●Crazy D.J. 「いやぁ……最ッ高の気分だ!」 薄暗いダンスホールで、男の声がハウリングを伴って響く。旧世代のDJそのままの姿をした彼の前進は、細かいキズでボロボロになり、無事とは言いがたいし……その狂気じみた笑いからして、とても真っ当な人間とは思えない。 くるくると、天井から降り注ぐプリズム。単なる照明効果ではない、これもまた旧世代の遺物として名高い存在。それが世界を狂わせる異物であり、彼もまた被害者の一人。 「ミラーボールなんて洒落が利いてないと思ったが、こんな気持ちになれるならそれもいい……!」 軽く両手を掲げる男の手もまた傷だらけだが……彼を見咎める者は居ない。少なくとも、その場には反論を許された命はひとつも残っておらず。 ミラーボールは、ただただ屍の山を照らし続けていた。 ●Mirror hall 「ミラーボール……少なくとも、バブル・エコノミックでは広く好まれたオブジェクトだったことは間違いないね。ただ厄介なのは、これがアーティファクトであること、このホールのオーナー兼DJの男がノーフェイス化しちまってることの二つさ」 トン、とモニターを叩き、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はリベリスタ達に説明を始める。表示された映像が事実だとするならば、これだけの殺傷能力を持ったノーフェイスということになる。しかし、場にはリベリスタの一人も居ない状態で、何故彼はああも傷ついているのか。手を上げたリベリスタを制すように、伸暁は右手を上げて薄く笑う。 「それが、このアーティファクト『クレイジーミラー』の効果さ。具体的には、物理、又は神秘の攻撃をランダムに反射、拡散させ、対象以外も傷つけさせるフィールド・リアクションを起こすことにある。こちらが相手一人を狙ったのに味方が傷つくとか、そんな事態もありえるのさ」 それはまた、とんでもない効果だ。迷惑極まりないそれを壊すことは問題ないだろう、と別のリベリスタが問うと、「望ましいけどな」、と伸暁は言葉を濁す。 「その場合、こいつはまた厄介な特性を発現する。ダメージのチャージ&リリース。特定のタイミングで受け止めたダメージは直接破壊に関わるダメージにならず、チャージされる。リリースされたダメージ対象は、勿論オール。これはノーフェイスだって問わないさ」 ……ぶっちゃけた話が、メインはアーティファクト効果の厄介さなのか。 「ああ、だがノーフェイスだってイージーエネミーじゃない。しっかりフェーズ2だ。覚悟してくれ……良きブロークン・ドリームを」 よく分からない一言を残し、彼はリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月22日(金)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●Death&Junky ――ダンスホール「Karma」前、午後六時半。 「えー? 今日はおやすみなのォ!?」 「らしいね。入り口は板でガチガチに封鎖されてたし、連絡も回ってきたからまさか、とは思ったけど。たまには、DJも休みたかったんじゃない? 最近ずっと様子がおかしかったみたいだし……」 「『緊急の工事のため本日休業』、か。暫くは忙しそうだなあ」 青年層を魅了してやまなかったダンスホールの前から、三々五々に人々は散っていく。日々の繰り返しが人の習慣の形成であるならば、『緊急』が長引けば何れは『常態』となり、そこは無人であることが約束される。 世界とはそういうもので、だからこそ――DJ.Karmaはその存在を忘れ去られるに相応しい存在であっただけの話。彼が見知った時代のように、彼もまた忘却されるために生まれた徒花でしか無いと聞けば、笑うだろうか。 遡ること一時間前。 リベリスタ達は、同地点に到着し、正に突入直前の様相であった。これは移動中に追加された情報だが――どうやら入り口は二重扉になっており、入り口の先でもうひとつ扉を抜け、始めてDJとの対面を果たす構造なのだそうだ。