●勝利万歳 騒がしい。 あぁ、まぁそうだろうな。何せ“ここ”が戦場になるのだ。真夜中であろうと煩くなるものだ。 頭を掻いて。あくび一つ。眠たそうな顔のままに周囲を見渡せば、 『――少尉。少尉! ちょ、起きてますか? 起きてますよね!? おーい!?』 なんだか耳に声が聞こえてきた。あぁイヤホンからか。 「ヴェラか。うるっせぇな……んだよ。 ブレーメの野郎に任せておけばもう安泰だろ。俺は寝たいんだが」 『馬鹿な事を言わないでさっさと迎撃準備に入って下さい――殴り倒しますよ?』 「お、おい。俺一応お前の上司なんだがそこんとこどうよ?」 『ハァ? ――殴り倒しますよ?』 前の文と後の文が繋がっていない気がするのだが何コイツ怖い。 もう一度頭を掻いて。軽く溜息を吐けば、少しずつ歩みを進める。 何年の付き合いだろうか。コイツらとは。 あの戦争から。負けて、敗けていない、あの戦争から。 「少尉! 武器の準備は出来ましたぜ!」 「よぉベンノ。なんだ顔が赤けぇな。さては酒呑んでやがったな?」 「少尉! バリケードをいくらか張りました! 簡易ですけど、無いよりはマシでしょう!」 「おーぅ良くやったデリック! 愛してるぜクソ野郎!」 「少尉! ――すいませんカレーが食べたいんですがそれは」 「ジャガイモでも口に突っ込んでろメタボのエメリヒ」 自身の部隊メンバーが集まってくる。なんだここも騒がしくなってきたな。 ……などと思えば、ウチの部隊の華である二人がいない。はて、あいつらは? 「おいヴェラとハンネはどうした」 「あの二人なら今頃“兵器”の準備に忙しいですよ。 ……しっかし幼女二人も配下にいるたぁ良い御身分ですねぇ少尉」 「そんなんだから少尉は影で“あのロリコン野郎! 絶対ゆるさねぇ!”とか言われてるんですよ――まぁ広めたのは俺達ですけど」 「オメーらかよ元凶は!! クソが! 後で全員説教部屋こいやオラァ!!」 豪快に笑いながら、歩みを更に進める。 一歩一歩。己の仲間たちと集いながら。 あぁいいねぇ。悪くない。本当に悪くない。相手がどこの劣等だろうと関係無い。 俺は、お前らと戦争出来ればそれでいい。最高だね。 『少尉』 「しょーい!!」 ヴェラとハンネが居る。ああこれで全員か。 ならば良し。見せてやろう劣等共に。 優良人種たる者らの力を――! 「準備は良いなテメェら――! 劣等共なんざ砕いて潰せェ!」 求むはただ一つ。勝利なり! 「Sieg!!」 さぁ! 「Heil!!」 来い! 「「Viktoria――!!」」 劣等ッ!! ●ブリーフィング 「キース・ソロモンの件は聞いたかな諸君? 端的に言って――時が、無い」 『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)が語る内容は、まず、先日の魔神王の事だった。 かの王からの宣戦布告。期限は迫る。猶予が全く無い、とは言わないが、親衛隊の脅威に晒されている目下ではかなり厳しい状況であるのは明白だった。故に、 「アークとしてはこの状況に対し、即時親衛隊への攻撃を行う事を決定したよ。 目標は二つ。先日無念ながら奪取された三ッ池公園への攻勢と――彼らの本拠への、奇襲だ」 本拠襲撃。 それは、三ッ池公園への大規模奪還攻勢――を、“陽動”とするモノである。本命はこちら。三ッ池公園防衛の為にどうしても手を割かざるを得ない、手薄になった本拠を襲撃する作戦。 意趣返し、とも言えるだろう。親衛隊は当初“護るべきものが多い”アークの性質を狙っていた。しかし、今。護るべきモノが増えた親衛隊を、逆にアークが利用しようと言う訳である。正しく、立場逆転だ。 「七派に関しても室長が“楔”を打ち込んだ様だ。介入は、まぁ、恐らくだが無いだろう。 今度こそ我らは全力を親衛隊に向ける事が出来るのだよ」 先日行われたトップ同士の会談によるハッタリが効いた様だ。 “アークが倒れた場合、キース・ソロモンはアークに勝利した神秘勢力を狙う”というハッタリ。 中々に危ない橋ではあったようだが。しかして結果を見れば七派の動きは無い。これならば後ろから突かれる、と言う事を気にする必要はないだろう。 ならば、後はリベリスタが闘う現場の親衛隊だが―― 「諸君らには三ッ池公園では無く工場制圧に向かってもらう。 そしてこの場に居る君たちの担当する場所は……ここだ」 八雲がモニターに映る工場地図の一角を指差せば。そこは、彼らの製造工場へと続く道の半ば程で。 「製造工場への道途中に、親衛隊が防衛線を築き上げている。目標は彼らの排除と製造工場への侵入ルート確保だ。この領域の制圧に成功すれば施設内への侵入もスムーズになるだろう」 ただ、と八雲は言葉を続ける。 問題があるのだ。無論敵地を攻める以上障害があるのは当たり前だが、 その“障害”というのが―― 「これだ――ヘリだよ」 まさか。と誰かが言った。 モニターに映るのは戦闘ヘリだ。それも中々の大型。 当たり前だが武装も見える。威力が高そうだ。これを使うと言うのか、工場敷地内で。 「よもや工場内で大型兵器を使用するなどとは思わなかったが…… 敵も相応に必死と言う事かな。フフフ、可愛いものだ――これもしかと潰せよ。諸君。 残しておけばルートの確保など夢のまた夢だからな」 面倒な事ではあるが、仕方ない事か。こんな巨大な兵器を生き残らせておいてはどうしようもない。 「あるいはここの指揮官さえ倒せば敵は指揮系統を失って撤退するだろうが…… それが成せるかは状況次第か。指揮官も強い様だしな。どうするかは君らに任せるよ」 敵は多く、敵は強く、敵の領域で闘う事に成る。 考えてみればなんと不利な事か。しかし、まぁ。それも今更である。 アークが逆境であるなど今に始まった事では無い。そしてそれを跳ね返し続けた事も。 「さぁ! 諸君らならば必ずや“自称優良人種共”を撃ち砕けると信じているぞ! 私も微力ながら力を貸そう。主演たる君らの支援ぐらいは出来るさ。人手も必要だしな」 もうこれ以上邪魔の入らぬ反撃機会は整わないだろう。 敵の反撃も相当熾烈なモノになるだろうが、腹を括らねばならない。 第三次世界大戦などという下らない出来事を引き起こす訳にはいかないのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月11日(日)00:06 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ヘリ 硝子の破砕音。 同時に戦場の一角を照らしていた光が途絶える。ヘリの、サーチライトが途絶えたのだろう。 故障だろうか? 否否。神秘の技術で作られた物がそんな杜撰であるものか。これは、 「やぁ――また会ったね☆」 『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)による射撃だ。 射程に入るなり放つソレは直線に。狙い違えずサーチライトを破壊。 「前とは逆だねぇこの状況。なら、今度はオレがエスコートだね。 SHOGOの代わりにキャッシュからのパニッシュ、頼んだぜ☆」 『フン。エスコートだと? 煩わしいわ劣等がッ!』 返答と共に。大型ヘリに乗るヴェラがくれてやるは銃弾の嵐だ。 広範囲に行き渡る様に。轟音響かせ連続正射。一発一発の威力こそ低いものの、数で補うソレは重ねられれば決して無視できぬ領域に達する。 「ッ、こんなものまで持ち出してくるとは……!!」 降り注ぐ銃弾を捌きつつ、水無瀬・佳恋(BNE003740)は上空に視線を。 大田重工製神秘兵器。こんなレベルの物が量産されれば、戦争に使われてしまえば。崩壊など待たずして人類の世界は壊れて無くなってしまうだろう。させる訳にはいかない。ここで止めねばならないのだ。 だが。そんな中を『ましゅまろぽっぷこーん』殖 ぐるぐ(BNE004311)が恐怖も無く突き抜ける。 