● 鮮やかなクランベリィパイに、唇を震わせるレモンキャンディ。舌に馴染むアップルパイも好きだし、咽喉に絡むチョコレイトだってとても美味しい。 お紅茶は何にしようかしら。ああ、でも。 「飽きちゃった」 フォークががんがんと叩きつけられる。只管に抉る音。叫び声。 少女の丸い瞳は其れを見下ろしながら、「りーかーちゃーん」と友人の名前を呼び続ける。 答える声が無い事に更に苛立って、少女は机を蹴り飛ばす。 がしゃん、と音がして洒落たティーカップが地面に落ちる。 「ビオは? プリちゃんは? 利佳は? つまんなぁい。皆お菓子を探しに行ってから戻ってこないじゃない。 お菓子位、より好みしなかったらなんでも美味しくいただけるでしょ? お紅茶も折角入れたのに、ねえ? あら、あなた、お腹空いた? それじゃ、食べる?」 くすくすと笑いながら少女はティースプーンを突き立てる。叫び声が鼓膜を劈くが、彼女はくすくすと笑い続けた。 赤いジャムも素敵。大好きなクランベリィパイだって今はお預け? やだわ、そんなの。私は偏屈少女。 美味しいお菓子を普通に食べるなんてそんなの面白くないでしょ? さあ、お茶会を始めましょうよ。 ● 「『偏屈少女のお茶会』――とのことなんだけど、裏野部のフィクサード。少女の外見をした『彼女』達の集まりね。性別が定かではないので、一応彼女とくくらせてもらうけれど」 資料を捲くりながら『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は苦笑を浮かべる。 裏野部の『偏屈少女』と名乗る集団がたびたび起こすお茶会は幾度かリベリスタ達が防いだこともあるが、今度は彼女たちのお茶会に本当の意味でご招待されている用だ。 「ご丁寧に、こちら、招待状。薔薇の刻印だなんて洒落ているわよねえ」 どう思う? と首を傾げる世恋にリベリスタは黙るしかない。 そもそも、彼女たちの『お茶会』と云うのは人々の叫び声を『お茶菓子』にして楽しくティータイムを過ごすと言うなんとも言い難い物であった筈だ。 リベリスタの表情が歪むのも致し方あるまい。 「……あー、まあ、これ、行かないって言うのは選択肢にはないわ。 こちら、私達とのお茶会の為に人々を集めてる。今回お願いしたいのは彼らの救出よ。 お茶会の場所は『偏屈少女』のご招待をしてくれたローズさんのお屋敷。勿論、彼女の裏野部なので暴力主体でしょうけど敵陣に態々踏み入れなきゃいけない時点で警戒は必要ね」 写真よ、と差し出されたのは赤い花が咲き乱れる白いログハウスだ。可愛らしい雰囲気を醸し出すそこの入り口には赤い血痕が絨毯の様に引かれている。 「ここにローズと、それから偏屈少女が存在してる。お茶会のテーマは『自分の大好きなお菓子のご紹介』。 お菓子の様な可愛らしい殺人をしたいと言う『少女』達が集まっている。集められた一般人は庭先とログハウスに合計して30人程度。其々を殺しながら、彼女たちは好きにお茶を楽しむ事でしょうね」 なかなか面倒でしょう、と溜め息交じり。楽しげなお茶会だという彼女たちに殺人の悪気はない。 殺して殺して、そしてソレに快感を覚える様な裏野部少女の招待状を差し出しながら世恋はお願いねと溜め息を吐いた。 御機嫌よう、リベリスタ。 最近は詰まらなくって仕方ないの。そこで、お茶会を開く事にしました。 テーマは『好きなお菓子をご紹介』することよ。私はそうね、アップルパイが好きだわ。 ソレも誰かの叫び声を聞きながら食べるアップルパイってとっても美味しいの。 準備して待ってるわ。来てくれなくったってちゃんとゴチソウサマするけれど。 素敵なお茶会になります様に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月25日(日)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ドレッドノート片手に笑みを浮かべた『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)は式神を作成し、走っていた。『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が『二人組』とペア相手を探す傍ら、玲は偵察を兼ねて裏庭へと突入していく。 