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アラクネ。或いは、星の見える林道。

●糸に囚われて
 林道である。通り抜けた先にあるのは、展望台だ。通る者はさほど多くない。展望台まで車で行ける専用道路が出来たからだ。
 それに、この林道には昔から奇妙な言い伝えもあった。
 神隠し、或いは、妖怪が住みついているという噂だ。
 その妖怪は、糸を操り人々を捉え、何処かへ連れ去って喰ってしまうのだという。
 無論、単なる言い伝え。昨今では、都市伝説にも及ばぬ作り話として語る者も少なくなった。
 そんな話を昔聞いたな、とその男は思っていた。草臥れたスーツに身を包んだ、中年のサラリーマンである。仕事に疲れ、帰宅前に星でも見ようと林道を進んでいた。
 今日はやたらと蜘蛛の巣が多いな、と男は思う。顔や腕に、細い糸が絡みつく。
 払いのけながら林道を進むうちに、この蜘蛛の糸の量が異常なものであると思い始めた。気付けば、腕も足も、胴体にも、無数の糸が巻き付き真っ白になっていたのだ。
 急速に血の気が下がる。思い出すのは、神隠しの妖怪の話だ。
 だが、遅い。引き返そうと踵を返した瞬間、男はそれを見てしまった。
 眼前に迫る6本の腕。異様に長い、細い指。美しい女性の裸身と、冷たい瞳。下半身は、まるで蜘蛛のそれであっただろうか。張り巡らせた糸を足場に、逆さにぶら下がっている。
 恐怖を感じる暇もなく……。
 男の意識は、ブツンと途切れた。

●毒蜘蛛アラクネ
「林道に巣食っているのは、Eビースト(アラクネ)。毒や麻痺などの状態異常と、複数攻撃を得意とする毒蜘蛛ね。それから、アラクネの子供が複数体。林道のあちこちに散って、巣を作っているみたい」
 淡々と状況を解説するのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)である。モニターに映る暗い林。時折大きく揺れているのは、アラクネか、風か、動物の仕業か。
 不気味な雰囲気が漂っている。なるほどこれは、妖怪の言い伝えが残っているのもうなずける。
 蒸し暑い季節だ。怪談と洒落込むのも悪くない。
「子蜘蛛たちは数が多いだけで、さほど強くない。大きいだけで、形は普通の蜘蛛のまま。一方アラクネは、上半身が人間の女性のように変化しているわ。視力や聴力が発達していて、6本の腕での複数攻撃を得意としているわ」
 相手の戦力や外見はハッキリしている。問題があるとすれば、林のどこにアラクネ達が居るのか分からないこと。アラクネと子蜘蛛が別々に行動している事、それから男性が1人、捕まっていることだろう。
「男性の生死は不明。だけど、時間をかければかけるほど、生存確率は下がるから、早目の発見をオススメするわ」
 男性さえ発見し、生死さえ確認できれば、時間がかかっても問題はないだろう。
 無論、次なる犠牲者が現れないとも限らないが……。
「林は狭いから、長さのある武器を使う人は気を付けてね」
 そういってイヴは、仲間達を送りだした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月09日(金)22:05
おつかれさまです、病み月です。
みなさんいかがお過ごしでしょうか? 
今回は、真夜中の林での捜索&戦闘になります。
それでは、以下詳細。

●場所
展望台へと続く林道。
竹や杉、その他複数の樹木で構成された林。林道は狭く、また林の中は更に狭い。
長い武器や大きな武器など使う際は、取りまわし注意が必要。夜であるため、視界も良好とは言い難い。
(アラクネ)の他に、子蜘蛛が複数体、林のあちこちに散っている。
林道は、直線距離にして1キロほど。林は半径数百メートル~1キロ程度である。
男性が1人、アラクネに捕らえられている。現在何処に居るのかは不明。生死も不明。


●敵
E・ビースト(アラクネ)×1
フェーズ2
毒蜘蛛。大きさは2メートルを超える。上半身が人間の女性に似ている。下半身は蜘蛛である。
視力と聴力に優れ、手先は器用。移動の際に、気配と音があまりしないのが特徴。
6本の長い腕で、複数攻撃を得意とする。
林のあちこちに巣を張っているようだ。アラクネは、巣を移動する。
【ポイズンパンチ】→物近複[連][猛毒]
6本の腕による拳の乱打。
【糸繰】→神近複[ブレイク][石化][弱]
糸を操って、近くの相手を攻撃する。
【ワイヤートラップ】→物遠範[麻痺][出血]
広域に仕掛けた糸の罠。

