● 天気予報は曇り。所により雨が降るでしょう。 「緋色のですけどねぇ。ふふーん」 手足をばたばたとさせたまま、小さく告げる声が一つだけあった。 バスタブに赤い塗料を投げ込んでじ、と見ていた。掌でトマトを潰して滴るものを見ていた。欲求と言うものは基本的に代替がきくものだ。 例えば、人を殺したいなら家畜を殺せばいいし。血を飲みたいならトマトジュースを飲めばいい。 「それで満足しないのがボク様なんですが」 唇から覗く牙を光らせて少女とも少年とも取れぬ外見のフィクサードはしゃがみ込む。甘ったれた代替品なんてもう飽きてしまった。 もっと赤く赤く染まってしまえ。血色に、何処までも満たされぬなら、満たされるまで何度だって。 名前が無かった。自分の事を『アカイロ』と呼んでいた。 暗がりの路地裏を歩きながら、『アカイロ』はぼそりと呟く。 「天気予報は曇り、所により雨が降るでしょう。緋色のですけどね」 満足いくまで染め上げてやればいい。 傷つけて、傷つけて、それで溢れる赤が生暖かいうちに全て浴びてしまおう。 きっとゾクゾクして気持ちが良い筈だから。 思ひの色に染められて。 「ねえ、オジサマ、知ってるか分からないですけど、『思ひの色』って何色かご存知ですか?」 ふるふると首を振る男の腹にナイフを突き立てた。溢れる血が季節外れのコートの裾を濡らしていく。素敵な色。 とても素敵で、綺麗な、赤―― ● 「フィクサードの対応をお願いします。至急現場に向かって下さい」 資料を捲くりながら、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はリベリスタを見回した。 「フィクサードの名前は『アカイロ』。本名は不詳。外見は16歳程度の……少女とも少年とも取れます。赤い長い髪に、黒い瞳のフィクサードですが外見の割に年齢は随分上だと言う事が解っています」 淡々と告げる和泉の言葉に頷きながらリベリスタは先を促した。良くある『フィクサードの凶行』を止めてきてほしいと言う依頼なのだろう。 其処まで告げた後、何処か困った様に息を吐く和泉が資料を指でとん、と叩いた。 「皆さんにお相手して頂きたいのは『アカイロ』とその彼女に寄生しているアザーバイドです。 アザーバイドの識別名は『思ひの色』。『アカイロ』と一体化している為に、その外見がどのようなものであったのかは不明です。『思ひの色』が『アカイロ』の体を乗っ取り、様々な凶行を行っています」 『思ひの色』と呼ばれたアザーバイドは小さな子供の姿をしていたと思われると推測の範囲を和泉は告げた。 幼い子供は一人ぼっちのフィクサードの体を乗っ取ることでその欲求のタガを外したのだろう。 『アカイロ』は血が好きだった。代替品だけで済ませていた彼女はナイフを手に取り、凶行に及んでいる。 「血を浴びたい、血を吸いたい。その欲求を抱き、一般人を殺して居ます。 皆さんに助けて頂きたいのは今夜の事件の被害者です。今から向かえばまだ助ける事が出来ます」 どうか、宜しくお願いします、と整ったかんばせを歪める和泉は淡々と告げていた声音に少しばかりの焦りをにじませていた。幾ら、フォーチュナとしての経験が長くても彼女も一人の少女だと言う事だろう。 「それでは、よろしくお願いします。……余談ですが、『思ひの色』ってご存知ですか?」 蛇足でしょうか、と告げながら和泉は眼鏡の奥で小さく笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月29日(月)00:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 本日の天気予報は曇り。路地裏に足を踏み入れながら、暗がりをじ、と見詰めた『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は鮮やかな赤色を細めて、スカートの裾を握りしめる。 「……赤い髪に、黒い瞳のフィクサード……アカイロ、か」 ぽそりと零された言葉に、赤に思い入れが強い『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の細い肩がぴくりと揺れる。