● 「ふむ」 パラと新聞の記事を捲り、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)はカップを口元へと運ぶ。 ……が、眉をしかめる。中身は既に冷めていた。 新聞を読むのに気を取られて放置しすぎたか、それとも部屋の冷房を効かせ過ぎたか。 空調のリモコンに手を伸ばし、少し悩み、そして置く。 読んでいた新聞に熱中症の記事が載っていたからだ。 何より快適なのだから仕方ない。暑い日に空調の効いた部屋に居る、これほどに恵まれた事は無いだろう。 現役時代にジャングルを這いずったり、中東で砂埃に塗れた時を思えばこの室内は極楽だ。 アーク本部でフォーチュナの仕事をする事も考えなくは無いが、まあ暫く休むとしよう。 道中は暑いし、態々タクシーを呼ぶのも面倒である。 冷めたお茶は淹れ直せば良いのだ。逆貫はグイとカップの中身を飲み干し、……そこで床に寝転がっていた『paradox』陰座・外(nBNE000253)と目が合う。 折角なので淹れ直しを頼もうと逆貫が口を開きかけたその時、けれども先に言葉を発したのは外だった。 「おじさんってさ……、見た目より甲斐性ないよね」 ● 「うむ、つまりあれはこの陽立逆貫に対する挑戦だと私は受け取ったのだよ。自分を何処かへ連れて行ってみろと言うな。……君はどう思うかね?」 ずいと迫り、問う逆貫。 いやそんな事聞かれても正直困る。どうやら眼前のおっさんの矜持は多少傷付いているらしい。 「確かに外1人を連れて何処かへ行くのは簡単だ。だが其れだけでは私のプライドが満足しない。アレにも催促さえすれば簡単に何処かへ行けると思われても困るしな」 本当に面倒臭いおっさんだ。しらんがな。 家庭内の事は家庭内で片付けろと思わなくもないが、無視すると後が余計面倒臭そうなので仕方ない。 曖昧に頷けば、我が意を得たりとばかりに逆貫の話が加速する。 「と言う訳でだ、温泉へ行くぞ。諸君等もだ。丁度良い場所があってな。旅費は、旅費は、……私が出そう」 嫌なのかよ。 まあ他のフォーチュナも頻繁にリベリスタを遊びに誘う者がちらほら居るので、偶にはと言う事なのだろうけど。 温泉地の資料 ある山にはアザーバイドの力を吸い取って山の生命力と化す封印されており、更にはその地に温泉が沸く事が判明した。 その山を巡っての事件が発生したがリベリスタが解決、その後更なる事件の火種とならぬ様、或いは何れ封印されたアザーバイド自体も滅ぼす為に、山は適正な手段でアークが所有権を買い取る事となる。 折角の場所を眠らせて置く事もあるまいと、小規模な宿泊保養施設の併設された温泉が完成したのが、つい先頃。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月22日(木)00:26 |
||
|
||||
|
||||
|
■メイン参加者 35人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「~~~~~っぷはぁ」 熱い湯の中で、喉を酒が下っていく感覚に堪え切れぬとばかりに吐息を溢すは藤倉隆明。 混浴と聞けば入るしかない。男とはそう言う物なのだ。 何せ視線を巡らせば美少女、美女には事欠かない。酒のアテにはもってこいだ。 例えば、そう、そこで互いに身体を洗い合う2人組。 「さぁ魅零さん、座ってください! 長い尻尾は1人で洗うのは大変でしょうし 今日はうちが洗って差し上げますよっ♪」 にこにことした笑顔で泡立てたスポンジを片手に黄桜魅零の尻尾、硬質で何処か骨を思わせる其れに手を伸ばす水無瀬流。