● ゴリ、カリ、コリ、クチュ、ペチャ、ズルズル。 「……ねぇ、美味しいかい?」 少年は問う、愛しげに。 貪るモノは其れには応えないが、少年は哀しげに首を振る。 「そうかい、足りないかい。ごめんね。いつも我慢させて」 ガサガサと蠢くモノ、宙を舞うモノ、這いずり回るモノ、巨大な蟲達。 並の神経ならば怖気に震えるだろう其れ等に、少年は愛しげな視線を向ける。 「うん、判ったよ。じゃあ偶にはご馳走を食べに行こうか。たくさんたくさんたくさんたくさん、皆がお腹一杯になるまでね」 少年は小さな唇に笛を当て、一息吹き鳴らす。 巨大なオニヤンマが少年を抱えて飛び上がり、蟲達がそれに続く。 アシダカグモ、ムカデ、カマキリ、何れも肉食のその蟲達が去りし後に残されていたのは、恐怖に顔を歪めた人間の生首。 彼等の目指す餌場とは……。 ● 「さあ諸君、仕事の時間だ」 チラと一瞬時計に目をやり、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。 彼の所作が意味する所は、嗚呼、つまりは急ぎの任務なのだろう。 「簡潔に伝えよう、地方のリゾートホテルを蟲のE・ビーストを引き連れたフィクサードが襲う」 如何にすれば情報を手早く、正確に伝えられるかを組み立てながら、フォーチュナは言葉を紡ぐ。 配られる資料は、蟲とフィクサードの物。 「フィクサードは神秘界隈で傭兵紛いの事をしている蟲使いグループ『蟲』の一員だが、今回の行動は己の道具の腹を満たす為の突発的な物らしい」 資料を見る限り件のフィクサードは年若く、また蟲への愛情が強い為に所属グループの思惑とは無関係の行動に出たのだろう。 蟲達に人を生餌として与える為だけに。 資料 E・ビースト1:オニヤンマ 体長5mを超える巨大なオニヤンマ。フェーズは2。 人を抱えあげ拘束し、巨大な顎で齧る。高速飛行で突っ込み、大顎の一撃を叩き込んで過ぎ去る。羽を震わせ対象を遠距離から混乱させる等の力を持ちます。 ホテル周囲を飛んでおり、プールに居る人やホテルの外へ逃げる一般人を狙って抱え上げて食べます。また習性的に飛行状態の者には敵意を抱くでしょう。 E・ビースト2:アシダカグモ 体長3m程の巨大なアシダカグモ。フェーズは2。 糸を吐いたりはせず、毒も持たないが動きが非常に素早く力も強い。殺した獲物を食うよりも、逃げる獲物を襲う事を優先する好戦的な性質。ただし相手が手強く、勝ち目が薄ければ迷わず逃げる臆病さも併せ持つ。 ホテル内部で一般人を襲う。 E・ビースト3:ムカデ 全長10mを越える大きなムカデ。フェーズは2。 背部は硬い外甲で覆われており防御力が高く、噛み付きには強力な麻痺性の毒が含まれる。体のサイズの割にはどこにでも潜り込む為、奇襲に適した個体。 ホテル内部を潜みながら移動中。 E・ビースト4:カマキリ 体長3m程の巨大なカマキリ。フェーズは2。 左右の鎌で2回攻撃を行う。素早く攻撃力が高い。簡易飛行レベルだが飛行も可能。 ホテル内部で一般人を襲うが、アシダカグモとは違い襲う事よりも食餌を優先すると思われる。 フィクサード:『参の虫』風 裏野部の蟲使いグループ『蟲』の一員で少年のフィクサード。別名蟲王子。 ジョブや種族は不明。巨大な蟲のエリューションを何らかの技術や方法で生み出し操っている。 基本的には屋上で待機。蟲達が満足するか、戦力的不利を悟れば撤退へ。 「その行動に恐らく裏が無いとは言え、巨大な蟲はそれだけで脅威となるだろう。全ての命を救う事は不可能だ。出来る限りで良い、最善を尽くしてくれたまえ。諸君等の健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月08日(日)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「押さないで、落ち着いて……、でも、急いでっ。