「お茶会か……『招待』受けねばな! 時限となれば少々急がねばならぬしのぅ」 あくまでフィクサードに気付かれぬ様、ゆっくりと偵察を兼ねる玲の背後、頷く『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)とタイミングを合わせ、裏庭――迷路の中へと入っていく。 手にした幻想纏い。何処か緊張を浮かべる佐里の足がゆっくりと進んでいく。彼女等と別の入り口から個人で潜入した『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の濁った瞳は常の渇望を映す瞳とは何処か違っていた。 彼女達と幾度か出逢った事のあるいりすにとってお茶会の誘いは好都合であったのだろう。無銘の太刀を握りしめ、鼻をすん、と鳴らし続ける。何処かで、凶行の臭いが、気配がする。 「利佳ちゃんも悪くなかったが、打算に過ぎれば興ざめだ。そういう意味ではプリちゃんとか、ビオちゃんのが面白そうだった」 いりすが名前を呼ぶのは『偏屈少女』だ。其々の名前を耳にしながら、茶会の主催者が陣取るログハウスに足を向けた『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が幻想纏いから指を離す。 「お茶会ね……さぁ、いきましょうか?」 「ええ、折角のお誘いですが、楽しむつもりはありませんから」 ぎゅ、と長剣「白鳥乃羽々・改」を握りしめた水無瀬・佳恋(BNE003740)の瞳に強い光が灯される。速度を纏い、己を勇気づける『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)が妖狢をぎゅ、と握りしめる。色違いの瞳は眼鏡の奥で細められ、ぐるぐが扉から入るのと同時。 ――パリン。 大きな音を立て、氷璃が窓をぶち破る。ノックの代わりに挑発する様に窓硝子を叩き割る氷璃の黒き鎖が伸び上がる。室内で紅茶を飲み、一般人を殴り続ける少女が振り仰ぎにぃ、と笑う。 「御機嫌よう、アーク」 「御機嫌よう、フィクサード。本日はお茶会にお招き頂き、心より感謝申し上げるわ。 女装して人々を虐殺だなんて悪趣味も良い所だけれど……裏野部たる『貴女』達が過激派として振る舞うと言うならば、私達もアークとして――リベリスタとしてお相手させていただくわ」 挨拶の代わりに伸びあがる鎖に巻かれながら裏野部フィクサードがぎ、と睨みつける。ローズ・クローズが楽しげに笑いスカートの裾をつまみ上げ、一礼。氷璃に向けて、矢を放つローズの攻撃を受け止めたのは彼女と一緒に突入を行った佳恋だ。 「護ると、決めました。私の手が届く範囲は、必ず」 「良いご趣味ね?」 「……私の手が届く範囲など、たかが知れていますが、私が散った後、あの世で護り切れなかった人々に顔向けができるように」 それまでは、全力で戦い続けるのみ、だ。 長い髪を揺らし、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。彼女に接近するフィクサードの体が力に押され、後退していく。その様子にも、茶会の主催者は恍惚の笑みを浮かべてリベリスタ達を見詰めていた。 鼓膜を揺らす叫び声。ログハウス内の一般人の泣き声を止めようとぐるぐが走る。ばらつきの多くなった布陣ではあるが、一般人を救うという気持ちはこの場のリベリスタ達には共通してあった。 「……さぁ、お茶会を始めましょうか?」 帳が落ちる。夜の帳が、深く。箱庭を騙る檻の下、氷璃はにい、と小さく笑った。 ● 裏庭を鉅と走りながら、佐里は目を細める。左手で握りしめた閃赤敷設刻印。眼鏡の奥で黒い瞳は目の前のフィクサードを捉え、気糸で狙い撃つ。 「お茶会に招いて頂き、有難うございます」 警戒を解かないまま、フィクサードが涙を浮かべる一般人へと剣を振り下ろさんとする手を止め、佐里は緩く笑みを浮かべる。 敵陣である以上、緊張は解けない。相手はこの場所の事を熟知しているとして、地の利の無い己に不利が強いられている事は嫌でも承知している。 背筋に走る寒気に佐里が振り仰ぐと同時、背後から迫ったフィクサードのナイフを鉅が受け止める。 「これがお前らの流儀か。ならばそれに倣って言っておこうか。