●Verlierer マルセル・ディストラー。 親衛隊の一員。 階級は伍長。 『再生部隊』の副官。 ――どれも今となっては、意味を成さない。 あの決戦の夜、彼と彼の属した部隊は敗北した。 「今でも後悔しておりますよ、カール様。ハウニヴは残しておけば良かったとね」 一人、灯りのない部屋でグラスを傾け呟く。 未完のまま戦場に出した円盤兵器は、アークに破壊された上に『何か』に使われた。 工廠の自爆に紛れて這う這うの体で生き延びた彼は、その後の事を正しく理解していないし、詮索するつもりもなかった。 技術の粋を注いだ兵器は失われた、と言う事実が変わらない以上、真相に興味などない。 「好きにやりたまえ、か」 少し前に聞いたアルトマイヤーの『命令』を反駁する。 「命令と呼ぶには丸投げも良い所ですが……まあ、好きにやらせて貰いましょう」 アルトマイヤーが指示したアレを使う事にも異存はなかった。 共に自爆から生き延びた一人と、上官を失った他部隊の一人と言う、僅かな寄せ集めで最期の戦いに望むのだ。 相応の力は必要である。 だが、アレを使う前にまだやる事があった。 彼は再生部隊の軍人にして、再生部隊の再生の要を担った技術者である。 彼には兵器の知識と作る技術がある。祖国の兵器の再生は、彼の命題であり――夢とも言える。 「さて、始めるとしますか。最期の再生を」 ●Ein letzter Ausweg 決戦以後、身を潜めていたアルトマイヤー及び残存する親衛隊の一部が動き出した。 「残存の親衛隊が見つかったそうだな?」 「ええ。正確には親衛隊だった者――と言うべきですが」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、その報せで集まったリベリスタの問いにそう答えた。 「こちらで伝えるのは『再生部隊』の生き残りについてです」 再生部隊。 かつての『祖国』の兵器をアーティファクト化し再運用を研究していた親衛隊の部隊。 決戦時は未完ながら、円盤兵器すら作り上げていた。 「生き残りとは言っても、副官だったマルセルが兵卒を2人連れているのみ。 部隊とも言えない規模ですが――彼らはもう厳密には彼らではありません。ノーフェイスと化しています」 人数を聞いて僅かに緩んだ空気は、直後の和泉の言葉に霧散した。 「彼らに残されていた実験兵器に、そう言った物があったようです。運命の加護を代償に、使用者に大きな力を与える物が」 それは、亡霊に残された最後の手段。 マルセルに限らず、今回動きを見せた者はノーフェイスと化していると言う。 失うものなき亡霊は、本当に亡霊になったのだ。 「全員がフェーズ2。更に、マルセルは、自身の左腕を新兵器に変えています。タウゼントフュスラーシリーズの延長上と思われますが、これまでの狙撃兵器とは趣が異なりますので気をつけて下さい」 詳細なデータを各自の幻想纏いに転送する和泉の声に混じる、緊張の色。 「彼らが現れるのは、最初に再生部隊と戦闘が発生した場所です」 かつて工事現場だったそこは、今では完成間近のビルとなっている。 「ビル一つを倒壊させるのには十分すぎる爆薬と言うおまけ付きで」 それに特に何か意味がある訳でもない。 アークを呼び寄せる為だけであろうが、爆薬を使わない保証もない。 「実に判り易い待ち伏せですが、行かないわけにもいきません」 そうでなくとも、人である事をやめた亡霊には既にこの世界に居場所はない。 「終わらせて来て下さい」 小さく呟いて、和泉はリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諏月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月18日(金)00:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「4ヶ月ぶりか」 聳え立つビルを見上げて、『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が、身体のギアを一段高めながら独りごちる。 他にも、或いは神の如き戦の気を纏い、体内の気の流れを制御し。突入前に戦いの準備を進めるリベリスタ達。 「皆さん支援させて頂きます。