● ――誇りはなく、尊厳も無く、しかし見える光は在った。 それを目指して進んだ者達が、そうして、今日を終える日が来た。 『総員、好きにやりたまえ』 リヒャルトも、その副官も居なくなった現在、立場上現時点でのトップに立った男はそう命じた。 敗残兵に明日はない。畜生と成り果てた嘗ての誇り高き軍人達は、ならば今日という日にせめて自らの手で亡くし損なった命を捨てるべきだったのか。 否。それは、断じて否である。 往く路に光はなかった。 歩いた足跡に光はなかった。 そうして、何れは掴むと信じていた、先の先にある光すらも、『彼奴等』に奪われてしまったのなら。 誇り高き猟犬は、誇り亡き狂犬と成り果てよう。 失う物も無く、果ての果てまで落ちた自らは、ならば、その終焉こそが相応しいのだから。 ● 「……最早、言うべき事は在りませんね」 沈黙のブリーフィングルーム。 背景に映し出したモニターには、彼の『親衛隊』の姿があった。 語る男……津雲・日明(nBNE000262)は、淡々とした口調で説明を始める。 「残務処理です。内容は、嘗て我々と相対し、敗北した『親衛隊』。その残党の殲滅。 ……見誤らないように。彼らは、一人足りとて生かしてはいけません」 告げる言葉に、緊迫はない。 在るのは、憐憫か。対するリベリスタ達をしても、それに共感を覚える者は少なくなかったが。 未来映像に映る姿。 そこに映る彼らは、凡そ何人ものフィクサードが、ノーフェイスと化していた。 「アーティファクト、『エインヘリャル・ミリテーア』。 対象への強化を施し、その代償として過剰なまでのフェイトを損失させる破界器です。敵は全員がこれを使用しています」 言って、モニターの映像が、切り替わった。 映る姿は、嘗て二度、アークのリベリスタ達と対峙してきた少年――アーレ伍長。 覗く表情に、嘗ての毅然とした気概は見られなかったが、それでも。 「此度、皆さんの相手となる彼は、待っています」 少年は、残された軍服と、武器を手に立つ場所こそが、彼の意志を示していた。 「自らの終焉と、皆さんとの、決着を」 戦場は、夜の三高平公園広場。 ● お父さんが銃に撃たれて死にました。 お母さんが車に轢かれて死にました。 殺したのは二人とも外国人で、その場から逃げたそうです。 残された男の子は、悲しむことも出来ませんでした。 硬くて、重いものに潰された、貫かれた二人の身体は、その子の知っている両親の姿では無くて、ただの知らない人に見えたのです。 ――ねえ、人間って、こんなふうになっちゃうの? 純粋な疑問を、答える人は居ませんでした。 ――ふつうの人をこんなふうにして、どうして謝らないで逃げられるの? 単純な質問を、答える人は居ませんでした。 だから、その子は答えを自分で考えるしかなくて。 彼はそれを、『そとのひと』が、悪い人だからだ、と思いました。 子供の、凝り固まった早計は、年月と共に解けていくはずだったのでしょう。 けれど、それを固めたままにする人が、彼を新しい家族として迎え入れたのです。 自分達を『親衛隊』と言った彼らは、その子の思う『わるいひと』をやっつける人たちでした。 そうして、そこで育てられていった少年も、やがては自分のすべきことを知ることが出来たのです。 失った悲しみを忘れて、目指すべき道を教えて貰えて、その子は漸く、幸せに成ることが出来たのでした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月20日(日)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――泣いた子供が居る。 手にはナイフ。双眸は闇に濁り、両手は其れまで殺した無辜の人々の血に塗れていた。 手は届かない、届けられない。 当然だ。これ程までに歪み、他を殺し、或いは手にした武器で自らをも殺そうとする者に、届ける想いは在るはずもない。 なら、逆に。 何が彼の子から無ければ、良かったのだろう。 手にした武器か。 歪んだ心か。 殺戮の事実か。 或いは、 その全てがなければ、リベリスタは如何なる者も、救わなかったのか。 ● 「お前は、最期まで独りなんだな」 曇暗の空の下。 告げた『デイアフタートゥモロー』 新田・快(BNE000439)の声に、ふと、振り向く影が在る。 「お待ち頂いて光栄です。すっかり化物(フリークス)ね」 次いで、告げる『ヴァルプルギスナハト』 海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)に対して、少年――アーレは、相変わらずの仏頂面で言葉を返した。 「食らい付くにはこの程度でもせんとな。第一――フェイトを有しているからと、万一捕縛にでも臨まれたらたまったものではない」 「自意識過剰に悲劇のヒロイン思考かしら。挙げ句に終焉を自ら望むなんて、敗北主義もここに極まれりといったところかしら?」 挑発、ではない。 叩きつけるような悪口雑言は彼女の本心だった。 彼の大戦を過ぎて幾十もの時を越し、尚も変わらない少年。変わろうとしない少年。 ――こういう子、ワタシ嫌いよ。 謳うような独り言は、ともすれば自らを刺す逆棘にすら成り得れど。 「Lange nicht gesehen(お久しぶり)、アーレくん」 一人一人が対話をする。 消えかけた残響に、気まぐれで耳を傾けるような、その程度の意味を以て。 他の面々の中で、『ピジョンブラッド』 ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)の様子だけは、戦闘前に置いて既に殺気すら孕んでいた。 「この前は随分生意気言ってくれたよね? しっかりお返しさせて貰うよ」 「……何とも、細かいことを気にする性質だな」 此方は既に賊軍だぞ、と息を吐いた少年。 その言葉が指す意味――負け犬の遠吠えに一々拘るなと言う意図に対して、彼はゆるりと首を振るう。 人の思想を歪めるその在り方が。 自らが守るべきものを小馬鹿にしたその言葉が。 今も、今も、尚、頭から焼き付いて離れぬのだと。 「三度目だな。アーレ伍長。もう懺悔は済んだか? 神様にお祈りは?」 「……しつこい女に男は出来んぞ」 二度目の歎息。 視線の先には――傷だらけのシスター、『アリアドネの銀弾』 不動峰 杏樹(BNE000062)が。 眇める瞳に、殺意はない。 戦意も、闘志も。だのに、奇矯な興奮はココロから去ってはくれない。 ――アーレと重なる部分はある。覚えがあるけれど、手遅れだ―― 仮に、それが何らかの感情の側面であったのだとしたら、其れは。 「……神様の、くそったれ」 銃把が重い。 修道服が重い。 それでも、頭を下げることを許されぬ道を、彼女は既に選んでしまっていた。 「……一応、問うが。まさか臆したわけではないな?」 「冗談」 身を劈く得物は未だ飛来しない。 故、確認したアーレに対し、感情のない瞳で淡々と返したのは『ならず』 曳馬野・涼子(BNE003471)だ。 「死にたがりにきょうみはない。知らない敵をはげますしゅみもない」 気分よく死ねたらいいね、糞野郎。 告げる言葉には容赦すらなく、故にそれこそが彼女の心境を代弁している。 涼子は足掻く女だ。 人並み以上に執着が強く、人並み以上に我が強く、だから人並み以上に想いが強い。 その彼女が、今は何も思わない。 そう言う相手なのだ。彼女にとって。 惨めでも進み続ける彼女に対して、諦観し、停滞した者は。 「……最後に取り繕う外見がそれか」 呆れ混じりの声がした。 『普通の少女』 ユーヌ・プロメース(BNE001086)が声を発する。冷淡に、冷酷に、或いは冷静に。 「情けないな、殺される理由を作って戦うとは。ちょび髭伍長でも最後は自分の手で降ろしたぞ?」 「それはそうだろう。戦う者は本質的に兵士と戦士に別れる。貴様等が理解を示すのは間違いなく後者の側だ。 対し、俺は兵士だ。その思想を、行動を、理解することなど永久に出来はしない。それでも」 それでも、貴様等は俺を殺さなければならない。 些末な挑発にすら生真面目に応える姿に、声を、上げたのは。 「アーレ伍長。貴様は、満足か?」 『神速』 司馬 鷲祐(BNE000288)。 臨む姿に感情は見えない。当然だ。 意志は刃に乗せる。意思は言葉に灯す。