●カチッと煎餅 とある廃村の古民家から、なんだか香ばしい香りがする。砂糖醤油が焦げた美味しそうな香りだ。 香りはどんどん強くなり、民家の窓やら門やらから大量の煎餅が溢れ出てきた。 煎餅の増殖はとどまることをしらず、ついには民家を破壊し、廃村を埋め尽くし、隣町を埋め尽くし、日本を埋め尽くし、そして世界を、宇宙を……。 ●そこまで行く前に誰か止めろよ、アークとか、アークとか、アークとか! 万華鏡が見つけたエリューションについて、予想される被害報告を聞いた一同は、ため息を吐いた。 「なんちゅう未来だ」 と誰からともなく呟いたが、このまま放置していれば、そんな終焉が待っている。 「今ならまだ煎餅の香りがしているかしていないかだ。食い止めるなら今しかない」 フォーチュナ『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)は、リベリスタの奮起を促す。 煎餅を作っているのはノーフェイスの老婆十人だ。 彼女達は、なんと一秒間に百枚もの煎餅作成能力があり、煎餅作りを邪魔すると激怒して、煎餅で攻撃してくる。煎餅を飛ばし、煎餅で殴り、煎餅で己を護る。 戦闘中も煎餅が増えていくわけだが、煎餅は砂糖醤油味で美味いらしい。 「場所は民家、今ならまだ戦闘するのも支障はない程度の煎餅しか作成されていないが、時間がたてばたつほど煎餅は増える。一刻を争う事態だ」 ノーフェイスが死んでも、煎餅は普通の煎餅なので消えはしない。 煎餅が世界を埋め尽くす前に、ババアの煎餅作りを止め、出来た煎餅を始末する必要がある。 さて何回煎餅と書いたでしょうか。 「……あと、キリエがついていくらしいから、よろしくな」 しかし、同行を希望しているという『口と手は同時』キリエ・ウィヌシュカ(nBNE000272)が見当たらない。 闇璃は白けた顔で続けた。 「奴は、戦闘に備えて腹を減らしておくんだと、ジョギングに行った」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月28日(土)23:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●煎餅ババアを、倒す前に、やっておきたい、ことがある 廃村の、朽ちかけた民家から、ジャラジャラザラザラという音と共に香ばしい醤油の香りが漂ってくる。 「ふむ……食欲をそそる良い香りだな」 『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)は、呟くものの、しかしそれは世界を破滅させる可能性のある危険な香りでありことも、わかっている。 「ババアの煎餅で地球がヤバイ!」 「ああ。だから、今! ここで! このババアたちは止めておかねばならない! 滅びの時を迎える前に!」 『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)と『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)のやりとりは、一見アホみたいだが、深刻だ。 「さあ、『お祈り』を始めましょう。お婆様黙示録――彼女達の怒りの日を食い止め、世界に救済を」 と両手を組み、彼女が信じる神へと祈りを捧げ、颯爽と進みかけた『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)を、竜一が止めた。 「待ってくれ」 「? ……何か」 「事前にやっておかなくちゃいけないことがある」 クソ真面目に竜一は言い、神妙な顔つきで、シィンや『興味本位系アウトドア派フュリエ』リンディル・ルイネール(BNE004531)、『口と手は同時』キリエ・ウィヌシュカ(nBNE000272)……つまり麗しき妙齢の女性のみの種族『フュリエ』に歩み寄った。 