● 日中。夏の暑さを孕んだ風は、人気のない森を過ぎて、清涼な風へと濾過されていく。 空は晴天。雲など一つもなく、故に今宵は綺麗な星の夜が、月の夜が見えるであろうという、漠然とした確信をもたらしてくれる。 それを――喜ぶ少女が居た。 年の頃は十代初めであろうか。着ているものは白いワンピースと、ブカブカの麦わら帽子だけ。容貌は比較的整っている方で、何よりもその碧髪が彼女の存在を鮮やかに印象づける。 少女は、空を見上げている。 靴も履いていない足は既に地面に生える草によってあちこちから血が滲み、陽を浴びることに慣れていないのであろう肌は汗を疾うに乾かし、手足の末端を赤く焼いている。痛みも小さくはないだろうに、しかし少女は笑っていた。 期待、そして空想。様々なセカイは彼女の中で目まぐるしくその姿を変え、彼女がこの異界まで来た願いの渇望を、更に激しく震わせる。 同時に――それは裏返せば恐怖の根源だ。焦燥、不安、そうした強い恐れを、喜びの感情で包み込みつつ、彼女は空に浮かぶ太陽を、木漏れ日越しに少しだけ見る。 鮮烈な光。目を焼き潰すかのような衝撃も、しかし今の彼女にとっては愛おしい。 ――大丈夫、だってお日様はこんなにも、私を応援してくれているから。 必要なのは、後数時間だけ。 それを、自分自身に願いつつ、彼女は木陰で静かに目を閉じた。 ● 「……結局、そのアザーバイドの目的は何なんだ?」 未来映像の終了と共に、一人のリベリスタが、フォーチュナ……『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、伏し目がちに解説する。 「彼女の目的は、唯一つだけ。『星空を見る』と言う、単純なものです」 怪訝な顔をするリベリスタ達に、和泉は詳細な解説を始める。 此度の対象となっているアザーバイドの少女。彼女の住む世界は、太陽と星空がない。 正確には、かつて在ったそれらは、何らかの原因で遠い昔に滅びたらしい。人々は人工灯を灯して生活することを余儀なくされたが、少女はそれを見たいという願いをどうしても諦めることが出来ず、ある日現れたディメンジョン・ホールを通り、この世界にやってきた、とのことだ。 無茶をするものだ。そう思いつつも、しかしリベリスタは少しばかり疑問を述べる。 「けど、星空が見たいってだけなら……見せてから元の世界に戻せば良いんじゃないか?」 「……無理です。と言うのも、その女の子が通ってきたディメンジョン・ホールは、現在進行形で急速にその存在を消失させつつあります。 早ければ、ゲートが閉じるのは日が沈み始めるより更に前。少なくとも星が見える頃までゲートが開いていることはありません」 「……」 一同が、苦い顔になる。 一度も見たことのない、綺羅星のセカイ。それを目前にして諦めねばならない絶望が、どれほど彼女を苛むことだろうか。それを想像して。 しかし、それでも、少女を救うためなら―― そう決意した……しようとしたリベリスタに対し、和泉は小さく頭を振った。 「この子はもう、助かりません」 「……何だって?」 「現在でこそ影響は未だ現れていませんが……この少女にとって、私たちの世界の環境はある種の劇物にも等しいものだったみたいです。 皆さんがこの子を元の世界に帰したところで――この子の寿命は、恐らく一週間と保ちません」 「!」 驚愕と、方向性のない怒り。 思わず激しい言葉を返しかけたリベリスタは……しかし、其処で和泉の顔が、より俯いたものになっていることに気づいた。 それが、リベリスタ達に何を見せまいとしているか。何を守ろうとしているかは――聞くまでもない。 「……判断は、皆さんに任せます。 ひとときの幸せを味わわせ、貴方達の手で、彼女の命を絶つことを選ぶか。 例え恨まれようとも彼女を元の世界に帰し、残された、家族や友人達との僅かな時間を、彼女に与えることを選ぶか ――悔やむ事なき、選択を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月23日(土)23:08 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● かしん、かしゃん。 