そうやって理解していった者が彼であり、その独特なコミュニケーションが鋭い鉱石のような彼の強さを為しているのだから。 「質問の意図が見えない――し、見えてはいけない。俺達のような人種はな。 戦場に掲げるのは大義だけで良い。それ以上を持てば、俺は俺でなくなる」 「属する場所を失ってもか?」 「そう問うなら階級まで呼ぶな。どうにもむず痒くて堪らん」 言って、彼はゆるりと銃を抜く。 構えはしない。会話の時は終わりにしようと言う意思表示。 是非も無しと応える者が居て、やんぬるかなと俯く者が居て。 それでも、それが彼らの使命で在ったから。 「総員、好きにやりたまえ」 「……、」 一拍、少年の呼吸が止まる。 へらへらと笑って、似合いもしない武器を手にして、『息抜きの合間に人生を』 文珠四郎 寿々貴(BNE003936)は指揮官としての命を告げる。 「怒ったかい?」 「……難しいところだな」 浮かぶ街灯に頭を上げて、返すアーレに寿々貴はからからと笑う。 冗談でもなんでもないのさ、それだけを言う彼女に対して、リベリスタが返す言葉はない。 連携を常とするアーク。その彼らが『好きに』やるということ。 互いを活かし、或いは補い、そして織り成す。 それが、奇しくもあの『上官』の命令に、偶然被ってしまっただけで。 「……それなら、それで良いさ」 微か。 見えた面持ちの綻びは、もしかすると、笑顔だったのかも知れない。 「見せてみろ。貴様等の好きなやり方というものを」 ● 背を奪う影が居る。 鷲祐の影が刹那の隙にアーレの後ろに回り、しかし当の本人は其れを気にもとめずに敵陣への接近に移る。 「純粋培養の末路とは中々見る機会がないが、大して面白くもないな」 次いで、動いたのはユーヌ。 繊手に仕込んだ使い捨ての呪符がばちばちと音を立てる。幾許かを消費して為された星の陰陽はアーレの身を掠めるに留まった。 「……」 同様に、後方から射撃に移ったのは涼子だった。 偶発的にも発生した二次行動、自らに課した血の掟は肉体を十全以上に駆動させ、手にする銃が咆哮を上げれば、その弾丸は確かに彼を貫いた。 「――流石に、」 だが、それだけだ。 「甘くはない、か……!」 運命を代償に手にした力は相応のものと言える。一線級のリベリスタが一度二度攻撃を当てたところで、虫にでも刺されたような気楽さで傷口を覗く少年に、虚勢の様子は一切にも見られない。 「どうした救世者、よもや気圧された等と言うまいな」 「その言葉、言われる側に回るなよ」 言うが早いか、打ち鳴らされた神々の黄昏。 手にしたナイフを起点に起こした神秘、快の表情が決然とした笑みを作る。 「新田快――人呼んで、守護神。役者不足とは言うまいね?」 「観客なら些か足りんようだがな……!」 瞬間、矮躯を裂いた糸が在る。 視線を向ければ、其処にはどうにも曲がってしまった神父の姿が。 「奇遇だね、僕も最近また人間捨てたんだ――こんな感じにね!」 身を取り巻く影が濃密になる。 近づき、死の口づけを。前に出たロアンの呪詛を込めたアイにすら応えることはなく、アーレはその喉をつかみ取った。 「戯け。人間を捨てるならば、意味も理由もなく生きて見せろ」 貴様は人間だ。俺も、また。 それは悔恨のようにも、哀惜のようにも思える言葉。 膂力に任せて身体を薙いだ。掴んだままの喉は中途で千切れ、グロテスクな咽頭の中身をぶちまけている。 「おやおや、まったく容赦のない」 それを見てけろりとしている寿々貴もまた、グリモアールを介して出した奇跡を以て傷んだロアンを賦活する。 戦況は未だ五分だ。重ねて言えば、その均衡が崩れる気配は未だ薄い。 翼の加護を以て中空より破邪の詔を為した海依音は彼の体力を幾らか削ったが、返す刀で飛来した閃光弾をほぼ全員が避けることに失敗し、足並みの鈍化を余儀なくされる。 「戦争にいい悪いはないわ、侵略されることを防ぐだけ」 「……」 「ねえ、貴方」 ――答えは出た? 眇めた瞳は歪まない。 返された視線も、同様に。 戦場の最中に在りても、星月は遅々として回る。 経過する時間の最中、鷲祐が繰り出した何度目かのナイフを、細い手が貫かれながら受け止めた。 