●世界の夢はめくるめく ふわりふわ、ゆらりゆら。 瞬く光は雪景色。真白き夢が降り積もる ふるりふる、ゆるりゆる。散りて輝き集いて囁き。 くすくす、けらけら、遠く近く。 ほろほろ、ころころ、笑い声は響く。遊び声は漏れる。 掌サイズの小人達。翼を持った子供達。人のまにまに語られる。 気まぐれ、戯れ、自由奔放。何者にも縛られない、御伽噺の住人達。 彼らは妖精。世界と世界の狭間に紛れた、人々が夢見る小さな幻想。 「椅子は拭いた?」「テーブルは飾った?」 「ランプは吊るした」 「窓辺には花を」「招待状は届いたかしら」 「マフィンは完璧」「ジャムも万端」 「スコーンだって焼きたてほかほか」 「楽しいな」「楽しいね」 「歌って」「踊って」「一緒に遊ぼう」 「準備は上々」「皆皆、席に着いて」 「ほらほらお客様がいらっしゃるよ」 「さあ、お茶会をはじめよう」 ●妖精からの招待状 「にんげんさんへ おちゃかいをしませんか まってます」 拡大された手紙がブリーフィングルームのモニターに表示される。 それは職人芸かとすら思える小さな小さなミニチュアサイズの手紙。 それ以外に何も書かれてはいない代わりに、多種多様な言語で同じ文面が刻まれている。 しかし、如何せん余りに小さ過ぎる。こんな手紙を見つけたとして。 まあ何となく、ほんのり幸せな気分にはなるものの、誰もまともに取り合いはしないだろう。 そもそも、まってます、と言われても。地図も無ければ住所も無い。 何の表記もされていないその小さ過ぎる紙片こそが、妖精からの招待状であると。 果たして、誰が気付くだろうか。 「でもね、これ本物なの」 周囲を見回し『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が小さく頷く。 未来を見通す万華鏡。それはこの手紙がばらまかれた付近に、 小さなリンクチャンネルの存在を示していた。 場所はとある山奥の一角。彼らはそこでお茶会の準備をしているらしい。 彼ら。アザーバイド、識別名フェアリー。妖精である。 西欧では非常に良く見られる神秘の代表格の様な存在であり、種類も豊富。 どうもチャンネルが繋がり易いらしく、度々この世界に顔を出しては些細な悪戯をして帰る。 単独でリンクチャンネルを開く事も出来る、紛れもない上位世界種である。 彼らは何故か、人間の真似事を好んで行う。そして今回はティーパーティーだった。 これは実の所それだけの話。放っておけば飽きて帰る。彼らはそういう存在である。 「ただ、どうも今回はお客さんが来るまで随分粘るつもりみたいなの」 小さな小さな招待状。勿論それに釣られてやって来る人間など先ず居ない。 場所すら分からないのだ。万華鏡でもない限り、彼らは来ない客を待ち続ける。 そして彼らはあくまでアザーバイドである。困った事に。 そこに微塵の悪意すら無かったとしても、余り待たれると崩界が進んでしまう。 そこで――リベリスタ達の出番である。 「妖精のお茶会に参加して、出来るだけ穏便に満足して帰って貰って。 言葉も通じるし簡単な仕事だと思う。けど――」 言葉を区切るイヴ。そう、妖精はとにかく悪戯好きである。 お茶会にも、色々と余計な物が加えられている可能性は大いに在る。 「ハプニングは多いと思う。でもそれも楽しむ位の気持ちでお願い。 妖精達を怒らせても何も良い事は無いから…… 後、妖精達が使ってるティーカップなんだけど」 モニターの隅っこに映る、全長10cmにも満たないそれを指差しイヴが続ける。 「あれ、アーティファクトなの。どんな淹れ方をしても、 使用者に適した美味しい紅茶が飲める優れもの。出来たらで良いんだけど回収して来て」 何だか微妙な効果を持つアーティファクトの回収も上乗せされ、 まさに妖精の様な風貌の少女は無表情に手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夢見るお茶会 木々を掻き分け開けた会場。ふわりふわりと飛び交う白い光。 「こんにちは……ここで、素敵なお茶会があるって聞いたんだけど……」 本当に通じるのかな? と顔出しては恐る恐る口火を切ったのは、 『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)。 