「これを」 ごそりと懐を探って、竜一が取り出したのは、ピンクの横縞がまぶしい、綿の下履き。 つまり……ッ! 縞パンツ……ッッ! 略してシマパン……ッッッ!!! (ドッギャーンッ!!!) 「……あほかぁあああああ!!!!!! ボトムの恥を晒すな!!」 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)が絶叫した。 お煎餅がジャラジャラ焼けていく音にも負けない音量で叫んだ。 「人は自分に理解できないものに対してすぐに排他的になる……」 「悲しそうな顔で、シリアスなセリフ吐いた所で、変わらんぞ!! なんでフュリエに持参したパンツを履かせる!?」 肩をすくめ、『これだから大人は……』みたいな態度をとる竜一に、ひるまない鷲祐。つよい。 「みんなの着用率によって俺のやる気が上下します」 「あ、私が推薦したピンクのシマパンにしたんですね」 ヒョイと竜一の手の中の下着を覗きこむと、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は満足そうに頷いた。 「他人のパンツでやる気上下するなッ。海依音は色の指定をするな! ……キリエは受け取るなっ!」 びくぅ。 鷲祐の叱責を受け、手にピンクのシマパンを持つキリエは肩を震わせた。 「だ、だって、皆の言うことはチャンと聞きなさいって、鷲祐ちゃんゆってたじゃん……」 確かに鷲祐は、キリエの初依頼の保護者役を買って出て、仕事をこなすための心得として仲間の指示には従うようにと伝えた。 伝えたが。世間知らずのフュリエには、聞かなくていいことと聞くべきことの差が分からなかったらしい。 「…………はぁ……。縞パンは、はかなくていい。ほら、他のフュリエも履こうとしていないだろ」 「最初から縞パンを履いてきました。ただし縦じまですがね!」 ドヤァとシィンが言う。 「言わんでいいッ!! 煎餅に辿り着く前に何文字使う気だ……」 戦闘場所に辿り着く前から、鷲祐は疲労困憊していた。精神的に。 「あのぉ……もう行ってもよろしいでしょうか……」 リリが遠慮がちに尋ね、海依音は平然と進みだす。 「はいはい、わしすけ君、いつまでも突っ立ってないで早く行きましょう。煎餅が溢れだしてしまうわ。キリエ君はよろしくね。いつもわしすけ君の面倒をみてくださってありがとうございます」 「にひひ、それほどでもにゃーよ?」 誰が、誰のっ!? とわめきたかった鷲祐だが、ふと見ると、既に皆、煎餅屋敷へと向かった後だった。一人置いて行かれた彼の足取りは、どことなく乱暴である。 ●絶対老婆黙示録 じゃらじゃらじゃら……じゃらじゃらじゃら……お煎餅ジャラジャラ。 座敷の真ん中で老女が十人集って、正座でどこからともなく煎餅を大量に放出している。 どうやって煎餅を出しているのかは神秘! 神秘です! 深く考えてはいけない。 「わぁ、何という物量のお煎餅……。戦いは数だって言うけど、度が過ぎます」 圧倒的な物量に、リンディルは呆然としつつも、翼の加護で全員を浮かせた。 これで煎餅に足を取られる心配はない。 「これ以上増やされると厄介だ。世界が煎餅で滅ぶ前に食い止めるぞ!」 アークフォン3Rを構え、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は叫ぶ。 「煎餅に抗う力さえもない人々を護る為にこの力はあるんだ。変身ッ!」 ピンポイントな人々のために、疾風は強化外骨格弐式[撃龍]を纏う。 「お年寄りには手荒な事はしたくないが、ノーフェイスになってしまっては他に手段がない。