長い黒髪を揺らし、キャンパスグリーンの瞳に強い闘志を宿した旭の拳がぐ、と強い力を込められる。 「そんなに『ひのいろ』がすきなら、存分にあげる。そんなに血の気盛んな方じゃないけど」 「『ひのいろ』……思ひの色な。古式ゆかしい言葉だ。何故敢えてその言葉を使うのだろうね」 考察する様に杖を握りしめたまま、『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)は悩ましいと言わんばかりに俯いた。金の瞳を細めて、口元に当てた指先は思考を紡ぐように小さく揺れ動く。何故、その『思ひの色』という言葉を使うのか――例えば、『思ひ』を表現する逢い手が欲しかったのか。 現場に向かう足を止める事はなく、憎悪を燃え滾らせた『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が赤をちらつかせ走り続ける。その名を表す様に炎の様な髪と瞳は己の中に存在する灼熱の様な憤りを全身から表している様であった。兄と妹の名を呼んで、魔力鉄甲に包まれた拳に力を込めた。 「さぁ、この路地は夜の路地。都市伝説の領域デス。誰かが『赤く染めろ』と主張するならば、ボクはこう言うデショウ――『夜に染まれ』と」 肉斬リと骨断チを引き摺って『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が虚ろな色を灯す青を細める。暗がりに適した瞳を持った少女は地面を蹴って、真っ直ぐに路地の中へと飛び込んだ。男に跨り、赤い髪を垂らした女が笑みを漏らす。その体へ向けてまっすぐに振るわれた肉斬り包丁。全ての力を武器に集中させたが如き勢いはその闘気の侭に少女の体を吹き飛ばす。 「そうして居れば普通の少女ですが……アザーバイドがフィクサードに取り付きましたか……。 性質とすれば元から厄介な相手に加え、さらに、となると少々厄介ですね」 きり、とカムロミの弓を引いた『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が紫の瞳を細めて矢を穿つ。降り注ぐ炎は少女――『アカイロ』の好む色であった。重なる様に、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の魔銃バーニーが火を射た。弾丸に形を変えた炎が降り注ぎ、少女の周囲に飛び交う『血色』と名付けられたエリューションへとその熱を与えて行く。 「思ひの色。ひにかけて、緋色だったか。心に通うものが血であるならば、あながち間違いでも無い。 吸血衝動は共感できる。私も吸血鬼(ヴァンパイア)であったからな。――本能のままには駄目だが」 打ちだされる弾丸の元、ぎ、と睨みつける少女の視線を受けながら、彼女の好む赤い月を昇らせた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)がサングラスの向こうで目を細める。 「全く、そんなに血の赤が好きなら自分の血を流して満足して居ればいいだろうに」 「自分じゃ足りないのだもの」 「足りないのは誰の所為? わたし、血の気が盛んじゃないんだ。ごめんね、『ひのいろ』で染める代わりに『火の色』で染めてあげる。 ねえ、血のいろよりずっとずっと、綺麗でしょ? 『アカイロ』さんじゃなくて、ねえ、貴女に言ってるんだよ」 『あなた』と呼ばれた『誰か』の肩がぴくりと跳ねた。それは『アカイロ』と名乗る少女であって、そうでない、その体に巣食うった悪しき隣人である事をリベリスタは知っている。 「……まにあってよかった。もうだいじょーぶだよ。こっち、早く!」 マイナスイオンを纏った旭が一般人の手を引いた、彼を背に隠し、アカイロを見詰めた少女の翠の瞳に込められた感情は何処か不安を抱くものだった。 長い赤い髪に黒い瞳の少女――アンジェリカと逆の色合いを持った少女の唇が釣り上がって、楽しげに笑った。 ● 旭が手を引いた男が怯えを隠せずに居る中、彼を狙う手から庇う為に、前線に立っていたアンジェリカがLa regina infernaleの切っ先を鈍く光らせる。赤い月を生み出した鉅のソレを反射した死神の大鎌が血色がぶつかってくる衝撃を受け流し、背後を振りかえる。 