● ――魔の本性を暴くとされる其の鏡は、人の中に潜むモノすら照らし出すという。 虚ろなる“ソレ”と対峙した時、人は覚悟を迫られる。 向き合い、そして打ち破れ。脆くも堅き、人の意志をもって。 ● 「今回の任務は、アーティファクト『照魔鏡』の破壊。 どうやら廃ビルに放置された鏡が革醒したらしいが、普通の方法では壊せないどころか、その場から動かすことすら出来ない。 少しばかり特殊な手順を踏むことになるんで、これからの話をよく聞いてほしい」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は詳しい説明に入る。 「この『照魔鏡』に触ると、一人ずつ別の空間に飛ばされる。 そこに現れるE・フォースとタイマンで戦って、過半数が勝てば晴れて任務達成」 相手となるE・フォースの識別名は『虚(ウツロ)』。 「能力的には、だいたいのところ『自分と戦う』っていう感覚で問題ないと思う。 ただし、一つだけスキルを追加で使ってくるから、その点ではこっちが不利だろう」 リベリスタの一人が「追加されるスキルに法則はあるのか」と問えば、数史は少し難しい顔をして。 「……そのあたりが、一番の特徴と言えるのかな。 こいつら――『虚』だけど、相手にとって“戦うのに覚悟が必要な”姿を取ることが多い」 武器を向けるのも躊躇うような、大切な人であるとか。 正面から向かい合うのに勇気を奮わねばならない、過去のトラウマや罪悪感を呼び起こす存在であるとか。 虫やお化けといった、単純に恐怖を煽るものであるとか。 一口に“覚悟が要る”と言っても、そこは様々だ。 「追加されるスキルは、『虚』の姿に応じたものになる傾向がある。 と言っても、漠然としたイメージに過ぎないからあまり確実じゃないけどな」 たとえば、革醒者の外見をコピーしたとしても、彼、あるいは彼女の能力を反映するとは限らない。力量を超えたスキルこそ使わないものの、まったく無関係の種族やジョブのスキルが追加されることも充分に考えられる。 「あと、もう一つ。『虚』が自分自身の姿を取った場合は、腹を括ってくれ。 このケースだと、敵の基本能力が上がる上、スキルも自分にとって都合が悪いものが選ばれる確率が高い。――ある意味、最も“覚悟”が要るパターンだろうな」 念を押した後、数史はリベリスタ一人一人の顔を見る。 「純粋な能力では敵が上回る以上、不利を埋めるのはそれぞれの“覚悟”だ。 気をしっかり持って、戦いに臨んで欲しい。皆なら、大丈夫だと信じている」 どうか気をつけて――と言い添え、数史は説明を締め括った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月02日(水)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 鏡の間で『虚』と対面した時、思わず立ち尽くしていた。 「そんな……やっぱり……やっぱりかよ……!」 『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の瞳に映ったのは、愛する娘の姿。 頼むから彼女の姿だけは写してくれるなという願いは、当然の如く裏切られた。 容易くこんなものを生み出す『照魔鏡』を、つくづく恐ろしいと思う。 それを破壊すべく、自分はこれから娘と戦わねばならないのだ。 残酷な仕打ちを呪いつつ、得物を抜く。 極道時代から愛用していた、今は“斬魔・獅子護兼久”と呼ばれる漆黒の刀。 「夏栖斗とだったら、幾分戦いやすかったんだがな」 軽口とは裏腹に、虎鐵の表情は冴えない。 戦気を纏い、娘の姿を模した『虚』に肉迫する。 破壊の神もかくやと思われる凄烈なる一撃が、華奢な身体を吹き飛ばした。 艶やかな黒髪と白い羽を揺らして、少女は床を蹴る。いつも通りの微笑みを、面に湛えて。 ああ、愛らしい笑顔じゃねぇか畜生――。 偽りの娘が繰り出したのは、魔の加護を切り裂く神気の十字架(ラストクルセイド)。本来であれば、彼女はおろか虎鐵すらも使えぬ技だ。 