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<笑うタナトス>凶キ夜グラン・ギニョール

●幻想恐怖劇
 静寂(しじま)の夜に白い貌が浮かび上がる。
 何を言うでも無く、何かの感情を見せる事も無く。
 唯、茫と浮かんでいた。
 それは白い石造りの仮面に見えた。目元はだらしなく緩み、口角は皮肉に吊り上がっている――厭らしい笑みを象った仮面である。
 仮面が唯の仮面であるならば、それは幸せな事実であったと言えるだろう。
 いや、仮に魔性だったとして……それが『見た目程度』の存在であったならばどれ程の幸運であると言えるだろうか。

 ゆらり、ゆらり、ゆらりと。

 夜の闇の中を仮面は漂う。
 断固とした目的は無く。しかして、これから引き起こす『何か』を予め定めているかのように。夜よりも昏い闇を従えるその彷徨いは死臭という予感に満ちていた。
 ずるずると――粘つく闇が痕を引く。
 それは血液である。吐瀉物である。引きずり出された内臓である。女の手足である。子供の頭である。そして撒き散らされた脳漿である。
 白い仮面を中央にそれが抱く綯い混ぜの闇の量は二十メートル程にも広がっていた。

 ――今宵、悪意なる恐怖劇を約束しよう――

 仮面は笑う。
 白い仮面は生きているかのように笑っていた。
 それは、筆舌し難い今夜の不運の生み出した――タナトスの温い嘲笑(えみ)。

●討伐依頼
「……そういう訳で仕事」
 住宅地で引き起こされた余りに凄惨過ぎる殺戮の映像に短く言った『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の表情は心なしか蒼褪めていた。
 大人も子供も男も女も犬も猫も白い仮面は見逃さなかった。
 全く有り難く無い完全なる公平は唯の一つの例外も認めず、その場の生命体を殺しつくした。それが抱く闇に触れれば生命は捻じ曲がり、ねじ切られ、腐食して死に絶えた。
 画面の中の出来事――未来の出来事とは言え、出来れば見たくなかった光景だったのは間違い無い。
「これが今回の敵か」
「識別名は『笑うタナトス』。
 総ゆる生命体を憎悪する、とても強力で……或る意味最悪なアザーバイド」
「……最悪は見れば分かるけどな。危険なのも。どんな相手なんだ?」
 相槌を打ったリベリスタにイヴは微妙な表情をする。
「形は見ての通り。襤褸を纏った白い仮面。
 能力は襤褸を闇に変えて生命を枯らす事、心を恐怖で蝕む事。
『一応の本体』は白い仮面だから仮面以外を叩く事は無意味だと思う」
「一応の?」
 イヴの妙な言い回しにリベリスタは首を傾げた。
「……一応って言ったのは今夜現れる『笑うタナトス』が本当の本体じゃないから」
「……?」
「『笑うタナトス』は移ろう悪意のような存在。実体があるようで実体が無い。此の世の悪意を吸収して、自らの分身を造り出す。今回現れたのはこの世界の何処かに出現してしまった『本物』の一部――末端に過ぎないの」
「……おいおい……倒しても又現れるって事か?」
 頷いたイヴにリベリスタは苦笑いを浮かべた。
 アザーバイドが厄介な性質を備えるのは毎度の話ではあるが、唯でさえ強力なアザーバイドが一種の不滅性を備えているとなればこれは只事では無い。
「でも、逆に……本体じゃなかったのは良かったかも知れない。
 対峙するのは今回が初めてだし、現時点で本体が出現したら被害も危険も格段に大きくなると思うから」
 イヴの言葉にリベリスタは唸る。
 徒労にも等しい対処療法に命を賭ける事はぞっとしない。しかし、未来に確かな危険が存在している以上は『それ』を見逃せる訳も無い。
「今回は、特に気をつけて。
『笑うタナトス』はそんなに頑丈じゃないけど、危険性という意味ではかなりのものだから」
 それが本物であろうと、そうでなかろうと。
 イヴの二色の瞳は微妙な色合いに揺れていた――


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月13日(水)22:09
 YAMIDEITEIっす。
 七月二発目。たまには爽やかに戦ってみませんか?
 以下詳細。

●依頼達成条件
 ・笑うタナトス(偽)の撃破

●戦場
 真夜中の住宅地の一角に笑うタナトスは突然出現します。
 車がゆったりと通れる位の道路で、戦うには不都合はありません。
 時間からして目撃者等が現れる確率も低いでしょう。