避難所まで、頑張って……っ!」 逃げ惑う人を誘導しながら、『Radical Heart』蘭・羽音(BNE001477)は唇を噛み締める。 手が足りない。ゆったりと作られたリゾートホテルは、寧ろこの場合は人の数よりも広さと、開放感が厄介だ。 建物の作りの開放感は、そのまま蟲が人を襲うに適したスペースとなり、そして人の心の開放感は危機感を鈍らせる。 今この瞬間も、遊び疲れから部屋で眠りこけたままの者だって、きっと皆無では無いのだろう。 その時、羽音の視界に座り込んでしまった2人の子供、逃げる最中に親とはぐれたか、それともそもそも親と別行動を取って遊んでいたのか、小学生位の兄妹が映る。 「もう、大丈夫だからね……」 2人を抱き寄せ、優しい言葉を掛ける羽音の雰囲気、マイナスイオンの効果だけが齎したのではない其れに、泣いていた2人が彼女へとしがみ付いた。 けれど、嗚呼、得てしてこう言う時に悲劇は起きる。 『羽音さんすまない! ムカデがそっちに……』 アクセス・ファンタズムから響く仲間の1人、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の切羽詰った声と、そして羽音自身の鷲の獣性が齎す超反射神経に導かれ、彼女が幻想纏いから引き抜いたのは一本のチェーンソー、ラディカル・エンジン。 その瞬間だった。天井が砕け、鎌首を伸ばした大ムカデの顎門と高速回転するラディカル・エンジンの刃が咬み合い、火花を散らす。 だが押し負けたのは羽音だった。ざくりと、大顎が彼女を裂く。 強力な蟲の膂力に、足手纏い2人にしがみ付かれたままの彼女では分が悪いにも程がある。 快程の手練が易々と敵を取り逃がす筈が無く、考えられる可能性としてはムカデがそもそも強敵である彼との接触を避けたのであろう。 巨体とは言え細長く人の通れぬスペースに潜り、障害を砕いて通る大ムカデが本気で逃げれば追い付く事は難しい。 ……その判断が蟲の野生の下した物か、それとも屋上に居る筈の蟲使いの指示かはわからねど、つまり羽音は快よりも組し易いと見られたのだ。 まあ足手纏いを抱えているのだから当然ではあるのだけれど。 屈辱を感じる暇も無い。武器を構え、備えねば、羽音は兎も角子供達は紙切れの様に容易く死ぬ。 「何が何でも……絶対に、守る……っ!」 恐怖にしがみ付く子供達の温もりは羽音の身体に力を呼び起こすが、……けれどもその腕からは血が滴り落ちていく。 ● 大きな二つの鎌が器用に獲物を抱え、肉を食むは大蟷螂。 凄惨な光景に悲鳴を上げて人々が逃げ惑う中、『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は一つ頷いた。 自分達にとって家畜が食材であるように、彼等巨大蟲にとって人は食餌なのだろう。 例え巨大化しようとも蟲の脳が行なえる区別は、眼前の存在が摂取できる栄養素であるか否か位の筈だから。 食餌を貪る大蟷螂、思考を廻らす雷慈慟、ぶつかり合えば周囲に大きな影響を与える二つこそが、悲鳴渦巻くこの場では寧ろ静かであるのは如何なる皮肉だろう。 けれどその二つが静かなままに在ろう筈は勿論無い。食餌を終えれば大蟷螂は次の獲物に手を伸ばすだろうし、そして雷慈慟がそれを許す事は無く、そもそも彼の思考には、思考の内容よりも他に大きな意味がある。 近付いて来る雷慈慟に大蟷螂が首を傾げた次の瞬間、肉体を越えて溢れ出した思考の奔流、物理的な圧力を持つまでに至った雷慈慟の其れ、J・エクスプロージョンが大蟷螂の肉体を大きく弾く。 蟲にとって人が餌でしかないのなら、この場を支配する法則は弱肉強食。 だが決して侮る無かれ、人に牙が無いと誰が決めた。 雷慈慟の先制の一撃は、人が放つ宣戦布告。 「少しばかりお前には付き合って貰おうか。スピード自慢なんだろう? 