●Cherry Blossom 咲き誇っていた。 すらりと姿勢良く伸びた桜の枝振りはそれは見事なもので。 毎年誰の目をも楽しませたその居住まいは今もまるで変わっていない。 美しかった。 誰かの魂(こころ)すら奪ってしまいそうな程に。 気安く触れたらば、戻って来れなくなるかも知れない位に。 その美しさは幻想だ。幻想で魔性ですらある。 ――桜の樹の下には死体が埋まっている、何て。 古い小説の一節は奇妙な風情を語ったけれど。 今日、この時ばかりはそんな言葉も嘘にはなるまい。 つい昨日まで唯美しいだけだった桜は既に姿を変えている。 誰かが憩い、儚い美しさに想いを馳せた愛すべき主役の周りには大小様々に千切られた無数の人間のパーツが転がっている。 死体は埋まっていないが、転がっている。 赤いペンキをぶちまいたような『品の無い光景』を嘲笑うかのように。 白い花弁は薄っすらと赤みに色付いて、はらりはらりと舞い落ちる。 桜は佇む。 喧騒等無かったかのように。 『彼女』はこれより短い春の独奏を始めるのだ―― ●美しい女性(ひと) 「綺麗な薔薇には棘があるって言うけどな――」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はニヒルな笑みを浮かべる。 「――桜にあるなんてのは初耳だ」 ブリーフィング・ルームの大モニターに映った光景は中々ショッキングなものだった。美しい一本の桜が血風にそよぎ涙のように白っぽい花を散らす様は畏怖すべき美と呼ぶに相応しかった。 「見ての通り、今回の相手は桜だ。勿論、より正確に表現するなら桜を基にしたエリューションだな。『彼女』は神経質で気まぐれだ。他の美人の例に漏れずに、ね」 『彼女』はとある田舎の高台に一本だけ佇む見事な見事な桜だった。 地元では中々有名な場所で名所と言われていた事もあるらしい。惨劇の始まりは酔っ払いが枝を折った事だった。へそを曲げた彼女は愚か者を許さない。 「これ以上の被害は見過ごせないだろ」 「強いのか?」 「フェーズは2だ。お前達と比べてどうかと言えば相当強いね」 伸暁の気楽な首肯にリベリスタは苦笑いを浮かべる。 感受性豊かな天才肌。『アーティスト』を地でいくフォーチュナはそんな彼には構わない。 「『彼女』――桜は人格を持ってる。話をする訳じゃないけどな。 同時に力を振るう術を持ってる。その気になれば自分をその場に繋ぎ止める根だって引き抜いて、動き回る事も不可能じゃないだろうよ」 「……それなのに、まだ丘に?」 「言っただろう。『彼女』は繊細な美人だって」 「そんなの美しくないじゃないか」。伸暁は小さく肩を竦めた。 桜の樹は春の主役である。満開に咲き誇り、その美しさを世に誇るかのような時間は『彼女』にとっても得難いという事か。 「何れにしても」 伸暁はここで言葉を切ってリベリスタの顔を見た。 そして少し冗句めいて最初の言葉を二度重ねる。 「気をつけなよ。『綺麗な薔薇には棘がある』んだ。 それにね。春をときめきに騒がせるのは俺のスプリング・ミュージックだけで十分だ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月17日(日)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●魔性 空に月。 月に群雲、花に風。 ――降り注ぐ月の光を浴びて、それは丘に佇んでいた。 宵闇の中に浮かぶのは女王の姿。居住まいはまさに人智を越えた魔性の美しさを湛えている。 言葉さえ奪う幻想の水面を幽かに揺らしたのは、『いつも前向きに元気よく』星月 奈緒(BNE000147)の声だった。 