一度は彼の技巧によって失われた指は、エリューション化に因ってだろう、その様相を完全に取り戻している。 貴様は満足か。 問うて、はぐらかされた言葉は、今こうしてカタチを為している。 「……そうか」 独りごちた言葉を、宇宙開闢の如き衝撃が襲う。 ビッグバンアクセル。『地に叩きつけながら』『空に蹴り上げる』と言う相反する技巧を一挙に遂げるその様に、速度に特化した鷲祐がまとも以上にそのダメージを喰らった。 避けられなかった。 否、避けなかった。 彼のココロを、一度くらいは、まともに味わってみたかった。 「ならば、全力で応えよう」 生命ってのは、それでいい。 続けざまのストンピングを弾いたのは、一条の銃弾。 擦過した傷に血が零れれば、その主は『敵』に対して確実な殺意を向ける。 視線の先に居る女――杏樹は、吃とした声で想いを告げる。 「今までの気迫はどうした。主人を失ったら猟犬も捨て犬か。従順な猟犬はもうやめたらどうだ」 憎しみはないのか。怒りはないのか。悲しみはないのか。 況や死を待つ身にありながら。そう問うた彼女に対して、アーレは返す。 「貴様はどうなんだ」 「……」 「今ある組織が壊れたとして、ならばその者達のことを忘れられるか。一人だった頃の自分として、直ぐに生きていけると思うのか」 アーレは、親衛隊で忌み嫌われていた。 だが、彼は親衛隊を嫌ってはいなかった。 それは、幼少時の孤独から救われたという意味だけでなく、きっと。 「俺はな、『アリアドネ』」 何でもないことのように、彼は言う。 「彼処が好きだったよ。軍人としてだけでなく、一個人としても」 言葉と共に、彼が『最強の駒』となる。 それは、初めて見えた、彼の本気。 ● リベリスタ達には一つだけミスがある。 それは、敵――アーレにとって、この戦いは『敗北を前提としたものである』ということだ。 無論、親衛隊として生きる彼ならば、その行動に常に最適手は打たれ続ける。が、其処に執念は介在しない。 解りやすく、結果だけを言えば――リベリスタが予測したアーレの行動は、彼が本気でないが為に幾らかのズレを見せている。 故、行動の割に燃費の悪さが目立ち始めていた。 殊にその様子が目立つのは寿々貴だ。散発的に発生するシャイニングウィザードに対抗して撃ちはなった聖神の息吹は相当の量に至る。 そして、その段階で――敵が本気になった、ということは。 「今更、かよ……!」 涼子が悪態を付きながら銃を撃つ。 最効率の動きを以てしても、意志を乗せた攻撃に甘さはない。 回避後に受けた傷を思考から振り払い、アーレが単手をゆるりと振るった。 次いで、 「――――――ッ!!」 誰もが、声を絶つ。 ファントムレイザー。撃ち込まれた不可視の刃は誰しもを切り裂いて、涼子自身も、その一撃に運命を削った。 なれど、未だだと声を吐く。 恐怖と、痛みとで震える身体を、必死に持ち上げながら、それでも。 ――まだ、拳をにぎらずにはいられない心がある。 諦められない少女は、諦めきった少年を前に、かぶりを振る。 死ぬときの気分なんて、さいあくに決まってる。 私は、そんなものわかりのいい奴にはなれないんだから。 握る銃把の感触が、リアルであるかぎり。 涼子は屈さず、俯かず、唯、唯、前を見ている。 それを、見て――更にアーレが、彼女に向けて接近する。 が、 「お前は結局、敗北と向きあおうとしなかった。敗北のその先を見ることを諦めた」 それを、止める者が居る。 新田快。嘗て自らを守護神と称し、今では他者にもそう称された男。 その名を、今なお高め、何某かを救う欠片にせんとするリベリスタ。 「お前は好機を逃したよ。明日を生きるっていう、好機を」 前に出た足を、快が払う。 崩れる体勢、空を泳いだ手を掴み、引っ張り上げると同時、空いた片手のナイフを顔面に突き立てる。 抉られた眼球からは夥しく血が溢れながら、それでも彼は静まりかえっていた。 「……当然だろう」 守るべき大義は既に折られた。 守りたかった仲間は全てが死した。 それでも生きられるのならば、それは余程の馬鹿か、若しくは。 「私は自殺の手伝いに来たつもりも、自暴自棄に付き合う気もない」 その思考に、杏樹が歯止めを掛けた。 