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【はじおつ】エフィカさんとはじめてのリベンジ

●蒐集家
 何が人をそうまで駆り立てるのか、その由縁は如何とも知れない。
 けれど古来より人は自らの独特の価値観を以ってその事業に挑んで来た。
 他者にとっては路傍の石にも等しい物を見極め、揃え、集める。
 蒐集。それを行う者、蒐集家(コレクター)。
 何物にも好事家と言うのは居る物で、これがオカルトとなると層の厚さは語るまでもない。
 ウィッチクラフト、アルケミー、ルーン、カバラ、魔道書、霊装、宝貝、呪具、聖遺物。
 眉唾の贋物から伝説級の神器に至るまで、世界には無数の神秘が転がっている。
 そして当然それを蒐集する物も――また。

 コツコツと、古びた時計が秒針を鳴らす。 
「――それで?」
 アンティークで飾られた室内。年齢も季節も問わず常に白衣の男が問い掛ける。
 着けた片眼鏡が如何にも胡散臭く空々しい。
「君達の逆襲に私のコレクションを使いたいと、成る程」
「情報屋からは、貴方もリベリスタが嫌いと聞いている。利害は一致している筈」
 対するは“真白イヴ”を名乗る黒髪黒目の女子高生。
 恐らくは偽名だろう、けれどただの女子高生とは到底思い難い。
 その瞳には生死のかかった修羅場を潜った者特有の非情な光が宿る。
「なるほど、確かに私はリベリスタが嫌いだ。
 前々から好意は抱いていなかったが、今胸を衝くこの感情は憎しみと呼ぶべきだろう。
 人の世界を土足で穢し傲岸不遜に秩序を名乗る彼らの生き様には嫌悪感しか覚え無い」
 大仰に、過度に演技がかった男の言葉に、“イヴ”が小さく眉を寄せる。
「しかし――私は別にフィクサードが好きな訳でも無いのだよ」

 コツコツと、古びた時計が分針を傾ける。
「君達は奪うばかりだ。欲望のまま、渇望のまま。せめて何かを残して死に給え」
 嗤った男に戦闘能力は無い。皆無だ。
 “イヴ”が少し本気を出せばこの場で消し炭にする事すら容易い。
 けれどそうはならない。そうならない事を――知っている。
「『蒐集家』リドル博士。それではギブ&テイクで如何でしょう」
 “イヴ”の言葉に白衣の男。リドルが面白げに薄く笑む。
「ほう、対価を頂けると。それは楽しみだ。どんな破界器を用意して来たね?」
 相手はナイトメアダウン以前より何代も続く神秘蒐集家だ。
 裏の界隈では良く知られた奇人。恐山との繋がりも有ると聞く。
 生半可な代価では動くまい。だが、“イヴ”とてそれを理解してここまで来たのだ。

「いいえ、対価は情報で」
「――ふむ、情報?」
 『蒐集家』はリベリスタが嫌いである。この話には先が有る。
 だから彼女はこの屋敷を訪れ、だから彼女は――その名を名乗っている。
「私達の狙う相手は、『アーク』です」
 鋭さを増した『蒐集家』の眼差しを受け止めながら、“イヴ”は確信と共に拳を握る。

●偽アークと愉快な仲間達
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
「また出た偽者」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声音にはじっとりと呆れの色が宿る。
 日が暮れれば徐々に涼しくなる様になって来たとは言え、時節は夏。
 アレな人の相手をするには辛い季節である。宿題だってある。
 昨年勤労中学生から勤労高校生にクラスチェンジしたイヴは小さく溜息を漏らす。
「まあ、数は以前より大分減ってる。以前の戦いの影響で自然崩壊したみたい」
 アークはかつて彼らの偽者――『偽アーク』と矛を交え、
 けれど一度の交戦で倒し切れなかったと言う過去が有る。
 その後行方知れずになっていた物の、どうも内輪揉めでもあった様だ。
 数を減らし活動が目立たなくなったが為に万華鏡が察知出来なかったのは幸か、不幸か。
「でも、主要メンバー2人は健在。そして今度はちょっと面倒そうな物を持ち出して来た」
 イヴがモニターの画面を操作する。其処に表示されるのは――