「見るだけならとっても綺麗な樹なんですけどね~」 この国では花をただ花と呼んだなら、それは桜の呼び名となる。 桜なる木は日本人にとっては特別だ。往々にして葉よりも先に淡紅色の花をつけ、春先の一時で見事に咲き誇り、そして散る。 この上無い美しさと、この上無い儚さとを同居させる桜は古来より人々の琴線を強く揺さぶり、愛されてきた花なのだ。 「唯、ここで咲く事に誇りを持つ桜のエリューションか。 このまま咲き続けるだけならばボク達が戦う事は無かったのかな?」 「――理由はどうあれ、人間に害をなす存在は許せないよ」 「さてな。じゃが、折角の桜も虫食いで台無し……そこに間違いは無かろうのぅ」 独白めいた四条・理央(BNE000319)に『Rouge&Noir』有坂 詩乃(BNE001280)が応え、『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)が呟いた。何を想うか、その瑠琵の紅玉のような瞳が外見不相応な光を帯びている。 「人の側の責任とは言え、被害が出た以上は対処しないといけないよね」 「やれやれ、さても大変なモノと出逢ったものよ。この自己主張の激しさで繊細な美人とはさぞ扱いは難しかろうの」 理央、瑠琵を中心に一帯が用の無き者が近付いてはならぬ異界と成る。 此方、彼女の側には総勢十二名から成るリベリスタ。彼方、視線の先には咲き誇る化生が揺れていた。 頬を撫でる肌寒い風にも身を縮ませる事は無く、風格を損なう事はまるで無く。 「流石に緊張させてくれる……かな」 平素の柔らかい笑顔はそのままに『ガンスモーカー』日比谷 文月(BNE001074)がそう言った。 今宵、この場に集まった彼等は超常の力を持ち、神秘の意味を正しく識るリベリスタ。 現世(うつつよ)を虫食う危機を払う、その戦いに身を投じる事を選んだ人間達だ。 「コレがアークでの初仕事ってーコトになるですね。 綺麗な薔薇ってーならさっさと棘を抜いてやるだけですよ。 イーちゃんさん、棘でツンツンされて喜ぶ趣味とかねーですからね、ホントに」 とは言え、『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)の言う通り。誰にとっても今夜は特別だった。 森羅万象の何事にも始まりがあるその例には漏れず――第一歩がここに在る。 「……誰か持ってないかな、煙草。広中さんとか。いや、戦闘中は吸わない方が良いんだろうけど」 嘯く文月の咥え煙草の減りが幾らか早い。それは彼が自身で自覚する通り『緊張』の所為なのか。 「後にするんだな。それに最近は肩身も狭いって相場が決まってる」 一方で水を向けられた愛煙家――『うらぶれ』広中・大基(BNE000138)の答えはにべもなかった。 後にしろと言う割にはチェーン・スモーカーの彼は暗闇に紫煙をくゆらせたまま。 細い銀縁の眼鏡の奥から夜桜を覗き込むようにした彼は、煙草の煙と一緒に溜息混じりの言葉を吐き出した。 「……ああ。今夜ばかりは桜切る馬鹿になってやろうじゃねぇか」 応えた訳では無かろうが、張り詰めた死地に一層強い風が鳴る。 数十メートルの距離を隔てて『彼女』と彼等は向かい合っている。 自慢の枝を折った狼藉者は許せなくとも、無数に色付く花弁を吹雪に散らせる風の悪戯は赦せるのか。 彼女は何処までも桜だった。気難しく、儚く、美しい――肌をひりつかせる甘い危険の香りは気のせいではなく一秒毎にその濃度を増していた。 「……まぁ、怒るわな」 視界の中に現れたリベリスタ達を女王は本能で敵と理解しているのかも知れなかった。 最早持ち込んだ明かりさえ意味は無い。