口振りには若干の不安が残るものの、その声を聞いて小さな光達がふよん、と近付いて来る。 それも沢山。一杯。大勢。半ば群がる様に。覆い尽くす様に。 「人間さんだ!」「人間さんだよ!」 「届いてたんだ」「いらっしゃい♪」 「ようこそ、僕らのお茶会へ!」 わきゃわきゃと、小さい生き物達が語る言葉は紛れも無く羽音にも通じ、 最初の驚きが晴れるにつれ、思わず笑みが毀れおちる。 「本日はお招きいただきありがとうございます。私はアーデルハイト・フォン・シュピーゲル」 「初めまして、妖精様。セフィリア・ロスヴァイセと申します。」 「この度は、素敵なお茶会へお招き頂きありがとうございます」 3者3様に丁寧に一礼を贈るのは、 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)に、 『銀風』セフィリア・ロスヴァイセ(BNE001535) そして『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635) それぞれに別種の趣を持つ可憐な銀と金との共演に、光を帯びる妖精達からも喜びの声が上がる。 「お茶会の招待に感謝します。こちらはお土産です」 『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)が持ってきた小包を開くと、 そこから出てきたのは人間サイズのケーキやクッキー。 一瞬きょとんとした妖精達から、続けて上げられたのは歓声である。 「人間さんのお菓子だー!」「貴重品です」「わー、ありがとうでしたー」 わいわい言いながら瞬く間にテーブル中央へ引き摺って行かれる妖精達からすれば巨大なお菓子群。 思わぬ歓迎に、駆け出しのパティシエでもある達哉怜悧な容貌が思わず緩む。 「お茶会のご招待せんきゅっ! とっても嬉しかったわ!」 一方とても元気の良い挨拶で妖精達の気持ちをぐぐっと掴んだのは、 『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)72歳独身。 でも心は乙女! 基本、妖精達は享楽的でハイテンションである。楽しい雰囲気は大好きなのだ。 「どういたしましてー」「人間さんようこそー」「わーい、髪引っ張っちゃえー」 完璧(マリアム談)な淑女スマイルも何のその、あちこちから妖精にじゃれ付かれている光景は、 何と言うか園児に振り回される保育士さんを彷彿とさせる。淑女(笑) 「何だかお人形のセットみたいだね」 『為虎添翼』藍坂 久遠が興味深げにきょろきょろ見回す傍らで、 お茶会の飾り付けに目を丸くしたのは『孤独の暴君』狐塚 凪(BNE000085) 「驚きました。これ全て貴方達が?」 まるで人間のお茶会を模した様に編まれたテーブルクロスに幾何学模様の花瓶。 椅子も机も一から造ったのだろう。西洋と東洋が入り混じった奇妙な。 けれど何処か悪戯心の込められた不可思議なデザインは自然と目を引きつける。 「人間さんのお茶会を参考に」「出来るだけ楽しげに」「皆で作ったですよ」 妖精達が口々に答える様に凪が嬉しそうに微笑む。 「綺麗で個性的で良いデザインです」 「人間さんに褒められた!」「やったねー」「僕らすごーい」「大金星ではー」 ひゃっほいと言わんばかりに集まっては跳ねる光の妖精達。 幻想的な中にも温かさが入り混じる、木漏れ日射す森の奥で光が踊る。 人のまにまに語られる、妖精のお茶会がひっそりと幕を開ける。 ……筈だった。多分この時点位までは。 ●リベリスタハプニング集 「…妖精っていうとさ、やっぱり物語のアレだよね。 寝てる間に作業手伝ってくれるってヤツ。凄く便利そうだよね。 本当にあの類だったらお持ち帰りしちゃいたいよね。見た目にも可愛いし」 久遠がお茶を飲みながらさらりと恐い事を口走る。 給仕をしていた妖精達が、それを聞いて凍り付く。 「あ、怯えられてる。あれ、ボクもしかして何かおかしなこと言ってる? ああ、でも小さくて可愛いな、1人位連れて帰れたら楽しいだろうなあ」 連れて帰られる!? と妖精達が大体1歩分、他のお客様達の方へ移動する。 と、しかしその背後で別の妖精がティーカップへミルクを注いでいる真っ最中。 