● 「御願いじゃ、それを返しておくれ。それは儂が婆さんに貰った大切な宝物なんじゃ」 しわがれた悲痛な声が、ごくごく一般的な民家に響きます。 声を上げて御願いしているのは、一人のおじいさん。この人は今、目の前に居る強盗達に向かって、奪ったものを返して欲しいと必死に頼み込んでいました。 ですが、それを受けた数人組の男は、皆が皆老人をせせら笑って、その願いをあっさりと切り捨てます。 「馬鹿な爺さんだ。たかがこんな石ころ一つ、アンタのような只の人間が持ってても仕方ないだろう。折角俺達が有効活用してやるって言うんだ。有り難く思うのが当然だろうが」 「他の人には石ころでも、儂にとっては婆さんが最後にくれた贈り物なんじゃ。他のものなら渡すから、それだけは……」 「ええい、五月蝿いジジイだ。邪魔をするなら容赦はしねえぞ!」 しゃきん、と長柄の切っ先を向けるリーダー格の男の人に、おじいさんは怯えるばかりです。 その様子を見て「漸く大人しくなったか」と言う男の人は、子分達を連れてずかずかと家から出て行きました。 「石ころならアンタの庭にも落ちているだろう。精々それを拾って代わりにしたらどうだ? ハハハハハ……」 大切なものを奪われたばかりか、心ない言葉を浴びせかけられたおじいさんは、可哀想にその場で泣き崩れてしまいます。 ――そして、そんなおじいさんに向かって、強盗達が奪った石に取り付く妖精さんは、ずっと助けを求めていました。 ● 「……って言う、お話」 「イヤにテンプレ的な悪役だな」 昔話にも出てこないぞ。今時そんなの。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)手書きの紙芝居と、その作者本人による軽やかな朗読を聞き終えたリベリスタ達は、「それで?」と視線を向け、詳細な解説を求める。 対する彼女も、それにこくりと頷いて、口調をいつもの事務的なそれへと変化させた。 「単純に言えば、今回の最優先目的はアーティファクトの奪取、副次目的として、フィクサード勢力の討伐か拘束、かな」 「……フィクサードより先って、そんなに珍しいアーティファクトなのか?」 「かなり」 問うたリベリスタ達に間髪無く答えを返したイヴは、ならば先ずはとアーティファクトの解説から始めた。 「このアーティファクト、『煌鋼の妖精』は、特に純度の高い鉱石などに革醒する傾向があって、今回の場合、被害者のお爺さんが奪われた石に含有される鉱石に取り付いていたみたい。 『妖精』の一番の活用方法は、取り付いている鉱石を妖精ごと破壊すること。そうすると破壊者の意志に応じた武器が生成されるんだけど、この武器が恐ろしいほど高威力。迂闊に相手に持たせるわけにはいかないの」 そして、イヴは次にフィクサード達の解説に入った。 件のフィクサードは、ソードミラージュ、覇界闘士、インヤンマスターの三人組。種族は不明なので、最悪飛んで逃げる可能性も否めないという。 戦場となる場所は、三高平から若干離れた某街の廃倉庫。外壁もかなりボロボロなので、リベリスタやフィクサードクラスの人間なら砕くことも可能とのこと。 「戦闘終了後、石についての扱いは、最終的に此方に持ってきてくれれば良いよ。そのまま持ち帰っても良いし、お爺さんに御願いしてちゃんと許可を得て貰ってくるも良いしね。 それと、これは未来視で見たわけじゃないから、只の推測になるんだけど……ひょっとしたらこの『妖精』、みんなの武器を作ってくれるかもしれない」 は? と頓狂な声を上げるリベリスタに対し、イヴは再び、アーティファクトについての解説を始める。 「言い忘れていたけど、このアーティファクトの『妖精』は感情があるの。 自律意思として出来る行動は殆ど無いんだけど……みんなが『妖精』に気に入られるような行動を取ったら、『妖精』は自分が取り付く媒体である鉱石を少しだけ削って、その人が装備しているものと同じ種類の武器を生成する。先の破壊による武器生成に比べて能力は十分劣るけど、それでも今みんなが持ってる武器よりは高性能なはず」 「……そんなコトして、『妖精』の方は大丈夫なのか?」 「あんまり良くない。