うん、超可愛い。 けれど知っているか。魅零の尻尾は 性 感 帯。やだえろい。 「え、え、尻尾、洗います? そこ、洗うんです? あ、あ、あ、ちょちょちょちょまっ―――!!」 「♪~」 尻尾を捕まれた事に驚いて思わず静止の声をあげかけた魅零だったが、時は既に一瞬遅く彼女の尻尾を流のスポンジが撫でて行く。 優しく、傷を付けない様に、丁寧に、心をこめて。けれど其れは受け手からすれば最早愛撫と何ら変わる事無く、 「あ、ちょ、そこ、やっ、あっ、ひぃんっ!!?」 「……それにしても、格好いい尻尾ですよねっ。羨ましいです!」 艶を含んだ声があたりに響く。えろいえろい。そして流ちゃん聞いてない。 暫く後、ぐったりして身体をビクンビクンと震わせる魅零と、 「さぁ魅零さん、今度は逆側洗いますよっ」 「まってまってまってお願い今はちょっと本当に拙―――――っ?!」 逆側も同じ様に丁寧に洗い出す流。仲良き事は美しきかな。 「ふふっ、温泉、楽しいですね♪」 何よりです! 美女と美少女、2人の艶やかな艶姿に隆明が飲み下すは酒で無く生唾。 え、助平だって? 「はっはっは! エロくて何が悪いってんだ!」 いやいや君は悪くない。エロも勿論悪くない。 はいはい、次々、まあ彼女等程では無いにせよえっちな展開はそこかしこで繰り広げられる。だって此処は混浴だから! 「…………んっ」 長い口付けが漸く終り、顔を離した新城拓真を、風宮悠月はほんの僅かに咎める様に、けれどその実心の内には幸せを含んで許しながら、 「人前ですよ」 唇に笑を浮かべる。咎めれてないですね。 顔は離れど、体は離れず、抱き寄せた肩はそのままで、少しばかりの照れ臭さはあれど喜びの量は遥かに大きい。 「暫くこうして居たい、構わないか? ……今日は、そんな気分なんだ」 普段は何時も前を目指して走っている恋人の、精一杯の甘えの言葉。 不器用な彼を共に戦い支える女は、 「はい」 僅かにはにかみ、今は男に安らぎを与える。恋人の胸に頭を預けて見上げた空は、月と星で満ちていた。 降り注ぎそうな夜空を拓真と悠月は共に眺める。 「こうしているだけで、随分とリラックス出来る。……悠月はどうだ?」 「良い湯です。本当、染み渡るように……疲れが癒されます」 心に満ちる暖かさは決して湯のせいだけでは無いけれど、口に出すのは野暮だから。 ゆっくりと、大切な時間は流れていく。 掛け替えの無い戦士の休息。恋人との思い出。 「……あぁ、今日は月が綺麗だな」 不器用な拓真の愛の言葉に、2人はもう一度唇を重ねた。 「温泉って秋や冬のイメージだけど、晴れた夏空の下っていうのも悪く無いね」 新田快は平静を装い所感を述べるも、その視線はレナーテ・イーゲル・廻間の水着姿に釘付けである。 あまりに判り易い快の態度だが、レナーテも其れを咎めはしない。寧ろこれほどに喜んでくれるのならば、冥利に尽きると言う物だろう。 まあ少しばかり恥ずかしいけれど。 「温泉ってあんまり来ないのよね。嫌いなわけではないのだけれど、だからまあ、割と新鮮だわ」 レナーテは湯の中で足を伸ばし、その熱さに吐息を吐く。 「凄く似合ってるよ。その、凄く大人っぽくて」 恋人の水着姿を見れた事に、生の喜びすら実感する快。 是非次の任務で不慮の事態に遭遇してください。首とかもげろ。でも死んだら恋人泣くだろうからフェイト一桁になる位で勘弁してやるよこのリア充マジ滅べ。 「大人っぽいって、普段はそうでもないという事、かしら?」 照れ隠しと、喜びと、入り混じるやり取りの最中にも、2人の距離は少しずつ近付いていく。 