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ジャンル名:円環を目指すボーイズラブADV

●タイトルは『学園浄土』
 ブリーフィングルームのテーブルに、ことんと置かれたのは、何の変哲もないUSBメモリ。
 メモリを置いた『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)は、溜息混じりに言った。
「これは、アーティファクト化したゲームが入っているメモリ……危険物だ」
 そして、ノートパソコンを一台設置する。ちゃんとACアダプタを接続し、バッテリーの心配はない状態だ。
「この学園ボーイズラブゲームは、画面を見た人間全てをゲームの中に取り込む」
「え。ボ、ボーイズラブゲーム? 取り込むってちゃんと出られるのかよ?」
 焦るリベリスタ。ジャンルもジャンルだが、現象も現象だ。
「脱出方法はわかっている。そして無事脱出できた時点でゲームは消滅し、何の変哲もないUSBメモリに戻る」
 闇璃は、このゲームから全員が無事に脱出できる方法を告げた。

 ――ループする人間関係で、全員が幸せなホモカップルになること。

「……どゆこと」
 不穏な単語まみれの脱出方法に、リベリスタは冷房のよく効いた室内で、だらだら汗をかいた。
「つまり、一つのAとBというカップルが居たとして、Aの兄弟だとか上司だとかバイト仲間だとか、関係性のある人間がまたカップルになり、そのカップルと関係性のある人間がまたカップルになって、最後はBのの関係者で終わる……という相関関係が円になるようなカップリングを完成させればいい。カップルがすべて成立し、円環が完成した時点で、脱出できる」
 つまり、誰か一人でもあぶれたら、失敗。
「ホ、ホモカップルって……女はどうすればいいんだ」
「心配するな。女はこの世界では生物学上の男に変わる。男体化というやつだ。安心しろ」
 安心できることなのだろうか。
「失敗したら、どうなるの?」
 その質問に、闇璃は困ったようにしばらく黙ってから、推測だが、と前置きして告げた。
「普通の人間なら、死体となって、現実世界に戻される。お前たちはフェイトを得ているから、瀕死の重傷程度で済むだろうが、アーティファクトは破壊できず、何の解決にもならない、無駄な重傷となるだろうな」
 ゲームといえど、侮れない。ますますぞっとするリベリスタに、闇璃はさらっと忠告を残し、
「……きっちりと自分たちの設定をねりこみ、うまく狙いのカップルになれるように綿密な計画を立ててから、ゲームに入ることを勧める。……じゃあ、健闘を祈る」
 スタコラサッサと出て行ってしまった。
 がちゃん!
 外から鍵がかかる音が室内に響く……。
「えええー。ええええーーーー」
 後には、動揺しきりのリベリスタとパソコンと、おぞましきUSBメモリだけが残された。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:あき缶  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月30日(火)23:32
 お世話になっております。あき缶でございます。
 イージーEXです。
 戦闘は発生しませんが、綿密な作戦が要求される任務です。積極的な相談が吉。

●成功条件:ゲームを破壊する
 破壊方法:ループする人間関係で、全員が幸せなホモカップルになること
 【ループする人間関係の例】
 A×B→C×D(Aのライバル)→E(Cの上司)×F→G(Fの親友)×H→I(Hの後輩)×J(Bの兄)→A×B
 必ず、Aの関係者で始まったら、Bの関係者で終わること
 ループできないと、失敗です

●プレイングに書いておくべきこと
 ・【必須】カップリングの相手:相手に矛盾があると失敗です
 ・自分の設定:誰の関係者なのか、どういう立場なのか、女性の場合はどんな男性になっているのか(口調など)
 ・どんな展開でカップルになるのか:あらすじ程度で。なお、描写は『12才以上対象』程度

 なお、ゲーム内での設定は自由ですが、男性は年齢と見た目、女性は年齢を、ステシの設定から変更することができません。
 白紙だと好き勝手に書かれます。学園モノだったはずなのに、気づけばマフィアものになった挙句に、失敗判定という結果もありえます。
 なお、主な舞台は『私立浄土高校』です。
 ゲーム内でも、一般スキルは使えます。

●失敗すると
 ループできない、もしくはカップリングが成立しないと、全員が問答無用で重傷判定となります。

 それではご検討をお祈りしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ホーリーメイガス
神谷 小夜(BNE001462)
覇界闘士
阿部・高和(BNE002103)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ナイトクリーク
アーサー・レオンハート(BNE004077)
覇界闘士
狗島・直征(BNE004606)

