●過去から今へ それは不思議な化石であった。 ジュラ紀後期の地層から掘り起こされたその化石は、発掘チームから研究所へと回されて、そこで研究者たちの鑑定を受けた。 しかし、どんなに最新の技術であろうと、どんなに偉い研究者でも、それが一体何者なのか分からなかったのである。このことは世間を騒がし、「新種発見か!?」と、一時期は騒がれた。特に新聞やテレビなどではよく取り上げられたものだ。だが、それが歯の欠片でしかないことから、他の部位が見つかるまで新種認定は難しいとされ、新種として名を与えられることもなかった。 それが、二十年ほど前の話。やがて時が過ぎ、他の部位が見つかることもなく、研究室の奥底で眠っていたこの化石は埃をかぶったままであった。そのまま誰の目にも留まらず、忘れ去られていくだけであったこの化石は、研究所が資金難に陥るというハプニングによって、再び世の中へと出ることになる。使い道のないこの化石をオークションにかけよう、ということになったのだ。 しかし、この化石が値を付けられることもなかった。再び世の中に出るには、時間が経ちすぎており、人々の興味も今ではほとんど残っていなかったのだ。 「お前が動けたら、忘れられずに済んだのにな」 研究所の誰かが、化石に向かってそう言った。 その翌日の話である。 人々の住む街が、見たこともない謎の恐竜によって襲われたのは。 ●ロスト・サウルス 忘れられた化石を見て、リベリスタの何人かは思い当るものがある。昔、テレビの番組や雑誌などで見た覚えがあるのだ。ただ、その顛末については誰も知らなかった。 「人は忘れることができる生き物。忘れられるから、つらいことも耐えられる。……でも、忘れられるのは寂しいよね」 そんなリベリスタたちの様子を見ながら、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が言う。彼女は今回もカレイドシステムによって悲惨な現場を見てしまったのだろう。目には疲れが見える。 「今回の敵……エリューション・フォースは恐竜みたいな見た目をしているよ。ティラノサウルスが近いかな?」 がおー。 真白イヴが描いたらしい、クレヨン画の恐竜の言である。 確かにティラノサウルスに似ているようだ。しかし、細部が違い、特に歯の部分は鋭い牙のようになっている。これで噛まれたらひとたまりもないだろうことは容易に分かる。 「牙はとても鋭いから気を付けて」 リベリスタたちも頷く。とりあえずはこの牙による攻撃を警戒しよう。単純だけど、恐ろしい力であることは想像に難くないからだ。 「目標は夜に動き出すよ。街の郊外に広い空き地があるから、そこで戦うといいかも」 つまりはそこまでおびき寄せることを作戦に入れてもいいようだ。しかし、こんな恐竜に追われるとは、どこか映画のようでもある。 「……この恐竜さんが何を思って街を襲ったのかは分からない。だけど、それを止められるのはリベリスタのみんなだけ」 だから、と声を挙げはじめたところで、誰かが真白イヴの頭を叩いた。 ここから先は、リベリスタの領域だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月19日(火)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●恐竜道 獣道、という言葉がある。野生の動物が何度も同じ場所を往復することでできる道だ。しかし、象などの大型の動物の場合は一度通るだけで、獣道ができることもある。恐らく、大型の恐竜も然りだろう。 今回の敵はそんな大型の恐竜だ。通った場所は道となり、後の世を導いた存在である。 それに対して、リベリスタたちは獣道を作る動物のように、研究所と空き地の間にあるコンクリートの道を行ったり来たりしていた。感覚的に距離を測る為である。 「恐竜さんともやりあう事になるとか、仕事とはいえ色々とありえないものと会えますね」 改めて自分がリベリスタなのだと心と薄い唇から紡ぐ言葉で確認しながら、雪白 桐(BNE000185)は、ミニスカートを抑えながら、空を見上げる。風が吹いており、美脚の上にある、隠さなければいけないものが露になるからだ。 ちなみに彼は男である。ミニスカートを履いている理由は「だって涼しいですし?」とのことだ。 