●さまーばけーちょん 「時に蝮原様、スタンリー様」 「何だ名古屋」 「如何致しました、名古屋様」 「夏ですな!」 「それがどうした」 「暑いです」 「夏と言えば!」 「熱中症」 「夏バテですか」 「……。海でしょ! 海ですぞ! ねっ!」 「……」 「……」 「わぁ反応わっる! まぁ私もカナヅチですし海は砂が機械化部に入り込んで大変なのでアレですけども」 「俺が海でハシャぐような男だとでも?」 「日差しが嫌なので丁重にお断り致します」 「そう言うと思いました。ので! プール行きません?」 「「プール?」」 と、機械男の言葉にヤクザと元ヤクザが声を揃えた。 ●海?しらんなぁ 「はい。というわけで海ではなくプールに行きますぞ皆々様! 日差しが苦手な人でも安心、室内プールですぞ。そして三高平市内のプールなので神秘秘匿やその辺もご心配なく! 広いのでのびのび~と遊べますぞ。 持ち物は水着さえあればOKですぞ。着替え面倒だからって服の下に水着を着て来て帰りに『パンツ忘れたー!』とかそんな事態にならない様に気を付けて下さいね。あと水分補給もお忘れなく。 そしてスタンリー様がお誕生日です。祝うなり、飯を食えと言うなり」 そんなこんなだ。深く考える必要はない。プールで楽しめ。以上だ。海はほら潮でベタベタするしクラゲとか居るし貝殻で脚切るし深いし日差しきついし大変じゃないか。でも海大好きです。 しかし今回はプールだ!!! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月31日(土)22:54 |
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●青い空も白い雲も無いけれど 「プールだー!」 「にゃっほい! プール!」 「ぷーるだーーーーっ!!!! 夏は青いウミ! 白いクモ! そしてプールなのだーーー!!!」 プール。それは人の心を躍らせる。 夏栖斗とミーノが声を揃え、「何オーフクできるかキョウソウなのだっ!」とテトラは競技用プールに駆けて行く。 「大きなプール! 絶景ねー!」 「かなり広いわ……毎回こういうのを見るとアークの財源がすさまじいものを感じるわ……」 これだけ色々あるとどうやって遊ぶか迷っちゃうわ、とスピカ(スクール水着に白ケープ)はわくわくしながら周囲を見渡し、彼女と共にプールへやって来たエレーナ(黒のワンピーズに白帽子)も「久々だわ」と呟いた。 「夏だ! プールだ! スクール水着だ!! はい、そこの少年少女! スクール水着、着ようぜ!!」 私には、スク水普及に全力を尽くすという使命ガッ――ソラの目にガチなソレが宿る。曰く、「普通のビキニやワンピース水着はそれはそれでいいけど普段スク水着ない子がスク水を着てる姿っていいじゃない?」そう、頬を赤らめてモジモジ恥ずかしがってる姿。清純さと質素さと機能美に宿る背徳的甘美。普通は選択肢から外される衣装を無理に着せるのがいいんじゃあないか。 「ってことで……名古屋に蝮原もスク水どう? 萌えやエロさじゃなくネタ方面で面白スク水も私的に歓迎よ」 「それ視覚への暴力ですからね!」 メルクリィが思わず突っ込み、咬兵は眉根を寄せて黙している。 「同志ティバストロフのセクシィメタルボディが心配!!」 そこへバビョーンとベルカ登場。その手に錆止めを持って。 「だって水ですよ。こんなにも全身重武装の同志には、まさに鬼門では無いですかー!」 「武装はしておりませんが、私は水に浸かってもショートしませんぞベルカ様!」 「成程――今日は水中仕様なんですね! 肩のそれも、今日だけミサイルじゃなくて魚雷なんですね!」 「ハイ、今日はもうそういう事にしておきましょう!」 「やったー! 浸水しない様に、注意して泳いで下さいねー!」 錆止めキュッキュ。 そんな一同をカメラに収めているのはエナーシアだ。水着の上から浴衣を着ているがプールに入る時は勿論脱ぐ――けれど、それも杞憂。 「ふふふ、プールですることは泳ぐことだけじゃないのだわ」 46人もアークリベリスタが居れば緊急事態乱痴気騒ぎハプニングetc起こらない訳がなさすぎる。決定的瞬間をものにしてさしあげようではないか。 「今日の『何でも屋さん』はパパラッチさんですな!」 「いいえ? 単純に趣味の撮影の練習なのだわ」 エナーシアはメルクリィの言葉に小さく含み笑いを返す。起こると決まっている訳ではない物事をその場の判断で『撮る』事。それによって瞬間を切り取る力が身につくのだと彼女は続けた。 「だからぜんぜんプールには入らないのは決して足がつかないからじゃないのですよ? 決定的瞬間を逃さなための攻めの姿勢の待ち軍人なのです」 「成程! 因みに浅いプールもありますからね」 詳しい突っ込みは止めておこうとメルクリィは微笑みかけるのであった。 そんな一同を視界の端に、晃はのんびり泳いでいる。海なし県出身な上に錆びぬとは言えメタルフレーム、潮風や海水浴は少し苦手。尤も、任務ならば海上や浜辺でも躊躇しないけれど――それはさておき、だ。 「あー、やっぱり泳ぎはいまひとつだな」 身体能力こそあれど重い身体。劇的に速く泳げるような事は無いけれど、 「運動や骨休みとしてはいいもんだな、うん」 その下方、プールの底では。 地球(テラ)で戦うワタシだが、いつまた宇宙(ソラ)へ飛び出す事があるかわからない――キャプテン・ガガーリンが酸素供給装置万全の完全装備宇宙服で水底を歩いていた。 水中は無重力トレーニングに最適である。そして、キャプテンは『いつか』の時まで鈍らない様に絶え間なくトレーニングを行っておかなければならない。