●研削 無残であった。 そこは山間の森林だった場所。 ――過去形である。 現在のその土地は、荒れ果てた土砂の山。 土は抉られ、大量の溝を露出。生い茂っていた木は薙ぎ倒され、中には発火して焦げ臭い匂いを漂わせているものもあった。 削り取られ、摩擦に焦げた樹木達。森林はもはや原型がなく、荒れ果てた大地と木屑、木粉が散らばる領域であった。 違和感しかないその光景の中に、特に異質なものがあった。 それは巨大な円盤。いや、円盤というにはやや分厚いところがあるが。 やや黒ずんだ灰色をしたその物体は、タイヤのような形状をしていた。 その縦置きの円盤は凄まじい勢いで回転をしており、凄まじい勢いで土砂を巻き上げて行く。 そう、これこそがこの山野を破壊した原因である。 円盤は駆け巡る。土砂と木片、火花を撒き散らしながら。 触れるもの全てを一片の慈悲もなく、削り取りながら。 ●カーバイド 「皆さん、さっそくですが任務です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がブリーフィングルームに揃ったリベリスタ達に告げた。 彼女は手にした資料を配り、今回のターゲットについてを手早く説明をはじめる。 「目標は山林に出現しました。 外見は直径二メートル、厚さ五十センチ程度の円盤状のエリューション・フォース。フェーズは2です」 リベリスタ達に渡された資料にはその特性が判明している範囲で記入されていた。 「組成はシリカ七十パーセント、カーボン三十パーセント。 高速で回転しており、接触したものをそのざらついた表面で削り取る相手です。 それは有機物無機物を問わないので、轢かれたら凄い光景になるでしょう」 あまり見たい光景ではありませんが、と付け加える和泉。当たり前である。対処に当たるリベリスタ達もあまり見たくはないし、そんな目に遭いたくないことだろう。 要点を抑えた彼女の説明は続く。 「直線の突破力はかなりのものです。また、曲がれないわけではないので、直線さえかわせばいいというわけでもないようですね。 あと、摩擦によって発火することもあるようです。」 一気に必要な情報を告げた和泉は資料を閉じ、リベリスタ達に微笑みかけた。 「場所は山中ですので、人目を気にする必要はありません。全力で戦ってください。 あ、山火事だけには気をつけてくださいね?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月25日(月)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●φ 闇の帳が降りる頃。 山中にて一団が徘徊している。目的がないわけではない、彼らはその場に任務の為にやってきていた。 「Φ二千の厚さ五百って、ざっと五トンくらいありそうかしら。真っ当に当たりたくはないわね……」 もちろん研削されたくもないけれど、と呟くは『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)。神秘を研究する学徒たる彼女は存外フィールドワークが多い。今回もその一環なのだろう。 「ディスクグラインダー、なあ……」 『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)もぼやく。彼の脳裏に浮かぶは実際の工具である、今回捜索しているエリューションと同名の工具だ。 「あれ、使う分には便利なんだけど皮膚削っちゃうと痛いわ治り遅いわ、最低なんだよなぁ……」 本気でぶっ壊そうと心に誓う冥真。わざわざ痛い思いをしたくないのは誰しも同じである。 いや……例外がいないわけでもないのだが。 「傷だらけだろうが関係ねぇ! 苦しい窮地に追い込まれてこそ、その力を発揮するんだよ。主人公ってのはな!」 