俺がいちばん好きなのはお前らの様な連中が思い通りにならずに、悔しがる様子……とでもしておくか」 淡々と告げ、サングラスの向こう、無明で受け止めたナイフがぎり、と音を立てる。存在するのはどれも『少女』に見間違う外見の子供達だ。鉅の言葉に満足そうにナイフを下ろしたフィクサードはこてん、と首を傾げて、佐里を見詰めた。 「お姉さんは?」 「好きな、お菓子ですか? 好きなのはワッフルですが、叫び声はいりません。それじゃ幸せな気分になれないんです」 一般人とフィクサードの間に滑り込む佐里。その剣を受けとめながら、逃げて下さいと囁けば、涙を浮かべた一般人がこくこくと頷いた。 誰かを救うために飛び出すのはいい。それが救えるなら。でも、迂闊に動けないこの状況は――とても、難しい。 「ボクはお姉さんの叫び声が聞きたいなあ」 「私達、合わないですね。一緒にお茶を楽しむ事はできそうにない」 呆れの色を灯し、フィクサードへと振り翳す連続攻撃。動き方、躱し方、そして攻撃の繰り出すパターン。 解析しながら佐里は真っ直ぐに攻撃を振り翳していく。鉅の足が一歩下がる。思考はぐるぐると頭の中を巡っていた。 (さて、どうするか……) 女性に対して、鉅が発揮できる能力は恐慌状態に無いよりはましだと言う物だ。だが、男性には効き目のないそれは万全に事を進める事は叶わない。 紅茶の香りに混ざる血の香り。お茶菓子と例えられる凶行に鉅は紫煙を燻らせて小さな溜め息を吐いた。 「生憎俺は珈琲派なんだが。紅茶にせよ珈琲にせよ香りを楽しむ物だと思うんだがな」 「それが?」 「茶菓子も無用とは言わんが、くど過ぎると風味を損なうぞ?」 その言葉に、くす、と笑ったフィクサードが真っ直ぐにナイフを振り翳す。 物音に耳を澄ませ、前線に走っていくいりすは『出逢い』を求めて走っていく。会いたいのはベリィという名の少女だった。着物姿の小さな少女。会いたい、と思うのは変わり種であるからか。 「彼女達はみんな死んだな。小生に、きちんと殺されてくれればよかったのに」 毒吐いて、リッパーズエッジを握りしめる手に力を込める。真っ直ぐに地面を蹴る。一歩、其の侭身体を捻る。一般人の骸を越えていりすがにぃ、と笑えば、其処にいたのはチョコレート色のゴシックロリータドレスを纏った少女。 「君は伊豆見お嬢さんだったかな? 小生、本命はベリィお嬢さんなんだ」 「君は素直な人だね」 ツレない、と唇を尖らす伊豆見はブラックコードを握りしめ前進する。茂みの中、彼女の踏むステップに翻弄される事もなくいりすは身体を捻る。 「矢張り、自分の趣味位はより好みできる奴のが好きだ」 灰色に濁り切った瞳を細め、いりすが牙を見せて笑う。つまらなくて堪らない。面白い事が何もない。少女はまるで花だ。花を散らすだなんて真似、したくは無い。 「伊豆見は好みではない?」 見据える少女の体を受け止める。腕に食い込むブラックコードを引き寄せて、其の侭に無銘の太刀を振るって行く。少女の軽い身体が浮き上がり、砂埃を纏いながらスカートのフリルを揺らし、いりすへと近付く距離は僅か。 「伊豆見を好きにさせてあげる」 「勿論。こんにちは、アリス。狂ったお茶会は満足できるかい? ……失望だけはさせるなよ」 ● 「お茶飲みながら殺戮ナァ……相変わらず裏野部ッテノハ狂人の集まりッツーモンダナ」 ミラージュエッジを握りしめ、掌で幾人か数えるリュミエールが困惑したのは迷路の道のりを他者から情報を貰い、何とか乗り切ろうとしていた所であった。其処まで狭くない道のりであれど、一人で歩むことになってしまった彼女が不安になるのは致し方ない事であろう。 「正義の味方ラシク人命救助コナシテ成敗ッテヤツカネ」 ん、と伸びをして、出来うる限り自身の体力を温存する。一般人にあっちに行けと声を掛け、爆発物を探すリュミエールの前に少女が一人。 長い髪の『少女』はにっこりと微笑みリュミエールへと一気に近寄った。彼女のデータはリュミエールは持っていない。ならば、このお茶会の主賓たる少女たちではないのだろう。 「ヨォ、オマエ、『スイッチ』って持ってるカ?」 「持ってるから笑ってみたの」 探し物をしてるのね、と微笑んで近寄る少女にリュミエールの笑みが濃くなった。往く手を遮る様子のフィクサードに、二人組で行動する筈だったリュミエールは小さくため息をつく。