●祈りは意味を成さぬ。刃を立てる腕だけが意味を持つのだ。 輸送ヘリの兵士格納コンテナ内では清らかな祈りだけが響いていた。 小さな唇から厳かにはき出される、名も無い神への祈りと、死者の安息と、死に行く者へのはなむけ。 それを遮るように、一人の男が口を開いた。 「ほ、ほんとうなのか……? あのエースたちが負けたって……」 「でなきゃこんな作戦は下りんさ」 「無理矢理投入されたような言い方はよしましょう。僕らは望んでここへ来たんです」 「その通りさね。あたしらがこうして生きてんのは、あの人らがいたからさ」 「アークのためというよりは、あの人たちのため……ですか」 「はい。あの人たちのため。命を擲(なげう)ちましょう」 両手を合わせ、祈りを捧げていた補助員 サポ子(nBNE000245)はゆっくりと目を開けた。 「『親衛隊』との戦いで喪われた命。破壊された平和。閉ざされた未来。その全てを許すわけにはいきません。彼らが『穴』を利用した革醒兵器の強化を進めているのは明白。キース・ソロモンとの戦いが迫る中、我々に退路はありません」 コンテナの中に並ぶ数十人のリベリスタたち。彼らに固有の名前は無い。勿論氏名は存在しているのだろうが、特別に呼ばれることが無いのだ。 「私たちは『エース』に頼りすぎました。それゆえ多くの守るべきものを突かれ、崩され、敗退しました。故の反撃。故の攻勢です。多くのエースの皆様は敵拠点へと襲撃をかけています。しかし敵が三ツ池公園に防衛を敷かねばならないのもまた事実。これを先に襲撃することで陽動とし、皆様を助けます」 彼らは自らの役割をまっとうすべく、誇りを込めてこう名乗っている。 「我ら『モブリスタ』一同。救われた命の意味を示すため、与えられた生を使うため、今こそ――」 開き行くハッチ。 吹きすさぶ風。 彼らは翼の加護を背に受けて、一斉に立ち上がり。 「――総員ッ、特攻ッッッッッッッッッッ!!!!」 効果目標――三ツ池公園『中ノ池』。 牽制対象――『親衛隊』メーベル・W 以下特殊工兵団 作戦目的――エース・リベリスタの支援および肉の盾 雲を割り霞を散らし、雨のように降るモブリスタの群れ。 それらは降下エネルギーを翼によって更に加速させ、支給された特殊カーボン製ブレードを猛禽類のくちばしが如く構えた。 「死ねっ、クソどもがあああああ!」 中ノ池の中央に建設された水上拠点。かつて大戦時に運用されたという簡易拠点制作重機によって構築されたそれは、重機そのものが拠点へ変形合体するという尋常ならざる発想から生まれたもので、即効性と『そこそこの』堅牢さが期待されたが、結局は実用されずに歴史の土に埋まったとされていた。 だがそれは今、歴史の土から這い出た『親衛隊』によって引き上げられ、今こうして実用されている。 花のように開いた簡易拠点に展開し警戒態勢にあったフィクサードの一人が、肩に突き刺さるブレードに悲鳴をあげた。 「リベリスタ……アークだ! くそ、もう来たのか!」 反撃に出ようとするフィクサードに、まるで虫のように群がってトドメをさすモブリスタたち。 やっと一人を殺した……その瞬間。 「はいはいお利口さでちゅねー?」 「はいはいご褒美あげまちょーねー?」 鋼鉄のライトアーマーを着込んだ二人の少女が、群れの左右をすれ違うように通過した。 まるでうり二つの双子姉妹である。 通り抜けざまにスイングされるスコップ。 たかがスコップ。しかしその一撃だけでモブリスタたちは一斉に吹き飛ばされ、外周の者たちに至っては胴体や首がもげ、池の底へと沈んでいった。 かろうじて生き残ったメンバーが地面を転がりながら武器を手に取った。 一旦遅れて着地したサポ子が天使の歌を展開。 「ひるむな、エースの到着まで釘付けにしろ!」 「お役に立てて死ねるなら本望ってなあ!」 