● 艶やかな肢体に雫が流れて落ちていく。普段はカールしている髪も、濡れに濡れて膝辺りまで一直線に伸びたストレートだ。麗しいと言えばその通りなのだろう、丸みのある綺麗な曲線を描く身体は白く輝いていた。 シャワーを浴びながら不死偽・香我美はその場に座り込んだ。流れていく液体を見つめながら、無意味にタイルをなぞってみる。ぐすっと鼻を鳴らして、磨かれ過ぎて傷ひとつ着かない肌を抱いた。 その時だった、何やら爆発の様な音が聞こえる。咄嗟に水を止めて、豊満な胸にタオルを巻いて、けたたましくノック音が聞こえる扉を開いた。 「何事ですの、騒々しい!!」 「香我美様、一階に野良のフィ……………うわああああああああああああああああああああセクシー!!!!」 「ああん! シリアスな場面が台無しですの!! 馬鹿馬鹿っ」 此処は奈良県のホテル。 最上階の部屋を貸し切って裏野部の一派が宿泊していた。というのも『とある用事』が奈良であったためだったが、どうやら一事件に巻き込まれたらしい。 「無名のフィクサードの集団ッスね。どうやらホテルの下に面白いものが眠っているとかで」 「面白いものぉ? 何よそれ、面白ものなら掘り当てて帰りましょうよ。時間が無いわ、30秒で戦闘の準備をしなさい。先に持ってかれる前に全部殺してしまいましょ」 ● 「皆さんこんにちは、今日も依頼をお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は慣れた手つきで資料を配り始めた。 「とある山奥のホテルがありまして、景色が良いとか、ご飯が美味しいとか、サービスが良いとか、兎に角そんな感じで今注目のホテルがあるんです」 それは良いのだが、問題はその地下であった。地下にはアーティファクトが埋まっており、おそらく大昔の遺産であると思われる。それは幸運を運ぶ作用があり、その効果のおかげでホテルが潤っていると言っても過言では無いだろう。 「ですが、そのアーティファクト。とある野良フィクサードが嗅ぎ付けて、ホテルを襲撃して掘り起こそうとするのです」 その計画は緻密な計算の下に行われている様で、手際だけは良いらしい。そのフィクサード達だけを止めてくださいという依頼ならば、其処までアークの精鋭を揃える必要は無かっただろう。 「ただ……運悪く、裏野部のフィクサードがそこのホテルに泊まっていまして……。野良フィクサードと裏野部フィクサードがガチ戦闘するのです」 つまり三つ巴だ。両方のフィクサードに利益を与えないようにして欲しいというのが今回の依頼である。リベリスタが到着した時点で、既に戦闘は始まっているだろう。しかしフィクサードの力量は圧倒的に裏野部の方が有利だ。放っておけば、野良フィクサード達はすぐに全滅するだろう。 「あと、勿論……一般人がほんの数人だけロビーに居ます。爆発で飛散したものにぶつかって動けないとか、腰が抜けているとか、そういう人達です。今回は、表向きには不幸な事件として処理できるので……一般人の生死は大目に見ます」 兎に角、早々の解決を望むようだ。 「裏野部の幹部、不死偽・香我美が居ます。彼女……『孤独』というアーティファクトを発動させている様です。その為か、警察とかが駆けつける事はありません。来たとしても……事後でしょう」 説明を終えた杏理は深々と頭を下げる。 「それでは、お気を付けていってらっしゃいませ」 ● 「オラァ!! 邪魔だ!!」 一階、ホテルのロビーには大量の血や、肉が散乱していた。中央辺りにはどでかい穴まで空いている始末。おそらく其処にお目当てのモノがあるのだろう。解りやすすぎて笑いしか出ないが、どうやらもう祭りは始まっていたようで。 「楽しい事してますわね、その楽しみを此方に渡して頂けないかしら?」 爆薬を仕掛ける男達が一斉に顔を上げた。見れば、1階のホールへ続く階段の上に香我美が1人。 「失せろ、女ァ!! ……なんでタオル1枚なんだ」 しかしその両腕には血が滴るガンドレットと、足にはヘビーレガースが有る。そして何よりフェイトを得た革醒者である事は馬鹿な男達でも理解できるだろう。 「リベリスタか、女」 「はぁん? この香我美を知らないなんて死刑宣告ですわぁ。土下座したって許してあげないんですからね」 「でかい口叩くビッチめ、美味そうな身体しやがって。