●笑うタナトス
 アザーバイド。暗黒世界の精神生命体。悪意そのもの。
 此の世の悪意を吸収して端末として偽の本体を生み出します。
 本体、分身共に総ゆる生命体を憎み、殺戮する事を至上とします。
 形は宙に浮かんだ白い石造りの仮面を象っており、たなびかせる襤褸を闇に変える事で生命体を枯らします。
 耐久は高くありませんが攻撃力特化で極めて危険。
 今回相手にするのは笑うタナトスの分身(偽)です。
 以下攻撃能力等詳細。

・仮面以外への攻撃は有効打とならない。
・死滅領域(二十メートル範囲に存在する生命体に毎ターンダメージを与える)
・悪意の鎌(物理/単)
・今、絡みつく死(神秘/近接範囲・致命・麻痺)
・タナトスの嘲笑(神秘/全)
・EX タナトスのグラン・ギニョール


 暑いので涼みに来ませんか><。
 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
プロアデプト
広中・大基(BNE000138)
★MVP
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
■サポート参加者 4人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)

●粘つく闇
 真夜中――神秘と運命は交錯した。
「悪意なんて面倒くさいものに居座られてはおちおち惰眠も貪れん――」
『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の視線の先には、闇に浮かび上がる白い石造りの仮面。それは笑顔。
「この世の悪意を糧にし、命を散らすアザーバイド。正しく世界の敵ね、分かりやすくてとってもいいわ」
 十分な距離を置いて尚、香る死臭と異常なまでの緊張感に『薄明』東雲 未明(BNE000340)は幾らかの皮肉を漂わせていた。
「……なんて、思うワケないじゃない。
 本当、無駄にスプラッタは――悪意というより、唯の悪趣味って所ね」
 人は元来、夜を恐れるように出来ている。
 人の歴史が有史以来何千年かの時間を数え、眠らない街が夜を照らしたとしても――そこに在る闇という本質は変わるまい。
 夜は何時だって人間の時間では無かった。過去、現在、未来においても――神秘の跋扈する不明の世界で在り続けるのだから。
 当然、今も。今夜も。
「なんとも危険な来訪者が来たものですのう。
 死を撒き散らす者と、生を謳歌する者では、到底相容れないでしょう。早々に退場して頂けると良いのですが――」
「こここ、怖くなんてないわよ! 大丈夫、九十九さん見慣れてるから、大丈夫っ……!」
「……それはどういう意味ですかのう?」
 到底常人とは見做し難い、仮面のカレー屋――『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)とその常連、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)の些細なやり取りはさて置いて。
「……でも、やっぱり。
 こんなの、私の一番怖い類ですよ。見た目からして嫌じゃないですか。正直怖くて漏らしそうです。
 でも、逃げりゃ安全とは行かないのがアザーバイド。怖いからこそ、殺さねば」
 台詞と口調と表情が合わないという意味では『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)に勝る者はそう居まい。鳩で犬でうさぎな性別不詳は相変わらず感動の見えない目で冷たい『死』を凝視している。
 今夜リベリスタ達が相対するのは禍々しきアザーバイドであった。
 一体誰の趣味なのか、恐怖劇(グラン・ギニョール)に相応しい『笑うタナトス』の識別名を冠したそれは此の世の悪意を抽出したかのような存在であると言う。悪意のプール――本体より無数に現れるという端末は、分身でありながら相当の力を秘めているという。
「本体では無いらしいが……動かんなら動かんで大人しくしていて欲しいものだ。そのうち見つけて潰す時まで、な」
「只管殺す、何て。癒し手の天敵みたいな奴ね……ま、頑張って倒すとしましょうか」
 白い仮面の薄ら笑いを油断無く見据えながら、軽口を叩くように言った鉅に来栖・小夜香(BNE000038)が応えた。
「そうだ」
 頷いたのは『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)である。
「タナトスが誰を憎もうと――何度現れようと、全て倒すまで。俺が、全部倒してやるぜ!」
 ある意味で不滅さえ謳う難敵を前にしても風斗の直情径行なる『正義』は微塵も揺らぐ事は無い。
 元より在り方を理解し合う心算も無い両者である。そも恐れぬ事は何よりの備えである。恐怖劇は誰かを恐れさせる為だけに作られる――荒唐無稽な悪趣味(じょうだん)に過ぎないのだから。
 幻想はこの夜に露と消えよう。こんなモノを許す心算は彼には無い。

