● 小さな世界の縮図をご紹介しよう。人間はこの世で二つに分けられる。奪う者と奪われるものだ。 そのどちらに自らが当てはまるのかをリベリスタ達は決めかねている。先の戦いで三ツ池公園をその手に収めた親衛隊に『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) とて舐めて掛かってはいけないと知っている。 「……っても時間掛けてはいられない訳ですが」 彼の言葉に小さく頷くリベリスタも、最近の『異変』を知っているからであろう。 突如、三高平に現れたキース・ソロモンがリベリスタ達に行った宣戦布告の時刻も迫っているのだ。 戦いに飢える男の力がどれ程のものか、今まで歪夜の使徒たちとも幾度か刃を交えたリベリスタは知っていた。その期限が迫る以上、『本気』を出すのは『今』だ。 「――『あっち』にご健闘祈りながら、俺らもいっちょやりますか……! 目には目を。歯に歯を。遣り返してやろうぜ。今度はあいつ等の『大事なモノ』を叩き潰して、ついでに俺らの『大事なモノ』も取り返す。勝利には常にご褒美がつきものだろ?」 トンファーを握りしめる少年の機械化した角膜が小さく収縮した様に見えた。 未だ戦闘経験の多くない彼は、同じく、戦場なれしない十人のリベリスタを連れていた。 『あっち』――親衛隊の本拠地である前者の『大事なモノ』を奪い返す為の『陽動』は後者の『大事なモノ』――三ツ池公園を取り返す事を目的としている。 『閉じない穴』がどれ程重要なものであるのかを蒐やこの場に居るリベリスタは知っていた。 「今は七派も動きを緩めてる。室長が折角くれたチャンスを台無しにしちゃ、正義の味方が廃るってもんだ。 大丈夫だよ、俺らの本気を見せてやろうぜ。きっと、皆だって俺らの勝利を信じてくれてる……! ――さあ、行こう! ここを取り返しに! それから、勝利を得るんだ! 俺らは正義の味方だから!」 劣等種と嘲る親衛隊に勝ってやろうぜ、と子供染みた言葉を吐き出しながら、何処か雰囲気が変わった様にも思える公園の土を踏みしめた。 ● 奪う者と奪われるものであれば己が前者であるとナジェージダは過信していた。 この三ツ池公園は自分達の手で手に入れたものだし、『亡国の野心』を胸に抱いてきた亡霊たちがその実力を実感するのも致し方ないであろう。 耳をぴん、と立てた女は日本フィクサード主流七派が行った陽動が『まだ使える猿がその誠意を示した』と称していた。所詮は劣等、優良種に叶う事等ないのだが。 「……曹長、まるで小さな戦争の様ではありませんか? 植民地をこうして取った私達の目の前に、兵士が現れ、返せと言う。小さな国で犇めき合う彼等がこうして我々に抗うだなんて、羽虫が人間様に噛みつく様なものです」 「お喋りが過ぎるぞ、ナジェージダ」 失礼と笑った女が小さく首を傾げて見せた。今、三ツ池に存在するのはアルトマイヤー少尉やあの『ドク』という青年、そして少数の親衛隊だけだ。 ナジェージダやイーゴル曹長の任務と言うと何時も進んで補給路ラインの確保であった。先の戦いでアークの補給路を断つ様に立ち回った様に、彼等は『補給路』に重点を置いて行動していたのだ。 だが、目の前にいるのは何であろうか。自分たちと揃いの軍服を着るでもない。見慣れぬ顔は黄色人種(れっとう)ではあるまいか――! 「本国の防備を固めている時に、こうして植民地奪還を狙う。 不思議ではないですか、曹長。最近の猿は頭が良いんですね? 驚きの限りです。 さあ、死闘を尽くしましょうよ。曹長、少尉や中尉からのご命令は如何なものですか?」 「――『死ぬ気で護りなさい』と」 成程、少尉の連れる兵たちは皆、自決用の武器を持っていた。 