● 水面に波紋が広がっていく――。 波紋を作った主は、水面を歩いていく。その姿は何にも例える事ができない程に、それはそれは美しい姿であったという。 ● 「あの……」 温度計、見たくない。湿度計、知りたくない。今日もそんな日。 「あの……! 暑いですね……」 服がクイクイ、と引っ張られた。 あ。居たんだ。本部の手前。『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)と会った。 いつにも増して蝉の鳴き声が元気だ。というか、杏理が今日も長袖セーラー服なのが目に毒だ。それは暑いに決まっている、決まっているだろうとも! 「あのですね、ちょっと遠くにある川に水の神様が舞い降りていたのを未来視したのですが……それが起るのって明日の早朝でして……」 明日か。そういえば暇だったかな。 「討伐とか必要は無いですよ。でもですね、その川の水が清められ過ぎていて、一般人が近づくと革醒しちゃうかもしれないとか、そんなレベルで水が神秘的なものになっていてですね……や、まあ、その効力はたった24時間ですけどね」 それは危ないな。手を打たないと。 「一応……其処は封鎖はしたのですよ。でもでも、ちょっと良い事もありまして。E能力者にとっては水は害が無いですし、むしろ逆で。その水で傷を流せば傷の治りが早かったり、飲めば代謝が良くなったり、そんな方向で良いものなのです。で、これってチャンスかなって思いまして」 そんな会話の中、杏理は後ろを振り返って指をさした。 その指先の遠くで、水着姿にビーチボールを持った万全の態勢の『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)が「お外!」と言いながら浮いていたとか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月02日(月)23:23 |
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● カシャ、というカメラのシャッター音が響いた。一番乗りでこの川へ来たエナーシアは、ふふっと声を出し、次には川の水へ手を伸ばした。 清い水とは何か。それは不純物がほぼ消えているものだろう。 (「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」だったかしら?) そういえば麒麟とは中国の伝承では「足元の虫や植物を踏むことさえ恐れるほど殺生を嫌い、宙を歩く」と記されていた。識別名として杏理が着けた名前だもので、その『麒麟』はこの『麒麟』かは不明な所だが。 再びカシャ、という音が響いた。誰もいない、虫の声と、鳥の羽ばたき、水の音に、葉が擦れる音がその場にはあった。 川の潺。静かで、緩やかな風が流れていく。 雷音は手にした釣り針と、餌を交互に見ていた。此れを此れに着けて……なんだか餌というと可哀想にも思えてくる。溜息混じりに正面を向いた。本来なら川が見えたはず。しかし彼女の焦点は。 「ぎゃあああああああ!!」 絶叫だった。眼前、もはや顔のすぐ前に浮かんだ餌。 「おまえ、なんか気持ち悪いエリューションと戦うこととかあるだろう? なんで今さら!」 「それとこれとは話がちがうだろ! 馬鹿!」 雷音は悪戯をした夏栖斗の腹を小さな手でぱんちぱんち。彼の鍛えられた腹部がそれを受け止めながら、笑って震えていた。 「夏栖斗は本当にデリカシーってものが欠如してるのだ!」 「わかった、もうやんないから! ごめんなさい」 顔の前で手を合わせて頭を下げた夏栖斗にそれ以上何も言えなくなった雷音は餌の着いた釣り糸を川の中へ放る。隣に座った夏栖斗は自身の釣り糸も川へ放った。 再び緩やかな風が流れていく中。すると、雷音の釣竿がくいくいと動いたのだ。 「っと、ほら、雷音、ひいてるぞ! はやく! ハリーハリー!」 「わかっている、静かにできないのか、君は」 夏栖斗の胸が高鳴った。この瞬間こそ、釣りの楽しさが実感できる時。妹の手と手の間に己の手を挟んで一緒に釣竿を持った。 「さかなだ!」 飛沫が上がり、頭上の明りに反射して煌めく雫。兄と妹は同じ音を聴いて、同じ景色を見ていた。 凛子とリルは一緒にカレーを作っていた。やっぱりキャンプと言えばこれなのだろう。 「キャンプ生活は長かったのですが、こうして作ると学生時代のような気持ちになります」 「なるほどッスね」 トントントンと、リズミカルな音楽が流れる中、リルは凛子の声を聞きながら目を閉じた。ふと、目の端から零れる涙。つまり、玉ねぎがとっても目に沁みるのだ。 そんな可愛らしい彼の姿にクスっと笑う凛子だった。彼の痛みを和らげるかのように、話を続ける。 「ジャガイモを入れるとか入れないとかでも好みがでますからね」 「ジャガイモは入れるんじゃないッスかね。夏野菜も美味しそうッスけど」 カレー作りといっても好みは人それぞれだ。二人はどうやらじゃがいもと玉ねぎを入れる事は絶対なようだ。他にも玉ねぎが飴色になるまで炒めたり等々、カレー作りとは奥深い。美味しいもんね、どれも。 シーフードカレーも好きだとリルが告げた次だった。ふと、凛子は思った事を呟いた。 「食事の後は、リルさんとゆっくりとどこかへ散歩に行きたいですね」 「じゃあカレー食べたら、散歩してみるッスかね」 そんな会話をしながら、カレー鍋の中をくるくる回す凛子とリルであった。 いつもならこういう場所でも鍛錬をしてしまう焔だが、今日は瑞樹と一緒にカレー作り。激辛カレーでも作ろうかと焔は一瞬だけ思ったが、否、今日は真面目にカレーを作るんだ。そして皆に振る舞うのだ! 鼻歌を歌いながら下ごしらえをしていた瑞樹だが、やはり焔の事が気に成ってしまう。チラ、と見た、彼――何故、何故じゃがいもが血だるまになっているんだ。 「ひ!?」 条件反射にビクっとした瑞樹はそのまま焔の手を見た。どうやらピューラーで切っていた皮は焔の皮……なんかグロい。 「と、とりあえず水で洗ってください!」 「あ、ああ……?! 解った、水で洗う」 慌てた瑞樹に、気が動転したように手を蛇口の下へ差し込んだ焔。そこで一旦料理は止めだ。まずは傷の手当から――。 ――なんだかんだで、料理も大詰め。しかし、あれ、どうした事か火が点かない 「さあ、火付けだ。……あれ? 優希ー、火種どこだっけ?」 「任せろ!!」 突如、ここぞとばかりに包帯を巻いた腕を横に一閃した。刹那、コンロに火がぼっとついて、つまり業炎撃。ワイルドだろう? 「ありがとう……皆、喜んでくれると嬉しいよね!」 「ああ、そうだな」 隠し味は愛情、と言ったところか。 日々、任務で忙しいリベリスタ達。ラヴィアンは大きなカレー鍋を煮込んでいる最中だ。 こういう山奥でサバイバル的なものをしているのなら、カレーがやっぱり一番喜ばれそうなものだろう。特にリベリスタは大食いが多そうだから沢山作るのだ。 じゃがいもに、玉ねぎ、にんじ……にん……。 「あ、入れ忘れちゃったぜ!」 おや、もしかしてにんじん嫌いなのかな? とはいえこれで完成、ラヴィアン特製カレーだ! 大きなお皿に盛りつけて、一緒に如何? ● 「初めちょろちょろ中ぱっぱ……」 しのぎは呪文を唱えるように目の前の炎を見ていた。