薄っすらと白い輝きを帯びたBlood Blossomは闇の中に光芒を顕す。 「ふむ……美しい。手折りたくなる気持ちもわからぬではないが……と、見とれてはおれぬな」 「面白い。我は王――貴様が女王だと言うならば、蹂躙し、征服し、躾けてやるも一興よ!」 『二等兵』隠 黒助(BNE000807)が静かに呟き、『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)は高らかに吠える。 もう、待たない。場の全てが戦いの時の始まりを告げていた。 ざわめく枝、のたうつ根にも怯えはしない。 「月に暗雲、花に嵐――」 メアリ・ラングストン(BNE000075)のグラスの奥の大きな瞳が輝いた。 ――覚悟せぇ。今宵の花見は荒れようぞ! ●美しくI かくしてリベリスタ達と女王との戦いは始まった。 「これでみんなの痛みを軽減出来るのなら」 目前で殺気を放つ宵桜の魔性に敗れじと、詩乃の剣の描き出す守護陣が強固な結界を形成する。 「風流兼ねた折檻、ってところかのぅ?」 「これ以上被害が増える前に何としても退治しないとっ!」 瑠琵が、奈緒の視線には敵。 数こそ十二人を揃えたリベリスタ側に分があるが、戦力の優位を確信するには到れない。 エリューションの力は多くの場合、リベリスタを上回る事が常だからだ。無論、それは『単純な個の力』の話である。 尤もそれは対処に作戦を持ち、連携を可能とするリベリスタ側にとっては最初から織り込み済みの事実であった。 「作戦通りに――」 理央の言葉に応えるようにリベリスタ達は陣形を組み上げていく。 その場を動く事を基本的に嫌う女王に相対する方法には複雑なものは要らない。 事前の打ち合わせの通りに役割に応じて散開したリベリスタ達は主に前衛と後衛に分かれて戦力を展開した。 「敵だっつーなら ぶん殴ったるぁ!」 「イーちゃんさん、ガンガンいってやるですよ」 『ヤるなら勝つ!』宮部乃宮 火車(BNE001845)、唯々、刃紅郎、 「今回は前、かねぇ」 大基、奈緒、耐久力に優れる理央等が肉薄と壁になる前衛、中衛の楔となり、 「治してやるから、多少の傷は気にしないのじゃ!」 「皆、がんばるといいのです」 「俺の銃声を合図に一斉攻撃、って事で良いかな?」 支援能力の高いメアリ、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)、後方からの攻撃を得手とする文月、更には瑠琵、詩乃、黒助といった面々が後衛に陣取るという具合である。 場を動きたがらぬ女王に対して先んじて守護結界を展開するという作戦はまずは奏功。 しかし、戦いが始まった以上はそう猶予がある訳では無い。 女王が焦れるよりも先に前衛の面々は彼女の陣地へと踏み込んだ。 「さあ、行くよ!」 一声と号砲は文月のもの。 深呼吸をして、集中して――彼はその銃口を敵へと向けた。 静寂を切り裂く轟音を従えて、精密なる銃撃が女王の見事な枝へと突き刺さる。 おおおおおお……! それは嘆きなのだろうか。それとも、怒りの声なのだろうか? 「──先ずは一手、封じさせて貰うですよ?」 女王の隙を縫い、獲得した獰猛な獣の因子を思わせる低い姿勢で素早く距離を詰めるのは、唯々。 誰よりも早く女王の元へ到達した彼女は鮮やかに間合いを奪い、その両手より鮮烈な光糸(ギャロップ・プレイ)を撃ち放つ。 シャワーのように降り注ぐ鮮烈なる戒めは、されど女王の牙城を崩すには到らない。美しい幹より異形の枝が生え伸びる。鞭のようにしなった節くれの枝は刃の如き鋭利さをもって纏わり付く光を切り裂いた。 「一筋縄ではいかねーって訳ですね」 軽くステップを踏むように身を翻した唯々が漏らす。 