●langage des fleurs:Allium その花は憎んでいた。この世界の住人共を憎んでいた。 花を摘み取り、花を踏みつけ、花を枯らす彼らを、憎んでいた。 花を切り刻み愉しむ彼らを、憎んでいた。 その古代紫色の身にただ悲しみだけを投影し、アリウムが揺れた。 ●langage des fleurs:Gentiana その花は何時までも孤独だった。 果てしないほどに孤独だった。 自らが植物である以上、そこから逃げ出す術は無かった。 この世界の住人が疎ましかった。妬ましかった。 群れて愛しあって殺しあって。そんな深い関係を私も築いてみたかった。 死に逝く私を引き留めてくれる存在が私にも居て欲しかった。 桔梗色の身に寂寥だけを背負って、竜胆が揺れた。 ●langage des fleurs:Cercis chinensis その花は悩んでいた。 ああ、一体どうしたものか。 一体どうすれば贖罪足り得るのだろうか。 人を殺した。あれは人だった。 事情があると言えば、事情があった。そこに免罪符を求めることは決して罪では無かった。 それにしてもどうしよう。 なんて表面上は悩んで、奥底では冷酷な彼女が疼いた。 もう、あと何人殺しても一緒に違いない。 揺蕩う紅桜色の身に混沌を宿して、花蘇芳は揺れた。 ●ブリーフィング リベリスタの彼からすれば、それはどれも「紫色」の一言で括れてしまう色彩の花々だったが、感性豊かな者からすれば立派に違う色合いであるらしい。 「それで? この素敵なお花を摘んでくるって、そんな依頼?」 「そんなわけないよなあ、なんて言葉、続けなくてもいいわよ、顔に出てるから。ここに映し出している三種の花が今回の討伐対象のEビーストであることは間違い無いのだけれどね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声に続いて、スクリーンに映し出されていたスライドが切り替わった。 「これは……、人か?」 「いいえ、これが今のEビーストの形態よ。その性質自体は植物的なものを受け継いでいるけれど、見た目は人に近い形態をしているわ」 彼にはそれこそ、三者三様に、それぞれの意味で、花が咲いたかのような可憐な女の子が三名居るようにしか見えず、流石に戸惑った。 「清楚系、クール系、活発系、全方位隙無しじゃないか」 「ええ、この花の簪なんか、可愛いわね」 イヴの鋭い目線に、彼は首を竦めた。 「中身は人間とはかけ離れているし、憎悪もある。この内の一体に至っては、すでに一般市民に対して被害も出しているわ」 いくらアークが万華鏡を有し、優秀なフォーチュナを抱えているとしても、全ての事件に先行的な対処が出来ている訳ではなかった。 「……それぞれ、何かしらの事情があってエリューション化してしまったのでしょうけど、かといって見過ごすわけにもいかないわ。現場状況は少し厳しいことが予想されるけど、皆に任せる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月20日(日)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ある花と老木の会話。 そんなに憎悪を抱えてどこ行くんだい、と、枯れかけ朽ちかけた老木が彼女に問うた。 世の人は、花の盛りは春と言う。 けれども、彼女には秋咲く花の言い得ぬ艶やかさがあった。 憎悪? 彼女は問い返す。 これは憎悪ではない。憎悪などと言うものなんかじゃない。呪いだ。 呪詛呟いてどこ行くかって? ●対アリウム 「清楚系に、クール系に、活発系ですか。うんうん、可愛い子って大好きですよ。愛でるのも、斬り裂くのも、どちらも楽しそうですね?」 ふふ、と『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が笑い声を静かに漏らした。 葉や枝に擬態したフェーズ1も、そしてただそこにあるだけの草花をも斬り倒し、那由他と『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は暗い森の中を進んでいった。 (さて、こうやって同族を斬って進めば、怒った彼女が出て来てくれるでしょうか?) 那由他のその問いは正しいし、正しくない。 ゆらりと目の前に現れた、その長く黒い髪を揺らすお嬢様然とした彼女の顔には失望の色がありありと浮かんでいたし、レイチェルと那由他の班が森へ侵入し始めたその時から、アリウムは彼女らの存在に気が付いていた。 ここは植物が支配する地。全体が食虫植物となったその口にふらりと近づいてきた二匹の獲物。 アリウムの裏腹な笑みが零れ、木々がざわめいた。 「綺麗な花ほど毒があったり棘があったりするそうだけど。まさにそんな感じですね」 「お褒め頂き、ありがとう」 肺も無いのに、アリウムはどのようにして発声しているのであろう。或いはそれは、葉が擦れるかのような侘しい物音だったのか。 「漆黒解放」 レイチェルが後ろに、そして那由他が前に立つ。 「枝を踏み折る者には、骨を折ってお返ししましょう。『私たち』の憎悪、受け取ってくださいね?」 アリウムがそう言い終わるが早いか、レイチェルと那由他の動きを封じるかのごとく周囲の木々が蠢きだす。 蔓を伸ばし、枝を伸ばし、葉を伸ばし。 「人を憎んでいる、か。こちらとしても、そういう相手の方が殺しやすくてありがたいですよ」 レイチェルは咄嗟にフェーズ1への対応に動いた。彼女の放つ光弾が、迫りくる植物共を焼き払う。 「さすが、レイチェルさん」 アリウムを直線上に収めた。那由他の腕にぶら下がる鋭利な刀身が、鋭くその花へ向け突きつけられた。 「この世全ての呪いと痛み、両方味わえるなんて貴重な体験ですよ? どうぞ、じっくり味わってください、ね」 駆けた。束の間、アリウムと那由他の距離は著しく縮まった。 そこに『呪い』を込めた斬撃が一閃アリウムへと向かう。 「……言ったでしょう、ここは」 『私たち』の支配する地よ。 その身に刀身が触れる直前、無数の木々がそこに絡みつき、正に壁となってアリウムを守った。 那由他はそれを認めるとすぐさま後ろへ飛んだ。ちょうど彼女の体があった空間には、直後、アリウムの体から伸びた大木が紙一重で振られた。 ●対ハナズオウ (『何らかの事情』ね……。何となく察しは付くけど。伝承によれば花蘇芳ってユダが首を吊った木らしいし) 『0』氏名 姓(BNE002967)が頭の隅でそんなことを考えていると、その姿が突如リベリスタ達の目の前に現れた。 可憐な少女。無垢な笑顔を備える少女。 だけれど、罪を背負った少女。贖罪を望む少女。 ―――だけれど、諦観の少女。 「相手が人間の少女なら良かったんだが、まあエリューションなら仕方ない。死の舞踏といきますか」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)のその声に、花蘇芳は「あはは!」と無邪気に笑って返した。 「同情したくなる気がしないでもないんだけど、エリューションである以上、お仕事しないとね」 『アークのお荷物』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)が少し申し訳なさそうに言った。 花蘇芳は「はて」と首を傾げた。 「同情? うーん、そうね」 それはちがう。 「むしろ私が君たちに同情するよ。だって今から、死んじゃうんだから」 一人の死を薄くするために。いっぱい殺さないと。 その澄んだ狂気に『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は顔を顰めた。 「感情を得てしまったのが不幸にしかなっていない良い例ね。まあ、やるべき事は変わらないんだけど」 (花蘇芳の花言葉は不信仰、そして裏切り……ね) 全くだ、と義衛郎が頷いて肯定した。 「尤もらしく悩んだ振りをするのなんて、止めたら如何かね?」 その花の心底を見透かしたように。 ふふ、とやっぱりその花は笑った。見透かされた心底を隠すかのように。 「やっぱり、君たちの事は好きになれそうにないや」 蜜が飛んだ。姓の眼にはそう映った。 映って理解した瞬間、その体でメイを庇うようにして走った。 