死ぬよりも苦しい現実に招待してやろうか」 プッ、と香我美の口から空気が漏れ出た。その瞬間に、男達は唾を飲み込む。それもそうだ、香我美の後ろに武装した裏野部のフィクサードがぞろりと揃ったのだ。 「できる限り苦しめて殺しましょう。四肢を捥いでから、髪の毛でも掴んで首を引き抜くのが妥当ですわぁ! 一般人の皆様方も警察とか来てくれると思わない方がいいですわよ、助けなんて、来ないんですもの」 ――まあ、多分ね。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月22日(木)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ホテルの内部に絶叫と、そして衝撃が起こる。 罪も無く、それこそ無関係な一般人の悲しみと恐怖。そして裏野部を始めとしたフィクサード達の愉しさがぐるぐると廻る戦場だ。 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)はいち早く、地面を蹴り、壁を伝っていく。狙いはただ1人――不死偽・香我美。 「アークですのぉ? あらやだ本当に、めんどくさいったらありゃしませんわぁ。ちょっとお前らあいつら抑えときなさいよ」 嘆く彼女へ、牙を隠すように顔を仮面で隠しているいりすは追う。戦場は混雑し過ぎていて、フィクサード同士による擾擾たる光景だ。しかし彼女はよく目立つ。 「バスタオル一枚……ありがとうございます! ハッ?」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が一瞬だけ緩んだ表情を元に戻した。それもそうか、裏野部の配下が一斉に睨みつけて来たのだ、なんかいつもと違う本気の目で。 「乱痴気騒ぎが過ぎるな。元より恥の持ちようがないのか」 バスタオルだろうがなんだろうが、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)には関係無かった。むしろ、動物に服を着せてどうすると溜息が出る始末だ。彼女のアッパーが戦場を支配した、狙いは敵回復手と護り手、そして一般人を狙う敵。しかしだ、裏野部の回復手は護られている、此方に気を向ける事はできない。 いきなりなんだと、野良のフィクサードは困惑していた。しかし迷っている暇なんて無い。攻撃はリベリスタも裏野部も含めて行われる。 その裏野部も野良も囲んだ氷の刃。『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が構成した攻撃の群だ――敵を一網打尽にするかの如く、それらは突き刺さっていく。氷に敷かれる赤は深く、悠月は其処に容赦の二文字は無い。 苦い顔をした『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)。フォーチュナは助けなくても良いと言っていたが、ミリィ自身は一般人こそ助けてあげたくて。 「御機嫌よう、裏野部の。確かに警察は来ない。なればこそ、私達の存在があると言うものでしょう?」 裏野部のフィクサード達が、その言葉に笑っていた。既にもう死者は出ているぞと、誰でもない、フィクサードの手によって。頭を打ったのか、動けない男が居た、「ママ、ママ」と動かない肉の塊を揺する少女が居た。しかしだ、葬送の音色一発で、無残にも消えていく。ミリィの拳を握る手が開いて、其処から血がぽたりと落ちながら言う。 「この手で掴める命がある限り、絶対に離しません!」 ――さあ、戦場を奏でましょう。 確かにこのホテルの下には幸運を呼ぶ壺があるのだろう。その壺がホテルに幸運をもたらしたというのなら、リベリスタが、アークがこの場に来た事なのかもしれない。この血が流れる舞台を少しでも早く終わらせるための。 既に事件が起こっているホテルだ。事前というものは存在せず、千里眼は不可能だ。『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)はそのままチラリと見えた香我美へと手を振った。 「今日はいつもに増してセクシーだね。