● 「……まあ要するに、疲弊していたってことなんでしょう?」 場所はブリーフィングルーム内。何れ来るリベリスタ達のために、予見した情報を纏めている津雲・日明(nBNE000262)の横で、齢二十を些少すぎた程度の女性が、テーブルに顎を乗っけている。 異様に長く、また関節の多いストローを介して紙パックジュースをじるじると啜る姿を見るだに、どう見ても生活に疲れた熟女とか、その辺のイメージを受けるのだが。 「んー……何かこう、違うんだよねえ。マンネリ感? 命掛かってるんだけど、一言で言うならそんな感じ」 「やあ、大物の風格を漂わせる台詞、有難う御座います」 ブリーフィングの邪魔者に成るであろう彼女にも淡々と返事を返す日明であるが、その実彼女の気持ちも測れていないわけではなかった。 兎角、ここ最近のアークの忙しさは比ではない。 件の『楽団』をぶっ倒してから現在。合間合間にバレンタインだの南の島だのの小休止こそ有りはしたが、実質バロックナイツの三人を立て続けに相手取っての戦争の連続である。 より正確に、何が言いたいかというと――今現在のアークは、自身等より遙か格上の相手と戦うことが当然に成りつつある、と言うことだ。 其れは感覚の慣れというより、麻痺に近い。 退けば死ぬ。前に出ても大凡死ぬ。 それを当然と思うことは、即ち死を許容しつつあることと同義である。 「……カウンセリングでも受けてみては?」 「戦場にも出てない甘ちゃんに何が判るんだよう。ちぇー、フォーチュナは良いよなー」 「いやあの、僕ら未来視の度に大概犠牲者が殺されるシーン見てる分、精神的負担はあなた方より結構キツいんですが」 器用にも机の縁に乗っけた顎を身体毎ごーろごーろと回す女性に対して、日明は冗談交じりに言ったものである。 「其処まで言うなら、本当に一辺死んでみたりとか、どうですか」 「んん?」 「いえ、比喩ですが。バンジージャンプとかで臨死体験するとかもテレビでは稀にありますよ?」 「……んー」 女性はその言葉を皮切りに、ぴたりと言葉が止まってしまった。 日明もそれで会話は終わったと考えたのだろう。何かを思索している女性を部屋の隅っこに移動させた後、やってきたリベリスタ達に依頼の説明を開始する。 少なくとも。 この日は、そんな感じに平穏だったのである。 ● で、後日。 「……えー、あるリベリスタが自殺します」 開幕早々不穏当な台詞を堂々と言いやがった日明に対して、ルーム内のリベリスタの動きが停止した。 「……止めてこいと」 「まあ、自殺自体は放っておいても良いんですがね」 「良くねえよ」 「自殺する場所というか、シチュエーションが問題でして」 「聞けよ」 何かもう半分投げやりになりつつ説明する日明に対して突っ込むリベリスタ達だが、其処で発された言葉に初めて首を傾げた。 「……一般人とか、巻き添えにするのか?」 「いいえ」 「誰かに殺して貰うとか」 「そんな婉曲な方法取りませんよ。あの人」 どういう人物なのだというツッコミはさておき。 「東京のスクランブル交差点でワールドイズマイン使用した後に自分の首目掛けてラストクルセイドするだけです」 「おい」 「……割と緊迫した事態だって、判りました?」 凄え不承不承ながらも、頷いたリベリスタ。 「要するに、そのリベリスタが『一般人に神秘を露呈する形で』自殺するのを防げと」 「まあ、言うだけなら簡単なんですがねえ……」 「……何だよ」 「彼女の思想に共感したリベリスタが居るんですよ。20名ほど」 「は?」 先日の、日明と件のリベリスタによる会話を知らぬ彼らからすれば、それは唐突な言葉であった。 「皆さんにとって、リベリスタって何だと思います?」 「……崩界を防ぐ人間」 「まあ、大きなくくりとしてはそれで合ってます」 一先ずは頷いた日明が、其れを訂正するように二本の指を立てた。 「僕個人の意見ではありますが、リベリスタというのは大きく分けて二つ。『崩界を防ぐ人間』と、『崩界を防ぐ手助けをする人間』の二種類に分けられます」 「……それ、何か違うのか?」 「前者がエリューションやフィクサード相手に切った貼ったする実働、後者が危ないことには関わらない裏方と言った所でしょうか。 皆さん、『リベリスタになったなら常に命を賭けて化け物と殺し合いしてこい』って、志望する人全員に言えます?」 無茶な話である。 