やがて後ろからレナーテの身体に手を回し、抱き締める快。 「……どうしたの?」 聞かずとも、本当は答えは判ってる。それでもレナーテが聞いたのは、傷付いた快が心の内を、少しでも話し易くする為だ。 「ん。今、生きてるんだなってことを、確かめてた」 快の返事に、レナーテは体に回された腕に刻まれた傷をそっと撫でる。 戦士は何時も傷だらけだ。身体だけで無く、心も。 絆を結んだ相手を失い、次は自分の番かと、否、自分の最も大切な人の番では無いかと怯える。 ……お互いに。 「今は、いくらでも付き合ってあげる」 少しでもその傷を埋める為に。 ドキドキと激しすぎる胸の鼓動が、どうか相手にばれませんようにと願いながらアリステア・ショーゼットは顔を俯かせる。 けれど彼女に逃げ場は無い。だってアリステアが座るのは、神城涼の足の間、つまり簡単に言えば彼女は涼に後ろから抱き締められていたから。 アリステアにとってのせめての救いは、この角度からなら真っ赤に染まった顔を涼に見られずに済む事だろうか。 まあうなじまで赤いのは湯が熱すぎるせいだからと自分で自分に言い訳をして。 ふと、涼の手がアリステアの髪に触れる。優しく、軽く、撫でる様に。 これ以上無いと思っていたアリステアの鼓動が、更にもう一つ跳ね上がる。 ドキ、ドキ、ドキ、と。胸を突き破りそうな程に心臓が波打つ。嗚呼、きっと涼にはもうばれているだろう。 背中にくっついた涼の胸に、アリステアの鼓動が伝わっていく。 涼の声が耳を擽る。水着を褒めてくれている様だけど、緊張と恥ずかしさで上手く返事が出てこない。 けれど、恥ずかしかったり、緊張したり、ドキドキしたり、其れ等は全て幸せだ。 余裕の無いアリステアはきっと今は気付かないだろうけど、其れはとてもかけがえが無く、贅沢な事。 腕の中の少女の様子に、可愛らしい恋人の姿に、涼の笑みが深くなる。 一緒に過ごせるこの時間の貴重さを噛み締めて。 しかしカップル多いな! あまりのいちゃいちゃっぷりに砂糖を吐きそうと言うか激おこです。 この地に封じられたアザーバイドよどうか今だけ目覚めてこの湯を熱湯に変えてください。 「ふぁーっ、良い湯だ」 そう、丁度その封じられしモノに思いを馳せ、天を見上げて湯に浸かるはツァイン・ウォーレス。 彼はこの地を巡る三尋木との戦いに関わり、その勝利に大きな貢献を果たした。 その際に助けたこの山の元の持ち主やその娘との再会が叶わなかった事は少しばかり残念だけど、ツァインは改めてこの地に封じられたモノを調べようと心に決める。 彼等の平穏の為にも。 「こうして二人きりで温泉に入るのは初めてね」 何故か妙に緊張してしまってるミリィ・トムソンの様子に僅かに微笑み、宵咲氷璃は彼女へと手を差し出して中へと誘う。 折角2人で温泉を楽しみに来たのだから、恐縮されても物足りない。 「氷璃さんは私と違って大人で、綺麗ですし」 伸ばされた手を取りながらも、もごもごとミリィはもどかしげに言葉を紡ぐ。己の語彙の少なさを嘆きながら。 しかしミリィで無くとも今の氷璃の美しさを的確に表現するのは難しいだろう。 その名の通りに冷たい氷を思わせる彼女の白い肌は、湯の熱にほんのり朱に染まり、黒い水着とのコントラストはえも言われぬ色気を醸し出す。 氷璃自身は成長せぬ自分の身体に思う所が無い訳ではないのだが、けれどそのギャップは寧ろ妖しさを感じさせる。 とは言えミリィとて氷璃とは方向性は違えど充分以上に可愛らしい。 「貴女もきっと将来は美人の仲間入りよ?」 そう、氷璃の言葉通りに決して卑下する事は無い。