何故なら彼はキャプテン・ガガーリンだからだ。 (未だ鈍っていないはずだ。問題はない――) 状況の再現が重要だと、水の中を歩き、飛び跳ね。まるで無重力のような浮遊感。それに、キャプテンの心は懐かしさで一杯になる。ふと立ち止まって水の底から上を眺めた。きらきら、奇麗な光。目を細める。 これならばいつ宇宙(ソラ)へ出ても大丈夫だ。心の中で頷いた。目を閉ざせばいつでも思い返せるあの光景。またいつか宇宙か地球(テラ)を眺める日が楽しみだ。 (その時には、地球の悲しみが消えていれば良いのだが) その日の為にも、キャプテンは今日も生きるのだ。地球(テラ)と共に。 「あっ眼鏡の紐長いマンだ! おひさー眼鏡の紐長いマン。(中略)長いマーン!!」 SHOGOはプールの隅っこにて三角座りで皆を眺めているスタンリーの元へ。けれど「私の名前はスタンリーです」と言わんばかりの無反応。故に「うん、知ってるよ。大丈夫!」とサムズアップ。しかし今日のスタンリーは眼鏡をかけていないじゃないか。これは悲しみに暮れざるを得ない。 「眼鏡の紐長いマンに眼鏡と紐がなかったら眼鏡も紐もないマンじゃないか! 略して『ないマン』!!」 「……だれ、無いとか、足りないとか、絶壁とか言ってたの……?」 眼鏡に手を伸ばした那雪が真顔で登場。「どうして」と己で問いかけたくなるような露出高めの水着。何処とは言わないが『足りない』分はフリルでボリュームを。 「彼の言葉は貴方に対してではないと思われますよ」 一応フォローに入ったスタンリー。「あらそう」と眼鏡を置いた那雪は彼の 顔を見――そう言えば。 「スタンリーさん、誕生日、ですって……? おめでとう、なのよ……」 「えっ長いマン誕生日なの?」 「私の名前はスタンリーです。そうですね。8月20日は私の誕生日です」 那雪とSHOGOの言葉に一部訂正しつつも頷くスタンリー。 「なんかあったかな、眼鏡の紐的なものとか眼鏡の紐つけるとこに引っかかりそうなものとか……おっ、あったあった。じゃあこのアコギの弦を。マーチンだぜ? 消耗品だけど大事に使ってね、眼鏡の紐長くして奏でるマン☆」 「諸々理解出来ませんが、プレゼントという名目上ゴミ箱に入れる事は止めておきますね」 溜息の様な言葉。「ところで」と那雪がスタンリーの腕を突っつく。 「……あなた、日焼け止め、塗ってる……? あなたみたいな人はやけると、痛そうなの……」 はい。プレゼント代わりに押し付ける日焼け止め。 「わかるぞ、ひやけをしたくないというじょしりょくというものなのだろう! 天才だから僕はなんでも知っているのだ!」 ひょっこり顔を出した陸駆がドヤ顔で解説を。それからスタンリーへ祝いの言葉。それらに礼を返すスタンリー――を、那雪はじーーっと見詰めつつ。 「あぁ、そうだ……ねぇ、あなた。足りない部分は、どうやれば増やせると思う……?」 ちらりと下を見てから、何が足りないとは敢えて言わず。返答に困るスタンリーは沈黙している。 「医者の手に頼る……ですかね……」 何科とは敢えて伏せた。 そこへ、差し出されるのは一つの掌。 「スタンリーは初めましてか。俺は新城拓真、宜しく……それと、誕生日だと聞いてな。おめでとう、新たな一年もアークを宜しく頼む」 「お誕生日だそうですね。おめでとうございます、スタンリー」 拓真と、その隣に悠月。どうも、とスタンリーは差し出された拓真の手と握手する。その様子を悠月は眺めつつ――紫杏は彼の誕生日を祝っていたのだろうか。気にはなるが、今更問う事でも無かろう。微笑みを浮かべる。 (……廻る年を生きて過ごせた証。三高平で、前向きに思えるようになれば良いのですが) ともあれ。 挨拶もそこそこに。拓真の手は今、悠月の手を握っている。 「こういった所なら、悠月も日差しなどは気にせず泳げるな」 「ええ。屋内プールというのは悪くないですね」 そっと爪先。冷たい温度。最中に視線を感じて悠月が顔を上げて見れば、こちらを見詰める恋人の優しい瞳。 「今年の水着も良く似合っている、綺麗だ。選んだ甲斐があったと言う物だな」 店員にアドバイスも聞いて正解だった。笑顔の拓真。悠月もはにかみ笑い。笑顔で言われると、反応に困る。それを隠す様に髪を掻き上げ、視線は水に浸かる己の脚へ。 「……ええと。ありがとうございます」 彼が選んでくれた水着。嬉しいけれど、恥ずかしい。水の冷たさ。繋いだ手の温かさ。 「今日は楽しんで帰ろう、悠月」 「そうですね、滅多にない機会ですし」 今日も、共に。寄り添い合って、秒の時間すら愛おしく。 「うーん……激しい戦いの後はこうやって羽を伸ばすに限るわね……」 伸びと共に文字通り『羽を伸ばす』のは久嶺。連れてくるつもりだった姉は、際どい水着を勧めたら部屋から出てこなくなってしまった。溜息、見遣る方にはメルクリィ。どんな水着なのだろうかという期待を裏切る様な極普通のハーフパンツ型水着。 「貴方、防水仕様だったのね……ちょっと衝撃だわ。プールなんかに沈んだらショートして大変な事になるとずーっと思ってた……」 「水が駄目じゃなくって良かったって本当に思いますな。駄目ならお風呂入れませんし」 「そうねえ。水の中で浮遊ができるのならいよいよ水陸両用フォーチュナとしての期待が高まるわ……」 「でもカナヅチなんです……」 「スクリューでも付けたら? ってのはさておき、アタシこんな水着しか持ってないんだけど……メルクリィ、蝮原さん。他にどんな水着が似合うと思う?」 久嶺が身に着けているのはシンプルな競泳用水着だった。メルクリィと咬兵が顔を合わせる。そうだなぁ、と。 