● 気泡が透き通ったソーダ水の中でぽこり、と鳴った。 汗をかくグラスを見詰めながら、自分の鮮やかな赤い瞳を反射するガラス玉を見詰めて目を細める。曖昧に笑った顔の不細工さと言ったらどうしようもなかった。 こんな思いをする位ならいっそ生まれて来ない方が良かった、だなんてよく聞くフレーズが頭の中を反芻する。その通り、その通りだと思う、実に今の私の状況を表しているではないか。 こんな思いをする位ならいっそ殺してほしかった、なんてアニメーションやドラマの中でよく口にされる劇中台詞を口にして笑ってしまった。その通り、でも、私は奪われるだけでは嫌だったのだ。 世の中には幸せが沢山あって、不幸も勿論沢山ある。両者共に表裏一体。目の前のソーダ水の中の気泡の様に沸き上がっては直ぐに破裂していく唯それだけだ。 泡が弾ける様に、目の前で人の命が弾けた時、その人の不幸を想いながら、私が感じた幸せは紛れもなく本物だった。 ――ざまぁみやがれ。わたしだけが不幸だとか許せる訳ないだろう? 囁いた時に、何と愚かだろうと思った。 けれど、止められるわけでは無く、咽喉を燃やす様な炭酸の甘い香りが鼻を通り、抜けて行く。 想えば、今日はとても暑い日だった。こんな日に死ぬなんて、なんてお可哀想。 願わくば、素敵な死を与えられます様、切にお祈りして。 ● 「さて、フィクサードへの対応をお願いしたいのだけれど、よろしいかしら?」 首を傾げた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が資料を差し出しながらリベリスタを見回した。 「何事にも刺激と言うのは必要だと思うけど、自分で得るには少し難しいのかしら? 自分の人生を『物語』と称し、生まれてから死ぬまで、不幸と幸福が沢山の人生を更に彩る為に、自分に宿った力を持って、殺人に及ぶおバカがいるのだけど」 人生とは各々で違うものである。逸脱ごっこをする逸脱を目指した少女が何よりも求めたのは自分が幸せである未来よりも、何よりも『面白味』であったのかもしれない。 しかし、彼女は人と違える事は出来なかった。変わる事は容易ではないと言う事だろう。なればこそ、殺人と言う禁忌を持ってでも人生を彩ろうとしたのだろう。 「とある廃校の講堂なんだけど……ええと、もう人気はない所ね。其処に一般人を5人誘拐して、殺しを働こうとしてるの。『自己満足』の為にね。なんとも、仕方がない人。 彼女はインホア。ジーニアスのインヤンマスター。他のスキルに翼の加護と残影剣を取得してるわ。彼女は自分に翼を授け、空を飛び、符を操る事に長けているの。 彼女が持つアーティファクト『モーニュイ』が操るエリューションの討伐と彼女の撃退をお願いしたいの」 一般人の命を助ける為にはインホアをどうにかするしかないと世恋はリベリスタを見詰めた。 罪なき人の命を奪うほど害悪な事はないのだから、と世恋は両手を組み合わせ俯いた。 「刺激って何で得れるのかしら? 私はまだ恋をした事はないけれど、きっとそれでも得れる筈。 人との関わりで人は変わるの。一人のインホアはそれに気付けないまま人を殺す事で刺激を得てる。 ――さあ、悪い夢を醒まして頂戴? ちょっぴり刺激的な夏を彼女に与えてらっしゃいな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月23日(火)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 何処か遠くから蝉の鳴き声が聞こえた気がする。夏を感じさせる気配の中、己に護りの力を付けた『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)が小さくため息を吐く。握りしめていた魔力増幅杖 No.57が何処か軋んだ気がした。 「不幸ってのはね、道端の石に躓く様に、誰にだって訪れるの。私は彼女の間違いを正したい」 「所謂、悲劇のヒロイン、悪役気取りですかね。……なら、覚悟ができてるってことですね」 『正義の味方』を自称する『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)にとっての不幸は『不幸ぶった悲劇のヒロイン』が凶行を起こす事ではないだろうか。