●エクリチュールの逆説 もしかしなくとも、こんな動物には、肉屋の包丁が救いになることもあるのだろう。 ●嘘をついたのは誰か? 〇月×日、夜、晴れ。 それは唐突だった。 あるテレビ局の受付として働く彼女は、今日も仕事帰りに居酒屋へ寄って、少し遅めの電車に飛び乗った。30代になって少し経ち、自分でも、精神面が街を歩く中年サラリーマンのそれに近づいていくことが理解できた。何駅か過ごすと、勤務中に態度の悪い社員に絡まれた苦い思いで増幅されていた酔いも収まってきて、最寄駅の一駅前で降りることにした。今日摂取した分の熱量を消費しなければ、保存されていくのみだ。 少し風があって、熱を帯びた体には気持ちが良い。歩いて正解だ。そう思った彼女の歩みは自然と軽くなった。 駅前の小さな商店街を抜け、大き目の片側二車線道路を渡り、住宅街に入る。10分も歩いてこの住宅街を抜けると、彼女の住むアパートがあった。 満月とはいかないが、大きく輝く月も評価が高い。天体を評価する自分の「立ち位置」に思わず笑みが零れ、彼女は笑ってしまった。 住宅街の中腹。住民達の憩いの場。子供たちの戦場。綺麗に整備された芝生の丘。 そこに埋没するかのような、奇妙な動物のシルエット。 彼女には最初、それが「羊」に見えた。山羊だったのかもしれない。どちらでもあったのかもしれない。 それがどちらであったのかは、もう分からない。 次の瞬間には、動物のシルエットも、彼女も影を残していなかった。 〇月□日、夜、晴れ。 少年は疲れていた。 自らが両親に頼み込んで通わせてもらっているスイミングスクールだった。理由は単純なところにあって、もちろん、仲の良い同級生が所属していたからであった。 まだ体も出来切っていない年頃の彼にはハードな練習ではあったが、それ以上に楽しみを感じていた。 送迎のバスの中でうたた寝していたところを運転手のおじさんに起こされ、バスを降りた。彼の家は一番遠く、送迎ではいつも最後だった。 気怠い体に気合を入れて、家まで向かう。今日の夕食は何だろう。 車両の転回の都合上、家の真ん前まで送迎してもらえないことが、彼には少し不満だった。この100 mもない距離だって、歩けばちょっとした労力になるのに。 もうすぐで家だ。そんな時に、ちょうど家の横にある公園に目がいった。 住宅街の中腹。住民達の憩いの場。子供たちの戦場。綺麗に整備された芝生の丘。 そこに埋没するかのような、奇妙な動物のシルエット。 彼には最初、それが「猫」に見えた。とてつもなく大きく、いや、あれは猪だったのかもしれない。どちらでもあったのかもしれない。 それがどちらであったのかは、もう分からない。 次の瞬間には、動物のシルエットも、彼も影を残していなかった。 〇月◇日、夜、雨。 その日は朝から雨だった。彼女は雨が嫌いだった。雨が降ると憂鬱になる。 雨が降っているというそれだけの理由で、大学をサボった。大したことではない。留年したって構うもんか、就職氷河期のこの時代に、就職しようって方が道理の通らない筈だ。 したがって、これは、戦略的留年だ。彼女はそう結論付けて、朝・昼・夕とずっと布団に包まって惰眠を貪った。 起きたのは、夜だった。日は沈んでいる。携帯の着信音で目が覚めた。 今日講義で配られたレジュメやらをコピーさせてやるからこっちへこい、という内容だった。別にこっちから頼んでも居ないのに、何故そんなにも偉そうな口調で、命令されなければならないのか。彼女は内心腹が立って、内心にやけた。まあ、行ってやってもいいか。 一日の惰眠に釣り合うような化粧なども一切せずに、カーディガンだけ羽織って外へ出た。まだ雨が降っていた。一度玄関を開けなおして、ビニール傘を取り出して、偉そうに呼び出しなんぞを喰らわせてきた友人宅へ向かった。 3Fから階段を使ってアパートの外へ出る。少し肌寒い。服装を間違えたな、と思いつつも歩き始める。 住宅街の中腹。住民達の憩いの場。子供たちの戦場。綺麗に整備された芝生の丘。 そこに埋没するかのような、奇妙な動物のシルエット。 彼女には最初、それが「犬」に見えた。もしかすると、狼だったのかもしれない。どちらでもあったのかもしれない。 それがどちらであったのかは、もう分からない。 