相手はすぐ先でしょうから、気を引き締めていきましょう」 『不倒の人』ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)が十字の加護を施して、準備は整った。 「さて、別に望まれた訳でもない後日談を終わらせるですかね」 『振り返らずに歩む者』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が無限の可能性を持つ書物を広げ――リベリスタ達はビルの中へと踏み込んだ。 「ああ、やっと来ましたな」 何人かには聞き覚えのある声が響く。 それぞれの用意した明かりが暗いロビーを照らし、バラバラに立つ3人の影が浮かび上がる。 シルエットと先の声から、彼らの正面にいるのが『マルセル』であろう。 残る2体は、その左右斜め前に1体ずつ佇んでいる。 「ちっ……バラけてる上に、予想より前だな」 予想と異なる敵の位置に『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が思わず舌打ちする。 「行くぞ、亡霊共! 変身ッ!」 幻想纏いから全ての装備を出し、龍を思わせる全身鎧に身を包んだ『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)も、『マルセル』へと駆ける。 「オレが右に」 「俺は左だな」 義衛郎と『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)が、それぞれ配下達の前進を抑えに向かう。 ドドドンッ! 銃声と言うより砲撃音に近い重低音が3つ、殆ど重なって響いて弾丸が敵を纏めて撃ち抜く。 「再生部隊の最後の創造、歓迎致しませう――盛大にね」 とても連射には向かなそうな大口径の対物ライフルの3連射でもって、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が盛大に開幕を彩る。 「しばらくぶり、伍長殿。オレの事なんて覚えてないだろうけど」 「覚えておりますとも。貴方も、そちらの御仁も。最初のテストでお会いしましたな」 右翼へと出ようとする配下の前に駆けながら義衛郎の呟いた言葉に、『マルセル』は機械の左腕を滑らかに動かし指差しながら答えた。 「人の顔を覚えるのは得意なのですよ。カール様がああ言う方でしたから、部隊の人員管理も主に私がしておりましたし」 指された義衛郎と疾風は、かつて彼の上官が配下諸共リベリスタを撃ち抜いた光景を思い出す。 「そちらの2人は工廠で。特に後ろの貴女は、よぉく覚えておりますとも」 彷徨うように腕を動かし、影継を指してからエナーシアを指して止まる。 その口元にニヤリと笑みが浮かぶ。 「フハッ……ハハハハッ! これは良いッ! 真逆ハウニヴを壊した張本人とまた戦えるとは! こうなった私が、運命に感謝すらしたくなるとは思いませんでしたよ! ハハハハッ!」 「その腕」 哄笑を響かせる『マルセル』の左腕を指差して、影継が言う。 「素材は、カール・ベーレンドルフの腕とボルテクスボムか?」 その言葉に、哄笑がピタリと止んだ。 「ああ、これですか。そう言えばカール様の腕の一部を使いましたな」 否定するでもなく、思い出した風であっさりと認める。 「上官の遺志を継ぐ決意の象徴ってとこか? ならば――」 「再生、しただけですよ」 影継の言葉を『マルセル』が遮る。 「私は再生部隊。だから、再生部隊を再生した。それだけの事――だった筈です」 ほんの少し前の自分の事を、他人事のように『マルセル』は言う。 「ハウニブと言い、義手と言い。技術力は大したもんだ。ノーフェイスになっちまうとは勿体ない」 神秘兵器の『再生』、もっと面白い技術もあっただろうにと、敵ながら惜しむ影継。 「再々生部隊なんて諄いと言ったけど、これで正真正銘最期だというのなら。付き合うのも吝かではないのだわ」 銃口を向けたまま、肩をすくめるエナーシア。 「まったく。君にとって都合のいいことばかりだ。こちらの都合も考えてはくれないか」 「劣等の都合など、知った事ではないですな」 ため息混じりの『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)の言葉は、事も無げに返された。 