「ダークトーン系の、リボンが付いた女の子らしい水着ですかねぇ。キャピっとしているというよりは落ち着いた感じが似合いそうですな」 「女の服は良く分かんねぇが、お前なら何でも似合うんじゃねぇか。ま、色気はあった方は男が喜ぶんじゃねぇの」 「成程ね。その希望、応えてあげるわ!」 ニッと笑って、泳ぎに向かう久嶺であった。 「とりゃぁーーーーー! ばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃ」 プールではテトラが一心不乱に泳いでいる。しかし泳ぐとお腹がグゥ。 「タベモノくれー! あとスタンリー! タンジョービだ! めでたいから何かおごってくれなのだー! ボクはできればニクがいいぞっ! でもニクじゃなくてもなんでもいいのだぞっ!」 そう言うと、スタンリーが彼方を指で差す。そこには義弘がフードコートにてバイト中。のんびり泳ぐか、と思っていた義弘だったが、本職の店長から頼み事をされて手伝う事になったのだ。 「いらっしゃい。かき氷やアイスなんかの冷たい物も、フランクフルトや焼きトウモロコシのような熱い物も、何でもあるよ」 いつも通りのお仕事だ。今日も頑張って仕事をするぞ。まぁこうやって仕事してるのも俺らしい。のんびりしよう。こうして、皆の笑顔を眺めながら。 (しかし、こういう役目をいままで名の無いリベリスタたちがやっていたのか、と思うと感慨深いものがあるな……) おかしな話だが、なんて。 「ふーまんぷくなのだ」 膨れたぽんぽんを摩ってテトラが一息。満足したらそろそろお暇、立ち上がる。 「誰かの誕生日はおいしくて楽しいのだっ! 次もしっかりお祝いするのだー!」 ここはやっぱりプールの定番から攻めなきゃ。 そんなスピカの提案で、エレーナと共に流れるプール。ぷかぷか。スピカは流れに身を委ね、体の力を抜いて、無心に無気力に何も考えず――そう、波間に漂い打ち上げられるミズクラゲの如く。水死体ごっこ。監視員さんが混乱しちゃうから、良い子も悪い子もマネしちゃダメだぞ! 一方のエレーナはあまり動く気にならないのでゆったり流れに身を任せ。ふぅ、と息を吐いて何とはなしにスピカを見遣ってみれば。 「……わたこ、なにして、」 その時である。ざぶぁと浮いていたスピカが唐突にホラーな形相でエレーナへ迫り来る。デーデンッ デーデンッ(あの某人喰い鮫のBGM) 「わ、わわわわわわわ」 ごぼごぼごぼごぼ。スピカが掴むエレーナの両足。引き摺りこむ水底。 だったのだが。 「そこっ! あまりはしゃいではいけない! キケンだ!」 気が付けば監視員のおにいさんの目の前で二人共正座。 「君たち! プールといえども油断してはいけない! いついかなる時も最悪の事態を想定しておくことが重要だ!」 彼こそはプールの安全を護る守護人<ガーディアン>。輝く監視員の腕章。プール監視員バイトこと鉄平だ。 「溺れるかと……溺れたわね……わたこー……あなたなにやっているのよ~~~~~」 「いたたたたた 何怒ってるのよエレーナ、ほんのお茶目なプール遊びだったのだけど……」 「あれのどこがっ。ちゃんと普通に泳げないのですか」 むぅとむくれてぐりぐりぐりぐり。 という二人程デンジャラスじゃないけれど。白ビキニ姿の杏樹は浮き輪に掴まり、快と共に流れるプールでゆったりぷかぷか。他愛もない会話。最中に「そう言えば」と。 「快とは任務で一緒なことが多いけど、こうして遊ぶのは初めてだな」 普段は気が張ってるばかりだけど、こういうのもいい。微笑を浮かべる杏樹に「そうだなぁ」と快は笑む。こんなに美人なのに会う場所全て戦場とか、今まで俺勿体無い事してたなあ。なんて。 「メタルフレームって沈むイメージがあったけど、快はナノマシン? になったんだっけ」 「そうそう。けど、メタルフレームだから水に沈むってわけじゃないよ。軍艦なんて、あんな金属の塊が水に浮いてるんだぜ?」 それもそうかと杏樹は頷いて。じっと見るのは快の身体。どうしたと訊ねる様な快の目線に応えて曰く、 「さすがに鍛えてあるな。私はあまり筋肉がないから、少し羨ましい」 「筋肉はまあ、革醒前からラグビーやってたしね。触ってみる?」 力こぶ。つんつん。やっぱり硬い。むぅ、と眉根を寄せる杏樹に、 「杏樹さんも細いだけでインナーマッスルはしっかりあると思うけどな……ちょっと失礼?」 言下、快は徐に手を伸ばす。ちょっとからかうように、杏樹の二の腕をむにむにと。 「ほら、ね?」 「インナーマッスルか……」 ちょっとくすぐったい、と杏樹は身を捩る。ふにふに出来る、という部分もちょっと気になるけれど、それはまぁ今は置いておこう。 「そうだ。咬兵も誘ってみようか」 「あの人の水着、想像できないし見に行こう!」 その同刻。 「に、似合う……?」 大胆な赤い水着。顔も真っ赤に、恥じらいも一緒にタオルで隠しながらもアンジェリカは訊ねた。日差しの当たらぬ室内プールは良きものだと、プールサイドを歩いていたら遭遇した咬兵をその視線の先に。 「あぁ、良いと思うぜ。自分で選んだのか?」 「ううん。この水着、かし研の郵便受けに直接入ってたんだけど……神父様の贈り物に違いないよ!」 アンジェリカへ。そう書かれていた文字を見間違う筈が無い。どうして会ってくれないのか解らないけれど、彼が生きていてくれて凄く嬉しい。似合っていると褒められてもっと嬉しい。 「一緒に泳ぎに行こうよ……蝮原さんは泳ぐの得意?」 「カナヅチじゃねぇな」 「ボクも結構早いんだよ。胸に無駄な脂肪がないから……ないから……」 ちらっと目線を下にやって一瞬どよーん。