毒性の液体が、彼の体を襲った。 「氏名ちゃん、大丈夫?!」 メイが姓を気遣う声が響くのと同時に、義衛郎が前へ躍り出た。 その少女の姿を視界に収めて。その花を斬るために。 しかし、躍り出た義衛郎はその違和感に、考えるより速く上へ飛んだ。 数多の植物が地面から現れ、彼に巻きつくべく。彼を贖罪の祭壇へと生贄するために。 そして滞空しているその身にも、リベリスタ達を覆い尽くす周囲の木々が蠢いた。 樹木から伸びた鋭い枝が高速で義衛郎の体に迫った。 彼の剣がその刀身を露わにするよりも早く、その枝は粉々に砕け散った。 彩歌の体から放たれた『糸』が正確にその枝を撃ち落とした。 「やるね、お兄さんたち。じゃあ、もっと攻撃しないと、ね」 一連のリベリスタの連携を認めた花蘇芳は楽しげに笑って、両椀を振るった。 その身から、そして周囲の花々から、雨の様に毒蜜が、蜜と言うには密度の大きすぎる、質量が遥かに大きなその蜜が、周囲の空間を雪崩れて襲った。 それを凌いだ義衛郎は花蘇芳本体ではなく周囲のフェーズ1に狙いを定めた。 ―――――その斬撃は、時を斬る。万物を統べるその時を。 柄に手をかけた刹那、彼は確かに集中した。刹那すぎて、きっと彼以外にはその事実を理解する日など訪れないであろう、それほどの神速であった。 その一閃が目に見える訳が無かった。そして音速を軽々と超えるその剣戟が、空間を歪め、靄を生み出す。 無に至る剣戟に触れたモノの行く末は語るまでも無かった。切り刻まれ消えていった。 義衛郎の中心にした周囲から草木が完全に消失した。それを結果として確認した花蘇芳は思わず驚愕の表情を示した。 そしてその生存本能が彼女を突き動かした。咄嗟にその森林の奥深くへと後退するべく、彼女の足が動いた。 「―――!」 しかし、彼女の足は動かなかった。彼女に絡まる純白の『糸』。 「悪いね、私達も理由あって君を殺さないといけないもんで」 姓が放たれたその十字架。贖罪者を、しかし断罪する断頭台へ。 なぜならその罪は最も罪深きものなのだから。 花蘇芳の周りの木々がその『糸』を切り取った。しかしその体にはまだ磔にすべく白い縄が纏わりつく。 こんな筈じゃなかったのに。 私のせいじゃないのに? 私は裏切られただけなのに! 花蘇芳は腕に絡まったその『糸』を引き千切ろうと藻掻く。空いた左腕で必死に毒蜜を飛ばして、自身を摘もうとする侵略者を牽制する。 「……自分自身すら騙せない嘘なんて、つく物じゃないわ」 その左腕さえも絡め取られる。彩歌の仕掛けた蜘蛛の巣にかかった蝶のように、その花は囚われた。 (言われてみれば、植物も生きてるんだよね。殆ど動かないし、泣き声とかも無いし感情もみえないけど。意識とかもキチンとあっても不思議じゃ無いよね。ただボクらがわかんないだけで……) 花蘇芳の攻撃を受けた仲間たちへの回復に必死になっていたメイは、しかし、その苦悶の姿を目にして、そう思った。 擬態する姿が、人間の真似ごとをして、苦しんでいる。そこに悲しみを感じる時、人は確実に人間を投影している。 私を赦して? 森が怒りに揺れた。木々が驚異的な速度で伸び、リベリスタ達を襲う。 怖いだけなの。 「オレが赦す」 一つ、二つ、三つ。 彼へと迫る巨木を抜けた。 姓の『糸』は断ち切られてしまった。 すぐさま彩歌の『糸』が両椀を捕える。 彼女はもう蜜を飛ばせない。 四つ、五つ、六つ。 これで最後。間合いは一足一刀の間境を超えた。 可憐に咲き誇るその花が、ぽつりと枯れ落ちたように。 ―――やっと赦された。 ●対アリウム(続) アリウムと対峙する二人は、客観的に見ても苦戦していた。 長距離射程のアリウムの攻撃、そして、周囲のフェーズ1が頑なに那由他の接近を拒んでいた。 消耗はさせられても、致命傷を与えることは出来ない。勿論、消耗という点ではリベリスタの側も同様に疲弊していた。 (確かに、私は花を斬り刻んで楽しんでいます) 那由他は多少息を上げながらも、口の端を歪めた。 (自分達を傷つける者達への正当な怒り、憎悪、敵意。 ―――まあ正しいからと言って勝つとは限りませんし、貴女だけが正しいと言う訳でもないんですけどね) アリウムの両椀はその姿を大木のようにして、しかも伸縮自在に操っている。