将来と言う言葉は少しだけ胸に刺さるけど。 「今でもこんなに可愛らしいのだから自信を持ちなさい」 急に褒められ慌てるミリィの頬を、氷璃は悪戯っぽく笑い撫でる。 「わわっ!? と、突然どうしたんですか?」 ミリィのそんな反応すらが楽しく、可愛らしくて、2人の時間は和やかに過ぎる。 ちなみにこの後2人による逆貫の甲斐性の無さへのDisがはじまったのだが、まあ其れは別の話。 「ヒュッー! みんなで湯治だ!」 湯煙に向かって拳を突き上げ、結城竜一が歓声を上げる。 戦いに体も、そして心も傷付いた友人を誘った彼は優しい男である。変態だけど。 「壱也はこういう場所でご一緒するのは初めてだな。兄がお世話になってるのだ。ボクとも仲良くしてくれると嬉しいのだ」 水着姿は少し恥ずかしいけれど、誘ってくれた竜一や、初めて一緒に遊びに来た羽柴壱也の気遣いが嬉しくて、朱鷺島雷音は頬を染めて笑む。 彼等が自分を気遣う理由を、聡明な雷音は判っていた。 誰も彼もが傷付いている。彼等だってきっとそうだ。なのに彼等は優しさを向けてくれた。 何時かは心の傷とも向かい合い、乗り越えねばなら無い。 その為にも、今は安らぎを貪ろう。 「もちろん! 雷音ちゃんはかわいいなー。お兄さんと大違いだよ癒される!」 抱きついて来る壱也が暖かい。胸板は少し硬いけど、彼女の真心が雷音を優しく包む。 二人の優しさに、湯殿の暖かさだけでは無く、雷音の心が温かさを感じる。 「よし! じゃあ、二人とも! 湯に入る前に俺が洗ってあげよう! 体の隅々まできれいにしてあげるよ!」 だがまあ如何に優しかろうと竜一は変態だった。 無論そんな提案が受け入れられる筈も無く、壱也に腕を極められた竜一の身体を雷音がゴシゴシとこすっていく。 例え優しさからだろうと乙女がそう易々と肌を男に許せる筈が無い。 でも悲鳴を上げながらも竜一は何処と無く嬉しそうで、まあ仲がよろしくて何よりです。 その後、女の子2人の胸を見比べた竜一が、雷音の勝利を告げて壱也に湯に突き飛ばされたりしてたけど、其れも全て互いの信頼があるからこそ許される一幕で。 「う、ば、ばかーーーッッ!! まだこれからなんだから!!」 叫ぶ壱也は可愛いけれど、女の子のコンプレックスは本当に可愛いけれど! まあでもそれはちょっともう無理かなって思います。 「皆元気ね」 賑やかな周囲の様子に、くすと笑いを零した六七。 久しぶりの温泉に目を細める彼女。本当は温泉は裸で楽しみたい所だが、ルールはルールなので仕方ない。 元気の有り余った男性リベリスタ諸君との混浴だ、そういうルールが出来るのも仕方ないだろう。 「ううん、気持ち良い……」 広い湯船に足を伸ばし、染み入る熱さで疲労を流す。 耳を澄ませば虫の声が聞こえて来る。温泉と言えば冷え始める秋や冬のイメージがあるが、夏の其れも乙なものだ。 ほうと熱い溜息を一つ吐き、六七の時間はゆっくりと過ぎる。 ● 何故こんな事になったんだろう? 外は疑問に首を捻る。 「いいか。これは遊びとは言え勝負だ。勝敗は兎も角、手を抜く事だけは許さんぞ」 両手にラケットを構えて釘を刺してくるのは蜂須賀朔だ。 確か首領にも満面の笑顔で突っ込んだと言う、所謂一つの勝負狂い。正直外から見ればちょっと怖い人である。 そして台の向こうの対戦相手を見れば……、斬風糾華とリンシード・フラックスという美少女コンビ。 華も実力もある2人に、外は勝てる気が欠片もしないのだけれど……、 「気合を入れたまえ陰座君。買てばパンダのグッズを買ってやる」 よしガチで行こう。それでも朔の言葉は外の心に的確に火を着けた。 