ゆうしゃのつるぎを握りしめる手が少し汗ばんだ。 蝉の鳴き声に鼓膜を擽られながら、俯く彼女が仲間達に小さな翼を与える中、自前の翼を揺らした『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が黒き翼を揺らして冷めた瞳でじ、と廃墟と化した学校を見詰めていた。 そこに眠る物語が沢山ある事は見ただけで解る。世界が理不尽だらけだと十分に分かっている。けれど―― 「なぁにが物語よ。馬鹿みたい。自分の頭の中で妄想捏ねてりゃいいじゃない。他人に迷惑かけなきゃ問題ないのに……」 その理不尽の中に少しでも救いがある事を知っていたのかもしれない。他人に迷惑をかけない物語であれば自己満足で紡げばいい。そう、人生には彩りを。『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が思うに、講堂の中で不幸を語る少女の色こそが『不幸』であったのかもしれなかった。 視線をシュスタイナへと移す。自身を中心に展開した魔法陣。魔力の供給を行うシュスタイナに施された護りの支援。シュスカさんと小さく呼べば、鮮やかな紫が「何」と小さく問うた。 世界には沢山の色がある。シュスタイナや色んな人と出会って、沢山の色に触れた。その色を知ってくれればいいのに。 壱和がいろはの大戦旗を握りしめる。小さな体に似合わぬ旗が小さくはためいて見せた。 「行こう。人の死や絶望が好き、そんなフィクサードなんてもう見飽きたさ。誰一人殺させない。救いはどっかにあるんだ」 周囲の魔力を取り込みながら花染を握りしめる『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)の首筋から汗が流れる。救えると信じてる。死ぬと言う逃避行動よりも、生きて償わせる。それが何より大事なのだと自分は知っているのだから。 「ああ、既に犯してしまった罪は消えないけれど、それでも手を差し伸べる事を辞める理由にはならない」 黒を握りしめる『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の言葉に俊介が同意する様に頷いた。彼等が魔力を供給し、戦うのは助ける為だとすれば、絶対的に自身の定義する『悪』であれば駆逐する『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)も存在している。 風が如き速さを身に付けた青年は翼を得て地面を踏みしめた、一歩ずつ、一歩ずつ進むごとに重く感じる足取りは、少女が『フィクサード』でありながら救われるかもしれないと言うちょっとした『物語』の一頁に戸惑いを感じているからかもしれない。 青年の背中を見詰める『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)がその背中に若さを感じながら、黒獅子に包まれた掌をそっと講堂の扉へと向けた。 「我が力、万物万象の根幹へと至れ……」 唱える言葉が与える力が己を強くする事をレオポルトは知っていた。一片も光り射さぬ魔道の深淵と同じく、悪の道は昏き深淵でしかないのではなかろうか。其処に光が射すならば、きっと、『今』の様な事を言うのだろう―― ● 扉を開き、持ち前のバランス能力と光が与えた翼を駆使し、真っ直ぐに走り込んだカルラに炎舞と名付けられたエリューションが反応する。敵と認識されるか否か、其れを見極める様に見詰めるカルラから神秘の力を感じたのであろうか、炎は一斉に青年へと襲い来る。 手をくい、と後方へと向けたその合図を受けて、深淵を覗く能力を駆使して内部を見詰めていた俊介がにぃ、と笑う。 「お前の作るお話しに、華を添えに来たぜ。さあ、物語を改変して新しく『しあわせ』にしてやろう」 踏み込んで、講堂の中央付近に立っている少女の姿を見詰める。未だ少女と呼べる背格好の少女はきゃしゃな体を震わせて、ギッ、と俊介を睨みつけた。接近する炎舞の隣をすり抜ける様にルナが走る。俊介の思考の奔流は一気に炎舞を押し返した。 「俊介ちゃん、有難う! 