早く逃げて、と声をかけながら、気になったのは、目の前の赤い髪に黒い瞳をした、自分とは逆の少女。 「ねえ、アカイロ、ボクとあなたは似てる気がする。ボクも一人ぼっちだったから」 「そ、それがなんだっていうのよ!」 「孤独な頃は目に映るもの全てが灰色だった。自分が生きてるのか死んでるのか解らなかった。違う?」 ふるり、と小さく震えた『ひとりぼっち』な少女がぎっと睨みつける様に血を纏うナイフを振り被る。 誰よりも近く、『夜に染める』ために存在していた虚ろな存在(としでんせつ)がフリルを揺らし可笑しそうに笑い始める。 「孤独というのも都市伝説を彩る重要なスパイスデス。赤く染まれ、と、血に染まりたいと言うならば幾らでも染めてあげるデスヨ。アナタの血、ボクの血。お互いの血で赤く赤く――!」 アハハハハと高らかな笑い声が響き渡る。ソプラノボイスは路地に反響し、恐怖感を与え続ける。その声の広がりと共に行方が纏ったのは闘気であった。身体の限界など『都市伝説』には必要ないのだから! 「さあ、染めましょう。ここは夜の街。ここは都市伝説の領域デス。血の赤の上から夜の闇に染めて上げられろ! アハハハハ!」 「ッ、なによ、この子!」 アカイロという少女が発するには何処か違和感を感じる様なテンポで言葉を吐きだした。何処か大人しさを感じるアカイロとは違う、彼女に寄生するアザーバイド『思ひの色』の言葉であろうその声を受ける様に、血色諸共赤色を殴りつける雷撃の武技が少女へと繰り出される。 「血を欲するのだろう? 良い趣味だ」 赤い胴着に肌蹴た胸元。自身のつける金属の爪が胸に食い込み血が溢れる。少女の目が優希の胸へと向けられる。血を流す優希は決して逃がさないと少女の往く手を阻んでいた。 一般人男性が後衛で炎を降らす杏樹や紫月の元へと辿りつこうとするのを血色が阻もうとふわり、と浮かび上がり襲い来る、弾丸が炎を纏い赤く色づくアザーバイドの生み出すエリューションを燃やし尽くさんばかりに温度を上げる。 「血よりも赤い炎は如何?」 本能のままに血を求める少女と、獣に化す事を強要したアザーバイド。少女が本能がままに求めたものを表した様なエリューションを穿つ雷は何処までも青白く、『赤』を感じさせなかった。 「大丈夫か。見ての通りアレは危険人物だ。歩けるか? なら直ぐに離れて欲しい」 浮かび上がったコーディが男の背を押す。バケツリレーの勢いで、旭が手を引き、その体を後衛まで押しやって、コーディが彼を逃がす。その往く手を阻む様にアンジェリカが庇い、攻撃を行うエリューションを杏樹や紫月が抑制した。前線の本体となった少女の往く手を阻む行方と優希、其れをサポートする様に赤い月を燻らせる鉅といった布陣に『アカイロ』を本能的に求める少女は唇を噛み締める。 「『思ひの色』、だったか? 離れる気も無さそうだな」 「だって、このこ――アカイロちゃんの欲望って解り易いんだもん、それってとってもキモチイイでしょ? 赤く赤く赤く赤く!」 叫ぶように告げる『アカイロ』に杏樹は瞬きを一つ。コマ送りの視界の中で構えた銃は全てを焼き払わんとする。邪魔なもの等何もない、遮るものは何見らない。アザーバイドが離れる気が無いならば、ソレ諸共アカイロの手向けとしてやればいい。 「アハハハ、素敵ですね! 赤く暗く染め合うデスヨ! 思ひの色ごと、暗く黒く!」 包丁がナイフにぶつかった。光りの飛沫を上げる其れにチラつく瞳の翳りを的確に察する杏樹が「都市伝説がその程度で負けるな!」と声を掛ける。状態異常からの回復手の存在しない布陣では、アザーバイドの寄生したフィクサードとの戦いでは難色を示す事になってしまう。弓を引く紫月は仲間達を見回しながら、厄介な『隣人』をその身に巣食わせた少女に首を垂れる。 「アザーバイドに目をつけられてしまったのは哀れと言わざるを得ないですが……それだけです。この場で倒れてしまいなさい」 その宣告はある種で死亡の宣告だ。弦を引き絞る。きり、と鳴るソレは血色諸共、全てを燃やし尽くさんとする。杏樹の弾丸と紫月の弾丸は全てを燃やし尽くさんとする。 其処に合わさる炎が広がった。魔力鉄甲が纏う炎は周囲の血色を燃やし尽くす。流れる様な動きでバトルドレスの裾が翻った。 「大切な赤を、これ以上きらいになりたくないの。もうあんなふうに失ったりしない。