成程、それならば命をかけぬ訳にはいかない。 「ここ、返して貰いに来たよ、親衛隊」 ならば、――追い返しに来ましたよ、リベリスタ? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月06日(火)23:22 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 7人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 世界の小さな縮図をご紹介しよう。人間はこの世で二種類にわけられると言う。それは、正義か悪かの二つの概念だ。 「トンファー後輩、準備はOK? いくぜ! 正義の味方!」 無論、リベリスタがどちら側など語らずとも『常識』の範囲内だ。√666を握りしめ、金の瞳を輝かせた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は死に物狂いでその正義を追い求めた。これもその『正義』の、英雄と言う途の一歩。 「ああ、勿論。正義見せつけてやろうぜ!」 夏栖斗の言葉に頷いて、眼鏡の奥で機械化した角膜を僅かに振るわせた『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) は彼からプレゼントされたトンファーを握りしめる。 「さあ、三ツ池公園ッスよ! 多くの血を流して勝ちとったアタシ達の、この世界の要所ッス! 正義の味方が手に入れた重要基点。負けた以上、奪われるのは必定の論理ッス」 「取られてばっかりじゃ唯でさえ低いイーちゃんのやる気も上がり難いじゃねーですか」 先祖伝来の全身鎧が『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)の体を包み込み、やる気を漲らせる傍ら、対照的とでも言えるほどにぼんやりとした赤い瞳を細めて小さく欠伸を漏らした『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)がうん、と一つ伸びをした。 そんな彼女等を見詰めながらも不安げな表情を浮かべるのは増援として余り戦闘経験が無いながら公園への誘導を任されていた蒐始めとしたリベリスタ達だ。その不安が分からぬ訳ではない『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は炸裂脚甲「LaplaseRage」の調子を確認しながら夜の公園を駆けて行く。 蒼い理知的な瞳がリベリスタ達を見据え、兵法策略など、己が得意とする司令官としての知恵を元にリベリスタ達へと掛ける言葉はその士気を向上させると共に、誰一人とも喪わぬ様にという意志も見て取れた。 「今回の任務は決して安全とはいえん……覚悟のない者は今のうちに撤退する事だ。 だが、参加するのならば、我らは全力を尽くして、皆が無事に帰れる様に努力しよう」 「ええ、皆さんを帰す。何時もオペレーターとして皆さんを見詰めていた私が戦況を解析します」 誰も死なせは致しません、とBadhabh Cathで何処か瞳の輝きが変わった様にも思える『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)の言葉に、リベリスタ達は息を飲む。 覚悟が無い訳では無かった。実戦経験が少ない物が、どれほど怖がるかを嶺とて知っていた。 オペレーターという仕事柄、幾度となくそのような者達を見てきたのだ。