「折角ですし、最後にお話でもしましょうよ」 「さて、そんな余裕があればいいですな?」 『マルセル』を探査しながら、戦場にあまりそぐわぬ物言いで語りかけるシィンに、『マルセル』はニヤリと笑みを浮かべた。 ● 「改めて。アークのリベリスタ、メイだ。御機嫌よう」 長い黒髪を揺らし、五月が『マルセル』の前に躍り出る。 「君の物語を聞かせて頂こう」 「ほう?」 「オレは君を知らない。君がヒトであった頃を知らない。 今日が初対面のオレが、君の短い余生を共に過ごすのはおかしなことかもしれないが――君が為したいことには全力で答えよう」 言いながら、『マルセル』の前進を阻む位置から身を翻す。 斜め後ろへと透き通る紫の刃を振るい、風の刃を配下へと斬り飛ばす。 そこに、冷たい何かが軽く五月の背中に触れる。 「っ!?」 凄まじい衝撃が、五月の体を突き抜けた。 一瞬呼吸が止まり、視界がひどく揺れて、気づけば10m程の距離を飛ばされていた。 「証明したかったのですよ。祖国で造られなかった兵器達は、正しく造られれば優秀だと。 我らの再生した兵器は強かったと。再生部隊は間違っていなかったと!」 咳き込む五月を見遣りながら、『マルセル』は告げる。 「今日こそは証明してみせますよ。ええ、貴方がたを毀してね」 「お前の決意がなんであれ、俺はそれを打ち砕くまでだぜ!」 狂気を見せるマルセルの前に今度は影継が出て、生命力を削った暗黒の瘴気を叩き込む。 今の敵の位置は、彼に取って少し『やりにくい』形になっていた。 戦場を俯瞰出来れば、敵は『マルセル』を頂点に鈍角三角形を描いているのが見えただろう。 影継と疾風は、その内側にいる。吹き飛ばされた五月もだ。 涼と義衛郎が、それぞれ早い段階で配下を阻んだ事で、全員が内側に置かれる事はなかったが、これでは『マルセル』の前に立ちながら両方の配下を同時に射程に捉えるのは難しい。 「爆薬を使う気配はないみたいね……なら!」 エナーシアは想定よりもやや後ろに下がる事で、方位の外から3人を射程に捉えて、それぞれの武器である腕を狙い済まして撃ち抜く。 「君達のヴァルハラ行きに一花添えてあげよう」 打刀より長く太刀には足りない深緋の拵えの刃が、速さでぶれる。 幻惑が実体を持つほどの速力で斬りつけられながらも、しかし敵は目の前の義衛郎を見ていない。 言葉すらなく、淡々と。右手を上げて銃口を向ける。 放たれた呪いの弾丸は、義衛郎も後ろの仲間も纏めて撃ち抜いた。 「頑丈ね。わざわざ用意しただけあるのだわ」 撃ち抜いた筈の腕で撃ち返され、予想していた事ではあったがエナーシアが小さく舌を打つ。 「ちぃっ!」 至近距離から放たれた呪いの弾丸を、涼は身を捩って直撃を回避する。 そのままぐるりと身を翻し――瞬間、涼の姿が増えた。 残像が質量を持つ圧倒的な技量。 「親衛隊最期の突撃、か。まるで玉砕に見えるのは俺だけかね」 純粋も斬る透明の刃、潔白も鏖殺する黒き爪牙。 袖に仕込んだ2つの武器を振るい、目の前の敵を斬り裂きながら、涼がぼやく様に言う。 「玉砕で、何か問題がありますか?」 その言葉に、『マルセル』は事も無げに言い放つ。 「そう言う、先と周りが見えてない所は、どうかと思うぜ? だから、過去の戦争でも、アークとの戦争も敗北するんだ――勿論、今回もな」 言い返す涼の肩口は、コートの黒で目立たないが、うっすら赤く滲んでいる。 「あまり聞いた風な口を利かないで頂きたいものですな。歴史の敗者になった事もない者が」 吐き捨てるように告げた涼の言葉に、僅かに置いて冷たく『マルセル』は返す。 「嘗ての大戦、先の決戦。2度も敗けて生き延びて、何もかも失って。 それでもまだ戦う事が出来るのなら。何を失おうとも戦う事を選ぶ事が――戦って死ねる場所を求めて何が悪い!」 「……変わったわね」 『マルセル』の様子にエナーシアが呟く。 激昂にしろ哄笑にしろ、証明すると言いながら死に場所を求めると言う矛盾にしろ。 どれも、以前のマルセルは見せなかった姿だ。 「彼等にとっては、これが……最後の意地、なのですね」 撃たれた傷を抑えながらも福音を響かせて、ルシュディーがポツリと漏らす。 2度の敗北が、彼を変えたのか。 死に場所を求めているのが確かなら、玉砕と言った涼の言葉は的を得ていた。 「それが、貴方達の想い?」 