 ――ロボットだ。
 ロボットだった。ずんぐりむっくりした作業用らしきロボットだ。
 両手にはドリル。全長は5m前後と言った所か。かなり大きい。
 それが暴れている。神秘の秘匿と言う観点からは見逃せる物ではない。
 人々が逃げ惑う。田舎の畦道を。
 田舎の、畦道を。主に農家の方々が。
「……農家の人達大困り」
 稲刈りも近い。来年米価が高騰したら困る。神秘的視点でも止めなくては。
 動機は分かる。それだアークの役割である事も。だが、地味だ。
「それに明らかにアークを誘ってる」
 イヴの小さな指がロボットの側面を指差す。
 其処には『ArkGekimetuRobo Ver2.01』の文字。多分油性ペンか何かだ。
「……」
「…………」
 地味だ。アピールまで、地味である。

「このロボットは破界器『イマジネーションミスト』による物。
 使用者の想い描いた形を取る霧のアーティファクト。使用者を倒さないと止まらない」
 モニターの表示が切り替わる。高校生位の女子1名。30代半ばほどの女性1名。
 それぞれにイヴ(偽)、和泉(偽)と冒涜的な記号が添付されている。
「使用者はどちらか不明。でも今度こそ倒してお灸を据える。絶対」
 どうも気にしない風でいながら気にしていたらしい。イヴの口調は常ならず強い。
 であるならば、決着を付けない訳にはいかないだろう。と、ここでノックの音。
「失礼します。イヴさん、真白室長がお呼びで――」
「……丁度良かった」
「えっ?」
 モニターの表示、嫌な物を思い出し視線が泳ぐ『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)
 しかしこの真白イヴ、容赦せん。

「はい、お仕事」
 とさとさを渡される資料。失敗した仕事の後始末である以上、逃げ道など有る訳も無く。
「えっ、あのっ、えっ」
 或いは例えこの後に仕事が残っていたとしても、
 万華鏡のお姫様がそんな事を気にする筈が無かったのだ。
「あの、真白室長が……お呼びで……その」
「うん、今行く」
 ……無かったのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月05日(木)23:35
 89度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 エフィカさんがんばってます。偽者リベンジ。以下詳細。

●作戦成功条件
 フィクサード組織『偽アーク』主要メンバーの撃破

●『偽アーク』主要メンバー
 初出シナリオ:『【はじおつ】エフィカさんとはじめての偽者』

・真白イヴ(偽)
 黒髪黒目の女子高生。クラスはマグメイガス。
 戦闘指揮能力に長け、Lv30制限までのマグメイガスのスキルを用いる。
 フェイト消費による復活可。

・天原和泉(偽)
 キャリアウーマン風の30代中半辺りの女性。クラスはプロアデプト。
 Lv30制限までのプロアデプトのスキルと、ブレイクイービルを用いる。 
 フェイト消費による復活可。

●識別名『ArkGekimetuRobo Ver2.01』
 偽アークが『蒐集家』から借りた破界器
 『イマジネーションミスト』で作られたE・ゴーレム。全長5m。
 ロボットっぽい霧の結晶体。霧ではあるが程々頑丈で速度に欠ける巨体。
 使用者が戦闘不能にならない限り破壊しても次のターン開始時に自動復活する。
 『偽アーク』主要メンバーの命令には絶対服従。

・戦闘能力
 
 巨大ロボット:P.ブロックに3人以上必要。
 ゴーレムフィールド:P.E・ゴーレムの近接距離に居る革醒者は移動出来ない。
 絶対ムテキ補正:P.高CT、絶対者。

 ドリルストライク:A.物近複、高命中、ダメージ中【状態異常】[麻痺]【追加効果】[物防無]
 ダブルドリルブレイク:A.物近単、中命中、ダメージ特大【追加効果】[ブレイク][ノックバック]