「一生懸命作ったですよ」「味見もしました」「一杯失敗したー」 ちょこちょこと寄ってくる羽の生えた小人達を見て、アーデルハイトが目を丸くする。 「ミルクも作られたので?」 「作りましたですよ」「水に色々混ぜたー」「分解して再構築」 どう見てもミルクに見えるそれはどうも、妖精達の不思議技術の結晶らしい。 長年生きて来た彼女でも、流石に妖精のミルクと言うのは飲んだ事が無い。 少し恐る恐ると言った様子でカップに口を付けると、 仄かな甘さとミルクの香りが、紅茶の香りを一層引き立て口腔を満たす。 「とても美味しいです。凄いですね……あら?」 くらりと、一瞬酩酊した様な感覚を覚えたのは気の所為か。 アルコールに寄った様な不思議な高揚感を憶え、ふと視線を巡らせる。 そこに居たのはアールグレイの芳醇な香りを楽しみながら、 極めて全うにお茶会を満喫していた凪である。 「これは良いですね、僕好みの蒸らす時間を長めにした香り高い淹れ方。 ベルガモットの香りに甘みが混ざる絶妙なバランス、素晴らしい」 紅茶好きにとってティーカップの効果は絶大らしく、絶賛しながら満足気に唸る。 そこへ突然席を立ったアーデルハイドがふらりと寄って来た事に、 彼は特に警戒心を抱いては居なかった。妖精達は友好的アザーバイドであるし、場所はお茶会。 流石に如何なる無粋も入り込む余地は無いだろうと。勿論、甘い見通しである。 妖精達は悪戯好き。古今東西を問わず、この点が覆される事は無い。妖精の黄金律である。 「……ね、狐塚様。少し宜しいですか?」 アーデルハイドに後ろから抱きつかれ、凪の耳がぴくりと反応する。 一言で言えば何が起きたか分からない感じである。 「あ、え、どうしたんです?」 ふよんと押し付けられる大きな何か。ふわりと香る女性特有の空気に、 紳士に徹さんと心を決めていた凪の鋼鉄の自制心がぐらりと揺らぐ。 「ん……ふふっ。何も聞かずに少しだけ、このままでいさせてくださいな」 抱き付いたアーデルハイドに首元で悪戯っぽく囁かれ、固まったまま動けない。 クールをお洒落に気取っても、狐塚凪、あくまで15歳の思春期真っ只中である。 「あ、あわわっ、な、何事でありますか!?」 吃驚したのはその対面で紅茶を楽しんでいたラインハルト、メンバー最年少の13歳。 優等生気質な彼女には少々刺激が強かったか、あわあわと慌てて目線を逸らせば そこにはふよふよとティーポット持って浮遊する妖精の姿。 「あっ、熱したティーポットは危ないでありますから、ご注意をであります!」 丁度良いとばかりにフォローに入ろうとしたその声に、 何だか楽しそうに笑いながら、けれど不意をついて小柄な影が跳びかかる。 「きゃー、好き好き大好き、ちょー愛してるー♪」 「え、あ! え?」 はーとが乱舞しそうな勢いで抱きつき抱き寄せかいぐり撫で始めたのは、 テンションが天まで舞い上がったマリアムである。 元々浮気草の汁に興味深々であった彼女が何故強いて同性に目を向けたのは永遠の謎ながら、 捕まったラインハルトはもう助言とか援護とかそんな場合ではない。 「わ、私女の子でありますし!?」 「だいじょーぶ、知った事じゃないわ!!」 「ええー!?」 全力全開の彼女を止められる者など居はしない。妖精達も遠巻きに眺めてはひそひそ話である。 「女の子同士?」「そういう風習もあったかも」「可愛いは正義です?」 そういう問題でも無い。 「次はこっちが」「おすすめ、おすすめ」「ご賞味あれ?」 「わ、可愛い……花のクッキーね」 にこにこと微笑みながら小さな白百合を、はみっとマイペースに食べているのは、 そんな騒動から少し離れた席に着いていた羽音である。 小さなお菓子を幸せそうに噛み砕きほんわりと瞳を細める姿はこれこそがお茶会の醍醐味と…… 「あ……何だかテンション上がってきた……」 あー、上がって来ちゃいましたか。 「そこの妖精さん、一緒に踊ろ♪」 「え、誘われた?」「誘われたねー」「いいなー」「やっちゃいませー」 手を取られた妖精が一瞬吃驚するも、周囲を和ます羽音のマイナスイオン効果かOKムード。 らんらんるんとテーブルの周囲を踊り出せば、騒ぐのも好きな他の妖精達も黙っていられない。 