「眠っていた処を掘り起こされて騒がれて。静かになったと思ったらまた表に出され、そして今度は価値がないとか評価されて、文句の一つも言いたいのかもしれませんね」 今回の敵、恐竜の顛末を桐は考える。確かに考えてみると、当の恐竜にとってはたまったものではない状況であった。エリューション・フォースとなって暴れ回るのも仕方ないと思える。 「恐竜さん、皆に忘れられて悲しかったんでござるですか? 皆に忘れられて寂しかったんでござるですか? その気持ちは分からないでもないでござるです」 ポニーテールをぶんぶんと回しながら、『サムライガール』一番合戦 姫乃(BNE002163)は手に持った丸い新聞紙もぶんぶんと回す。戦闘は夜なので、大太刀はまだ仕舞ってある。だから新聞紙を代わりに使っているのだが、これのせいで姫乃自信が持つ子供っぽさはより強く強調されていた。 「でも、こんな事をしても結局は誰も振り返らなくなるでござるです。誰にも見向きもされない事は、忘れられる事よりも辛い事だとわらわは思うでござるです」 やあ! と声を挙げ、一歩踏み出して新聞紙を振り下ろす。祖父から教えられたというその動きは、堂に入った立派なものであった。 「ボクはここにいるんだよ……。そう言いたげに取れますね。だが、危険な存在である事に変わりはありません。街に入られる前に倒さなければ……」 復活してしまった恐竜が街に入って暴れまわれば、それは大きなパニックとなってしまうだろう。そうなる前に倒さねば、と源 カイ(BNE000446)は義手に力を込めて握りしめる。 「それにしても……」 しかし、すぐに意気消沈しながら、カイは胸元を見下ろす。何が彼を悩ませているかといえば――、 そう、カイは元々彼という呼称で呼ばれる存在ではない。彼女、と言った方が正しい。 「比較的シビアな依頼にこんな体で挑む事になろうとは……トホホ」 だというのに、なぜ今は男なのか。それは、とある依頼を参照していただきたい。 「男? 女?」 そんなカイの視界に、元気よく跳ねるピンク色が映る。こちらも彼と呼んでいいのか、彼女と呼んでいいのか分からないビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)だ。ただ、真独楽の場合は素である。 「ま、いいや! それよりも、恐竜ってカッコイイよねっ! まこはヴェロキラプトルがスキだな。ぬいぐるみ持ってるんだっ!」 と、抱えていたかわいらしいぬいぐるみを見せびらかす。ふかふかの爪をぷにぷにと触りながら、真独楽は可愛らしい笑顔を振りまいていく。 「と、恐竜見たくてきたのがイチバンなのはマジだけど、もちろん、やっつける気も満々だぞ。かっこいい恐竜をやっつけられたら、恐竜よりもっとかっこいいよね!」 ホップステップジャンプと、皆の前まで跳んで行く。スレンダーな体は健康的で、日の光を浴びればより輝く。 真独楽が跳んで着地した場所。そこはちょうど空き地であり、計測はそこで終わった。 道はまだ続いているが、一先ずはここで終了……という訳だ。 きっと、恐竜の時代もそういうものだったのだろう。 「忘れて欲しくなくて動き出したなら……。ちょっとかわいそうだけど、仲間もいないこの時代にいるのも、やっぱりかわいそうだよね」 「いつか、研究員の人たちが、恐竜さんが日の目を見る事の出来るようにしてくれるでござるです。だからその日まで、待つでござるです」 恐竜が道を作った時代は終わった。今のこの時代は、真独楽が、姫乃が、人が、道を作っているのだ。 ●ジュラシック追いかけっこ さて、夜。リベリスタたちは作戦通り、空地までエリューション・フォースをおびき寄せるべく、追いかけっこをしていた。 「恐竜が相手、か。興味がないわけではないが、ゆっくりと観賞している暇はないな」 背には、障害物をも力ずくで突破する巨大恐竜。追いかけられている『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は、ニヒルに笑いながらそんなことを言った。先にハルトマンが放ったジャスティスキャノンは、どうやら効果的であったらしい。恐竜はハルトマンめがけて一直線にやってきた。 「さぁ、こっちを見ろ。お前の相手は俺だ」 ハルトマンはマジックディフェンサーを展開しながら、背中を鋭い眼光で向き直す。