受付などの存在を考えれば当然かもしれないが、相手が相手なだけあって、常識が通じるのも驚きではあるだろうか。 『建物の電源は落としました。合流に時間がかかりますが、先に突入をお願いします』 各人のAFから響くのは、『シャーマニックプリンセス』緋袴 雅(BNE001966)の合図だ。彼女は、アーティファクト『クレイジーミラー』の機能抑止・制限を見越して先に動き、配電盤への工作を画策していたのだ。尤も、その話を聞いた瞬間、『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)の心理に閃いたのは快哉ではなく策の練り直しという焦りであったのはある。 『クレイジーミラー』、その形状はミラーボールそのものであり、効果は非常に厄介な空間反射系。もしその光によって行動原理を特定できれば――と考えていた彼女だけに、その失点は惜しい限りである。 「大丈夫でしょう。そういうのは、私の領分だから遠慮無く戦うといいわ」 「そうそ、或いはDJサンから有無をいわさず聞き出せばいいだけなんだからサ」 そんな嘆きを聞いてか否か、嵐子に語りかけるのは『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)と、『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)の二人である。知覚系のスキルを保有する彼女達は、各々アプローチこそ違えど、アーティファクトの特性、そして敵への対抗策という点に於いて大きなアドバンテージを有していると思って差し支えない。 「バブル景気……生まれる前の話ね」 「俺が若い頃は全盛期だったけどな? ……ま、どっちにしろ興味が無かったから知ったことじゃねぇが」 興味なさ気に入り口を眺める『薄明』東雲 未明(BNE000340)に対し、『首輪付きの黒狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は冗談めかして笑ってみせた。尤も、彼にとっての全盛期をどこに置くか、バブルの全盛期が彼にとってどんな日々だったか――そんな話は、今回は些末ごとでしかないのかもしれない。それにしたってこの二人、対比するとその差が異常なまでに大きく、傍目には違和感を禁じえない気もするが、そこはアークという組織あってこそ、か。 「えー、お休みなのォ!?」 「そーなんですよ、残念ですけど。他の方にもお伝えくださいですよー」 心底残念そうに声を上げ、去る女性を眺めつつ、『クレセントムーン』蜜花 天火(BNE002058)は手をひらひらさせて見送った。既に何度かこうやって追い返してはいるのだから、そろそろ情報が拡散していってもよさそうなものではあるが、こう人が来るということは、それだけの盛況があったという裏付けにもなるだろう。 「……ああやって、人々に好かれている場所が地図から消えるのか」 その様子を見ていた『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は、何か考えるように小さく嘆息する。世界は歪みを受け入れない。故に、ここがダンスホールとして存在し続ける未来は存在しない。分かっていても、感じるところはある。 「光のシャワーはいいけど、出血ばらまかれて血の雨はシャレにもならないわ……さっさと回収しないとね」 突入を前にして、改めて戦略を練るのは『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)だ。彼女は、未明と共に『クレイジーミラー』回収を主体とする作戦の実働として大きな役割を果たす手筈となっている。 だが、相手もそう一筋縄で行く相手ではないだろう。全ては、全員の連携が形になってこその結果。 前進を包む緊張感を従えて、先ずは九人のリベリスタがダンスホールへ歩をすすめる。完全な闇に落ちたそこに、各々の持ち寄った光が閃き――甲高い声が、それに応じた。 ●Dream Joker? 「Ohォぅ……なんてこった、デリカシーがテイクオフしちまったアウトローがゲストなのかィ? 残念だねェ」 ダンスホールを煌々と照らす各々の照明、寧ろ自らを集中して照らすその様子に、心底失望したかのように大袈裟な動きを繰り返す時代遅れの男。誰ともなしに、「ああ、ダメな人だ」と呟くだろうこの男が、先程ああも好意をほしいままにしていたDJ本人なのかと思うと……なんというか、居た堪れないというか何と言うか。 「それにしたって、その格好はエッジが効きすぎってもんだろォ!? ココは動物園かって有様だぜ……」 「ねえ、このDJちょっと……じゃなくてかなりイかれてるけど」 「言ってやるなよ、ウリなんだろアレ……」 リベリスタが口々に溢れんばかりの違和感にツッコミを入れ続けるが、DJ本人には蛙の面に水である。馬耳東風である。盛大に効いていない。 「ところで、ひとつ聞いていいか?」 と、『グリーンハート』マリー・ゴールド(BNE002518)が得物を隠しもせず、一歩前へ。さしものDJ.Karmaでもその動きには緊張感を高めたが、続く言葉は非常にカルいものだった。 「ところで、DJって何だ?」 ガタガタッ、と背後でテーブルが倒れる音がするが、DJは細かいことは気にしない。そこまでの素人が現れるのは予想外、だったろうが。 「おま……『Disc Jockey』の略に決まってんだろォ!? なんだよその罰ゲーム、さすがに笑っちまうぜェ……?」 「そうか」 だが、マリーはDJの言葉などさして意識していなかった。疑問を真っ当な形で返すなど思っていなかったが、結局のところ、言われたとおりに信じると決めたのだ。いまはそれで構わない。雑念を注ぐ暇も理由も、ない。 更に重ね、天火が問う。 「このお店もミラーボールも、皆で楽しい時間を共有する為に用意した物ですよね? 残念ですが、そのミラーボールは全てを――」 「一体、何に甘えようってんだィ?」 DJの声のトーンが、すっと低くなる。全員の心胆を寒からしめるに相応しい、常人であることを手放した類の声だ。 「他人の店を電源から何から引っ掻き回して上がりこんでワケの分からないことを始めて……説得ってェのは信頼の一つもねェ俺に持ちかけるもんじゃねえ、そうだろ――」 ぐ、とDJが手元の機材に意識を注ぐ。僅かなスクラッチ音が全員の耳を叩き、 「蜜飴みてぇにドロ甘の脳味噌のまま、イッちまいな」 DJ自身と天火の身を、それぞれ薄く切り裂いた。 「ちっ、いきなりかよ……!」 「予定調和ではありましたけど、会話を切り捨てるだなんてやりすぎです……」 焦りを隠しもせず、吾郎と天火は一足でDJの間合いへと踏み込んでいく。彼の目的は、壁となること。無論、攻撃の射界を塞ぐ為ではなく、戦況の趨勢を担う作戦の防衛行動である。 「Fooo……イイね、軽くスクラッチしてみただけでこれかい? イイ感じに俺もおたくらも狂ってる、違うかイ?」 「違うわよ、少なくとも私は一般人だもの。残念だけど……今宵踊るのは私達じゃなく貴方で、ダンスナンバーじゃなく肉と鋼と鉛の調べだわ」 軽口を止めないDJに呼応するように、エナーシアのそれも流暢に戦場を流れる。自身の矜持を前面に押し出し、その行動を規定する。彼女らしい戦術といえば、そうなのだろう。 「それと――遠慮のない先制攻撃有難う。お陰で、十分なデータが取れたわ。貴方のスクラッチ、本当に『その程度』なのね?」 す、と彼女の口元が歪む。他のメンバーもまた、その言葉に応じるように各々の得物を構え、戦いの準備を終えたとばかりに呼吸を整える。 「先ずは、その厄介なミラーボールからだねっ」 嵐子の指は引き金を迷いなく引き絞り、神秘の銃弾を鋭く吐き出す。自身に回避能力のないミラーボール、その付け根のみをねらった銃弾は、本体を叩くどころか一切見向きもせず、その吊り金具を打ち据えた。しかし、破壊するにはまだ足りない。本体ほどではないにしろ、その耐久は笑えないレベルなのだろう。 「Hey、備品までブッ壊しに来るのかイ? エッジの利いたJokeだ。