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我、悲願たる主を欲す-後-


 禁忌だ、禁忌だ、禁忌だ。禁忌がついに世に出るのだ。
 犠牲の宝庫、哀愁の行脚。力を欲した愚か者。
 それは死んでも治らず、ついには死体と成っても執着心は消えなかった。
『人の業とは、愚劣の極みだね』
 引きずられる鉄槌が、ぼそっと零した声を彼は聞かない。もはやその腕は鉄槌と一体化しかけているのだ。肉が鉄槌に食い込み、いや、これはもはや男が鉄槌を飲み込もうとしているのだろう、侵食されたのは男では無く、呪われた鉄槌の方。
『何処で間違えたかな、もう、判らないな』
 主を大切に思う気持ちは鉄槌にはあった。だがそれは主を逆に破滅へと導いてしまった。終焉への道を辿ってしまったのは、一体誰のせい。
『もう、判らないね』
 鉄槌の小さな世界は歪んでいく。

 願うは破滅か、救済か。
 意味の無い行脚は続く――。


「皆さん、こんにちは。今日もおひとつ依頼をお願いします」
 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へ切り出す。手渡した資料を捲りながら、淡々と依頼の内容を伝えるのだ。
「今回は少々危険です。大昔、武器を作っていた職人の家系で『浅村』というものがありまして、その末裔が呪われた武器を保管していました。が、世に出たり、出そうになったりと、その度にアークが止めていたのですが……今回も、武器とその持ち主による事件です」
 かつて浅村和生と言う男が、呪われた武器に魅入られて暴走した事があった。それはアークのリベリスタが抑え、最終的には武器が持ち主を破壊するという結果に終わったのだが、その和生がアンデットと成り果てて、未だに武器回収の夢を追っているという。
「その執着心があってか、フェーズは3。とても危険な存在になりました。右腕は鬼の鉄槌である緑青という武器と一体化し始めています。それは交戦中も進行するでしょう、注意してみてください。
 今此処で抑えないと、大変な事になりかねないので、討伐をお願いしますね」

 和生は元々、アークの精鋭以上の力を持ったフィクサードである。そのダークナイトであった時の名残か、攻撃はほぼダークナイトのものを行ってくる。だが注意して欲しいのは人を完全に逸脱した速さだ。
「フェーズなりに強化されているのでしょう、もはや説得も利かないでしょう『彼』には。
 和生は深夜、人気のない街道を歩いて何処かへ向かっています。何処かというのは浅村家なのですが、おそらく浅村の武器が欲しいのでしょうね。彼の持っている鉄槌は武器を従える力があります。皆さんの武器も例外無く、操る対象になる事がありますので、お気を付けて。
 兎に角は、此処を突破されないよう、この街道で止めてください」
 敵は一体と思えるだろうが、緑青に付き従う武器が三つ同行していると言う。敵を見つけるのは楽だろう。
「少々厳しい依頼になりますが、宜しくお願いしますね」
 杏里は深々と頭を下げた。


「力だ、力が欲しい!!」
 もう眠くなってきた。どうしても眠い、眠ったら取り込まれるんだろうね。
「もっとだ、何も恐ることの無い程の力を!!」
 駄目そう、もはや成す術は無いか。
「力、力、力を――!!」
 もしこの声が聞こえるのならば、どうか壊して欲しい。

 全てを。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月02日(金)00:31
 夕影です さあ、残りカスのお掃除です
 以下詳細

●成功条件:武器の無力化と、全エリューションの全滅

●Eアンデット:浅村 和生
・56歳のおじさんでしたが今はアンデットとなりフェーズは3
 1ターンに3回行動し、ダブルアクションを仕掛けてきます
 ジーニアス×ダークナイト(起死回生型)
 ダクナイRANK3のスキルの威力が強化されたスキルを使用
 EX禍ツ忌籠(神近複BS呪い呪縛ショック)
 EX陰府比良坂(物近単 物攻:+(自ダメ値) 必殺)
 EXP侵食汚染(8T目に発動。絶対者付与、ブロック無効)
*ただし、何らかの方法で侵食汚染の発動ターンを伸ばす事は可能です