その内、飯盒から水がプチュっと噴き出したり、水蒸気がビュっと出てきたり、その度にしのぎの心は不安色。しかしそれも壱也の声にかき消されていく。 「いつも思うけどなんでこーゆーところで作るカレーおいしいんだろ。やっぱみんなで作るからかな?」 「どーでしょうかねえ。でも楽しいよ。所でこれでいいのかな!? このまんまでいいのか!?」 何度も同じ事を壱矢に聞きだす程度には、しのぎは初めての飯盒炊飯にドキドキしていた。 その頃。 トントントン、と。リズミカルな音楽が流れていた。真澄が野菜を切りながら、その隣でコヨーテは思い出したように言う。 「オレ、アレやってみたいッ! ニンジンを星の形にするヤツ!」 「コヨーテは星形が好きなのかい? じゃあ多めに入れようか」 人参を、薄く切って星型のアレ。 「きっと無敵なカレーになンぜ。真澄、教えてくれッ!」 そして再びトントントン、というリズミカルな音と、慎重に慎重を重ねて星を作る二つの音が流れ出した。 「こんな感じかッ」 「そうそう。上手にできたねえ」 初めてなのにコヨーテの作ったお星さまはとてもバランス良く作られていて。これには真澄も感心。 「飯盒を見るのはいつぶりだろう……壱也も見たことあるかい?」 真澄は後ろでご飯を見ているであろう壱也に声をかけてみた。しかしだ、返事が返って来ない。不穏に思った真澄が後ろを振り返り―― 「焦げやすいから気をつ……っ!?」 しのぎと壱也は、大乱闘が始まっていた。VSゲジゲジ。 「あああああああああああ!!!! ゲジゲジ!!!! ゲジゲジがしのぎさんの足をげじげじ!! ハッシー助けて!!!!」 びくりと飛び上がったしのぎはそのまま、靴を上って来るゲジゲジを振り払おうと足を蹴った瞬間。その先の熱い飯盒へ足が当たって、ジュッ!という嫌な音が聞こえた。 「あああご飯が熱い!!!」 「え……!? しのぎさん……ゲジゲジ!? やややだあああああうわああああたたたたたすけるううううぎゃあああきもちわるあっつ!!!」 ガチャコン、と聞こえたのは真澄のフィンガーバレットに弾が補充された音。 「おおッ、殺る気かッ!!」 コヨーテは感心しながら、彼女の行動を見ていた。即座に撃ちだされた弾丸はゲジゲジを木端にして粉砕。 壱也としのぎは驚いた勢いで、飯盒に足をぶつけたようで軽い火傷ができていた。お近くにホーリーメイガス様はいらっしゃいませんかね。 「こりゃあ前途多難だねえ……」 今日は三人のためのコックをした方が、無難に事を終えられる気がしてきた真澄であった。 なんだかんだで、カレーは完成。途中でしのぎが真澄の料理を真剣に見ている等愛らしい一面もあったりして。 「みんなで一緒に作ったカレーだから、きっとバッチリ、最強のカレーになってンなッ!」 「わ、星のにんじんかわいい! おかわりは自由かな!? たくさん食べよ!」 大盛りに盛られた料理を見て、壱也とコヨーテは満面の笑みが咲いていた。色々あったものの、そういう苦労もひとつのスパイスであると言えよう。 「辛さが足ンなかったら、激辛スパイス後乗せしよう。いちやもいるかー?」 「いややや、辛いの大丈夫だよむしろ甘い方が!! コヨーテくん使っていいよ!」 「おいしー! あ、ブラックペッパーは要らないよ」 美味しそうに食べる三人を見て、真澄は微笑ましく思えた。まるで子供が三人出来たかのような――。 ● 「ふふーっ、バーベキューとか初めて? 初めてだから今から楽しみっ!」 「フュリエの里にはバーベキューは無かったわけですね」 楽しげにはしゃいでいるルナに、ぐるぐはふむふむと頭を上下に動かした。その後ろから灯璃が二人の肩を叩いた。 「生きたフィクサードは用意出来なかったから、十字架に磔にして火葬にするのはお預けだね」 「え?! ちょっとまってニンゲンって食べれる?! ねえ、食べれる!?」 灯璃の言葉にぎょっとしたルナ。ツッコミ所満載だ、お姉ちゃん今日はツッコミ役に徹して下さい。 「持ち寄った具材を焼いて皆で食べる。最近こういうの経験ないのです」 「ねえ、フィクサード食べれるの!? 食べれないよね!!?」 マイペースなぐるぐはルナをさて置いて、そのままバーベキューセットを組立て始めた。そうだ、今日は持ち寄りなのだ、と、言うわけで! 「仕方ないから仔牛一頭丸ごと買って来たよー!! あははっ、よしよし♪ うひゃっ、舐められた! 可愛いーっ♪」 「おー素晴らしいですね」 「この子食べるの!? え、お姉ちゃんちょっと可哀想で食べれないかもだよ!?」 段々ぶっ飛んできたバーベキューになってきたがもはや灯璃様だから気にしてはいけないのだ。 「マリアも触ってみる? 可愛いでしょ? まだ生後一八週目なんだってさ」 「牛ー!!! キャッキャ!!」 「なんでしょうね、この空間」 「よく分かんないモノだらけで食べられませんでした! ……とか、そんな悲劇はお姉ちゃんノーサンキューです!」 もはやカオスな空間である。美少女四人が集まっているものの、十人十色と言うか。すると灯璃は武器を取り出す。 「残念ながら、命日は今日。じゃあ、捌こうか」 殺伐としている、殺伐としている。剣熟練マスタリーが本領発揮している間は、しばらくお待ちください。 少女調理中……。 \上手に焼けましたー/ なんだかんだで、準備は着々と進んでバーベキュー完成であった。 「あ、あふい……これあふいれす」 新鮮な牛肉が刺さった串を持って、ぐるぐは頬の手で抑えていた。口の中で転がされるお肉の味はまた格別なものであって。もはやこれまで軌跡は言うまい、楽しんだ者勝ちなのだ。ぐるぐは何事にもマイペースを貫き通す。 同じくルナもここまでの過程を思い出さないでいた。今日はなんというか、命の重みと食の有難さを実感できた日か。嗚呼、あのバイデンもこういう事をしていたのだろう。 「マリア、残さず食べないと死んだあの子が浮かばれないよ!」 「解ったー!! キャハハハハー!!」 灯璃の手元がやたら赤いのは気にしてはいけない。そんな中、マリアと灯璃は楽しそうにお肉を頬張っていた。 「マリアちゃん。食べ終わったらお姉ちゃんたちと探検に行かない?」 「探検!? 行く!! 行くわ!!」 四人で同じものを食べ合って、何処か姉妹の様な彼女たちの朝の風景であった。朝からテンション高いなー。 ● 全てはニニギアの。 「美味しいキノコカレーが食べたいわ!」 という言葉から始まった。 「煮込んでる間にスイカも水に漬けて~。くっくっく、デザートも万全ですぞ。さあ、美味しく頂きましょうか!」 九十九はテーブルに並べた料理に満足気にそう言った。キノコ、キノコ、キノコ尽くし。そろそろ時期だけど一歩早い気がしなくもない。 「わあ! こんなに沢山。贅沢なのです! スイカにカレーに……キノ、コ?」 初めは眩しいばかりの笑顔で語っていたニニギアだが、だんだんと声が小さくなっていく。それはまあ――。 「え、えっとぉ……」 同じく杏理は少し困ったような顔で料理を見た。 なんだかこのキノコ、某土管とかに潜るヒゲのおっさんが主人公のゲームでよく見かけるキノコと同じ色している気がする。 「あの川の水でできた突然変異かねぇ。ああ、そういえばあの川の水は腰痛にも効くのかねぇ」 「どうでしょうか……おそらく効くかと思いますよ。あと数時間で効力も消えてしまいますけど……」 川の水最強だな。 