起き上がって襲いかかってくるリベリスタたちに、スコップを持った姉妹は肩をすくめた。 「雑魚のくせに威勢がいいのねぇー」 「雑魚のくせに威勢だけはいいのねー」 「そういう連中を蹴散らしてお帰り頂くのが、我ら工兵のお仕事よ」 どかん、という音がした。 それ以外には感じなかった。 だが感じたときには既に、リベリスタたちは血煙と化していた。 なぜか? 「キューベル、シュヴィム。雑魚で遊ぶのはやめなさい。そんな群れ、一人で充分でしょう?」 2cm Flakvierling38。つまり38式四連装2cm対空砲を身体の両脇から突きだしたドレスの女が、世にも気だるそうに言った。 そう、彼女の期間射撃によって消し飛ばされたのだ。 「……あら? なぁに、この子だけちょっぴりいい装備してるじゃない。おかげで計算が間違ったわぁ」 あくびをしながらサポ子の足首を掴み上げる。 小さく呻く彼女の顔を、とがったつま先で蹴りつけた。 まりのように蹴飛ばされ、まりのように鋼板の上を転がる。 「何かに使えるかも知れないし。はぎ取っておきましょう。死体は……そうね、やっぱり使えるかも知れないし、高いところに突き刺しておいてちょうだい」 「面倒なこと考えるのねメーベル姉さんは」 「残酷なこと考えるのねメーベル姉さんは」 「お返事は?」 「「Jawohl(ヤヴォール)!」」 ● 『親衛隊』が防衛する三ツ池公園、そして拠点である太田重工への同時襲撃と言う形で繰り出されたアークの反撃作戦。 その一部である三ツ池公園陽動作戦中ノ池班に振り分けられたあなたは、眼鏡の男性フォーチュナからこのような説明を受けた。 「みなさんの任務はメーベル・Wをはじめとする『親衛隊』の工兵団を殲滅することです。彼女たちは池の上に簡易拠点を作成し防衛を固めています。陸から攻めるには不利な構造になっていますから、上空からのヘリによる降下作戦となるでしょう。こちらを察して閉じこもられては台無しですので、足止めはしてあります」 足止め。その単語の意味を誰かが問いかけた。 眼鏡をあげるフォーチュナ。 「そのままの意味ですが? いえ、みなさんの手は必要ありません。肝心な人手は大田工場の方に割きたいですし、撤退直後だけにそもそも人手不足ですしね。彼女らモブリスタに行って貰っていますよ。メンバーですか? 写真程度しかありませんが……」 そう言って、彼は二十枚程度の写真を提示した。 その一つに、補助員・サポ子の顔があった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月07日(水)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●「エースリベリスタの価値=モブリスタ約百人分」――MOB06825 降下作戦用ヘリの中はずいぶんとガラガラだった。 本来倍以上の数を降下させる目的のものである。12人程度のリベリスタが収まるにははやり大げさだ。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は作戦内容を表示させた端末を閉じ、軽く握った。 「作戦目的はフィクサードの撃破だ。だが仲間の危険も高い」 『時間稼ぎ』に投入されていると言うモブリスタたちのことを考える。 「その気概は、リベリスタだな。簡単には死なせたくない」 「まおも」 顔を伏せたまま、『三高平最教(養』荒苦那・まお(BNE003202)は口をぱくぱくとやった。 「敵を殺したいって思いました。それで……」 「あの人たちには死んで欲しくない。生きていて欲しいと」 両膝に手を置いたままの『三高平妻鏡』神谷 小夜(BNE001462)。 