初めまして、インホアちゃん。貴女を止めに来たよ?」 ディアナとセレネが両手を合わせる。インホアの周囲をくるりと回る二人の氷精に少女が身体を震わせた。銀髪を靡かせて、ルナが駆ける後ろをエルヴィンが一気に駆け抜けた。敵を引きつける俊介が手をひらひらと振る。 「こんばんは、お嬢さん。アークが誇るイケメンの俺が君をナンパしに来たぜ?」 意地が悪そうに歪めた唇。大胆な言葉に初心な少女が頬を染め、その眼光を鋭くする。派手に大げさに、注意を引きつける。何よりも大事なのは少女が『エルヴィン』という存在を認識することだ。 「何、何、何!?」 「所謂『正義の味方』ってやつですよ」 ゆうしゃのよろいを纏った少女は炎舞を往かせないと立ちはだかった。勇者を目指す少女はまだ勇者に届かない。勇者って何だろうと悩み続けて随分経った気がする。けれど、今は迷っている場合では無い。自分は今、誰かを救う為に此処にいるのだから! 「世界には沢山の色がある。その色を教えに来たんです」 仲間を鼓舞する様に降り続けるいろはの大戦旗。古びたハルバードに取り付けた其れは番町への憧れを込めた出で立ちだったのであろう。舞台上でがたがたと震える子供たちにも見える様にと一生懸命に旗を振り続けた。 「もう大丈夫です、助けに参りましたぞ! 我々が今、助けますから、暫しお待ちを!」 声を張り上げるレオポルトに嗚咽を漏らす子供が小さく頷いた。炎舞の往く手を遮りながら彼の放つ魔力弾は周囲の窓ガラスをぶち破る。それも、全て、周囲に撒かれた液体からの影響を鑑みての行動なのだろう。床の罅を避ける様に地面を蹴って、手首で煌めく翠を見詰めながら黒いレェスを揺らすシュスタイナが小さく毒吐いた。 「……ガソリンの臭いが鼻につくわ」 邪魔なのよ、と小さく囁き炎舞の前に立ったシュスタイナの指先が同じく古びた壁へと向く。罅へと弾きだす魔力弾が壁をぶち壊し新たな空気の流れを作り上げる。シュスタイナ、レオポルトの両名の支援の中、焦りを覚えるインホアが動こうと身じろぐがその足を止めさせたのはルナであった。動く事が出来ないインホアへとエルヴィンが滑り込む。追いつき、くい、と少女の顎へと手を掛けた。 「ちょっと俺とお話ししないかい? 君の顔をもっとよく見てみたいと思って。……思ったより可愛いじゃん」 小さく笑う言葉に少女が年相応の反応を示す。目の下にくっきりと浮き出た隈にきゅ、と閉じられた唇。不幸を体現する様にこけた頬に余りに華奢な身体がエルヴィンを押し返そうと両手で押した。 「……何よ。不幸なことには変わりないじゃない!」 「不幸なんかじゃないさ。もっと不幸そうな顔をしてるのかと思ってた」 可愛いじゃないかと発する言葉にくすくすと俊介が笑みを漏らす。流石はアークが誇るナンパ師とでも行った所であろうか。魔力を伴う指先が翻弄する様にインホアへと向けられる。ゆっくりと近付く俊介の花染の切っ先が少女へと向けられた。 「なあ、不幸って自分だけが貧乏くじ引いてるって甘えるのはよせよ。俺は幸福にする為に来たんだから」 ぎ、と睨む声に少女がぎょっとする。俊介の言葉はつまりはフィクサードの少女をリベリスタにしたいと言う事だ。正義と言う大義名分の下、戦えと言う事では無い。ただ、正義を振り翳す人間に殺されると言う人生がインホアの望む人生ではないと、俊介はそう感じたのだ。 「不幸ってのはなんだ? 教えてみろよ。テメェの物語とやらはつまらねぇ。スポーツ誌のデマ記事以下だ!」 叫ぶように告げるカルラの拳は速さを保ち、炎舞へと向けられる。何処か熱ささえも感じるソレに燃える様な痛みを感じながら、カルラの目は『殺意』を湛えたままに笑っていた。 「馬鹿じゃないの? 自分より弱い者ばかり相手にして、なぁにが物語よ。弱い者いじめばっかりして、陳腐な物語の何処が楽しいの?」 馬鹿にする様に笑ったシュスタイナの手首から溢れる血が鎖となった。全てを縛り付けながら、黒いドレスを纏った少女が姉から貰った香水を香らせながら、地面を蹴りあげる。 少女の言葉にインホアが苛立ったように握りしめていたクロス――モーニュイと名付けられたアーティファクトをぎゅ、と握りしめる。不吉を占う符がカルラに向けて発される隙を付き、光の疾風がひゅ、と傍を通り抜けた。