リンシードが高速で舞い、糾華が更にリズムを刻む。 遊撃と撹乱、相性の良い、そして息の合った二人の動きは、ある種芸術的ですらある。 まあ胸がちっとも揺れないし、浴衣も全然肌蹴ない二人だが。 さて置き、本物の実力を誇る2人の少女は確実にリードを稼いでいく。 「私が勝ったらそのぱんだ、ください……駄目ですか?」 どうやらパンダを気に入ったらしいリンシード。贈り物は吝かでは無いけれど、それでも外とて勝負である以上簡単に負ける訳には勿論行かない。 少女2人にリードを許せど、朔にも、外にも焦りは無く、そして諦めも無い。 動きに劣る外の穴を、ダブルアクションで時折2人分は動く朔が必死にフォローし、なんとかリンシードと糾華に喰らい付く。 そして遂にその時は訪れる。朔に訪れたスマッシュチャンス。 「陰座君、極縛陣だ!」 外に指示を飛ばしながら、朔が放つはアルシャンパーニュ。光の飛沫が散るような芸術的なラケット捌きは強烈なスマッシュと化す。 そして陰陽・極縛陣は素早さを禁じる特殊な結界。リンシードの速度を殺し、糾華に不吉を呼んだなら、戦局はここからひっくり返るのだ。……ちゃんと極縛陣が当たればだけど。 迫るスマッシュに背中合わせに少女達が立つ。 回避に特に優れるリンシードに外の極縛陣が効果を発揮しよう筈が無く、糾華に至ってはクリティカルで避けられた。 「リンシード、アレをやるわよ!」 糾華の宣言に頷くリンシード。朔、外組の敗北が、少女達の必殺技に拠って華麗に決まる。 何故こんな事になったんだろう?(二回目) 眼前を飛ぶ攻勢の閃光、ジャッジメントレイを見ながら外は首を傾げる。 「とりあえず外が審判な」 「ふぁい?」 通りすがりの外が捕まったのは霧島俊介。 外は俊介を然程知る訳ではないが、人の命を救う事に拘る優れた癒し手という噂話くらいは聞き及んでおり、……故に安全と判断してしまったのが拙かった。 「よっし審判見つかった。ふはは、じゃあいくぞ葬ちゃん正々堂々!!」 台の向こうに居るのが熾喜多葬識(怖い怖い殺人鬼)である事や、俊介が時折過激に悪ノリする性質を知っていたら、きっと一目散に逃げただろうに。 まあだがもう遅い。 「正々堂々といくのはまかせてがってん☆」 シャキンと、葬識は打ち込まれたピンポン玉を手の大鋏で切り裂く。 いや卓球ってそういうゲームじゃネーから。 打ち込むボールが全て切り裂かれるに至り、俊介の我慢に限界が訪れる。 「ヲォォォオオイ!! ボール破壊は卓球ちゃうねんでええええ!!」 あらやだ、霧島君が普通の事言ってる風に聞こえる。そしてはじまる大乱闘、或いは友人同士のじゃれ合い。 2匹の猫の取っ組み合いは、葬識が放った嘘の一言に拠って終る。 「あ、霧島ちゃんの後ろの浴衣の女の子着崩れすごーい! おっぱいすごーい」 「おっぱいだとぉぉぉお!!!」 そりゃあ誰だって振り返るよな。着崩れだもんな。仕方ない。しょうがない。別に彼は悪くない。 けれど勢い良く振り向く俊介は肘の角を卓球台の角にぶつけて蹲る。……痛ェ。 カッ、鋭い角度で決まった不動峰杏樹の、1¢シュートの鋭さと正確さを併せ持った名付けるならば1¢ショットに、ウラジミール・ヴォロシロフの瞳から遊びの色が抜ける。 所詮はレクリエーションかと認識していたが、杏樹の本気の一撃はウラジミールの心に確かに届いた。 「本気でやらないと失礼なようだな」 ラケットを握り直すウラジミール。 目付きは鋭く、先程までとは比べ物にならぬ威圧感が放たれる。 「失礼じゃないさ。でも、本気の方がきっと楽しいぞ?」 だがだからこそ良いのだ。