を操るかの如き速度と精度で成し遂げる彼女ですらげんなりする程のそれであった。 多い。多過ぎる。余りにも多過ぎる。 4000を軽く超える神秘事件の仔細データは彼女個人の処理能力を大幅にオーバーフローしていた。 どれ程効率的にデータベースを操作出来た所で目を通すのは人間なのだ。 超高速の演算能力を持つプロアデプトでもあればともかく、 しがない神秘射撃手であるエフィカには流石に荷が重過ぎた。これは無理だ、独力では。 と言う事で、彼女の取った手段はシンプルだった。 1人で無理なら2人で。2人で無理なら3人で。 100人居れば100倍の作業効率が期待出来る筈――まあ、流石にそう上手くは行かないだろうが。 ともあれ、現状求められている情報位はすぐに確認出来る様にしたい。 幻想纏いをアーク本部のデータベースに接続すると、 彼女は自分の個人的交友網を中心として一通のメールを送信する。 SOS、協力求む。皆の為に出来るお仕事があります。大至急資料室へ。 エフィカ・新藤。 それがつまり――貴方が今たまたま受け取ったそれである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月03日(火)22:30 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 16人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●分からない事は何ですか? 「皆さん。お集まり頂きありがとうございますっ」 羽根をぱたぱた、犬の尻尾の様にはためかせる『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005) その周囲には彼女のヘルプで集まってくれた16名の猛者達が並ぶ。 三高平市中央センタービル、アーク本部内資料室。彼らが目の当たりにしたのはこう―― 精々良く表現して、散らかりまくった資料の山である。物理的にも、電脳的にも。 これで良く回ってたなあ、とは『ファントムアップリカート』 須賀 義衛郎(BNE000465)の言。 書類仕事は得意だと純粋に整理の為の協力を志願した彼にして、嘆息を漏らしそうになる分量だ。 役所の倉庫でもここまでにはならない。一体どれだけの間、資料整理を放置してきたのか。 「まあ、了解。お手伝いしましょう」 それでも、やると決めたら取り掛かれるのが事務仕事従事者の強みである。 千里の道も一歩から。手を動かせば作業は進む。実務経験に勝る説得力など存在しない。 空き段ボールとクリップを机に並べるや、資料を並べ種類事にまとめ始める。 片手で資料を器用に捲りながら利き手は概要を打ち込んでいると言う小器用さが、 公務員(臨職)と言う職歴から来る場慣れを印象付ける。 「電子の妖精あるし、電子媒体方面の整理を手伝おうかな」 一方、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)もまた、 この手の仕事には慣れている心強い面々の1人である。 エフィカ同様“電子の妖精”を有し、プロアデプトでもある彼女は特に電子情報戦に優れる。 画面内に展開された情報を分類化し、確認頻度の高い物から優先順位を付けて並べ直していく。 その作業速度は機械との親和性も有るのだろうが、エフィカよりも明らかに速い。 「わ……私も頑張らないと!」 それら真面目に作業に従事する面々を目の当たりにし、召集を掛けた当人が遊んでいる訳にもいかない。 エフィカが気合を入れて画面に向かうや、それに気付いた彩歌がふと問いかける。 「そう言えば、主流七派についてなんだけど」 「はい?」 突然の言葉にきょとんと瞬くエフィカを余所に、ディスプレイを眺めたまま彩歌が言葉を捜す。 「露出が少なかったり好き勝手やってるのは置いといて、逆凪とか、剣林とか。 あの辺動きが良く分からないのよね。実際組織として最近って何かしてたっけ」 「んー……七派、ですか」 主流七派。アークに属していれば名前だけはとかく良く耳にする国内の七大フィクサード組織。 しかし、その全貌を把握している人間は実際問題としてアークの中にも殆ど居ない。 「あー、自分が全く関わってない事件とか気分が乗らなきゃなかなか調べようと思わないもんな」 そんなO型全開の台詞を漏らしたのは『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)。 アークの中でもかなり情報通である筈の彼が、そう言葉にする以上割と洒落にならない事態である。 