●はじめから
 ブリーフィングルームに残されたリベリスタ六名は、ノートパソコンをACアダプタに接続し、電源ボタンを押した。
 フィィイインとファンが回りだし、BIOSがピッと鳴いて正常を知らせる。
 聞かされているゲームの内容に興奮を隠せない『いい男♂』阿部・高和(BNE002103)、騙されたと白髪の少女を睨む『三高平妻鏡』神谷 小夜(BNE001462)、その視線を華麗にスルーする『』雪白 桐(BNE000185)、今後の薄い本作成の糧にせんと気合十分な『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)、一般人を助けたい一心の『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)を後ろに、『』狗島・直征(BNE004606)は準備が出来たパソコンに、おもむろにUSBメモリを挿し込んだ。
 USBメモリが自動再生し、ゲームが始まる。
「硬派な俺なのに胸のときめき抑えきれない!!」
 はしゃぐ阿部。3組のカップルが出来ればいいって言われているのに、もはや全員ほもだちなる野望まで抱いてのご参加です。お疲れ様です。
「今度、桐さんを酷い目に遭わせます」
 ジト目の小夜。『ゲームの世界を体感できるよ、おもしろいよー』という甘言に惑った結果がこれである。宣伝文句は何一つ嘘はないのだが……。
「終わったらご飯とかおごりますから」
 淡々とした桐。小夜を引きずり込んだのは彼女である。ひどいひとだ。
「現役プロの本気が見れます、これは薄い本作りが捗る!」
 気合十分のセレア。既に彼女の目は、冬の祭典を見据えている。まずは依頼を考えて!
「誰かが汚れずに生きていけるなら、俺はどれだけ汚れてもいい」
 アーサー、一人シリアスモードだよ! これゲームだから気軽に構えて、おじさん天使!
 後ろの喧騒には目もくれず、真面目に狗島はゲームのウィンドウへカーソルを動かし、『はじめから』をクリックした。
 途端、パソコンのディスプレイがまばゆく光を放つ。
 光が通常に戻った時、もう室内にリベリスタは居なかった。

●ムスク香る三日月夜
 カァカァと鳴き交わし、ねぐらへと帰っていくカラスの群れが、私立浄土高校の上空を埋める。
「阿部、精が出るな」
 着流しの精悍な中年が、軽トラックの整備に勤しむ用務員へと声をかけた。
 阿部と呼ばれた青年は、爽やかに笑うと立ち上がった。機械油で汚れた頬が働き者の証明だ。
「ああ、アーサー先生。これくらいで修理を呼ぶわけにもいかないんでね」
 軽トラックの後ろには、鋤が結び付けてある。運動場の整備用の車両なのだ。
「俺は自動車修理工を目指していたこともあったんだぜ」
 だから、こんなことは朝飯前だと青いツナギ姿の阿部は胸を張る。
「へぇ。それが何故学校用務員に?」
 単純な興味のみでアーサーは尋ねた。
 阿部は、待ってましたとばかりに勢い込んで答える。
「俺は男子高校生が好きで好きでたまらないのさっ!」
「へ、へぇ……」
 返事のしようが無い、とアーサーは一歩後ずさり、困ったように笑みを浮かべる。
「おっ、よく見りゃアンタもいい体してるじゃないの?」
「えっ」
 アーサーは戸惑い、一歩踏み出してきた阿部から逃れるようにまた一歩足を後ろへ動かしかけた。
 そのとき、アーサーの背中に鋭い声が刺さる。
「レオンハートさん、もう狗島さんは体育館へいったぞ。待たせるつもりか」
 神経質そうな声の主は、イライラと腕を組み、スクエアの眼鏡の奥から二人を睨みつけていた。
「す、すまん、アレイン。……今から補講なんだ、失礼する」
 助かったとばかりに強持て顔を僅かに緩め、アーサーはグラウンドから本来の目的地たる体育館へ向かった。
 同僚を見送った美術教師、セレア・アレインはツカツカと阿部に近寄った。
「まったく。油を売ってるんじゃない」
「手厳しいな、セレアは。そんな怖い顔をするなよ。昔はサークルでよく語り合ったじゃないか」
 ハハハと阿部が笑うも、セレアの顔は怖いままだ。
「昔の話だ。……レオンハートさんをあまりからかうんじゃない」
「え? まさか、あのナイスミドル、お前さんのコレなのかい?」
 阿部がキョトンと親指を立ててみせる。
「なっ! そんなわけないだろバカ! お前じゃないんだバカ!」
 真っ赤な顔でがなって否定するセレアの肩を、阿部は笑顔で叩く。
「ハハハ、そんならよかった」
「何がだバカ。……あの人は、色恋に慣れてない人だから、男なら誰でもホイホイ食っちまうお前とは違うんだ。あまり困らせるな。……それだけだ」
 先ほどの怒号が嘘のように、セレアは静かに告げると、阿部に背を向ける。
「おい?」
 話は終わったとばかりに歩き出すセレアへ、阿部は戸惑ったように声をかけた。
「帰る。もう定時は過ぎた。私にお前とおしゃべりしてる時間はないんだ」
 ツカツカとセレアは足早に駐車場への坂を上がっていった。
「くそ、誰にでもいい顔をして……! 生徒に手を出したら、ただじゃ済まないんだぞ! 私の平穏な仕事の日々を乱したら許さない!」
 まだ、セレアはこの苛立ちを、男に見境の無い阿部への怒りだと思っている。
 赤い高級スポーツカーは、乱暴にドアを閉めても、緻密にチューニングされた通りの音を奏でてくれた。
 音楽とも称されるスポーツカーのエンジン音が遠ざかっていくのを聞きながら、阿部は肩をすくめると、軽トラックの整備に戻る。
「可愛い嫉妬しちゃってまぁ……」