俺様ちゃん惚れちゃいそう☆」 「……もうっ」 それどころじゃない、とでも言いたげな香我美はそのまま野良の敵中央に向かって地盤に衝撃をひとつ。ホテル全体が局地的に地震が2回程起きた。直後、デュラが巻き起こした麻痺の嵐が野良の手足胴体を切り裂いてバラバラに仕上げていく。 さておき、葬識はそのまま爆薬のあるホテル中央を視た。おそらく壺はその下の更に下。爆薬の量から言って。 「……ま、既に露出しているとか、そんな簡単な場所には無いか」 「だね☆ 大昔の上にコンクリが結構邪魔しているしねー」 壊すには、壺の場所まで行くか、掘り当てたのを壊しにかかるか――か。 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が葬識の声を聞きながら、ユーヌの腕を引いて己の後ろへと隠した。アッパーの効果か、マジックアローやら灰塵等々に狙われる彼女の身代わりになるために。 「しばらく、ご一緒しよう」 「ふむ、すまないな」 そんな会話は一瞬だけ行われた。直後に降るのは攻撃の雨、今しがたユーヌが引き寄せた神気閃光やリーガルブレード。しかし、シビリズの身体に傷はつかない。 その頃、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は影人を増やし、手近な一般人を外へと運ぼうとしていた。しかしその作業、敵が多い中でやるには少々難とも言えるだろう。現に、血の気の多い裏野部の集団だ。放たれたマグメイガスの葬送曲が一般人ごと貫いて瑠琵の胸に刺さる。げらげら笑ったマグメイガスに、瑠琵は「ゲス共が」と呟き返して反吐を吐いた。 「こんな所でドンパチ始めやがって……何企んでるか知らねぇがとっとと失せろや!」 敵のタクトの刃の群――突き刺ささり、血を吹き出しながら倒れた野良の1人。その遺体を受け止めながら、ツァインは叫んだ。 攻撃攻撃、攻撃の嵐。回復手はユーヌに封じられ、リベリスタも回復は乏しく。状況はタイであると言えるだろうが、一般人から見える世界は地獄絵図であっただろう。 絶叫よ、血よ、舞い踊れ。今宵、主役は誰なのだろうか。 ● 「くっそお!! 急げよお!!」 「無理だ!! 逃げ――ぎゃああ!!」 軽快な裏野部の刃に押され、そこにリベリスタの攻撃さえも加わって野良の数は短時間で大きく消えていく。愚か、と言えばそれまでだが因果応報。 「チェックアウトはしておくべきじゃぞ。って、チェックインもしてないかの」 瑠琵の視界が真っ白に成った――というのも裏野部のホーリーメイガスのジャッジメントがホール一体を包んだのだ。頭を振って視界を保とうとする瑠琵はそのまま式札から烏を召喚。直後マグメイガスの葬送曲が周囲を貫いた。 だが瑠琵はツァインが召喚した英霊に護られて鎖を抜け出す事はできた。目の前で倒れた野良の男の死体の背に刺さったナイフ、それを抜き取りながらソードミラージュは刃に氷を纏わせている。 グラスフォッグ――悟ったツァインは吼えた。 「熾喜多ァ!!」 「はいはい」 上から降って来た殺人鬼。正しくは裏野部のタクトの頭を狩り終え、そのまま階段から飛び降りて来た訳だ。葬識は開いた鋏を振り切って漆黒をソミラへと当てた。その瞬間ファンブルする、ソミラの攻撃。 「さてさて、殺し放題やり放題、裏野部ってホント野蛮。デリケートな俺様ちゃんは怖い怖いだよ☆」 「邪魔だねぇ」 いりすは香我美の後を追う。雷を従えて、野良の息の根を引き千切った香我美はそのまま爆薬の下へと達していた。 「行かせられないので」 「知ってるけどね」 だがいりすの目の前には神秘を纏ったデュラの女が居る。強烈な一撃を受けたいりす、直後暗黒にて反撃したもののまだ手応えこそ無い。まだ、彼女の下に届かない――。 「う、ううぅ」 ミリィの身体が震えた。 救いたかった――救えなかった。戦乱の波に流されて、消えた命の量は多すぎて。それに手を回している暇さえも妨害されて。瑠琵と共に命は救うと行動していても、救えたのはほんの一握り。 「あ、あああ――ッ!!」 突き出した手のひら、そこから光が生まれた。先の敵のジャッジメントレイにも負けない程に光り輝くその光――何故こんな事になったのだろうと悔やむ気持ちを胸に、ミリィは敵を貫いた。 