●エフィカさん
 同行しています。指示が無くてもそれなりに。
 指示が有ればそれに沿って攻撃を仕掛けます。
 能力傾向は命中特化型スターサジタリー。夏なのでマグメイガス始めました。
 依頼相談掲示板で【エフィカ】と書かれている一番新しい発言を参照致します。
 何かご指示がありましたらどうぞ。スキルは活性化している範囲で使用可能です。

●戦場予定地点
 田舎の畦道。ゴーレムの20m圏内で3名ほどの農家の方々が腰を抜かしている。
 彼らの生死は成功条件には含まれない。
 時間帯は夕方。光源不用。ゴーレムから10m程離れて『偽アーク』主要メンバー。
 特に何も用いなければリベリスタは、
 手前に農家の方々、中央にゴーレム、奥に偽アークと言う立ち位置で畦道に突入する。
 畦道周辺の道は田んぼである為ぬかるんでおり、足場が良いとは言い難い状況。
参加NPC
エフィカ・新藤 (nBNE000005)
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
★MVP
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
デュランダル
鎖蓮・黒(BNE000651)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)

●リベンジだった筈の何か
「そう言えば、エフィカと共闘は初めてな気がするな」
 ブリーフィングルームを出た面々。
『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の言葉に、受付の天使がきょとんと瞬いた。
「そう言えばそう……でしたでしょうか?」
 『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)は中央センタービルの受付嬢である。
 とかく顔の広い彼女にとって、アークのほぼ全所属者は顔見知りだ。
 仕事で出入りする事の多い杏樹もまた、良く見掛けている。余り初めてと言う気はしない。 
「同じサジタリーとして、仲良く出来たら良いのだけど」
「え、いえいえそんな私こそどうぞ宜しくお願いしますっ!
 あの、戦いはちょっと経験不足かもしれないんですが精一杯頑張りますからっ」
 お見合いの様に面と向き合う2人に、横を通り過ぎ様とした所か。
『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)が気付く。
「……偽者、とは面白いね」
 ぽつり呟いた言葉は任務を反映した物だ。戦闘狂の類である天乃にとって、
 仕事の要点は何と戦え、どう戦えるかと言う2つに集約される。
 それでも敢えて声を掛ける辺り、彼女がエフィカを気に掛けている事に疑いは無い。
 エフィカもまた、その不器用な気遣いにも慣れっこか。返答代わりに淡く笑う。
「他にも、色々といる、と楽しい……んだけれど」
「いえそれは」
 何か嫌な事を思い出したか、それ以上はいけない、とストップを掛けるエフィカ。
 其処へ走り込んで来た『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の、
 何か苦い物を呑み込んだ様な表情が、つまりは今作戦最大のサプライズの始まりだった。
 
「あの……エフィカ様、いつもお世話になっております」
「えっ、いえこちらこそ……あの、どうしたんですか? 顔色が」
「こちら、今回エフィカ様にお願いしたいお仕事……なの、ですが」
 差し出された一枚のプリント、相談の末彼女のやるべき事が示されたそれに、
 エフィカが目を通そうした、その次の瞬間。
「ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」
 シエル突然の土下座。何が何だか分からないエフィカ。
 けれどその用紙をさらっと流し読めば、末尾。その答えは明らかで。
“パンツはピンクのしまぱんでお願いします”
「何度も消したんですが! 何故か追記されるんですっ!」
 何その呪いこわい。
「箱舟の皆様の士気向上の為にお願い出来るなら、その……」
 何となくそんな事になるんじゃないかなって、メンバー見た段階でちょっと思ってました。
「……エフィカ」
「不動峰さん……」
 ぽん、と肩に手を置いた杏樹に、光の無い瞳を向けるエフィカ。
「ダメな時はダメって言って、いいんだからな」
 うる、と眦に滲んだ水滴を溢さない様、手の甲で拭う姿に弾幕シスターの眼光が冷たく光る。
「正座させて説教だな」
「……異議無し」
 こく、と頷き合う杏樹と天乃。困った顔で笑うシエル。
 エフィカさんの心の健康の半分はアークの皆さんの優しさで出来ています。