次の瞬間には、動物のシルエットも、彼女も影を残していなかった。 ●ブリーフィング 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)からの報告を要約するとこういうことらしい。 「敵はE・ビースト、フェーズ2。一定の形状を維持せず、その姿形はその時折に変化する。確認されているだけで、羊・猫・犬の様相をした3つの形状が判明しており、その中でローテーションしていると考えてよい。住宅街中腹の公園に、夜、天候に関わらず出現する。一般人を巻き込まない配慮をした上で、この変わった形態を有するE・ビーストを処理して欲しい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月01日(火)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ダーウィンの回想(過去) 『友の血に濡れて』霧島 俊介(BNE000082)の場合。 「俺の過去は……、俺の、親も妹も友達も失くした悲しい現実」 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)の場合。 血塗れで殺された時の記憶。中流家庭の一般家屋。 全身から流れ落ちる血、呼吸できない程の壮絶な痛み、床に染み渡る一面の赤 それ以前の記憶は消失。 過去に何があったのか。家族は全員死んだのか。それを確かめるのも想像するのも怖い。 『黒刃』中山 真咲(BNE004687)の場合。 ボクの過去。 人を殺すためだけに業を鍛えて、それを何の疑問にも思っていなかった昔。 おとうさんとおかあさんが連れ出してくれなかったら、きっと今もそれを続けていたと思う。 ●住宅街の遺産1 アークのフォーチュナが幻視した未来。未集束の事象。しかし確定された事象。 顕現した悪夢は、突如として公園中央の丘に出現した。 「想うからそうなるのか、そうなるからそうだと想うのか。世界(エクリチュール)の命題は今日も難問を仕掛けて来るわけだ」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は使い慣れた自らのトンファーで軽く肩を叩き、まあ――、と続けた。 「そのパラドックスがどうであれ、倒すってことには変わりない」 その獣の姿は、リベリスタ達には『羊』のようなものに見えた。およそ人間に危害を加えるようには思えない容姿だが、その体躯だけは巨大で、明らかな害意を周囲へ撒き散らしていた。 「理解していない難しい事は、さっぱり解らん。さっぱり解らなくても、目の前に居る奴が倒さないと駄目だっつー事は解る。犠牲が増える前に、終わらせるよ それが俺達、リベリスタだ」 『友の血に濡れて』霧島 俊介(BNE000082)が不敵な笑みを口元に浮かべて言った。本能からただしくリベリスタであることが分かる潔い一言だった。彼はすぐさま公園内に結界を張った。 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)はその羊のような形態を目の当たりにした瞬間から、挟撃するための陣形を組むために行動を開始した。リベリスタの中でも高い俊敏性を有する彼はEビーストを囲みながらもにこやかな表情は崩さなかった。 (文才が無い奴でも、自伝だけは作れるっていうけど、自分の人生は自分だけのものだし、勝手に物語になるもんだし、納得だ) 羊のような敵を視界に収めながら浅葱はそう思った。 「形を変えるエリューションでございますか。 不思議な事もあるものですね。下手な擬態でもなさっているつもりなのでしょうか?」 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)は 精神を集中させ、その身に加護を身に纏っていた。 (いずれにせよ、何者にもなれないというのは、どこか歪で憐れでございますね) 異様なその姿に、リコルはその存在に対して、憐憫の念すら感じていた。無論、だからと言って手を抜くなど全く考えに無い。それを体現するかのように、神秘の闘衣がゆらりと靡いた。 