●アーティファクト:緑青(ろくしょう)
・意思を持った道具。人格は落ち着いた少年で、それほどまで好戦的では無い様子
 恐るべき攻撃力を誇り、全ての攻撃で防御を無視します

 また、攻撃の対象が武器になる事があり、100%HITした場合はその武器が弾き飛ばされます。この命中判定には持ち主の回避が適用され、与えられたダメージの半分が持ち主の体力から削れます。
 また武器が飛ばされた場合、PCは武器の能力値を抜いたステータス数値となります

・持ち主以外が緑青本体に肌が触れた場合、メンタルの数値によって常時BS魅了が発生する事があります
 (精神無効持ちや絶対者には強い頭痛が起こり、毎ターンロスト400)

・周囲のE能力者では無い人を操る力が持ち主に与えられます
・周囲の持ち主の手から離れている武器を操る力が持ち主に与えられます
・また、持ち主と緑青が決めているのは浅村和生ただ一人です。これを変更するには持ち主の死が必須となります

●緑青に操られている武器
・浅村家にあった、刀、槍、弓が1体ずつ単独で行動し、『緑青』を守護しています
 攻撃威力はフェーズ1相当ですが、防戦を行ってきます

●場所:街道
・時刻は夜中
 人気無し、月明かりがあるので暗所対策不要

・自前自付は認めません

それでは宜しくお願いします
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ソードミラージュ
ヘキサ・ティリテス(BNE003891)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)


 ゆらり、月明かりを背に浅村和生の亡骸は鉄槌を持ち上げた。けして光が灯らない瞳の先、姿を現した彼等を認識して。
「さてとごきげん麗しゅう、妄執に動かされるなんてやってらんねぇな」
 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)はアキレス腱を伸ばしてから、走り出す。その頃には『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の暗黒が、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の呪印が和生を貫いていた。また、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が緑青を護衛する槍を掴んで彼から遠ざけ。そこで『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)のフラッシュバンが瑠琵といりすを巻き込んで放たれた。幸い二人とも回避が高いため、フラッシュバンの呪いを受ける事は無い。
 道はできた。夏栖斗が切り開かれた直線を走っていく。和生の後方に位置する弓から矢が放たれ、夏栖斗の肩に衝撃がひとつ。しかし止まらない彼は地面を蹴り、回し蹴りで放った真空の刃が和生と弓を切り裂いていく。
「破壊カ、再生カ、力カ」
 聞こえた和生の声。突如和生の身体に浮かび上がったのは、不滅の紋章。
「不滅覚醒かえ!?」
 瑠琵の声に着地してから顔をあげた夏栖斗。次の瞬間、悪意の波動が夏栖斗、瑠琵、いりすの防御を貫いた。
 流石はフェーズ3なのか。感心している暇は無い。波動を潜り抜けて飛んできた『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)の利き手が和生の頭を掴み、そのまま地面へと叩きつける。だが、そこで慧架は違和感を覚えた。何故だ、和生が笑っているのであった。咄嗟に手を離して、元の位置へ飛翔して戻る慧架だが追って来た怨嗟の重音が彼女を貫く。
 続いた『残念な』山田・珍粘(BNE002078)。できる限りの敵へと暗黒を叩き込みながらも、彼方の無明をその身体で受けた。しかしだ、その頃には『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)のラグナロクが珍粘を守護していた。反動で和生へと返るダメージ。
 そんな光景を見ながら、ユーディスは胸を抑えた。