己の魂たる愛刀を振るい、己の世界たる愛娘と斬り結ぶ。 「くそ……くそ……!」 壊れていく。彼女に貰ったものが、心から抜け落ちていく。 殺さなければ。自分が死ねば、本物の娘が泣いてしまう。 もう、あんな泣き顔を見るのは沢山だ。 だから。俺は――××を、この手で。 「あ、あ……ああ……アアアア!!」 耳の奥で、ちりちりと運命が燃える音がする。 頬を伝うのは、何だ。血? 涙? 自分の? 彼女の? 分からない。分からない。 俺はただ、目の前の××を殺すだけ――この手で、世界を壊す時が来たのだ。 せめて、最期は笑顔で送ってやろう。 たとえ紛いものに過ぎなくても、殺める痛みは変わらない。 罪を、咎を喰らい、永遠に刻み背負い続けよう。 虚ろな心で笑っている己を、頭の隅で自覚して。虎鐵は、刀を振り下ろす。 愛する“世界”はどこまでも優しく、彼に微笑みかけていた。 命尽きる、その瞬間まで。 ● 己の形を写した『虚』を見た時、離宮院 三郎太(BNE003381)は「やはり」と思った。 今回の敵は、その者にとって“戦うのに覚悟が要る”姿になると云う。だとすれば、それは自身をおいて他に無いだろうと推測していた。 初めましてと言いかけ、思わず苦笑する。自分に対し、他人行儀になる必要がどこにあろうか。 「それでは始めましょうっ」 三郎太の宣戦布告と同時に、『虚』が駆ける。 外見も、動きも、何もかも同じでありながら、そのスピードは彼よりも数段速い。 圧倒的かつ鮮やかな一撃が、三郎太の体勢を瞬く間に崩した。 「……っ!」 幾重にも身を縛る状態異常に力を封じられつつも、三郎太は彼我の戦力を分析する。 『虚』が自らの姿を取った場合は腹を括れとフォーチュナは言ったが、なるほどその通りだ。 敵が用いたのは、加護を砕き、標的を自失に追いやるプロアデプトの技――アクセントブレイク。 自分に無い手札を持ち、あらゆる能力で自分を上回る相手を打ち負かすのは、困難を極めるだろう。 「すみません……この勝負、ボクは勝てないかもしれません」 唇を噛み、別の場所で戦っているだろう仲間に詫びる。 覚悟が足りないことは、誰よりも自分が知っていた。 それでも、三郎太は拳を握る。己を認識し、己を知り、己であることに誇りを持つために。 「……絶対に、次に繋がる何かを得ますっ!」 あえて間合いを離さず、真正面から『虚』に挑む。 守りたかった家族に拒まれ、流浪の果てに三高平を訪れた彼にとって、アークの仲間が全て。 より強大な敵を相手にしても、怯まず立ち向かう勇気が欲しかった。 先に待つ戦いで、もっと彼らの役に立てるように―― 『虚』の一打が、三郎太の鳩尾を抉る。 運命を燃やして立ち上がったところで、勝てる可能性はゼロに等しいだろう。でも。 ここで自分から逃げては、ずっと先に進めない。 「気持ちでは……負けたくないんです……っ!」 激痛を堪え、僅かな隙を突いて踏み込む。 最後の力を振り絞った拳に、確かな手応えを感じて。三郎太は、続く衝撃に意識を失った。 ● 「……まずいな」 幼さの残る顔に、苦い表情を浮かべて。鷲峰 クロト(BNE004319)は、眼前の『虚』を見詰める。 どちらかと言えば可愛い部類の、ミドルティーンと思しき普通の女の子。 “リベリスタとして守るべき一般人”を象徴するような姿は、敵と呼ぶのも憚られた。 「よりにもよって、こう来たか」 以前、似たような依頼を受けたことがある。今回も、相手にするのは自分のコピーか何かだろうと高を括っていたのだが――。 クロトの迷いを突くように、強烈な光が彼の視界を灼く。 かすり傷一つ与えぬ代わりに戦闘力を大幅に封じる、レイザータクトの閃光魔術。 後手に回ったクロトは身体能力のギアを上げて態勢を整えるも、反撃に移ることは出来なかった。 これが自分であれば、それこそ玉砕する覚悟で突っ込んでいける。 だが、相手は“一般人の少女”だ。手を上げるなど、到底考えられない。 「いいぜ、暫くお前の好きなようにいたぶられてやる」 ガードを解き、少女に向けて己の身を晒す。 