当然の如く首を横に振った彼らに、日明もまた一度頷いた。 「戦う力はあっても、それに立ち向かう勇気はない。 けれど、ならばせめて別の形で、戦う人間のサポートをしたい。そういうリベリスタは、様々な人種の坩堝であるアークに於いては少なくありません」 「……」 「が、そうした彼らの意志を見事に折ってくれた者が二人ほど」 言うまでもなく、バロックナイツに於ける『指揮者』と『軍人』の二名である。 一人は実際にアークに攻め入り、もう一人は間接的と言えどもアークの『第二の拠点』を制圧、あわや先の本部襲撃戦の二の舞となりかけた事態を引き起こしてくれた輩だ。 「まあ、危ないことは全部戦闘方のリベリスタがやってくれる、なんて都合の良い期待はせずとも、身勝手にも信じてはいたんでしょう。皆さんがいれば、この場所は安全だ、と」 「が、それが確実ではないことも知ってしまったわけで」 「其処を、先にも言ったリベリスタさんがたぶらかして連れ去りました」 どちくしょう。 増えた厄介事に頭を垂らすリベリスタに対し、日明はやんぬるかなと言った体で資料をぺらぺらと捲っていく。 「具体的な情報ですが、首謀者であるリベリスタは高いレベルの攻撃型クロスイージスです。 対し、ついて行ってる20名はレベルが低い者が大半。が、種族やジョブが多彩すぎて、放っておくと確実に面倒です」 「……先に、そいつらを全員倒す?」 「まあ、それが確実です。フェイト少ない人も居るんで、死者も少なくはないでしょうけど」 ……難しい話である。 結局の所、彼らの自殺の原因は自分勝手な考えが否定されたことの怒り。ある種の自業自得と変わらない。 が、その反面『何よりも守るべくは、戦う力を持たぬ者』と言う微かな思いこみが、今回の件を巻き起こした事も、また事実である。 「説得による阻止、実力行使で止める、若しくは……まあ、彼らの本懐を遂げさせる。好きな方法をとってください」 歎息混じりに頭を下げた日明に対して、リベリスタ達は渋面を隠さぬ侭、ブリーフィングルームを退出していった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月14日(月)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 早朝の冷え込む空気が一同を刺した。 吐く息が白いとまでは言えずとも、それでも秋も深まる時期に於いては差し込む陽光の温かさより気温の低さが目立つ。 ――その、最中。 「おー、来た来た。ども」 リベリスタ達が路上に積み上げた障害物を前に、件のクロスイージスは停めた車の前で、悠々と煙草を吸っている。 『止まった』のではなく、『停めた』。 その意図を知る一人、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は、嘆息混じりに頭を掻いた。 「日本は大好きなんだけどなー……この自殺文化だけはち~~っとも理解できん」 視たくないモノを見ない、と言う真似が出来るほど、大人であることを拒絶した彼は、構えた剣を未だ無傷な車に振りかぶろうとする、が。 「……ッ!」 向かう20名を見て、彼はその構えを解いた。 力量の無い彼らを屠る事は簡単だが、少なくとも今現在に於いて諸共に斬る気はない。 「ああ、まったく、ふざけやがって」 次いで吐き捨てたのが、『ディフェンシブハーフ』 エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。 精悍な顔立ちを苦々しげに歪め、怯え、惑う相手を前に、彼は堂々と宣告する。 「まずはリベリスタとして言わせてもらうが――死ぬなら死ぬで、なぜそんな場所でやろうとしてる? 何人がソレを見ると思ってるんだよ。ごく普通に生きてる老若男女が、突然そんなグロ映像を強引に見せられるとか」 「ああ、それ」 ケラケラと笑う女性は、気軽な質問に答えるかの様な体で返す。 「そうしないと、来ないじゃん。アンタら」 「は?」 「大方はあのフォーチュナ君から聞いたでしょ。 私は単に目立ちたがりの自殺志願者じゃなくてえ、私が無くした『理由』を持ってるアンタらと、話がしたかったのよ」 ……開いた口がふさがらない、とでも言おうか。 ならば普通に聞けば良い。問えばいい。それをわざわざこれ程婉曲的な、且つ傍迷惑な手段で為すその思考に彼の理解が及ばない。 