ハッと気付いて顔をぶぶん。そうしていると、軽々と咬兵に抱え上げられて。 「そーら行ってこーい」 プールでよく見かける光景――子供をプールへぶん投げるおとうさんの図。正にそれの如く、アンジェリカはドポーンと水へ。 「楽しそうだな」 そこへ杏樹が快と共に、微笑ましそうな眼差しで咬兵に声をかける。 「こうしてのんびり流されてるだけでも、日ごろの疲れは取れるぞ。ここなら人に気兼ねすることもないし」 「あぁ。悪くねぇな」 「拙者、咬兵が水着を持っているという事実に驚いたでござる」 プールサイドにて皆を見ていた咬兵だったが、耳に届いた馴染みの声に振り返る。水着姿だが上着をしっかり羽織った虎鐵がそこに居た。 「持ってちゃ悪いか、虎鐡?」 「や、水着とはまるで縁がなさそうだし」 そう言う自分も、水着を着てはいるが刺青を見せたくないが故に上着は脱がず、泳ぐ事はせず。咬兵にも刺青があるのだろうか? だが、そういう事は聞かない方が良いに決まっている。 「拙者は気分だけで楽しめるでござるから咬兵泳いでくるといいでござるよ! 咬兵のちょっといい所を見てみたい!」 「言われなくても後で泳ぐよ」 「ほらほら、遊泳なんてこれ逃したらきっとこの先ないかもでござるよ? 一緒に泳ぎたいって人もいるでござろうから」 「お前はどうなんだ?」 「拙者……拙者は頑張るでござる! ここで! 応援を!」 サムズアップの、そんな時。バシャーンと水飛沫。 「メルクリィーさああああん!!!」 シュババ! どーん!! バシャーン!!! 元気一杯、ルアがメルクリィにむぎゅむぎゅくるくるバシャバシャ抱き付いて。機械の腕に高い高いされてきゃっきゃとはしゃぐ。 「ルア様~♪」 「メルクリィさん! 投げてなげて!」 「合点ですぞー! そーれ」 「きゃーっ!」 ボチャーンと水柱。ざぶっと顔を出してばちゃばちゃ水を跳ねさせて、 「もう一回!」 「それーっ」 再びボチャーン。それでも何度も、ルアは「もう一回!」とはしゃぐのだ。 「小さい頃はこうしてよくパパに投げて貰ったの。リベリスタになってから、あまり遊べなくて……」 パパとママは仕事の都合上、故郷と三高平を行ったり来たり。忙しくて家に居ない事も多くって。 「あ、でもね。皆が居るから大丈夫だよ! 寂しくないっていうと嘘になっちゃうけど……弟も親友も仲間も、メルクリィさんも居てくれるもの!」 撫でてくれる手が嬉しくて。自分より随分高い位置にある目を見、ルアは花の様に微笑む。だからね、と彼のもう片方の手を取った。 「いっぱい遊ぼう?」 「勿論ですとも!」 この日常は、いつ壊れてしまうか分からない。だからこそ今を大切に、楽しもう。むぎゅーっと抱き付いた。 ●ハッピーバースデートゥーユー 黒字に炎模様の水着。身体から水を滴らせ、夏栖斗はスタンリーの隣に三角座り。 「おめっと、誕生日。なんかしけた面してるなぁ。夏そんなに嫌い?」 「ありがとうございます。……暑さも日差しも、苦手ですので」 「プールはいんないの?」 「貴方は?」 「ん、割りと泳いできた。25Mを4周位、休憩中」 夏栖斗が何とはなしにスタンリーと同じ方向を見遣れば、はしゃぐアークのリベリスタ達。楽しそうだ。笑みが溢れる。そのまま、少年は言葉を続けた。 「なあ、スタンリー、誰かを強く憎むのは疲れるよな。ほんと、復讐って何も産まないね」 「……貴方はそうかもしれませんね。けれど、例え何も無かろうが。無意味であろうが。私の生きる理由の一つは『復讐』でございます」 「うん、大丈夫。復讐をやめろとはいわないよ」 知っている。彼が心も体も傷付いた事を。そうするを得なかったんだろう。 「ままならないよねっと湿気た話は終わり!」 立ち上がって、ぐっと伸びを。 駆けて行く。それと入れ違いに。 「スタンリー、誕生日おめでと☆ はい、私がプ・レ・ゼ・ン・ト」 うっふん、はぁと。ぴんくのびきに。ウーニャがスタンリーの前でせくしーぽーず。 「……」 「なーんて嘘嘘! 一緒に遊ぼ!」 体育座りなんて許さない、とその手を引いた。困惑する様な表情をスタンリーは浮かべる。 「あの、私34ですよ」 「私は20だけど? もー、ほっとくとカビ生えるまでそのままでいそうなんだから。健全な精神は健全な肉体に宿るのよ――さあ、泳ぐのだ!」 どーん。容赦なく遠慮なくその背を押して、ウーニャはスタンリーをプールに突き落とす。「え?」という声の直後に『だばーん』と上がる水柱。 「……ウーニャ様」 「ちょっと、面倒くさそうな顔しないでよ。折角女の子が誘ってるのに」 水面から顔を出したジト目のスタンリーに、プールサイドにしゃがみ込んだウーニャは眩しい笑顔。「ほら、笑って!」伸ばした手で濡れた赤髪をいつもの様なオールバックに。すま~いる。 全く。その手を払い除ける事はせず、スタンリーはプールサイドに上がった――刹那! 「いいいいやっふうううぅううう!!」 「ひゃほおおぉぉぉぉうううう!!」 「高気圧美少女の舞姫ちゃんが、この夏プールサイドを一番暑くするわ、サマー!」 「夏と言えばプール!! プールで泳がずして夏は終われない! オレ達、真夏のマーメイド~♪ あっマーメイドって女の人限定? じゃあ、シーマン?」 I am ATAMI'S CHILD この腐敗した世界に堕とされた――舞姫と終の異常<カオス>なテンション。プールサイドに上がったスタンリー(呆然なう)を包囲する。 「おう、しっと!! カリブの熱い風を運んできた南国の白いティアレタヒチなフィーバーをダークにしちゃう雨傘発見なのです!」 