巨大な顎と鋭い牙が迫っていた。 「試させてもらうぞ。圧倒的暴力に俺と言う盾がどれだけ通用するかを」 圧倒的な一撃がハルトマンに直撃した、その瞬間。全力防御をしていたハルトマンの体中は悲鳴をあげ、膝は落ち、顔中に汗が噴き出た。恐ろしいまでの攻撃力であり、防御を固めたはずのハルトマンでさえも耐えきれない! ……ように見えた。 「……まだだ!」 しかし、首の皮一枚で繋がった。あと僅かの体力を振り絞って、ハルトマンは走る。 「面白そうだな、私も混ぜてもらえるか?」 爆走する恐竜の前で走っているのはハルトマンの他にもうひとりいる。発生したばかりのエリューション・フォースの恐竜に対して、ピンポイントを放った『キュアリオスティ』己己己己・那洲歌(BNE002692)だ。彼女が言った「君は誰だ」という挑発も中々利いたらしく、彼女もまた、ロックオンターゲットのひとりになっているのである。 「昔の血でも騒いでハッスルしたくなったのかしらぁん?」 そんなふたりのサポートに回るべく、並走している『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)は元気な恐竜の姿を見上げて、そんな風に思う。 「すまない、しばらくの間援護を頼む」 「おっけーよぉー」 先の一撃で限界ギリギリまで体力を減らされたハルトマンが手を振れば、スペイシーは垂れた目をにやにやさせて、甘ったるい言葉と共にオートキュアをかけていく。 しかし、そこにもう一撃。巨体から見れば小さな足を器用にステップさせて、噛みつきをしに牙がやってくる。カイが牽制にダガーを投げるも、止まることは叶わない。 「私が出ます。危ないですし」 その牙の前面に出たのは、桐だ。仲間をかばったばかりのハルトマンの体力では危ないと判断し、彼をかばったのだ。 「もぐもぐなんてさせませんし」 噛みつきによって頭から血を流しながらも、その大きな口を固定するようにグレートソードことまんぼう君を挟む。もちろん、そうした用途に適していないまんぼう君は悲鳴を上げるが、これで少しは時間が稼げた。 「かけっこ勝負も楽しいけど~!」 そこで、真独楽のソニックエッジがもがく恐竜の顎に直撃し、挟まれていたまんぼう君が飛び出る。それを回収しながら、リベリスタたちは走り続ける。人の作った、コンクリートの道を。 そしてたどり着く。旧時代との決着を付ける、決戦の地へ。 ●ジュラシック大バトル 空き地は十分な広さであると確認していたリベリスタであったが、恐竜の巨体を改めて見ると、これだけの広さを必要とする理由がよくわかった。こんなものが人の生活圏で暴れたのなら、被害はとんでもないことになっていただろう。 巨体にふさわしい太い尻尾が跳ねて、空気すら振動させる咆哮が響き渡る。本格的な闘争開始の意思表示であろう。カイの強結界がなければ、大騒ぎになっていたかもしれない。 「恐竜、それは男のロマン。ロマンの前では老いも若きも男は皆少年に戻っちまうのさ」 闘争本能を剥き出しにしながら、リベリスタ達に挑みかかろうとするその姿を見上げながら、『まごころ暴走便』安西 郷(BNE002360)はメガネを指の腹で上げて、ポジティブ全開に笑った。足が速いというこの相手との戦いに、心を震わせているのだ。 「ロマン勝負だ! ガンガン行くぜガンガンガン!」 とんとん、とヘビーレガースの踵を地面に叩きながら、ハイスピードを自身にかけていく。これで素早さなら負けはしない。スピードを上げて散開しながら、そう思う。 「……忘れられた恐竜、か。確かに存在したという痕跡はこうやって残っていたのにな」 同じく散開しながら、那洲歌はメガネのフレームを指で掴んで、改めてその体を見る。オッドアイの瞳が、かつて世界に住んでいた者を見つめる。 「そして、古代への浪漫として、注目されたこともあっただろうに。しかし、君のその形はこの世界を壊してしまうものだ。嘗ては君も生きていた世界だろう? その世界を守るため。エゴとは呼ばれると思うが――申し訳ない、倒させてもらうぞ」 そしてピンポイントによる一撃を放ち、恐竜を構成しているうちの、化石部分を攻撃した。これは直撃し、恐竜は大きく仰け反った。効果的な一撃のようだ。 しかし、それは恐竜の怒りを買って、その噛みつきを誘発した。 「守る事が俺の仕事だ」 そこで、牙の前面に出たのは、再びハルトマンだ。