「ハーンネちゃーん。あーそーぼー」 雨を躱す様に。銃弾と銃弾の僅かな隙間をくぐり抜け、前進。 ギアが上がる。意識が変わる。世界が変わる。 更なる速度の果てに彼女らは到達せんと、往くのだ。 「遊ぶだって? いいよ劣等、遊んであげようじゃないか!!」 対するハンネも、己が身を雷光の如くとしながらぐるぐへ。 激突する。およそ真上にヘリが居ながら、その下で。二つの影が交差し、ぶつかり合えば、 「あぁん? 誰が劣等だってぇ?」 先のハンネの発言に『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)の表情が穏やかではない様子を見せている。 何と言った。誰が劣等だ。畜生共めが。 「お犬風情が調子に乗って、キャンキャン吠えるのは見苦しいねぇ! 狼みたいに気高くいなよ骨董品ッ――!!」 瞬時。彼女の身に闘気が満ちる。 殺意と闘気。混じり混ざり、一点の高みに昇るかの様に。 “外道龍”の名は決して伊達では無いのだ。 「総合力では――劣っているのかもしれませんね」 放電音がする。どこから発生しているのか、と思う暇も無く。 直後、戦場の数多に降り注ぐのは輝かしき雷光で、 「でも! 劣っていたとしても、勝てない訳じゃありません! 見せてあげますですよ! ボクたちの、勝利への活路を!!」 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)の一撃だ。 数では負けている。地の利も無いだろう。ここの敵の領域なのだから。されどそんな事に怯える様な彼女では無い。元より、有利不利で勝率は変わろうと、勝敗までもが決する訳ではないのだから。 剣を構えて中衛に位置し、数多の雷撃で敵を薙ぎ払う。勝利を掴まんとする為に。 「ハンッ! 人ん家で随分と盛るもんだなぁ猿どもが!」 瞬間。親衛隊側から前に出たのは――フォルクハルトだ。 笑っている。眼前のリベリスタ達を“猿”と蔑みながら。己が機関銃を構えて、 「いいぜ、来いよ劣等! ――ぶちのめしてやらぁ!!」 周囲の親衛隊に届く様に、“劣等を殲滅せよ”と神の加護を与えて態勢を整える。 どこまでもどこまでも。己れらが優良であり、狩る側である。 執念か妄執か。ああさてはて。そこまで優劣に拘るのなら、言ってやろうではないか。 「――行くぜ優良」 言うは“彼”だ。優劣に拘る彼らに言葉を紡ぐも、心中に渦巻く感情は“侮蔑”の一言。 何時までそんな時代遅れの言葉を唱えているのか。 一息。『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は置いてから、吐き出す様に、 「そのめでてー思い上がり、ヴァルハラでも唱えてなぁッ!!」 叫び、“天”へと跳躍した。 ●空の闘い 『何――クッ!?』 ヴェラは視た。カルラが真っすぐに、こちらへ。ヘリへと向かってくる様を。 通常の跳躍では無い。これは、飛行だ。後方に位置する八雲から、翼の加護の支援を受け取ってから行動したが故にこそ出来た結果。急ぎ機首を上げ、機体の上昇を掛けようとするが、間に合わない。それに、 「援護します――どうか、ご武運を」 彼を援護する形も取られているのだ。 飛行する彼の邪魔をされない様に、雪白 桐(BNE000185)が少尉を抑える。同時、御龍の纏った気の、更なる上位の戦気を使用すれば力が満ちて。 「さて……どこかの誰かさん風にいえば、ペイバックタイムってやつかしらね」 次いで『トゥモローネバーダイ』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)も。彼女自身はブロックを行う訳ではないが、いざとなれば回復の手が届く様に注意している。 数多の援護を貰って、カルラは往く。ヘリが逃げるより早くその身に取り付いて、 「皆、悪いな……だが、大仕事の為だ。