取り付く鉱石は文字通り、『妖精』の命綱でもあるから。出来て一人くらい、と考えたほうがよさそう」 ふむ、とリベリスタ達は黙考した。 今現在のそれより高い性能の武器というのは、確かに興味があるが――『妖精』のご機嫌取りに興じて本来の使命を忘れるようでは本末転倒である。 仮に武器を作って貰いたいのなら、立ち回り方には十分注意した方が良さそうだ。 「それじゃあ、行ってらっしゃい。あんまり物欲に溺れないようにね」 容赦ないフォーチュナの一言に苦笑しながら、リベリスタ達はブリーフィングルームを出て行った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月27日(水)23:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「イヴ、依頼に赴く前に、一つ頼み事がある」 リベリスタが現場へ赴く、少し前のこと。 『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)の言葉に、次の依頼の資料を纏めていた真白イヴは顔を上げて彼を見る。 この度、彼が向かう依頼……一人の老人が所持する、亡き伴侶の大切な贈り物を回収するという任務に対し、彼は一つの提案をする。 それは、件の老人が望む時に、あの石と再び会う機会を与えてはくれないかというもの。 「神秘は秘匿……十分理解している。 だが、元は老人の所有物、大切な妻の形見を奪われる事には変わらぬ…それではあの者が救われん」 「……。三高平は原則、神秘の知識がない一般人の立ち入りに対して否定的。それを理解した上で言ってるの?」 「ああ」 「アーティファクトは『エリューション属性を得た物品』なのよ? 仮にそのお爺さんとアーティファクトを会わせた結果、増殖性革醒現象によって彼がノーフェイスと成る可能性もある。その場合の責任を貴方一人に取れる? フェーズが如何ほどであろうと、エリューションを貴方一人で、他への被害もなく倒せると本当に言えるの?」 「……!」 予想以上に厳しい言葉に対し、『諫言』を受けた王はその肩を沈める。 だが、イヴはそれを見届けた後に、再び言葉を発する。 「ただ、アーティファクトはリベリスタやフィクサードという存在が所持することでフェイトを共有させることが出来る。 即ち、アークの立ち会い元であるなら……半年か一年か、それくらいのスパンなら会わせることを許可しないでもないと思う」 「……では?」 「詳しい話は私一人じゃ判断できないけど。……でも、忘れないで。 神秘というものは常に、一般人にとっての害毒たり得る可能性を孕んでいる。 一時の情に流されて、守るべき人の命を奪ってしまうような弱い覚悟では、私達はこの世界を守れないの」 言うだけを言って再び資料へと目を戻したイヴに対し、刃紅郎は深く頷いた後に、その場を去っていく。 自らの立ち位置、力とそれに付随する義務を、今一度噛みしめながら。 ● 夏には似合わぬからからとした風が、リベリスタ達の頬をくすぐる。 件のアーティファクトを奪ったフィクサード達の根城。それを前にして、『クレセントムーン』蜜花 天火(BNE002058)は緊張感よりも、身体全体でわくわくとした期待感を表現している。 「妖精、妖精、ようせい……会いたーい!!」 女の子はメルヘンを愛するもの。古びた固定観念ではあるが、それはそれ故に幾ばくかの含蓄が有るらしい。 フィクサードに気づかれないため、声を抑えめにはしたものの、内の感情を塞いでおけぬ天火の様子に、仲間達は苦笑する。 「まあ……そうだな。弱者を助けるのが私の、私達の道だ。妖精は命に代えても救ってみせる。勿論おじいさんの心も、な」 キラキラとした笑顔を浮かべている天火とは反対に、厳めしい表情の『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)が生真面目に言葉を返す。 人の大切なものを奪い、あまつさえそれを自身の欲のために利用――破壊する敵に対し、少女の紅瞳は炯々とした光を放っている。 