「さあさ、皆さん、遠慮せず」 九十九の言葉に押されて、まずスプーンを取ったのはニニギアとマリアであった。 (どう伝説なのかはわからないけど、きっとまたとない味に違いないわ) まじまじとニニギアはカレーを見ながら、キノコをひとつ掬ってみる。カレーの茶色がついた、赤と白。 「キャハハハハハハ!!! 面白いわ!! 赤と白~!!」 笑うマリアを見て、付喪はマリアの頭を撫でた。久しぶりだね、と笑ったマリアの笑顔はなんだか前とはまた違う様な面持ち。 「マリアは元気に真っすぐ育ってるみたいで私は嬉しいよ」 まるで孫が成長する様。そんな風に感じた付喪。だがまあ、しかし。 「ちょっと元気過ぎる所が有るのは、今後の成長に期待かねえ」 とはいえ、大人しく精粗なマリアなんて想像さえできない。今のまま、ゆっくり育てばいいのだ。 九十九こそ、身体だけでは無く、心も癒して欲しいと思って作った料理の数々だ。杏理の顔を覗き込みながら、 「まあ、年寄りのお節介という奴ですよ。クックックック」 肩が上下に動きながら笑う。なんだろう、何故か怪しい雰囲気が拭えない。 リベリスタ様が作ってくれたカレーだ、食べない訳にはいかない! 杏理はニニギアと同じくスプーンのキノコを乗せ、ニニギアと目線を合わせて同時に頷いた。 「「いただきますっ」」 パクッ モグモグ!! ――この後は、ご想像通りの結果が起きると思われます。しばらくお待ちください。 ● 「………ぅょ~つれない」←><。 ミーノは釣り糸を川の中に入れ、魚釣りの光景。しかしどうした事か、彼女の声からも解るように一向に釣れる気配が無いのだ。 「つれないつれないつれないつれないつれない」←><。 その隣でリュミエールは自分の生まれた国の話を始めていた。それはミーノを退屈させないためにである。彼女の居た国は休日ほぼ、釣りをしている国なのだとか。つまり、リュミエールは釣りにうるさい。 とはいえ釣りには根気やらが必要な訳だが、ミーノがそれに適しているような気なしない、しない……。その内、岩の上で地団駄地団駄に腕をぱたぱた振って小さな憤りを爆発させていた彼女。それだけ動いたからか、突如お腹からぐ~という音が。刹那、ミーノはピタリと止まった。 溜息混じりにリュミエールはお手製のお弁当の蓋を開いた。その瞬間瞳に光がキラキラと生まれた彼女。 「ミーノ、さかなつりたんのーしたっ!」 むくり。リュミエールのご飯を全て食べ終えたミーノはそのままぽてぽて歩き出す。 まだ、まだたべたりない。釣れないなら分けて貰えばいいのだ。それを焼いて沢山食べよう。みんなでわいわい、楽しくね! (にふふふ~しゅくだいのじゆーけんきゅうも、きゃんぷのかんそーでばっちりおっけいなのっ!) そんなミーノの後ろをリュミエールは着いて行った。 浅瀬に足を入れ、浮き輪を持っている羽音が振り返って手を振った。後ろから着いてくる俊介が手を振り返し、近づいてくる。 嗚呼、今日は好きな人と一緒にいられる日。 俊介がすぐ近くまで来た所で、羽音は彼の身体に腕を伸ばした。俊介はその腕を支え、それを頼りに羽音は地面から足を離した。 「しゅんも、やってみなよ。楽しいよー……♪」 「いや……いい」 ぷかぷか、彼女の身体は水面に浮かぶ。今この瞬間、彼の体温を感じていた羽音は幸せの中に浸っていた。対象的に俊介は、この川の水で心の傷さえ癒せないかと少し目線が悲しみ色に染まる。 「……へくしゅっ」 しかし俊介の幻想も、彼女の可愛らしい動きで現実に引き戻された。きょとんとした瞳で羽音を覗き込んだ彼。その瞳に、少しばかり胸の奥が高鳴った羽音の頬が紅潮していく。 「寒いん?」 「ん……身体、冷えちゃったかな……」 なら、と。俊介が目線を向けた先には太陽がよく当たっている……ちょっとした茂みの奥。刹那、彼の口端が勝利を確信して吊り上がった。駄目だ、これは絶対にイケナイ事を考えている顔だ。 「あっちの暗がりに日向があるぜ!」 「……?」 羽音に手際よく浮き輪の真ん中に押し込んだ俊介はそのまま彼女を浮き輪ごと引いていく。この後は想像に任せた方が良い。 「き、きれいな水ですねっ!」 緊張したように少し声が上擦った声。思わず光介は口元を抑えた。気にせず桐は彼のすぐ近くまで歩を進めていく。 光介にとって桐は憧れの対象なのだ。まだアークに来て間もないころに、己を庇う彼の姿は雄々しくて、頼もしくて―― 「おまけに肌も白くて、スカートも似合うなんて……」 「綿谷さんも着たら似合うと思いますけどね?」 「え!? えっえ……っ」 頬を紅潮させて慌てる光介の隣をずんずん突き進んでいく桐はそのまま足を水の中へと入れた。夏の暑さに反して、水の中はなんて冷たくて気持ちがいいのだろう。 「涼しいですよ?」 その言葉に自分の世界から光介は現実へ引き戻された。桐から伸ばされた手。それを拒む理由なんて無いだろう。引き寄せられ、あれ、おかしい。引き寄せる力がデュランダルそのもの。 「ふわぁ!」 突然の身体の崩れに声を出した光介。そして思わず足を滑らした二人はそのまま川の中へとダイブした。 飛沫を上げながら、顔を上げた二人。川の中から見えた大空の大きさはとてもとても青く澄んでいて。目線は空から隣へと向いていく。 「濡れちゃいましたね?」 「あはは、そうですね」 濡れた髪をかき上げた桐がくすくすと笑えば、それにつられて光介も笑いだすのであった。 マリアの準備は大体オッケー。三高平から既に水着姿であった彼女だ、何も言う事はあるまい。 それより。竜一の目線が杏理へと向いた。 「素敵な水着に加えて、体にも巻ける感じのロングパレオと薄手のパーカーもってきたよ!」 「へ?」 きょとんとした杏理であったが、竜一の頬すりがそのまま彼女を襲う。まるでいつもの光景であり、杏理も抵抗の二文字を諦めていた。 「汗だくになってもぺろぺろ舐めとってあげたりできるよ! うひょおおおお!」 「いいえっ、それはばっちいですので駄目ですっ」 もふもふくんかくんか。兄と自称する彼の愛は深い。きちんと傷を隠す様にあるであろう気遣いが杏理にとっては嬉しいのだ。勿論マリアにその愛が向くのはすぐ後の話。 「露草、聞こえるか?」 『――あぁ』 「これが、俺が守りたい世界だ」 『――なら俺にとっても守るべき世界だ』 アリステアは両手で水を掬い、それを口へと運んだ。清いその水は身体の奥から浄化してくれるような、そんな。 「空気がおいしいね。水冷たいねっ」 「そうだな、冷たくて気持ちい」 彼女の声に反応した涼は、サンダルの履いた足を水に浸けて歩く。まるで、生き返るような涼しさが足元から感じられる。 ふと涼の瞳が遠くを見て、足は自然と其方の方へと向いていく。森の奥というのは涼しいもので、木々の間から差し込む木漏れ日が優しく彼を照らし、誘われている様にも見える。 「ひやぁぁぁぁ!?」 「ぅあ!?」 しかしその時であった、突如涼の後方からアリステアが背中にダイレクトアタック。そのまま――バッシャーン! 「ご、ごめんなさぁぁぁい!!!」 勢いよく起き上ったアリステアは無意識に胸の前で手を合わせて、慌てた顔で涼を覗き込んだ。彼は濡れた前髪をかき上げながら。 「僕は大丈夫だったけどアリステアは大丈夫?」 と気遣ったのだった。ほ、と息を吐いたアリステアは涼の身体を上から下まで舐めるように視線が動く。 