彼女の隣で『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は強く拳を握った。 「そうだ。ボクは、誰も死なせたくない。仲間を、死なせたくない……!」 強く歯を食いしばる彼を一瞥して、武器の点検に戻る『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)。 「今回の作戦意図は陽動だったな。俺個人としては、公園を取り返すつもりでいるんだが、そっちはどうだ」 「お言葉にするまでもなく」 瞑目して頷く『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)とシエル・ハルモニア・若月(BNE000650)。 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)と『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)もうっすらとした笑みを浮かべて肯定した。 座ったままの姿勢で腕の柔軟体操をする『荊棘鋼鉄』三島・五月(BNE002662)。 「守ったり耐えたりは得意ですけれど、逆は苦手ですね。いや、むしろ嫌いです。あとで文句言いましょう」 「同感だな。盾になって死ぬってのは押しつけがましくて好かん」 弾込めしたリボルバー弾倉を親指で回して具合を確かめる『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。 ゆっくりと開くへり後部のハッチ。 差し込む光に目を細め、『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は仏頂面で言い放った。 「諦観を罵る者もあろうが、決意を無碍にはすまい。だが……まだ早い。早いのだ」 それぞれの安全ベルトが外れ、機敏に立ち上がる。 「自分の戦いならば、己が手で勝ち取るんだ」 そして今、12人のリベリスタが天空へと躍り出た。 ●「人は生まれる場所を選べない。その逆も然りだ」――MOB08251 千切れた腕がナイフを持ったまま宙を舞い、その手首を咥えた老人が敵へと飛びかかった。 直後、胸へと叩き込まれるスコップのブレード。肋骨とその内包物を強制的に千切りながら通り過ぎ、一秒前まで生きていた人間を肉の塊へと変えた。 はじけ飛ぶ血液まみれの繊維質を頬に浴び、サポ子はゆっくりと上半身を起こした。 起こして、頭部を踏みつけられる。 「次から次へときりがないのね」 「次から次へと無駄なことよね」 「さすがリベリスタ最大勢力ってとこかしら」 「所詮リベリスタ最大勢力ってことかしら」 キューベル・シュヴィム姉妹に踏みつけられたサポ子へと、機関砲の口が向いた。 世にも気だるそうな顔をしたメーベルのものである。 「はい、また一名様ごあんなぁい」 発射レバーに手をかけた、その時。 メーベルを中心に鉛の雨が降り注いだ。 膝を貫通する弾頭に顔をしかめ、光の無い目で上空を仰ぎ見る。 「あぁら、やっと『まとも』なのが来たわ。かも撃ち状態ねぇ?」 メーベルにとって上空の敵は的に過ぎない。一発でも当たれば防御を一気に削られて続く雑魚どもに食い散らかされておしまいだ。このコンボで既に数え切れないモブが血煙と消えたのだった。 そんなことは、先刻の射撃を加えた福松にだって分かっている。 分かっているが、身を固めてなどいられなかった。 眼下に広がる赤黒い地面が、それを許さなかったのだ。 「くそがっ……!」 「熱くなるなよ、獲りそびれるぜ」 禅次郎は対ショック姿勢のまま常闇を発動。待ち構えている雑魚めがけて乱射した。 黒いオーラが弾幕となって地面へ降る……と同時に、メーベルの対空射撃が『雨のように』天へ昇った。