自転車のスタンドを立ち上げた『素兎』天月・光(BNE000490)は、少女の元へと向かう――前に、空を見上げた。 日は照っている。夏の日差しは光の白い肌をじりじりと汗ばませ、不快な熱気を与えてくれる。 これを愛しいと、そうも思えるのであろうか。彼女は。 (異世界からの来訪者、か) 普段はころころとした眩い明るさを周囲に振りまく彼女も、今ばかりはその態度を捨て、静かな無表情で森の奥を見る。 運の無い客人も居たものだ。語った所で詮無きそれを、しかし口にしないのは、これより最初で最後の逢瀬を交わす少女に対する情けの表れか。 此度、彼らが相対するアザーバイドの少女。太陽と星を見るために異界へ舞い降りた彼女は、その生命を対価に此処に在り続けるかの選択を迫られる。 彼ら、リベリスタたちによって。 ――「悔やむ事なき、選択を」 フォーチュナが放ったあの言葉が、今改めて胸を刺す。 出来るわけが無い。例え彼女が此処に在ることを選択しなくとも、それとて残された命は僅か七つ夜の内に儚く散る定めに有ると言うのに。 『小さき太陽の騎士』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)が、小さな手を強く握り締める。運命と言う名のストーリーテラーは、何故彼女に祝福を与えてはくれなかったのだろう。それが悔しくて堪らなかった。 けれど、それが叶わぬことなど理解している。今の彼女に出来ることは、ただ選択することだけ。 ならば、選んで伝えよう。人の謗りを受けようと、自分の想いを晒してみせよう。そうしてその果てを見届けよう。 残酷な選択に思いを馳せるのは、ヴァージニア一人ではない。 『素敵な夢を見ましょう』ナハト・オルクス(BNE000031)も、『ぐーたらダメ教師-性転換中-』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)も、それを表情に出すことこそ無いものの、何らかの思いを抱いていることは疑いようも無い。 不条理。口に出せばなんと短文であろうそれを、或いは疑問の声を以て、或いは慈悲を以て挑む両者の姿は、何かを伝えきれない物悲しさを抱いているようにも見える。 「……人知れず消えて行くのは、誰の身にも起こり得る事なの。神秘に寄り添う身なら尚更。 その時わたしはわたしを貫きたいと思う。だから『少女』さんの願いも尊重したいの」 華奢な見た目とは裏腹に、折れず曲がらぬ決意を秘めた『夢見がちな』識恵・フォウ・フィオーレ(BNE002653)は、独白じみた言葉を零す。 人を想う魔法少女。彼女をそれと定義するならば、その為にはこうも歪まず、汚れぬ真直ぐな意志が必要であるのか。 皆、進んでいる。迷い、苦悩し、それでも先に進んでいる。 『のらりくらりと適当に』三上 伸之(BNE001089)は、それを見て――寧ろ、見たが故にか――少しだけ、動きを止めた。 「……っ」 理解できない。 普遍的なモノの為に、命を懸けて手を伸ばすと言う愚行、少女にとっての害毒たる世界に慣らされた自分達、そうした諸々が、彼の中で渦となって煩悶を象り、心をかき乱していく。 それを察したのか、小さなナップザックを手にする巨漢――『眼鏡っ虎』岩月 虎吾郎(BNE000686)は伸之の肩をぽんと叩き、言った。 「行くとしよう。あの子の言葉を、聞くためにのう」 ●太陽を見て、その下に住む人々と、お話しする夢でした。 「始めまして、異世界からのお客様。私の名は、アーデルハイト・フォン・シュピーゲル。この世界の住人でございます」 開幕は、丁寧な挨拶から。 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)は、木陰で休んでいた少女に深々と頭を下げた。 「……え……っと……」 少女は目を丸くしている。当然だ。老若男女を問わぬ八人もの集団が、まさか自分を目当てにやってくるなど思いもしない。 けれど。 ――「『こんばんは』。客人よ」 昼日中に在る現在に似合わぬ挨拶、けれど恒久的な夜の世界に居た彼女にとって、それは十分な暗示だった。 光の言葉を、数秒して理解した少女は、嗚呼、と頷いて、小さく礼をした。 