やらせてもらうぜッ!!」 対地兵装の届かぬ地点から。ヘリの継ぎ目を狙って穿つ。 既存の兵器とは違う神秘の兵器だ。とは言え全面に渡って装甲があるほど、頑丈な機体である情報は無かった。故に継ぎ目の様な、僅かに装甲が薄い部分は当然存在する。 足場は面接着で飛行の必要が無い様にすれば多少身体も安定。人が歩ける想定をしている訳では無い足場故にまた別の不安定さはあるが、飛行しながら攻撃するよりはマシな状況である。 「へーぇ。ヘリに取り付くたぁ極東の猿にしちゃあ中々根性あるじゃねぇか! ――ま、んな突出して大丈夫なのかはしらねぇけどなぁ!」 「別に、カルラちゃん一人に任せっきりてな訳じゃないさね」 少尉の言動に反応したのは御龍。 そうだ。往くのは彼一人だが、かといって彼一人に全てを任す訳ではない。地上から空中へ攻撃する術はいくらでもあり、 「我は戦闘屋だからな」 一呼吸。間を置くと言うよりも、確実に穿つ為の集中の時を経て、 「闘いこそ至高にして、我の全てよ!!」 ヘリへと放つ。空を穿ち、遠方へと届く真空刃を。 取り付いているカルラには当たらぬ様に。上半身の膂力を集めたその一撃はヘリの翼に直撃。神秘の兵器であるが為にこれだけで落ちる様なヘリではないが、その威力は支援の域を超え、確かなダメージとして伝わり響く。 「敵はなんとしても抑えます! 今は、とにかくヘリを……!!」 「ええ、落としましょう」 そして敵を抑えつつ、佳恋と桐も。真空刃によって敵への攻撃を重ねて行く。 二人は敵前衛をブロックしつつ、だ。親衛隊側で現在前衛として出て来ているのは少尉にハンネ。さらにデュランダル二名の全四名である。これらを抑えるには最低でも四名必要となれば、柔軟に布陣位置を変えようと気を付けていた佳恋は前衛へ。そこからヘリや敵へと攻撃を加えている。更に、 「劣等劣等ってうるさいですよ……! この状況でもまだ、他人を見下していないと気が済まないんですか!」 光が雷撃を放ち続けている。ヘリを、そして敵を出来得る限り巻き込んで。 親衛隊の言う“劣等”という言葉が聞こえる度に嫌悪感が渦巻く。何故そうまで人を見下す。“こっちが上で、そっちが下”などという妄言から何故抜け出せない。精神的優位に立っていなければ、生きていけないのか。 「知っていますか――そういうのを、心が弱いって言うんですよ!」 「うるせぇ劣等! 物を言うのは力だけだぜ。気にくわねぇなら押し通しなぁ!」 激突する。親衛隊は光の放つ攻撃にも怯えず、ぶつかり続けるのだ。 心の強弱。力の強弱。 何が強く。何が弱く。結果にどう響くのかは――さてはて一体どうなる事か。まだ何も見えはしない。 「のりこめのりこめのっりこめー! さぁ行っくよ――!」 そして、ぐるぐはハンネの抑えに終始していた。 己が身の速度を速めながら、その速さをもって幻影を披露。まるでぐるぐが二人いるかのような錯覚をハンネに与えるが―― 「アハハハ! そんな動き如きで、どうなるって言うのさ!」 直後。ハンネはパンツァーを、放つ。 範囲の広い一撃で、細かな動き諸共砕くつもりだろう。弾が三発もある事も相まってなのか。消費を気にせず、いとも簡単に引き金を引く。さすれば即座の勢いで着弾。爆風が生じて、 「まぁーったく! 面白い花火だよね。ソレ!」 飛び出してくる。爆風の中から、ぐるぐが。 なんとか直撃だけは避けた様だ。ステップ踏む様に動き回り、とにかくパンツァーの一撃だけは受けまいと動き続ける。なるべくなら無駄撃ちをさせたい所だが、相当な注意と工夫が必要になりそうだ。 「ああぁ、もう。ちょっと狙いにくいなぁコレ!」 翔護が嘆いているのはヘリへの狙い。 初手以降、再び細かな狙いを定めて撃ち続けていた彼だが、ヘリが高度を上げている。まだ翔護の射程的には届く位置だが、サーチライトを破壊して以降目立つ光源が無くなってしまった為、最初よりは狙いにくくなっているのだ。 ただ、全体的にはヘリへの攻撃は成功している。