● 雑木林の中だ。 息を上げて、転がり込んでくる人影。 十代後半に差し掛かったばかりの、まだ線が細い、男か女か判別がつかない、人というにはあまりにも様子がおかしい、誰か。 はあはあと息を荒げ、頬を高潮させながら、自分の尖った爪で手のひらを引き裂くと、くるりと皮が丸まり、中から緑色の粘液があふれ出してくる。 人の形をしているが、人ではない、人の中身は緑色の粘液で出来てはいない。 ぶよんと草の上にわだかまったそれに、指の先でつまんだままの糸のようなものをつきこむとその根元にの部分が膨れ上がり、融合し、白い皮膜を形成すると緑色の粘液を包み込んだ。 ヒトの形。 ヒトでない誰かは待ちかねたように、それに手を伸ばす。 「大好き、大好き、早く、早く、受け入れて、もう、はちきれてしまいそう」 「うん、早く、早く、来て」 もどかしげに身をすり寄せ合いながら、二つのヒトではない影が絡み合う。 「早くそれを突っ込んで、苗を植え付けてぇ!」 「ふんぎゃあああああああああああっ!!」 「万華鏡」の内部から、今日もとあるフォーチュナの悲鳴がこだまする。 形容しがたい顔色をして床に崩れ落ち、かろうじてげろ袋を口に当てることに成功した赤毛のフォーチュナに、白いエンジェルが言った。 「心配しないで。あなたの辛さ理解できる」 「イヴぢゃぁん」 万華鏡の下にたたずむ君は、マジエンジェル。 「なにを見たかは聞かない。とても辛いものを見たんだね。でもそれから目を背けることは私たちには許されない」 なんかシリアスになってますけど、どこが辛いかエンジェルに説明できない十八歳男子。 余計なこと言ったら、室長パパ、こわい。 「あ、あの、あのね――」 「ありのままを皆に伝えること、それが大事」 「そ、そうだね。がんばるよ」 マジエンジェルはマジエンジェルのままでいて欲しい。エゴだよ、それは。 まあ、とにかくリベリスタが召集された。 ● 「今回は、囮作戦」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、赤毛のフォーチュナがお通夜のような顔をしている。 「今回は、囮作戦です」 はは……と、力ない笑いを浮かべつつ、四門がよろしくと頭をぺこんと下げる。 「アザーバイド。識別名『コピーキャット』です」 性別不詳のハイティーンに見えた。 「この次元の生物の外見データを元に苗床を作ります。この次元の生物の習性から行くと、ジグモの一種に近いかな。増えられると困るから、殲滅、もしくは送還して下さい」 苗床は卵を産み付けられ、そのまま卵の保護材となり、最終的には卵から生まれた幼生の餌になる。 「で、苗床にも好みというものがあるようで、その好みにたまたま一致しているのが、皆さんです。共通因子はなんだか分かりませんが、皆さんの誰でも確実にヒットしますので、おとりの人は相談して決めてください。一般人とかじゃなくてよかった」 え、じゃあ、俺らのうちの誰かが食べられちゃうの!? 「別に本人はひどいことされる訳じゃないよ。髪の毛引っこ抜かれて、DNA採取されるだけ。植え付けは外見コピーされた苗床にするから、安心して」 なんだ、一安心。って、ちょっと待て、植え付けって言った? 「――いやああああああっ!! その先は聞かないでえええええっ!」 四門がいきなり叫び出した。つうか、フォーチュナが、聞かないで。とか、あり得ないし。 『四門、がんばって』 いきなり、スピーカーからイヴちゃんの声。 『リベリスタには見たものをありのままに話す。それが、命を投げ出す実戦部隊への私たちの誠意』 マジエンジェル、いいこと言うなぁ。ていうか、君、監視してたのか。 「――コピーキャットは、苗床の調整をします」 はい。 「具体的には色々触って、いい感じ――人類で言うところの発情状態になったところで、苗を植え付けますっ」 四門、叫ぶように言った後机の上に突っ伏した。