夏栖斗と蒐、イーシェの様に『やる気』十分な面々も居れば、己の気持ちを探る様に――それでも戦場を見極め得る物があるかを探る『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)の様なものも居る。 「亡霊どもが……ふん、総統閣下の御意志の下、清き精神を以って、か」 『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)は端正な顔立ちを歪めて嘲笑を浮かべる指示担当となっているコーディとて無粋な輩がこの周辺を我が物顔で跋扈するのは耐えられない。魔力杖を握りしめる掌に力を込め、リベリスタを振り仰ぐ。 「指示は私が行おう。オーウェン嶺が言った通り、危険だ。だが、生きて帰るぞ」 「うん、その通り! 僕等の公演を取り返そうぜ! 終わったら旨いもん奢るし」 軽く告げる夏栖斗の言葉にリベリスタが小さく笑みを浮かべる。死地に赴く緊張感と、それを上回る恐怖を砕き、最適の状況を与えるのだ。 「さあ、最大の嘲笑を以って、彼の『侵略者』どもを追い返す。それでいいな? 皆!」 ● 補給路というのは戦争に必要である事を親衛隊達は知っていた。亡国の野望を果たさんと言う意思は強い。杖を握りしめたナジェージダが『戦場』には有るまじきお喋りな性質を見せ、自身の上官に告げ続けるのは、埼玉県にある工場地区の話しであろうか。 「さて、止まりたまえよ。親衛隊諸君」 その声を耳にしながら、前線に飛び込んだオーウェンはその身を表しながら、リベリスタの陣形の中でにんまりと笑う。投擲された神秘の閃光弾。仲間達の中で一番早く動く事が出来るオーウェンがその身を露わにすれば、続いてトンファーを握りしめた夏栖斗が前線で剣を構えた親衛隊を見据えて、地面を蹴りあげる。 「子猫ちゃんに無口君。ご機嫌麗しゅう! 戦争屋も死体使いもこの公園大好きだよね? でも、返して貰うぜ!」 切り裂く様なその攻撃に子猫ちゃん――『毒吸い猫』ナジェージダが速度を生かし、投擲した神秘の閃光。オーウェンと同じく、後衛に投げ込まれたソレに動きを阻害され、嶺の中性的な美貌が歪む。 「反撃のお時間ですよ? この様な物で私は止まりません。戦況オペレート開始します」 戦闘の開始を告げる声に、直ぐ様に反応したのはイーゴルであった。両手銃を握る手に力を込め、下官らを鼓舞する様に声を張り上げる。その姿は正に夏栖斗が称する『戦争屋』その物ではないか。 「全軍、前へ! ナジェージダ、少尉殿に連絡を!」 「Ja,勿論のことですわ、イーゴル曹長――!」 慌てる様に告げるナジェージダを横目に蜘蛛手を装備した唯々が唇を歪めて前線に飛びかかる。長い銀髪が揺れ、ぴん、と経った獣の尻尾が表すのは彼女の戦闘へ赴く意志だ。 「世の中、正しい事がいつも罷り通るとは限らねーんですよ。何にしたってそう。 時代遅れの亡霊の『正答』はイーちゃん達にとっては『間違い』ですよ。追い返せるモノなら追い返して見やがれ!」 声を張り上げ、暗闇に適した赤い瞳はぎらりと光る。ステップを踏むその手は止まらない。彼女に続く様に前線に飛び込んだ蒐に夏栖斗が「後輩!」と声をかける。 「イーシェさん!」 手に馴染むトンファーを握りしめ、地面を蹴り、親衛隊を巻き込む雷撃の武技。ふらつく親衛隊――前線のデュランダルを目掛けて、魔力剣を握りしめたイーシェが飛びこんだ。 「OK、バッキバキに叩きのしてやるッスよ!」 飛び込んで、其の侭に魔力剣を振り下ろす。生と死を分かつイーシェの一撃にデュランダルがふらつけば、背後からイーゴルが踊りでて不吉を笑った。 「邪魔をしないで頂けるか? 劣等の負け犬め!」 