杏樹の唇が楽しげに笑みを結ぶ。 鉄壁を思わせる威容。これこそが杏樹が求めた物だ。 カッ! 再び放たれたスマッシュ、杏樹の1¢シュートを、けれど今度は見事に返すウラジミール。 「このディフェンスは抜けまい」 「抜いてみせるさ」 何度でも。先より鋭く、先より素早く、杏樹の動きは鋭さを増す。 対するウラジミールは機械を思わせる正確さで捌き、捌き、ボールを返す。 白熱の勝負は最早レクリエーションの域には無く……。 だが楽しい勝負も何時までも続きはしない。異常に集中力を必要とした勝負の後に、訪れるは少しの疲労と満足感。 蓋を開いた牛乳瓶を杏樹に手渡すウラジミールに、 「試合後に飲むのが牛乳というは、子供のようだがお風呂ではこれが礼儀なようだからな」 受け取り、クスと笑む杏樹。 「礼儀というより、習慣かな。火照った身体にはちょうどいいから」 ● 夜は更け、月と星が優しく地を見守る。 広場では思い思いに手持ち花火を楽しむリベリスタ達。 そんなリベリスタ達を眺め、逆貫は深く溜息を吐いた。 「逆貫! 外にいちゃいちゃしないのでござる?」 一緒にすんな。 逆貫が鬱陶しげに見やるは、何故か少し嬉しげな鬼蔭虎鐵。 どうやら逆貫を自分の同類だと勘違いしてるらしい。官憲に捕まれば良いのに。 「パパ友会に来てもいいのでござるよ? ござるよ?」 黙り込んだ逆貫に、めげずに話しかける虎鐵。違うよ、口を開いたら暴言が出そうだから返事しないだけだよ。 「あ、逆貫にこれを上げるでござる。何か色々と勉強になったでござるが拙者が持ってても腐らせるだけでござるから」 そう言って取り出したのは~NOBU feet NUKI ~。腐ってるのは貴様の頭だ! よしそうか。つまり宣戦布告か。喧嘩を売りに来たのなら買おう。 無言のままに逆貫は、ロケット花火を手に取った。 「やっほー、逆貫さん。楽しんでる?」 戦いを終えた逆貫に、タイミングよくやって来た設楽悠里が手にした缶ビールを手渡した。 年甲斐の無い姿を見られた逆貫は咳払いし、 「あぁ、君か。すまない。気が利くな」 「はい、かんぱーい」 悠里の乾杯の音頭にビールを一口含む。 程好く冷えた液体を飲み下し、口元には自然と笑みがこぼれた。 「態々年寄りの相手をしに来るとは物好きだな。君ならば共に過ごす友人は数いるだろうに」 逆貫の横に椅子を並べて座る悠里。 「こうやって沢山の友達と集まるのって楽しいよね」 他愛の無い雑談。 今日の温泉の感想だの、今年の暑さへの愚痴だの、つらつらと。 「でもさ、たまにはこういうのも悪くないと思わない?」 悠里の言葉にほんの僅かに頷く逆貫。 嗚呼、何時かまた機会は作ろう。だからその日までどうか生き残ってくれ若い友人よ。 「あらん、良いわねぇん。自分もご一緒させてちょうだぁい」 そして混ざる賑やかな色。 ステイシー・スペイシーが受け取ったビールの代わりに手渡したのは、線香花火だ。 「逆貫んと一緒に線香花火♪ 断るだなんてぇ、甲斐性のないこと言わないわよねぇん。言・わ・な・い・でしょぉ」 苦笑い一つ零し、逆貫は手渡された2種類の線香花火を見比べた。 ステイシー曰く火薬を紙でよったこよりの様な長手と、藁の先端に火薬をつけたすぼて。 嗚呼、言われてみれば確かに2種類とも見た事がある。長持ちさせるコツも種類に拠って違うらしい。 小さな火の花が手の先に咲く。 しみじみとゆっくり、ゆっくり時間は流れる。 一人がされば、新たに一人やって来る。今日は随分と賑やかだ。 「逆貫さんか、僕とは初めましてかな? 妹がお世話になってるね、話は聞いてるよ」 次に会釈し、近付いてきたのはロアン・シュヴァイヤー。 