『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)も自らのスキルを活性化させ、そのEビーストを見つめた。 「元は同一個体、しかし形を変えて迫る獣。この目に見える物が全てであり確定事象、だとしたら……。どうにも、奇妙な夜になりそうね」 その奇妙さは形態変化にある。形態変化の兆候さえ分かれば、攻撃の起点になり得る。スピカはじいと視線を遣った。 「わんちゃんだったり、羊さんだったり、猫さんだったり、なんだか忙しい動物さん。よく分かんないけど、これ以上悪さをする前にこらっーてしないとね!」 明るくも、努めて潜めた声で『チャージ』篠塚 華乃(BNE004643)が言った。華乃は光源を用意し、他のリベリスタ達の視界を確保していた。加えて、スピカ同様に目線だけは羊のような眼から外さなかった。ただし、その理由については、スピカとは異なっていた。 (だって、TVでやってたけど、動物は目を逸らした方が負けなんだよね? だから、逃げない、逸らさない!) 華乃は、ふんす、と気合を入れて、槍を握り直した。 「さてと、本格的な初仕事みたいなもんですし。しくじらねーように頑張らないと駄目っすね」 『野良犬、あるいは猫』九重・葵(BNE004720)は後衛としての役割を果たすべく、Eビーストからは出来る限り離れた地点に移動していた。その表情は涼やかで、仕草は淡々としていたが、リベリスタとしての戦場に、少なからぬ緊張をも感じていた。 緩慢とした羊の眼光が変わった。 周囲に渦巻く、リベリスタ達の気配を完全に捕えた。顕現した悪夢が、その意味を思い出した。 「異世界からきて、もしかしたら迷ってるだけなのかもしれないけど。 このまま放っておくわけにはいかないからね。 悪いけど、殺させてもらうよ」 その殺気に、リベリスタ達も構えを変えた。『黒刃』中山 真咲(BNE004687)も、その雰囲気に思わず笑みを浮かべた。 「それじゃあ、いただきます」 ●住宅街の遺産2 攻撃は唐突であった。 羊のような獣の視線がリべリスタ達を確かめた。そして、その視線の流れを追うかのように、青白く空間に浮かび上がった呪印がリベリスタ達を襲った。それはまさに人間の夢を喰らう悪魔の行為に違いなかった。 すぐさまリベリスタ達も動いた。この攻撃の被害を最小限に抑えるために、前衛で挟撃を行う。 夏栖斗と浅葱、リコルと華乃と真咲が、それぞれEビーストを挟み込む形となり、俊介、スピカ、葵がその後ろに着いた。ただ、前衛といえども、すぐさま近接攻撃を打ち込めるほどの距離にまで近づこことができなかった。Eビーストが他よりも高い位置に存在していることもそこに寄与していた。 浅葱の放つ瘴気が、Eビーストへと真面に着弾すると、大きな嘶きが公園内に響き、数多の呪印が舞った。 少なくとも、羊形態のエリューションには、物理攻撃が効くことは間違いないようだ。浅葱はそう考えた。 浅葱達は襲いかかる呪印を凌いだ。 「これまで何人殺した? これから何人殺す?」 許さないぜ。―――俺は殺しが大嫌いなんだ。 立ち上がった俊介は忌々しく呟くと、その邪悪な呪印攻撃を防ぐための神秘の盾を召喚した。この盾によって加護を受けた者は呪印の影響を圧倒的に軽減させる。己が夢を守るための盾と言い換えても良い。 「奪えるものなら奪ってみな! 俺の心を簡単に奪えると思うなよ!」 そのまま反撃とばかりにエナジースティールを放つが、これはむしろ効いていなかった。 「浅葱とカズトの言うとおり、羊には神秘攻撃は効きにくいみたいだ」 俊介の言葉に浅葱は軽く頷いた。また、同様に考えていた夏栖斗も自らの予想に対する根拠を得ていた。 「まぁ、こんな真夜中じゃ近所迷惑だし、とっととお休みなさい?」 前衛の間を縫うようにスピカの魔弾が音を上げてEビーストに着弾する。それ自体は決して有効にダメージを与えているとは言えなかったが、そうして止まった敵の動きに乗じて、真咲の柔軟かつ不規則な斬撃が淀みなく敵を襲った。今まで当初の位置からほとんど動いていなかったEビーストも、流石に少しの後退を見せた。 カン、カンと。トンファー同士が交じり合う甲高い音が公園に響く。 