「というか、進藤も色々やってんだなぁ……てっきり受付だけだとばかり」 「アークって事務職はいつでも不足してるんですよね……」 何せ、神秘の秘匿と言う観点から採用出来る人間には絶対的な守秘義務が求められる。 一般人をそれ程多く取り入れる訳にもいかず、革醒者には荒事専門の人間の方が圧倒的に多い。 構造的に、情報管理や事務処理はどうしても人手不足になり易いのだ。 「ま、資料整理とか思い出した時に思い出したようにやるもんだよな」 うんうんと奇妙に実感の籠った頷きに、エフィカが微妙な笑いを浮かべる。 日々の業務に追われ、自分が関連しない事件について把握が足りていなかったりする事実がある。 ここら辺でその辺りを、せめて直近影響の有りそうな物位まとめておいて損は無いだろう。 「これ検索とか出来るんですか?」 「い、いちおう……?」 そこに挟まった『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の問に、 けれど答えるエフィカの言葉はとても自信無さげだ。 一応……そう、一応。関連語検索とか複数語句検索とかは出来ないと言う意味で。 せめて基本的な情報位は掴んでしておかないと事件資料1つ探すのに多大な時間を消費する。 「それは……ナンセンスですね」 ばっさり切り捨てるあばたの言葉が余りにも的確過ぎて苦笑いする事しか出来ない。 しかしそこで諦めるのではない辺りがOSSエンジニアの真骨頂。 量子の悪魔(クオンタムデーモン)の名は伊達ではないのだ。 公開されているソースを流用してデータベースライブラリの構築に取り掛かる。 あばたの挑戦が今、始まる――と、それはそれとして彼女にも七派には分からない点が有る。 その最たる物が三尋木だ。一般的に想像するインテリヤクザである所の彼の組織。 けれど資産運用や会社経営を行う逆凪や、政財界に太いパイプを持つ恐山。 無ければ馬鹿から搾取すれば良い、の裏野部の様にこれと言った財源が思い至らない。 ひょうひょうとしたヤクザ連中である彼らが、七派足りうる強みとは何なのか―― 果たして情報の坩堝たる電脳の海は、それらの問に答えを示してくれるのだろうか。 “電子の妖精”と呼ばれる異能を宿す女達が3人、それぞれ3者3様に動き始める。 年末の資料大掃除、長い長い激戦がここに幕を開ける ●主流七派のえとせとら 最大派閥『逆凪』、武の『剣林』、知の『三尋木』、謀略の『恐山』、探求の『六道』。 それに閉鎖主義の『黄泉ヶ辻』、過激派『裏野部』を加えた七つの派閥。 その中でも、活動範囲の広大さと言う点で他の追随を許さない組織が『逆凪』である。 彼らは何処にでも関与している。裏社会の根底を辿れば逆凪が在る。と言っても過言ではない。 まずはその例を挙げてみよう。 『逆凪』 逆凪カンパニーと言う総合複合企業を母体とし、 その経営者兼代表、逆凪黒覇をトップとする国内最大のフィクサード組織。 黒覇の実弟、逆凪邪鬼をNo2に、逆凪分家の養子である義弟、凪聖四郎をNo3に据えている。 主だった傘下組織は『影踏』、『フラワー*サカナギ』、『晴海組』、『直刃』等。 勿論逆凪直下と言う意味で他組織に属していない逆凪フィクサードは枚挙に暇が無く、 その人層は極めて厚い。アイドルも居れば頭が悪いのも居る。 だがこの内で特筆すべきは『逆凪』には逆凪社員、邪鬼の私兵、聖四郎の私兵と言う、 組織的例外が3種類も存在するという事だろう。 先ず逆凪社員。これは黒覇直下の私兵に当たり、歴然とした能力階級が存在する。 係長、課長、部長、専務等、これらは一般の会社階級に準拠し、代表取締役兼会長が黒覇に当たる。 中級クラスのリベリスタ組織である所の『ナイト&ナイツ』が係長クラスを退けた。 と言う事例からするに、その上位層はアークのエースを凌駕する事が想定される。 また邪鬼の私兵である『晴海組』、聖四郎の私兵である『直刃』はそれぞれ独自の指揮系に属す。 特に『直刃』はその活動頻度の高さからアークの前に幾度も立ちはだかるも、 未だ幹部級は一人も討伐出来ていない事がその練度の高さを伺わせる。 現時点で確認されている『直刃』主要メンバーは、継澤イナミ、誰花トオコ、久慈クロム。 これに賢者の石争奪にて交戦した傭兵上がりのフィクサード、佐伯天正、竜潜拓馬を加えた計5名。 次に、その全貌と言う意味では逆凪に匹敵するほどに不鮮明な知の派閥『三尋木』について。 『三尋木』 女傑として知られ、七派首領の紅一点である三尋木凜子の率いるフィクサード組織。 通称に違わずの穏健派であり主に神秘事件で無い部分で社会に根を張る彼らの活動は、 その性質上アークの対応案件外となるケースが決して少なく無い。 