「劣等の猿やら負け犬やら、猿か犬かハッキリするッスよ! お生憎様、はいそうですかといって納得できるかって言えば出来ねぇってアタシは――アークはそう答えるッスよ!」 笑う彼女の首で紐を通した鬼神楽の残骸が揺れていた。前線に躍り出るイーシェに続き、決死の覚悟で挑む増援隊が親衛隊フィクサードへと襲い来る。その数は2倍にあたる彼等は戦いを余りに知らぬ。 支援する様に、魔力銃を握りしめ浮かび上がったカインは鷲の眼を通して周囲を見詰めていた。 「そんなに浮かび上がって大丈夫ですか、カインさん」 「逆に狙われかねぬが、覚悟のうえよ。我らは生者。亡霊は亡霊。死した者は生き返らぬが道理」 なれば、彼が行う事等一つだ。黒き瘴気が包み込み、親衛隊を傷つける。己を傷つけながらも戦うダークナイト。正に深淵騎士の名に相応しい彼は首から下げた写真入りロケットに手を触れる。 清さと言う言葉は生まれによって意味合いが違ってくるのか。自分にとって清き存在は特別なる双子の妹だ。彼女の為ならば己が強く生きねばならぬ事を十分に理解できる。 「自らの姿を恥じ入るのでもなく、自らを気欲と思い込める強さには感心しよう。その心の強さこそが、汝等が今日まで戦い続けられた秘訣であろうな」 「お喋りな方! 私は正しい事を正しいと思うまで。よって、私にとっての正義は私ですわ。詰まりは――」 悪はどちらか、そう告げる様なナジェージダの言葉を耳にしながら、ハイテレパスを介し、仲間達へと指示を送るコーディは背後で微弱ながらも回復を行うリベリスタ達へと視線を送る。降り注ぐ雷光は親衛隊を狙い続ける。 『――インヤンマスターの君、彼を狙って!』 コーディの言葉に頷き、攻撃を振るうリベリスタの手が震える。戦闘経験の少ない彼等が精鋭部隊とも言えるコーディ達の役に立てるのか―― 「多くの戦いの記憶も、死者の想いもここにはある! 穴だけでなく、それら見えぬもの全てを親衛隊に渡しておくわけにはいかぬものだ! ――取り返すぞ!」 叫ぶように、一言吐き出すコーディに頷いて、リベリスタの咆哮が公園を支配する、地面を蹴り、前線に飛び出すフィクサードの体を受け止めて、イーシェが雷撃を纏った刃を振り翳した。 ● 浮き上がった嶺の夜行遊女は木々の間から降り注ぐ月光を受けて緩く光りを放つ。オペレーターは誰よりもその戦場を効率的に戦う方法を知っていた。 「ご存じかしら、ナジェージダさん。鶴って、熊の脳点もドついて殺せる鳥なんですよ。そんな攻撃が、猫に耐えられて?」 くす、と笑う嶺の気糸は親衛隊を絡みつける。暗視ゴーグルを狙う其れは親衛隊の視界を遮ろうとしての攻撃だ。彼女に続き、同じく気糸を周辺に炸裂させるオーウェンがOwl Visionを指であげ、片目を閉じる。その仕事柄――性質とでも言えるであろう――「分析」する癖がある青年は、次の一手を分析する様に見極める。 前線で攻防を繰り広げる親衛隊達により攻撃を負い、一歩下がる蒐の目の前を通り抜ける夏栖斗の武技。鮮血の花は彼の五行を司り、武道を究めた業の通り道を表す様に散っていた。 「僕は不器用でまっすぐな攻撃しか出来ないけど、だからこそ僕らしい戦い方がコレなんだ!」 「正に当たって砕けろ――って砕けちゃ駄目かな」 「砕けるのはどうかと思うですが、当たって砕けをやってやろうじゃねーですか! 夏栖斗! 確り避けるですよっ!」 了解と夏栖斗は笑う。彼は声を張り上げる。ナジェージダの攻撃を遮り、唯々や蒐の攻撃を使いやすい様にとした配慮に唯々がにぃと笑う。 「目の前で見知った顔がぶっ倒れるとか、流石にイーちゃんも勘弁願いてーデスからね、行きますよ!」 