●ここから本番
 振り仰げば大きな影。ずんぐりむっくりにドリルが2本。
 その威容に多少は警戒心を刺激されても良いだろう、夕焼け鮮やかな田舎道。
「エフィカさんが敵のど真ん中に突っ込む→フルボッコ→その隙に殲滅
 →エフィカさんはお星様になったんだよ……ムチャシヤガッテって作戦でしたっけ?」
 キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)のあっけらかんとした邪悪発言に、
 そんな作戦でしたっけ!? とショックを受けるエフィカさんはさて置き。
 何だかんだでどうも着替えて来たらしい彼女に対し、明るく朗らかに声を掛ける男性2名。
「エフィカちゃんまずはスク水に着替えよう」
 この第一声、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)でない筈が無い。
「今回もエフィカたんの崇高なる意思が皆を救う事になるだろう」
 続けて『三高平最響』結城“Dragon”竜一(BNE000210)でない理由も無い。
 すうこうなるいし……と言う呟きに一体どんな理由が有るかは知らないが、
 半ば条件反射で視線を逸らした辺り、エフィカさんも随分色々学習してしまった物である。
(この想い決して悟られまい……)
 遠くを見つめ拳を握る『最高威力』鎖蓮・黒(BNE000651)に至っては、
 主に『塔の魔女』による技能開発の煽りを受け見事に怯えられている始末である。
 流石大凶しか引かない魔女。関係無い人間関係にまで悪影響しか及ぼさない。
「前ん時と比べて偽アーク成長してんな……随分修羅場をくぐったらしい」
 唯一真面目に敵影へ視線を向けているのが、戦略司令室長曰く“只者ではない中二病”なる
 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)である辺りが、アークの人材の厚さを物語る。
 この時点で、どう足掻いても絶望感しか無いとかそんな事は断じて無い。
 但しエフィカさんに至っては何もしてないのにグロッキー寸前である。

「来ましたねアーク。ここで会ったが何とやら、決着を付けましょう。
 どちらが新時代を担うリベリスタに相応しいのかを」
 勇ましく声を上げる黒髪の偽イヴの言葉が余りにも虚しい。場違い甚だしい。
「イヴにしては老けすぎだな」
 ざっくり抉る杏樹。
「イヴたんは小学生なんだからな!」
 大嘘吐く夏栖斗。
「本物のイヴたんなら、お兄ちゃん大好き! つって俺の事を慕ってくれるはず!」
 ここぞとばかりに私情に走る竜一。
「誰一人真面目に会話する気が無い……」
 偽イヴが後ろに控えた偽和泉に視線を向けるも、嘆息と共に頭を振るのみ。
 アークの人選に間違いは無い。間違いが有るとすれば、空気が読めない偽アークの方なのだ!
「っ、行きなさいミスト! この世界、勝った者こそが正義」
 ガション、と動き出すロボ。その進路上には腰を抜かした農家の方々。
 その合間を、影と炎が一迅、一条、駆け抜ける。
「ロボ、との戦い……は割りと、珍しい」
「手伝いに来たんだ、遊んでばかりいる訳じゃないよ!」
 左右から走りこんだ夏栖斗と天乃がロボットの両足を抑え込めば、
 放たれた対のドリルを受け止めるのは、良い笑顔の美丈夫である。
「鎖蓮・黒。万年厄年――されど、ここを通す訳には参りません」
 厄を名乗る黒が、回転する鋼の破壊力をその両手で受け止める。
 火力に特化した彼にとってその衝撃は絶大だ。完壁に入り吹き飛ばされる、されど倒れない。
 何故か。言うに及ばず瞭然だ。
(Gekimetuされる姿を、あの方に見せたくはありませんから)
 既に膝が笑っている。もう一撃は喰らえば唯で済むまい。けれど確かに凌いだ。