 ――こんな事になるなんてね。

「……りとさん」
 呼んだ名前はもう、この世に存在せず。
 そして和生も死んだのだ。緑青が望んだ最後を飾って、少女一人を飲み込んで……。
 ユーディスは拳を握っていた手を開いた。爪の痕がくっきり残っている掌から血がぽたりと落ちた。過ちを犯し、それでも尚、力が欲しいと言うのか。浅村和生の遺した妄執、浅村の業め。いつか、緑青が呟いたか。人の業とはかくも――――だと。
「これじゃあ、まるで歩く砲台だね」
 いりすは冷静に和生を分析していた。受けた攻撃の重さ、攻撃の回数、彼の持つ防御の厚さ。久しぶりのフェーズ3だ、其処ら辺のフィクサードと対峙しているのとでは訳が違う。
「ま、喰うけどね」
 無銘の太刀を持ち直して、身体を起こしたいりす。
「やめておけ、腹を壊す」
 動く死体は土の中、喋る武器なら屑鉄屋。そう、文字通りの弾丸トークを放つユーヌ。目の前の大きな駄々っ子にやれやれと顔を振りながら、失笑がひとつ。
「まあ、黄泉路へと送るがな」

 此処は浅村家へと通じる、とある街道だ。電燈に月明かり、戦闘するにあたって必要なものは全て揃っている。人気もない、虫の声も無い、風の音も無い。そんな現実から切り離された様な静かな場所で始まった、最後の物語。
「緑青、まだ聞こえていますか」
 ユーディスのその声が、緑青の小さな世界に明りを灯した。


 ――う

 和生の目線を通して世界を見ていた。それは彼にとっては全てであり、終わり行くまでのカントダウン。
「聞こえているのなら――踏ん張りなさい。そして貴方自身として見届けなさい、終わりを」
 エリューションに取り込まれそうになり、消えそうな程に弱まった緑青だ。自我を保っている時間は差ほど無いのだろうとユーディスは踏んでいた。だからこそか、せめてその時間を長引かせるために緑青へあえて語り掛けるのだ。
 眠らないように、起こすように。

 ――くぅ……

「なあ、緑青、このまま道具として朽ち果てるのでいいのかよ。お前の主人は死んだんだ。もうそれはただの残りカスだ」
 夏栖斗の声が響く。武器として、忠誠を誓った主はもはや何処にもいない。その死体は和生ではって和生では無いのだ。
 だからこそ、もう付き従わなくてもいいのだ。君が君で無くなる前に、気づけと。

 ――誰

「ええい、シャキっとせんか! それでも呪われた武器かぇ!」
 取り込まれてはならない。覚醒させてはならない。そんなことより、緑青が緑青で無くならせてはいけない。
「誰かに願うなど甘えじゃろう? 願うなら自らの意思で抗え!」
 瑠琵の声が響く。頼っても良い、だが、緑青自身が何もせずに甘えるのだけは許せない。

 ――あぁ君たち

「浅村和生、その妄念を――今度こそ、私達が祓う!」
 叫んで、叫んで、再び響いたユーディスの声。
 重たい瞼を開かせるように、冷たい指先を温めるように。少しずつだが緑青の意識は芽生えていく。