『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)はそういった例外の一人である。 逆境に追い込まれてそれを覆すのが主人公のあり方と考える彼にとっては、過去の傷も今から受ける傷も等しく逆境である。それがどのような種類の傷だとしてもだ。 「やすりねぇ……鮫肌なめんなよって感じだけど」 それはぼやきか対抗意識か。尤も僕の皮膚は至ってノーマルだけど、と続ける『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)。 「それでもきっとりりすお兄さんのほうが凄いのです」 あまり根拠はないが身贔屓というやつか、来栖 奏音(BNE002598)が優劣を決める。実際の所はそれは定かではないのだが。 「タイヤ……テレビで見た外国の巨大な重機のタイヤみたいな感じかしら」 その姿を想像するは『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)。形状の報告だけではあまりしっくりこないのだろうか、しきりに首を捻っている。 それぞれ思い思いの考えを巡らせながら、山中へと進んでいく一同。 やがて山間の深い当たりまでたどり着いた時、沙由理がストップをかけた。 「待って、音が近づいてる。何かを砕くような音が……」 彼女の持つ鋭敏な聴覚がその音を捉えた。生木の裂ける音、土砂を抉る音。何かが凄まじい速度で接近しているのを感知したのだ。 「相手が来たら手筈通りですね。ぐるぐさんにお任せなのです」 『Trompe-l'?il』歪 ぐるぐ(BNE000001)が身に着けた装備のチェックをする。ここに至るまでに綿密に作戦は組んである。後はそれに従い戦うだけ。 『夢見がちな』識恵・フォウ・フィオーレ(BNE002653)が俯き気味に、表情をこわばらせる。 「絶対に止めなきゃいけないね」 相対する相手に対し、覚悟を決める。どのような相手でも不幸を増やすのならば、魔法少女は見過ごさない。それは彼女の矜持であり使命。 それぞれが身構え、迎え撃つ体制を整える。覚悟は良し、作戦は良し。後は実行するだけ。 ばきばきと音が聞こえ始める。木材を引き倒し、踏みつけ破砕する音が他の皆にも届き、徐々に大きくなる。 緊張が高まり、音も高まる。 「来るですよ! 皆さん気をつけるです!」 油断なく音のほうを警戒していたぐるぐが叫んだ。 ――それは圧倒的な破壊の姿であった。 立ち木をなぎ倒し、土砂を巻き上げ現れたのは巨大な円盤。 黒ずんだ見た目をしたその円盤は人の胴周りより分厚く、背丈よりも高い。ざりざりと鈍い音を立てながら地面に轍を生み、木材を一瞬にして粉と変える。 木材の焦げる匂いと土の焼ける匂いが周囲に漂い、轟音が響く。 「避けるのです!」 奏音の号令を聞いてか、皆それぞれ培ってきた勘か、一斉に散開を行う。その間を土砂を巻き上げ高速でグラインダーが駆け抜けていった。 通り抜けた場所は真っ直ぐに抉り取られた轍となり、その質量と威力をはっきりとリベリスタ達へと理解させる。 「こいつはとんでもねぇな……だからこそ遣り甲斐がある! いくぜ、デスペラード!」 零六が武装を構え、気合を入れた。 エリューションを打ち砕くリベリスタと、あらゆるものを削り取るグラインダー。激突がここに始まる。 ●研磨 「呼吸を整えて……相手の動きを見て……」 慧架が身構え、呼吸を合わせ迎え撃つ。高まる緊張を修練による型にて整え、致命を避けるために。 戦闘がはじまり、しばしの時間が経過していた。 リベリスタ達は散開し、それぞれのチームに分かれグラインダーを引き付け、相手をしていた。 「どうせ回るなら扇風機とか環境に優しい仕様にしてくれ。ただでさえ僕の店にはクーラーとか文明の利器が存在しないんだ」 りりすがぼやくが、このようなサイズの扇風機があっても困るだけな気はしないでもない。 