夏栖斗の挑発的なその音色にEビーストは苛立たしげな視線を遣り……。 次の瞬間、羊のような姿は、『猫』のような姿に変化していた。 ●ダーウィンの回想(未来) 霧島 俊介の場合。 「俺の夢は世界から神秘が消える事だ」 浅葱 琥珀の場合。 残虐な神秘や外道フィクサードが居なくなって 皆が平和に笑える世界になればいいよなぁ。 残酷な現実を消せないならば、それに立ち向かえる力を身に着けて 皆が笑える未来を作るっきゃないんだけどな! 中山 真咲の場合。 ……ボクの夢は、なんなのかな。今まで考えたこともなかった。 別に普通の平和な暮らしに戻りたいとは思わないし。 強くなりたいっていうのも、夢とはちょっと違うしなぁ。 「……ねぇ、キミにはわかる?」 ●住宅街の遺産3 (ロールシャッハテストを思い出しますね……。そこに何かが描かれているわけではなく、ただのインクの染みであるかのようです……) その突然の変体に、リコルはそう思った。また、リコル同様、形態変化を見極めるべく注視していたスピカにとっても、その瞬間は捕えようがなく、変化の感知は厳しいようであった。 「間接的に表現される事象全般……、エクリチュールの哲学、ね」 スピカは呟いた。まさに『揺らぎ』を体現したかのようなエリューションであった。 猫のような姿は、先ほどまでの緩慢な様子とは打って変わり、獲物を駆る側の雰囲気を存分に漂わせていた。 「―――――!」 猫の鳴き声とも、猪の嘶きとも、どれとも取れない異質の咆哮が公園に響き、しなやかなフォルムが夏栖斗へと一瞬で飛び掛かった。それは、リベリスタ達の『現在』をも吹き飛ばしてしまうかのような壮絶な瞬発力であった。前衛として構えていたリベリスタ達は風に襲われたような錯覚をした。 夏栖斗はその鋭利な爪を正面から受け止めた。前衛としての役割が、いかなる敵であろうと彼に撤退を許さなかった。そして彼自身、そんな気も毛頭無かった。 「残念ながら、夢も今も過去も全部自分自身のものだ お前なんかに奪われてたまるもんかよ!」 そのままEビーストを押し返す。敵は空中で一回転し、音も立てずに美しく着地した。 「アシュレイちゃん、新しい武器使わせてもらうぜ!」 (とは言ったものの……) 夏栖斗は浅葱と同様の予想を立てていた。そして恐らくそれが正しいであろうことが羊形態時への攻撃で分かった。そうであるならば夏栖斗には本の少し分が悪かった。 夏栖斗は闘気を身に纏い、眼にも止らぬ武技を放った。それはいくらかEビーストへ直撃するが、やはり物理攻撃の効力は劣っているようであった。 即座に夏栖斗は考えを変えた。自らはダメージコントロールを行うべきであると。 「連携が大事ね、息を合わせて大ダメージを狙うわよ」 夏栖斗の考えを見透かしたようにスピカが言った。他のリベリスタ達もそれに頷く。 リコルも同様の考えであった。彼女は前衛の回復を行いながらも、その鉄扇を優雅に構えた。 「名も知れない不定形の君。 お相手願います!」 爆発的な攻撃がEビーストを襲う。其のうちいくらかは見事に躱されたが、Eビーストの猫のような鋭い瞳が忌々しげにリベリスタ達を睨んだ。 「難しいことはわかんない。でも、過去がなくなっちゃったら思い出もなくなっちゃうよね。 だから、僕の過去はあげられないし、僕の今も大切だからあげられない! おっきくなっておとーさん達でも受け止められない突撃をするっていう夢だってあげられないんだから!」 そしてリコルに続き、間髪入れずに華乃の槍がEビーストへ向かった。口調からは予想できないような、裂帛の気合の一筋である。 Eビーストは連続する物理攻撃を受け、思わず横に跳躍した。物理攻撃に対する耐性を有しているとはいえ、リベリスタ三人の熾烈な攻撃が、確実にEビーストを疲弊させていた。 しかし、Eビーストのその狩人のような残忍性と俊敏性が目に見えて弱まる訳でもなかった。挟撃していた夏栖斗、浅葱の方へと牙を向け、風が舞った。 その凄絶な攻撃を受け、俊介も己の術式を駆使し、味方の傷を癒していた。人の歴史を喰らうこのEビーストにあげられる過去も未来も今も、無い。俊介の腕に力が籠った。 そして、浅葱の対象に、その姿が入った。Eビーストの着地を狙って、彼の神秘攻撃が始まった。