E・ビースト(子蜘蛛)×20
フェーズ1
アラクネの子供。大きさは数十センチから1メートル弱ほど。動きは素早いが、アラクネに比べて頭は悪い。姿も大きいだけの蜘蛛である。
アラクネと違い、一か所に巣を作って獲物が掛かるのを待っている個体が多い。
【ポイズントラップ】→物遠貫[毒][出血]
毒糸を纏めて、矢のように撃ち出す。
【ワイヤートラップ】→物遠範[麻痺][出血]
広域に仕掛けた糸の罠。



ご参加お待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
マグメイガス
シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
ナイトクリーク
荒苦那・まお(BNE003202)
ナイトクリーク
アーサー・レオンハート(BNE004077)
インヤンマスター
赤禰 諭(BNE004571)
スターサジタリー
アルテミス・フォレスタ(BNE004597)

●林の中で蠢く何か
 鬱蒼と茂った葉の隙間から、ぼんやりとした月光が差しこむ。聞こえて来るのは、虫の鳴き声と、葉の擦れる音ばかり。耳元を飛びまわる藪蚊が、苛々を募らせる。
 だが、ある一点を境に、途端に周囲は静かになった。
 それと同時に、誰かに見られているかのような不気味な気配。
 E・ビースト(アラクネ)と、その子供たちの気配だろう。
 夜道を歩みリベリスタ達の頬を、冷や汗が伝う……。

●蜘蛛の軍勢
「気休め程度ですが……。何もしないよりマシかと」
 林道周辺に結界を展開する『紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)。現在、危険な存在が蠢いているこの林に、一般人を近づけさせない為の配慮だろう。
 低空飛行を続けるシエルは、蜘蛛達の張り巡らせた糸を見落とさないよう周囲の様子を観察している。
「男の人、無事だといいね……」
 現在、アラクネによって男性が1人捕まってしまっている。安否は不明。無事を祈りながら、捜索しているのが現状だ。『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)は片手に持った石を、林の中に投げ飛ばした。
 蜘蛛の巣を石で揺らし、アラクネ達をおびき出そう、と考えているのだ。
「うわ……蜘蛛の巣がこんなに。服に付かないでよねぇ」
 木の枝を振り回しながら『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、顔を青ざめさせて蜘蛛の巣を払い続けている。蜘蛛が得意ではないのだろう。恐る恐る、と言う風に足を踏み出している。
「さあさあ宝探しデスヨ。見つかる宝は人の命。分け前は敵の命。アハハ」
 両手に持った肉切り包丁を振り回しながら『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)は林道を駆けて行く。捕まっている男性の身を案じるのなら、一刻も早く発見、救出する必要があるだろう。
 行方同様に『三高平最教(養』荒苦那・まお(BNE003202)もまた、木の枝伝いに移動し、アラクネや子蜘蛛、男性の姿を探している。他の者よりも多少先行しているのは、場所柄仕方のないことだろう。なにしろ、今回の相手は蜘蛛。そして、まおもまた、蜘蛛の因子を持つ者だからだ。
「あまり時間はなさそうだ。迅速に救出しないとな」
 シエルを守るように立つ『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)が唸り声を上げる。マスターファイブによって強化された彼の五感は、周囲で蠢く蜘蛛達の気配を察知していたのである。
「この時期に山歩きは面倒ですね。煩わしさばかりが先に立ちます」
 影人を召喚、先行させる『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)。林の中に足を踏み入れた途端、影人の体が何者かに掴まれ、宙へと引っ張り上げられた。
 それが合図にでもなったのだろうか。
 ぞろぞろと、木々の隙間から蜘蛛達が顔を覗かせ始める。
「森の中で怪物と戦う、というと、何となく狩猟を想像してしまいます」
 弓矢を構え、頬を引きつらせる『イツワリの女神』アルテミス・フォレスタ(BNE004597)。ぞろぞろと這い寄ってくる蜘蛛に矢を向けながら、しかし数歩、後じ去った。

 数体の蜘蛛が、一斉に糸を吐き出した。吐かれた糸は空中で固体化。矢のような形状へ変化し、リベリスタ達を襲う。
「ぐ、おぉ……」
 両手を広げ、糸の矢をその身で受けるアーサー。回復役のシエルを庇うのが、彼の役目だ。
 その視線は、蜘蛛の群の更に奥、暗くなった林の中へと注がれている。
「奥だ」
 アーサーの発したその一言で、数名の仲間が一斉に行動を開始した。
「あえて……蜘蛛の巣の多い場所へ歩を進めるね」
 罠に飛びこむことを提案する遠子。そうすれば、アラクネや捕まっている男性との遭遇率が上がると判断したからであろう。
 遠子の手にしたグリモアールから、気糸が飛び出す。蜘蛛を貫き、そのまま気糸は、木の枝に巻き付く。
「草が邪魔なら掻き分けさせます。用心程度のものですが、囮にもなりますしね」
 諭の指示に従って、2体の影人が飛び出した。蜘蛛の群へ突っ込み、その身を犠牲にして蜘蛛達の注意を引き付ける。
 蜘蛛の注意が影人に集まったのを確認し、諭は重火器を構えるのだった。