何処から取り出したか小さなハーモニカやミニチュアサイズの笛などで、 小さく密やかに奏でられる軽妙瀟洒な妖精のワルツ。 ●リベリスタハプニング集Vol2 「君達が住む世界では、どういう料理が食べられているんだ?」 スコーンらしき物を食みながら、達哉が率直な疑問を投げ掛ける。 専門はお菓子とは言え、彼にとって異世界の料理と言うのは興味の尽きない話題である。 どんな食材でも調理出来る様にと、胸に情熱を燃やす彼に対し、妖精達は首を傾げる。 「料理です?」「うーん、食べ物かあ」「僕らあんまり食べ物食べないよね」「食べないねー」 良く分からない返答に達哉が窮したのを見ると、妖精達もまた口々に意見を述べる。 それらは文字通り様々ながら、要約すると以下の通りである。 「僕ら概念的です」「お腹が空くって思うと空くよね」「でもあんまり考えない?」 「考えないですよー」「食べなくても生きてけるし」「食べるより遊ぶ方が楽しいかな」 よく、分からない。ただ分かった事はと言えば、 どうも調理や食材と言う存在その物が余り一般的な物ではないらしく。 では果たして、このテーブルの上を彩っている物は“何”なのか。 「人間さんのお菓子です」「作り方?」「大変だったなー」「大変でした」 「土とか水とか」「木とか草とか」「空気とか分解したです」「組み換え?」「組み直し?」 それが世間一般で言う調理でない事は、間違いが無い。世界の垣根は広くて深い。 けれどそんな真面目で若干不毛かもしれない思索はさて置き、 直ぐ真横は相も変らぬぴんく色である。 「確かに僕だって男だ。むしろここは役得として甘んじるべきなんだろうか、むぎゅう」 「あらあら、そんなお話は良いではありませんか……ふふ」 紅茶に一服盛られたか、思考駄々漏れな凪がアーデルハイドの双丘に顔を埋められ撃沈する。 「ね、ラインちゃんって呼んでも良いかしら? ちゃん付けで呼んだ方が何となく仲良くなれそうじゃない?」 「あのあの、それは、とても嬉しい事なのでありますが……」 他方ではラインハルトが何かを諦めた様にマリアムの抱き人形と化しているが、 そちらは既に通った道。他の人々は平和で無事だったのか。勿論そんな筈は、無い。 (なんだか頭がぼうっとします……それに胸の奥がきゅう、と締め付けられるような…… 何故でしょうか……あの方を見ただけで、息が苦しく……) 頬を染めながら視線を落とし、ちらちらと誰かさんを見つめながら。 熱い吐息を溢すのは17歳の乙女であるセフィリア。 初恋も未だなのか胸を満たすのは甘い様なほろ苦い様な戸惑いである。 (う……あ、あれ? 何か、ボク変だ…… おかしいな、何でこんな……) その目線の先、不意に合った視線に慌てて瞳を逸らす久遠。 一体何処のジュブナイルかと言う様な偶然の産物。 お互いに照れては盗み見る様に視線を交わらせ、互いに慌てて顔を背けては俯き合う。 今この瞬間、世界にはただ2人しか存在せず、周囲の騒ぎや惨状等見えはしない。 「「あ、あのっ」」 意を決して話し掛けようと試みるも、何故かお互いにタイミングが被ってしまう。 お約束である。背景では妖精達がせっせと花を撒いている。お約束である。 その横で歌って踊っていた羽音と妖精達はと言えば、 流石に疲れたのか飽きたのか、テーブルに戻ってお茶会を再開していた。 「あ、そう言えば……」 ごそごそと、ここで羽音が取り出したるは小さな小箱。 どうも見た感じ玩具っぽい作りながら、蓋がされており中身は不明。 「お茶会に招待してくれて、ありがとね。これはほんの気持ち……ちょっと開けてみて?」 そう言われれば好奇心旺盛な妖精達。寄らば開けずにはいられない。 「人間さんからの贈り物だって」「何だろうね?」「玩具箱かな」「開けてみよー」 ぱかりと開けばとびだすはモルモットの人形(妖精大) これを人間で例えるなら、人が入れそうな大きな箱を開けたら突然、 人間サイズのぬいぐるみが飛び出して来た。と言う情景が一番近いだろうか。 驚かされる事に慣れた大人であればともかく、子供であれば、これは、泣く。 そして妖精達のメンタルは、羽音の笑顔に騙される程度の能力である。 「「「「わ、っきゃー!?!?!?!?」」」 上がる悲鳴。飛び交う燐光。ティーポットにぶつかる、椅子に躓く、お菓子の皿を引っ繰り返す。 