それでも尚、アークと長く関連があるフィクサードと言えば 『三尋木』の正規幹部、『Crimson Magician』クリム・メイディル(nBNE000612) 凜子の親衛隊長を自称する『発光脳髄』阮高・同が挙げられる。 どちらも強力なフィクサードであり、アークとの交戦経験も豊富である。が、 一方でアークとの共闘経験も交戦とほぼ等しい割合で存在する点が穏健派と呼ばれる由縁である。 これらに加え組織としての活動案件では、社会福祉法人『メトセラ企画』の暗躍が挙げられる。 社長、浅場悠夜。役員、配島聖によってなる『メトセラ企画』なる企業が “長命の村”谷中村の村民とその村に隠された神秘とをアークと取り合ったこの一件で、 アークは三尋木凜子と直接交渉。しかし交渉環境の悪化と対立を経て交渉は決裂。 若干の前進を見たアークとの関係も現在は微妙なものになっていると言えるだろう。 またこれらの経緯より三尋木は法人及び企業を幾つも所有している事が確認されており、 更に『逆凪』社会長との関係も七派内に於いて特別に良好である事から、 ある種の正攻法で以って利益を得、財源を確保している物と推測される。 但し、詐欺や不正取引など利益確保の手段が非合法的な物にも及んでいる事を示す事例は多い。 ●事件の後に 七派についての疑問を調べ終え、暫し。コンコン、コン、と言うノックの音。 はーい、入って下さい。と答える受付の天使に応じて扉から覗く小柄なシルエット。 「えっと……手伝いに呼ばれたのって、ここで良かったかな」 室内であるにも関わらず、目立つ赤と黒のキャスケットに良く映えるワインレッドのジャンパー。 現在アークでフォーチュナとして研修中の少年が誰かを捜す様に室内を見回すや、 そこには見慣れた顔と見慣れぬ顔――もとい、見慣れた顔の方に問答無用で捕らえられる。 「悠!」 「! シスターのお姉ちゃん!」 声を上げたながら引き寄せた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)に捕まったのは、 『預言者』赤峰悠。当年8歳。学校に通っていれば小学校2年生である。 それにしては大人びた、と言えるだろう。1年で随分と成長の色が濃い。 けれど二次性徴前の少女の様な声音が、彼がまだまだ子供で有る事を強く印象付ける。 「元気にしてたか? ずいぶん大きくなったかな」 ぎゅむぎゅむ抱きしめる杏樹の甘やかしっぷりは、過保護なお姉さん候と言う感じである。 最初は喜んでハグに応じていた悠も、途中から段々恥ずかしくなって来たのかじたばたし始める。 「し、シスターのお姉ちゃん、ちょ、ちょっと苦しい!」 はた、と気付いた杏樹が手を離すと、何所か照れた様な悠と対面する事に。 勢いで甘やかした手前自分も照れるとは言い難く、何と無く漂う表現し難い微妙な沈黙。 「あ、えっと元気だったよ……シスターのお姉ちゃんも、無事で良かった」 「あ、ああ。うん。最近はどうしてるんだ?」 以外や割とテンションで行動してしまうタイプらしく。杏樹の問もぎこちない。 それを見て、けれど恐らく“彼”は知らない顔だろう。 『無銘』 熾竜 “Seraph” 伊吹(BNE004197)は何所か微笑ましげに、瞳を細める。 (――どうか、そっとしておいてあげてください) 脳裏を過ぎったその言葉は、自分が息子の様に思っていた不器用な射撃手の声音で響く。 幻聴だろうか。けれど、恐らく彼ならその通りを告げたに違いない。 リベリスタとしての伊吹は、それに対し思う所がある。力には力の責が及ぶ。 それは貴き義務にも近しい必然だ。何時か必ず、彼は力有るが故に壁にぶつかる事になるだろう。 力を持つが故命を落とすまで願いを捨てられなかった“黒羽の彼”の様に。 だが、せめてそれまでは。そう思わないと言えば、きっと嘘になる。 伊吹とて、家族にも近しい人間を喪いたくなど無かった。だがその決断を厭うかと言えば、否だ。 むしろ誇りに想おう。戦いを厭いながら戦い抜いた、愛すべき息子の切なる願いを。 「うん、勉強は全然大丈夫。皆詮索とかしないし……ここは、良い街だよね」 淡く微笑みながら響く悠の声に意識を引き戻されたか。伊吹が不意に一歩距離を詰める。 「家にこもってばかりでなく少しは体を動かす方が良いぞ。 おじさんにも子供がいるが女の子でな。息子がいたら一緒にサッカーをしてみたかったのだ」 「? おじさん……」 破損した“預言書”はアークの技術部が与り解析中だ。既に悠の手元には無い。 だから眼前の黒い“おじさん”が誰かは、分からない。分からない筈だ。 けれど彼は知っていた。自分を救う為に、誰かが犠牲になった事を。 