そう、逆回しに錯覚するほどの物量なのだ。 「来るぞ!」 「望むところです」 素早く防御態勢をとる義弘と五月。小夜やシエルが彼らの後ろに身を隠した。 回復担当を庇う姿勢……ではあるが、回避を拒否したこの状態で受ければ間違いなく防御を完全に奪われてスポンジ状態にされる。地面に叩き付けられた後に頭を潰されて恐らく終わりだ。 なんとかもってくれることを神に祈るしかない……と思ったその時、彼らの前に翼を広げたモブリスタたちが立ちはだかった。 小さく振り向き何か言った気がした。それだけだ。 次の瞬間には骨と血がバラバラに千切れて義弘たちの全身に飛び散っていた。 「こ――の馬鹿!」 「戦術攻勢!」 雷慈慟が両手両足を地面に叩き付けるように着地――いや、着弾した。 メーベルの真正面で顔を上げると。 「一気呵成に打ち穿て!」 「総員我が肉壁となれ!」 J・エクスプロージョン発動。 一方でメーベルとの間に無理矢理割り込んだ工兵が電子レンジに入れたキウイのようになった。 直後に頭上から飛び込んでくる悠理。尚も割り込もうとする工兵を掻き出すように壱式迅雷をぶっ放した。四方八方へ飛び散る工兵。最終的に叩き込まれた拳がメーベルの額でガチンととめられた。 「ボクは仲間を死なせたくない。これ以上……!」 「まあ素敵ィ! 自分が先に死ねばァ!?」 目を見開いたメーベルが機関銃を向けてくる。 両者の中間、足下へと食い込むピック。そこから伸びたワイヤーをたぐり、高速回転したまおがワイヤーブレードをむき出しにして接近してきた。 発射レバーを握り込むメーベル。 途端、悠里を横合いからのタックルが襲った。敵の攻撃……ではない。包帯で顔を覆ったモブの老人が、彼と射線を代わったのである。 「待っ――!」 手を伸ばす悠理。その二センチ先で老人が蓮の葉のようにスカスカになった。 更にそのコンマ五秒後。ワイヤーを高速で巻き取ったまおがメーベルの腕を輪切りにしてひっこぬく。 「まおです、今からがんばります!」 「っ――なんて甲斐性なしの工兵部隊」 「そりゃ残念だったな!」 地面をひっかく勢いでメイスをアンダースイングした義弘が、メーベルの腹へと想い打撃を叩き込む。 外れた腕から発射レバーを引き抜き、口に加えるメーベル。義弘の顔面を鷲づかみにすると、足がつかない高さまで引っ張り上げた。その背中に工兵がハンドグラインダーを押しつけた。 盛大に削り取られる背骨。 腹に押しつけられる銃口。 「義弘さんっ!」 悲鳴のごとき声で叫ぶモブの少女。 急いで印を結んだ小夜が聖神の息吹を展開。ワンテンポ遅れて四連装の砲撃がまき散らされる。対抗して聖神の息吹をぶつけるシエル。 脊髄をギリギリで修復された義弘に二十七箇所の穴が空き、空いた直後にふさがった。 若干腰を屈め、足を踏み出す五月。敵から庇おうとしたモブをひとにらみした。 「邪魔です。巻き込むので離れていてください」 五月が広げた両腕を炎上させ、鷹のようにメーベルへと突撃。途中にいた工兵をラリアットで『へし折』ると、豪快な回転をかけてメーベルの腕を粉砕。炎がかすった義弘が腕をおさえながら地面を転がる。 両腕をそれぞれ殺されたメーベルめがけ、いりすと琥珀が同時に襲撃。両肩を貫く剣。 空中に縫い付けられたように、メーベルの両足が地面から浮いた。 すかさず飛びかかる悠里。 「行くよ親衛隊、ボクが境界線だ!」 引き絞られた拳がメーベルへ炸裂。 鼻の骨を砕き、頭蓋骨へと拳を陥没させる。 と同時に発射レバーを再び押し込もうとする……が、そこへまおが飛び込んだ。高射砲のうち二本に指を突っ込み、ぎゅっと握り込む。 炸裂音が鳴り響き、まおの両手首から先が吹き飛んだ。 「何をやってるんですか、まお様!」 地面へ転がったまおに飛びつき、素早く千切った服で両手首を縛るサポ子。 