「ええと、初めまして。私の名前は、――――――って、言います。 ほんの少しだけ。この眩しい世界に、お邪魔しています」 屈託のない笑顔を浮かべる彼女は、だからこそ、痛ましい。 これより残酷な事実を伝えようとするヴァージニアが、少しだけ。本当に少しだけ――顔を歪めた。 時間は、ほんの数分だけ先へと進む。 短い間に識恵が施してくれた癒しの涼風と、虎吾郎が与えてくれた保冷剤やサンダルなどに何度も何度もお礼を言う少女に、リベリスタ達も少しばかり心が和む。 けれど、同時に。その数分の内に彼女が聞かされた情報は、そんな微かな癒しすら吹き飛ばしてしまった。 「君の命はここに来た時点で、日が七回昇った時に消えることが確定。死神の保証付きだ。 そして、もしこのまま星空を見るつもりなら――その命は、今夜の内に、ぼくたちによって消される」 躊躇のない無慈悲な言葉。光の言葉を始めとして、リベリスタ達がそれぞれに語る表情は、少なくとも、気鬱に淀んだものではなかった。 「……キミにとっては、自分の死に場所を選ぶことになるのかな」 「……帰れって、言われるのかと思いました」 解説の終わりに発したソラの要約に対して、少女は拍子抜けしたような声音で言う。 「だって私、この世界にとって、その、邪魔者なんですよね?」 「まあ、否定はしないけどね。一晩くらいなら良いんじゃないかって言われたんだ」 苦笑するソラも、若干返答に詰まった様子である。 対する少女は、しかし絶望的な宣告を前にしても、その穏やかな笑顔を崩すことはなかった。 「……受け入れるしかないのが人というもの。貴方だってそうでしょう? 住む世界や環境が違えど、人だ」 「そうです、ねえ」 十代初めの少女は、歳にも合わぬ静かな言葉で、ナハトの言葉に返した。 「死ぬことは、うん。怖くないです。……その前に、星空が見られるのなら」 「それは約束するけど、ね」 苦笑いを浮かべたナハトは、依頼を聞いたときから聞いてみたかった問いを、少女に投げかける。 「……貴方は何故、ここに来たの? そして、帰る気はあるのかしら」 「解りません。突然、自分の家の裏に真っ暗な穴が出来て。其処に飛び込んだんです。 もう一つの質問は、帰ることが出来るなら、帰りたいですよ。勿論」 けれど、少女は知ってしまった。自己の寿命を。星空の対価となる、親者との永遠の離別を。 その上で、少女はこう答える。 「帰れないなら、帰れなくても良い。……親不孝ですよね、これ」 選ばなかった方に関心が低いというわけではない。両方が大切で、両方を手放したくない。 その上での選択。何とも身勝手で――だからこそ、澄み切った答え。 「太陽と星空、どちらも見たいから居るの? 太陽だけではいけない理由でもあるの?」 「全部見たかったから、今も私は此処にいます。……自分の命と引き替えって聞いて、ちょっと混乱してますけど」 「家族は? 友人は? 恋人は? やりのこした事は?」 「恋人は兎も角、沢山居ますし、在りますよ」 「それでも貴方は、ここに居るつもりかしら」 「その上で私は、只の可能性を信じて、あの何処とも知れぬ真っ暗な穴に飛び込みました」 ディメンションゲート。先の見えぬ境界穴。 得体の知れないそれに自分から踏み出すと言うことは――それに足る覚悟があると言うこと。 「凄いですよね。太陽の光って、暖かいんです。浴びるだけで汗がどんどん出てきて、影に隠れていないと倒れてしまうくらい。それに、電灯が何万個有っても足りないこの世界を、たった一つでこんなに明るくしてるんですよ? 星の光はどうなんでしょう。冷たいんでしょうか、暖かいんでしょうか。一つ一つの小さな光は、どんな特徴があるんでしょうか」 直上を見て手を伸ばす。 碧髪の少女が、たったそれだけの行為をとるだけなのに、それは一つの風景画のような、永久にすら留めておけそうな行動に思える。 ――それを、唯見るだけのナハトは、最後の問いをかける。 「――「空を見るだけで」、幸せかしら」 「「私が私だけなら」、きっと幸せです」 ●けれど、それは幸せだから、儚い夢だと思えてしまって 「そこ迄して、叶えたい物ってあるんスね……」 決意を眼前にして。零した言葉は、伸之のものだった。 