耳まで真っ赤になってるよ。あらあら。これなんて羞恥プレイ。 「それ、外見、俺らの内の誰かでしょ!?」 「中身はみんなじゃないからっ! 俺はわかってるからっ!」 突っ伏したまま、返事する四門。 「私達の外見で、非常に乗り気とか!」 がばっと起き上がる四門。唇には噛み砕きそこなったペッキの破片がこびりついている。 「それが発情期のアザーバイドの好みなんだから、どうにもならないっ!」 逆切れ、涙目絶叫四門。 「それ、みんなに見られるってことでしょ!?」 だが、リベリスタも負けてはいられない。社会的フェイトが減ってしまう。 「まともに戦ったら強いんだよ、このアザーバイド! 強襲のタイミングを計るためには仕方ない。繰り返すけど、皆じゃないからっ!」 「肖像権! 個人の名誉!」 わっと泣き崩れる四門。 「俺だって代わってあげられるものなら代わってあげられたいけど、アザーバイドは、俺は好みじゃないんだもん!」 うわああああああんっ! と、泣きに入るフォーチュナ。 受けないといけないような憐憫と罪悪感と奉仕精神を掻き立てる様子は、芸の域に達する泣きっぷりだ。 「――覚悟完了」 リベリスタ達は、聞いた者が神妙に頷くしかない四文字を口にした。 四門は、目を涙でいっぱいにしたまま頷いた。 大丈夫。自分でなければいいのだ。誰かに押し付ければOKなのだ。犠牲者は一人でいい。 ブリーフィングルームから戦いは始まっている。 「とにかく釣って、繁殖行動の隙を突いて強襲。殲滅。アザーバイドは割りと繊細だから、ごにょごにょしてる間はなるべく静かにしているといいと思う。方法はみんなに任せる」 もうこれ以上説明する気力も失せ果てたという顔をした四門はえぐえぐとしゃくりあげている。 「苗床の破壊は跡形もなく念入りに」 いろいろな意味で。 電子ロックがしまる音がする。 囮役が決まるまで、この部屋から出られない。 相談が始まります。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月10日(土)22:59 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「覚悟完了」 呟いたら、少し気持ちが楽になった。 『無銘』佐藤 遥(BNE004487)は、一人前と言われていいレベルの革醒者だが、まだエリューションを斬ったことはない。 (訓練されたリベリスタはすごかった) 彼女が携わったのは、革醒者の保護とE・フォースの浄化だ。 今日、初めてエリューションを斬ることになる。 だから、囮に立候補したのだ。 自分と同じ姿のものなら、斬りやすかろうと。 しかし、遥ちゃん。もう少し囮になったらどういうことになるのか考えた方が絶対いい。 ブリーフィングのときは説明をどうかよく聞いてください。 今日は、それをよく勉強してもらいたいと思います。 「繁殖目的なら複数苗床作る可能性あッか? 多い方が隙生まれ易いかなァ。じゃオレも囮やってみよッと! 自分ブチ殺すのもそれはそれで楽しそうだしなァ」 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)さんも、イマイチ想像力が足りてない人の一人です。 妄想と二人三脚しているはずの18歳男子としては、ピュアい部類に入るのかもしれません。 「私はアークの剣たろうと決めた身です。人並みの幸せなど、私の身には余ります」 水無瀬・佳恋(BNE003740)さん、そんなことないよ。リベリスタは幸せ追求していいんだよ。 君が目標にしているアークの赤い人だって、信頼している守護神だって、立派なリア充、彼女と一緒のときはきゃっきゃうふふしてるんだから! 「もちろん、アークには戦士として戦いつつ、人生を謳歌してらっしゃる方も沢山居ます。むしろ、それこそが自然なことであり、素晴らしいことなのだろうとは思いますが」 そんなはかなげな笑みを浮かべないでくれ。 