見事な阿鼻叫喚、そして死屍累々である。妖精達を見事ノックアウト。 「ね、面白いでしょ? ……あれ」 このお嬢さん、癒し系に見えて結構なSの気がしなくも無い。 けれどそんな騒がしくも楽しい時間は永遠には続かない。 灰かぶりの少女の為に南瓜の馬車を生み出した、魔女の魔法がそうである様に。 幻想をその身に宿す妖精達の夢にも、終わりは来るのである。 ●夢の続きを一滴 「本日の茶会、とても愉快な一時でした」 日が落ちた森の奥。白く光を帯びて舞う妖精達へと凪が告げる。 それは閉会の言葉。瞬く間に過ぎ去ったお茶会は、これにて幕を下ろす。 「いえいえ、それほどでも」「来てくれてありがとうでした」「楽しかったよ」「楽しかったね」 誰もが巻き込まれた悪戯も、妖精達にとっては娯楽の1つでしかない。 けれどそうだとしても、楽しもうと言う姿勢を誰もが持ってお茶会に挑んだ事は、 嬉しく、好ましく。だから彼らは軽やかに羽ばたく。 誰が言うでも無く、己が世界へ還ろうと。けれど―― 「このティーカップ、今回のお茶会の記念に良ければお譲りして頂けませんか?」 意を決して口にしたのはセフィリア。幼い頃から妖精に憧れ、 それと触れ合う事で満たされた想いを、忘れない様に残したい。 その気持ちはとても純粋で、妖精達も少し悩む様に動きを止める。 「なら、私のティーカップと交換してみない?」 追う様に声を上げたのはマリアムである。差し出すカップは所々罅割れており。 けれどその傷1つ1つが彼女が生きた時間の証。それは彼女の人生の証左ですらある。 妖精達は物品その物に価値を見ない。だからこそ、小さく息を呑む。 「ああ言ってるよ?」「どうしよう」「僕はあげても良いと思う」「作るの大変でしたけど?」 「なら、こっちのティーセットも付けよう」 達哉が持って来た土産の箱を開けば、色取り取りのミニチュアサイズのティーセット。 妖精達のサイズに合わせた心遣いに、小さな瞳が何度も瞬く。 「僕からもこのレターセットを差し上げましょう」 凪が差し出したのは妖精柄のレターセット。 これならきっと、人目にもつくだろうと。彼は彼なりに妖精達を思いやる。 さわさわと、木々が揺れる。白く輝く羽持つ小人が、一つ、二つ、テーブルへと舞い降りる。 「私からもプレゼントを差し上げます」 アーデルハイドが差出したのは小さなノートと万年筆。表紙には随分苦労しただろう。 妖精達にも見える小さな文字で、ただ一文が記されている。 「ようこそ、素晴らしき世界へ」 歓迎の言葉と、歓迎をの想いを。彼女は妖精達へと贈り届ける。 「では、私はお礼に美味しい紅茶の淹れ方を御教授させて頂くのであります」 ラインハルトが小さなメモを差し出す。それにはお茶の蒸らし方、淹れ方等。 紅茶を好む彼女なりの美味しい紅茶の淹れ方が書かれている。 「大事な物なのは分かるんだけど……」 「良かったら、譲ってもらえないかな?」 久遠と羽音の後押しに、テーブルへ8人の妖精が揃って彼らを真っ直ぐ見上げる。 「沢山の贈り物」「ありがとうです」「嬉しかったね」「嬉しかった」「だから――」 一人ずつ進み出て、テーブルのカップを運ぶ。一人一人の目の前へ。 「僕らからも贈り物」「大切にして欲しいな」「大事にして下さいです」 差し出した小さな小さなティーカップ。それを受け取ったのを目の当たりにして、 妖精達は淡く微笑む。それはほんの些細な――悪戯。 「僕らを忘れないで」 ふっと。照明を落とした様に全ての光が消える。 森の奥、それはあたかも夢の様に。一瞬前まであったテーブルも、机も、花瓶も、 その場所には既に無い。彼らは世界の見る小さな夢。 夢の終わりに、幻想は残らない。それが神秘の神秘たる所以。 けれど、本当に? 「砂糖菓子で結ばれた約束って言うのも、悪くないよな」 掌サイズのティーカップ。残されたそれは絆の証。 消えた白の残光を眼に残し、呟きは空へと解けて消える。 けれど、約束はきっと胸の奥に。夢は醒めても、その残滓が一滴。 だからまた、いつか、どこかで。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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