だからこそ、だ。 本質的に、掛け違ったボタンが、完全な形で直されることは無いのだと、この時、誰もがそれを知る。 「……死にたいなら死ねばいいんじゃない?」 それを、さも当然のように言ったのは、『魔性の腐女子』 セレア・アレイン(BNE003170)だった。 「リベリスタをやってきたなら、多かれ少なかれ、死にたくないのに死んでいった人を見てると思うの。 それでも死にたいってなら別にいいわよ、勝手に死ねばいいし。自分でできないってなら殺してあげてもいい『けど』」 逆接で閉じた言葉。 言いたいことはエルヴィンと同じく。ルールを破り、他を害してまで為す利己行為に移るというのなら、止めぬ理由は僅かにもない。 「あー……なんだっけ。その年でコスプレキャバクラとかやってるイタい人。 うん、まあ別に私は止めても良いよ。止めて欲しくないのは『彼ら』の方だし」 女性は何処までも淡々としている。 死生観を捨てた。そう情報にあったとおり、その瞳は歪んだ闇を湛えたまま、僅かにも精彩を取り戻す気配はない。 「……彼ら?」 視線の先にいた、元リベリスタ。 群れながら、覚束ない手つきで武器を構え、そして前を見据えた彼らに対して、声を上げたのは『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』 星川・天乃(BNE000016)。 「甘えるな」 決然とした声。響く其れに怯える者は少なからず。 「家族を、友を、恋人を、見知らぬ誰かを、世界を護りたかった、んでしょう? 力があり、護る事を選択した時点、で相応の覚悟、は必要」 「……その力を振るう覚悟がないから、こうして逃げたんだよ、俺達は」 其処で、気付く。 彼らは笑んでいた。 震えて、縮こまって、それでも武器を片手に、汗を流しながら、平静を取り繕うように、笑んで、笑んで、笑んで。 「警察署の事務員は、殺される覚悟が必要か。 自衛隊の売店員は、殺される覚悟は必要か。 アークに所属したと言うだけで、俺達は常に死を覚悟しなければならなかったというのか!」 ――天乃の間違いは。 彼らをあくまで『リベリスタ』として見ていたことだ。 彼らは確かに事実上力を有している。だが、其れを振るう意志がない。勇気がない。 だから、一般人でも出来る役割に付く事を選んだ。 『一般人』として、生きることを選んだ。 方向性のずれた勧告に、一層追いつめられた彼らが、緊張の糸を切るより、一瞬早く。 「戦う理由なんてまあ人それぞれですが、私の場合はそれが任務であるからとか。 そういう義務はまず当然として……根底にあるのは明日を生きる為にですね」 鈴を鳴らすような、怜悧な声。 『デストロイド・メイド』 モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が、身長のある他の面々からひょこりと顔を出せば、眇めた瞳で彼らを眺めた。 「なので生きる意思の無い、戦う先に何も得る気の無い人間と戦うのは虚しいと言いますか……。 こちらとしても何の価値も見出せないのが辛いですね」 救う価値も無く。 守る価値も無く。 殺す価値も無い。 余りにも近しく、故にどうしようもなく突き放されたその言葉に、彼らが微か、気圧される。 「ぶっちゃけわざわざ殺してやる程の価値も無い相手ですが、 無関係な一般人に彼女個人の『死の責任』を押し付けられるのもアレですからね。 貴女の死生観への回答はこの弾丸だけで十分です」 「わーこわーい」 出した幻想纏いの得物をぴたりと定めたメイド服の童女に対し、女性はあくまでも笑うだけだ。 無機的なそれに対して、何者が浮かべる言葉など有りもしない。 其れは、敵も、味方も。 自己も、他者も、また。 「リベリスタやってると人を殺したり、一般人が犠牲になるのを見ることもあるからなぁ」 ――殺気の満ち始めた戦場内で、『遊び人』 鹿島 剛(BNE004534)が、何処か疲れたような苦笑を浮かべた。 恐らく、この中でアークに就いてから最も所属歴が浅い彼は、「でもさ」と一拍を置いて、自らの意見を繋げていく。 「リベリスタの適正ってさ、戦闘や知識だけじゃなく、理不尽に耐えられるってのもあると思うんだ。 ただ、そんなの誇れることじゃない。理不尽に耐えれるって感覚がマヒしてることに近いしな」 「自虐的だねえ」 思想は誇れなくとも、其れによる結果――他者を救う、悪を害するという行為を咎める者は誰が居ようか。 