誰も教えてはくれなかったから、自分で調べた。だから―― 「――サッカーかあ……うん。やるのは良いけど、“おじさん”には負けないよ」 悪戯っぽく笑って見せる。現代っ子らしく小生意気に。言われた伊吹が口元だけで笑む。 救えず堕ちる命が在る。救われ羽ばたく命が有る。どれが正解と言う事は無い。 だが願わくば――この手が掬い上げられる物だけでも届けば良い。 名誉有る死への憧れは今や遠く。けれど例え路傍の石でも、その命をこそ誇れる様に。 「む。」 しかし、そんな男同士ならではのやり取りから弾かれた杏樹にはそれがどうも不満だった様で。 「なあ悠。時間があれば、今度どこかに遊びに行くか?」 「え、うん。良いけど」 遊びで釣る杏樹に、こくりと頷く悠。やはり直接の恩人である所は大きいらしく嫌に素直だ。 “シスターのお姉ちゃん”の思わぬ妨害に、伊吹の口元が僅かに引き攣る。 「リフティングを教えてやろう。これで友達ができるぞ」 「美味しいケーキを出す喫茶店があるんだ。一緒に食べに行きたいな」 2人から交互に声を掛けられ、悠が困った様に笑う。 戸惑いながらも、躊躇いながらも、けれどその様は幸せではある様に見えた。 ●世界に纏わるえとせとら 「そう言えば派兵を求めて来た国外リベリスタ組織って纏めてあったりするか?」 「えっと……無いですっ!」 以上、資料まとめを作成中の影継とエフィカのやりとりである。 整理に呼び出されて来た面々には、国外に興味の矛先が向いている面々も少なく無い。 その最たる例が、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016) 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。 そして『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)ら、 国外に潜むとされる、フィクサード組織『救世劇団』と縁の有るメンバーだと言えた。 「さ、今日もエフィカちゃんのお手伝いをするよ。 え? 何でそんな顔するの? 大丈夫、今日はスク水、着ろっていわないから」 もうその台詞だけで普段何を言ってるのかお察しですよね? 明確に嫌な顔こそしないまでもこう、いつも笑顔を絶やさないエフィカの表情が 夏栖斗他1名に向けられる時だけ微妙に堅いのは、色々な経験のなせる業である。 走馬灯の様に駆け抜けるアレな出来事の数々。感謝の念も有るだけに余計複雑だったりする。 「僕もさ、アークの資料には興味はあるんだ。調査資料の中には今後のヒントもあるだろうしね」 けれど彼の纏う空気は普段より重い。それが何故か、を問う事を躊躇うほどに。 「ああ、どんなに些細でも構わない。指先に手がかりを引っ掛ける」 頷く快も、紙資料を追いかける目は真剣極まる。この場では遊んでいられない理由が有る。 それは共通でこそ無いけれど――彼らが見て来た物が、戯れを許さない。 「出来れば……過去の資料から、洗いたい。活動、を始めてどれぐらい、なのか……とか」 天乃の言葉に、眉を寄せたエフィカが、けれどこくりと小さく頷く。 オルクス・パラストからの提供資料。その中にそのフィクサードの名は初めて姿を現す。 それは彼の喜劇で踊らされた人間には因縁の名。最悪の踊り手。歪曲芸師。 悪夢の道化――『バッドダンサー』 『救世劇団』 オルクス・パラストの資料に曰く「最低でも200年以上前から在る極小規模のフィクサード組織」 明確な活動記録は無く、これと言った事件とも表立った関与は無い。 大規模のリベリスタ組織との交戦履歴も無く、正しく無い無い尽くしの極めて不鮮明な組織。 だが、ヴァチカンの闊歩する欧州にただそれだけの組織が半世紀在り続ける事さえ困難である。 そして彼の組織は極々最近になって急激にその名を広げている。 最初はイタリア。次にオーストリア。最近はドイツの地下でもその名を耳にする事が有ると言う。 しかしその構成員と交戦したという話は欧州では遂ぞ聞く事が無い。 『バッドダンサー』シャッフル・ハッピーエンド 現在明確に『救世劇団』の一員である事が確認出来ている数少ないフィクサードの一人。 自らを『前座』と称し、様々な破界器を用いて暗躍の限りを尽くしている。 最初に観測されたのは凡そ100年前のフランス、パリ。その近郊で活動していた模様。 最低それ以上の年齢であると推測される。しかし活動が急激に活発化したのは2010年初頭。 即ち、プロトアークの活動開始とほぼ時期を等しくする。 また補足当初からアークと明確に対立しており、何らかの目的を以って来日した可能性が高い。 現在の所在地は不明。