「わたしは大丈夫。涼こそ怪我してない?」 していたら自分が治すと息込んだものの、彼に外傷は見当たらない。 そんな真摯な彼女の姿を見て、涼はくすっと笑った。嗚呼、たまにはこうして濡れるのも悪くない。心が何処か子供の時を思い出したような気がするのだ。 立ち上がった涼はアリステアへ手を伸ばした。 「ほら」 一旦帰って、着替えて来よう。風邪を、引かないように――。 ● 義衛郎と嶺は二人で岩場に座って足を水に浸けていた。子供の様に川の中へ飛び込んだり、水を掛け合ったりはせず、静かに、静かに岩の上で時は刻まれていく。 しばらくしてから、今の様にハンモックの上で二人寝そべって、時折吹く風にゆりかごの様な優しい揺れを感じている。その幸せは溢れんばかりのもの。 ちら、ちらり。嶺は違和感に気づいた。どうやら義衛郎の視線が度々此方を向いては違う方向へ行くのを繰り返している様だ。 「どうしました?」 ぱちくりと、銀色の嶺の瞳の中に義衛郎の顔が映った。視線が向くのは気のせいかと思った彼女だが、どうやら気のせいでは無かったようで。 「腕枕でもしましょうか?」 義衛郎の口から出た言葉に思わず、嶺はクスリと笑った。なら、今はその言葉に甘えましょう。彼の程よく鍛えられた腕が嶺の首の後ろに回った。そのまま、彼に包まれているかのような包容感と、頼もしさに浸りながら目を瞑るのだ。 義衛郎こそ、そのまま目を閉じ、二人が起きるのはヒグラシの声が聞こえる頃なのだろう。今はまだ、蝉の声はけたたましく愛を求めていた。 水着コンテストでも名をはせた、蒼色の水着を纏ったミュゼーヌと、それに負けず劣らず可愛らしい色合いを魅せる花嫁水着な旭。二人が一緒に居ると絵になるというか、背景にキラキラと花でも舞っているかのような、そんな雰囲気を醸し出していた。 「わあ、ミュゼーヌさん綺麗……! 惚れ惚れ見蕩れちゃいそ」 「ふふ、旭さんもとっても可愛くって素敵」 独り占めできるなんて贅沢だとトキメク旭に、ミュゼーヌは手を出した。生憎、花婿になれないのは仕方ない事だけれど、紳士的な態度に旭の胸は更に高鳴るのだ。 重なった手は引いて、引かれて、浅瀬に浸かる四本の足。ミュゼーヌの機械部位が其処だからと、熱くなったそれが冷えていくのを感じながら、目の前で旭は水を掬って水をかけてきた。 「ひゃっ、やったわね」 「えへへー」 しばらくそれで水のかけ合いっこ。雫がキラキラ、光に反射して、その中で二人は友好を深めていく。 水で重くなったヴェールや、キャミソールドレスは全て脱ぎ去って、女性らしい身体の曲線を見せ合う二人。旭は彼女の手を取り、奥を指差した。 「ミュゼーヌさんミュゼーヌさん、もっとあっちまでいってみよーようっ」 「ふふ、行きましょうか」 再び手を取り合った彼女たちは、水面に波紋を大きくつけながら仲良く駆けて行った。 「杏里、お前はいつもその格好だな。流石に暑いんじゃないのか?」 「え……」 偶然通りかかった杏理にゲルトは声をかけた。ジャケットを脱ぎ、木陰で休む彼の下へ杏理は歩を進める。 「……勘違いかも知れないが、傷を気にしているのか?」 「えと……その……あの」 俯き加減で杏理は黙ってしまった。やはり気にしていた部分なのだ。腕から見えた傷を、袖を引っ張って隠した彼女。 それを察してか、ゲルトは杏理の頭を優しく撫でた。 「俺は、傷があっても杏里は十分可愛いし、綺麗だと思うぞ」 「えっ!? ほ、本当ですか……?!」 驚いた様に、杏理はゲルトの瞳を見た。その言葉にいくから心が軽くなったような感覚が杏理を支配する。 「水着……はもう時期が終わるか。今度服を買ってやろうか?」 「ご迷惑で無ければ……」 「マッリアさーん!!」 「ぎゃー!!」 ぎゅむぎゅむすりすりすり……珍粘の愛の包容がマリアを捕えた。そのままくるくる回して、再びぎゅむ。 「その水着、可愛くて素敵ですよ」 「ほひいー」 にこっと笑って珍粘がそう言った頃にはもはやマリアはふらふらとした足取りであった。次に珍粘の視線が向いたのは杏里へだ。 「杏里さんもおひとつ如何ですか?」 「あ、い、いえ、あの、えと」 今なら標本家が解体した傷も新しい、ツギハギな身体を体験――まあ、寄ってこなくても珍粘から寄ってくる訳だが! 「――可愛いものに何されてもいいですが、可愛い子に何をでもしたいんですよね」 「ギ、ギブアンドテイクなんですね」 今日はとても太陽が気持ちいい日。珍粘は杏里とマリアを抱きしめたのに満足した。 ああ、今日も世界は素敵に溢れている。 ちゃぷり、と水が跳ねた音が心地よい。猛とリセリアは浅瀬で足を水面に入れている。その内猛はリセリアの手を取って―― 「少しだけ深い所に行ってみるか。濡れなきゃ良いだろう」 「深いと感覚が全然違いますから、流石に気を付けないと危ないですね」 ――ぐい、とリセリアの手を引いた瞬間。 「って、うぉっ?!」 「え、あ、きゃっ!?」 リセリアの瞳から勢いよく猛が下にフェードアウトしていったと思えば、彼女もつられて体勢を崩されて一緒に水面ダイブ。 「痛つつ……ぁー、やっちまった……。リセリアは大丈夫か?」 「冷た……私は大丈夫ですけど、猛さんは」 猛は全身びしょ濡れになり、水の滴る前髪をかき上げながら彼女の瞳を覗き込……と思いきや視線は下に下に。 「うーん、水も滴る良い女。眼福、眼福」 「――って、な、何ですかっ」 濡れた服。つまり透けるなんとやら。咄嗟にそれを両手で隠したのだ。 「もう、言った傍から――!」 「ははは、悪い、悪かったって! そんなに怒るなよ、リセリア」 ぷい! と顔を背けた彼女に猛は笑いながら、その頬に手を重ねた。彼女の頬は、なんだかいつも以上に熱い気がする――。 連日戦闘の毎日だ。たまには骨休めをと五月は此処に来た――訳だが、どうした事が骨休めってどうやればいいのだ。 とりあえず周りを見てみて、岩場に座って足だけ水面に浸けてみた。うん、これは気持ちがいい。 よくよく考えてみれば、休日にこんな場所に居る事や、休んでいる事、全てが久しぶりなものに感じた。 五月自身、いつも非現実的な戦闘に身を投じているからか、なんだか身体がそわそわして落ち着かない。 普通に、友達や、普通の、日常――何故だろう、遠い世界に感じる。 「普通って……なんだっけな」 ぽつりと呟いたそんな言葉は、川の流れの音にかき消されていた。 マイナスイオン豊富な川の音に癒されつつ、静かに泳いでいた瀬恋だが平和とはいつも壊されるものだ。 「せーーーーれーーーーーん!!」 突如襲来せしマリア。その短い腕を肩で担ぎ、そのまま背負い投げて水面が大きく弾けた。 「暑苦しい……っつーんだよ、バカ」 とは言え、目の前で泣きだされたら溜まったもんじゃない。 ――そんなこんなで。 「そこに立て」 「嫌よ」 「いいから」 頬をぱんぱんに膨らましたマリアだが、渋々立つ。其処は風のよく通る岩場の上。高い場所は些かも怖くない。 そのまま瀬恋はマリアを背中から腕を回してがっちりホールド。した後に、そのまま岩場から飛び降りてダイブした。 「ハハハハ!! どうだ? 楽しいか? 楽しかったんならもう一発やっとくか?」 「うん! 瀬恋! もう一回!」 マリアは翼を広げ、瀬恋の腕を掴んで飛び上がった。 ちゃぷん、と足を水面の中に入れてその冷たさを確かめた真昼。