そうでもしなければ、彼女を“敵”と認識することすら覚束ない。 たとえ、無関係な者を討つ覚悟を問われているのだとしても。 外見にそぐわぬ鋭さで、少女はクロトを追い詰めていく。 閃光弾で足取りが鈍ったところに、容赦なく追撃が浴びせられた。 このまま、倒されてしまうのだろうか――いや。 「俺はまだ……死ねない」 奥歯を噛み締め、傾いだ身体を支える。 二丁の“フェザーナイフ”を操り、クロトは初めて攻撃に転じた。 幻を纏う刃で少女の肌を切り裂いた刹那、時を刻む氷霧が彼を襲う。 紙一重で直撃は避けたものの、余力の差は如何ともし難い。 ここから逆転するのは、理屈で考えれば不可能に近いだろう。それでも、諦めるにはまだ早い。 運命を削り、よろめきながら立ち上がる。 理不尽な暴力に対しては、徹底的に抗い、戦うと決めていた。だから。 「――立ち塞がるなら、押し退けるまでだ」 ついに力尽きるその瞬間まで、クロトは決して勝負を捨てなかった。 刃持たぬ人々を守る、一人の“リベリスタ”として。 ● 実像と虚像が踊る鏡のフィールドに、弾丸が奔る。 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の闘いは、銃撃戦で幕を開けた。 冴え渡った水色の瞳が映すは、マスケット銃を構え、貴族の装いに身を包んだ金髪の美丈夫。 かつてフランス銃士隊で活躍したとされる、サン・ジョルジュ家のマスケティア――ミュゼーヌにとって母方の先祖にあたる“彼”こそ、彼女が敬愛してやまぬ英雄だった。 足を止めることなく、ミュゼーヌは弧を描くようにステップを踏む。 先祖の姿を纏った『虚』は、自分とほぼ同じ能力を有している。不用意に接近するのは、得策ではない。 魔力障壁で防いだ“彼”の弾丸がナポレオンコートの裾を掠めた瞬間、即座に引金を絞る。 針穴をも通す一射が“彼”を捉えた直後、その姿が不意に掻き消えた。 「――!」 僅かに目を見張ったミュゼーヌを、至近からの一撃が襲う。 20メートル超の距離を越える瞬撃の技――これが、『虚』の隠し玉か。 怯むことなく、彼女は接近戦を受けて立つ。 予定が少し早まったところで、己のスタイルを曲げるつもりは無い。 「さぁ……共にワルツを舞いましょう!」 高鳴る鼓動に合わせて、永久炉が唸りを上げる。極限まで弾速を高められた銃撃が互いの体力を削り取っていく中、ミュゼーヌは“彼”を凛と見据える。 家族と足を奪われ、療養の日々を過ごしていたあの頃。かの先祖の武勇伝が、心の支えだった。 武器など触れたこともなかった自分が、“この銃(マスケット)”を携え、射手として戦おうと決めた――それが、『覚悟の始まり』。 「……貴方は、私にとって偉大な祖だわ」 だからこそ示したい。貴方の子孫は、今も力無き者のため戦場を駆けていると。 数世紀を経てなお、誇りは失われていないのだと――! 鋼脚で床を蹴り、リボルバーマスケットの銃口で“彼”に接吻する。 螺旋の円舞にのせて撃ち出されるは、.60口径のマグナム弾。 「この身に流れる誇り高き血……それを、私がより一層高めてみせる」 囁かれた黒銀の銃声(誓い)が、戦いの終わりを告げた。 ● 『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)にとって、それは“完璧な自分”だった。 頭の回転が速くて、腕っ節も強くて、何でも格好良くこなせる。 だからといって、秀でた能力を鼻にかけたりしない。 優しく、思いやりがあって。持ち前のリーダーシップで、周りを引っ張る存在。 朗らかで、大人の落ち着きも兼ね備えているから、数え切れないほど友達が居る。 誰からも愛される人気者。――なんて、羨ましい。 どんな怖い化け物が出てくるかと思えば、待っていたのは“理想の自分”。 眺めているだけで幸せな、完璧すぎる『夢』を毀すだなんてとんでもない。 大体、覚悟なんかなくたってご飯が食べられれば生きていけるのだ。 だから。僕は邪魔にならないよう、ここに座って見ていよう。 思わず腰を下ろしかけた時、不意に“自分”と目が合った。 