奪わせたりなんて、絶対にしない」 ぎ、と睨みつけるのは旭には珍しい表情なのであろうか。旭を援護する様に昇る赤い月が二つに増え、アンジェリカが両手を組み合わせる。気を強く持ちながらも瞳の中に溜めた涙が赤い月を反射して、柔らかく光り続ける。 「ボクにとって神父様がそうだったように、きみにとって血の色が孤独を癒す術だったんだよね。 でも、君は他の物で自分を満足させられていた。幸せだったよね? でも、その幸せを壊して狂わせた『思ひの色』をボクは許さない!」 「赦さなくたって! 世界は何時も『良い風』になっていくんだから!」 「欲するなら力で奪え。その方が燃えるだろ? 貪欲に強欲に、渇望をぶつけろ!」 拳が少女の横面を殴り飛ばす。一気呵成――全てを打ち抜けばいい! ただ、全力に、逃がす事はなく。赤く紅く朱く、全てを染め上げろ。血色で染め上げ彩られる戦場の美しさを知らないとは言わせない。 己の行動を阻害する物を、自身の身体を切り裂く痛みで抗いながら優希は吼える。赤茶色の瞳が殺意を滾らせて、紅蓮の意志を真っ直ぐに灯し続ける。 「貴様の命を喰らうのは俺だ! 欲しければ俺を幾らでも喰らえ。その為に俺はここで血を流している!」 花に付く血の臭い。噎せ返る殺意を飲み干して、少女が振るったナイフを受け止める行方が笑い声をあげ続ける。地面を蹴り上げ、其の侭に、流れる様な動作で血色諸共『アカイロ』を切り裂く旭の蹴撃が少女の肌を切り裂いた。 「自傷でもして居れば好きな血を見れただろう。誰かが邪魔しに来る事もなかった。そうする気が無いなら仕方が無い。手伝ってやるからさっさと血に沈め」 呆れを灯し、煙草を燻らせた鉅が昇らせる赤い月はアカイロが大好きな色をしていた。無論、同じく赤い月を燻らせ続けるアンジェリカの二重の不吉が少女を苦しめているのは言うまでも無い。 コーディの雷光が貫いて、少女が叫び声をあげて彩る様に己の痛みを伝えていく。回復を与える様に癒しを乞うた紫月が弓の弦をぴん、と弾いた。 「此処で死んで貰いましょう。私は狙った獲物は逃がす心算はありませんので」 飛び交う矢は、その目が真っ直ぐに見据えた対象を捉える。真っ直ぐに、少女へと降り注いだ炎は熱く、燃え滾る赤色をしている。その熱い色を見詰めながら、自身の望む赤が周囲に存在している事を目にして、何処か楽しげに『アカイロ』はナイフを握り直して、踏み込んだ。 ● 炎を生み出す紫月を狙わんとする攻撃を遮る様に優希は彼女の前に立ちはだかった。 「……ねえ、邪魔しないで?」 「行かせん。一人ぼっちの赤い想い、か。哀しいほどに濁りのない美しい赤色をしている」 行かせないとばかりにその掌に食い込んだナイフをぎゅ、と握りしめる。肉を絶ち、血が溢れても優希は受け止め続ける。 本当に望んでいたモノ――家族は血の海に沈んだ。届かない場所にあるものを悔んだ。すべてを沈めれば良い。ナイフを握りしめたまま、その拳を一気にアカイロと己を撒きこむように振るいこむ。血が唇から溢れ、唇を噛み締めながら優希は唇を釣り上げる。 「アカイロさん、欲求を抑えていたのは、いつかひとりじゃなくなることを願ってから? そんなふうには、なりたくなかった? ねえ、わたしの憶測なの。でも、あなたがそう思ったって信じたいの」 元に戻せないのに、身勝手だな、と旭が小さく笑いを浮かべる。何処か、躊躇いを浮かべる拳を握り直し地面を蹴った。生み出され続ける血色を駆逐し、少女は白い手を伸ばす。 もしも、と小さく紡いだのは叶えば良かった『理想論』。そうであればいいと思った、けれど、きっと、自分の我儘で自分の身勝手でしかないけれど―― 「そしたら、お友達になれたかな。ううん、今だって、きっと」 けれど、殺すしかないと言う事を知っていた。両手を組み合わせ祈る様に赤い月を浴びるアンジェリカが小さく神父様と紡ぐ。 少女は鎌を握りしめ地面を蹴る。前線に躍り出てアカイロを縛り付ける。旭が言う様に友達になれたらと、そう思った。ソレが出来ないと知っているからこそ、孤独を癒してあげれば良い。 傷つきながらも繰り出す術に、流れる血でアカイロの孤独が癒されればいい。そうなるならば、それで構わない。全てを狂わせた『思ひの色』を、狂わされたアカイロをこの手で終わらせたいともそう、思う。 