けれど、彼は其れを一つの歪みだと言い切った。 自らの一部を、間違っていると肯定した。 「だからリベリスタに向いてないことは悪いことじゃないんだ。絶望して自殺する必要なんかない。 頑張ってステルスでも覚えて、一般人に紛れて暮らせばいいんだよ。死ぬ必要なんて無いだろ?」 ――それまで否定の型から入った他のリベリスタに対し、剛は彼らを肯定した。 同情もなく、共感も出来ないが、少なくとも剛の中で彼らは『悪』では無かった。 だから、 「……おいきなさいな」 脈絡のない言葉を浮かべたのは、女性だった。 「迷ってる奴は。惑ってる奴は。それだけでアンタらには未来があるよ。 ……一応聞くけどさ。投降者は皆殺しなんて容赦ないこと、まさかしちゃあくれないよね?」 「任せとけ。なるべくお咎め無しになるよう、オレ達からも時村司令に頼むからサ」 質問に対し、快活な笑顔で応えたのは『てるてる坊主』 焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)だった。 説き伏すことも、喝することもなく、見届けるだけに終始を通した彼。 其れは――真の意味で生者足る者を、見定め続けたが故か。 「さーて、うちの役立たず共を退かした所で、そろそろ拳の語り合いってやつを――」 「……一つだけ」 幾名かが、離れていく。 その最中で、問うた梶原 セレナ(BNE004215)は、躊躇するような瞳で、けれどハッキリと、一つ一つ言葉を紡ぐ。 「私も……アークに来てから1年弱ですが、辛い思い出もありますし、人を助けたって実感が、そこまで多いわけでもありません」 「で?」 「一歩間違えれば、私も貴方のようになっていたかも知れない。そう仮定しても、思うんです。 それでも、崩界に荷担する形で死ぬことは間違いだと。……貴方は、どうなんです?」 ――僅かの、静寂。 その後に笑った彼女は、少しだけ強めた語調で、一言。 「その一歩、大事にしときなさい」 ● 相対した数は8と13。 戦場を見回した女性は、感嘆の声と共に呟く。 「結構減ったわねえ。意外」 「聞くけどよ。本当に良いんだな?」 んー? と視線を向ける女性に対して、エルヴィンが問うた。 「死んだらゼロ、そこで終わりだ。 だから、死なせない為に戦うし、死なない為に強くなる。 あんたはなぜ戦ってた、強くなった?」 「……見解の相違ねえ。アンタがゼロって言うのはその者の人生のこと? 私はそうは思わないけど。例えば今日、この場に於いてもね」 「何を――――――」 瞬間、 女性の立っていたコンクリートが、爆発する。 跳んだのだ、と理解するより早く、舞う双盾。 縁がエルヴィンの頬骨を砕くより早く、モニカが撃ちはなった弾丸にまともにかち合った女性が宙をぐるりと回り、その刹那の後に踏み込んだツァインが剣を叩き込む。 「痛ったあ!?」 無理矢理地に落とされた女性は、それと同時に地を離れていた。 翼の加護。ホーリーメイガスの喚ぶ神秘の羽が敵一同を虚空に起こせば、それと同時に一同が動いた。 「オッケー。こっからは容赦無しで行くわ。取りあえず其処の金髪とロリは殺る!」 「全部諦めた奴が戦ったりできるかよ……いいぜ、何度でも掛かって来いよ!」 双方の交錯を機に、場の全員が動いた。 「さあ……踊ろう?」 天乃が番えた魔力鉄甲が、音を超える速さで咆哮を上げた。 只の事務方であり、戦闘訓練など碌に積んでいない者が耐えられる攻撃でもない。 まともに受けた頭が果実の如く弾け、臓腑が生ゴミのように辺りに飛び散る。 ブラッドデッドエンド。その名に等しく周辺を地獄に変えた天乃により、双方の数の差は完全になくなった。 否、そう理解するよりも早く。 「悪いけどあたし達アークは」 掻き鳴らす光鎖の音が舞えば、 「――容赦なく殺すのよ?」 臨む者は悉く死に絶えた。 チェインライトニング。マグメイガスの初歩足る魔道をしても、セレアほどの力量となればモニカに次ぐ高火力をたたき出す。 およそ大半が死に絶えた。 生き延びた者も、それはフェイトを介しての回復が原因である。その耐久力は、防御力は、元よりアークの一線級に叶う代物ではなかった。 「――――――ッ!!」 可能な限り、殺したくない。 そう思っていたフツが、ツァインが、セレナが、剛が、何も言わず目を伏せた。 