「アハッ♪」
「アラクネ様を迎えに行きますよ」
 地面を這うようにして、行方が駆ける。振り回した包丁が、蜘蛛の脚を切り飛ばす。
 脚を奪われバランスを崩した蜘蛛を蹴飛ばし、まおが飛ぶ。
 上下から同時に駆け抜けた2人に、蜘蛛達は反応できないでいるのだろうか。
 否……。
「リベリスタの仕事を狩り、と表現してしまうのはいささか不謹慎でしょうけど……」
 正確無比なアルテミスの攻撃。放たれた矢は、緑の軌跡を描き、行方とまおを追いかけようとしていた蜘蛛を射抜いたのだ。
「いやーっ!?蜘蛛!クモ!?何でリアル蜘蛛なのー!?」
 一方で、シルフィアは泣きながら半狂乱の有様であった。蜘蛛の攻撃を回避し、傍にいたシエルに飛び付いた。
 がっしりとシエルの体に抱きつき、シルフィアはガタガタと震えている。
「……癒しの息吹よ、在れ」
 動きにくそうにしながらも、シエルは一言、そう囁いた。周囲に飛び散る燐光が、仲間達に降り注ぐ。淡い光だ。傷を癒し、体力を回復させる。
 幾分冷静になったのか、荒い息を吐きながらも、シルフィアはシエルから離れ、戦闘体勢を整えるのだった。

 仲間達の助けもあり、行方とまおは順調に林の奥へと進行していく。蜘蛛の巣を切り裂き、邪魔をする蜘蛛は、切り裂き進む。倒してしまう必要はない。
 2人の目的は、あくまでアラクネと囚われた男性の安否確認なのだから。
 暫く進んだ所で、おや? と、行方が呟いた。何かを発見したようで、口元がにやりと歪んでいる。
「発見発見不幸なお人。生きてるデスカネ死んでるデスカネ。覗いてみてのお楽しみ、デスカ」
 男性付近に居た蜘蛛へと、包丁を叩きつける。轟音、衝撃、蜘蛛の脚が数本と体液が飛び散る。糸に囚われた男性の安否は、未だ判別できない。AFを通して、仲間へと連絡。応援を要請する。
「ちょっとまっててください……」
 木から飛び降りたまおは、視線は蜘蛛の巣の隅へと向けた。
 そこに居たのは、異形の美女である。裸体の上半身は美しい。その分、6本の腕に、蜘蛛の下半身が余計に不気味なのだ。
「まおがお相手します」
 まおの指先から黒糸が垂れる。しゅるしゅると指を動かすに従って、黒糸がまるで蛇のように蠢いた。地を這い、木の幹を経由し、周囲に張り巡らせる。
 それを見て、アラクネがにやりと笑った気がした。

「殺虫剤撒いてる気分になりますね。これで死ぬ可愛げがあれば楽でしたが」
 氷の雨を降らせる諭。間断なく降り注ぐ氷雨が、文字通り蜘蛛の子を散らす。ダメージを受けそうになれば回避、撤退する程度の頭はあるようだ。
 それゆえに、厄介。深追いすると、今度はこちらが罠に掛かりかねない。
 林の中は、蜘蛛の巣だらけだ。現に今もまた1体、諭の影人が糸に囚われ、消えていった。
「男性を見つけたようだ。足跡を追って合流するぞ」
 魔弾を撃ち出し、アーサーが林へ足を踏み入れる。それに続くシエル。アーサーの巨体に庇われながら、行方たちの足跡を追跡する。
 飛び降りてきた蜘蛛が、アーサーの首や肩に喰らい付く。
 それを掴み上げ、地面に叩き付けた。背後から飛んできた矢が、地面でもがく蜘蛛を射抜く。
 体液をばら撒き、蜘蛛はピタリと動きを止めた。
「なんとも戦いにくい場所ではありますが、それは敵も同じ事……とは、いかないようで」
 溜め息を零すアルテミス。新たな矢を弓に番え、周囲の蜘蛛へ狙いを定めた。矢に光が収束。放たれたそれは拡散し、周囲の蜘蛛数体を纏めて射抜く。
「うぅ……。分かってたけど、こうなったら早く倒してお風呂に入らないと」
 まだ息のある蜘蛛達を、シルフィアがまとめて雷で焼き尽くす。暗い林に、閃光が走る。周囲に漂う焦げくさい臭い。シルフィアの雷に恐れをなしたのか、蜘蛛達がぞろぞろと下がっていった。
 その隙を突き、リベリスタ達は一斉に林を駆け抜けて行った。