 ざわ、ざわ、ざわ、と。

 闇が揺れる。闇が蠢く。
 一瞬前まで温い風にはためいていた襤褸が急速にその輪郭を失って、この凶キ夜と同化する。
「――――」
 電灯を手にしたニニギアは息を呑んだ。光さえ飲み込む闇、夜よりも昏い存在(もの)がそこに在る。
 石造りの仮面が刻む笑みは歪でありながらも、何処までも純粋で。純粋であるが故に、相容れぬモノと知らしめていた。
「あァ、ついてねぇな――」
 浅く咥えた煙草より紫煙が夜に立ち昇る。
 仕方ないとばかりに吸いかけの煙草を口からプッと吐き出して『うらぶれ』広中・大基(BNE000138)は構えを取る。
 出逢った事は不吉。受けた仕事は不運。されど、この期に及べば是非も無し――
「寝苦しい夜だし、キンキンの――冷たいビールでも飲みてぇな」

 ――さあ、幻想なる恐怖劇を始めよう――

●恐れよ、汝が前の死(タナトス)を!
 幻想恐怖の幕が開く。
 在りようを賭けた戦いは絢爛に華美に、多くの時間を置く事さえ無く――始まっていた。
「作戦通りに、行きましょう」
 幾らかの緊張を孕ませてうさぎが言った。
 広がる闇は本体でないタナトスの虚ろに過ぎない――攻撃の有効打は仮面へのみであるという特徴、範囲内の生命体を傷ませる死滅領域。
 両局面を打開するべくパーティは『攻撃と防御のローテーション』を計画していた。戦力を前衛、後衛、更に後ろの回復班に分けたパーティは実に思い切った結論を下したのである。
 それは、タナトスのブロックを一人に任せ、残りの面々は集中を重ねて飛び込み、仮面を一気に叩くという戦術である。
 抑え役のリスクこそ大きくなるが、タナトスの持つ強力な近接範囲攻撃を避けるにはこの手段が有効であると考えてのものだった。
 元より、接敵を続けたとて仮面への部位攻撃を強いられるタナトスが相手では集中無く有効打を加えるのは困難であろうという読みもある。
「最初とか、明らかに死亡フラグとかそんな感じじゃないですか」
 ゆらりと揺れるタナトスに向かった前衛は前述のうさぎ一人である。
 口では相変わらずだが、その動きは中々疾(はや)い。
 まず死の前に立ち塞がったうさぎは「冗談では無い」と言わんばかりに全力で防御の構えを取った。
 それと同時にうさぎが傷んだ以降を継ぐ前衛達が各々の準備を整えていく。
「せいぜい、腕に覚えのある連中の花道を飾る前座として動かさせて貰おうか」
 鉅はその影を僕へと変え、
「例え死神といえど、僕たちの生きるこの世界を侵させはしない」
「悪意の塊グランギニョール。僕等はそれに強制的に出演させられてるって所か。
 面白い。タナトスの脚本をぶっ壊す――思い通りにいかないアドリブ劇だ!」
 気を吐いた『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)、『イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004)が集中に入る。
「お前は、逃がす訳には行かない――!」
「今夜ばかりは、無駄にいい目が恨めしいわよ」
「タナトスねぇ。嘲るっつーのでも愉楽っつーのでも死の神の笑みっつーのは遠慮したいもんだが」
 戦気を纏うのは風斗に未明、嘯きコンセントレーションに身を浸したのは大基である。
「――巡れ、魔力の円環」
 最後方――タナトスの闇の外で凛と響いたのは小夜香の声だ。
「肝心な所で、力不足なんて格好がつかないからね」
 同じくマナサイクルによる準備を整えたニニギアが表情を引き締める。
 タナトスの弱みは無勢である。如何な強力であっても前衛がそれをブロックし続ける限り死滅領域の座標は動かない。ヒット&アウェイによる出入りを繰り返す事で領域の外から仲間達を賦活する事は十分可能。
 体内をまさに強靭な魔力回路として、その力を循環させる小夜香や『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の戦いは前衛とは異なる。
 敵を直接受け止める事はしなくとも、仲間を何処まで支えられるかは――この戦いの肝とも言える部分であった。
(いつか本体が現れた時の為に、情報を集めておけば役に立つかしら――?)
 愛しい司令代行に頭を撫でて貰う、そんな些細な妄想は一瞬の出来事。そあらの双眸が射抜いた敵が漸くその本性を現した。
「皆さん、来ます。気をつけて」
 持ち前の勘は驚異的なまでに研ぎ澄まされている。
 夜に響いた九十九の声に迎撃の態勢を整えたパーティの間に緊張が迸った。
 時、同じくして。
 刹那の間さえ置かずに物理的な威圧さえ伴ったタナトスの闇――死滅領域が後方の一部を除くリベリスタ達を覆い尽くす。
「……っ……」
 呻きと、予想以上の、という痛恨は誰のものだっただろうか。
 唯の一つのやり取りで今目の前にある死の本質を知ったうさぎの表情が蒼褪めた。
 うさぎは最初のブロッカー。動き始めたタナトスは闇の中に浮かび上がらせた大鎌で淡い月光を跳ね返していた。