 それを見切った瞬間、残る面々が動き出す。
「エフィカ、1人頼めるか」
「分かりました、後1人は?」
「わたしが行きます。担いでしまって良いですよね」
 杏樹とキンバレイがほぼ同時に駆け出し、僅か遅れエフィカが翼をはためかせる。
 声も無く腰を抜かしている農民達は皆相応に年嵩だ。
 事態を把握する事こそ適わない物の、特段抵抗する事も無く戦場から遠ざけられて行く。
「大したアーティファクトだぜ全く。だが――」
「見えなくとも分かるその魅惑的なシマパンのラインに憧憬を抱こう。
 その自己犠牲の魂! 君こそが、俺の勝利の女神だ!」
 何か台無しな事を叫びながら後衛である偽アークらに殺到する影継と竜一。
 しかし、畦道を外れた瞬間前者が田んぼに足を取られ見事に蹴躓く。
 流石に超直観で湿地の深さを測るのは無理が有ったか。その隙を逃す偽イヴでは、ない。
 編まれた魔力。銃弾を象るそれが極めて面倒な代物で有る事を知らない者は居ない、
 その視線の先には癒し手、シエルの姿が在り。
「勝利、出来ますか」
 放たれた魔弾は破魔を顕す白銀の弾丸(シルバーバレット)
 極め付けに高精度なその一撃は狙い違わず盛大に、癒し手の腕に血の華を咲かすも――
「予定、通りなのかもしれませんね……」
 鮮血色に染まった和装を抑え、けれど仄かに笑いを浮かべる。
 この程度で怖気づく位なら、戦場に立ちなどしない。
 癒し手は誰より血を被り、誰より痛みと親しくなければ務まらない。
「ですが、そう簡単には斃れてあげませんよ……!」

 ならば潜った修羅場が違うのだと。見据える瞳は強く、強く、言の刃を佩く。

●アークvs偽アーク~Replay~
「痛ぅ……くそ、冗談みたいな図体してキツいなこれ」
「インファイト、は望む……所……私はまだまだ行ける」
 ちらっと過ぎった意味有りげな視線、ここで奮起しなければ色々不甲斐ないと思ったか。
「ばっか、僕だってこんなのどうって事無いって」
 神速の斬撃が霧の装甲を切り刻み、飛翔する蹴撃が奇妙な手応えと共に灼熱の散華を咲かせる。
 夏栖斗と天乃の攻撃は確かにGekimetuRoboの余力をじわじわと削っていた。
「不器用で申し訳ございません。しかし」
 残る黒も自らの冠する“賢者の学院”の名と、そして抱く想いの為の折れる訳にはいかないと、
 血塗れになり体躯に穴を開けながらも笑顔でその巨大な敵の行く手を確かに阻んでいる。
「キミが絶対ムテキなら、わたくしは絶対素敵です」
 其処に戻って来た避難担当の3人が合流する。戦況は上手く廻っている――
「射線通りました、そこ――!」
「それ以上近付かないで貰おうか」
 エフィカ、杏樹の2人から放たれ正確無比に降り注ぐ、閃光と雷撃。
 その駄目押しにロボットの巨体が傾ぐ。
「あれー、エフィカさん突っ込まないんですか?」
「突っ込……えぇっ!?」
 まさか本気で言ってるとは思って無かったキンバレイの言にエフィカが動揺するも、
 その間にも彼女もまたきちんと役割を果たしている。
 傷も呪いも纏めて癒す神の息吹はロボットを抑える3人の生命線を繋ぎとめる。
 そう、戦況は上手く廻っている――様に、見えた。