せめて一思いに倒す!」 叫ぶなり、疾風は老婆の一人へと殺到、振り上げたアームブレードが高速振動するなり、老婆の脳天へと落ちる。 が。 カイーンッ。 刃は煎餅に弾かれた。まるで手練の武士が、鍋の蓋で防御するかのように、老婆は煎餅でアームブレードを受けたのだ。 「!?」 「ふぇふぇふぇ、お若いの。煎餅作りの邪魔だよ」 老婆が笑い、よっこいせと立ち上がった。ドバアアと煎餅があふれる。 立ち上がった凶悪な顔の老婆ノーフェイス(見た目年齢八十歳)と対峙するリベリスタ一行(平均年齢三十一歳……思ったより若くなかった)。 ババアにジャラッと撒かれた煎餅が、リリとアーサーに当たった。 「お、おいしいです……。つい当たりに行きたくなるほどですが……」 しかし痛いことには変わりない。 「むぅ……これは……。う。うーまーいーぞー!!!」 テッテレー! アーサーの周辺に、謎の音を伴って、黄色地に赤の太い十六本の光条が22.5度で開く。 「砂糖醤油をぽたぽた、ぽたぽたと垂らしてあぶった煎餅だと見た。しょうゆ味と甘みのバランスが絶妙で後味はすっきり! 口どけもよくサクサクと軽い食感だ! 後味がすっきりするから飽きも来ないぞ!!」 グルメ王アーサーのゴッドタンが唸り、どこかの広告文のような感想を述べる。このリプレイは料理対決漫画ではないのだが。 「なるほど、楽しいお茶タイムが確約……と。さー、美味しい玄米茶もってきたので、頑張っていきましょ! さ、シィン君!」 海依音は魔法瓶を安全そうな場所に退避させておく。 「煎餅をできたてその場で処理ですね!」 シィンが言うなり、火球の礫が雨あられと屋敷内に降り注ぐ。 続けて、リリが業火の矢を老婆の頭上から降らす。 「お煎餅に罪はありませんが……」 魔法の炎が、煎餅を焦がし、炭化させていく。 「なにすんだい!」 お手製の煎餅を燃えるゴミにされ、老婆が激怒する。 「うお、ババアポカリプス……」 一瞬、ひるむが竜一は全身から湯気を出し、パンプアップすると、全力以上の力で巨大な蒼刀で老婆を薙いだ。 威力が巨大すぎて、周囲の煎餅がまきあがる。 オーラや砂塵ならカッコイイが、いかんせん煎餅だ。砂糖醤油のいい香りが巻き起こる。 「……お腹減るにょろーん」 キリエが呟く。つぶやきつつも、とりあえずババアをぶん殴るべく走った。 「そーりゃっ!!」 真っすぐ行っておもいっきり腕を引き絞ってぶん殴るっ。 「にゃっはぁ!」 上手く当てられて、ご満悦のキリエだ。 「脳筋ェ……。もやしばっかな自分達の中で、わざわざ近接やる度胸は凄いと思うですがね」 とシィンが呆れ半分感心しているキリエは、ババアに縦にした煎餅でぶん殴られて、涙目になっていた。 「んが~っ。のーみそ出る! のーみそ出た!」 「あーーーもーーー。お前は中衛から射撃していろ! 脳みそ出てないから落ち着け!」 ようやく追いついた鷲祐が側面から、ババアに無数の蹴りを浴びせた。 「出し惜しみはなしだ。蹴り貫くッ!」 「わしすけ君、遅いですよ!」 面で捉えるジャッジメントレイを放ちつつ、癒やさない系ホリメが叱責。 「率先して放っていったのは、お前だろ!!」 砕かれすぎて米粉に戻った煎餅のかけらを大量に鱗に挟みながらも、鷲祐は言い返した。 アーサーが、あうあうと涙目でふらふら中衛位置へ向かうキリエのために、聖神の息吹を発動させる。彼女のお陰で、全員の生命力がもとに戻った。 「なんだって、わしらの煎餅をめちゃめちゃにするんだい!」 部屋いっぱいに広がり、翼の加護のお陰で浮いている面々の足にすら届こうとしている煎餅を、竜一の烈風陣によって粉微塵にされた老婆が、泣き喚く。 竜一は悲しそうに畳を見つめた。 