 ――うさぎの目は見開かれ、刃のぬめる輝きを反射する――

「……は、はは……」
 守りに重点を置いて、逃れる事を考えていたからこそ――だったかも知れない。
 重い死の斬撃はうさぎの髪を掠め、肌を浅く切り裂いた。かすり傷と言えばそれまで。
 しかし、死滅領域で奪われた体力と合わせれば……消耗は決して小さくない。
 言葉で言えば簡単な『抑え』が紙一重の連続になるのは、余りに明白。
(出来るだけ、早く、して頂きたい、ですね……!)

●朽ちよ、目の前の死(タナトス)で!
「タナトス……貴方が幾ら生命を憎もうと『死』は全てのモノに安らぎしか与えない」
 展開された魔方陣より魔力の弾丸が迸る。
「――皮肉な、ものね」
『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の唇は、冷たく儚い言葉を紡ぐ。
 タイト・ロープの上を渡るような戦いは刻一刻と激しさを増していた。
 通常の戦いと今回の戦いが異なるのは言うまでも無い。敢えて一人に絞った抑え役は負担を分散させるように適宜何度も入れ代わる。
 通常ならば攻め立てるばかりの攻撃は十分な集中を必要とし、悪戯に戦いの時間を長くする。
 そして死滅領域はその場にある誰の体力をも容赦無く奪っていくのだ。
「祝福よ、あれ――!」
 死滅領域への対処をこの場はニニギアに任せ、ヒット&アウェイで踏み込んだ小夜香が天使の息を紡ぎ出す。
「ああ、悪ぃな――」
 揺らめく影と共に死と踊る。消耗した鉅が振り返らずに礼を言った。
 彼がタナトスを引きつけるその隙を縫い、
「余裕じゃない、でもいつまで笑ってられるかしら?」
 未明は夜の中に舞い上がり、美麗なる剣の強襲を繰り出した。
 白い仮面を彼女の剣の切っ先が掠める。集中を以ってしても容易く有効打を生まぬ展開はパーティを焦れさせた。
 しかし、タナトスの耐久が高く無い事は最初から分かっている事だ。
「戦いには得手、不得手……相性があるものですな。厄介な貴方も私には撃ち頃だという所ですかのう」
「全くな。俺の射線から逃がすわけにゃいかんだろ。的にあてなけりゃ勝つ目も出ねえ」
 苦労する前衛達の一方で今夜攻撃役として中心的な役割を果たしたのは九十九と大基の二人だった。
 牽制にしろ痛打にせよ、何より戦いは手数である。攻撃に集中を必要とし、食い止めに防御を必要とする前衛達とは異なり、1$シュートとピンポイントによる精密射撃を主体に戦う二人は攻撃に専念する事が可能だった。
 部位攻撃を苦にしない二人の攻めに脆いタナトスはその消耗を加速させていた。
 パーティは消耗しながらも、タナトスを一つのループに追い込もうとしていた。
「くっ……!」
 大きな手傷を負った考平が退がり、夏栖斗とその場を交代する。
 夏栖斗が傷めば、
「さ、次はあたしがお相手よ。そのニヤケ面との睨めっこは、短時間でも充分だもの」
 未明が。未明が傷めば、
「今度は俺の番だ!」
 風斗が。パーティの作戦と連携は見事だった。
 それでも、パーティがタナトスを封じてきたのは完全なる作戦の賜物である。
 それは弱者の戦い――切っ掛け一つで展開はどうとでも転ぶのだ。

 ケタ……ケタケタケタケタケタケタケタ……!