「さあ恥ずかしがらずにカモン! 遠慮なく抱きつきに来るといいよ、うひょひょ!」
「っ、やっ、何ですかこの人気持ち悪い!」
 本物より更に遠慮無い黒髪のイヴの言葉にジャガノートを透過し何かがぐっさり刺さる竜一。
 けれどそれとは別に、エースと称される彼の視界にはその面倒極まる立ち位置がはっきり障る。
(浸透されて後退した、か……)
 移動後攻撃を上手く使っている。これではロボに足止めを喰らっている面々の攻撃は届くまい。
 勿論、前線を突破した2人とて熟練者である。後衛2人に劣るとは考え難いが――
「破界器の使用者はアンタだ! 何故なら――」
 一方隣合う影継は声無く佇む女に指をさす。合わせて展開される読心の神秘。
「ロボが昭和っぽいから!」
 その根拠は物凄く失礼だが、実の所推察の方向としてまさしく、正しい。
 『イマジネーションミスト』は使用者の想像を反映するタイプの破界器なのだから。
(そんなっ、鉄人2X号はもう時代遅れだと言うの!?)
 脳内に響いたリーディングの結果に、昭和50年代の香りを探知して満足そうに頷く影継。
「そっちが本命か……あ、すいません和泉さん。アラフォーっぽい方はちょっと……」
 何かいきなりやる気が減退した竜一の、
 特に気持ちの籠っていないデッドオアアライブが和泉を襲う。そして露骨にほっとする偽イヴ。
「人の年齢をあれこれと、女は30代から輝くのです!」
 怒りに燃える偽和泉の放った気糸がお返しとばかりに竜一と影継に突き刺さるも、
 流石にデュランダルとダメージレースするのは難が有る。
 そしてそれを突破する術が有る事に、竜一以外気付いていなかった。
 “ブロック”とは前衛の後衛浸透を妨害する物であり、即ち――後方へは移動可能なのである。
 
「後退しなさい、ロボ!」
 識別名を誰にも呼ばれる事の無くなったロボット。
 一度は崩壊し、けれど直ぐ様形を取り戻した霧の結晶が動き出す。
 後方――和泉を殴り続ける影継と竜一の方へ。
 そしてロボの後衛浸透を防がねばならない夏栖斗、天乃、黒は対面から離れられない。
 護られる立ち位置に在る杏樹やエフィカ、キンバレイは言うに及ばずだ。
 唯一、全員を視界に収められる様田んぼの上を飛翔しているシエルだけに今の戦況が見える。
(これは、いけない……!)
 戦力が完全に分断されており、突出した2人に3体分の攻撃が降り注ぐ。
 シエルとキンバレイによる聖神の息吹の二重奏はそれでもその凡そを相殺するも、
 ロボットのダブルドリルが大幅に体力を削り取る。
「勝利の女神が見てるんだ、俺は、必ず、勝つ!」
 唯一、対処法を仕込んでいた竜一がノックバックで以ってこれを牽制するも、
 火力の分散により和泉を倒すのに更に時間を消費する。
 相手もまた、既に運命を削ってはいるのだが……それは、泥沼の様な戦いだった。
 或いは、致命的な悪手を引いていた可能性すら有る。
「癒しの息吹よ……1人で無理でも、2人なら!」
「ゴスロリ小学生の偽物は、ここで倒します!」
 其処にもしも、2人の癒し手の必死の祈りが無かったらなら。
「斜堂流、高天原落とし!」
「アークのマスコット・エフィカ新藤さん舐めんな! 頭がたけえぞテメエラ!」
 けれど、その血塗れのチキンレースを紙一重、地力の高さで覆す。
 それが可能になったのは、ひとえに突破した2人の纏う“破壊神の戦気”が有ればこそ。
 不利を力で捻じ伏せる、デュランダルの面目躍如か。
 膝を付いた偽和泉は動けない。次の瞬間、霧の巨体が明滅する様に“何か”を失う。