両腕だけでなく、体から生えた何本もの『手』が巨木と化し、軽々と振り回された。 斬り落とせばそこから再生する。本質を植物とするエリューションらしい特徴だった。 「……なんとか持たせられましたか」 レイチェルのそんな呟きが風に乗って那由他の鼓膜を揺らした。彼女が後ろを振り向くと、そこには彩歌の姿があった。 「間に合ったかしら」 サングラス越しに硝子玉が無感情に、口元に笑みを浮かべた。那由他も額の汗を軽く拭って微笑み返した。 「お楽しみの最中で。加わってくれるというのなら、お断りはしませんよ」 「那由他さん、前!」 レイチェルの声に、那由他は即座に身を反らした。 「随分と余裕そうな御顔していますけれど、本当に大丈夫ですか? ええ、私は確かに楽しんでいますけれど」 アリウムが優雅に笑った。それに同調するかのように周りの木々もざわめいた。 「普段は踏み潰す相手に、嬲り殺される感覚って、どうなんです?」 もっと聴かせてくださいよ、その苦悶に満ちた声。 轟音と共に森がうねった。再開、とばかりに地面から伸びる無数の蔦が三人を襲い、アリウムの放つ複数の大木が彼女らの眼前に迫った。 もっと聴かせてくださいよ、その絆が散り散りに消え失せる嗚咽を。 全員分の攻撃を、那由他が斬り落とした。そしてその反動で数メートル突き飛ばされる。 「そっちが、その気なら!」 庇われる格好となった彩歌の声色が高くなった。そう、その気ならこっちだって考えがある。 彼女の腕の統合型戦術補助デバイスが制御機構を変えた。演算し、結論し、プロダクトする。 その一体を確実に打ち抜くそのためだけに。解を求めて。 捉える為ではない。先ほどの『糸』とは全くの別物。そこに未来を込めて。 彩歌の硝子球が、そこからはほとんど見えない筈のアリウムの姿を確かに『視た』。 瞬間、放たれた気糸は、木々をなぎ倒し、葉を焼き切って、アリウムと彩歌とを結ぶ最短線分上のあらゆる物質を破壊した。 「っ!」 瞬時に何重もの壁を作り、アリウムは後退した。しかし、その姿を庇うモノは、もう無い。 だが、この間合いはむしろアリウムの間合いに近い。 即座にアリウムは周囲の木々を足場として自由に扱い、彩歌へと距離を詰める。 「散りなさい」 一層強くアリウムが跳躍した。これで彩歌は、彼女の間合いの中。 アリウムの数多の『腕』が一人を潰すために振るわれる。その直前。 彼女は視た。視界の隅に存在するレイチェルの姿を。その冷たい笑みを。 そしてその瞬間から、その姿は彼女のモノではなくなった。仮初の身体はその動きを忘却し、振るわれるはずの腕は硬直した。魔性の魅了に、花は堕ちた。 ふふ、と笑い声が。やけに大きく、アリウムに響いた。 「花を摘むのって楽しいですね」 ●悲しんでいる時のあなたが好き。 「竜胆はたった一輪で咲く花だ」 (―――まるで、忘れじの君のようだと思うのは感傷的かな) 目の前でたった一人、否、たった『一輪』孤独に戦うその姿に、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、過去を投影した。 (あの暴君な彼女はそれでも「悲しんでいる顔が好き」なんて、心にもないことを言うんだろうな) 竜胆が突き出した右腕から無数の花びらが現れ、二人のリベリスタを襲う。 「しのちゃん、避けて!」 長い射程を持つその攻撃に、夏栖斗は『ココロモトメテ』御経塚 しのぎ(BNE004600)を庇う形でフォローした。その花びらから拡散する毒粉は、確実に彼らの体を蝕み、その圧倒的な数量が、体ごと吹き飛ばす。 「みっちー!」 しのぎは思わず声を上げるが、夏栖斗がその身のこなしを活かし受け身を取って着地したのを確認すると、すぐさま竜胆へ視線を移した。 「……良いわね、貴方たち」 それを見ていた竜胆は静かに呟いた。 「命のやり取り。助け合い。素敵な『絆』」 私には無いもの、私には得られないもの。 体勢を立て直した夏栖斗がしのぎの前へ出た。 「そうさ、君が求めていた、殺しあいだよ。逃げないでね」 「そんなことはしないわ」 だって。 