ゆうしゃのつるぎから放たれる其れが蝋燭の火を掻き消さん勢いで飛んでいく。泣き喚く子供が更に大声を上げた。 「傷つけたいってわけ? お揃いね」 「いいえ、ボクは一般人に危害を加えたくはない。死者を出さずにことを終えたいです。救いたい。そう思う」 ぎ、と睨む様な視線にインホアが首を振る。紡がれる詠唱はインホアが頼りにする唯一の味方である炎舞へと向けられていた。 「神聖四文字の韻の下に……我紡ぎしは秘匿の粋、禍つ曲の四重奏!」 「ッ、何なの? ねえ!」 「だから、言ったでしょ? インホアちゃんを止めに来たって。インホアちゃんの望む刺激って、こんな事なの?私は認めない、そんな事。誰かを傷つけて得る物なんて何もないんだから」 火焔が空から降り注ぎ、インホアを吹き飛ばす。少女の華奢な体が音を立て、罅割れた地面へとぶつかった。 「ねぇ、私達の手をとって?」 ● 人生とは甘酸っぱい炭酸の様な刺激に溢れていると言う。それでも、自分を不幸だと思い込み続けるのは、幸せを求めている癖に臆病なだけでしかないのだと俊介は知っていた。 「助けてやるって、そう決めたんだ……!」 同じ意志を胸に頷くルナがインホアの攻撃から一般人を庇う様に立っていた。全体攻撃を繰り出す彼女の攻撃は一般人に少しずつ痛みを与えているのだ。 「インホアちゃん、それ以上は駄目だよ!」 炎を散らす様に光のゆうしゃのつるぎが激しい烈風を巻き起こした。炎舞をそのまま掻き消す様なソレの中、少女が降らす氷の雨がリベリスタ達の体力を減らしていく。突き刺さる涙雨、厭わず光は声を張る。 「貴女は、一般人に危害を加えると言うのですか? ボクは其れを全力で阻止しなければならない」 「人の不幸ってのは蜜の味だけど、それって虚しいだろ? お前、幸せになりたいんだろ?」 周囲へと広がる閃光が罪の裁きを行い続ける。ゆっくりと歩みよる俊介の周囲に漂う炎をシュスタイナの鎖が捕まえた。強がった雰囲気の少女がぎ、と炎舞を睨みつける。 「貴方達、邪魔なのよ」 辛辣に言葉を発するシュスタイナは仲間達をサポートする様に立ち回った。ソレが最大限の少女の好意なのだろう。動き回る様に地面を蹴り、炎をかき消す様にその拳を振るうカルラは常から鍛え上げたフットワークを生かしてその拳を振るい続ける。 近場で燃え上がる炎が壱和の体を焼きつくそうとする。ふるふると首を振り、壱和はぎゅ、と旗を振る。閃光弾が少女とエルヴィンを包み込む。視界を塞がれたと驚く少女に凛とした声音が響いた。 「これがあなたの物語なら、敵と相見える此処はクライマックスですね」 「っ、いやよ! 私は死にたくない!」 やだ、と首を振るインホアに息を吐き、壱和は目を凝らし続けた。炎舞の揺らめきは青に変わる時に燃え尽きる。ソレに気付き、離れて下さいと声をかけ続ける壱和は臆病な瞳に意志を宿し、その場に踏みとどまり続けた。 「世界には素敵なものがたくさんあるんです。それを、知って下さい!」 「どうやって知ると言うの!? それでも私は不幸だった。何時いかなる時もそうでしかなかったのよ!」 叫ぶように言うインホアにルナはソレは違うよと声を張り上げる。炎を重ねて炎を打ち消していく。インホアの『味方』が少なくなる事に少女が焦る様に氷の雨を降らした。 インヤンマスターという性質を生かし、少女が仲間達に与える災いを取り除くエルヴィンがす、と少女から離れ舞台へと上がる。震える子供をあやす様に発するマイナスイオン。 ルナとエルヴィンの二人は揃って一般人を護る様に布陣していた。炎が全て打ち消され、インホアと名乗る少女が遂に一人ぼっちだと狂った様にリベリスタへと掴みかかる。 ゆっくりと歩みよったレオポルトの瞳はただ、優しさを灯して居た。何時でもその空気を壊さずに、紳士的な彼は少女の手へと掌を重ねて下ろさせる。 「殺人による日常からの逸脱……ですか。単に平凡な人生から外れるだけがお望みですか?」 レオポルトが発するのは何処までものんびりとした声音であった。穏やかな老紳士が履くカンプスティーフェルが講堂を叩く。踵が奏でる音に少女の体がびくりと跳ねた。 焦りを浮かべ自身に付与した翼で空を飛ぶ。それを見逃さずに近寄ったカルラが「逃がさない」と少女の体を殴り付けた。