暗視持ちが多かったのもあるだろう。サーチライトが破壊され、ヘリの位置は本来なら分かりにくくなる筈が、暗視の目があれば暗闇でも関係無い。その為ヘリへのダメージは段々と蓄積していた。 いずれは破壊出来るだろう。いずれは、そう。 ――このままの状況が続いていたら、の話だったが。 ●勝敗 綻びは一点から始まった。 ヘリへの強襲は成功していた。地上からの支援もそれなりに上手く行っていただろう。 されど、ヴェラは地上からの攻撃を避ける為に高度をおよそ地上から21m程度の地点に上げたのだ。そうすればヘリの攻撃は地上に届かないが、逆に地上からも届かない。 その位置で彼女は指示を出した。 “フライエンジェ”の親衛隊に、カルラを討て、と。 フライエンジェのクリミナルスタア達だ。翼の加護の効果が無くとも飛行可能な彼らは、ヘリに取り付いたカルラを狙い撃ちにする。対地兵装の死角にカルラはいるとは言え、この攻撃からまで逃れるのは不可能だった。 苛烈極まり無い射撃がカルラの身に注がれる。孤立した彼に、数の理が押し寄せて。 「ぬ、ぉぉ、クッソ、があああッ!!」 その状況下でカルラはなお、倒れない。 正に彼は全力を尽くしているのだ。落ちる訳にはいかない。この程度で折れる訳にはいかない。 血反吐吐こうとも。まだだと運命を燃やしても。立ち続ける。ローターにワイヤーを投げ、飛行を阻害しようとし、尚も攻撃を続けてヘリを落とさんと意思をぶつけ、 「ッ――! カルラ君!」 そんな彼を助けるべく、レナーテが回復の手を伸ばす。 届かぬのならば跳び上がれば良い。翼の加護はまだ続いている。およそ確率にして三割ではあるが、彼女は一度に二度行動出来る瞬発力を秘めている。故に一手目を移動し、癒しの息吹をカルラに届かせ、二手目で高度を下げようとする。 しかしここで僅かに計算違いが発生した。彼女は味方全体を極力射程に収めつつ、敵の射程外に居る位置を心掛けていたが、ヘリが下ったカルラの現状の位置では、これらの条件を兼ね揃えた位置取りは不可能であったのだ。低空飛行で味方全体を射程に収めるのは可能ではある、が。 だからこそ、低空飛行状態である彼女に、 「丸見えだぜ――逃すかよォ!」 少尉が狙いを付けるのだ。 アイアン・ラディーレン。鉄削り。 その効果は対象の防御能力を削り、地に落とす。数多の防御力を下げる一撃を叩きこまれれば、次いで発生するは少尉の武器の特性。双方が相まって、その攻撃の威力は一気に脅威と化す。そして更に、 「落ちろ劣等……!」 マイク通さぬ、ヴェラの声がカルラの至近より。 彼も中々に耐えたが、ヴェラを含めて三体一の状況ではあまりにも分が悪すぎた。彼の身体が限界を迎え、ヘリから離れれば落下。戦闘不能の状態に陥って。 「くっ――!! 邪魔です!」 佳恋は真空刃で敵を薙ぐ。近接主体の技を使わないのは、吹き飛ばされる恐れを警戒しての事だ。ヘリが撃破出来ていれば闘い方を変えていたが――ヘリは、まだ健在である。 「上からチョロチョロチョロチョロ……舐めんじゃないよオラァッ!!」 そこへ御龍が。高度を下げ、攻撃を再開して来たヘリに、再び真空刃をぶちこむ。 相変わらず強力な攻撃である。ヘリの身が揺らぎ、横っぱらから小さな爆発を生じさせれば、かの機体の限界が近い事を知らせて。 「ごめんねロリコン少尉。ロリコンって言い出したの実はSHOGOなんだ」 てへぺろ☆ とばかりに軽く謝る翔護。 己が銃、パニッシュを構え、狙いをヘリから親衛隊全体へと移せば、 「……って思ってたけどロリ増やしてたら世話ないじゃん! マジロリコンじゃん! なんだ謝って損したよ! 金返せぇ!!」 「ええい! トチ狂ってんじゃねぇぞ猿がぁ! ロリコンじゃねぇよ俺は!」 少尉の突撃も止めるべく、銃弾を乱射する。 ヘリの撃破が遅れてしまった為、どうしても敵の圧力が掛っているからだ。早急に対応すべく、少尉を挑発しながら一斉発射。