 アラクネの拳が振り回される。6本の腕による乱打の嵐。一撃一撃が重たい上に、多方向からの攻撃で、防ぐのも一苦労だ。
 上からアラクネに飛びかかったまおだったが、拳に腹を打たれ、地面に転がった。
「う……っぐ」
 倒れたまおを飛び超えて、行方が素早く包丁を振るう。一閃、二閃と瞬く刃。己の生命力すら、斬撃に乗せる。だが、それすらもアラクネは受け止めて見せた。
 無論、無傷とは言わない。腕と肩に、深い裂傷が刻まれ、血が溢れる。
「徹底的にすり潰すデス」
 着地。地面を滑って急旋回。返す刀で斬撃を繰りだす。だが、その瞬間、行方の包丁がピタリと止まった。見ると、糸が巻き付いている。
「トラップがありそうな巣には、乗りたくありません」
 背後に飛び退るまお。いつの間に仕掛けたのか、周囲にはアラクネの糸がピンと張っている。
 次の瞬間、アラクネの拳が行方の胸を打ち抜いた……。

「癒しの微風よ……在れ」
 囁くような、それでいて強い意思の宿った凛とした声。翼をはためかせ宙を舞うのは、シエルである。燐光を撒き散らし、傷ついた行方とまおを治療する。
「生存、のようですね」
 シエルは呟く。
 そのまま宙を飛びまわり、木に吊るされていた男性を確保。糸を引きちぎって、その身を放る。
 シエルから男性を受け取ったのはアーサーである。太い両腕が、男性の身柄を確保。
 だがしかし、ただで逃がしてくれるはずもないようだ。アラクネが声にならない叫び声を上げた。悲鳴にも似たその声に反応し、ぞろぞろと蜘蛛たちがその場に集まり始めた。
「男性を、何処か休める所にでも移動させておいてくれ」
 男性の体を、遠子へ渡す。迫りくる蜘蛛の攻撃を受け、アーサーの体は傷だらけだ。流れる血もそのままに、アーサーは蜘蛛を殴り飛ばした。
一方、遠子は男性の体を、半ば引きずるようにしながら、その場を離脱。その途中で、進路を阻む蜘蛛に向けて気糸を撃ち出す。
 気糸に貫かれ、蜘蛛がもがいた。擦れ違い様に、蜘蛛の牙が遠子の脚へ突き刺さる。流れる血。しかし遠子は動きを止めない。
「救出できたし、私が後衛で彼を護るね」
 気糸を展開し、防御の姿勢を整える。獲物を逃すのが気に喰わないのか、蜘蛛達が数体、遠子へ遅いかかる。
「何を食べたら大きくなるのやら。砕けば森の滋養に丁度良いですね?」
 蜘蛛へ銃口を向け、至近距離から弾丸を放つ。諭はやれやれと首を振って、蜘蛛達の駆逐を開始。召喚した影人と共に、遠子と男性を庇う。
 次々と倒されていく子供たちを見て、アラクネは悲鳴のようなかな切り声を上げたのだった。

●糸に巻かれて
「そういえば、コズミックホラーで蜘蛛の神性が居たわね」
 這いまわる蜘蛛と、叫び声をあげるアラクネを見上げシルフィアが呟く。周囲にチェインライトニングを撒き散らし、蜘蛛の接近を阻んでいるが、その頬は明らかに引きつっていた。

「はいはい来たデスうじゃうじゃわらわら。モグラを叩くように潰して蜘蛛の子を散らすように撒き散らすデスヨ、アハ」
 軽いステップで、不吉な影が飛びまわる。命を削りながらも、怒涛の勢いで蜘蛛やアラクネを切り裂き続けている行方である。飛び散る体液や、木の枝など気にもとめず、にたりと笑って、駆けまわるのだ。
 遠心力に任せて振り回した包丁が、左右から蜘蛛の頭部を切り飛ばした。