勝負と行こう」 次々に人を襲っていたアシダカグモの前に、立ちはだかるは『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)。 容易く屠ってきた人間と同じ姿の、……けれども圧倒的に違う異質な空気を纏った劫にアシダカグモはピタリとその動きを止める。 嗚呼、だが真にアシダカグモを警戒させたのは劫では無く、彼の身の内に宿りし歴戦の兵の魂か。“世界の守護者”たらんとし、志に殉じた若きリベリスタ。 気圧されたアシダカグモが弾かれた様に後ろに飛び、壁面を這って逃げ始める。人を襲う事を諦めた訳ではないが、眼前の相手の危険度を本能的に察したのだろう。 しかし、その動きにすぐさま反応した劫の速度が、次の瞬間には爆発的に跳ね上がった。 幾人もの死体が転がる廊下を、トップスピードで身体のギアを最速に上げた劫が駆ける。 アシダカグモは獲物の体液を啜る食性である。噛み付き、消化液を注ぎ込み、そして啜るのだ。人の身に降り掛かり、これ程に惨たらしい死に様もそうは無い。 逃がす訳には行くものか。 リベリスタ達が的確に己が定めた敵の下へと迎えたのには理由があった。 その目は全てを見通して、三影 久(BNE004524)は千里眼で得た情報を仲間達にアクセス・ファンタズムの通信で伝えていく。 敵の位置を把握し、救える命を数え、……そして助ける事が不可能だと悟った其れは己の中でそっと握り潰す。 見捨てたのは仲間ではなく、自分であると、恨むなら己を恨めと、心の内で呟いて、彼は効率を優先して仲間達に指示を出す。 ● 夕闇を舞うオニヤンマ。巨大過ぎる姿は異形でも、その飛行技術は優美の一言。 故に、先ずは放っておく訳にも行かず、また注意を惹き付け易いオニヤンマを最初に落とすと決めたリベリスタ達は彼の蟲に思わぬ苦戦を強いられていた。 宙を切り裂く様に振るわれるは、『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)の愛剣デュランダル。決して折れぬとの誓いと共に名付けられた其れ。 破壊の神の如き戦気を纏い、更に力を増した風斗の膂力は最早驚異的と言う他無く、繰り出された刃の一撃は触れる物を粉々に砕くだろう。……刃が相手に触れればの話だが。 風斗が刃を振るった瞬間、けれどもそこには既にオニヤンマは居ない。 オニヤンマに限った事では無いけれど、トンボは、人が作った物、自然が生み出した物、全ての飛行物体を合わせて比較しても、この地球で最も優れた飛翔能力を有す。 決して比喩でなく、最も優れたるがトンボの所持する飛行性能なのだ。鳥も飛行機もヘリも、同じく昆虫で優れた飛行能力の代名詞である蝿でさえ、トンボには叶わない。 リベリスタ達とて『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)の付与した翼の加護により簡易的な飛行能力を得ていたが、……到底空戦で追いつけよう筈が無い。 落ちる1¢硬貨さえ撃ち抜く筈の精密射撃、久の1¢シュートすらオニヤンマは急旋回で避け切った。 ホバリングでの停止から、急加速に急旋回、連続しての宙返りと正に空戦はオニヤンマの独壇場だ。高速で接近してリベリスタに傷を与えては、反撃の暇も与えず離れてしまう。 ……けれど、嗚呼、確かにオニヤンマの飛翔性能は並ぶ物が無いかも知れないが、それはあくまでこの世界の常識の範囲内での話である。 世界の神秘と戦い続け、更には異世界にまで赴いた事のあるアークのリベリスタがこの程度の事では苦戦以上には陥らない。 オニヤンマを襲うは圧倒的な光。『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)の全身から放たれた閃光、ジャッジメントレイは周辺の空間ごと敵を焼き尽くす。 