 複数回行動する和生、防御を貫く鬼の鉄槌。もはや鬼に金棒なりの敵だ。いくら夏栖斗といえども体力の急激な減りに交代を強いるしか無く、慧架が前へと出た。瞬時、咆哮をあげた和生の闇の力が慧架や周辺近辺に居たリベリスタ達の動きを止める。
 後衛に居たからこそ呪縛にあわなかったユーヌが放つ、呪印封縛。集中を重ね、完全に札の中へと和生を抑え込んで、同じく動きを止めて。
「哀れだな。持ち物が持ち物に操られ、似たもの同士でお似合いか?」
 しかし、和生の抵抗する力がユーヌの手を震わせていた。少しでも気を抜けば、すぐに呪縛は抜けられるだろう。
「長くは持たんぞ、急げ」
「りょーかい」
 追撃するいりす。いりすも敵後方へと常に回っていたからか、忌籠の範囲から抜け出している。紡いだ闇を武器諸共和生を巻き込んで。ひび割れ、コンクリートに刺さって静止する武器達。さてあと和生一人なのだが。
「ぅぅぅぅううっらぁあああ!!」
 ヘキサがユーディスの助けもあって、呪縛を抜け出した。そのまま和生の脇腹へと蹴りを繰り出す。
「見てらんねーぜ、力を追った結果がこれとはなァ!!」
 意思の無き力が暴走して、このザマだ。ならば力で抑えつけて止めるしかないだろう。ヘキサはそのまま回転して、もう片方の足で和生の顔面を蹴り飛ばした。
 しかしヘキサの目に見えたのは、ユーヌが放った札が塵に成って消えた瞬間だ。
「オイ! こいつ呪縛抜け出すぞ!!」
 ヘキサは叫ぶ。ハッと顔をあげた、慧架。目の前、鉄槌が大きく振りかぶられている。間もなく大きな衝撃と共にフェイトの加護が発動した。
「人間として……あってください……」
 かち割れた頭を押さえながら慧架は願う。声が届かなくなる前に、全てが手遅れになる前にと。
 よろけた彼女の隣をユーディスが光り輝く武器を持って駆けていく。振りかざし、武器が擦れる音がひとつ。彼女の武器は緑青の柄で受け止められている。
「緑青、緑青!」
 眼前にある武器に話しかけるように、ユーディスは言う。しかし、弾かれてそこに無明が叩きこまれる。苦い顔したユーディスだが、和生の前から離れまいと歯を噛んだ。
「ウフフ、やんちゃですねぇ」
 可愛い女の子になら何されても良い訳だが、そんな可愛らしい業を持った珍粘。無明を放つ動作を終えた和生の後ろにぴったり位置していた。
「どうして可愛い子に好かれないんでしょうねぇ。あ、そんな事より動かないで下さいね」
 取り出しているのは魔弓。位置は近接。全くもって捻くれているその状況で、珍粘は片腕を和生の背へと着けた。その接触部から黒い影が飛び出してきては和生の身体を包んでいく――しばくらして、ころん、と落ちたのは小さな正方形の黒い箱。
「起きてますか緑青さん。成す術なら有ります。諦めないこと、それだけです」
 閉じ込めた対象にそっと話かけてみた。
 直後、それを阻むかのように黒い箱が砕けて和生の腕が珍粘の顔面を掴んで、彼女の足が地面から浮いた。
「あらら、早いお帰りですね……もうちょっと閉じ込められてても良かったのですが」
「暗イ暗イ暗イイイイイ!!!」
 風船が弾けた様な音がした瞬間だった。一瞬だけびくんと揺れた珍粘の首から下が、だらりと力を失くしてぶらさがりつつ、血がシャワーの様に噴き出す。
 彼女の身体は投げられて瑠琵へとぶつかってお互い吹っ飛んだ。きっちり受け止めた瑠琵がしっかりしろと珍粘の顔を覗いたときには、珍粘はケロっとした顔で何事も無かったようにしていた。見れば、彼女の身体にも浮かび上がる不滅の紋。
「うふふ、顔面かち割れました!」
「笑い話では無いのじゃ」


「緑青、お前を助けにきたんだ。戦いたくなければそうしてやる! 主人ごと破壊して全てを終わりにだってできる!」

 夏栖斗の声。深く、深く、暗い場所に木霊する。

「生きたいのなら僕は君を扱えないけど、お前の主人だって探してやる。深緋だって、露草だって、アークに居る」

 ――!

「お前は人を選ぶことのできる武器なんだろ? だったら自分のことも自分で選べよ!」

 ――でももう、救いは。

「餓鬼が大人の都合に振り回されて、悟ったようなセリフを吐くんじゃねぇよ。んなもんは、忠義でも何でもねぇ」

 いりすの声、遥か深くを灯していく。
 ――なっ、餓鬼に餓鬼なんて言われる覚えは!