「俺もまた理解できないババアを排斥する側か……戦いとはなぜこうも悲しく切ないのか……。なぜなら俺もまた特別な存在だからです」 バタースカッチ依頼ではないのだが。 ともあれ、なんだかんだやっている間に老婆は半減した。 そりゃあ、『フリークス』だの『分身』だの『魔弾の射手』だの『マスタークラス』だの『聖痕』だの呼ばれるほどの実力者が集っているのだから、『煎餅を生産し続ける程度の能力』のババアなど、敵ではなかった。 ●ライスクラッカークリッカー パチンッと指をクリックさせると、リンディルの前方に炎の円が現れる。 ごうごうと焼けていく煎餅の上から、新たな煎餅があふれだし、前衛達を飲み込む。 もはや煎餅に溺れそうだ。疾風はベトベト砂糖で貼り付く煎餅を引き剥がす勢いで、電撃をまとい乱舞する。 「幾ら美味しくても限度はある!! ぷあっ」 顔めがけて、噴出する煎餅の雨あられ。 「一刻一秒たりとも無駄にはできん。竜一!」 老婆の体を蜂の巣にする蹴撃の嵐を見舞ったあと、鷲祐が叫ぶ。 「くっそ、ぶっ放すぞ! 巻き込まれるなよ!」 竜一は、老婆よりも煎餅を粉砕する方に手番を取られていた。 アーサーはせっせと前衛に力を分け与え続ける。そして無事そうな煎餅をつまみ食いしている。 「美味い……」 しみじみとアーサーは、おばあちゃんのお煎餅を堪能した。 「ノーフェイスでなければ、そして作る量が常識的であったなら討伐せずにすんだかもしれんが……今となっては仕方のないことか」 とはいえ、こんなに美味しいお煎餅なので、灰になりきる前に戦闘が終わって欲しいと願うアーサーである。 戦闘後のお茶会に、ババアの血がついていたり焦げたりしている煎餅は勘弁してほしいから。 戦闘中に食べる煎餅と、戦闘後のまったりタイムの煎餅はまた違うはずなのだ。とグルメ王は思う。 「……一つ何カロリーくらいなのでしょうか」 先日学んだの『カロリー計算』を試みようとするリンディル。 おそらく、一枚31.5kcal程度だと思われる。 「これは少し甘いお煎餅ですから、日本酒やビールと一緒にいくよりは、そのまま食べる方がよさそうですね」 リリは、熾烈な戦闘中も煎餅を生産し続ける老婆に、一種の神聖さすら覚えた。 一心不乱に煎餅を作り続ける『一つの心』は信仰にもつながる気がするのだ。 しかし、それはリリの信奉する神への心ではない。だから。 「灰は灰に、塵は塵に、お煎餅は炭に。食べ物を粗末にする罪、お赦し下さい」 「いい加減引退してくださいよ。やめ時って大切ですよ。見逃したらそのままいつまでもやっちゃいますよ!」 もはや匂いだけでもお腹いっぱいになりそうな海依音は、そう老婆に告げる。 だが告げる彼女は閃光を放っていて、彼女のうんざり顔は誰にも見えなかった。 「いやぁ、それにしても凄まじい煎餅生産力ですね。灰にしたって、消えるわけじゃないし……」 煎餅の灰やら粉やらで、まるで火事場だ。 シィンはため息を吐いた。一面のパウダースノーならぬ、パウダーライスとパウダーアッシュ。 しかし、燃やすしかない。シィンはフィアキィの力を借りて、激しく炸裂する火球を打ち続ける。 「っと、これで九人目……もうお煎餅は壊さなくていいんじゃにゃいかぃ? ……このままだと食べれるお煎餅全滅しちゃう……」 せっかくジョギングまでして空腹になったのだ。煎餅タイムは諦めたくないと、キリエは九人目のババアの眉間を撃ちぬいたあと、仲間たちに訴えた。 「そうだな。せっかく茶まで用意されているのだからな」 アーサーが頷いた。 他の面々とて、煎餅を食べるつもりは大いにある。 「それでは、火炎系は打ち止めですね」 リリがインドラの矢を撃つ構えを解く。 もはや最後の老婆とて瀕死だ。いくら自分の手番とて、煎餅を巻き込んでまで攻撃する必要はなかった。 