「スタンリーさん、何でプール来てるのに泳ぐ気配がないの? プールで泳がないとかナンセンス☆」 「あの」 「ひゃぁああっはあああ!! へい、ぷりーず、みすたああああああ、すたんりぃぃいいいいいい!!! ないすとみーちゅー、はっぴーばーすでぇえい!! さあ、最高にハイになって、プールにダイブよ!」 「イエス、シスター☆ これはお手伝いしなきゃだね! 一名様を真夏のビーチに招待だー☆」 「ちょ」 「ジャンピン・イン・ザ・サン!! 叩き落とすわ、ブラザー!!」 「いつまでも膝を抱えてないで☆ さあ! 張り切って!」 「待っ」 「イエェェェェェエ!!!! 受け止めて、マイラヴ☆」 「いってらっしゃーい!!!!」 「落ち着いて下さ――」 たじろぐスタンリーの視界一杯に。ブリッツクリークで助走を付けて吶喊してきた舞姫と、同じく平手を大きく振り被った終と―― だばーん(二回目) 「……あいゆえに 」 「やったね! スタンリーさん☆ これで夏満喫できるよ☆」 夏男スタンリー爆誕☆ ハイタッチの舞姫と終。考えるな、感じろ。 「……素敵な『プレゼント』をどうも」 ごっほごほと咳き込みつつプールから這い上がるスタンリーなのであった。 そこへ、「スタンリーさーん」と名前を呼ぶ声。知っている声に彼が顔を上げれば、ヘルマンが満面笑顔で駆けてくる。 「スタンリーさんプールですよプール! 水入りましょうウワー水ですよ水! すごーい! すご」 それはスローモーション。足を滑らせたヘルマンが、笑顔のまま、その後頭部をプールサイドに…… 「ヘ ヘルマン様!?」 響いた鈍い音に思わず駆け寄るスタンリー。生きていますかと起こされながらの問いかけに、涙目でヘルマンは答えて曰く。 「……いたい」 「大丈夫ですか……血は出ていないようですが」 「う、うん……ちょっと落ち着きましょうね、あっはい落ち着くのはわたくしですね。はい」 じんじん痛む頭を摩って深呼吸。そうだ。思い出してヘルマンはスタンリーに向き直る。 「えっと、お誕生日おめでとうございます。あのー、うーんとね、ちゃんとしたものじゃなくて申し訳ないんですけど……」 これ、と差し出す。見た目は安っぽい市販の手帳。中身は手軽にできる料理のレシピが手書きでみっちり。さっぱりした料理、栄養価の高い料理、納豆を使った料理等々。そして裏表紙には丁寧だが下手な字で「ちゃんとごはん食べてくださいね!」と書かれていた。 「夏バテとか大変だとおもいますけど、ごはんはきっちり食べないと!」 「……」 「あれ。スタンリーさん?」 「いえ。……何と言うか。その。……これが『嬉しい』って事なんだな、と。……ありがとう」 ちゃんと食べますからご安心を。はにかみ混じりの薄い笑み。それに、ヘルマンも「ふへへ」と気の抜けた笑みを返して。 「お誕生日というのは何度来てもすてきですねえ。あなたが新しくとしを重ねてくれて、ほんとにうれしく思います。……えーっと、これからもよろしく?」 「こちらこそ、これからも宜しく」 交わした握手と微笑みと。 そんな時。 「Yeah! 夏! サイコー!」 TOPを飾った件の夏全開水着で火車が笑顔で駆けてくる。 「っと。おぉ居た居た乞食と一緒か」 「だ、だれが乞食ですか!」 「乞食でもヘルマン様は立派な人間ですよ。私が保証致します」 良く分かんないフォローが入りつつ。火車は視線をスタンリーへと。 「病弱こんなトコ出……れ…… オメなんつぅツラしてんだぁ?」 「二回程プールに突き落とされましたので」 「あぁ そう……よかったじゃん……」 火車は夏が大好きだが、その逆の人種がいる事も知っている。オフん時くらい無茶言う事もねぇやな、とそれ以上は言わず。 「ところで……女とか興味ねぇの? 水着見放題だで? マジナイスバデばっかだからなぁ三高平!」 「否定はしません」 「ホレあっちのとかモデルみてぇやん! ヒューッ!」 水着女史サイコーだね! 見渡し笑って、最中にふっと眼に着いた一人の水着女史。おっ、と火車が目を凝らす。 「こりゃまたオレ好みの……! ……近っ あ? ……オメェかよ」 「宮部乃宮さーんどこでも会いますねー……ってなんでガッカリされたんですか今」 ひらりと水着、ゆさりとお胸。黎子が『数少ない友達』へニヤニヤからかうような笑みを浮かべている。水着を買った勢いでお一人様参上したが、これはこれは。 「どうもスタンリーさん。私がどうかしました?」 「あぁ、そこの宮部乃宮様が貴方を『こりゃまたオレ好みのマジナイスバデ』だと」 「あはははは。聞いてましたけど、男性ってみんな男の子なんですねえ」 (……何だこの罰の悪ぃ感じよぉー) 火車は舌打ちを噛み殺す様に水着のポケットに手を突っ込んだ。 「ここで言うのもなんですけど、楽しいですよ海。日差しだめなのはしょうがないですけど雰囲気を楽しむ場ですし、日陰で異性を眺めるだけの人も結構いますし」 一緒に遊びたい人もいるでしょう、なんて黎子はスタンリーに微笑みかける。最中。ずっと居心地悪そうにしている火車が視線に止まって。 「なんです宮部乃宮さん……ああ、小さいほうが好きだったんですね、すみません配慮が足りず」 「イヤイヤそーいうんじゃねーし例外が絶対過ぎるだけでオレぁ昔からスタイル群抜な方がうるせぇなんならこの後抱いたろか! あぁ!?」 「うわー急にチンピラみたいになった! 夏こわい!」 「……一泳ぎ行っかなぁー!」 「ちょ、ちょっと待ってくださいよー! 置いてかないでー」 そして取り残されるのは執事×2。 「『ダイタロカ』ってなんですかね!」 「親密ではない女性と同性相手に言うとドン引きされる言葉ですね、ヘルマン様」 「何やってんだお前等」 サンダルをペターンと鳴らして。