「私は弱い人間なので、そうやって生きようものなら、戦地に赴くことなど、きっとできなくなりますから」 誰か、彼女の硬い心の扉を開け放ってあげてくれなさい。 「このような汚れ仕事は、私のような身が受け持つべきだと思うのです」 目もくらむほど見事な論理の飛躍。 「世間の体面――「社会的フェイト」と言うのでしたか――を気にする必要などありませんので、私が、囮になりましょう」 らめええええええええ。 ――と自分がどんな目に遭うのか分かってない人達が立候補したからって、どうぞどうぞと役目を人に押し付けるのってどうなのかしらどうなのかしら? そんな日本人的空気の読み合いが、日本人及び中身が日本人な外国人さんによって再現され、結果「アザーバイドに選ばせればよくね?」 という、角の立たない結論に到達したのでした。マル。 「まじめにこうさつするに」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が不真面目だったことがあるだろうか。いや、ない。 「苗床さえ確保してしまえば向こうは繁殖に専念する。繁殖行為中に茶々を入れなければ問題はなし。向こうとしてもこちら参加者全員好みらしいので、よっぽど騒ぎたてない限り最初に髪引っこ抜かれる時もトラブルは起きないだろう――ここまでいい?」 大丈夫だ、問題ない的応えを確認して、アンナは更に続ける。 「何本か髪抜いておいてこれみよがしにおいておけばさらにあんしん。結論から言うと赤信号皆で渡れば怖く無い式囮全員参加」 異議ありませ~ん。と、無言の肯定するリベリスタを見回し、結構古株になってきちゃったアンナは内心叫んだ。 (……色々捨てすぎじゃないかな、リベリスタ!) うん、君もな。 という訳で、色々あって、現在リベリスタはアンブッシュ中です。 いいか、でっかい声出すなよ。かみ殺すんだ。 「さくせん:みんながんばれ(我慢を)」 イエス・マム。 ● アザーバイド「コピーキャット」は、少女とも少年ともつかない細い体を、ようやく人の形をとろうとしている苗床に摺り寄せていた。 「もう……」 こぼれる吐息は熱を帯び、苗床の肌の上で結露する。 それを自分の舌でなめ上げながら、コピーキャットは苗床の体を撫で回す。 「こぼれちゃいそう」 まだだ。苗床はまだ緑色の粘体だ。もっとこの世界の生物に似せてからでなくては。 「はやくぅ。がまんできないよぉ 口元には笑みさえこぼれているのだ。 リベリスタ達は固唾を呑んで見守っていた。 何しろ、全員いつ髪の毛を抜かれたのかまったく分からないのだ。 つまり、形になってもらわないとどうにもこうにも判別がつかない。 もにょもにょした緑色の塊は、やがて頭と四肢の区別がつくようになり、大体の造作が出来てきて、色も肉色に変色し、すっぽんぽんなのはチカタナイね。 全年齢対象なので巧みに茂みで隠れますのでご安心ください。 (ぶっちゃけ、うん。……男性陣が混じってるというだけで全力カオス……) アークのリベリスタは男女の別なく献身的だなあ。 (そもそもがマゾい人もいるしマッチョもいるし、なんていうかこの収集つかない感) 趣味や体系で区別いくない。 (阿鼻叫喚なのは間違いないけど、真っ当に囮が一人の場合より、むしろ耐えられそうな感じ) ロシアンルーレット。というか、次々脱落していくデスリスト。 いや、この場合脱落したほうがいいんじゃないかと思うんだが。 (わたしがまじってることをのぞけばな。ま、まあ乗り気の私なんて自分でもいまいち想像出来ないし) 『べ、別に期待してるわけじゃないわよ』 (ガワだけ似た別の生き物と思えば大丈夫よ! あれはのっとみー!) 脳内に自然発生した「乗り気な自分(推定)」に身悶えせざるを得ない。 (おいよせやめろ。無駄に真に迫ったツンデレすんな。のっとみーと言っている) 一人、また一人と胸をなでおろしていく。 (わたしじゃないといってーっ!) そして、誰だか完全にわかるようになっちゃったー。 ● 「……うん、客観的に視ると厳しいよな。俺、喘がせるのは好きだけど、鳴くのは趣味じゃないんだけれど……」 『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)、さらりと言ってのける。 全然めでたくはないが、苗床の趣味的にあなたが一番だったようです。 「そもそも子供達が居ない場なら教育的指導も必要無いし、自分が苗床でも、他の犠牲者でも詳しく実況出来たら楽しそうだよね。恥ずかしがるような年でもないし」 残念、十八歳未満三人小学生含むだとそういう訳にも行かない。 「えっと……こーゆーのをNTRっていうんでしたっけ? えっちしてるのを黙ってみてるしかないのをNTRっていうんだっておとーさん言ってました!」 よし、今回十歳であくまで戦闘要員としてきたはずのキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)ちゃん、耳年増さんね。そう言うわけでもないとかアーアーアー聞こえない。 ちょっとお父さん、アークの厚生課まで来るように電話かけてくれないかな。一度じっくりお父さんにお話聞きたいです。 (覚悟完了している人が多いから、それはもう全力で辱めないと。文語体的に。その白磁の肌が朱に染まり……とか、唇から毀れる声音は甘く掠れ……とか) BL小説以前、背徳にまみれた耽美小説化、その昔夏休みに因習まみれた村で起こる連続殺人事件の濡れ場テイストになってまいりました。 (虫×美形って凄く好きな人は好きなシチュだよね、タイプは違えど美形ばかりだし) 胡乱な眼をして、周囲を見回す遥紀に一同なんて言ったらいいのかわからない。 「マジそっくりじゃん! ブチ殺すとき間違えねェようにしねェと」 コヨーテさん、あんまり前にのめると茂みから突き出ます。 と言いつつ、なんかコヨーテさんそれどころじゃなくなってきてます。 なに、このいたたまれない空気。 空気は読めるのは小規模群れを作るイヌ科三割だからです。 「……でも、コレは……気の毒だな……」 でも口に出しちゃうKY系男子七割。それ言っちゃだめだろうっ!? 「……えーと、アレ身体の傷とかホクロも再現できてるのか?」 なんだって、そんな凝視しなくちゃいけないような質問するんだよ。気づけよ。 「傷はないけど、ほくろはあるね。まあ、自分の背中のほくろの詳細は分からないけどさ」 自分が苗床だったとしても詳細に描写するといってた遥紀さんにそんなこと聞いたら、こっちがいたたまれなくなるくらい詳細に返してくれるに決まってるじゃないの。 しかもこっちはコピーキャットに気づかれる訳にはいかないから、リアクションも押し殺さなくちゃいけなくて、年末年始のアウトーの声が聞こえてきそうなんだよ。 『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)は、遠い眼をしていた。 ちなみに、OMEのE、天使ならばAではないかと気になされている方もおられるようだが、あくまで「エンジェル」のローマ字読みのEである。 「like a angel」 では、ニュアンスが違うのである。 綴りはEで大丈夫だ、問題ない。 閑話休題。 (色々触っていい感じにするってマッサージみたいだよな。シリウスたんもモフモフする時マッサージしながらだと嬉しそうに尻尾振りながら気持ちよさそうに目を細めたりするし、きっとそんな感じなのだろう) アーサーは、自分が買っているモフモフ白子犬(少し大きくなりました)のことを思い出して、相好を崩した。子犬の詳細を知りたい方、ウェブで「三防強 黒歴史」を検索。 ファーストキッスが先日の任務だったおっさんのエンジェル具合はそこらのお子様の追随を許さない。 (マッサージされてる時って偶にいつもと違う声が出ちゃったりすることもあるから、聞かれたり見られたりしたら恥ずかしいというのも分かるし……終わるまではリアクションも我慢しないといけないな) キンバレイちゃんとアーサーさんを足して二で割れば、ちょうどよくなるんじゃないかな。二じゃあれか。三位だな。いや、何をとは言わないけどさ。 「うわー……あんなことしちゃうの? あんな顔になっちゃうの?」 (エイ○アンVSプレ○ター2だと思ってたら、おとうさんが隠してたHなDVDどころの話じゃなくなってた) 遥ちゃんがみちったのはパッケージだけです。ほんとです。 (斬る覚悟はしてたけど、こっちの覚悟はしてなかった) 遥のうっかりやさん。 (おとうさん、おかあさん、ごめんさい。ボクはもしかしたらお嫁に行けなくなっちゃうかもしれないとこだった) 今回はセーフだった。 (そうなったら四門さんに責任とってもらおう) あんなすぐ泣く男に遥ちゃんはもったいないから、自分で気をつけよう!? 「私でしたら覚悟する必要などございませんでしたのに」 『天邪鬼』芝谷 佳乃(BNE004299)は、残念と呟く。 「楽しく素敵なことをするのに、何の覚悟が必要でございましょうか?」 ヤマトナデシコの目だけがらんらんと光を増し、背中から隠しようもない業があふれ出てくるのでございます。なにそれ怖い。 「何しろ、素敵なシチュエーションではございませんか。私の姿をした何かが、アザーバイドに、いわゆる「あんなことやこんなこと」をされる、というだけでそそります」 大きな声を出してはいけないからと、自分で自分の拳を口に当てて声を殺しつつも、熱に浮かされたようにぶつぶつとしゃべる佳乃さんを誰か止めて。 そんな佳乃さんの呟きをうっかり耳にしてしまった佳恋さんは、口元を手で隠しながら顔を真っ赤にしつつ目線斜め下45度。 「己の姿を勝手に模倣される怒りや、私の姿をしたものが辱めを受ける悔しさ、そして同僚にその姿を見られる恥ずかしさが入り交じって、それはきっと、私を素敵な世界に導いてくれるのではないか、と思うのです。ドM的な意味で」 そんな佳恋さんの様子にキュピーンと来た佳乃さん、すすすっと近づき、耳元で持論を展開。 ふらいみーとぅーざ・むーん。お月様ではなく、別のムーンな世界に連れて行かれそうだ。 「羞恥心など戦いの邪魔です、不要な感情です。そのような感情は捨てました」 自分に言い聞かせるように宣言する佳恋さん。 しかし目の周りからぽっぽと湯気でてるし、目は涙目だし。 「早々。そんな感じの視線。たまりません。あら、そんなお顔を見せられますと、S心まで刺激されますね。恥ずかしいんですね? 水無瀬様は、うか神様の恥ずかしい姿をご覧になって、とっても恥ずかしくお思いなのですね!?」 畳み掛けるような佳乃。 「捨てた、筈です。捨てたんです! とっくに!」 佳恋の抵抗は佳乃の嗜虐心を更に煽る。 「では、何でそのように真っ赤な顔をなさっておいでなのでしょう?」 あえていわせようとするどエス、こわ~い。 「他の人の姿だろうが、自分の姿だろうが、恥ずかしいものは全力で恥ずかしいです!」 かみんぐあうとー。 やっぱり恥ずかしかったんだぁ~。 「……くぅ」 周りから、しーっと言われる、このいたたまれなさ。 「ですよね」 熱に浮かされたような佳乃さんがあっさり佳恋さんを肯定する。 「そんなハズカシイ状態を我慢して攻撃の頃合いを待たなければならないなんて、何という忍耐が要求されるのでしょう。最早、こんな素敵な仕事はありませんわ。アークのリベリスタというお仕事、何と素敵なのでございましょうか」 佳乃さん佳乃さん佳乃さん。 ここに病院を建てよう。 ちょーんとなっちゃった佳恋さんと何かを成し遂げた佳乃さんのコロンビアが好対照だった。 「こーゆーのってわりと普通ですよね」 キンバレイちゃん、ぜひ一度お父さんを厚生課まで。