ロアンは逆貫の手の、空になった缶ビールを見やり、 「良かったらおかわり、一緒にどうかな?」 新しいビールを手渡した。 「ああ、無論喜んで」 そこらに光る花火を肴にビールを静かに飲む2人。 夜に外でビールを飲めるのも、夏ならではと言った所か。 「ねえ逆貫さん、『視える』って、『人よりも視える力』って、どんな感じなんだろう?」 やがてロアンの発したふとした疑問は……。 「おーおーコイツか。碌でも無い依頼ばっか持って来るっつーガラクタフォーチュナは」 突如響いた声に逆貫は振り返る。 「ああ、君か。成る程、君にだけは何と言われようと仕方が無いな。名乗りは不要だ。君の事は当然知っている。……宮部乃宮、火車君」 ガラクタフォーチュナ、確かにそう呼ばれても仕方ない。 もっと察知が早ければ、もっと詳細な情報を読めていれば、安全性がずっと上がった任務は数多いだろう。 きっと逆貫に限らず、多くのフォーチュナが味わうその無力感。 余りに危険度の高い任務は、握り潰したくさえある。握り潰せば、見ず知らずの誰かが死のうとも、眼前に居る彼等は無事なのだから。 けれどそれは許されない。 「おい甘えんなよガラクタのおっさん。オレはそんな話しに来たんじゃねぇ」 勿論それも判ってる。判ってるともさ。宮部乃宮君。 「やっほー、ナイトくん。来るって思ってたよ」 御経塚しのぎの声に振り返った御厨・夏栖斗の表情から、僅かに浮かんだ期待が消える。 「よ、しのちゃん、この前の決戦はおつかれ、ありがとな」 何事も無かったかの様な返事だけど、しのぎはちゃんと気付いていた。 ああ、あの子だと期待させてしまったのかと。 彼とあの子の付き合う切欠は花火だった。それもしのぎは知っている。これ以上無い程に、記憶は身の内に刻まれているから。 「大方あの子との惚気話でもしに来たんでしょ。いいよ、聞いてあげる」 ゆっくりゆっくり夏栖斗は『あの子』を語り出す。 祭りではぐれた彼を探す為に、鼻緒を切らして裸足で歩き回った事。 殴られた事。背負わされた挙句首筋を噛まれた事。 喧嘩もしょっちゅうだった事。 一つ、一つ、確認するかの様に。しのぎに宿った彼女の記憶が、どんな気持ちから生まれたのかを知って欲しくて。 「うん、知ってる。あの子の事ならもう、なんでも知ってるよ」 指先が服の裾を掴む。 彼の瞳に映るのは……、 「大好きだったんだ、彼女のこと」 大好きだった彼女の姿。 「うん、それも、知ってるよ」 今年の夏は、嗚呼、とても暑い。 「んー、星空が綺麗な良い夜だな。それに空気も澄んでるし……絶好の花火日和って奴だな」 大きく深呼吸し、夜気を胸に吸い込んで、葛木猛は隣に並ぶリセリア・フォルンを振り返ってニッと笑む。 思わず吸い込まれそうな、見入ってしまう空に心を奪われていたリセリアも、猛の視線に気付いて凛とした唇に笑みを浮かべた。 「流石は山の空。こんなに綺麗なんて」 騒動の元がその内に眠ると言うこの山だけど、それでもこの瞬間の美しい星空には無関係な事。 この一時を楽しむのに、それが邪魔に成る事は無い。 テキパキと動いてバケツ、風除けとろうそくを設置する猛をリセリアは見守る。本当は手伝いたいのだけれど、猛の手際は少し良すぎだ。 特にそれが不満と言う訳ではないのだけど……、手を一度握り、開いてみる。 「後は楽しむとしようぜ。ほら、リセリアも花火を持った持った」 「ありがとう、猛さん」 準備を終えた猛に手渡された花火に、彼の真似をして火を着けるリセリア。 シュアッ、独特の臭気と共に色とりどりの光が舞って散る。 