「根性論? その通りですね。ですが、そこの和生さんだって死体になっても動く執念を見せました」

 珍粘の声。手を伸ばされているような気がした。
 ――そろそろこれと同化するさ、もう放っておいてくれても……。

「主がそうなのに、武器のあなたはそんな簡単に諦めるんですか?」

 ――……。


 時間は80秒を超えていた。この後の残りの時間は、計る事は不可能だ。
 もはや人の声を忘れた和生が咆哮した。憤っているのだろう、己の武器が己のものにならない事を。
「哀れ、憐れ。もはや何も言える事は無いよ」
 ただ駆逐しろ、といりすの足が地面を蹴った。今すぐ、こいつぶっ飛ばしてやるからよ――緑青に残した言葉を嘘にしないために。
 ユーディスは後退、いりすが緑青の前へと出た。随分大きく膨れ上がった男の身体を目の前に、されど、恐れる事は無く。そして死させも恐れない。曇り無き刃で和生の動脈を切り離した。そのままヘキサの蹴りが和生の肩を飛ばした。よろり、体勢を崩した和生だがヘキサの足を掴んで地面へと投げた。続いた攻撃、鉄槌が上から落ちて来ては、いりすへと。血と脳と骨の一部がぼとり、と落ちたいりすの頭。フェイトが護る事が無ければ即死していたか。
「やれやれよな」
「やれやれってレベルじゃねーけどな!!」
 頭を振ったいりすに、ヘキサが慌てていた。
 さておき、和生にとっては後衛に居るユーヌが邪魔だった。動こうとする和生だが、いりすの腕が腕を掴んで離さない。
 もう一度、振りかぶられた鉄槌。いりすが覚悟した瞬間だった。
「いい加減に、しろおおお!!!」
 夏栖斗がその振りあがった腕を掴んだのだ。恐るべき力に身体が浮きそうになるのを必死に足で踏ん張りながら、もう片腕で緑青を掴む。無茶で、無謀な彼の行動。緑青の浸食によってずきんと痛んだ頭を抑える暇も無く、ただ其処に在るのは仲間を護る彼の優しさと、緑青を護る意地と、強大な力に立ち向かう馬鹿さ加減。
 魅了している暇なんて無かった。振り払われないよう必死に掴んだ鉄槌と、和生を切り離すために手刀で接続部を穿く。
「なんじゃ、楽しそうじゃのう?」
 七星公主の銃口が吼えた。瑠琵が狙えるならばと機を伺っていた鉄槌との接続部に弾丸を放ったのだ。手刀で切り傷のできた其処に弾丸更に傷を深く染める。
「まだあと、もうひと押し欲しいかの」
 そう、二人だけでは緑青と和生を切り離すのには力が足りなすぎる。
 振り払われた夏栖斗に鉄槌が振り落された。そのまま横に振られた鉄槌にいりすの横腹がぐしゃりと凹む。
「随分とやんちゃなおじさんですね」
 いりすを壊した鉄槌の軌道を見ながら慧架が再び和生へと飛び込んだ。その右手に力を込めて、途切れる寸前の精神力を練り上げて、和生の頭部を地面へと打ち付けるのだった。
 慧架は見極めようとしていた。この滑稽なエリューションができてしまったのは緑青が悪いのか、それとも和生の業なのか。仲間の説得を聞いていればどうだ、悪いのは。
「結局の所、人の業は怖いものですね」
 理由の無い力なんて破壊と暴力なだけですから。そう付け加えて、慧架は跳躍して後衛へと戻る。
 起き上った和生は再び咆哮した。さっきよりも荒々しく、それはまるで命が狩られる事を察した獣の様だ。だからこそだ、油断はならない。何故なら命が消えそうになる瞬間こそ最大限の力が出るのだから。夜明け前が、一番暗いのだから。