ともあれ凄まじい速度で回転するグラインダーは縦横無尽に走り回る。 リベリスタ達を敵と認識する知能があるかどうかはわからない。だが、自分に害意を為すものとしてそれは確かに認識し、襲い掛かっていた。 走り、削り、抉る。摩擦は熱量を生み出し、焦げ付かせ、火を起こす。各自それを捌き、かわしつつ攻撃を加えていく。 「傷のほうは任せておけ。攻撃に専念するんだ」 「届けて追い風、あの人の元へ!」 当然リベリスタ達も無傷とはいかない。時にはかすり、まともに直撃を貰い、皮膚と肉を削がれることもある。だが冥真と識恵がバックに待機し、癒しの力を行使し続けるため致命的なことには現状なっていなかった。 フロントに配されたアタッカーは二手に別れ、お互いに交互に攻撃を加えグラインダーの注意を引き付けていく。 なかなか決定的な一撃を加えることはなかったが、やがて状況に変化が生まれる。 蓄積された攻撃に、グラインダーの行動が狭められていく。積極的に攻撃を加えてくる相手に敵意を蓄積し、やがてそれは大きくグラインダーの動きを変えることとなる。 沙由理による回転の合間を突くような一撃。それに警戒を高めたのか、突如進路を変え沙由理に襲い掛かった。 沙由理はそれを予測していた。というより、そうなるように攻撃を行っていたのだ。突進してくるグラインダーを辛うじてかわし、息を吐く。 「さすがにどきどきするわね。でも……」 通過したグラインダーへ向け再び手を突き出し、一閃する。手にした魔術書により増幅され、収束された魔力が再び同じ位置へと叩き付けられた。 「好き勝手に暴れられるよりはね」 その一撃を皮切りに、リベリスタ達は一斉に攻撃に転じる。 「そうだね、早いところ止まって貰おうかな」 「ええ、徹底的に叩きましょう」 りりすの手にしたボウガンの機構が稼動し、矢を次々と放つ。慧架の脚技が次々と空を切り裂く刃を生み出し、グラインダーへと叩きつけられる。 「あの一点を狙うのですよ、確実に負担が蓄積しているのです」 ぐるぐが相手の状態をサーチし、指示を出しつつ、自らも鋭く練り上げられた魔力をその一点に叩き込む。 「オーケー、ブッ倒れちまいな!」 「どんどん当たって砕けて無くなるのです!」 その一点に対し、零六が自らの武装を渾身の力を込めて叩き込み、奏音が無限のエネルギーを生み出す自らの機関をフル稼働させ、次から次へと魔力の矢を生成し、叩き込む。 衝突音、爆音、様々な音を立てグラインダーが揺れる。みきり、ぱきりと音を立て側面から皹が生まれ、回転が乱れる。 「このまま押し込むの! 痛い思いをするなんて事は、ここで止めて減らさないといけないの!」 回復の合間を見て、識恵も魔力の矢を叩き込む。総攻撃とも言えるその攻撃にグラインダーはふらりふらりとなり、速度が下がる。 「このままやれるか……?」 冥真が呟く。終始リベリスタ達が優勢ではある。だが、相手もそう単純に事が運びはしない存在だった。 一瞬動きを止めたグラインダーが再び、激しい回転を始める。強い回転は反発を生み、円盤を弾き飛ばすように跳ね上げさせた。そのまま弾丸のように沙由理へと飛び掛る! 「させないですよ!」 それを見たぐるぐが念糸を張り巡らせ、グラインダーを絡み取る。だが、強い回転と凄まじい重量を誇るグラインダーはぶちぶちと糸を引き千切り、そのまま沙由理へと衝突した。 「くぅっ……!」 粗い表面が衣服を削り、皮を削ぐ。肉まで達するその痛みを沙由理は歯を食いしばり耐えるが、強かに地面へと打ちつけられる。 「大丈夫か!? 今治す!」 辛うじて直撃は避けたが傷は深い。冥真が即座に癒しの力を行使し、傷を塞ぐが万全にはならず。再度グラインダーが体制を整え沙由理へと襲い掛かった。 ――だが、彼女に届くことはない。 「うおおぉぉぉっ!」 間に立ち塞がる人物一人。両手に装着されたシールド状の武装。