相手にしない訳には、いかないのだろう。 地面を蹴り、九尾を揺らす。短く切りそろえた水色の髪が揺れ、リュミエールは身体を捻って少女の剣を受け流す。 「あたし、好きなお菓子はタルトなの。あなたは?」 「私が好きなのはレアチーズケーキダ。勿論、自分で作れるぞ」 そう、と微笑んで、少女は目を見開いて、再度、リュミエールの細腕目掛けて剣を振り翳した。 「むぅ?」 肩を揺らした玲がきょろきょろと周囲を見回す。魔眼を使用し、一般人に声をかける彼女ではあるが、その効果を十分に発揮する事が常に出来るとは限らない。 タイムロスの中、叫び声、喧騒が周辺を満たしていく。緋月の裾をぎゅ、と握りしめ、普通の少女の側面を見せ掛ける玲はやる気を入れ直す。 「偵察も救助もできる! 妾が最強という事じゃな!? にゃはははっ」 「さい、きょう?」 聞こえる声に、仲間の物ではないと玲が背筋を凍らせる。.223BNE デザートホーク カスタムを握りしめる手に力を込めて玲は振り仰ぐ。 戦うならば、伊豆見辺りをメインで狙って行こうと玲は決めていた。それは伊豆見の好みのタイプ『死んでも死にきれなさそうタイプ』に己が当てはまるのではないか、というイメージからだ。 ――いや、死んでも死にきれないという言葉は的外れではない。死なないのではない、死ねないのだ。死にたくても、死ねない。 「ふむ? お主は?」 「……ベリィ」 情報の何もない『不思議な少女』の存在に玲はぎ、と睨みつける。破滅的なオーラを伸びあがらせ、刈り取らんとする。避けるベリィが繰り出す、四色の光が玲の体を貫いた。 近寄って、ゼロ距離、撃ち込まれるソレに玲の腹から血が流れ出る。気に留めず、吸血鬼としての牙を見せた玲はベリィににんまりと微笑んだ。 「にゃーっはっはっは! 盛大に遊んでやろうではないか!」 高らかな声に、和服を纏った少女がくすくすと笑う。時限爆弾のスイッチを持った少女達は全員が顔を見せた。後は、それを、奪うのみだ。 ● 『これより殺人集団へ攻撃を仕掛けます。避難口を作ります、生き残りたければ足掻いて! どうせ此処に居たって殺されます、急いで!』 ぐるぐの呼び掛けはスピーディに効率的に一般人を助ける為であった。敵数を減らして安全エリアを作る。助ける人が死んでしまうのなんて以ての外だ。 お茶会のジャムという添え物的なエリューション、『スイーツタルト』がローズの存在する部屋に集まっている事を良い事にぐるぐは人命救助を進めていく。 ログハウスの中に居る一般人を少しでも助けられれば、それだけでもかなりの足しになるのだ。入口から張ったぐるぐが一足先にフィクサードを倒していく傍ら、一番広い部屋で応戦し続ける氷璃、佳恋はその戦闘力と、息の合ったコンビネーションで戦いを優位に進める事が出来ていた。 増殖(ふ)えながらぐるぐが一手引く。目の前の敵に夢中になるローズが氷璃や佳恋に向けて放つ閃光を避け、佳恋は一気に剣を振り翳した。 「往かせません、言いました。私は、護るとっ!」 真っ直ぐに、告げながら佳恋は踏み込んでいく。足はそのまま、真っ直ぐに、力を込めて。長剣「白鳥乃羽々・改」は白鳥の羽を想わせ、旋回する。その流れのままにフルーツタルトを吹き飛ばす佳恋の膝元を目掛け、繰り出されるスターサジタリーの弾丸。 護る様に、氷璃の黒き鎖が真っ直ぐに絡みついた。薄氷を想わせる瞳はただ、冷たく、姿勢を低くし避ける事を呼び掛けられ、佳恋の置いたケミカルライトやぐるぐの誘導に従って、走る一般人の背に向けられている。 「……窓から外へ出て、裏庭とは逆の方角に向かいなさい」 死にたくはないでしょうと告げる声に一般人が騒ぎ、走り出す。それを全て狙おうとする弾丸はぐるぐが受け止め、攻撃の手すらをも氷璃が堰き止める。流れる様な動作で、攻撃を行い続けるフィクサードに応じるリベリスタ達。 「そういえば、聞いてなかった。あのねぇ、ローズの好みのタイプは『良い叫び声をあげるひと』なの。声を上げてくれなきゃ嫌よ?」 くすくすと笑うローズの声に佳恋はきゅ、と口を噤む。痛みを感じたって、彼女はへこたれる事もなく、真っ直ぐに戦い続けた。弱みは、見せられなかった。痛みを見せる事は出来なかった。ここで、負ける等、誰かを護れないのと同義。――それは、『戦士』に非ず。 