その光に混じって、悠月の氷刃が敵を貫いていく。この攻撃によって、不運な野良は完全に息絶えた事だろう。ニヤっと笑った顔、氷刃のひとつを香我美は右手で掴んで止め、バキィと音を立てて潰した。 「ハイデイライトウォーカー……」 「ふふ、御機嫌よう。アークの魔女様」 「香我美。貴女の名前のようですね」 「はい! 悠月様に呼んでもらえるなんてこの上なく光栄ですわぁ!」 彼女たち(裏野部)がお行儀良くホテルに寝泊まりしていたのも不思議な光景だと感じた悠月。不思議な女だ、不死偽は。ついでに悠月の目が下へといく。何故、バスタオルなんだ。そこはツッコムべきでは無いと心の中で彼女は呟いた。 香我美は動く、手元の爆弾を起動させつつ地面へ置いたのだった。そこから離れながら、彼女はユーヌの下へと飛んだ。 「お強いのねぇ、強い方は好きですわぁ!」 奥で響く爆発音。ユーヌの瞳は香我美を追っていたが、彼女はその眼前のシビリズへ攻撃を映した。邪魔なのはユーヌだ。しかしそれ以上にシビリズの存在が香我美にとって目障りであった。 「硬い男もなかなか、好きですのよ!!」 香我美の手がシビリズに触れた瞬間だった、地響きはふたつ、防御を無視され内臓が直接ミックスされるような衝撃を受けたのだった。しかしそれでシビリズは止まる事は、けして無いのだが。 「しかしなんたる格好だ。夏とは言え……闘争に容姿は関係無いとは思うがね、なんだ。格好ぐらいつけたまえよ」 「あらやだ、恥ずかしいですのっ、だって時間無いかなって思ったんですの」 ちら、と見えた谷間を寄せてみせた香我美。もしかして私は遊ばれているのだろうかとシビリズは首を捻った。 そんな香我美を追ういりす。ついに目の前のデュラの首にナイフを刺し、横へ引けば白目を向いて倒れたデュラの女。先に――いりすは前へ、前へと進む。 ● そして事件は起きた。起こるとは思っていた。やるとは思っていただろう、この場の誰もが。 ツァインを背に戦っていた葬識がのらりくらりといつの間に居なくなっていた。何処に行ったんだと彼は顔を振ってみれば葬識はトコトコ香我美の方へと歩いて行っている最中だったのだ。 「お、おおい、熾喜多ー……? うわ!」 気にしてみたが、其処で葬送の鎖に分断され彼を追う事はできない。 「……ん、もう!! 倒れない殿方は嫌いですのよ!」 「ク、ククク!! クハハハハー!! もっとだ、もっと俺を楽しませろ!!」 「な、なんか人格変わってまっせん?!」 4度目の土砕を放った香我美、しかしそれでもシビリズは耐えきって見せた。今こそ狙い目だ、双鉄扇を振り上げ反撃のヘビースマ……。 「ワーオ! コレ以上は見せれません☆」 「あ……ら? ゃぁんっ、葬識様ったらもうっ」 葬識の指がタオルを掴んで、そのまま引いたら綺麗にバスタオルがソウルバーンした。だって男の子だもん、バスタオルの中身は見たいよ! 瑠琵こそ、顎に手を置き「ほほう」と上から下まで舐めるように観察した、何とは、何とは言わないけれど。 「うわぁぁあああ!! 俺の永久炉が不沈艦!! じゃなくて俺は敢然なる者敢然なる者敢然なる者……!」 「ぎゃぁぁああ!! アリス様があああ!!」 「うわあああああ!!」 ツァインがそのまま色々爆発した瞬間に、裏野部親衛隊の攻撃が一斉に葬識へ向いた。彼は悪くない、彼は悪くないんだ、好奇心だったんだ。涙目になっている親衛隊の攻撃が飛ぶ中、葬識は何食わぬ顔でバスタオルを持ってツァインの下へ帰って来た。 「ただいまー☆」 「ええええこっち来るのかー!!?」 そのまま2人は攻撃に被弾した。南無。 「……やぁんっ! 恥ずかしいっ!」 大して恥ずかしがってもいない声で香我美は両手で頬を抑えた。それ見えるから、モロ見えるから、何とは言わないが点と線が全部見えるから。あえてホテルの窓の奥の光景を見るシビリズ。その後ろに居るユーヌの目線が痛い。 「俺、この依頼に来れて良かった……来れて良かった……! くそ、言う事を聞いてくれ俺の腕!!」 丁度良くあった何処の誰かのものかは知らない、ホテルの浴衣的なものを香我美に投げようとする腕が震えているツァイン。攻撃をすり抜けて、匍匐前進しながら考えていたが。 「いいから早く渡しなさい」 悠月の声が耳のすぐ傍で聞こえる様。