「止まない痛みに耐え続けてもとか、俺は、よくわかんねぇっす。俺ダルダルで弱っちいんで。 そんな辛いのより、生きてこそっつーか」 「なら、私と一緒ですよ。……ううん、みんな、一緒です」 予想だにせぬ言葉に、伸之が瞠目する。 「大切なものがある。そう言うことですよ。私にとってそれが色鮮やかな空で、ノブユキ……さんにとっては、それが自分の命って、言うだけ」 「……その望みが、叶った後は?」 「さあ?」 少女の表情は、問いを前にしても変わらない。 変わらない。 「でも、私の望みに限って言えば――終わりません。ずっと」 「ずっと、死ぬまで、この綺麗なセカイを見続けていたいって、そう思うんです」 「……だけど、やはり君は、元の世界に帰るべきだ」 少女にとっての希望、それを潰す言葉を、光は真っ向から言い放つ。 「……皆さんは、そう考えているんですか?」 「必ずしもそうではない。例えばわしや、ヴァージニアのお嬢ちゃんは、おぬしを殺すことになろうとも星空を見て欲しいと思っている。……じゃが、それを強制する気はない。わしも、光のお嬢ちゃんも」 少女の倍近くを行く巨漢は片膝を着き、その上で頭を低くしてまでも、目線を彼女に合わせたまま、厳かな声で言う。 「目的や結果がどうであれ、この世界に来たのはお嬢ちゃんが自分で決めた事。……どうするかは自分で決めなさい。後悔だけはしないように」 「……ズルいですよ。それ」 其処で。 少女は、初めて表情を変えた。 喜びなど無く、楽しみもなく、怒りもなく、唯、涙を流しそうなだけの――苦い笑み。 「自分の意見を言うだけ言って、選択だけ人に任せる、なんて」 ……それを。 少女がリベリスタだけに向かって言っているなら、只の身勝手と言えるのに。 彼女自身も理解していた。未だに待つ家族を無視して、何処とも知らぬ地で死を迎えようとしている自分の身勝手を。 「……そうだね」 ソラの表情も歪んでいる。 何処にもない救いを必死に探して、摺り切れた悲嘆の表情を、この時ばかりは隠さなかった。 「知らずに帰って死ぬ方が楽かもしれない。知らずにボクたちに討伐される方が楽かもしれない。それでも知って欲しい。そして自分で選んでほしい。 それは、ボク達のエゴかもしれない」 言って、近づいたソラは少女の頭に手を乗せる。 くしゃりと撫でた彼女の髪は、酷く乾き、痛んでいた。 語り手は、アーデルハイトに移る。 彼女もまた、光同様、元世界への送還を推奨する者の一人。 知らなければならない事も、知って欲しい思いも、沢山沢山有るというのに、それを全て言葉に出来ない自分が恨めしかった。 だから、せめて一つだけ。 そう言って、彼女は語り出す。 「見れば未練が残ります。もっと見たい、もっと知りたい、もっと感じたい……と」 朝焼けと夕焼け。日中、そして夜。 僅か86400秒のセカイで、更に三つに分割されるそれらは、果たして少女にとって、一度見れば満足できる程度の価値しか無いモノであろうか? 違う。銀髪の吸血鬼はそう思う。 そして彼女がそれを望もうと、決して叶わない事は、純然たる事実なのだ。 「でも、僅かであっても時間があるのなら――今まで見たものを親しい人達に語る事もできるかもしれませんから」 「……私が、伝える」 提案は、少女にとって予想だにしないものだったらしい。 人が諦めたもの、もう得られぬと定めたもの。 それを伝えると言うことは、果たして、幸せなのだろうか。 少女にとって、少女の世界にとって。 「……それが幸福かは解らない。ただ、ぼくは今の君に義務があると思う」 胸中のそれを読むかのように、言葉を返すのは光。 「あなただけで終らないかもしれない。あなたの世界のためでもある。あなたは伝えるべきことを背負ってしまった。だから、還るべきだ。」 「……」 『私』が出来ること。 したいこと、ではない。幸福の行き先は個人か万人か。たかがそれだけのこと。 其の微細な違いが、どれほどの価値を持つかも解った上で、彼らはそれを告げるのだ。 「……なら、私の命は、私の世界の人々に与えるために在るんですか?」 少女の表情が、歪んでいる。 この先何十年もあったはずの余命を僅か一週間に狭めた上で、本当に欲しいモノの全てを得ることすら出来ない、それを勧めるリベリスタに対しての、行き所のない怒り。 