ドイツ国内で目撃証言が幾つか挙げられている。 クラスはナイトクリーク。所有EXスキルは「デッドエンドナイトメア」 擬似的に単体7回攻撃を実現する破界器「アンラック7」の使い手であり、特に回避に優れる。 『ドールマスター』ティエラ・オイレンシュピーゲル 現在明確に『救世劇団』の一員である事が確認出来ている数少ないフィクサードの一人。 気糸を接続して他人を操ると言う神秘を用い暗躍している。 活動記録は1999年から14年に及び、目撃数、犠牲者数共『救世劇団』関係者では群を抜いて多い。 主に北アメリカを中心に活動しており、連続殺人犯として国際的に指名手配されている。 来日したのは2011年。ほぼ『バッドダンサー』と同時期である為何からの関連が有ると思われる。 『魔女宗・人形学会(カヴン・ピグマリオ)』なる下位組織を率いており、 これと同名の組織が凡そ150年程前に欧州で観測されている。 ヴァチカンとの交戦歴も有り、欧州に於ける『魔女宗・人形学会』は1910年代に一度壊滅している。 クラスはプロアデプト。所有EXスキルは「マリオネットケージ」及び「繰殻惨昧」 尚、気糸による操作は状態異常解除スキルによって解ける、と言う記録が有る。 『千貌』トート 『バッドダンサー』の国内に於ける目撃証言喪失と前後して来日したと推測される人物。 現在明確に『救世劇団』の一員である事が確認出来ている数少ないフィクサードの一人。 自らを『音響監督』と称し、他人に化けると言う神秘を用いて暗躍している。 目撃記録らしき目撃記録が無く、何時から活動しているフィクサードであるのか不明。 正体不明のE・ゴーレムらしき物を使役する。クラス、所有スキル共に不明。 『海外の主要リベリスタ組織』 アークが諸外国からの救援要請を受けるに当たり、世界最大のリベリスタ組織『ヴァチカン』 及びドイツ最大のリベリスタ組織『オルクス・パラスト』以外の組織とも交流を持つ様になった。 以下にその各地域に於けるリベリスタ組織と、活動の概略をまとめる。 ≪西欧圏≫ 『白い鎧盾』 ポーランドのリベリスタ組織。この50年で復興の兆を見せている。 ケイオス・“コンダクター”・カントーリオの『混沌事件』にて壊滅的打撃を被った。 『白バラの祈り』 チェコのリベリスタ組織。比較的小規模な組織であり、主力の防衛可能範囲は凡そ街一つ。 『キプロス騎士団』 イタリア共和国のリベリスタ組織。聖堂騎士団筆頭。主流派。 教会に最も忠実な騎士団として世界的にも名前が知られている。別名キプロスの狗。 『アルゴス騎士団』 ギリシャのリベリスタ組織。聖堂騎士団の一つ。反主流派。 トップは不明。No2は『赤獅子』テオドール・スマラグディス。 ≪アジア圏≫ 『梁山泊』 中華人民共和国のリベリスタ組織。世界的に知名度が高く規模も大きい。 上海閥等、幾つかの派閥に分かれ大陸各地の事件に対処している。 ≪アメリカ圏≫ 『アメリカンオールスターヒーローズ』 何処かで見たようなヒーローのパチモンみたいな集団。 アメリカ流に中二病した結果革醒にいたった人々。強い意志と根性はあるが、基本的に弱い。 ≪中東圏≫ 『ガンダーラ』 インド最大のリベリスタ組織。世界的に知名度が高く規模も大きい。 ヴァチカン同様宗教ベースの革醒者組織組織。トップは教主こと『聖女』ラーナ・マーヤ。 『緑の民』 アマゾン熱帯雨林に古くから住み、森の平和を護ってきた革醒者部族。 フォーチュナにして族長である『シャーマン』ルピタロッタをトップとする。 ●繋がる縁 「こんにちわ、常盤さん。資料整理に駆り出されましたか?」 『現の月』 風宮 悠月(BNE001450)が声を掛けた相手は、部屋の隅。 まるで当然の様な顔で紙資料を捲っていた。男の銘は『閃剣』――常盤総司郎。 アークに降ったフィクサードは数在れ、ナイトメアダウンの経験者にして生還者。 そして、かつてのリベリスタ達を“見捨てて”生き延びた人間など他に類を見ない。 生きてきた時代の差か。ほぼ全盛期の力を取り戻した男は、アークでも屈指の実力を誇る。 「新城の嫁か。どうした」 掛けられた声は既知の人間に対する気安さが混ざる。 彼に拘る人間は決して多くない。中でも、彼女とそのパートナーは異彩を誇っていた。 事有る事に声を掛けられれば、流石に相手の顔とプロフィール位は一致する。 「……!……こほん。一つ、聞いても宜しいでしょうか」 動揺は僅か一瞬、けれど問い掛けるのは彼女にとって大切な――とても、大切なこと。 視線で先を促す総司郎に、悠月は真っ直ぐな眼差しで続きを紡ぐ。 「――昔の事を思い出すのは、辛いですか?」 「そうだな」 然程間を空ける事無く、返る肯定。 