来た道を振り返って、手を振ってみる。 「影時、こっちおいでよ」 妹の名前を呼んでみるが、あれどうした事か。彼女、何故か頭を抱えている。 (なんか僕の知っているような声がする……なんだったかな……この声――!!) 「なんてそんな話がある訳が無いですね。居たんですか兄さん、一言くらい声かけてくださいよ」 「うん、居たよ。さっき昼ご飯一緒に食べたよね」 そうだっけと顔を斜めにこてん、と向けながら、影時は真昼の下まで歩いて来た。もうちょっと興味を持ってあげても良いと思う。 この水、傷を早く癒すとかで影時は最近できた傷に水をかける。そんな中、真昼は意を決して、己の眼を隠していたものを取ったのだ。 目の前で顔を洗っている兄が疑問に思って、見上げてみればいつもあるものが無い。 「なんだ、そんな顔してたんだ」 今は影時以外に見られる事は無いもので。真昼は自分の瞳で妹の姿を見た。 「ねえ、オレは頑張れてるかな」 「頑張ってるのは知っているからさ。僕より強くなりやがって、白夜くれ」 「……」 悪気も無く手を出した影時に、真昼は数秒硬直した後にくすっと笑ったのだった。 (彼女の秘めた戦闘力がこれほどのものとは……データを修正しなければ) シメオンはターシャの曲線美をまじまじと見ながら、頭の中で何とは言わないが数字を思い浮かべて記憶していく。 (シメオンがこっちをやけに見ているなあ、服で隠れてた鱗でも気になるのかな?) ターシャはターシャで自身の目立つ鱗が気になるのかと、頭にハテナを浮かべながら自身の四肢をひとつひとつ見ていた。 ふとバチっと合った目線。シメオンは彼女へ笑顔で切り返して手を振るのだ。 それからは何やら理由を着けては水に入るのを断るシメオンだが、ターシャの強烈な押しに負けてついに水の中へ。 勢いよく引いたからか、ターシャの足は水の中で滑って、手を引いていた先のシメオンまで一緒に転ぶ始末、お約束ですね。つい、ふにぃとシメオンの頬に当たった柔らかい感触。これはまさかと唾を飲んだ彼だが、その通りで。 「あー……これは事故であってけして邪な動機から起こした行動ではないので……」 再び理由を重ねて言い訳してみるが、ターシャはそれどころでもなく。 (マズい……ボクはそんなに無い方だしなぁ) 抑えた胸を見て、頬が少し赤くなっていた。 「ターシャ?」 シメオンは彼女の名前を呼んでみた。すれば一瞬だけ慌てたように顔を上げ、すぐにクールな顔に戻った彼女。 「ボクが引き込んだのだし、謝ることないさ」 昨日買った釣竿を持ち、セラフィーナは岩場に座って釣りを楽しんでいた。座っているすぐ隣には、「釣り入門編」というような、初心者向けの釣り本をお供にして。 いつもはお店で買えるくらい食材というものは充実した場所に居た。今日くらいは自給自足を味わってみよう。 「釣ったのは、あとで皆さんと一緒に食べましょうかね」 鼻歌を歌いながら、じっくり魚が来るのを待つのであった。 ● 「いうなれば、ウォーターガン・サバイバル……癒しの水は、戦士の手によって武器へと生まれ変わる!」 風斗が手元の加圧式の水鉄砲をどんどこ加圧していく。そう……今日は無礼講! 何もかも忘れて、遊びに全力になれ! 「……というわけで、皆で水遊びだ!」 「マリア、遊び倒すぞ!」 杏樹がマリアに、彼女の手のサイズでもしっくりくる様な小さな水鉄砲を渡した。目を輝かせた彼女はそのまま杏樹にお礼を言う。その隣で慧架は持参したクッキーやらお菓子やらをマリアの瞳にチラつかせて、後で食べましょうねと笑顔を向けたのだった。 それにしても杏樹とリリ。二人のシスターは今日も二丁拳銃だ。お揃いですね、と笑ったリリに、杏樹も微笑み返したのだった。 「今日だけは悪戯……も、神様はきっと赦して下さるでしょう」 リリは青い大空を見上げ、神様が許してくれなくても私が許すと、杏樹はマリアの頭を撫でた。そんなマリアの肩をトントンと叩いたシュスタイナ。振り向いた彼女に、シュスタイナはぎこちなく手を振った。 「マリアさんとは、初めましてね。私はシュスタイナ。よろしくね」 「シュスタイナ? マリアはマリアだよ」 対照的な翼の色。マリアの瞳に奥に映ったシュスタイナは、彼女に記憶されたと見ても問題は無いだろう。 つかみはオーケー、仕込みも抜群。今日も今日とて手は抜かず、戦場を奏でる準備に勤しむミリィ。その濡れても良い服の下に、大量の水鉄砲を隠しているのだ。今日も戦略姫は冴えていらっしゃる。 そしてこの男、幸成も。なんらかの忍法を使って水面へと潜り込む。忍のだ……忍者が楽しみにしているイベントには時はまだ早い。 その頃、瑠琵は歩いていた杏理の後ろから、限界まで加圧した水鉄砲を突き付けていた。 「あ……あの、これって」 「何? 背中に銃口突き付けるのはお誘いではなく脅迫?」 杏理はそのままこくこくと頭を縦に振ってみたが、瑠琵がそれで退く事は無いのだ。 \三十秒で仕度しな/ 「はぃい!!?」 そのまま杏理は何処かへ水鉄砲を回収しに行った。 そんなこんなで準備は完了。十一人は川の一番浅い場所で、水を弾いて走りながら、水鉄砲合戦が始まった。 「さあいくぞ! 女子供とて容赦はせん! 撃って撃って撃ちまくるぞーー!! わははははは!!」 大笑いした風斗だが、直後、とんとんと肩が叩かれている感覚がした。振り返ってみれば―― 「こんにちは」 ――シュスタイナが零距離で風斗の顔へ水乱舞。ほぼ同時にミリィも風斗を狙うのであった。 「なんで俺狙われてるんだ!?」 「目についたから……?」 風斗は叫んでみたものの、理不尽な理由が返ってくるしかなく。そのままミリィの乱れ撃ちに小破、中波していく――。 「狙い撃つのは、自信があるんだよね!」 ロアンはここぞとばかりに銃のトリガーを引いた。弾丸はそのまま風斗へ――。 「きゃっ、冷たいです。お返しですよ!」 しかしロアンの弾丸を受けたのは、まさかの妹であった。 「お守りします! お背中はお任せ下さい」 風斗の背中に己の背を着け、反撃の連射を撃つ、撃つ、撃つ! リリの弾丸はまるでインドラの矢。降り注ぐは炎では無く水だが――!! 水弾丸の連打が降ってくる。苦戦を強いられた杏樹の背中に触れた温度。誰かと顔だけ振り向かせれば、シュスタイナが居た。 「杏樹さんの事は姉から何度も聞いていたの。尊敬できる方だって。一緒に戦った時、わたしもそう思ったのよ」 その言葉に杏樹は一度目を見開いてから、そして口が楽しいと笑った。援護をシュスタイナに任せ、杏樹は二つの銃を構えた――。 「その言葉に応えれるようになりたいな。シュスカたち姉妹も、一緒にいると心強いよ」 所変わって。 「いくのじゃ!」 「あ、あの……」 ちょっと待て。杏理の背中によじ登った瑠琵。つまり、おんぶの形。ただでさえ体力が無い方のフォーチュナを下にするとはなんたるドS。 「愛馬なのじゃ」 「嬉しいんだか、悲しいんだかですよっ!」 しかし杏理の足はぷるぷる震えている! そのまま前方へ倒れてあえなく大破。そしてシュスタイナの背後から現れた――影。 「この程度の人数を捌けずして何がハーレム王か! 精進が足りぬぞ楠神後輩!」 川の中から勢いよく現れた幸成は、大量に隠し持った水鉄砲で乱れ撃ち。その全てが男子を狙わず綺麗に女子を狙っている! その狙いは美人淑女美少女たちの透けた下着やらなにやら。