「その『絆』を断ち切るのは私よ」 竜胆がその左腕をアリウムと同じように巨木へと変質させ、その重さなど感じさせないかのように軽々と振るい二人を襲う。 しかし、その攻撃には戦闘当初ほどの威力は無く、竜胆の疲弊を感じさせた。 竜胆は美しく舞った。 花びらを散らし、リベリスタを死へ追いやるために。 救われないなら一生孤独で良い。この姿を得た所で駆逐されるのなら、私は闘う。 「貴方たちには分からない!」 冷静な竜胆の表情が切なげに歪んだ。苦しんでいるようにも見えた。 最後の命の凝縮を体現させたかのようなその凄絶な攻撃に、夏栖斗は、しのぎを庇いながら思う。 (彼女を守ることで、やり直せるなんて思っていないけど) そして、その攻撃が一瞬止んだ。しのぎの放つ複数の光弾が竜胆へと着弾していた。 それまではそのほとんどが防がれていた攻撃が、通った。竜胆も思わず顔を顰める。 しのぎもその様子を認めて、続けざまに光弾を放った。 なんで。 夏栖斗の右足が一歩前へ出て、思わず、竜胆は一歩後退する。 なんで。 周囲のフェーズ1も、そのほとんどが活動を止めていた。 なんで。 擬態した声帯が震えず、脳無き心が、その運命を呪って涙を流した。 アリウムと花蘇芳を殲滅した他のリベリスタ達が、二人の元へと駆けつけた。 なんで! これは恐怖ではないのだろう。きっと恐怖ではなかった。 ただ彼らを直視できなかった。どうしてだろう? 「孤独は誰だって怖い」 (言葉は通じないかもしれない それでも伝わるものはきっとあると思うから) 竜胆の顔は、泣いているように見えた。そこに涙は無かったけれど。 死にたくない訳では無かった。死ぬのならそれでも良い。本当は殺してやりたかったけど、それは怖くない。 ―――んじゃ、しのちゃん。カッコいい所見せるから惚れちゃダメだよ。 敢えて明るい表情で夏栖斗は言った。視線は前に向けたままであったので、しのぎにはその表情を窺い知ることは出来なかった。 一人の少女が泣いていた。 心の底から響くその嗚咽に、拳が重なって。 竜胆の体は、気づけば地面に横たわっていた。 「はぁ、あ、あぐ……っ」 リンドウの苦しげな嗚咽が彼女の今際の果てを彷徨う、その一輪の姿に、孤独を嘆きながらも生きようとするその姿に、少なからずリベリスタ達は心を打たれた。 「もっと早く、出会えたら良かったのかも知れないね」 だってこんなに綺麗な花なら、きっと連れて帰りたくなったから。 「花言葉が悲しんでいる時のあなたが好き、だなんて 歪んでいるようだけれど違うんじゃないかって、そう思いたいよね。誰かの、何かの為に悲しめる優しいあなたが好き。そういう意味なんじゃないかなってしのぎさんは思うよ」 (それに、花を摘むのはかわいそう、なんて人から見たエゴなのかもしれないね。根を生やして動けない彼らは、本当は違う景色を見たがっているのかな) しのぎのその言葉に、竜胆は、苦しげな口元を歪めた。 「貴方、たち……、揃いもそろって、嘘つき、ね……」 もう擬態も保てない。次第に本来の姿へと還っていく。 そんなことはない、と義衛郎が言う。 「オレが覚えていたら、少しは君の寂しさも紛れるだろうか」 オレは覚えているぞ、と。 「……怨んでくれても、いいよ」 ごめんね、と。逃げたくてどうすることもできない貴女を救えなくて。 「君をこの世界に引き止めることはできないけど、君の最後は君一人じゃないよ」 この瞬間だけはきっと孤独ではないと。 「花に花を手向けるっていうのも可笑しいけど。只、その寂しがりの心を慰める為に。きっと来るよ」 この瞬間だけではない、これからも孤独ではないと。 竜胆の体は下半身から次第に朽ちていく。 大地へと還っていくその中身に、やはり横隔膜などは無く。 「……なら、覚えていて……、私の事。貴方たち、が」 嘘つきじゃないって、証明できるのなら。 そうだとすると、そんな約束は、一体何処から響いてきたのだろうか? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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