現れた瀬恋が溜息と共に吐き出した。泳いできたのか、濡れた髪を掻き上げつ。 「よぉ、スタンリー。お前誕生日なんだってな? おめでとさん」 「ありがとうございます、坂本様」 「まぁ、そんな事より、だ。お前ダラダラし過ぎて鈍ったとか聞いたんだけど、マジか?」 「……否めませんね」 「そりゃあ困る。そいつは全くもって困るんだよ」 いいか。突き付ける指先。凄む視線。傷こそ消えたが『あの時』の記憶は瀬恋から消えてはいないのだ。 「アタシはテメェにのされてんだぞ? テメェが鈍ったらその程度の奴にアタシがのされたっつーことになんだろうが。それにリベンジする時も弱ったやつ倒して何になるんだよ」 つーわけだからしっかり鍛え直しとけよ? 一歩離れて踵を返して。「仰せに儘に」と答える声を背中で聞いて。 やれやれ――伸びを一つ。見かけた咬兵へ片手をひらり。 「ほれ、マムシのオッサン付き合えよ。ガキのワガママに付き合うのも大人の役目だろ」 あっちのレーンで競争だ。親指で指し示す。いいぜと応えた咬兵が、不意にニヤリと。 「そーら行ってこーい」 プールでよく見かける光景――子供をプールへぶん投げるおとうさんの図パート2。正にそれの如く、ひょいっと抱えられた瀬恋は抵抗の声を上げる間すらなくドポーンと水へ。 ●リアリズム充足主義 遊び疲れたら一休憩。 「お弁当いっぱい作ってきたから食べて?」 スタンリーへウーニャが笑顔で差し出したのは。 ☆うーにゃん手作りの女子力弁当☆ おにぎり、唐揚げ、たこさんウィンナー、ポテトサラダにミニトマト、ほうれん草の胡麻和えに夏野菜のマリネ♪ 「お箸使える?」 「えぇ、これでも四分の一は日本人なので」 「あーんしてあげよっか、誕生日だし特別サービス☆」 「……NOと言ってもするのでしょう」 「うふふふふ」 そう言う訳で。はい、あーん☆ そんなプールサイド。瑞樹はちょっと苦い顔。 「水泳かあ……息継ぎが上手くできなくて苦手なんだよね。でも、福利厚生もあるし……私、頑張る!」 「その意気だ。泳ぎのスキルも必要不可欠、来たる水上戦に備え鍛錬を重ねよう」 「優希先生、よろしくお願いします!」 頭を下げる瑞樹に優希はウムと頷いた。 「優希はサーフパンツなんだね。お揃いの色!」 「瑞樹はスクール水着とタンキニを合わせ技か? 真面目な雰囲気も垣間見え、瑞樹らしいな」 なんて、互いにどぎまぎ視線を逸らしつつ。 「それじゃ、見ててね」 瑞樹は泳ぎを見て貰うべく勢いを付けてプールに飛び込んだ。呼吸が必要となる前に革醒者の身体能力をフル活用して――一気に25mを泳ぎ切る! 「げほっ……うぅ、どうかな?」 「25mを一気に泳ぐその速度は大したものだ、後は息継ぎを学べば怖いものは無いだろう」 ほら。優希は瑞樹の手を引いて。 「泳ぎに合わせてリズミカルに息を継ぐ。まずは3秒数えて顔を上げる、それを繰り返そう」 「分かった!」 1・2・3、がぼっ 1・2・3、ごほっ 「怖がるな、溺れることがないよう俺がついているのだから」 瑞樹が水を吸い込んで沈む度、優希が引き上げて励ましの言葉。それに少女は表情を引き締める。 (優希がここまで付き合ってくれてるんだ、絶対モノにしてみせる!) 1・2・3……ぷはっ! 「! 今、水が入ってこなかった! やった! 出来たよ!」 「お、おお!?」 とびきり笑顔、思わず抱き付き。そんな瑞樹を受け止めて、優希は鼓動を高めつつも笑顔を返した。 「長距離遊泳ができるようになったら、次は海にでも行くとしようか」 訓練ではなく水遊びに赴くのも悪くはない。なんて、思いながら。彼女の体温。 「今年の水着も似合ってるよな。旦那として鼻が高いぜ」 猛もまた、大切な人に笑顔を浮かべる者の一人。細められた視線の先にはリセリアが、清純の白でいながら色っぽい水着を身に着け「こっちこっち」と言う彼の手招きのままに駆け寄ってくる。恥じらいをその瞳に浮かばせて。 「――何を言ってるんですか、もう。でも、ありがとう」 差し出される手に、己の手を重ねて。良かった。少女は思う。似合うと言って貰えて。 それから二人で仲良く準備体操。大切です。 「んー、そうだなあ。良し、ちと競泳用で競争と行くか?」 「競争ですか? 良いですね」 体操も済んでプールへ向かう最中。互いに戦士型だしどっちが速いか気になる、との猛の言葉にリセリアは快く頷く。判定はメルクリィに任せて、スタート台へ。 「良し、それじゃあ勝負だ。どっちが勝っても恨みっこ無しだぜ」 「勝敗はまあ兎も角……良い運動になりますね。楽しくいきましょうか」 「俺が負けたら、ジュースでも奢るよ」 「では私は……どうしましょうね。こちらもジュースを」 楽しそうに。けれど真剣に。やるからには負けるつもりは無い。 そして勝敗は――神のみぞ知る。 冷たい水飛沫。 (一人で大丈夫かな~……) 女の子らしいドット柄水着の木蓮は一人、後ろ髪引かれる思いをしながら水の中。その隣に恋人の龍治はいない。何故なら―― 「……ふぅ」 プールのロビー。龍治は暇潰しの為に持ち込んだ任務報告書から顔を上げて首を回した。腰掛けたベンチ。傍らには売店にあった酒にツマミ。ゆるゆるのんびり。 恋人が行くと言うので同行した龍治であるが――嗚呼、分かっている。本当なら共にプールに入るべきだと。泳ぎ自体も嫌いではなく、彼女の姿を眺めるのも悪くはないけれど。 触れるのは欠損した右目。そこだけではない、全身に刻まれた数多の痕。それを晒す事に、どうしても羞恥を覚えて。我ながら面倒な話である。溜息一つ。 ――帰りは喫茶店にでも寄ろう。今日の事を木蓮が話すままに聞こう。