そしてそれは、『蒼鱗小龍』四鏡 ケイ(BNE000068)、『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)の二人にとっても同様であった。片や年相応の正義感、片や過去の暖かな記憶を蹂躙する者への怒り。それらは彼らに武器を取らせ、その行為を思うがままにはさせぬ理由には十分に過ぎる。 「年寄りをなぶるとは許せぬ。この匪賊共め!」 心情を総じて言葉に表すなら、これが最たるもの。 特に外見相応の年齢ではない『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)が言うだけあって、言葉には正しく金言の重みが感じられる。 「知能ある貴重な鉱石。破界器の中でも取り分けて珍しい存在のようだね。 そんな世にも稀有な存在を無造作に破壊せんとするフィクサード……いやあ、許せないのだね。私が研究する前にそういう事をされると困るのだよ」 対し、他のリベリスタとは些か違った観点からこの依頼に臨むのは、『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール、そして刃紅郎の二人。 神秘の力を直接その手に抱けるという依頼。それは力を欲する王と、知識を欲する研究者にとってまたとない機会だ。 「それじゃあ、時間も無いですし、早速突入するのですよ~」 全員の士気を確認し終えた来栖 奏音(BNE002598)の間延びした号令と共に、リベリスタ達は倉庫へと駆けてゆく―― ● フィクサード側からしても、予測はしていたことだった。 真昼間に堂々と民家を襲った上、一般社会では到底得られはしない得物を晒してまでの強奪行為。いずれ追っ手がかかることは予測した上でのこと。故に今この状態でも――罠などの対策は兎も角、としても――警戒は十全だったと言える。 だからこそ。 フィクサードと、突入したリベリスタ達との戦いは、熾烈を極めることとなった。 「む……!」 エネミースキャンの失敗を悔やむ暇も無く、飛来する不運の影はヴァルテッラの重装を抜け、肩口に突き刺さる。 運を喰われることだけはかろうじで避けたものの、それを抜いても衝撃が並大抵ではない。不快な痛みに顔をしかめつつも、せめて足だけは止めぬようにと再び動き出す。 「妖精さんをいじめる悪い人達! 成敗するです!」 『妖精』の姿は未だ確認出来ぬが、せめて声をかけて安心だけでもさせたいと叫ぶ天火の朗々とした声に対し、フィクサードはゲラゲラと嘲笑する。 「馬鹿な餓鬼だ。たかがアーティファクト一つを壊すだけで俺達は悪者扱いか? お前らのほうがよほど多くのアーティファクトを壊しているだろうに」 「元の持ち主の心の斟酌すら出来ぬのか、匪賊が!」 「宝の持ち腐れだろうが、あんな枯れ木に持たせていてもなあ!」 怒りを露にする鬼子にすら嘲りを止めることなく、男達は武器を構えなおす。 烈火を纏い赤熱した脚技。常人ならば避ける事しか考えられないであろう殺気の具現を、しかし覇界闘士の男は片腕でがっちりと受け止め――次いで、返す刀の掌底を叩き込む。 ドン! と言う鈍い音。肺の空気を残らず吐き出された衝撃に思わず意識が明滅するも、しかし彼女は倒れない。 代わって、彼女の前に立つのは刃紅郎。トドメを刺そうと接近するソードミラージュに真っ向から相対する彼は、自身の大剣を使って敵の二刀を受け流す。 「……罪なき老人への斯様な振る舞い。貴様らのような痴れ者にその石は預けてはおけぬ」 「ハッ、だったらどうするってんだ!」 「無論――」 瞬間、天火の鎌鼬がソードミラージュの腕を切り裂く。 鋭い痛みに一瞬、気をとられれば――王は既に、彼の前に無く。 「石は我々――アークが頂いていく」 未だ石の所在が判明していない以上、迂闊に胴体への攻撃は繰り出せない。 一瞬の隙を縫って丁寧に足元を薙いだ刃紅郎の攻撃に、さしものフィクサードも苦悶の声を漏らしてしまう。 「……っ、何してやがる! 回復を……」 思わず後衛に声をかけるソードミラージュではあるが、対するインヤンマスターは猜疑的な表情を隠しもせず、回復をギリギリまで遅らせている。 