蜘蛛手が音を立て体を捻り攻撃を避ける夏栖斗諸共親衛隊の群れの中で踊り出す。リベリスタ達はどれもが前線に出た事が無い者ばかりだ。だが、唯々にとっては『大事な仲間』なのだから、攻撃を喰らい、体力の消耗を激しい物をオーウェンとコーディが指示を以って下がらせる。その動きを阻害しようとする物を睨みつけ、地面を蹴った。 「群れを守るのはオオカミの仕事だ。テメー達に簡単にやらせねーですよ?」 鮮血を散らし喰らい付け。それが『狼』だ。彼女の頭上をすり抜ける黒き瘴気。傷つきながらも懸命に闘うカインを微弱な癒しが鼓舞する様に与えられ続ける。 「小癪な――! 負ける訳にはなりません、曹長、死ぬわけには――!」 叫ぶように告げる後衛のナジェージダの手を狙った嶺の気糸。顔を顰める彼女を庇わんとするクロスイージスの目前まで親衛隊員をすり抜けてイーシェが顔を出す。 そうだ、自分は騎士だ。まっすぐ行ってぶった斬る。理論も何もない、ただ、渾身の一撃を放つだけ。 「親衛隊って言えば、英国ではおっかねぇ集団の代名詞だったッスが。こうして戦ってみると結構普通ッスね」 「それは、どういう意味かしら、劣等!」 「洒落にならない部分はあるスけど、やってやれない気がするっつーのは、それだけ上を見てきたって事ッスかね!」 前線に飛び込むイーシェの体を傷つける氷の雨、阻害する様に前線に飛び込んだリベリスタがその剣を振るう。支援を行う様に降り注ぐ雷光が親衛隊の体を劈いた。 「無粋な者が跋扈するには適さぬ場所だ! さっさと国に返るが良い!」 「無粋――それはどちらの事であろうか?」 充填される弾がかちり、と音を立てる。ナイトエッジと名のつけられた闇の刃が狙いを定めてリベリスタ達を見据えている。ハイテレパスを用い、コーディは目を凝らした。 「下がって下さい! 猫ではない、あの人です――!」 嶺の声が響き渡り、リベリスタが一歩下がる。庇う様に体を食いこませる蒐に嶺が「蒐君!」と声をかける。瞬間にオーウェンは目を開く。解析する様なその視線はイーゴルの弾丸が何処へ飛ぶのかを見極めんとしている。 「今は死ぬ時ではない……下がりたまえ! 動けないなら誰か運べ!」 増援リベリスタへとオーウェンは声を掛け続ける。その言葉に反応し、リベリスタ達が後退する中、鈍い音を立てて発射される弾丸に伊達眼鏡の奥で目を開き、唇を噛む蒐の上へ影が落ちる。 「言ったろ? 全員で帰ってくるって。無茶するなよ、後輩」 地面を蹴り、飛び込んで、其の侭にイーゴルの弾丸を受け止めた夏栖斗の武技は真っ直ぐに血の花を散らして行く。前線でその能力を振るっていたイーゴルは指揮官と言うよりは戦闘に特化した男だったのであろう。 指揮官であるナジェージダが曹長と呼ぶ声も間に合わず、男に向かって唯々は飛び交う。イーゴルを含めて、其の侭に前線を散らす唯々の目が背後で杖を握りしめていたナジェージダへと向けられた。 「口うるさい糞猫女。口では何とも言える。イーちゃん達が猿ってなら、敗北にたたき落とされるテメー等は猿以下って事じゃねーですか!」 ● 中衛位置、狙われる事も分かっていたと、魔力盾で攻撃を受け流しながら困った顔をしたカインは集中攻撃を行う対象がばらけぬ様にと留意して居た。 「闇の深さを知らねば光りの温かさも分からぬもの。我が闇に呑まれ、安らぎに包まれるが良い!」 「……言ってろッ!」 告げられる痛みにカインが唇を噛みながら、屈さぬと膝を立たせる。イーゴルが吼える様に告げる。彼を狙う攻撃が彼が戦う意志を折る様にと攻撃を与え続けた。 「ッ、この我が膝を屈するわけもあるまい。