それを夏の記憶に含める為に。 想う気持ち。水の中、木蓮が吐き出す吐息は泡になった。水の中は好きだ。視力が低くても綺麗な事は分かるから。 (そういえばプールって筋トレにももってこいなんだっけ。うちにもデカいのがありゃ、龍治も泳げるのになぁ) ぐだぐだ考えていても仕方がないか。今は彼が心配しないように楽しむとしよう。それから後で飲み物でも差し入れしよう。 「さて、自己新記録目指すぞー!」 ばしゃばしゃ、泳ぎだす。後で何か色々ずれるのだが何がずれたのかは神のみぞ知る。 「テリー、夏場もその格好……暑くないのかえ?」 「寒いよー寒いよレイライン寒いよー」 「えぇいその厚着で引っ付くにゃ暑苦しい!」 レイラインにべたぁとひっつくかじかみテリーは真冬の様な格好で。ホワイトランデブー? 置いて来なさいそんなもの! 「プール凍らせる気かえ! にゃんなの、それ履いてないと死ぬの!? そのままスケートできるってにゃかましいわ!」 気を取り直して皆水着。 「この水着、今年のお勧めって言われたんで買ってみたんじゃよ。似合ってるかのう?」 「スク水か……俺としてはちょっとえっちなみz げふん お前が着ればなんだって天女の羽衣さ!」 「そ、そうかえ? テリーの水着も初めて見たが……ほほう、中々いい体付きしてるじゃないかえ! ホレ直したぞよ♪」 まぁな、と格好付けるテリー。金髪碧眼スラリとした体系で端整な外見。レイラインも愛嬌のある見た目でメリハリのあるボディ、二人揃えばなんとも映える。片や頭がお察し下さいで片や還暦プラスワン(そしてスク水)なのは突っ込んじゃ駄目だ。 エリエリは良いエリエリなのでチラ見しながらもその辺はバッチリ分かっている。ぷーるぷーるぷるぷーる。浮きを着けてもメタフレ重量、半沈没状態。そして手足には穴があり、どれだけ頑張ろうと進まない。じたばた。 「エリエリはカナヅチ?」 「これは決して泳げないわけではないのです」 レイラインの言葉にぜぇはぁ即答。それにレイラインは苦笑する。 「お婆ちゃんもあんまり泳ぎ得意じゃないし、一緒に練習しようかえ! わらわが引っ張ってあげるから安心……エリエリ? えりえりーーー」 ぶくぶくぶく。エリエリ轟沈。 「おぉい大丈夫か!」 テリーに引き上げられて咳き込むエリエリ。その目と視線が合った。 「……お、おじいちゃん」 「我が孫よ」 「可愛そうだからおじさんくらいに留めとくですよテリーさん。で、プール入っても凍らないんですか?」 「愛の炎……かな!」 レイラインの肩を抱いてドヤ顔のテリーであった。赤い顔のレイライン。エリエリはそんな二人を見て。 (早く二人の仲が進展するといいなあ……応援するですよ?) 「わ、ユーヌの水着、大人っぽくて綺麗で素敵! クールなユーヌにピッタリだねぇ♪」 「真独楽の水着はトロピカルな感じが爽やかで良いな。活発なのに似合ってる」 友達同士で楽しくプール。真独楽とユーヌは互いの水着に感想を。 「それじゃ、一般プールの方で競争だー!」 そんな真独楽の提案で、一般プールにてイチニツイテ。 「アクティブなユーヌってレアかもぉ。えへへ、でも、まこも運動ならちょっと自信あるよぉ? ……ってフル装備!?」 「無くても良いんだが羽根が多いから、水につけるとちょっと面倒でな」 ドドンと浮き輪にビート板。でも凄い速いかもしれない。真独楽はぐっと表情を引き締める。 「まこも本気でいくぞ!」 ヨーイドン。ずばばばばっと全力水泳――して、ふと真独楽が後ろを見遣ってみれば。 「流石に真独楽早いな」 バタ足に羽も使って、無表情でパシャパシャパシャ。遥か後方にそんなユーヌ。それでも、追いつけなくても、何処か楽しそうなのはあまり来ないプールだからか。 「ふわぁ、羽根もおもたそうで、大変そう……でも、船みたいで……なんかカワイイ~♪」 「そうか? ……おや? む?」 すいーっと流れるような速度で真独楽がユーヌの傍に戻ってくる。そして徐に伸ばす手で、ユーヌの浮き輪をぷかぷか。押したりくるくる回したり、きゃっきゃとはしゃぐ。 コレはコレで楽しいが……えい。回転されるのにあわせて、ユーヌは羽で水をかいてばしゃっと真独楽へ。 「お返しだな?」 「ふにゃ! つめたーい、やったなっ! お返し~!」 「くくっ、ていっ」 流されながら、くるくる回しながら、ばしゃばしゃ楽しく水の掛け合いを。 「ぼっちです!」 竜一君よ、一つ問いたい。何故↑に混ぜて貰えなかった。それはそうとプールだ。水着だ。うむ。少女達のきゃっきゃうふふを眺めて癒されよう。最近の激戦で運命パワーが減った気がするし英気を養おう。 「時には戦士にも休息も必要さ。うん。うんうん。みんな可愛らしいね」 ぽよんぽよんたゆんたゆん。うん。揺れるのも揺れないのも良い。どちらか片方しか愛せない偏狭者より、全てを愛せる己こそが真の勝ち組。 そんなこんなで綻ぶ竜一の表情だったが。 「……!? この気配、やつ(テリー)かっ! わかるぞ、お前のリア充パワーが育っているのを……感じるぞ、夏に浮かれた爛れたパワーを……!」 封じられし右<混沌>が疼く。全ての過ちを夏の暑さの所為になどさせない。 「手伝えスタンリー!」 「え?」 「最速! 最適! 最強の! 撲滅パーーーンチ!」 いきなり話しかけられポカンとしているスタンリーを他所に、レイラインとイチャコラしているテリーに迫る竜一の腹パン――しかし! 「割り込みはダメだ! ちゃんと並んで順番を守ろう!!」 監視員のおにいさんがピピーと笛を吹く。プールで何一つトラブルを起こさない事、それが彼こと鉄平の使命だ。凄く頑張っているが、悲しいかな――『目立ちません』。 