「だが、辛いから逃げる。忘れる様妄執に溺れる。それでは一歩も進めはしない」 自分がそうだと。言外にそう告げる様に、男は遠くへ視線を向ける。 「何か聞きたい事でもあるのか」 「……私の両親共々、聞けそうな人は皆『あの時』から帰っていませんから」 昔話。そんな物は文字通りの過去だ。感傷であり、未来には不必要な物語だ。 けれど、彼女が知りたいのは其処なのだろう。問い掛けたい事は、もっと沢山有るのだろう。 「お前は本当に、親と良く似ているな」 口元を僅か緩め投げられた言葉に。悠月が瞳を見開いた、その時だ。 「漸く、会えたか……」 『誠の双剣』 新城・拓真(BNE000644)から漏れた言葉には、一日千秋の想いが滲む。 振り返れば、後ろに立っていた良く見知った顔に、悠月が続く言葉を失う。 「新城か。ロバートの一件は残念だったな。まあ、相手が悪かった。 奴の相手は俺でも場合によっては手に余る。気にする事は――」 ない、と言おうとしたのだろう。だが続けられた言葉は、そんな『閃剣』の想定を超える。 「折り入って、頼みがある。俺をあなたの弟子にしてくれないか」 「……」 ぱさり、と手にしていた資料を置く。視線の位置は立っている方が流石に高い。 しかしその真偽を問う様な眼差しに、圧されているのは見下ろす拓真の方だ。 「あなたは、俺が出会って来たどの双剣士よりも強い。 何より、俺の様な我流の剣技ではなく確かな師から学んだ剣がある」 「確かにお前の剣には粗が多い。だが、それで命を繋いできたのだろう。 自分の業を信じられないか。新城の銘を、“誠の双剣”を継ぐと言葉にしたのは偽りか」 ぽん、と叩いた紙面には『新撰組』なるフィクサード組織との交戦歴が綴られている。 「俺は、手の届く誰かを助ける事が出来る様に、強くなりたい」 「強くなる為になら手段は選ばないと?」 それは、秩序の守護者には有るまじき意思表明だ。剣の正道には程遠い。 誠実なる剣を追い求めるなら、その頂きには己が痛みを以ってしか辿り着けない。 「どんな苦行も耐え抜いて見せる。頼む」 だが、自分が無力であると言う実感。それが、男に分からない筈が無い。 自分もまた、師に頭を下げた時口にしたのは、確かそんな言葉だったろうか。 「――……剣の道とは一朝一夕に身に付く物ではない。後戻りは効かん。 忘却し、やり直す等以っての他だ。志無き剣に何が救える。その上で、問う」 ならば男は、自らの師が自身に課した問い掛けをここで拓真へ投げない訳にはいかない。 「『閃剣』は疾く速く先の先を奪う静の術業だ。余剰物を身に着ける余地は無い。 例え神秘を写し取る瞳を持とうとも、一意の鋭さ無き閃剣は閃剣たり得ない」 拓真の動きは精々が一般的な革醒者と同等だ。 今現在の彼が総司郎の業を幾度見、学ぼうと物になるとは思えない。 「お前は今まで積み重ねた物の上に“無価値な修練”を積み重ねられるか」 それは彼の得たい物とは真逆を行く。デュランダルにはまるで不必要な修練だ。 力など決して得られず、そればかりか他の剣士達に対し水を空けられるだろう。 「『閃剣』は正道に非ず。邪道に非ず。その真髄は無道。道無き力無き弱者の為の刃。 志が揺らがんなら今の3倍動ける様になって来い」 当然、その前に総司郎は死ぬかもしれない。縁が交わらないかもしれない。 無為な修練となり果てるかもしれない。だが――道無き道を切り拓くとは、そう言う事だ。 「その時は、お前に俺の業を押し付ける事にしよう」 嘆息する様告げる『閃剣』に、拓真が言葉を失くす。 易々と行くとは思っていなかったが……与えられた試練は、『閃剣』は決して軽く無い。 ●アークに関するえとせとら さて、そんなこんなで方々話の花が咲いている頃エフィカさんはと言うと。 「えっと、これはこっち、じゃなくて……!」 案の定と言うかやっぱりと言うか、良い加減作業が許容量を大幅オーバーしてテンパっていた。 普段から事務仕事慣れしているとは言え、20人弱で4000件を軽く超える神秘事件の要約。 何て1日じゃまず無理なのは少し考えれば分かる事だ。 それでもA型ならではの几帳面さで仕事に取り掛かるエフィカもエフィカだが、 誰もそれを止めない辺りアークの面々も某万華鏡の姫の影響か相当無茶振りに毒されている。 「ヘルプメール拝見致しました。呼んで下さりありがとうございます。 大変な仕事なのに不謹慎かもしれませんが……頼って頂けた事、嬉しゅうございます」 ほんわり、と微笑む『紫苑』 シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の空気に癒され、 にこにことしていられたのは作業時間が6時間を越える辺りまでだ。 