ほぼ女の子は水着だが! 一番狙われたのはミリィであっただろう。しかし彼女も負けず劣らず。己の隠し持った銃を次々と抜いていき、自分に被弾するであろう水の弾丸を全て撃ち落として相殺していくのだ。 しかしまあ、此処は水辺であって、攻撃は幸成のものだけで無く。ミリィの上着が濡れに濡れ、うっすら下に来ている水着が見えているのはどことなくエロくて小破している。 忍者――もとい、幸成はそれで心が満たされたような気分を味わった。 「ひっかかりましたね~」 幸成背後。気づいた時には遅かったというやつだが、慧架が幸成の首の後ろにコツンと銃口をあてた。これまでか……と目を閉じた瞬間、慧架は呟く。 「おやすみなさいませ」 そのまま女性の雷撃戦。集中攻撃を受けて、一名轟沈。 ――その頃。 今日は釣りに来ていた快。此処では何が釣れるのだろうと、釣り糸をたらして長い時間待っていた。 足は水面の中に、そして何度目かの同じ作業である釣り糸を水面へ投げる作業――おっと。 「あ、いけない……ちょっと遠くに投げ過ぎたかな」 というのも勢い余って、岩場の奥へ行った釣り針。そのまま引いてみたら――何やら遠くから黄色い声が聞こえる。釣り針は何かアイテムを拾って帰って来た。 「ん? これは見覚えあるな……」 確か、リリ・シュヴァイヤーの水着の上のやつっぽいような気がする。 「――そろそろ、お腹すきませんか?」 そんなこんなで、水鉄砲合戦の終止符を打ったのはミリィの一言であった。そういえば動きすぎたからか、お腹はもうぺこぺこ。 「私、お菓子とか持ってきたんです」 「食べるわ! 全部マリアの!」 慧架はマリアを宥めながら、クッキーの入った箱を持ってきた。 「僕もお弁当もってきたよ」 ロアンも同じく、お弁当の箱を取りに川から上がった。出て来たものはバランスの良い、男性が作ったとは思えない程のお弁当で。 「君は、あの時懺悔室に来てくれた……マリアちゃん? 罪の意識に苦しんでいた子だったか、まだ苦しいかな」 「あら、覚えててくれたの? そういえばそんな事もあったわ。そうね……今度またあそこに行くわ」 小さな女の子であるマリア。彼女こそ、笑顔でいて欲しいから――ロアンはお弁当からバランス良くお皿に持ってはマリアへ。 「さ、マリアちゃん。食べて食べて」 遊んだあとは、食べて飲んで、今日は一日そんな感じになるのだろう。 ● 「――楽しんでるようですね。こんばんわ」 「こんばんは、マリア。どうだ、楽しんでいるか」 笑みを浮かべる拓真と、軽く手を振っている悠月に呼ばれたマリアは振り返りながら顔を縦に動かした。 「少し時間を貰っても良いか? 話があってな」 「構わないわよ」 ――という事があって、三人。もう既に誰かからされているかもしれない話だが、と切り出した拓真。 「……例の決戦の際、失敗に終わった任務。あの時の事を、今どう考えている?」 仲間が死んでいく、その中で生き延びた事。マリアは片手で持っていたジュースをことんと落とした。中身のオレンジは地面に吸われて消えていく。 「あ……んなのどうって事ないわ! 終わった事は仕方無いわ、そうよ! 仕方ない……」 ふふんと胸を張ったマリア。何処か隠している感情を悠月は見抜いていただろうが、必要以上に彼女を刺激するもの逆効果だろう。 「必要以上に己を責めている様なら、咎めねばならんと思っていた」 拓真の大きな手はマリアの頭の上に置かれた。 「マリア・ベルーシュは庇護されるだけの存在では無い。君の事は一人の戦士だと、戦友だと思っている」 「戦友?」 マリアの頭が上へと向いた。その目線は拓真の眼をしっかりと見つめている。 「何かあれば、相談して欲しい……俺からはそれだけだ」 「相談?」 マリアの幼い頭には難しい事は多い。それでもかつてのクレイジーマリアから一度リセットされた感情には大きなものが芽生えたには違いない。 「少し、こうしていませんか」 小さな手を、悠月は力強く握った。嬉しくなったマリアはそのまま悠月の背中に手を回して温もりを確かめる。 「――強くなって行きましょう、皆と共に」 記憶にも新しい、車輪が戦場を行き交うあの日。 珍しく怒ったマリアを見た、レイラインは彼女に謝りたくて。椿も一緒に、話がしたくて――。 「この前の決戦、お疲れ様。あの時はごめんな?」 「皆で帰る。甘い覚悟じゃったわい」 あの時、二人のそれぞれの言動にはマリアを心配する心が見えていた。それはマリアは十分に解っている、解っているのだ。 「もう二度とあんな無様な姿は見せないから、この頼りない婆やを許してくれんかのう?」 マリアの右手を椿が、左手をレイラインが両手で掴んでいた。小刻みに、レイラインの腕は奮えている。こんな真正面から謝られるとは思っていなかったマリアは目をぱちくりさせていたが、少し考えて。 「……マリア、もう怒ってないわ。戦場に居る時、命懸けなのは決死隊だけでは無いとは思うのよ。でも……そうね」 ――生きて欲しいと願ってくれる人がいるのなら、生きるのも悪くない。そう思えたのはきっと彼女たちのおかげ。少しずつ歩み寄って行けばいいのだ――。 「さあ、湿っぽいのはここまでじゃ! 一緒に花火、見に行こうかえ!」 そのまま二人はマリアを引っ張った。より、花火が綺麗に見える場所へと向かうのだ。 「全く、仕方の無い二人ねぇ」 そんな二人を見て、マリアはクスっと笑った。 「御龍だわ!」 「こんにちは、御龍さん」 「ありゃ? 杏里ちゃんとマリアちゃんじゃないかぁ。見られちゃったかなぁ」 大空を流れる星々を眺めていた御龍。マリアに指を刺されて、にこりと微笑んだ。 「何をしているんですか?」 「いやぁお恥ずかしいぃ。まぁ元巫女としては大自然には敬意を払わなきゃぁいけないからねぇ。みんなも楽しんでるし、水も綺麗だしいいねぇ言うことなしだぁ」 三人の目線にも見えるように、花火が彩り、その光が水面に反射して七色に光っている。まるで夜空を流れる星々の様。 「綺麗ですね」 「綺麗なのよ! あれ、御龍?」 御龍は立ち上がり、背中を見せながら手を振った。これから夜釣りなのだ――。 「いやァ、食った食った。あひるの作ってくれたカレーだから、つい食い過ぎちまったな。ああ、足元気をつけろよ」 「ふふ、飯盒炊爨は気合入るねっ! ちょっと焦げちゃったけど……それもヨシッ!」 仲睦まじく歩く二人、フツとあひるだ。手を繋ぎながら、進むのは川の方へだ。しばらくして立ち止まって、あひるはキョロキョロと周囲を見始めた。そう、探していたのは――。 「この川には蛍もいるみたいだな。見れるといいが……そっちの方はどうだい」 「うーん、こっちは見当たらないや……もう少し暗くならないと、出てこないのかなぁ」 しゅん、とあひるが顔を下へ向けた。おや? 足もと、小さな明りが蠢いた様に見える。フツが彼女の肩を叩き、「ホラ」と言った時、ふと顔を上げた。 瞬間、一斉に舞い上がった光――! 「わっ! すごいいっぱい集まってきた……! ぴかぴか、淡い色で綺麗! あ……ふふっ、フツの頭に止まってる。そこがお気に入りみたいねっ」 「なんかプラネタリウムにいるみたいだな。ン? オレに止まってる?」 光は舞い上がっていく。あの中に入れたらとても幻想的な世界が味わるだろう。と思ったあひるは背中に羽がある事を思い出した。 「フツ、あひるに掴まって。