「よっす鉄平兄さん、お疲れ様~、はいコレ。これなら見ながら喰えるだろ?」 そんな時、鉄平をちょちょいと手招きしたのはツァインだ。 「まったく皆が束の間の休息とってる間も真面目なんだから……鉄平兄さんもちゃんと息抜きしろよな~」 はいこれ、と手渡すのはジュースとアメリカンドッグの差し入れ。さて、鉄平は何回出撃する事になるんだろうか。ツァインは思う。ゆっくりできるといいんだけど。 「そんじゃ俺も泳いでくっから! なんかあったら頼むぜヒーロー!」 通り過ぎ様にスタンリーにおめでとうも伝えて、ツァインはプールへ歩いていくのであった。 頑張れ鉄平、いつの日か目立てるその日まで! ●いつまでも楽しい時間 「僕は水に顔をつけて目があけれるのだぞ! すごいだろう!」 と、陸駆はメルクリィの前でふふんと得意気。流石ですぞーと機械の手がナデナデ。 「メルクリィは泳げないのか?」 「メタフレの私は沈むのです……」 「では天才的にかれいなスイミングを見せてやるから、よく見ておくのだぞ!」 天才ゴーグルを装着してビート板を持ってばしゃばしゃ。プールに半身を浸けたメルクリィが見守っている。 「クロールとかはまだできないが、天才たるものもうすぐできるようになるのだ! こつこつと積み重ねが大事なのだ!」 言いながらばしゃばしゃばしゃ。ばしゃばしゃばしゃ。頑張って25m。 「どうだ25mだ、褒めてもいいんだぞ!」 「陸駆様は天才ですな! えらいえらい」 なでなで、それから高い高い。それに、へへへーと陸駆は笑みを零して。 「とよさんの水着は……なんというか、キュート、ですね……」 「ビキニですっ綺麗です。白いリンシードさんも似合ってるです。わたしも来年は、うん何年後かでいいかな」 リンシード(レースたっぷり白ビキニ)ととよ(女の子らしいフリルの水着)、大きな浮き輪でふわふわしていたら何となく合流。自分の胸からリンシードに視線を移したとよは「早速泳ぐですよっ」とその手を引いた。 そういう訳で。 「はー気持ちいいです……はっ!? えっと、泳ぐんですよね? なんでわたしミニボートに乗ってるです?」 「どーですか、乗り心地は……さらなる速さを求めますか……?」 空気で膨らむタイプのあの動物とかああいう見た目のちっちゃいボート。とよが乗り、リンシードが後ろからバタ足で押している。 「た、確かに気持ちいいですけど押してもらっちゃ悪いですリンシードさん!」 「ならば、ソードミラージュの本気見せてあげましょう……リンシード、抜錨しますっ……!」 ブリッツクリーク。唸れ速度。リンシードがガチ本気バタ足。水飛沫で前が見えない。だがその先には陸駆ときゃっきゃしていたメルクリィ。ぼごーっと激突! その腕のアンテナ(と言う名の鋭利な棘)にボートが刺さる、ぱぁんと割れる! 「うあー……超弩級戦艦メルクリィに衝突……轟沈します……」 「リ、リンシード様にとよ様!? 大丈夫ですか?」 「すみません……調子に乗りすぎました……こちらこそ、大丈夫ですか、とよさん、名古屋さん……」 ぷかーっと浮かんだリンシードの言葉に、メルクリィは「私は大丈夫ですが」とビックリして目を回してしまったとよを抱き上げている。 「つ 次から安全運転でいきます……!」 敬礼をするリンシードであった。 しかし浮き輪でぷかぷかは浪漫。 「ミーノのせくしーみずぎにのーさつされるだんし、たすうっ」 きりっとふぉっふぉっふぉ。ミーノのダイタン白ビキニ。おにゅーのみずぎ。ドーナツ柄の浮き輪でまったり。傍らにはリュミエールが、ミーノの浮き輪にもう一つの浮き輪を連結させて同じくぷかぷか。 二人とも泳げないのだ。 「あしがつくふかさじゃないとむりっ」 「私ハやろうと思えば水上走るダケの速度ダセルンジャネ? マァそれは時と場合にヤルトシテ」 浮き輪に付けたトレイにトロピカルジュースを乗せて、ずずーっと飲んで、まったりするリュミエールは「最高ダナ」と呟いた。 「ひとなつのあばんちゅーるがえんじょいでびゅーてぃふるさまー!」 「アー……軽く揺れる感覚って気分イイヨナ」 「ふー、プールをちょうたのしんだらつかれたのっ」 自由にミーノはお菓子をもぐもぐ。のんびりのんびりぽかぽかのんびり。しかしミーノと遊びに来てまったりするのは新鮮だ、とリュミエールは彼女を横目に思う。いつも連れ回されたり、何処かに行きそうになったり。 「ミーノ いず なつやすみ えんじょいなぼー!」 「アー……マッタリダ」 そんなのんびりとは対照的に。 (ど、どうしよう……あああううう、ど、どうしよう) 大人な水着を身に着けて、カシスはおろおろ。勢いで来たは良いけれど、いざ来てみると恥ずかしいし何をしたら良いのか分からないし――『カチッ』。 「うー……そんなこと気にしても仕方ないじゃない!」 あんまり自身があるわけじゃないし、一般プールへざぶん。が。 「……わっ、思ったより深っ あっ、ふ、んっ、うえっ!」 背が低くってがぼがぼがぼ。 「……ダメだー! 水が口の中入る!」 もう浅い所に行こう。そんなこんなで辿りついた波打ち際を模した所。座ってばしゃばしゃ、水飛沫。結局こういうのが性に合う。角も重いし――『カチッ』。 「……でも、こうしてはしゃいでる人達を見るのも、性に合ってるのかもしれません」 にこにこ、笑みを浮かべて。カシスはまだまだ続く楽しい時間を眺めるのであった。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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