貴様らの攻撃は、我の心の響かぬよ」 指示お送りながら、刈り取る様に両手を伸ばすコーディのマグメッシスがナジェージダを庇う親衛隊の体を横殴りにする。 「天の恵みの強運を。此れこそ、私の強運です!」 コンタクトレンズ越しに光る銀の瞳。何時か、想いを胸に見据えた海の魔女を想い返しながら嶺は釣るのはねを羽ばたかせた。夏栖斗、カイン、蒐を応援する嶺の首筋でメロウラが鈍く光る。靡く絹布を揺らしながら、前線で未だ戦い続けるフィクサードをぎ、と睨みつけた。 「全く、喋り過ぎな猫ッスね? あんまり饒舌過ぎると大切なことすら言い逃すし聞き逃しちまうッスよ?」 「ッ、それはどういう意味よ――!」 「例えば、そっちの曹長さんの様子を見逃すとかじゃない?」 前線に飛び出すイーゴルの体へと夏栖斗は獣の意志を胸に輝かせる瞳で強く睨みつける。 足掻け、獣の様に貪欲に。何よりも、真っ直ぐに手を伸ばしもがき続けろ――! 「僕は、負ける訳にはいかないんだ!」 叫ぶように告げ、イーゴルを呼び寄せる夏栖斗。踏み込んで、傷つけんとするソレに反応した唯々が死の爆弾を受け付け、氷を纏った蒐の拳が彼を叩く。 青年の体が揺らいだ所へと、コーディの雷光が貫き、ゆったりと笑ったオーウェンの気糸が貫き通した。 「まるで小さな戦争のようではありませんか。小さな国で犇めき合う羽虫めが、私達に噛みついて、それでドヤ顔ですが。良い御身分ですね!」 「無視には毒だってあるんスよ!」 刃が真っ直ぐに振り翳される、受け止める親衛隊の手に、イーシェが一歩引けば、其処へと貫き通される嶺の気糸がある。仲間達を励まし、鼓舞するオペレーターは大忙しだ。浮かび上がり、周辺を見詰めるコーディの指示に従い戦闘不能となったリベリスタ達は次第に撤退を始めて行く。 傷を負いながら攻撃を受ける先輩を助けなければ、と進みかける足を止め、蒐が振り仰げば、カインの瘴気が親衛隊を絡みとる。 「さあ、そろそろ終いにしましょうか? ――チェックメイトです」 「このッ、劣等!」 罵る言葉のみ。余裕すらなくなってきたとも思えるナジェージダの『毒』は次第に薄くなる。その言葉にくつくつと咽喉を鳴らすオーウェンは周辺を観察しながら、ラストの一手を分析した。気糸は女の動きを止める。 蒐が氷を纏った拳で庇い手の親衛隊を殴りつけ、揺らぐ体へと夏栖斗が赤い花を咲かせていく。 ナジェージダも馬鹿では無い。どちらに勝利と言う風が吹いているかなど、一目瞭然ではないか! 「……終わったら、俺、アイス食べたいな」 「言ったろ、旨いもん奢るって。高過ぎるのは勘弁な?」 笑い合いながらも『敵』を見据える瞳は未だに戦意を喪わない。残る女の握りしめる杖が音を立て割れる。 前線で刃を振るう唯々とイーシェが息を合わせ、踏み込んだ時、指揮官たるナジェージダがけたけたと笑い始めた。 「言ったッスよ? アタシ達は必ず奪い返すって!」 踏み込み、其の侭に、振り翳す一撃は生死を分かつものだ。 「ふふふふふ、私達を倒してどうなると? この公園には『他の親衛隊』も居る。たった此れだけの私達に深手を負うだなんてアークの猿は矢張り劣等ではないですか!」 「テメーの目は現実を映してない、だから時代遅れって言ったんですよ。 理解しようがしまいがもう遅いですが――大人しく、狩り尽くされろ!」 口五月蠅く告げるナジェージダの目の前に、血に塗れ、血を吐きながら飛び込んだ唯々が叫ぶ様に告げる。 少女の血がナジェージダに被さり、女が目を見開くと同時、振り翳された蜘蛛手が其の侭―― 何処からか耳鳴りの様に聞こえ続ける戦乱の音が、一つ、止んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|