「大丈夫ですよ。殺しましょう」 「……っ!」 「避けろよ」 半身に銃を構えた福松が連続発砲。まおや悠里、いりすたちを巻き込んでぶっ放された射撃がメーベルの身体数カ所を的確に破壊した。 なりふりを構わない。まるで手負いの獣が如き乱闘である。 そんな中、キューベルとシュヴィムが福松めがけスイングを繰り出してきた。 両サイドから首を飛ばすハサミのようなサンドアタックである。 目を見開き歯を食いしばる福松。そんな彼の視界を白髪の少女が覆った。両頬を掴み、口づけをするように引き寄せると、そのまま地面へと引き倒す。一旦遅れて口内で砕ける飴玉。 急いで顔をあげると、首から上を喪った少女が血を吹き上げて立っていた。 喉の奥からこみ上げるものを、福松は必死に飲み込んだ。 「やめろ……」 鮮血を浴びスーツを真っ赤に染める福松。そんな彼へとスコップを叩き込もうとするシュビム。 が、それは横から身体ごとぶつかってきた禅次郎によって押し倒された。 「よう、俺と踊ってくれよスコップ野郎」 「いやだわ、『いい子ちゃん』とは踊らない主義なの」 眼球へ指を突っ込まれそうになり、咄嗟に転がって離脱する禅次郎。 そんな彼の鼻先を高射砲の弾丸が通り抜けた。 「まだか……急げ!」 「焦りはいらない。これで終わる」 雷慈慟の咥えていたキセルが途中でへし折れるが、構わず突撃。併走した青年のモブへと視線を送った。 「名前を教えろ」 「じ、自分は番号0825――」 「名前だ。名前を教えろ。今すぐに」 「……霧形です」 「霧型君。自分に守りはいらない。攻撃だ」 不要になったキセルを吐き捨てると、雷慈慟はむらがる工兵ごと爆発で吹き飛ばした。 メーベルが仰向けに倒れ、次なる射撃をしかけた。雷慈慟の膝を粉砕し、ガクンと体勢を崩させる。 躊躇するモブを見やる雷慈慟。 「君たち勇者の助けが必要だ。……武器を取れる者、剣を突き立てられる者、信仰で戦わぬ者よ聞け。神に祈るな、過去を思うな! 敵は前にあり!」 「――!」 声にならぬ声をあげ、モブの一人がメーベルへと覆い被さった。胸にナイフを突き立てる。 びくんと痙攣して発射レバーを口から離すメーベル。 咄嗟に再び咥えようと首を伸ばすが、ピンポイントで放たれたジョンの射撃がレバーを彼女の顎ごと吹き飛ばした。 「うおおおおおおお!」 義弘が、メーベルの頭めがけて全力でメイスを叩き込む。 スイカのように粉砕する頭部。大きく跳ねて停止する身体。 そして義弘がモブの青年へと手を伸ばし、彼がその手を取ろうとした……その時。 「だらしがないのねお姉様」 青年の顔が目の前で半分に潰れた。 キューベルのスコップが直撃したのだ。 直後、回転しながら飛び、池へと落ちる青年の首。 胴体だけがべしゃりとメーベルの死体へ被さった。 ニヤリとネコのように笑うキューベル。 目を血走らせ、義弘はメイスを振りかざした。 「遅い」 振ったばかりのスコップを翳してメイスを受け止め、義弘を足蹴にするキューベル。 「無理をしないでくださいっ」 「モブの皆さんが減ってきています。癒やしが足らない……!」 息を切らしながら聖神の息吹を展開するシエルと小夜。だがそれを見逃す敵ではない。 小夜の背中へとまっすぐ突き出された工兵のハンドドリルを、横から割り込んだ大男が身体で受け止めた。 回復……は間に合わない。その前に死んだのだろう。立ったまま男は絶命していた。 「頭を下げていて――」 工兵の首をもぎ取って放る五月。 そのままキューベルへと飛び回し蹴りを放った。 相手の胸へとヒット。だがその直後足首を掴まれ、ぐるんとスイングされる。鋼鉄の地面に頭から叩き付けられた。意識が一気に吹き飛ぶ……が、強制的に引き戻して覚醒。目を開けるとキューベルが五月の顔面めがけてスコップを逆手に構えて振り上げていた。 