臨む瞳に優しさはなく、甘さもない。 唯、慈悲に似た哀れみを、銃弾に乗せただけ。 「親衛隊として終わりたいなら、最期まで毅然としてろ伍長。 親衛隊の理念がお前の矜持なら、最期まで貫いてみせろ。見届けてやる」 身を劈く痛みは軽くない。 ともすれば傾ぐ矮躯。それを耐えて、堪えて、その先に見るべきを、待ち望むが故に。 「今の貴方みたいに、普通の人をこんなふうにして謝らないのが戦争よ」 ボロボロの姿を見て、海依音が声を掛けた。 侮蔑か、軽蔑か。いずれにしても好感情ではない想いをハッキリと口にする彼女は、そのままにまくし立てた。 「戦争の最大の功罪は人が人としてあるための心を壊して、殺すことで善悪をわからなくすることにほかならないわ」 貴方はそれを選んだ。 選ばざるを得なかった、ではなく。 糾弾するようなその口調に、アーレは小さく頭を振った。 「もう止めろ」 「何を――」 「俺の為じゃない」 中空に浮かぶ『少女』を、『老人』は見上げながら。 「自らを刺し貫くのは、止めろ」 「――――――」 リベリスタ。 革醒した須くをこの世から滅ぼし、或いは追い出し続ける者の総称。 世界を守るという大義の為に、ともすれば革醒した『普通の人』を殺し続ける彼らが。 真に、戦争主義者を責める権利が、本当に在るのだろうか。 「ふむ、満足か不満足かは知らないが、胸に抱えた子供の玩具はガラクタに堕ちたか?」 「最初から、そんなものが在れば変わっていたかも知らんな、俺も」 一時、動きを止めた彼を、次いで間断なく責めたのがユーヌだった。 蓄積された状態異常は相当な数に至る。その何れもが効果を発揮することが無くとも、彼女が為す呪殺の神秘には丁度良い媒介となる。 幾度目かの星の異象。内側からわき出す毒は彼の身を容赦なく啄み、その身を一度だけ、屈させる。 「どちらでも変わりないが、餓鬼らしく眠ってしまえ」 「……」 アーレが、指を弾く。 次いで、再び顕現する不可視の刃の乱舞。 前衛陣を狙って切り裂いていくその最中、一人。 「……この行動の意味は、もう知っているな?」 仲間を庇う、鷲祐が居る。 何をか言わんや。一度だけ瞑目したアーレが、何も言わぬ侭彼の側へと視線を向ける。 「俺はただ前に進むことしかない。お前のように、大仰な思想を背負って進むことは出来ない」 「……だが、だからこそ」 ぶつかり合おう。全力で。 互いの主張を、意志を、撓ませることなく、砕けるまで。 その道を選んだのがアーレであり、 その結末を望んだのが鷲祐なのだから。 「……は」 少年は、笑った。 一度だけの笑みが、剥き出しの殺意を意味していたことは、誰もが解った。 「勝負は一瞬、悔いを残すな。――行くぞッ!!」 「上等だ。後悔しろ、黄色猿」 殺陣・斬劇空間。 ビッグバンアクセル。 双方がかち合って、鷲祐が一度、運命を燃やした。 アーレは、肉体を劇的な奇跡で耐えさせた。 引き分けだ。 これが、一対一の戦いならば。 「派手に終わりたいだけなら、精々足掻くといいよ」 寿々貴が言いながら、傷を負った鷲祐に癒しを施す。 その瞳に戦意はない。それは、彼女の性質と言うだけでなく。 「どうせ、自ら運命の加護を手放した者に、運命を覆す事なんてできやしない」 その言葉が、真理だったのだろう。 遅すぎた本気。死に体で来たが故の単身。 結果は――唯二人の運命を些少、削り取って、それだけ。 だから、これはきっと、彼に課された最後の罰。 「さあ、そろそろ懺悔の時間だよ」 息をするに精一杯の彼を、ロアンがゆるりとした笑顔で近づいた。 「何か心残りとか、言い残したい事は無い? これでも神父だし、聞いておくよ」 「……そうさな」 一呼吸をついた後、アーレは。 「貴様は、もう少し挑発に慣れておけ」 満身を振り絞って、彼へ突撃する。 対し、ロアンは苦笑を浮かべて、言祝ぐ。 「これで終わりだよ――親衛隊」 血と肉の雨の最中、別れの言葉を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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