シィンも福音を響かせ仲間を支えながら、『マルセル』に問いかける。 「今の貴方は、何の為に何を賭けて戦っているの?」 彼女の周りを舞うフィアキィが、問いかけるその姿をぼんやりと照らす。 「自分には振り返るべき過去はないし、戦いに赴く確固たる理由も無いのです。 だからせめて、貴方の、貴方達のソレを。今のでも過去のものでも、もっと教えて下さい」 記憶と理由と決意を失った異界の少女は、語る。 「何時かソレが、自分に理由をくれるかもしれないですから」 お話でも、と言ったのは本心からだ。シィンは純粋に、知りたいのだ。 「――愚かな」 しかし、そんな少女へ『マルセル』は冷たく告げる。 「戦いに赴く理由? そんなものは自分で見つけるが良いでしょう。 他人に、まして敵に求めるなど。理解に苦しむ――所詮、劣等ですな」 「そう言う所は変わらないな!」 蔑むようなその物言いを、疾風が強い口調で遮る。 「本当の劣等とは自分を特別と思い、それを理由に誰かを見下す奴なんだよ。それがこの結末だろうが!」 捉えた気配だけで、間合いを超えて配下を地面へと叩きつけながら、言い放つ。 「結末には、まだ早いのでは?」 薄ら笑いを浮かべて、『マルセル』が左腕を持ち上げた。 ● 「っ……マジでいい『腕』、だ。大した威力だ!」 敵に賞賛を送りながら、影継は震える膝に力を入れて立ち上がる。 彼の破壊の戦気も、疾風の金剛の気も、既に『マルセル』に砕かれていた。 五月と3人で順繰りに『マルセル』の攻撃を受ける事にしたのは、正しい判断と言える。 そうでなければ、誰かが倒れていてもおかしくはなかった。 「技術者系だと、潜られた方が厄介なのよね」 的確に敵を纏めて撃ち抜きながら、エナーシアはやや嘆息気味に呟く。 (銃が使える程度の一般人でも、一発くらいなんとかなるわ) 胸中では、前衛が崩壊する事になるなら、その時は『マルセル』の前に立つ決意を固めて。 「ったく。しつこい亡霊だな!」 当てが外れて苛立ちの混じった言葉が、涼の口をついて出る。 エインヘリャル――遠く北欧の神話にある神に選ばれた不死の英霊、その名を冠した兵器によって絶対者の力を得た彼らは、涼の技の前にも正気を失わずに、後衛の2人を狙い続けていた。 立ちはだかる涼の体を貫いて、呪いの弾丸は戦場を飛び交う。 「既に終わった戦いの蛇足で、血なんて流させるものですか」 そう願い、癒しの福音を響かせ続けるも、戦場に血が流れるのは止まらない。 そう言う彼女自身、あちこち撃ち抜かれて赤い跡が残っていた。 ルシュディーと2人で後方から仲間達を支える為に、2人は配下の射程外には出られない。 「私にも意地はあるのです……立てる限り、治療させていただきます!」 体の半分を赤く染めながら、運命の加護を使いルシュディーは立ち上がり邪気を払う光を放つ。 クロスイージスとしては回避に長けた彼だが、視界を仲間の持つ明かりに頼っている状況では、その能力をフルに発揮できているとは言えなかった。 そして、戦線は崩れ出す。 「散々撃ってくれたが……俺の一撃も相当効いただろ?」 肩で息しながら、涼は倒れる配下を見下ろす。 実の所、一撃どころかその10倍。 一瞬で2度も質量を持つ残像を作ってみせた涼の技が、ついに配下の一体を斬り伏せた。 「ほら。お一人毀れましたな」 『マルセル』は倒れる配下には見向きもせずに、力尽きて倒れゆくルシュディーを指差す。 「もう一人を」 疾風が言って、『マルセル』の前へ駆け出そうとする。 「いや、待て。この状況なら」 それを止めて、影継が真紅の刃を持つ大剣斧を握り直す。 「吹っ飛べ!」 「ぐっ!?」 全身のエネルギーを集中させて叩きつけた刃は、『マルセル』を残るもう一人の配下の近くへと吹き飛ばした。 「良い位置なのだわ」 そこを、エナーシアの放った弾丸が2体纏めて撃ち抜く。今の位置は実に2体を射程に捉え易い。 「ああ、そうか。そこなら」 「オレ達も纏めて届く」 意図を察して、疾風と五月が動く。 「おっと、こっちは行かせないよ」 動こうとした配下は義衛郎の幻惑の技が阻んで、行かせない。 疾風が雷撃を纏わせたVDアームブレードを圧倒的な速力で振るい、五月は残像を残す高速で、2体をまとめて斬りつける。 一時的にせよ、間延びした戦場を圧縮し、2体まとめて攻撃しやすい状況を作った一手の持つ意味は大きかった。 ● 敵対はしていたけれど、義衛郎は親衛隊の事を嫌いではなかった。 勿論、好きでもなかったけれど。 「まあ、君ら鉄十字の亡霊の事は勝手に記憶に留めさせて貰うよ――オレも自称ながら亡霊の銘を戴く身だ」 倒れる配下に、義衛郎がそうポツリと告げる。 返事がある筈もないが、別に期待もしていない。 「さて……後は」 赤く染まった肩を抑えながら、向き直る。 「何故だ……何故、毀れない! 劣等如きを何故毀せない!」 4人に囲まれ、7人に視線を集めて。 『マルセル』が今宵始めて、動揺を見せていた。 「捨てちまったら判らないか? お前が失った運命で、俺は踏み留まってみせる」 涼の言葉通り、リベリスタ達を支えている力の一つが、それだ。 『マルセル』達は全てを代償に捧げてしまった、世界の寵愛。 「俺達は負けるつもりは全くないし、お前達みたいにもならない。此処で引導を渡してやるぜ」 速さのでない己の足を叱咤して、動く。 涼の姿が5つになって、その全てが2つの刃で『マルセル』に斬り込む。 そしてシィンは、前で戦う仲間の為に癒しの福音を響かせ続ける。 一人では、邪気を払う光まで使う余裕はなかったけれど、せめてこれ以上誰も倒れさせないと。 「ここからは限界突破だ! ついて来い、再生部隊!」 骨が砕けたか、体の内から響く鈍痛を無視して、影継は笑う。 余裕はないが、取って置きなら、まだある。 「先に行く」 短く言って、疾風は一気に間合いを詰めた。 「自らフェイトを捨てるとは馬鹿な事を。本当の亡霊になるとは笑えない――ここで決着をつける」 対応を許さない強引な踏み込み。 鬼神の如き闘気を纏った疾風が、これまでにない速度の連続攻撃を容赦なく叩き込んで、叩き伏せる。 「私は、我ら再生部隊は! こんなものでは」 起き上がった『マルセル』が掲げた左腕がぶれた。響いた銃声は、2発分。 大口径のライフルで間を置かない連射なんて常識外れな芸当も、銃火器の祝福はこなしてみせる。 「また貴様か!」 『マルセル』の視線がエナーシアを向く。怒りを隠そうともせずに。 「無駄だ無駄だ無駄だ! この腕を壊せるものか――再生部隊を、壊せるものか!」 「そうか。それが、君の為したいことか」 撃たれても壊れない腕を誇る『マルセル』の姿に。五月が一人頷く。 「死に場所なんて言っていたくらいじゃ、君自身、自覚はしていなかったのかな?」 「何を言って――」 「再生部隊を再生した、とも言っていたな。最期まで、部隊でいたかったんだろう? 独りになりたくなかったんだろう」 遮って、告げる。 戦いの最中で五月が見つけた、再生部隊に拘る理由。人であったマルセルの為したかった事、本音ではないかと。 それが真実であったか、真偽は定かではない。 だが、その一瞬、『マルセル』は呆けた顔を見せた――ように見えた。 「劣等風情が勝手な事を……その口から、毀れるがいい!」 「オレの為したい事は、まもることだ。大事な人を、仲間を。だから、君には死んで貰わねばならない」 更なる怒りを浮かべた『マルセル』の左腕が五月を狙う。 五月も全身の闘気を爆発させた一撃で迎え撃ち――カラン、と。床に落ちた紫の刃が乾いた音を立てた。 「こいつで終いだ」 真紅の刃を手に駆ける影継。 その体から湯気が上るのも、彼の体が普段よりも大きく見えるのも、目の錯覚ではない。 それは、あの決戦の後に彼が得た新たな力。身体の限界を超えて、全力の更に上を引き出す力。 真紅の刃を名付けた時に祈念した領域に、少しは近づいただろうか。 「『完壊』の一撃をもって、夢と散りゆけ! 斜堂流――壊刃衝!」 振り下ろされた刃は『マルセル』が構えた左腕も、彼も、何もかも砕いて斬り裂いてビルの床を砕いてようやく止まる。 限界を超えた反動で膝をついて血を吐く影継の前に、体を失った左腕が重たい音を立てて落ちる。 「ありがとうございました」 力尽き、世界に在る術を失った軍人だった者へと、シィンが言葉を紡ぐ。 彼の言葉が、見せた姿が、彼女に何をもたらすにせよ。 いつかこの身が果てるまで、持っていきましょう。 だから今は。 「――おやすみなさい」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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