万人を魅了する笑顔を浮かべ、こちらを見下ろしている。 静かな殺意を秘めた視線が、伊藤を冷徹に貫いた。 「……糞、が」 刹那、胸が灼けるほどの怒りに駆られる。 理想? 夢? 馬鹿馬鹿しい。 そんなもの、所詮は妄想だ。どう足掻いたって、手に届きやしない。 傲慢で愚かしい、ゲロにも劣るソレに浸ってもがく僕を見て、お前は笑うんだろう? 「完璧なら斃してみろよ。薄っぺらな理想が、現実に勝てる訳ねぇだろ!!」 腹の底から吼え、“敵”に掴みかかる。 状態異常からの回復なんて、待っていられるか。傷を塞ぐ暇すら惜しい。 力の限り投げ飛ばし、捻り潰す。おまえを殺すまで、何度でも。 僕だって、やる時ゃやるんだ――! 雪崩の勢いで叩き付けられ、烈しい炎に包まれて。運命を削ろうとも、伊藤は攻撃を止めない。 それが、彼の『覚悟』だった。 どうしようもなく汚らしい僕が、誰より大嫌いで。 それでも、ここまで必死に生きてきたんだ。 あべこべの矛盾だらけでも――僕は僕が大好きだから。 「僕は僕だけのものだ。おまえなんかいらない! いらない! いらない!」 ありったけの拒絶を込めて、伊藤は“敵”を捻じ伏せる。 悪い『夢』は、これで終わりだ。 ● 覚悟と意志を問われるのは、これで何度目だろう。 “忘れじの君”を前に、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は唇を噛む。 虚ろという言葉から程遠い彼女を、『虚』に重ねてしまった自分はなんて度し難いのだろう。 いや。ここで誤魔化しても仕方が無い。顔を上げ、彼女を見詰める。 信じたくないという想いが、今もあった。 どういう形であっても、もう一度会いたかった。 “炎顎”と“炎牙”の柄を、両手で強く握り締める。 心に空いた虚ろな穴を埋められるのは、やはり彼女だけなのだと知った。 ――そう思うと、悪くない。 どこか満たされた気持ちで、“忘れじの君”に微笑みかける。 彼女が床を蹴った瞬間、夏栖斗も動いた。 背面に回って死角を突き、目にも留まらぬ飛翔の武技で紅き花を咲かせる。 それを迎え撃つ恋人の戦い方は、操る技は違えど生前を思い出させるには充分で。 舞うが如く長物を振るう堂々たる姿に、思わず見惚れた。 交わすのが命懸けの攻防であっても、暫くこうしていたいという想いに駆られる。 刹那、光が弾けた。 瞬時に展開された五重の残像(ストレートフラッシュ)が、ステップを踏んで夏栖斗に迫る。 彼は足を止めると、必殺の一撃をあえてその身に受けた。 このまま倒されてもいいと思う弱さを、胸の奥に封じて。夏栖斗は晴れやかに笑う。 「ありがとう―――僕はもう、ゆめから醒めなきゃ」 誰にとっても死は絶対で、去った者は戻らない。 一度きりの生を、彼女は全力で駆け抜けた。 彼女の死を否定することは、その生き様に泥を塗ること。 そんなことは出来ない。偽者の彼女になど、用は無いから。 集中を研ぎ澄ませ、一気に踏み込む。 “それ”を問われるたび、自分はずっと考えてきた。 強くなるため、誰かを救う力を得るための選択を続けてきた。 全てを救うことは叶わずとも、“それ”だけは決して負けたくない。 「僕の“覚悟”と“意志”をなめんな!! ……カッコ悪いのは、ここまでだ!」 虚空に咲いた鮮血の花が、“忘れじの君”に口付けを贈った。 ● 攻撃するのも、されるのも。自分を相手にするのは、どうも妙な気分だ。 『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)は、戦いの最中にそう思う。 しかし、手を緩めるつもりは無い。他の誰かを傷付けずに済むのなら、むしろ好都合というもの。 ただ――敵の強さは、彼の予想を超えていた。 宙に現れたオーラの糸が、恐るべき正確さで全身に絡みつく。 四肢を、胴を、そして首を、無慈悲なまでに締め上げるのは、『虚』が操るディスピアー・ギャロップ。 絶対者たるアーサーが呪縛に陥ることはないが、それでも癒しは封じられてしまう。 威力の高さも併せ、彼にとっては厄介な技といえた。 