いこうっ!」 伸ばされた手に、フツの手が重なった。笑顔の彼女にフツは満足気に、そしてその足は地面から切り離された。 ツァインの瞳に映る杏理はいつもの姿だ。夏にして長袖……どう見ても暑い。 (何で夏服着ないんだよ! って危なく突っ込みそうになったわ……無神経にも程があるな) 彼女が気にしている事は、三高平の人間ならほぼ気にしない様な事だ。所謂傷なのだが、それでも女の子心にとってはとても嫌な事だ。 「どうしました?」 「いや! なんでもない!!」 まじまじと杏理を見ていたツァインはその一言で飛び上がった。傷――を見て何か思わない人なんていないだろうと何処か悲しい気持ちを感じながら。 「そんな事より」 ツァインは両手に花火を持ちながらくるりと回った。作品名「スプリンクラー」に杏理は両手を叩いて面白がっていた。 「――んじゃ占めいこうぜ、占め!」 「ふぇ?」 線香花火を終えた後だった。ツァインが持っていたのは『危険』と書かれた筒。 「そ、それ……大丈夫ですかねえ」 「大丈夫大丈夫!!」 夜空を見上げた氷璃。隣ではしゃぐマリアを見ては、溜息を吐きたい気分になる。 「自分ばかり守られていて申し訳ない気持ちかしら。今のままでの罪の意識に押し潰されてしまいそう?」 「いっぱい死んだもの……」 突然の言葉にマリアは固まる。 「そうね。私もマリアを甘やかしてしまう一人だけれど、庇う事を禁じたのは……その方が効率が良いからよ」 「マグメイガスの戦い方、よね」 メイガスの耐久なんて一部を除けはたかが知れている。ならば、防御より攻撃だ。 「実感は湧かないでしょうけれど、それが私達の守り方。私達が庇うのは守りたいからではなく勝つ為の手段よ」 「解っているわ。お姉様はいつでも心配性ね! 次こそ勝つのよ、いつでもリベンジマッチはあるものよ!」 「どう、綺麗でしょ? たくさんあるから、ユーナもどうぞ。ほら、マリアもね」 「へー、これが花火? まあ、夜の綺麗さなら私のフィアキィも負けてないけど!」 マーガレットの並べた花火は種類が豊富。それにフュリエであるユーナは目を輝かせたが、すぐに彼女のフィアキィを見て、ふん!とふんぞり返ってみた。 「なら、フィアキィ、マリアに頂戴! 花火はあげるわ」 「ごめんなさい、私もそれやりたいです」 無理過ぎる相談にユーナは一度大きく溜息を吐いた。 マーガレットは設置型の花火に火を点けた。さっと離れれば大きな花が地面から生える。それに興味を持ったユーナの気持ちを察してか、マーガレットは今度はユーナが点けてみてと。 「あれ? 導火線が燃え切ったのに何もおこらな……」 「覗き込んだら危ないって!?」 火を点けたら避難する系の花火なのに、ユーナはそのまま筒の中を覗き込んでしまっている。驚いたマーガレットだがもはや――。 「……ぎゃあ!? こわっ……怖っ!?」 突如咲いた、火の花。驚いたユーナはそのままマーガレットの後ろまで全力移動していった。 「マリアはああいう事しちゃだめだよ!?」 「キャハハハハハ!!」 その後も、そんな不幸の様なものが何回か起きた訳だが――いつも通りの光景であると言えよう。 何をやっても、ユーナに不幸が吸い込まれていく、そんな災厄。 星空見上げて、海依音は一人酒――と思いきや先客は居たもので。 「こんばんは熾喜多君、お酒好きなの? あまり飲んでいるイメージはないんですけど」 「アークの魔女ちゃんこんばんは。俺様ちゃんお酒は好きだよ、あんま酔わないけど気分で」 葬識は海依音に背を向けたまま、手元のビールを口に運んだ。 そういえばと海依音は先日の出来事を思い出す――。 「この前はお疲れ様ね」 「はーい、どういたしまして」 差し出されたグラスにグラスを合わせて、チン、と音が響く。隣に座った海依音は零れ落ちてきそうな夜空の星々を指差し。 「殺人鬼君は人は死んだら星になるという通説はどう思います? あの星が貴方が殺した人だとしたら」 「どうだろううねぇ、死んだら星になるとかいうけど、そんなわけないよ、死は絶対だ。そこで終わりなんだよ。輪廻転生なんて怖がりが提唱した未来への希望だよ」 ふむ、と海依音は首を斜めにし、そこから数分静寂が訪れた。その静寂を斬り伏したのは、葬識であり。 「そっちこそ聖職者が信心深くなかったらそれは聖職者なの?」 「知ってます? ノセボ効果ってプラセボの反対です。信じるものは救われない、ね、この世界そのものです。コレでは答えにならないかしら?」 まるで言葉遊びの騙し合いの様な会話に、葬識と海依音は可笑しいと笑った。 ● 最初は二人だけだった。雷慈慟と、伊吹。 「最近そなたと呑んでばかりな気がするな」 「そうですね……最近この二人で呑む機会、多く存じます」 人の声も途絶えた場所で、煙草を吹かしつつ、酒を酌み交わす。静かで、落ち着いていて、何処か妖しい雰囲気の漂う二人だ。 しばらくしてだった。足音が大きな音で耳の中に入って来た。その方向を見れば。 「先日の直刃一行との戦い以来か? 息災かね」 朔が手を上げ、雷慈慟と伊吹を交互に見据える。 「む……これは朔御婦人。思い返せば作戦行動以外での接触は初めてか」 「おや、女性から酒に声をかけるとは珍しいな。そなたも隅に置けないではないか……知り合いか?」 伊吹は不思議そうな顔をして雷慈慟を見る。その問に答えたのは、彼では無く、朔の方。 「あぁ、知り合いだ。肩甲骨を刀で貫いた仲とでも言おうか」 伊吹に二人の関係全てを把握するのは難しい事だ。しかし友達の友達である、程度に理解できればそれで良いだろう。 朔は男二人の間に座り、一枚服を脱いだ。露出した褐色肌に、月明かりが差し込んで、何処となく美麗であり。普段そこまでじっくりと見たことが無かった女性の曲線に、雷慈慟は動いた。 「如何だろう朔御婦人 自分の子を宿してみては」 刹那、伊吹は口の中で転がしていた酒を噴き出しそうになった。そして、此れで平常運転である彼を見ながら、伊吹はくくっと笑った。 「……そなたも懲りないな」 「妊娠すると戦えなくなるのは困る。そうだな、妊娠しても問題なく戦えるアーティファクトを用意してくれるなら考えても良いぞ」 かなり難解であるものの、いくらかは前向きである返答に雷慈慟は言った。 「……可能な限り探しては見ようか」 まじか。 「夜叉の如く苛烈と聞く、蜂須賀の者は噂通りのようだな」 「おいおい、女性に夜叉とはあんまりではないか? 間違っている、とは言わんがな」 三人になり、酒を酌み交わしつつ伊吹は蜂須賀家の事を思い出した。 「いや失敬。いずれ生死の境界を共にすることもあろう。その時は頼りにしている」 伊吹の言葉に朔の口が少しだけ横に吊り上がった。酒に映った彼女の金の瞳が、次に向いたのは伊吹と雷慈慟。 「あぁ、その時は私も君らの事は頼りにさせて貰うよ。君達は強い、いずれ戦ってみたい程にな」 乾杯だ、と。其々が持った杯が一度だけ触れ合った。 「女性ならば女性らしく、受胎をしてだな」 雷慈慟はいつまでも雷慈慟であった。 ●日取りは朝に戻る 大体なんでも用意できます。と言ったな? それじゃあまず木材と、道具類一式を用意するんだ。 ……今更ダメとは言わせんぞ。 ――「あるブリーフィングルームの光景」 「別荘を建てる前にすべき事があると思うんだ」 容赦無い彩歌の言葉の弾丸が誰かの心を射抜いた所で作業は始まる。 