「……アカイロ、ごめんね?」 血の色は命の色だから、自分の命を分ける様に、とアンジェリカは鎌を振り仰ぐ。 鉅の赤い月の魔的な光の下に降り注ぐその下で、銃を向けて、杏樹は旭へと視線を向ける。 「――アカイロ、たっぷり血を浴びたなら、想い残す事はないか?」 答える声はない。ただ、嫌だと首を振る少女の赤い髪は血色に染まり、黒い瞳が映すのも彼女が大好きな『思ひの色』のみだった。 一人ぼっちでも、想いはどうであれど構ってくれる奴は此処に居るだろう、と周囲を見回す杏樹に旭は緩やかに視線を下げる。 ソレもそうだ、赤が欲しい、赤を求める彼女に優希や行方が血を与え、その命が認められぬものだと知っているからこそ紫月や鉅、アンジェリカが其処に立っていた。知り得ないソレを知りたいとコーディが彼女に手を伸ばすのだって、きっと彼女を満足させる為の一つの行動なのだから。 「お前がアザーバイドに出逢わなければ……もう少しでも出逢い方が違えば、一緒に歩く道もあったのかもしれない」 その言葉に少女が顔を上げる。真っ直ぐに炎を纏った弾丸が降り注ぐのが黒い瞳に映った。燃え滾る、炎を見詰める彼女が杏樹に視線を向ければ何処か、首を傾げ橙を細めたシスターが銃を降ろして笑っている。 ――おやすみ、アカイロ。 最期に少しでも満たされたなら、安らかに眠れるだろうか。 手向けは何時だって与えた、己の血だって彼女が満足するなら差し出そう、優希の血を浴びて、振るわれる行方の肉斬り包丁が少女の頭に影を落とす。 「アナタは夜に暗躍した。ならば夜に食われるのは当然の結果なのデス。 赤く染めた体を暗く染められた気持ちはいかがデス?残念デスネ、かわいそうデススネ。そのまま朽ちて終わればいいのデス」 笑いながら包み込まれた黒き瘴気。血色すらも巻き込むソレを見詰めながら背後、浮き上がって杖を握りしめていたコーディが視線を揺らがせる。 快楽の為に人を殺す事等、許せる筈が無かった。法に照らしても、己の正義に掛けたとしても、一般的な常識に捉えたとしても到底許される物で無いとコーディは知っていた。ましてや、世界の寵愛を受けぬアザーバイドなどこの世界に赦されない。 「……私にも君の思ひの色を見せておくれ。君が、君達が存在してどんな色を抱えていたのかを永遠に刻んでいく、その為に」 優希の拳に、行方の刃に、鮮やかな赤が少女の体から噴き出した。 一体誰に『思ひの色』を伝えたかったのか。友達になりたいの、と少女は誰かに手を伸ばしたかったのか。その孤独に苦しみ続けていたのか――それは判らないけれど。 目を見開き、血を流す彼女にコーディはただ思う。どれだけ世界に拒絶されても、どれだけその行為が許されずとも、生きた証は忘れてはならないと。 「満たされたか? 存分に見れたか? 緋色ではなく秘めるべき色のままであればよかった。 願わくば、大好きな思ひの色――緋色では無くて、秘色に染まれればと切に思うよ」 その言葉に少女の体の中に居た『思ひの色』が笑い声を漏らし続ける。笑い声は止まらない。狂ったアザーバイドの体を言っ気に貫いた優希の拳が彼女の言葉を堰きとめる。 同調した意識の中、混濁とした意識を繋ぎとめる様に手を伸ばす白い指先、剥がれた爪に、流れる赤を見つけて少女が小さく笑った。 「血を浴びたかったのでしょう。ならば、望み通り最後は自分の血の中に沈みなさい」 ――きっと、満足でしょう? 小さく零した本心に紫月の瞳が揺らぐ。話しながら、覚悟をし、殺す事を躊躇わなかった。けれど、出来るならば憑り代となった少女が満足すればいいと、そう思う。笑う少女の指先が、ぱたり、と地面に落ちて行く。 「『思ひ』のひと緋色をかけて『思ひの色』か……ごめんね」 ぎゅ、とその掌をとって俯いたアンジェリカ。きっと、友達になれたかなと問うた言葉に応える声はない。 燻る白煙の中、深い闇に染まる場所で華奢な手に似合わぬ包丁を下ろした行方が首を傾げて何時もの様に笑いながら『都市伝説』を刻みつける。 「夜に沈め、ただの人。アハ、アハハ――!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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