それをがっちりと組み合わせ、正面からグラインダーを受け止めるのは零六。 盾と円盤の間に凄まじい音が響く。金属が削り取られる耳障りな音が響き、手にした盾は熱さを帯び、赤熱していく。 だが、彼はそのまま動かない。正面から止めるのは、彼自身の矜持か、拘りか。いや。 「主人公ってのは……ここで身体を張らなきゃ嘘だよな!」 それは義務。常に物語の主人公たらんとする彼自身の指名。ここで引く等は、ありえない。 「零六さん!」 識恵が癒しの風を送り、彼の命を繋ぎ止める。だが気休め。真正面から受け止めた代償は決して安くはない。 熱は肉を焼き、やがて衣服へと引火し炎上する。それでも、彼はニヤリと笑い……。 「止めるだけなんて詰まらねぇ事は……しねぇよ! デスペラードッ!」 愛用の得物の名を叫んだ彼は、全身の膂力を使い受け止めたグラインダーを全力で空中へと打ち上げる! 「お膳立ては十分だろう――咲かせてみせろ、トロンプルイユ!」 「上等なのです、お任せあれ」 零六は叫ぶ。彼の目には映っていた。宙を舞う仲間の姿が。千載一遇のチャンスを伺っていた浪漫を求めるぐるぐの姿が。 「螺旋、回転、その意気や良し!」 取り出したる工具達。それはぐるぐの手となりグラインダーを捉える。 「受けよ、浪漫の集大成っ!」 その目は皆が積み重ねてきたダメージを見逃さない。手にした工具が抉り、切り開き、砕く。破砕点を的確に貫き、グラインダーは空中で次々と分解、破壊されていった。 「鋼色の花火もいいモンでしょう?」 爆裂。 夜闇に浮かぶエリューションの花火は美しくも破壊的であった。 ●火消し 「サービス残業も悪くない。帰り道に焼き魚とは遠慮だし」 「はいはいわかったからこれ。さっさと火を消して帰ろうぜ」 脱力気味に呟くりりすに冥真が、持参していた水がたっぷりと詰め込まれたヤカンを手渡す。 周囲の状況は散々たる状況であった。 地面は抉れ、地盤ごと剥がれ無残な状態を晒し。 樹木は倒れ、摩擦により火勢を帯びてパチパチと爆ぜる音をさせている。 元々あった山間のマイナスイオン溢れる癒しの光景はなんということでしょう、あっという間に荒れ果てた大地へ。 「傷つけるための炎は敵だよ!」 識恵がぴかりぴかりと閃光を放ち、周囲の木々をなぎ倒していく。古式ゆかしい破壊消火。 「あのまま戦闘終了、エンディングとかなれば格好良く締まったのになー」 「まったくもって世の中上手くいかないのです」 零六にぐるぐがぼやきながらも火勢を止めていく。 格好良く決めて大満足と行こうとした二人にとっては事後処理は正直つまらないのかもしれないが、これもまたリベリスタの仕事である。 「山中でよかったわ。これが街中だったらどうしようもないんじゃなかったんじゃない?」 沙由理も当たりの可燃物を打ち壊し、火勢の延焼を防いでいる。 彼女の言うとおり、山中で住んだのは幸運だったのだろう。火事だけではなく、直接的な被害も相当なことになっていたはずだ。 やがて火勢は止まり、これにて全ての任務完了。長いようで短い戦いがここに終わる。 「お疲れ様です。冷たいミルクティーがありますよ、いかがですか?」 慧架が魔法瓶を手に、皆に声を掛ける。紅茶店の店長である彼女らしい準備ではあるが、激しい戦闘そして消火活動を行ったリベリスタ達にとっては渡りに船の救いであった。 冷たく甘い紅茶がその身に染みる。 これで全ておしまい。山の破壊は収まり、全てを削り取るグラインダーもすでになし。 ひとつのエリューションが終わり、世界にまた一歩、安定が訪れる。これからも積み重ねていくこの流れの中、彼らが行ったこの戦いも経験となり未来への安定の為になるのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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