「出来るだけ多くの敵を狙えるように……」
 素早く移動しながら、弓を構えたアルテミス。指を離すと同時に、無数の閃光が射出された。
 光の矢だ。正確に、地面でもがく蜘蛛と貫く。
 一度の攻撃で、複数の対象を撃ち倒す。そのことを考えながら、アルテミスはじわりと数歩、後退した。

「五月蠅いですね……」
 耳を押さえ、苛立たしげにそう吐き捨てる諭。男性を護るべく、重火器による弾幕は途切れさせない。轟音と震動、硝煙の臭いが辺りに充満している。
 諭の召喚した影人も、蜘蛛の侵攻を妨げるべくその身を呈して壁となるのであった。
「病院へ送る必要はないでしょうが……」
 まずはこの現状を切りぬけることが優先である。遠子は、男性を背に庇いながら、意識を集中させ、蜘蛛の動きを見逃さないよう注意。
 彼女の位置が、戦場の最後尾である。
 残りの敵も、数は少ない。

 回復に徹するシエル目がけ、頭上の木から蜘蛛が1体飛び降りた。
 はっ、と驚いた顔をするシエルだが、回避は間に合わない。
「シエルを護衛しながらの行動が、俺の役目だからな」
 蜘蛛の牙を受け止めたのは、アーサーの突き出した太い腕であった。
 蜘蛛を地面に叩きつけ、踏み潰す。それと同時に、シエルが回復術を発動。アーサーの傷を癒す。
「此処で斃れるわけには、参りません」
 その為に、彼女は今、此処に居るのだ……。

「まお達はもぐもぐされるのは嫌なので退治します」
 まおとアラクネの間で、無数の糸が衝突している。緻密な操作で、アラクネとまお、両者の操る糸がぶつかり合っているのだ。一見地味だが、高度な技術を必要とする応酬である。
 実力は、互角だろうか……。
 否。
 勝負を分けたのは、純粋に手数の違いであった。
 まおの腕は2本。一方、アラクネの腕は6本である。
 一瞬の遅れが、命取り。宙を駆ける糸が、まおの首や頬を切り裂いていく。
 飛び散る鮮血。僅かに動作が遅れた瞬間、アラクネは飛んだ。
 糸を使ったワイヤーアクション。立体的な高速移動。大きく振りあげた腕は3本。毒液を散らしながら、乱打を放つ。
 
 まおとアラクネの勝負を分けたのは、手数の違いであった。
 だとするのなら、アラクネとリベリスタとの勝負を分けたのは、仲間の有無であっただろうか。
「あぁぁもうっ……。なんでリアル蜘蛛なのよぉ」
 気付いたら庇うしかないじゃない、なんてシルフィアが呟く。金髪を翻し、彼女は飛んだ。両手を突き出し、まおの体を押しのける。
 拳のラッシュが、シルフィアの胴を激しく打ちのめした。
「う……ぐ、ァぁ!?」
 血を吐き、白目を剥くシルフィア。身体から力が抜け、そのまま地面に倒れ伏した。
 まおを庇い、アラクネの攻撃を受けたのだ。戦闘不能。意識を失い、その場に倒れた。
 そんな彼女の、身を呈した行動が命運を分けたのである。
「ざくざく斬っていきます……。ごめんなさい」
 囁くようなまおの声。いつの間に展開したものか。アラクネの全身に、気糸の束が巻き付いていた。美しいアラクネの顔が引きつったのが分かる。
 気付いた時には既に遅い。気糸がずぷり、とアラクネの身に喰い込んだ。
 次の瞬間、まおは飛ぶ。その動きに合わせ、気糸は引っ張られ、アラクネの体が切断された。
 夥しい量の体液と毒液がぶちまけられる。異臭がばら撒かれ、鼻が曲がりそうだ。
 自身の撒き散らした汚物の中に、バラバラになったアラクネの体が落下する。
 地面を転がるアラクネの眼球は、まおの姿を映し続けていたのだった……。

 気付いた時には、展望台で眠っていた。途中の記憶は何処にも無い。
 目を覚ました男性は、おかしいな? と、首を傾げる。林道の途中で何かに襲われ、そこから先を覚えていないのだ。
「疲かれている時は、得てして人は不思議な夢をみるものです」
 男性の耳に残る、誰かの声。
 鈴の鳴るような女性の声だ。
 果たして彼女は、誰だったのか……。
 記憶に残る謎の声に首を傾げながらも、彼はぼんやり星を眺める……。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
おつかれさまでした。
アラクネは討伐され、男性も無事救出。依頼は成功です。
このたびは、ご参加ありがとうございました。
毒蜘蛛たちの話、いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
それではそろそろ失礼します。
また縁がありましたら、別の依頼でお会いしましょう。