「厄介なリベリスタは他の二人に任せて、自分が石を独り占めしようとしているのですか~?」 「……!!」 カマ掛けも含めて、奏音が発した言葉が見事に的中した。表情こそ平静を取り繕ってはあるが、超直感、そして度重なるエネミースキャンで思考の殆どを読みつつあったリベリスタに、それは余りにもお粗末な隠し方に見えたことだろう。 「……どうやら、そういうことだ。聞こえていたかね?」 「はい、勿論です!」 「どの道、時間も近づいてきていたしな――行くぜ、四鏡、ハーシェル」 「!! な……っ?」 ヴァルテッラのハイテレパスによる『合図』を聞き、残る三人――ケイ、凍夜、クリスらが、敵のインヤンマスターが背を見せぬように預けていた壁を砕いて現れる。 応戦の構えを取るが――遅い。 ケイの気糸が相手を絡めとると同時に、動きの取れなくなった敵の頭部めがけて、凍夜が鮮やかな剣閃を刻み付ける。 不意をついていた上、彼らは常に戦況を確認出来る状態に在った。連絡が来るまでの間に三人に対し狙いを集中し続けていた凍夜の攻撃は間違いなしの致命打であり、実力が高いと言えど、仮にも後衛職が耐え切れるレベルの攻撃ではない。 完全に気を失ったインヤンマスターの懐から転がり落ちた彼の石を拾い上げたクリスは、それをベルトポーチの中にしまいこむ。 「すまない、少しの間ここで我慢してくれ」 『……、……』 ポーチの口を閉める前、一瞬だけ見えた『妖精』の表情は、未だ恐怖と不安に凝り固まっていたが――少なくとも話しぶりから敵意は感じられなかったのだろう。抵抗はせず、大人しく彼女の内に納まった。 一方、平静で居られなかったのが残る二人のフィクサードである。 「フザけんな、手前……!」 「返しやがれっ!」 即座に逃亡を始めたクリスに、反転した男達の攻撃が追いすがる。 凍夜とケイの二人が壁となって彼らの攻撃を請け負うものの、それとて長くは保ちそうもない。 そう―― 「あの石は元々、老人の持っていたものであろう……!」 「此処からは手加減はしないのです。使い惜しみせずどんどん行くのですよ~♪」 ――本気になったリベリスタ相手に、幾らか消耗したフィクサードの、更にたかが二人などが……保つわけは無かったのである。 ● 「ふむ……やはり、無理のようじゃな」 『……?』 差し出した銀塊をしげしげと眺める『妖精』の姿を見て、鬼子は残念そうに嘆息する。 純度の高い鉱石に取り憑く傾向の有る、という説明を聞いて、もしや鉱石間の移動も出来るのではと思った彼女であったが、アーティファクトとはそうそう甘いものではないらしい。 「ならば、やはり方法は一つだけ……か」 鬼子がそう言って視線を上げた先には――件の石の持ち主である老人が、目を丸くしたまま『妖精』を見つめていた。 リベリスタが石を回収した後、正式に老人から許しを得た後にアークへ運ぼうと決めた彼らは、実際に彼の家を訪れ、居間に案内された。 その後、彼らは老人と他言無用の約束をした後に『煌鋼の妖精』に関する最低限の情報を開示、更に実際に『妖精』の姿も見せて、その話に信憑性を持たせたのである。 「……この子が殺されると言うことで、誰かが強い力を得る。と言うことでしたな」 「……はい」 です。と小さく付け加える天火に、老人は微笑ましいものを見るような目で笑った後――表情を引き締めて、リベリスタ達に臨む。 「……貴方がたがあの強盗たちから取り戻した石を、わざわざ儂の元に返してからいただく許可を貰おうとする辺りで言うなら、貴方がたはあの強盗たちよりはマシな人たちなのでしょう。 しかし、それでも貴方がたがあの強盗たちと同様、この石を割ってしまう可能性が無いわけではない」 「それは……」 思わず言葉を返そうとしたクリスに対し、老人は苦笑してそれを手で抑える。 「意地悪な言い方をして、申し訳ない。貴方がたがそうしないことは、儂も信じている。 それでも、このままでは、儂は貴方がたに唯大切なものを渡すだけと言う結果になってしまう。それは、きっと双方のためになりますまい」 「貴方がたは、儂の大切なものに対して、何を返してくださいますか?」 僅かな沈黙が、老人宅の居間に流れる。 