「いえ、今の私関係なく無いですかっ!?」
 律儀に声を上げるエフィカさんの抗議は、余りにも虚しい。

●因縁決着
「く、このっ、何で――!」
 一度傾いてしまえば、多少魔法に長けるだけの女子高生に戦線を立て直す術など無かった。
「行って下さい。必ず……止めて、」
「ああ。仕事を増やさないためにも、逃さない」
 流石に限界を超えたか、ドリルの下に倒れた黒の代わりに滑り込んだ杏樹が、
 白い小盾でこれの矛先を逸らすや黒い魔銃を突きつける。
 本来は狙撃の術である精密射撃はロボの体躯に突き刺さり、開いた銃痕はもう治る事が無い。
「頑丈なだけで……単調。ロボ、思ったより……つまらない、ね」
「よっし、行ける! 上手いこと避けてよ! ふたりとも!」
 斬劇再び。銃痕を斬り、穿ち、裂き、拡げ、其処に焔の顎が突き刺さる。
 赤い射線は後方に居た偽イヴの元まで届き、上がった悲鳴はけれどまだまだ始まりに過ぎない。
「好機……魔風よ、在れ!」
「ここまでやって逃げられたら面倒ですし?」
 癒し手までが攻撃に加わる絶対攻勢。
 偽イヴも運命を削って抵抗するが、ここまで決まってしまえば悪足掻きに過ぎない。
 そうしている合間にも、炸裂する閃光が霧の巨人に穴を開け、
「結城さん、トドメを!」
「そこはお兄ちゃんで」
「――っ、な、何でっ」
「俺はいついかなる時も自分を曲げない!」
 無駄に雄々しい竜一の言に、何故そっちに攻撃を振ってしまったのかと。
 そんな現実に軽く絶望し掛けたエフィカが小声でぽつり呟きを返す。
「……ぉ、お兄ちゃん、トドメを……」
「俺はこの勝利をエフィカたんに捧げる!」
 振り下ろされる双剣。崩れいくロボもまさかこんな最期になるとは思っていなかった事だろう。
「――で」
 少女の首元に突き付けられたのは余りにも禍々しい真紅の刃の大剣斧。
「一応聞くぜ。降伏すりゃ命までは取らんがどうするよ」
 影継のその言葉が、かくしてこの戦いの幕を引く。

「偽物を倒したのです! ……え?高校生?だって胸が全然……」
 それはハルゼーさんが何かおかしいのです。
 無言の訴えを受付の天使が胸に抱いている頃、
 捕まえられた偽イヴと偽和泉は何だか良く分からない物を目の当たりにしていた。
「……反省」
「……ハイ」
「ゴメンナサイデシタ」
 畦道で正座である。幸いと言うか余り怪我の無かった杏樹と天乃は色々ブレなかった。
 正座させられている側の約1名は重傷を負っているのだが、流石アーク、お構いなしである。
「武力、による制裁は……必要?」
「ヤメテ、死ヌカラ」
「ホントゴメンナサイ」
 でも絶対2人共改心したりはしないと思います。
 視線が地面に縫い付けられている夏栖斗と竜一に、そっと息を吐くエフィカ。
 座り込んでいる偽イヴと偽和泉がそれに、気付くも、何所か複雑そうに眉を寄せる。
「本当にごめんなさい、少しでも恩返しが出来れば、と思っていたのですが」
「あっ、いえいえ、若月さんは気にしないで下さいその……」
 慣れてますし。と、続いた言葉の救いの無さはもう、何というか、うん。
「随分修羅場をくぐったらしいな。で、何でこんな事始めたんだ」
 一人真面目に職務に励む影継の背に、若干の哀愁を感じる初秋の夕暮れ。
 けれど、その問い掛けに偽イヴが笑う。まるで、晴れ晴れとした様に。
「貴方達が、守ってくれなかったから」
 その言葉に、込められた怨嗟に、方々からの声が消える。

「貴方達が、守ってくれなかったから。貴方達が、殺したから。
 貴方達が、失敗したから。これで終わりじゃない。これで終わりなんてしない。
 思い知ると良いわ。思い知ると良い。私達は知った。教えて貰った。アーク。
 貴方達のセイギノミカタごっこでどれだけの人が殺されたかを。私達は――貴方達の被害者よ」
 そうして、沈黙が訪れる。
 そうして、夕暮れももう終わる。
 更に何かを問い詰めることは、もう、誰にも出来なかった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
ノーマルシナリオ『【はじおつ】エフィカさんとはじめてのリベンジ』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

若干危うい所が有った為被害が出ている物の、回復の厚さとBS無効に救われました。
前衛が持つと凶悪ですねBS無効。結果無事成功です。
MVPは今回勝利の鍵をがっちり握ったシエル・ハルモニア・若月さんに。
見事な立ち回りでした。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。