本来ならば複数の相手を纏めて攻撃する遠距離技の前では、飛行能力による位置取りに優れようともさしたる意味は無い。急上昇で身を焦がされつつも何とか直撃を避けたものの、……しかしそれは次の一手の布石であった。 Earth to earth Ashes to ashes Dust to dust 土は土に、灰は灰に、塵は塵に。 「そして悪しきは灰燼に帰せ」 海依音が、俊介に誘い込まれたオニヤンマにペンキで黒く塗り潰した白翼天杖を向ける。 とうに信仰は失えど、破邪の力は失わず、刻まれし聖痕も消えはしない。それを祝福と受け取るか呪いと受け取るかは本人次第だけれども。 呪言と共にオニヤンマを包むは、正確無比で無慈悲な浄化の炎。 炎はオニヤンマの4枚羽を傷付けて、天空の支配者からその最たる能力を削る。 「お前の蟲、俺等が全部討伐する。それまでに死ぬか投降するか考えておけよ!」 屋上で笛を吹くフィクサードに対して、俊介が放つ言葉は宣戦布告。 動き鈍ったオニヤンマに、風斗が居合い斬りを繰り出した。 ● 血飛沫が舞う。子供が泣く。それでも彼女は倒れない。 元々彼女は攻撃手としては優れていても、守り手には向かない。体力はあれど、回避が無く防御も決して厚くは無い。 普段は勿論それで良いのだ。彼女の恋人にして相方である俊介は、優れた癒し手であるのだから。 だが唯一人、子供達を守って耐えるには、彼女は適した人材ではないのだろう。 なのに、それでも彼女は耐え切った。彼女の体は傷だらけで、ムカデの毒が体に回り、それでも子供等の身体には一つの傷も付いていない。 彼女が、羽音が決して諦めないのは、恋人をはじめとする仲間達を強く信じているから。 篭城は援軍が必ず来ると信じられる時にこそ意味を持つ。 運命を対価に踏み止まった羽音に、大ムカデがトドメを刺さんと顎門を鳴らす。 けれどトドメの一撃が放たれる事は無く、寧ろ身を翻した大ムカデが牙を突き立てたのは、駆け付けてすぐさまアッパーユアハートで大ムカデのヘイトを自分へと向けた快。 「すまない羽音さん、遅くなった」 左腕を大ムカデの顎に挟まれながらも、動じた風なく快が振るうは右手のナイフ。 一点の曇りも無く光り輝くその一撃、リーガルブレードは、狙い違わず大ムカデの腹を断つ。 快を避けていた大ムカデだが、嗚呼、もう逃れる事は出来無いだろう。 彼は決して素早くは無いが、それでも一度でも前に立ち、攻撃を届かせてしまえば快がこの程度の敵を逃す事などありえない。 あまりに頼もしいその姿。それがアークに於いて守護神とすら仇名される快の本領であるのだから。 安全が確保された子供達の背を、羽音は優しく押して送り出し、大ムカデを振り返る。 唸りを上げて回転を始めたラディカル・エンジン。 羽音の眼が鋭く光る。心優しい彼女の、けれど危険な本領が発揮される時が来た。 如何なる力を持とうとも、当たらなければ意味は無い。 時折耳にするその言葉だが、それが用いられるのは大体が当たった時は洒落になら無い攻撃に対してである。 風斗の刃、デュランダルから放たれたデッドオアアライブが容易く大蟷螂の鎌の一つを砕く様を目の当たりにし、雷慈慟は思わずそんな事を思う。 3次元をフルに活用した接近と離脱を行なえたオニヤンマと違い、大蟷螂が風斗の攻撃を止めるには鎌で受けるしかないのだが、……受け止めた筈の鎌が砕かれてしまうのでは一寸これはどうしようもない。 尤も其れは風斗だけの力ではなく、雷慈慟が鎌の関節部分をピンポイントで執拗に攻撃し続けた成果でもあるのだが、自慢の鎌を砕かれた蟷螂の衝撃は大きい。 複数回のジャガーノートの発動による風斗の消耗も、雷慈慟のプロジェクトシグマによって癒された。 適材適所と言う言葉があるが、風斗はオニヤンマに対しては明らかに適材たり得なかった。 しかし、そのオニヤンマに対して溜まった鬱憤すらもを力に変えて、蟷螂に向かって致命打となる一撃が放たれる。 