「おおー!」 光に感嘆の声を洩らす猛に、リセリアの口元も綻ぶ。 手元に咲く小さな光は、決して大仰では無いけれど、二人の心に光跡を残す。 「うっす、逆貫さん。のんびりくつろがせてもらってますよ、ありがとうございます」 「逆貫さん、旅行のお誘いありがとうございます。のんびり楽しませていただいてますよ」 再び1人に戻った逆貫に、レイチェル・ガーネットにエルヴィン・ガーネット、柘榴の兄弟が声をかける。 「あぁ、君達か。楽しんでくれているなら何よりだ」 手を振り応えようとした逆貫は、両手を占拠する花火の残骸を突っ込まれた空き缶に眉根を寄せた。 もうこの和やかな一時も終わりが近づいて来ている。 「……ああ、飲むならあっちからとってきますよ?」 逆貫の表情を飲み足りないせいと勘違いしたのか、気遣うエルヴィン。 さてしかし後片付けを思えば多少気が重いのも事実である。楽しい一時であればある程、後始末は物悲しい。 けれどそんな物思いはレイチェルの一言に拠って切り裂かれた。 「……前から思ってましたけど。逆貫さんって、実は結構可愛い方ですよね」 この子は行き成り何を言い出すのか。 レイチェルの思わぬ発言に噴出したのは逆貫だけでなく兄のエルヴィンも。 「……うん、自覚ない所が余計に」 咽る2人に、レイチェルの顔に柔らかな笑みが浮かぶ。 「年寄りをからかうな。全く、君の冗談は心臓に悪い」 対応に困った逆貫は、取り敢えず軽く睨み付けて。 エルヴィンは妹の趣味の悪さに思わず要らぬ心配さえして。 「ふふ、失礼しました。残念です、あと40歳ほど若かったら放っておかないんですが」 40歳若かったら全くの別人なので、やはり少女のからかいは全く持って心臓に悪い。 「要するに外ちゃんになめられたくないから見栄張ったのよね、逆貫ちゃん」 違います。指摘しないで下さい。放って置いてあげてください。 その心算があるのか無いのかはさて置き、的確に逆貫を抉るのは、三高平の名誉美少女や性別詐欺、初恋のお姉さんはお爺ちゃんでしたの異名を持つエレオノーラ・カムィシンスキーだ。 見た目は少女なのにその実はずっと年上の彼にかかれば、まあ逆貫とてちゃん付けを諦めざる得ない。 「楽しそうで何よりだな。エレオノーラ君」 皮肉混じりに言ってみるものの、どうにも精彩を欠いた反撃にしかならない。 「子供は大人の背を見て育つ? らしいじゃない。貴方が模範となるべき姿を見せてたら自然と甲斐性なしなんて言われなくなるわよ」 外は素直じゃないが頭の良い子だからと。 まるでおかんの様なエレオノーラの物言いに、逆貫の額に皺が寄る。 まあ素直に受け取れば先達からのアドバイスなのだろうが、そもそも先達の言葉を素直に受け入れれる器量があれば、こんな捻くれた男にはなっていないだろう。 「つまり貴方が日々の生活を正せばいいんじゃない?」 そんな事は百も承知で、それをしたくないからこんな山に態々大勢巻き込んでやって来たのだ。 うむ。そんな簡単に日々の生活を改めれたら苦労はしない。 「さあて。そろそろ仕舞いにするとしようか。諸君片付けは確り頼む。何せ何やらが眠る土地らしいからな」 不意に、大きく手を鳴らす逆貫。そろそろ〆と行こうか。 「後、エレオノーラ君は宿まで私を押していってくれ。ほら、アレだけアドバイスをくれたのだ、その位はついでにサービスしてくれても良いだろう?」 夏の夜は更けて行く。リベリスタ達の明日は直ぐにやって来るけれど、またそれは別の機会に。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|