ツァインはそれを香我美へと投げたのだった。そんな光景を見ながら、ユーヌは無表情で駄目だこいつらと思ったに違い無い。 しかしまあ、その間にも爆発は響く。 ● ボーナスタイムはさて置いて。 此処までに殺せた裏野部のフィクサードは2人だった。爆薬は裏野部のイージスの手に、そして爆発は回を重ねていくごとに吹き飛んでいく土。 瑠琵はその状況を見逃さずに見ていた。しかしだ、どうにもこうにも敵の数の方が多い。 先に爆薬に到達し、数の力で圧倒していた裏野部だ。加えて回復手が健在している事にリベリスタは多少なりとも苦戦を強いられている。一般人の救出に、ダメージの無い攻撃が重なって、敵の回復量の方が更にリベリスタに足枷を作っていたと言えるだろう。 ついに露出した壺を持ったのは敵のホリメ。護るクロスイージスの3人は彼を庇うのだろう。行かせる訳にはいかない――瑠琵は烏を撃つが、やはりそれは阻まれてしまう。直後、瑠琵には光り輝く剣が振り落された。その剣をぎりぎりの所で防ぎつつ。 「壺じゃ!!」 瑠琵の声が響く、しかしだ、敵は既に防衛戦の体勢に移行していた。もはや職も関係無く、人数にものを言わせて壺を護るのだろう。裏野部らしく、強引に。 行かせるものか、悠月の氷刃が裏野部を囲んだ。一斉に落ちるそれら、その中で、けれど足を止めるには――。 「幸運の落とし前がこれか?」 真っ黒な瞳――ユーヌのアッパーがホール中に響いた。それは、もはや最終手段か。何人引き寄せた所で、壺だけは逃がさないと眉間にシワを寄せた彼女。そのままシビリズごと攻撃の群に飲まれていく。 走り出したミリィ、しかしマグメの青年が立ちふさがった。先程、目の前で一般人を殺して笑った男が――。 「どいてください!!」 「……ぬ、ぐ!?」 凍り付いた、ミリィの瞳。射抜かれた彼はびくりと肩を揺らして止まった。そのまま指揮棒で首を叩きつけたミリィは先の――背を向けている彼女へ放つ凍った瞳は確かにホリメを射抜いた。でも――その姿は非常口に紛れて消えていく。 自分の腕はこれ程に短かっただろうか。ミリィは伸ばした腕を、階段の手すりに思い切りぶつけたのだった。 「ところで、どえむさんて「殺せない」人よな?」 ぴく、と動いた香我美の身体。柔らかい身体がふるりと震えた。その姿を確認しながら、いりすは言葉を紡ぐのを止めない。血でよく滑る香我美の腕を引っ張り、いりすは彼女の耳を甘く噛んだ。 「興ざめしたってのは、どうにも体の良い言葉よな。相手に対し優位性を示し「それ」を悟らせない」 殺せない、殺せる力が無い。そうだろう、そうなのだろう?と親衛隊に聞こえないように、わざと小さな声で言う。 「……あ、貴方……ッ!!」 普通、腕の1本でも折れた時その痛さにこんな顔になるだろう。まさに今、香我美の顔が痛みに歪んだような顔をしたのだった。 「ち、ぁ、違っ、ななな、内緒にしてくださいっっいりす様っっ」 慌てたように香我美はいりすの口を両手で抑えた。 ――覇界闘士。一見、バランス型や攻撃型やらそんな印象を持ちがちだが、香我美は完全に違うのだ。負けないが、勝てない――そんな。 「香我美様から離れろ!!」 「どうしました、アリス?」 「な。ななななななんでもありませんわっっ!」 いりすを退け、香我美は後退した。壺を奪取した事をそこで初めて知った香我美だ。 「アリス……」 「興が、さめましたの悠月様」 複雑な表情を向けた悠月。その顔にゾクゾクするものを感じながら、香我美はくるりと背を向けた。 「その血が出るAF使うの止めね? せっかくの玉のお肌が台無しじゃねぇか」 「……え」 ドキっと高鳴ったのは香我美の胸。両腕から絶えず血を流し続ける彼女へ送ったツァインの言葉が香我美の頬を赤く染めた。 「え、ええ、ええっえぇ、それは、それは駄目ですわぁ! ツァイン様でしたっけ……覚えておきますの」 そのまま香我美は部下の連れて消えていく。 荒れたホテルの、大きな事件は小さな事件として処理されたという。 幸運? そんなもの裏野部が食べてしまったのさ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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