時に刃を振るい、時にはアシダカグモに体液を吸われながらも、劫はホテルの中でのチェイスを続ける。 彼が行なっていたのは追いかける事で無力な人々に注意を向けさせず、己を意識させ続ける為の鬼ごっこだったが、けれどもその意味は状況の変化と共に姿を変えた。 『あァ、そのまままっすぐだ』 駆ける劫のアクセス・ファンタズムから聞こえるは久の声。千里眼でホテル内の全てを見通す彼の誘導に、劫はアシダカグモを追う足を更に強めた。 長い廊下の先に曲がり角が見えて来る。直線の移動は劫が勝るが、足場を選ばぬアシダカグモはそれ以外では彼を引き離す。追いつき掛けた劫を嘲笑うように、アシダカグモは曲がり角を目指した。 しかしこの曲がり角は、今までのそれとは多少の意味を異にするのだ。 アシダカグモの姿が劫の眼前で曲がり角の向こうに消えた瞬間、響いたのは銃声。 タイミングを計り、狙い定めた久の1¢シュートはアシダカグモを貫きその動きを止め……、 「お前達に日常をこれ以上壊させない、奪わせない! これで終わりだ……!」 そして振り下ろされるは追いついた劫の刃、処刑人の剣。 ● 「いい日暮れ時ね。悲鳴は貴方にとっては良い音楽なの? 花鳥風月、参の風。察するにあと3人はグループに居るのかしら?」 フィクサードの居る屋上には、海依音と、そして少し遅れて俊介が。 彼等の目的は俊介のエネミースキャンでフィクサードの能力を探る事。 「ううん? 悲鳴は耳障りだよ。もうすぐ秋だね。虫の音が楽しみだよ。はじめましてお姉さん、知ってるなら名乗らないけど、一寸違うよ」 壱の虫、弐の虫、そして参の虫である彼を足せば虫が三つで『蟲』となる。 裏野部に在りながら、蟲を用いて傭兵の真似事もこなす卑しい虫達。 彼の名である風の意味は、風が飛行系の昆虫を特に好む事と……あと1つ。 「投降か、討伐か、選べよ。何より、喰った命の分、償ってもらわなきゃ俺の腹の虫がおさまらねえんだ!! 自分の欲のためなら、なんでもお構いなしか。それがお前等のやり方か、裏野部ぇえええ!」 人の命よりも蟲の空腹処理を優先させるそのやり方に、そして何時も通り悲劇を撒き散らす裏野部に、爆発したのは俊介の怒り。 だが俊介の怒りに、風は唯面倒臭げに顔を顰めた。 「煩いなあ。人間は煩いから嫌いだよ。君の都合とか知らないし。そもそも欲って、お腹がすいたらご飯を食べる事の何が変なのさ、君はご飯食べないの?」 その返事に俊介が悟ったのは、如何に罪状を突き付けようと彼が其れを罪と認識する事は無いであろうというあまり価値観の違い。 人の命、何だと思ってやがる。そんな言葉を放っても、恐らくその意味すら彼は理解しないだろう。 彼にとっては別段人間は特別で無いのだから。 「もう少し貴方のお話が聞きたいわ」 海依音がクルリと白翼天杖を風に向けるが、 「え、やだ。お姉さんの仲間がそろそろ来るし、勝てる気しないから面倒だよ」 屋上の縁に立った風はバサリと、彼自身は嫌う己の翼を広げた。蟲ならぬ、鳥の羽。 そう俊介がエネミースキャンで知れた事は、風がスターサジタリーである事と、蟲を操るのは彼の持つアーティファクトである笛……、武器としては吹き矢にもなるようだが、の力と独自の技術のミックスである事。そして一目見れば大体のリベリスタには判るのだけれど、彼がフライエンジェである事の3つ。 海依音と俊介、2人のホーリーメイガスの攻撃を避ける様に屋上から身を投げた風。 翼の加護による簡易な飛行手段しか持たぬ彼等が、一度間合いから逃せば其れを捉える事は叶わない。 全ての蟲を片付けし後に残るのは、……指の間から零れ落ちた悲劇の残滓。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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