何時かは、仲間として言葉を交わした彼らが、敵となったためにでもこうして害することに、何の思いが無いとも言えないが。 「……否(いえ)、それすらも」 自らを正義だと、思いたいが故の欺瞞でしかないのか。 首を落としたセレナの肩を、剛が支える。 ただただ、前を見ていた彼が投げた神秘の閃光弾に、彼らが眩む。 それだけだ。ダメージはなく、ならば今更戦意が緩むはずもない。 だから。 「では、お得意の神秘掃除をば」 次いで、モニカが放ったハニーコムガトリングが、カタチある彼らを只の肉片に変えた。 彼らが弱かったわけではない。 リベリスタ等が強すぎただけだ。殊に、高火力を誇る後衛陣に一切の躊躇がなければ、尚のこと。 残っている者は――投降したものを除けば、一人だけ。 「……んー、これは酷い」 女性は、未だ笑っている。 自らが先導した仲間の死体を見ながら、それでも。 「……あァ、お前さんは、本当に」 ――壊れちまってるんだな。 フツが、悲しそうに彼女を見た。 生に飽いて、死に飽いた。 それだけの話。誰もが、ほんの僅か抱く、些細な綻び。 其れが解け、穴となり、ココロを飲み込めば――残る空虚な抜け殻こそが、今の彼女なのだろうか。 解らない。解らない。フツには何も。 ただ、出来ることは。 「……っと!」 身を縛る呪印に、女性が声を上げた。 封縛の紋を象ったフツにより出でた隙。それを逃がさじと近づいた天乃が、次いでその身を打ち砕いた。 血液が爆ぜる。 為した魔力が、発した膂力が、一点に撃ち込まれる。 「弱くても、束ねれば……多少相手、が強くとも…こうやって追い詰める事、は出来る」 「……」 「私だって、強くは無い。 だからいつも……アークはこうやって、強敵を倒してきた。それは、貴方達だって、知ってるはず」 「そうして、やがてそれが叶わない相手がやってくる?」 「……」 嘗て、共に戦った仲間は、笑っている。 淀んだ顔で、堕した顔で。 「明日を信じる希望なんて、今更私に望むとか、ちょっと根が良すぎね、アンタ」 「お喋り、が過ぎた。 さあ、弱くて強い、敵よ……続き、踊ってくれる?」 「はいはーい」 言葉と共に、解かれた封縛。 次いで、顔を捕まれた天乃が、其の手を起点に噴き出した光輝に顔面を灼かれた。 ファイナルスマッシュ。体力の大半をごっそりと奪われた天乃に対して、エルヴィンが朗々と声を上げながら回復を為す。 「見解の相違ってのはどういう意味だ!?」 「ん? ああ……」 天使の息が灼かれた顔面を修復する最中も、女性は前に立つツァインに得物を交えている。 「言葉通りじゃない? アンタはその個人でしか人の生き死にを語らない。 私はそう思わないけどね。意志を継ぐ者が居る。遺志を掴む者が居る。今回の事件は必ず誰かのココロに届くよ。そうして――アンタらはまた、第二の私達を殺しに来るでしょうね」 「……っ!!」 怖がりは、一人じゃないよ。 子供のように、笑って、笑って。 言った彼女の盾を、がしん、と弾く音がした。 「……お?」 「ベテランの……しかもクロスイージスのくせに……!」 相手はツァインである。 何やら理解しがたい激昂と共に盾による一撃を受けた彼は、衝撃で軋む骨を気にもせず、絶叫と共に攻撃を返した。 「大体盾の使い方がなっちゃいねぇ! いいか、盾って言うのはなぁ……」 「いや、ちょっと待」 すかさず防御に回そうとした盾だが、それは未だにツァインによって抑えられている。 もう片手の盾も、彼の剣によって動かせない。 ならば、当のツァイン自身はどう攻めるのか、と言うと。 「なんだってできるんだよぉぉぉおおッ!!!」 大きくのけぞった後からの、渾身のヘッドバット。 頭蓋どころか脳まで揺らした衝撃に彼女が眩めば、 「それじゃ、覚悟は良いわね? 傍迷惑な自殺志願者さん」 「同情は別にしませんよ? 敬意を払えない人間には興味ありません」 ――残るは高火力筆頭の二人、セレアとモニカの二人のみ。 定められた武器を前に、女性はきょとんとした表情の後――からからと、笑って見せた。 「お疲れ。下らないおしまいだったね」 ――それじゃあ、『またね』。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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