「さ――せるかあ!」 横から放たれた悠里の蹴りが炸裂。スコップを握ったまま転がるキューベルに、琥珀が全力の攻撃を叩き込む。 更に転がされたキューベルが顔を上げようとしたところで、目を大きく開いた雷慈慟が分厚い本を振り上げた。 「……!」 お互い何を言ったのかは分からない。 本が叩き込まれたその時には大爆発がおき、キューベルの身体が五体バラバラになって池へ沈んだことは確かだった。 その様子を見届け、小さく拳を握る悠里。 「やった……」 「悠里、伏せろ!」 「――!」 反射的に身を伏せる悠里の頭上を、後方からスイングされたであろうスコップが高速で通過。シュヴィムだ! 地面に手を突いたまま旋風脚を繰り出す悠里。脚が真空を斬りシュヴィムの胸をばっさりと開いた。 一瞬遅れて彼女の背中を全力で切りつける禅次郎。 目をぎろりと見開いたシュヴィムがスコップを手に烈風陣を繰り出そうと構えた。 守りに入ろうとしたモブを片足で蹴飛ばしてはねのける禅次郎。 「俺のデートだ、邪魔をするな」 言ったすぐあとに禅次郎と悠里は強烈な打撃に骨の砕ける音を聞いた。 ほぼ同時にシュヴィムの首に巻きつくまおのワイヤー。まおはそのままシュヴィムにおぶさるように抱きつくと彼女の腕を拘束した。 銃を握った福松が歯ぎしりする。 「まお、どけ!」 「これよりでっかいロケット砲でも帰って来れましたから。大丈夫です。やってください」 タイミングを見計らったいりすとジョンがすかさず射撃と突撃を繰り出し、その場にシュヴィムを固定。 「……くそ!」 福松は直接飛び込み、シュヴィムの顔面に銃を握ったままの拳を叩き込んだ。 ワイヤーが食い込み、彼女の腕がぶつんと千切れる。 地面に押し倒されたシュヴィムに馬乗りになると、福松は相手の口に銃を突っ込み、弾倉が空になるまでトリガーを引いた。 めちゃくちゃに暴れたシュヴィムの身体はやがてぐったりと動かなくなり。 そして――。 ●「力のある者だけが勝手を許される。良くも悪くも」――MOB02945 簡易要塞の上にあるものが何かと聞かれれば、死体の山と答えたろう。 それが誰かと聞かれれば、分からないと答えるほかない。 「…………」 撤収用ヘリの中。片手で数えるほどとなったモブたちに紛れてサポ子が瞑目していた。 「あの、おけがはありませんか?」 血まみれになってどこが傷口か分からなくなった彼女に手を伸ばす小夜。 そんな小夜の手を、サポ子は力なく払った。 「なにを」 「何も言わないで、ください」 満身創痍になった義弘が、全身を包帯だらけにして彼女を見た。 うつむく彼女が小刻みに震えていたのを察して、目をそらす。 頭を抱え、うなだれる悠里。 「ボクは……理想だって分かってても、ボクは……」 「…………」 腕組みをしたまま沈黙する雷慈慟。 五月もまた、壁に背中を預けたまま苛立たしそうに沈黙していた。 「あの……」 「いい。今はそっとしておけ」 声をかけようとしたまおの手を、禅次郎が掴んで首を振った。 それは当たり前にあったものなのだ。 虫が虫に喰われるように、花が枯れるように、視界の中にずっとあったものなのだ。 当たり前のように彼らは沢山死んでいて、自然と沢山殺していた。 それはなにも味方に限ったことでは無い。自分たちが今まで手にかけてきた敵側とて、恐らく同じようなものだ。 それが戦争であり、殺し合う生物というもなのだった。 「……くそっ!」 自分の膝を拳で殴る福松。 当作戦の戦果表には『全フィクサードを撃破。戦死者なし』と記録されている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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