重いダメージを受けながらも、仲間をかばったのは、その一撃の重さを知っているからである。体力が低い那洲歌があの一撃を受ければ、その一撃で倒されてしまうだろうと判断したのだ。 「哀れではあるが、お前の居場所はここにはない」 牙の直撃で体中から血を噴き出しながらも、ハルトマンはフェイトを使用して立ち上がり、騎士がするように剣を構えてみせる。 「眠ってもらうぞ」 そして振り放たれた剣が、恐竜の体を裂いて体力と血を奪う。 「いっくよ~!」 そこに続くのは真独楽のソニックエッジだ。飛ばされた真空の刃が恐竜の体を撫でていき、皮を剥ぐようにしてダメージを蓄積させていった。 「まいどー、宅急便っスー。蹴りをお届けっスー」 そこに、背に回り込んでいた郷が幻影剣によるキックを背中に叩きつけた。それによって巨体の体に衝撃が伝わり、恐竜は痛みに震える。 しかし、恐竜もただ痛みに震えて耐えるだけの存在ではない。かつてはこの世界を支配した王者なのである。痛む体を押さえつけながら、群がるリベリスタ達をなぎ払おうと体当たりを仕掛けてきた。 「ちょっと前を通ります」 そうした動きを察知した桐が体当たりに対して正面から立ち向かい、まんぼう君を振りかぶってメガクラッシュを放つ。メガクラッシュのノックバック効果を使い、仲間に対する攻撃を逸らさせようという気である。 しかし、それは半分成功し、半分失敗した。体当たりの勢いは止まらず、桐と恐竜はお互いに攻撃を受けて吹き飛んでしまったのだ。 「倒れちゃうのは前衛の仕事じゃないのですよ」 フェイトを使いながら、まんぼう君を杖に桐は立ち上がって、凛とした表情を浮かべる。仲間への攻撃を逸らすということは成功した。前衛として、なにも恥じることはない結果だ。 「こっちでござるです!」 そう叫びながら、吹き飛んできた恐竜の足を狙うのは、最大限まで集中し、気を高めていた姫乃だ。勢いよく足を踏み込み、恐竜の足を切り落とさんと振りかぶられた大太刀のメガクラッシュは、その想い通り足を切り落とすという結果ではなかったものの、巨体を空き地の端からは端まで吹き飛ばし、狙い通り転倒させた。 その隙を、逃すリベリスタではない。 「最後の最後までバッチシ、貪り愛し合っちゃうわよぉぉぉぉんっ!」 ダイナミックに飛びこんで、脚に張り付きながらスペイシーはオーララッシュを連打する。メイスをその体に叩きつける度に、スペイシーの舌舐めずりが聞こえて、ちょっと怖い光景だ。 ともかく、ガンガンと叩きつけられた攻撃は確実にダメージを与えていき、決着までの道のりを作りだした。 「この一撃を凌ぐ事が出来ますか?」 勝利への道を掴んだのは、その状況から放たれたカイのハイアンドロウだった。 「ここで、決着です」 ハイアンドロウによって投げ込まれたダガーは恐竜の体を貫通し、更に放たれたダガーの一撃は、その巨体を細切れに変えて、崩壊させたのだ。 「さよなら、名も知れぬ恐竜さん……せめて僕の記憶の中で生き続けて下さい」 崩壊する体の中から、歯の欠片がぽろりと地面に落ちる。 「例え誰もがお前の事を忘れても、ここにいる俺達だけは忘れない。さらばだ」 ハルトマンはそれをキャッチし、消えていく体を眺めながら恐竜を想う。恐竜の一撃を二度も受けた体は血まみれになっているが、ハルトマンはそれを誇りとして、戦った恐竜に心の中で敬意を払った。 「夏休みの自由研究は、すごくおっきい紙に、お前の等身大の絵を描いてあげる! きっとみんな忘れないぞ!」 真独楽は跳ねて、もう消えてなくなった、ちょっと主張が激しかった相手と約束を交わす。 「……安心しろ、世界が忘れたとしても君を発掘した人間、そしてこうやって力を交えた私たちは忘れはせぬよ。安らかに、眠るといい」 昔の道は、恐竜の道は確かに潰えた。だけど、その道があったからこそ未来がある、人の道がある。 だから、道を歩いた人は、それを忘れない。きっと。 大いなる恐竜よ。今は安らかに眠れ。 「このきょうりゅうさんをわすれないでください」 これは後に、研究所の前に残されていた文章である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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