そういう冗談よくないと思います。 というか、お目目ふさいでお耳もふさいで、下向いて、アーって言ってていいのよ!? 「大丈夫、今日見たことはすぐに忘れておくから」 アーサーさん、このタイミングで言うのはどうかな!? ● 「あ、あ、あぁんっ」 コピーキャットの切なげな声がこだまする。 コピーキャットの体から、微細な卵管がプロアデプトの気糸のように露出し、苗床に向かって一直線。 見ようによっては、ピンポイント・スペシャリティに見えなくもない。 ひょっとしたら偽装しているのかもしれないが、表情に開放と言うか恍惚と言うか、ちょっと直視できない感があるので詳しい描写は避けさせていただきますあしからず。 「これが伝説のアッーなんですね! きんばれい始めてみました!」 うん、キンバレイちゃんちょっと違う。というか、みちゃらめぇ。 リベリスタ達は、息をつめる。 別ののぞきに気合が入っている訳ではない。 そろそろ突撃の頃合いだ。 というか、リベリスタの精神的HPが0に近い。 前代未聞の体に傷が一つも入っていないのに戦闘不能などという金字塔は是が非でも立てたくない。 「……えっと、コレ、自分で殺る? こんなンもう見たくねェってンなら、オレ達でブチ殺しとくけど……」 さっき爾来踏んだくさいので、一応確認してみる。 「俺、後衛だから、回復優先。手があけば灰にするけど特にこだわりはないよ。成り行きでOK」 遥紀、大人の余裕。 「こんな清々しい気持ちでジャッジメントレイ撃つの初めて……! もう何も怖くない!」 アンナの方が震えている。この間VTSで練習した甲斐があったというものだ。 「恥ずかしがってる場合じゃない!」 すでに、遥は刀の柄に手をかけている。 (武術家たるもの、意識を即座に切り替えられなければならない) 受けた教えを自分のものとできているかが問われる瞬間だ。 『――居合の生命は電瞬にあり』 「撃破なんて生ぬるいですね、粉砕です、消滅させます」 今宵の長剣「白鳥乃羽々・改」は血に飢えています。 そうでなくちゃ、この羞恥を雪げません。 「私怨とか逆ギレとか八つ当たりとかそんなこと全然ありませんあくまで送還できないアザーバイドを討つことはリベリスタの務めなだけです私情など挟まず、確実に敵を討ち果たすのみです」 おっと、佳恋さんの立て板に水を流す見事な建前の奏上だ。 「あえぎ越えもなかなかだったアザーバイドがどのような素敵な声で啼いてくださるのか、楽しみで楽しみで仕方が無いではございませんか」 本音でお仕事の佳乃さんも楽しそうで何よりだ。 「「「突撃ー!!!」」」 リベリスタは、たまりにたまった何かを吐き出すように、賢者モードに移行したコピーキャットと苗床をこれでもかこれでもかと粉砕しまくったのだ。 絶対に八つ当たりでも逆切れでも思考を満たすためでもなんでもなく、リベリスタの勤めを真面目に果たしただけなのだ。 ちょっとオーバーキルじゃないかなーって感じがするだけで。 ● 原型をととめない緑色の粘対が焼け焦げ、蒸発した跡だけが残った。 サンプル、何にも取れないと別動班が泣いている。 「この敵おとーさんに渡したら女の人の髪の毛必死で集めてくると思います」 せっせと回復に専念していたキンバレイの所感。 きんばれいはおとーさんのことをよく知ってます。と言うのに、アンナは目をむく。 「二度と来させるか、こんなはた迷惑なアザーバイド!」 アンナが、こわさずにいられるかー! と、D・ホールを盛大にブレイクしていた頃。 遥は自分の手足が震えを止めることが出来なくなっていた。 (軍人さんたちと戦いに行った人たちはこんなものじゃないんだろうな) 「剣豪への道は遠いなぁ……」 千里の道も一歩から。 とりあえず、うっかり屋さんを直すのが先決かな! |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|