適宜休憩を挟んでいる筈だが、資料の山は減りこそすれどなかなか消えてくれない。 「えっと……シエルさん、そちらは如何ですか?」 「はい、エフィカ様。順調だと思うのですけど、如何ですか?」 これも恩返し、と律儀なシエルが空中で正座しキーボードを打つ光景は一種異様ではある物の、 彼女のサポート能力は職業柄も有ってか割と全方面に高い。 単純で眠くなる事務仕事等は得意な方だ。進捗を聞いてエフィカがほっと息を吐く。 「それで、えっとそちらは……」 けれど、皆が皆シエルの様に善良だったら、今のアークは無いのである。 「縞パンを被ると作業効率が上がるのです! エフィカさんもどうですか?」 「わぁ……いえ、えっとその調子で頑張って下さいっ」 自分と同じ外見+同じ声の人がパンツを被っている、と言うのは無駄に心が痛む光景である。 『究極健全ロリ』 キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)がしているのは完全に資料室の私的利用だ。 と言うか一般人である所の彼女のおとーさんについての資料等、アーク内には存在しない。 万一存在するとしたら作戦指令室の方だろうが、そんな管理情報が転がっていたりはしない。 おとーさんがアーク上層に目をつけられていないか。彼女の求める情報は幾ら調べても出て来ない。 但し洩れなくエフィカさんにメンタルダメージは有りましたとさ。健全って何でしょうね(哲学) 一方で、夏栖斗と並びエフィカの笑顔が堅くなる数少ない有名人。 『一人焼肉マスター』 結城 “Dragon” 竜一(BNE000210)はと言うと…… 「なあに、資料整理なんて俺にとっては”カンタン”さ。俺はGenius(ジーニアス)なのだから!」 なんと、真面目に仕事していた。これには彼を全力警戒していた天乃も思わず瞬く程である。 依頼は確りこなしつつ細部で遊ぶのが竜一流の業務の楽しみかた。 今回の様に割と遊ぶと困るケースでは戯れも控えめなんだやったねエフィカさん! と、けれど思い起こせば何かふわふわもこもこしたエリューションと戦った時は、 アークが業務停止する寸前だった筈なのに水着に着替えさせられた気がします。 何だか釈然としなかったり、やっぱり複雑な心境なのです。 「お兄ちゃんは! がんばります! 義兄ちゃんと思ってもいいのよ!」 十分頼りにはなる筈なのに、こんな義理のお兄ちゃんが居たらとっても心が安まらなそうです…… とか思う位には、エフィカさんも良い加減社会の世知辛さを学んだのでした。合掌。 「ま、それはそれとして。偽アークってどうなったの?」 けれど、竜一は竜一で、何も考えていない訳では決して無いのだ。 それは彼の業務歴と、戦いに向ける姿勢が何よりも如実に示している。 彼は基本的に何にでも真剣だ。彼らしい関心事があり、引っ掛かる事だってやっぱり、ある。 過去に解決した『偽アーク』の一件は、そんな竜一に何所か座りの悪さを残していた。 「『偽アーク』、ですか……」 彼の求めた事柄にダイレクトな答えはまだ、無い。 けれど表に出る事が無かった事情の幾つかは、エフィカの手でも調べることが出来た。 『偽アーク』 凡そ2年前に活動を開始し、数ヶ月前に主要メンバーを失い崩壊したフィクサード組織。 “フィクサードを討伐し、被害者から資金を得る”と言う行為を繰り返しており、 所属メンバーがアークの主要メンバーを装う事で、同時にアークの評価をも落としていた。 トップは『偽イヴ』こと、広瀬莉菜。年齢は現在16歳。ジーニアスのマグメイガス。 過去『バッドダンサー』との交戦でアークが大失態を犯した際、 死亡した人広瀬祐美の妹であり、同様に死亡した広瀬美菜の叔母に相当する。 娘と孫を一度に失い心を病んだ母親が怪しげな宗教団体に帰依してしまった為、 アークを逆恨みしていたと供述している。革醒の経緯は不明。実家は北海道。 ネット上にこの様なアークの任務失敗により発生した被害者達のネットワークが有る模様。 三高平市内へ搬送後現在は更正中ながら、効果は余り上がっていない。 『黒翼教』 広瀬莉菜の母親が帰依したとされる怪しげな新興宗教。 黒い翼を善とし、白い翼を悪とする奇妙な教義を掲げており、 信徒ばかりで集団生活を営んでいる。一般信徒、幹部を含め総勢は推定3000人弱。 その本体はアザーバイド、識別名『バードマン』を擁するコミュニティであり、 これと言った神秘事件を自発的に起こさない為、アーク内では対処優先度が低い。 但し脅威度は内包する一般人の数と規模から極めて高く、神秘秘匿の為繊細な対応が必要。 