「子供を不幸にする親って、私の父親を思い出して許せないんですよね。一人だけ楽になろう何てそうはさせませんよ?」

 膝を抱えていた。誰もいないし、それでも声だけは聞こえていた。

「テメェで間違いだって認めてンなら、チッとは抗いやがれェ!」

 灯された光がどんなに魅力的だったか。だが主という足かせがあった。 

「……緑青。貴方には見届けていただきます。貴方達の、運命の行く末を」

 どれだけ時間を待てば、過ちを正せるのだろうか。
 手遅れになってしまった過去。閉ざされた未来。闇に飲み込まれた運命。

「何年、生きようが餓鬼は餓鬼だな。悲壮感満ちた台詞吐いて酔ってるんじゃねぇよ。いいか。そういう時は、助けてっていうんだよ」

 それでも期待して良いのなら。
 それでもまだ光を灯してくれるのなら。今、この足かせを捨てよう。
 ――た、……た。


『助けて、くれ』
 3度目だった、夏栖斗が手刀で接続部を穿ったのは。続く瑠琵の弾丸――。
「やっと起きた? ごきげんうるわしゅ! 緑青!!」
「遅いのじゃ、遅刻じゃ遅刻」
 もう一度、瑠琵が弾丸を放つ。骨が見え、皮一枚が緑青を手放さんと足掻いていたがそれも砕かれ、緑青を引き抜かれ、ひとつと1人は完全に分裂した。
 和生が緑青へ手を伸ばしてきたが。
「ふん、陰気くさいな。これ以上動かせないように全身に呪いを施してやろうか?」
 ユーヌが再び集中からの封縛を放ち、その動きを止める。フェーズ3であろうが物に集る姿はなんとも滑稽で、浅まく。ユーヌの小さな口が嘲笑った。
 夏栖斗は緑青を抱えて後退する。その隣を元気な風は駆けた。ヘキサだ。
「見せてやらァ……力だけじゃ出来ねェ、テメェを倒す意思ある技を!」
 緑青の無い和生なんて、例え起死回生していたとしても恐れる事は無い。そして何より、気に入らない妄執は全て――
「――喰い千切れェ!! 兎の、牙ァァァアッ!!」
 繰り出した右足で和生の頭を蹴り飛ばして、その頭はぐりんと一回転した。そこでヘキサは止まらない。未だ空中で滞空している彼は逆回転して、和生の回った首を同じく逆回転させた。その頭を慧架は掴む、幾度目かの攻撃。地面へ頭を叩きつけ、すぐ耳の横で骨が鳴る音が慧架には聞こえていた。
「いやあ、そろそろ精神尽きそうですよ」
 珍粘が笑いながら、倒れた和生の腹に手を置いた。再び暗黒が彼を包み込む――やはり箱には収める事は不可能か。だが確実にダメージはいっているという確証はある。
 チャキ、とユーディスが槍を構えた。
「りとさん……今、業を断ちます」
 純白に輝く武器を持って、彼女はそれを和生の心臓へと真っ直ぐに落す。しかし心臓の手前で和生の片手に抑えられ、届かない。
 目の前で護れなかった命があった、武器によって不幸になった人が居た、武器のせいで人生をおかしくした人が居た。けれど、きちんとした持ち主に渡った深緋、露草は真っ当な道を見つける事ができていた。
「く……く!!」
 諦めきれないユーディスの手に、女性の手が重なった気がした。
「幻想から醒める時さね」
「我が子すら殺した臆病者め、あの世で娘に詫びるが良い!」
 口内に広がった血の味を吐き出しながら、いりすは和生の肩へナイフの刃を入れ込み、肩を斬り飛ばした。続く瑠琵は五指で空中を掴み、引き抜けば和生から精神を奪い取る。
「これで、終わりだァァアアッ!!!」
 跳躍し、空から落ちて来たヘキサの前足。ユーディスの抑えられた槍を力任せと重力頼みで押し込んで、刃は心臓に風穴を空け、和生は串刺しの状態。
 緑青が目を背けたのを夏栖斗はぼんやり感じていた。動けぬフェーズ3の図体が、緑青へと手を伸ばしている――。
「強欲は死んでも治らないか。これでは生まれ変わっても治る事は無さそうか」
 夏栖斗の前にユーヌが立つ。占う未来は破滅のソレ。黒き悪魔はにこっと笑って見せた。
「さよならだ」
「オ、オァァ、ロク、シ――」
 何かが弾けた音。
 放った星儀――浅村の妄執は、灰塵さえ残さず消去されたのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼お疲れ様でした、結果は上記の通りになりましたが如何でしたでしょうか
被害は大きいですが、ごり押しできたのは皆さんの力量があったからこそでしょう
武器飛ばしとかしている暇が無かったくらいに容赦の無い攻撃の山でした
最後の一本は救出、アークにて保管という形になりました
それではまた、違う依頼でお会いしましょう