先ず、口を開いたのは奏音だった。 「おじいちゃんやおばあちゃんの事はよく知りませんが……もしも奏音でしたらば、自分の贈った物で大切な人が危ない目にあったりしたら……とっても悲しいのですよ」 「それは、きっとそうでしょうな。儂がお婆さんと逆の立場だったら、渡して構わないと言った事でしょう」 にこりと笑って言葉を返す老人に、リベリスタ達も理解する。 この人は、真実、きっと何も求めてはいないのだと。 武器を手にした悪漢に立ち向かい、二度と会えぬと思っていた宝物を元の場所へと取り返してくれたリベリスタ達。老人はそれだけで既に、リベリスタ達から十分な『お礼』を受け取っていたのだ、と。 ならば、その上で老人がこう問いかける、その意味は―― 「あんたの言い分は全て正しい。道理を曲げてんのは俺達だ」 静に。 滑らかな、それでいて猛き意志を込めて語りだしたのは、凍夜だった。 「それでも無理を押して頼む。爺さんの誇りを、俺らに託しちゃくれねえか」 言って、彼は手足を、額を床に付け、老人の前で平伏した。 「……頼む」 老人は、それをじっと見つめている。 それを見て――刃紅郎もまた、自身の決意を老人へとさらけ出す。 「必要ならば、彼の石と再び出会う機会を作れるよう、我も力を貸そう。 今直ぐに決断できぬというならば、何度でも此処を訪れさせてもらう。 我は――」 その笑顔を取り戻す落とし所を、見つけたい。 それを言い切るより早く、老人は皺の寄った笑顔を湛えて、小さく独白する。 「儂もお婆さんも、幸せですな。二人にとって大切な……しかし、人から見れば唯の石ころを、こんなにも沢山の人が大切にして下さると言っている」 老人は凍夜に近づいてその頭を上げさせ、刃紅郎を初めとしたリベリスタの面々に、深々と頭を下げた。 「どうか、儂らの想い出を……よろしくお願いいたします」 ● そうして、アークへの帰還時。 手回しされた車に乗り込んだリベリスタ達は、クリスのベルトポーチの中にすっぽりと入っている(どうやら気に入ったようである)『妖精』に思い思いの感想を述べていた。 「わぁ……こ、これが妖精さん……ですか?」 恐る恐るといった様子で手を差し出したケイの指に、妖精は楽しそうにすりついてくる。 先ほどまでは長らく親しんでいた老人との別れに落ち込んでいた『妖精』も、クリスの慰めや、天火や奏音のお話に興じているうち、少しは元気を取り戻した様子である。 ――結局あの後、老人は石と会う機会を作ってもらうことを断った。 再び会うことがあれば、また自分の手元に置いておきたくなる。そうすることでまた何者かに壊されるようなことがあるよりは、そちらでずっと預かってもらっていたほうが良い。それが老人の理由だった。 『妖精』との別れ際、老人も「初めて会う旧友」に若干寂しそうな顔をしたが、彼らは小さく別れの挨拶を交わすのみで、その最後の会話を終えた。 (……師匠とは全然違う爺さんだったな) 『妖精』とリベリスタが遊んでいる光景を見つつ、凍夜が苦笑を浮かべていると―― 『……!!』 『妖精』が凍夜の姿を見つけるなり、クリスのポーチから抜け出して彼の手に触れてきたのである。 怪訝に思う凍夜であったが――次の瞬間、その手に眩い光が起こり、それが収まったとき、その理由を理解した。 何故なら彼の手には、銀色の、装飾一つ無い小太刀が収められていたから。 「……なるほど」 言って、苦笑したのはヴァルテッラだった。 『妖精』はその姿に似て、童女のようなあどけない心を抱いている。 『妖精』が自己の存在をすり減らしてまで尽くしたいと思う存在は――即ち、自分か、自分の大切な人に相応に尽くしてくれた人。 ビジネスライクに交渉を行うつもりであった彼としては、この遅れた答えに若干、気を落としもしたが……直ぐに頭を振るって、それを霧散させる。 神秘が形を成す機会。それをこの目で見れただけでも幸福なことだと、そう考えて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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