ふらつくインホアの赤い瞳に浮かんだのは殺意に似た何か。殴られる事をある意味で不幸の材料にしているかのように、彼女は自分に酔いしれていた。 「成長がねぇ、カタルシスがねぇ、ひたすらの鬱展開の自己満足が!」 睨みつける少女にレオポルトの声が淡々と追いかける。人質に一人でも手をかけたら容赦なくその細い首を手折れば良い。きっと庭先に咲く白百合の様に簡単に手折れるであろう華奢な白い首筋に汗が流れた。 「斯様な手段に頼らずとも幾らでも手段はあった。選ばれた者だけが振るう事を許される、その力は、貴女が自分より弱く、殺せて当然の人間が乞い願った所で得る事は出来ない力ではありませぬか」 震える両手を見詰める少女が握りしめるモーニュイがぱりん、と割れた。其処に飛び込んだのはシュスタイナの魔力弾だった。少女が目を見開き、ぎっ、とシュスタイナを睨みつける。意志が強そうな紫の瞳が細められ、溜め息交じりに慣れ切った『悪態』を吐き出した。 「弱い者いじめばっかりじゃ、楽しくもないでしょ? 強い者に向かって行きなさいよ。 ……ああ、怖いの? じゃあ仕方ないわよね。所詮はそういう人生なんでしょ」 「ッ、私は――!」 「じゃあ、どうにかしてみなさいよ。打破しなさいよ! 物語を終えたくないなら、新しい可能性でも何にでも賭けなさい!」 少女の言葉にインホアが符を握りしめる。その腕を狙う様に、強烈な閃光が放たれる。眼も眩むほどのソレが神聖なる裁きであると気付くまでのコンマ五秒。目の前に滑り込んできたカルラの拳が少女の腹を殴りつける。は、と息を吐き目を見開いたままの少女にカルラが憎悪を漲らせた視線を合わせた。 「誰にだって幸せになる資格はある。インホア、お前だって例外なくだ! お前がやってるのは幸せを奪う行為なんだ! 幸せを奪わないでやってくんねーかな。子供も、幸せになるために生れて来た筈なんだ!」 「お前だけが不幸だなんてネタは面白くないんだよ。戦災孤児にストリートチルドレン、事故遺族に離散家族。表だけでもまだまだあんぞ。不幸ってのはこういうのを言うんだよ!」 自分の不幸を思い出し、魔力鉄甲に包まれた拳に力が籠る。少女の視線がカルラに向けられる。 「ねえ、お話しに花を添えるのも添えないのも、結局は自分自身だよ。何を得るのも一人では限られる。 だから、探そう? 私達と、一緒に。何かを得ようよ。大事なものを――ね?」 手を伸ばす。インホアの体を傷つけるソレが耐えず降り注ぐ。炎を操る少女にぶつけられる炎の中に少しの揺らぎを見つけ、インホアが涙を浮かべ、氷の雨を降らし続けた。 「遣り直すんなら今すぐだ! できねぇなら……ここで終われ!」 変わろう、と手を伸ばすルナを見詰め、拳を振り翳すカルラを見詰めたインホアがへたり込む。救いたいと言う想い一心に俊介はインホアと小さく名を呼んだ。 「人生って言う物語はさ、どういう結末を出すのか自分で選べるんだよ。物語をハッピーエンドにさせるのはお前自身なんだ。どの道を選んでも後悔のない様にな」 「……私は、幸せに、なれるの?」 「それが望みなんだろ? ……他人を傷つけるのに臆病者なんだな。ほら、立って。大丈夫。上手くいくから」 手を取り、肩を叩いたエルヴィンに何故と少女は視線を向ける。敵ではないと拳を下ろすカルラが小さく息を吐いて視線を逸らす。もしもフィクサードであるならばこのまま彼女を殺したのだろう。 「ほら、もう大丈夫だから」 泣き喚く子供を抱きしめた俊介があやす様に頭を撫で、ルナが気を喪った老人の介抱を行っている。誰も喪わなかったと安心した様に光が息を吐き、座り込む。 「今日は、暑かったですね。……これ、一緒に飲みませんか?」 インホアを見詰めて、綺麗な赤ですねと微笑む壱和が差し出したローズコーディアル。不安そうな色を灯したままに何故、助けてくれるのと視線を向けた少女にエルヴィンが可笑しそうに小さく笑う。 「言ったろ? ナンパしに来たって」 俯いたままの少女から小さく嗚咽が響く。何処からか蝉の鳴き声が小さく響いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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