場を整えるべくこちらから圧を掛けようとする。 しかし、彼らの奮闘も残念ながら及ばない。 全体的な作戦がそもそもヘリの撃破が大前提であった為、そこで躓いてしまった故に。もしそこが上手く行っていればまだ結果は違ったものかもしれないが―― 「ハンッ! そもそも劣等がガチの俺らに勝とうと思うのが間違いなんだよ!」 「劣等ですか? そうやって相手を卑下し、優劣を付けて自己保全を保とうとする辺り実にらしいですね? ご立派な優良人種精神です」 少尉が銃を撃ち、桐は踏み込む。 剣を下からアッパーの形で斬りつけて。硬き身を崩さんと全力をぶつけるのだ。親衛隊側の数が多い為、このブロック状態はいつでも解除される薄氷だが、今の所少尉は桐に狙いを絞っている様だ。 「くっそ、この劣等! うざいんだよそんな動きでぇ!」 ハンネとぐるぐの闘いは長期化していた。 初めはハンネが少々押していた様子だったが、ぐるぐの体力が削れた段階で、逆境状態に彼女は成ったのだ。元より回避面において特化している彼女の回避能力が更に桁外れへと化する。 銃弾を見てから躱し、攻撃を叩きこむ。体力的には余裕のある状況でこそ無いが、しかし今のぐるぐは能力的な最高点に達しているのだ。そう簡単にやられはしない。 「僕らは負ーけないよー!」 銃撃の連続音。しかし躱す。 頬を削り、腹の肉を削るも、致命傷だけは躱す。 パンツァー発射の際に全力防御すれば更に硬い。ハンネも大分イラついている様だ。 「ああ、もう……!」 狙いが変わる。面倒なぐるぐを放って、他にパンツァーを撃つ気だ。 されどそうはさせるか。 「“僕ら”と遊ぼう、って言ったよね?」 ぐるぐの姿が消えて、至近に現れ即銃撃。 ハンネの身を穿ち、気を散らせ、己に撃たせる。 部隊の幹部だろうがなんだろうが関係ない。決めたのだ。ハンネを抑えると。倒すと! 「ボクは劣っていてもいい」 そして光が言う。敵の前衛を抑えながら。 劣っていると言うのなら、そこから這い上がってみせよう。 天が見えぬと言うのなら、天が見える程に邁進すれば良い。目指して見せよう。己が天辺を! 「上から見下ろして、上を見なくなった貴方達に躓いている暇なんて――ないんですよ!」 剣を構えて跳躍。前衛のデュランダルを纏めて薙いで、突破口とするべく、彼女は往く。 凄まじい気迫だ。なんとしても勝とうとする意思が、彼女にはある。血が舞い、その中を突き進んで。勝利を掴み取らんとするのだ。あぁ素晴らしい。 だが、それでも。届かぬのだ。 『砕けろ劣等ッォ!』 撃破寸前のヘリが、小規模な爆発と煙を噴きだしながらも、対地ミサイルを放つ。 狙いの中心は回復の中核となっていたレナーテだ。庇い手なければ流石に空からの射線は防げない。全てを吹き飛ばさんとする一撃が地を払えば、レナーテの身が持たず。ギリギリ範囲内にいた佳恋も巻き込んで、余波が広がる。 この辺りで完全な限界が来た。八雲では回復力が足りず、光が聖神の息吹で回復役に回れば今度は攻撃手が足りない。 倒れて行く。耐久の低い者から攻撃を受けて。親衛隊も同時に削れて行くが、リベリスタ側が若干速い。 道が遠い。製造工場までの道が、後少しだと言うのに。 どうしても、後一歩届かぬのだ―― ●親衛隊 「……チッ! 劣等は退かせたが、こっちも大分被害を受けたな……」 闘いは終わった。だが、親衛隊の被害も馬鹿に成らない。 数は半数近くまで削られ、ヘリもミサイル発射後間もなく撃破された。これ以上の作戦行動は難しいだろう。 「しゃあねぇ! 一旦退いて再編すっぞ! 急げ!」 彼らも退く。役目は最低限果たしたが為に。退いて、戦力を整えるのだ。 周辺からはまだまだ戦闘の音が鳴り響いている。工場全体がどうなっているのか、まだ把握しきれてはいないが。 少なくともここは、勝敗が決したのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|