「……流石は麒麟の降りる地。盤石もいいところだ」 今日はキャンプのはずだった。しかしそれはこの男によって覆られた。 今日は鷲祐の別荘を作る日である。なぜこうなったんだと彩歌は頭を捻ったが考えてもしょうがないかもしれない。 「あれは本当に悲劇的な事件であったでござる……」 「やめろ、言うな」 虎鐵は何処か、明後日の方向を見ながらそんな事を呟いた。というのも三高平で行われた大大的過ぎる雪合戦があったのだが。まあ、うっかりその時家を燃やした、否、燃やされた猛者がいらっしゃってだな、それ以上は言うまい。 「初めまして!誰でも歓迎って事だから、ボランティアに伺いましたー! あ、れ?」 爽やかに挨拶した琥珀だったが、何故だ、目の前の景色が青色だ。あれは嫌な事件だったね、みたいな雰囲気になっていた。それを破ったのは火車で。 「で、何作るんだ? 洞窟スタイル? 木の上スタイル?」 「ログハウスで頼む。時間は掛かる。かかって当然だ。組むは10畳間2階建てロフト付き。俺の別荘だ」 しんぷるいずざべすと。そのまま火車は埃対策用、などなどのために川へ水汲みへ。 「ま……期限切れても美味い水ってんなら、コレで飯作っても美味かろう。後で使うべ」 「さ! ばりばりするでござるよ!」 虎鐵が机の上に並べたのはお握りの群。これは作業をしている人たちのために作ったものだ。きちんと【建設ご苦労様です。ご自由にお食べください】という立札も立っている。 「おー、おいしそうだねぇ。私も、飲み物とかハチミツレモンとか持ってきたでよー」 同じテーブルに並べた飲み物と、食べ物。魅零が虎鐵に感心しながらそれらを並べていく。 「これだけあれば、熱中症も大丈夫でござろう」 「うんうん! じゃあ私作業行ってくるでよー」 「皆、ふぁいとだよー!!」 可愛らしい衣装にボンボンを手に、そしてミニスカートからチラつく太ももが今日も眩しいウェスティア。 彼女の瞳の先に居たのは火車だ。真面目にログハウスを作ろうと、まずは資材を作らねばならない。斧を持ち、ガツンと一発――しかし、何か気に入らない顔をした火車。 「斧とかマジ心底クソだな捨て……っぞ!」 ギシリ、と手が斧を強く握った。斧は投げるもの、とでも言わんばかりにブンと風を切って投げられた斧!! 「ぎゃー!!」 その斧ですが、空中を大回転しながら飛んでいったあげく、作業をしていた悠里の顔面スレスレ、前髪をカットしつつを通って木材に刺さったとか。 「ん? なんか知ってるやつ声がしたが気のせいだな」 「誰だよ斧をトマホークしたの!!」 「なんだと斧だってーいやー危ない事するヤツもいたもんだなー気をつけないとー」 火車はそのまま悠里と距離を取りながら作業を再開した。 何処からともなく飛んできた斧を使って資材作成しようとしてたいが、どうにも斧は使い憎い、斧とか。 「駄目だ、こっちのが早い!!」 斧を放り投げ――近くに居た那雪が投げられた斧をさらりと避ければ背後の木に直撃――己の手こそ使ってシュパパパーン! 何処か間違えている覇界闘士の本領発揮で資材は増えていく。 「いいわね……とりあえず、設楽さん、手刀は反則だと思うの」 那雪は木陰で、斧の刺さった木の下で座っていた。でも、それよりも自分のピンスペの方がきっと上手く切れるような気がして。お手伝いという名目で、撃ってみたくて。スクッ!と立ち上がって、メガネを装備した那雪。 「任せてくれ、資材作成なら私も手伝おう」 覚醒した那雪だが、鷲祐の手刀が彼女の頭を直撃。勢いで眼鏡もスポーンと外れた瞬間に那雪は再び座るように崩れた。 「なゆなゆ、駄目だぞ。あれが悪い例だ」 鷲祐が指を差した先を那雪は見た。 「あ! いいな、ああいうのでやりたい!!」 魅零は彼の手刀を見つつ、目を輝かせた。ならば自分も!!と、とりあえず一回スケフィントンすれば資材になる前に爆ぜる木材。 「あら……まぁ」 「な?」 後で魅零にビンタが飛んだのは言うまでもない。 ウェスティアは応援役だ――とは言え、えんやえんや働いている皆を見ているとちょっと罪悪感。 「あ……いいこと思いついた。木材とか葬操曲・黒の鎖で縛ったら超頑丈になるんじゃない?」 顎に手を当て、ウェスティアの頭の上に浮かんだ電球。そう考え着いたら行動あるのみ――撃ちだした葬送の音色!! その時、悠里は木材を運んでいた。目の前に積み上げた木材は悠里が切ったもの、刹那。 \どっごーん/ 「ぎゃー!! なんか、え、葬送曲!? 敵襲!!?」 「あ、やば……」 悠里の瞳の中で、爆ぜる木片。これまでの努力が……なんて感じている暇無く悠里は一歩後ろへ引いたウェスティアを見つけた。 「悪気は無いんだよ!!」 くるり、そして走り去ろうとしたウェスティアを全力で悠里は追いかけるを得ない。 色々スキルが飛び交っている中、伏見は少し震えながら自分に何ができるか考えていた。しかし次の瞬間。 「あ、そっか! 強そうな人たちが一杯いるなら、挨拶すればいいんだ!」 何やらダブルキャスト並みに人格が変わった並みに、性格が一変した。突如走り出した彼女は、手あたり次第に作業をしている人たちへ挨拶へ行ったのだ。 「あう……」 ひとつ木材を運んだ那雪がへたりと、持っていた木材に押しつぶされて座っていた。 「大丈夫でござるか?」 「……えぇ、大丈夫」 心配過ぎる大丈夫が聞こえた虎鐵はその木材を持ってやる。すると何故か、木材が軽い。 「お手伝いしますね!!」 伏見が木材の端を持っていてくれたのだ。お礼をひとつ言った那雪に虎鐵。助け、助けられて作業は続いていく――。 木材を組み上げていた琥珀。作業はとても効率良く進んでいた。皆が頑張っているおかげだな!と心の中で呟いた琥珀。 「このまま情熱の炎で――」 「燃やさないでくれ」 「――お、おおう」 いつの間にか背後に居た鷲祐にびくりと驚いて、前へ二、三歩歩いた琥珀。そういう意味では無かったのだが、どうやら彼は燃やすという言葉に執拗に敏感に成ってしまっているようだ。つまり、地雷を踏みかけた。 そんな事知らなかった琥珀だもので、全身から嫌な汗を流しながら。 「不可抗力だ、怖い目で見るなよぉ!」 「冗談だ、手伝いありがとうな」 彩歌の足の下には、ほぼ完成しかけたログハウスがあった。というのも彼女は屋根に登って作業中。そして今終わった所。 「屋根はできたよ、完璧って感じかな」 下に居た仲間たちが手を振った。もうほぼ完成であろう。あとは畳を敷き詰めたり、そういう細かい所。 とん、と屋根からダイブし、地面に足を着けた彩歌は鷲祐に通り過ぎ様に言うのだ。 「川も近いから、消火設備を最優先で作った方がいいんじゃないかな?」 やっぱり燃やされる前提なんですね。 ――そして完成した、司馬別荘! これくらい完成させられないで三年間の軌跡はなんだったというのか。 集まったリベリスタ達に鷲祐がお礼を言う隣で、ふと目に入ったクレイジーマリア。 「燃やして良い?」 「やめてください」 そうして今日も日が沈む。明日は静岡に帰って、また依頼を頑張ろうでは無いか――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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