 耳朶を侵し、鼓膜を侵し、脳髄に響き渡ったのはタナトスの嘲笑。
 不快な音は恐ろしい精度を以って範囲内の面々の心を怒りに染めた。
 タナトスはこれを待っていた。
 怒りにより焦った攻め手で前に出た何人かの足元に今、そこにある死が絡み付く。死滅領域に致命の効果が加われば形勢は一気に悪くなった。
「そう簡単に、倒れる訳にもいきますまい」
 狙撃手にありながら、近接での戦闘も得手。九十九はまだまだと嘯いた。

 ――しっかりして。のまれてしまわないで。
 何度でも治すから。心が折れないよう、この声を届けるから――!

 ニニギアの祈りが何度も、何度も。黒く染まる闇の中に清かなる音色を響き渡らせた。
(これが、末端にすぎないというの……?
 ……でも、またどこかに現れたなら、何度でも立ち向かうわ。
 そしていつか、もっと力をつけて、本体を、悪意の源を、打ち倒したい!)
 戦いは続く。前が崩れる。血がアスファルトにぶち撒かれ、フェイトは燃えてそれでも続く。
「止めませんよ。ええ、止められる段階では無い。この『死』を殺し切るまでは――!」
 傷付いたうさぎが強引にタナトスの前に飛び込んだ。集中は乱れず、繰り出された掌はひび 割れた仮面に魔力の爆弾を植えつけた。
「血なまぐさい戯曲はここで幕引きにさせて貰うぜ……! 俺の命はテメェにやる程安くねぇ!」
 爆炎に咽ぶ白い仮面に幾度目か大基の気糸が絡みついた。破片が散る。暗闇が深くなる。
 体力の限界によろりと膝を突いた彼に構わず、鉅のダガーが舞い踊る。
「殺す事が喜びだってんなら、何が何でも倒れるわけにはいかないわ……!」
 未明が気を吐く。決着が近いのは誰の目にも明らかだった。
 タナトスの白い仮面には無数のひびが入り、パーティは当初の余力を残しては居ない。
 激しい削り合いは最早猶予を持たず、唯決着へ向けて疾走するのみ。
 その先に――その時がやって来たのは必然だったと言えるだろう。
「『来ます』ぞ、今度こそ」
 言った九十九が身を翻す。それは恐怖劇(グラン・ギニョール)の訪れだった。
 ゆらりと前に出たタナトスに怨嗟が滾る。決して触れてはいけないそれは、総ゆる禁忌を飲み干した呪いそのものに相違無い。
「――焼け、神の炎!」
 緩んだ前衛に代わりこれを阻まんと小夜香の神気が闇を灼(や)く。されどその光は真深い闇の前に唯幾らか瞬いたのみか。
 辺りを覆う闇が異質な何かに変わっていく。悲鳴と、呪いと、死と困苦を捏ねた汚泥がパーティを一気に飲み込んだ。
 生命を犯す泥の後には静寂のみ。静寂のみが訪れる――その筈だったのだが。
「オレは、お前のような存在を憎む――ッ……!」
 崩れ落ちかけた風斗をドラマなる奇跡が支えていた。
 唸り声を上げ、張り付いた泥を掻き分けるように、濃密な闇を剣で払うように。
「お前が全ての命あるものを憎み、殺戮すると言うのなら、オレは――」
 風斗の体は強引に闇を突き抜けた。足はもつれるように、だが歯を食いしばってそれを堪えて。
 あと三歩、三歩先の悪魔の仮面に飛び込むように彼は、アスファルトを蹴り上げた。
「――お前の憎む命の輝きをもってお前を滅ぼす!」
 裂帛の気合は結末と運命さえ捻じ曲げ得る意志の煌き。一閃は刃の輝き。
 硬質の音を立てて、仮面が砕けた。
 この夜に残滓さえ残さずに狂った恐怖劇の幕が下りてゆく。

 ――だが、次なる夜に又逢おう――

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

<笑うタナトス>一本目如何だったでしょうか。
 分身とは言え、相当凶悪なこのユニット。
 今回は作戦で弱点を良く突いた連携の良いプレイングだったと思います。
 非常にタクティカルですし、頑張りましたね!
 ですので、次回は今回の対処を糧にして更に弱点を減らして改良しようと思います。
 お楽しみに! ←↑酷い話である。

 MVPは読みやすいプレイングで良い楔になっていたから、という事で。

 シナリオ、お疲れ様でした。