佳恋の様子を受けながら、氷璃はフィクサードが落とした停止スイッチへと手を伸ばす、その腕を貫くローズの矢など気にもしない。何よりも先ずは安全を確保する事が大事なのだから。 「ねえ、遊び相手はこっちよ?」 「ノーマナー? Non,貴女達の流儀に合わせただけよ?」 「お茶会を潰しに来た事がマナー違反だと言うならば、正解ですけれど」 氷璃の言葉に重ねて佳恋が笑う。お茶会のマナーなど此処では何もない。ただ、楽しみ続ける事こそがルールなのであるならば、そのルールは真っ当出来ている。 「私の好みは運命に抗う人。好きなお菓子はPetits fours glacés。貴女とは趣味が合いそうにないわね、ローズ」 氷璃の言葉に傷だらけになりながらローズは声を荒げて笑いだす。 『……あのね』 幻想纏いから聞こえる聞いた事のない少女の声に氷璃が動きを止める。裏庭の何れかの仲間からの通信だろう。その声に楽しげに笑って返したのは同じく裏庭に居るいりすであろう。 『君、ベリィちゃん? 小生、君に興味があるんだ。伊豆見ちゃんじゃ失望しちゃってさ』 腹が減ったと告げる声。それに耳を傾けながら、ぐるぐが前線へと飛び込んだ。フィクサードの体を切り裂いた。引き際に開いた隙間、佳恋が滑り込み切り裂いていく。 『……そう』 ぽつり、と零される言葉に少女が反応する。接敵していた玲が一人で戦うには力不足であったのだろう。救う為に迷路内を掛け続けるリュミエールはフィクサードを倒し、更に走り続けている。だが、敵を相手にする時に、自身の消費を抑える為にリュミエールは防御に徹していた。 そのタイムロスが他の班に負担を強いたのかもしれなかった。一人で戦ういりすは伊豆見との戦いに手を取られ、鉅と佐里は敵を倒しながら一般人の誘導を進めている。 裏庭組とは対照的に三人がまとまって動いていたログハウス側では、多少と一般人の犠牲は見られたが、優位に事が進んでいたのだろう。 『佐里です。迷路の中の一般人で私達が見つけられた人には避難要請を出しました。或る程度は敵の足止めもできていましたが――』 何人かは、すでに、と言う佐里の言葉にログハウス側の面々が溜め息をつく。佐里はさっと悟った様に運命に手を伸ばした。しかし、彼女が乞う言葉は未だ神には届かない。 気まぐれなままの運命を捻じ曲げる事が出来ぬ悲しみに唇を噛み締めて、佐里は「引き続き、探索を行います」と告げた。 『君、今どこに居るんだい? ベリィお嬢さん。会えると良いな。逢いたいな。小生は君の好みかな?』 『……さあ?』 囁く様な声に、いりすの笑い声がくつくつと響く。血まみれになりながら、近場の一般人の頭へと振り翳した杖。 がつん、と鈍い音をさせ、一人、玩具に置いてあった青年の叫び声を聞きながらローズが嗤う。直ぐ様に氷璃が放つ鎖に巻かれ、ローズは楽しげに笑いながら時限爆弾のスイッチを彼女へと投げた。 「でも、この閉鎖的な空間、嫌いじゃないわ。この閉鎖的な薔薇達。まるで貴女達そのものね。 偏屈少女を作り出す為の施設でもあるのかしら?」 「さあ、どうかしら……止め、刺して下さる? とっても楽しいお茶会だったわ」 くすくすと笑い、鎖に巻かれる少女がそう告げる。氷璃との距離は幾分か。終わりを求める様に手招く少女にぐるぐは見せて下さい、と告げた。 「貴女の灯火、貴女の特異を。見せて欲しくって少々無理を言って此処に来ました。貴女もボクの一部に加えたい。確りと見せて下さい」 個性豊かな少女に告げる言葉に楽しげに笑ってローズがぐるぐへと真っ直ぐに歩み寄る。蔦に塗れ、血に濡れた少女が作り出そうとする剣。降り注ごうとする其れを受け止めて、ぐるぐがにんまりと笑う。 「素敵な灯火ですね。君をボク達の中に取り込みたい」 「嫌よ、そんなの好みじゃないの」 地面を蹴り、前衛で戦う事を得意としないローズは己を癒しながら杖を振るう。佳恋が受け止め、その胸を切り裂けば、周辺に散らばる鮮血。足元で一般人の青年がひぃ、と小さく声を上げる。 何処かで響く爆発の音にこれ以上は無理だと認識し、救い切れなかった一般人の亡骸を見下ろして、佳恋は小さくため息をついた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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