破滅を告示するカードが、Eビーストの頭上へ舞い降りた。 Eビーストはその不吉な違和感に気づき後ろへと飛んだ。 だが、そこは見事に葵の射程であった。猫のようなシルエットが、公園の芝生と一体となった瞬間、引き金が引かれた。葵は淡々とそのトリガーを引いた。 「卑怯かもしれねーすけど、ま。恨みっこ無しっすよ。―――さらば、倒れてうちのご飯の糧となれ」 神秘の魔弾がEビーストの腹部を捕え、そして、浅葱の予告した破滅は、一つの事象として収束した。 「―――――!」 大気を震わすその声色を形容する言葉を誰も持ちえなかった。怒り、歓喜、悲哀、そのどれもを含んでいるようで、また、何ら感情を合わせえない声でもあった。 その姿が朽ちる刹那、獣が見せた姿は、さて、一体どんな姿だっただろうか。 ●ダーウィンの回想(現在) 霧島 俊介の場合。 「俺の今は恋人や友達と一緒に今を必死に生きる事」 だがそれ全てがあるからこそ俺というものが成り立っている訳で。 それが俺のエクリチュールの逆説。 悲しみも苦しみも夢も過去も今も飲み込んでやる。 浅葱 琥珀の場合。 0から出発だからこそ手探りで一つ一つ積み重ねている。危険もあるが刺激的で楽しい日々。 リベリスタ人生も悪くないな―――。 中山 真咲の場合。 アークにやってきて、とっても強い味方と、それ以上の敵を知って。 それでも結局、戦いの中に飛び込んで殺し合いをしている―――それを楽しんでいる。 ●幸福の定義 形態変化を有するEビーストを撃破し、葵は大きな深呼吸をした。淡々と仕事をこなしているように見えて、これがEビーストとの初めての実戦であったのだから、内心の緊張はかなりのものがあって、今になり、ようやく実感が湧いてきた。 (ま、やっていけそうっすかね……) 葵のその様子を見て、夏栖斗は後ろから軽く葵の背中を叩いた。先輩リベリスタの気遣いに、葵は本の少しだけ口元を綻ばせた。 横に立つ浅葱は微笑した。この微笑は気遣いの微笑ではなく、本来の笑みだった。そして、羨望でもあった。 (過去が消えちゃった俺でも、物語は作っていけるのかな?) 過去の無い自分。しかし、明けない夜は無いように、誰にだって等しく未来は訪れる。 訪れた未来が積み重なって歴史となる。現在を生きてさえ居れば、きっといつかは。 これから活躍を果たしていくであろう新しいリベリスタの仲間を見ながら、やはり浅葱は笑った。 「公園はみんなのもの 戦場は派手な損傷厳禁……と思っていたのだけれどね」 スピカは、はあ、と軽く溜め息をついた。結局は遊具のいくつかには戦闘の余波でボロボロになってしまっていた。特に猫がいけなかった。 真咲と華乃、そしてリコルは公園内の片づけをしていた。アーク処理班に任せればよいのであろうが、特に前者の二人には、それは自らの責任にも思えた。 「元はどのような動物だったのでございましょう?」 リコルのその問いかけに、真咲と華乃は、うーんと首を捻り、あれは。これはと相談を始めた。 弔いと謝辞。 その両方が内包する感情が謂わば正反対の性質を有するかどうかは、現時点では分からないであろう。 「我思う故に我ありって所? デカルトだっけ? この世で『最も確かなこと』なんてないのかもだね」 夏栖斗のその言葉に、俊介は「難しいことは分からないな」と苦笑した。 「結局は思い込みなのかな。犬も猫も羊も、何者でもあって何物でもない。―――度し難いね」 俊介はその声を聴きながら、やっぱり難しいことは分からない、と内心で再度苦笑した。 だけれど、と思う。 (どんな敵が現れようと、血の赤色も、グロテスクな傷痕も、俺は全部修正する。それだけだ) 進化と退行。幸福と不幸。 リベリスタ達を取り巻く現生に救いが現れるのであろうか。 彼らの力によって『この世界』は一体どこまで広がっていくのであろう。 過去、現在、未来。 リベリスタ達が抱く各々の傷跡と意志が、エクリチュールの逆説となって、その胸に煌めき、より超越的なエクリチュールの開始を告げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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