現在は時村の財界ネットワークを通じ組織的経済力を抑制する事で余力を削ぐ。 と言う方針を徹底している。何れ近い内に大規模な行動起こすと推定され、水面下で警戒中。 ●エフィカさんといつものお仕事 「思えばエフィカ仕事多過ぎだよな……」 要約終わりが見え始めた資料整理を余所に、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が呟く。 マスコットの前に『敏腕』が付いているのは伊達ではなく、実際エフィカは良く働く。 元々余り人に頼るのは得意ではなかった。だから人一倍自分が動いた。 けれどそんな彼女がSOSを出せる様になったのは、沢山の人々が彼女を助けてくれたからだ。 「こういう地味にコツコツやる作業は苦手ではない、好きな訳じゃないけど!」 「あはは、ツァインさんらしいです。でも本当、すみませんお手間ばかりかけてしまって」 眉を下げて笑うエフィカは、ずっと作業を続けて随分疲れている様だ。 何時も元気にはためいている翼も力を失ってへにょりと下がっている。 「あー……いや、エフィカももっと色んな人頼った方がいいんじゃないか? 確かにちょっと変人が目立つけど……まともな人もいっぱいしるんだし!」 変人に定評のあるアークなのでそれは仕方無いのです。 けれど少し考える様にしながら、くるくると視線を上向かせエフィカは答える。 「そうですね、確かにちょっと目立つかも……あ。でもでも一杯頼らせて貰ってますよっ」 ふるふると頭を振るのは否定の意味ではなく、むしろ否定の否定だ。 誰よりエフィカが分かってる。本当は凄く感謝している。 彼女が困っている時、しょんぼりしている時、迷った時、怯えた時。 1度だって、誰もがそっぽを向いたりはしなかった。手を差し伸べて助けてくれた。 成功ばかりじゃない。良かったことが全てではない。けれど、それでも。 「感謝してますし、頼りにもしてますっ! 頼っても、良いんですよね?」 淡く微笑みながら、彼女の言葉はツァイン自身へも向けられており。 これは一本取られたかと肩を竦めるや、お茶でも淹れて来るよとツァインが席を立つ。 「俺のTeaがお前をTreatにする……!」 「ふふ。期待してますっ」 そんなやり取りを知ってか知らずか。Treatなお茶を待つ傍らいよいよラストスパートである。 あばたの組んだ検索エンジンは作業効率に劇的向上を及ぼし、 殆ど全員が真面目に働いた事もあって、とりあえず電子情報だけは概ね纏まりがつきつつある。 「まだこれだけあるか……先は長いなあ」 紙資料の処理を一身に請け負う義衛郎の方は、流石にそんなウルトラCは無かった為、 今日中には終わりそうにも無いが、けれど『処理済』の段ボール箱は既に10を数えつつある。 彼女が声を掛けたのは、窓の外が赤く染まりつつある時だった。 「こんにちは、エフィカさん。今日もお仕事大変そうですね」 「……! 紫月さん!」 『朔ノ月』 風宮 紫月(BNE003411)の声に、エフィカが嬉しそうに笑みを浮かべる。 その様はまるで良く懐いた仔犬の様だ。羽根が小さくぱたぱたはためく。 「もうそろそろ、終わりそうでしょうか?」 「あっ、いえ、多分紙媒体の方は持ち越しに……」 なりそうです、と困った風なエフィカに、紫月もまた同じ様な表情を返す。 「中々、予定を開けるのは難しそうですね…… もし今度時間がありましたら、甘い物など一緒にどうでしょうか?」 きょとんとした暇もあればこそ。その反応は劇的だ。 人に仕事を任せるのは苦手でも、基本的にエフィカは人懐っこい。 仲良しな相手に遊びに誘われて、断ると言う選択肢は無い。まるで白い折り紙だ。 赤く染まれば、赤くなる。黒く染まれば、黒くなる。彩に染まれば彩豊かになるだろう。 「はいっ、喜んで! じゃあお仕事の方も急いで済ませないとですねっ」 「ふふ、私も楽しみにしています」 素敵な提案に元気を貰ったエフィカが俄然やる気を取り戻し、再びPCの画面へ向かうと そこにツァインが紅茶を持ってやって来る。資料の整理はきっと程無く終わる事だろう。 時は過ぎ。日は落ち、夜がやって来る。世界の何所かで、今日も神秘の火は上がる。 けれど資料室の中は灯りが消えるまで賑わい、そうして一つの言葉で締め括られた事だろう。 “今日はお疲れ様でした。本当にありがとうございましたっ!” それはきっと、なんでもないアークでのお仕事の話。 あたたかな言葉と人々に支えられた、あるいはほんの少しだけいつもと違うかもしれない。 エフィカさんのいつものおしごとの物語。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|