動かぬと言っても敵を避ける能力が無い訳ではない――一つの攻防でそれを知るには十分過ぎた。 「ま、最初から簡単な相手とは思ってない……ってな!」 ゆらりとした動きで後を追ったのは大基だった。 極限の集中力を得た彼には目の前の女王の鼓動までもが分かるようだった。 彼女には目は無いけれど。視線は無いけれど。大基の目には『それがあるものと同じようにすら映る』。 素晴らしい観察眼と論理構築に裏打ちされた彼の一撃は、まさに唯々に一瞬気を取られた女王の隙さえ見逃さなかった。 「させないぜ」 見事な攻撃に女王の纏う光のドレスが霧散した。この確かな手応えに大基は口の端を歪めた。 女王に如何程の打撃を与えたかは流石の彼も分からない。この場で答えを出す事は出来なかったが、まず効いた事だけは間違い無い。 これを呼び水に攻勢を強めるパーティは刃紅郎の重い一撃、飛び込んだ火車の業炎撃と打撃を束ねていく。 速度を生かして緒戦は取った――しかし、パーティの攻勢も連携もまずはここまで。 女王の全身には強い怒気が漂っていた。たとえ輝くドレスを剥がれようとも、その風格は本当の意味では――減じていない。 幹が蠢き、地面が揺れる。 「……っ!」 「……気をつけろ!」 誰かが息を呑み、黒助は怒鳴るようにそう警告。まさに次の瞬間には土を巻き上げ槍が天を突き上げた。 「イーちゃん痛いのとか超嫌いなんですがっ!」 辛うじて不意の一撃さえ避けたのは唯々。 「あいたーっ!」 身を捩ったものの、及ばず。肌を手痛く切り裂かれた奈緒が声を上げる。 流石に後衛には届かなかったものの、前衛全てを襲った『土中よりの串刺し』は唯の一撃で少なからぬダメージをパーティに与えていた。 「ずいぶんな歓待振り、余程俺らがお気に召さなかったとみえる」 予想以上の破壊力と実力差に大基が嘯く。長い戦いが得策でない事はプロアデプトならぬ彼以外の誰にも分かる。 予めドレスを破っていなかったならば、どうなったか……ぞっとする所。 「桜ちゃん、予想通りに危険じゃな……!」 すかさず、と言っていいだろう。メアリのクロスが輝く。 神聖なる力を帯びた呼びかけに応えるかのように聖なるかな、傷痍の福音が降り注ぐ。 「桜の枝が狙ってるです、気をつけるです」 更にそあらが、 「大丈夫?」 理央が、 「大丈夫、これぐらいの傷ならボクに任せて」 詩乃が天使の息で、傷痍の符術で傷付いた仲間達を賦活する。 恐るべき敵に却って覚悟が決まるのか――瑠琵はむしろ嬉々と笑む。 「これでこそ、これからじゃ」 高まる、集中。勝負は、まだ先。 「その、通りです――」 傷を受けた奈緒もやられたままでは黙って居ない。 「渾身の一撃、いきますよー!」 大きく剣を振りかぶった彼女は闇ごと敵を切り裂かんと斬撃を放つ。 光を帯びた連続攻撃は抵抗する女王の枝を蹴散らし、確かな威力を幹へと刻んだ。 だが、それでも。 おおおおおお……! 女王は未だ美しく、美しく。 ●美しくII 集中に集中を重ねた封印から逃れ得る事は難しい。 女王の周囲を幾重の呪印が舞い踊る。 「――実に無様な艶姿じゃ。惜しいのぅ」 瑠琵の声に一気に範囲を狭めた封縛は女王を激しく戒めた。 訪れた好機にここぞとパーティは攻め立てるが、女王は倒れない。 ――咲き続ける。私は、何処までも咲き続ける―― まるで、そう主張したいかのように。 パーティの攻撃は次々と彼女を傷付けたが、散らせるまでには到らない。 瑠琵の呪縛が弾き飛ばされれば、パーティが晒されるのは更なる猛攻だった。 激戦が続く。 取り分け厳しくなった原因は、大基の危惧の通り、舞い散る桜吹雪にパーティの統制が乱された事だった。 