そいつぁ笑えねぇ……なッ!」 再び、DJがレコードを引く。それにより発生する真空刃が、リベリスタのそれと同等の性能を有していること、彼自身と拓真を裂いたこと……つまりは、『クレイジーミラー』は尚健在。そして物理攻撃を反射する状態が続いている、ということ。この状況下に於いて、物理中心のメンバーは次撃をより正確に行う準備をするしかない。或いは、エナーシアと嵐子の射撃が功を奏するのを待つか。 「巧遅より拙速を尊ぶ、とも言うしね。早く落としてしまうに越したことはないわ」 「そうだね、一気に終わらせたいところ……っ」 二人の声が相乗し、次々とチェーンに突き刺さる。狙いがどこであれ、攻撃が物理に属するならばエナーシアの一撃は自身への痛撃にも繋がりかねない危険なものだ。加えて、エナーシアのそれは一撃が即致命打を叩き出すレベルの決定的射術。自身の左肩を撃ちぬいたその痛みは、彼女とて只で済むレベルではない。 「エナーシアちゃん!?」 「問題ないわ。私を治す前に、早々に運びだして」 ウーニャの憂う瞳と、エナーシアのやり遂げた瞳が交錯するその中心を、音を立てて『クレイジーミラー』が切り離す。弾かれたように動き出すウーニャと未明を睨め付けるDJの前には、既に吾郎たち数名が防御態勢を確立させており、庇うに十分すぎる状態。奪い返すのは絶望的だろう。 「Haッ、ダンスホールで世界とDance出来ない奴らじゃとんだ興ざめだぜェ……最高のダンスナンバーで散りなッ!」 「今夜はアンタの一番好きなナンバーでいいわよ。――だって、アンタが最後に聞くヤツになるんだからサ」 ダンスナンバーは、ウーニャを中心として炸裂する。それを庇う拓真、未明、吾郎を次々と打ち据えるものの、彼らの誰もが確実な不利を被っていなかったことも幸いし、その被害は大きくはない。それでも甘受できるレベルではないが……彼ら全員が通り一遍に受け止めたわけではないのが、ある種の幸運であったとも言えるだろう。尤も、それは彼らの修練が引き寄せた当たり前の奇跡に過ぎないのだが。 DJに毒づいたまま、鋭く鋼糸を繰り出すおろち。黒光を纏ったそれがDJの頭部で眩く爆ぜ、反撃の狼煙を上げた。 ●Dramatic Joke 「さんざん待たされた分、一気にやってあげるのですよ……こうですか、ネッ!」 大きく引き絞った右足を、ダンスホールの床で削りながら長く長く振り上げる。DJ機材が無い中、天火なりに彼をリスペクトし、模倣した斬風脚が空中で本家のスクラッチと激突する。そのせめぎ合いは寸暇として続かず、天火の模倣に軍配を上げる。 「こっちは体力有り余ってんだ、全力で行くぜ!」 大型の刀身を一切気にすること無く放たれる吾郎の斬撃が、DJをなぎ払う。 「私には真っ直ぐ叩きつける以外、選択肢がないのでな。思い切りやらせてもらおう」 「私も、回復だけじゃ踊り足りないのよね。最高のナンバー、刻んでくれるんでしょ?」 「ッの、言いたい放題甚だしいぜall baby……!!」 マリーの全体重と膂力を載せた渾身の一撃が機材ごとDJを叩き伏せる。倒れかけた彼を打ち上げるのは、ウーニャのブラックジャックだ。ダンスナンバーを放ち、僅かな隙を衝くように駆け抜けた風は、背後工作に回っていた雅の巻き上げたそれだ。その勢いを一気に叩きつけるように、彼はDJに一撃を浴びせ―― 「それとも、時代遅れのクラブなんか潰れても構わないのかしら? 違ったのならごめんなさい」 視界の端に身を躍らせた未明の連撃により、完全な沈黙を呼び寄せたのだった。 同日、午後六時。 アークの処理班が続々と現れ、封鎖を始めるそのダンスホールを眺め、リベリスタ達は静かに目を伏せる。 世界の悪戯は、旧時代の残り香を腐敗させて締め出した。何時の日か、そんな時代もあったのだと、笑いあう余地すら消し潰す、諸行無常がそこにはあった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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