それに、応えるのは。 「……苦しくない筈が無い。引き返さなきゃってきっと分かってた」 識恵の細腕が、少女の身体を包み込んだ。 日に焼け、触れるにも難いほどの熱を孕んだその身を、彼女は決して放さない。 「それでも、怖くても後戻りできない想いだったんだよね」 「………………っ」 「あなたがそれでも此処にいることを望むのなら、わたしはそれに応える。 ――初めて人を殺す覚悟を決めるの」 他を殺すと言う根源的な悪を前にして、魔法少女は優しく笑う。 恐れもある、躊躇いもある。だがそれを身体には出さない。 震える彼女が其処にいるから。これ以上、恐怖を積み重ねては欲しくないからと。 「……私、は」 辛い言葉、優しい言葉。全て全てを、一身に受けて そうして、少女は。 「私の居場所……此処じゃなかった、みたいですね」 漸く、小さな笑顔を浮かべた。 ●だから、私は ゲートが閉じきるまでの僅かな時間。 リベリスタ達は、せめて少女の救いになるようにと、写真やプラネタリウムを見せるが、少女はそれに対して苦笑しながら首を振った。 「何百年も前のものでも、記録は残ってますから。写真や映像は沢山ありますよ。……それより、今実際にそれを見続けている皆さんのお話を聞きたいです」 リベリスタ達はそれに応えて、星座や、それに纏わる神話の話などを聞かせた。 星という共通項はあっても、其処から拡がる文化の違いは在るらしい。少女はそれに目を輝かせて聞き入っていた。 ゲートの閉じる直前――陽が僅かに沈み始めた、そのころまで。 「ん……やっぱり、星は見えないかあ」 「残念、ですね」 空が藍色に見えた頃、ヴァージニアは少女と共に上空を見つめていた。 少女が本当に望んだ星空を見せてやれないのは残念だが――ヴァージニアはそれでも笑っている。 「昼と夜の境目の空の世界。ボクが一番好きな太陽の時間、夕日って言うんだけど……これだけは見せることが出来て、良かった」 「ちょっと、びっくりしました。空の写真って青か黒のものばっかりで、こういうのはあんまり見なかったから」 「そうなんだ?」 似た年頃だからだろうか。僅かな時間の間でも、交わした会話の内に直ぐ打ち解けた彼女らは、別れ際に些細な会話を交わしていた。 「此処に残るんだったら、ボクがキミの友達になりたかった。向こうでは友達が居ても、こっちではキミ一人しか居ないから」 「友達になっては、駄目ですか?」 きょとんとした表情のヴァージニアに対して、少女は笑顔で言葉を続ける。 「一度だけでも、もう会えなくても、綺麗な空の世界の人と、私は友達になりたいです」 「……じゃあ、キミのこっちでの友達第一号、で良いかな?」 「はい!」 満面の笑顔を浮かべて、二人は両手まで使った握手を交わす。 世界を越えた絆の結び目は、暫く解けることはなかった。 「……本当にこれで良いのかい?」 「はい。皆さんに写真はいっぱい貰いましたから」 所持したカメラのタイマーを設定したソラは、それを適当な木の枝に引っかける。 空を映した写真より、出会った者達との集合写真が欲しい。少女の言葉を受けたソラは、持っていたカメラを使って全員との写真を取ることにした。 カメラが撮影するまでの僅かな時間、ポーズを撮る者、ただ表情を浮かべる者それらの中心で、少女は語る。 「幸せでした」 ヴァージニアが視線を向ける。 「凄く、幸せでした」 伸之が照れ隠しに頬を掻く。 「私を大切に思ってくれた人が居て」 アーデルハイトがにこりと笑う。 「厳しいことも言われたけど」 光とナハトが苦笑を浮かべる。 「私の為に、ずっと傍にいてくれて」 虎吾郎が少女の頭を撫でる。 「私を、少しでも愛してくれて」 識恵が少女の手を握る。 「……だから、私はもう、大丈夫です」 そうして、ソラがカメラに向き直って。 「――有難う、御座いました」 星空が見えたとき、少女は陽と共に消えていた。 残った名残は一つもなく、唯交わした言葉だけが、リベリスタの内に残る。 彼らが導いた答えは正しかったのか。 ――それはきっと、考えるまでもない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|