その魔的な美しさに魅了され同士討ちが始まれば被害が拡大するのは当然だ。 良く耐え、良く戦った奈緒が倒れたのが特に手痛い。 崩れたバランスを埋める為に理央が前に出たが、奮戦した彼女も要のメアリを庇って倒された。 「……ええい、しぶとい!」 支援を続けるメアリからも余裕の色が減じている。 幾度と無く危機を支えてきた彼女だが疲労は隠し難くなっている。 パーティの一角が陥落した事は単純に手数が減った事に留まらぬ影響を戦場に齎している。 「つくづく、女性は怒らせるものじゃない……よねっ!」 前に出た文月が今一度桜の枝を撃ち抜いた。太い枝がへし折れる。落ちた枝は無残な格好で花を散らす。 「鴉よ、仇なす存在を射抜いて」 「慎ましやかな頃のままなら、良い酒の肴だったじゃろうに。鴉はちと似合い過ぎじゃのぅ」 詩乃と瑠琵、舞った二枚の式符が闇に溶け込むかのような黒い翼の鳥に変わる。 抉る嘴と鋭い爪に疲れ果てた女王は身を震わせる。 無念。圧倒的なまでの無念の意志が伝わってくる。 ――唯、咲きたいだけなのに。唯、綺麗で居たかっただけなのに。 「来るようじゃぞ!」 叫んだのはメアリ。 「……ちょ、ここで来るですか……!」 同じく傷付き頬を汚した唯々が引き攣った顔で呟いた。 彼女の、リベリスタ達の視界の中の傷んだ桜は文字通り最大級の禍々しさをその身の内に溜め込んでいた。 それがイヴの言う最も危険な攻撃の兆候である事は誰にも分かる。 「……くっ!」 瑠琵はこれを阻まんと今一度呪印による封縛を試みるが、女王のプライドは今度は彼女の術式を寄せ付けない。 阻む手は最早無く、絢爛なる桜花が濁流のようにパーティを飲み込んだ。 「――――!」 声も無く倒されるリベリスタ。 戦線の崩壊は最早明白。状況は最悪に思われた――が。 「……デビューを、飾るには、良いサクラだったですよ?」 寸前で回避動作を取る事に成功した唯々は自失に動かぬ女王を強か叩く。 絶叫。 「何とか、ね」 後衛の位置での戦闘と高い回避が奏功した。 辛うじてこの一撃に耐え切った文月は最後の力を振り絞り、女王の枝を撃ち抜いた。 絶叫。 最早一本きりになった枝を女王は懸命に伸ばす。 「ああ――」 向かってくる血まみれの大基に向けて伸ばした。 「桜は、潔さも美しさだろう? どうせ散るなら、散るも誇れよ。誇って、散れ」 おおおおおお…… 女王が哭(な)いた。 最後の枝の動きは鈍い。交錯した大基は一撃を避け、彼女に終わりを打ち込んだ。 ●夜桜恋歌 戦いは終わった。 「ふぅ、今度はゆっくりお花見がしたいですね~」 奈緒の言葉には幾らか苦笑が混じっていた。 「危なかったからね」 理央が頷く。パーティの受けた被害は中々手酷い。相手と初実戦の事実を鑑みれば無理からぬ事なのかも知れないが。 「それにしても……」 人心地ついた頃、そんな風に切り出したのは文月だった。 「最後、桜が手を緩めたように見えたんだけど……」 果たして、気のせいだっただろうか? 最後の攻防。女王の一撃が大基のそれに先んじていたように見えたのは。 「決まっておる」 瑠琵は冗句めいてくつくつと笑う。 「かの桜は女の化生。誰かさんに恋をした――そんな所では無いのかぇ?」 男は応えずに煙草の煙を吐き出した。 答えは幻想の果てに千切れて消えて、語るに落ちるは余りに陳腐。 「散る桜、残る桜も、散る桜」 嘆息したメアリの声が夜に響く。 月に群雲、花に風。 ――この丘に女王の影は最早、無い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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