「ならば、これで終わりだ!」 焦げ臭い匂いの中、疾風がアームブレードを始動。 ウィウィウィウィと機械的な音をたてて、羅刹の勢いのブレードが、かぶっていた護り煎餅ごと老婆を叩きのめした。 「ババア……なんでこんなことに……」 倒れ伏す老婆達を見下ろして、竜一は俯く。そっと煎餅の山から、少し焦げた煎餅を拾い上げ、一口かじった。 「ちっ、優しい甘さに醤油の味が染みるぜ。あまじょっぺぇや……でもちょっと苦いな……」 ●斬新な美アルパカの使い方 「それではお茶に致しましょう」 炭にした煎餅と散った老婆への祈りを済ませたリリが、無事そうな場所を見繕い、お茶の用意を始める。 海依音も隠していた魔法瓶を持ってきて、人数分のコップに玄米茶を満たし始めた。 シィンも民家を漁って見つけた座布団を、並べ始める。このまま座ると煎餅の欠片で痛いのだ。 他の面々は、食べても問題無さそうな無傷な煎餅を探す作業を始めた。 「本当に消えないんだな。キリエの好みの煎餅ってどんなのだい?」 疾風に尋ねられるも、キリエは首を傾げる。 「お煎餅っていろいろあるの? あたし、お煎餅っていうの初めて食べるから……」 「なるほど、キリエ様はお煎餅はじめてなのですね」 リリが微笑む。 「草加煎餅というものがありますよ。大好きなんですけど、結構当たり外れもあるんですよねー。海苔煎餅の海苔がふやけてたり、ザラメ煎餅が砂糖つけすぎで味が消えてたり、美味しいお店のは本当に美味しいんですけど! あと、ぬれせんべいっていうものがあって……」 リンディルがキリエに煎餅談義を始めた。 煎餅トークをくりひろげながらも、リンディルは持ち帰り用にも煎餅を確保していく。 「食べ物は大切にって習いました。食べ歩きの時に料理を残さないのも基本です!」 リリや海依音、シィンや疾風までも同じことを考えていたらしく、無事な煎餅はあっという間にリベリスタの土産となった。 残った汚れて食べられない煎餅は、鷲祐が連れてきた、桃色がかった金色の毛並みが美しい、誰もがはっとときめく美アルパカが食べていた。ちなみに女の子(はぁと)。 アルパカ・マドンナの斬新な使い方である……。 まさかアルパカも、煎餅を食わされる日が来るとは思っていなかっただろう。 「こんなんまともに食っていられるか」 「えー、そう言わないで、わしすけ君。これけっこう美味しいですよ」 「そーだよ、鷲祐ちゃん。これ、ちょーウマウマだよ! ウマー!」 海依音の言葉に、キリエがコクコク頷いた。 「――よし、なら早食い勝負だ」 鷲祐が茶の席に腰を下ろす。 そして、キリエを見下ろし、ニィと口端を上げた。 「この俺が負けると思うなよ!」 「むっ、言ったな!」 「一番のネックは歯での破砕……」 ぶつぶつ言いながら、鷲祐は煎餅の山に手を伸ばす。メガネが逆光で光る。 ガッと彼の手が煎餅を鷲掴んだ。 「拠ってっ! 歯によるアル・シャンパーニュにてっ! 完璧な破砕を以って食するッ!!」 どこまで速度を求める男なのか、司馬 鷲祐。とにかくスイカの早食いよろしく、煎餅を喰らっていく鷲祐。 「むごごごご」 「キ、キリエ様……ムリしないほうがよいかと……」 張り合うキリエの頬はハムスターレベルで膨らんでいる。 その隣でリリは、喉を詰めないかとヒヤヒヤしながら、お茶を用意してキリエを見守っている。 愉快なお茶会の手前では、老婆の死体の横で、もくもくとアルパカが煎餅を処理している。 ……名状しがたい状況だが、ともかく地球は煎餅に埋まることなく救われた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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