「……俺より能力が高いのがどうした。そんな者は、世の中に数え切れぬほど存在する」 絞首の苦痛に耐え抜き、反撃に転じる。 巨大な“黙示の魔剣(アポカリプス)”を駆って繰り出すは、淀みなき音速の連撃。 フィクサード主流七派にバロックナイツ――アークの敵として矛を交える相手は、殆どが格上だ。この程度で怯んでいては、先に待ち受ける苦難には立ち向かえまい。 どうすることも出来なかった“あの日”の理不尽を、もう二度と繰り返さぬように。 いかなる理不尽に対しても、決して屈することがないように。 「俺は、俺自身を越えていかなかければならない」 この覚悟と意志を、己の力に変えて。 息詰まる攻防が続く。時間とともに、彼我の力量差は互いの余力の差となっていった。 なおも武器を取るアーサーに止めを刺すべく、『虚』が仕掛ける。 虚空より襲い来る絶望の気糸が、彼の首に食い込んだ。 視界が闇に鎖されていく中、強く床を踏み締める。 倒れるものか。力及ばずとも、心まで折られはしない。 運命(フェイト)を燃やし、運命(ドラマ)を手繰り、何度でも耐えてみせる。 形を似せただけの幻に膝を屈するなど、あってはならないのだから――。 アーサーはとうとう、己の意志を貫き通した。 戦いに敗れ、意識を失った後も――彼は胸を張ったまま、仁王立ちの姿勢を保ち続けていたのである。 ● この時点で、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は誰よりも長く戦い続けていた。 敵は、“理想と言う名の死神”――あらゆるものを守らんと願い、破綻したソレ(理想)に絶望した彼自身の成れの果て。 堅牢な守りと、聖骸凱歌の大いなる癒しを併せ持つ『虚』の力は、全てにおいて“現在の”快を上回る。 蛇の印を刻んだナイフが、彼の身を深々と切り裂いた。 スキルの乱発を避け、確実に有効打を浴びせる戦術は、彼自身の方針とほぼ共通している。能力傾向が同じである以上、それも当然か。 浅からぬ傷を負いながら、快はひたすらに集中を重ねる。目の前の相手よりも、さらに長く。 そして、待つ。――勝機が訪れる、その時を。 『ただ一人の英雄が世界を救うなんて話は、絵空事に過ぎない。 全てを守ろうとしても、この手は小さすぎる』 陰に篭った声とともに繰り出される、幾度目かの斬撃。 十字に穿たれた傷から、勢い良く鮮血が噴き上げた。 「……俺の手に余るというなら、皆の理想を束ねて願いを成す。 一人ひとりが抱く、守りたいという想いを」 気紛れな運命(ドラマ)を手繰り寄せ、快は迷わず言い放つ。 手を伸ばす程、隙間から零れる命が増えていく矛盾。それに直面した時、自らに誓った。 決して諦めない。夢を束ね、道を紡ぎ、その理想に至ってみせる――と。 「――俺の力は、誰かの夢(ユメ)を守る力だ。 そのために奇跡を祈ったことを、後悔はしない!」 快の瞳に、起死回生の輝きが宿る。敵が精神力を使い果たす瞬間を、彼は待っていたのだ。 極限まで研ぎ澄ませた神気の刃を振るい、“理想と言う名の死神”を断ち割る。 だが、ドラマに愛された者同士が決着をつけるのは容易ではない。どんなに追い詰めてようと、『虚』はあっさり息を吹き返して反撃を浴びせてくる。 他の誰に敗れても、自分にだけは負けられない――。 運命(フェイト)を燃やし、護り刀を強く握り締める。 「これを超えなきゃ、俺は先に進めない……!」 ついに虚像を砕いたのは、不退転の覚悟を秘めた紫電の一閃だった。 ● ――割れた鏡を踏み締め、リベリスタは廃ビルを後にする。 『虚』との戦いは、思いのほか心身に負担を強いたらしい。 体はずしりと重く、気力の消耗は甚だしかったが、足を止める者は居なかった。 理想も、誓いも、後悔も、罪も――表裏一体の強さと弱さを抱いて、彼らは歩き続ける……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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