「あれ……」
 体操服に着替えた狗島は、がらんとした体育館の入り口で思わず呟く。
「僕一人ですか……」
 体育の補習だが、彼以外の生徒はいないらしい。また、まだ教員であるアーサーも来ていないようだった。
 狗島は自主的に体育倉庫からマットや踏み切り板、跳び箱を持ってきて組み立てる。
 彼が休んでいた日に、同じような跳び箱が苦手な生徒は、課題をこなしきってしまったのだろう。
 おいていかれたような寂しさを抱えながらも、狗島は黙々と作業をこなす。
 決して体育が苦手なわけではないのだが、どうにも跳び箱だけが苦手で居残ってしまっている狗島だ。
 だが、どこか嬉しさもあった。
 保体教師のアーサーは、父親のような度量の広さと優しさと厳しさを兼ね備え、五十路とは思えぬ隆々とした逞しい体をしている。
 狗島はどうも、男性も恋愛の対象にしてしまう性的嗜好の持ち主らしい。
 しかも、父親がいないせいか、年嵩の男性への憧れが強い。
 と言うわけで狗島は、アーサーへの恋心めいた熱い感情を秘めている昨今なのだ。
 二人っきりの補習が、辛いわけが無い。
 いや、むしろ……。
「待たせてすまなかったな、狗島!」
 そこまで考えた時、ようやく体育館にアーサーの声が響いた。
「ああ、もう準備も整えてあるのか。真面目で助かるよ」
 ちゃんと揃った跳び箱一式を見て、アーサーの顔が綻ぶ。
「いえ。早く始めてください、先生。よろしくお願いします」
 笑顔で褒められ、胸が苦しくなりつつも、狗島は悟られぬように、つとめて無表情で返事をした。
 キュッ。
 体育館の床と上履きのゴムが擦れる音を立てながら、少年は踏み切り板へと走る。
 ダンッ。
 力強く踏み切り、彼の体は障害物を見事に飛び越え……。
 ダフッ。
「……すみません」
 飛び越えきれず、狗島は跳び箱にまたがってしまった。
「いや、謝ることじゃない。もっと跳び箱の奥のほうに手を付くようにしよう。大丈夫、あと少しで跳べる様になる」
 項垂れる狗島を、アーサーはアドバイスと共に励ました。
 何度も何度も挑戦するが、うまく行かない。
「この調子だと、夏休み返上ですかね僕……」
「弱気になるな。きっと今日中に跳べる様にしてみせる。踏み切る位置も、手をつく位置もよくなってきた。あと少しだ」
 何度目かの挑戦。狗島はまた床を蹴り、踏み切り、箱に手を付く。
 すると。
 ふわりと汗とムスクが混ざった香りが鼻先をくすぐった。
「!」
 すたんっ。
「せ、せんせい」
 マットの上に着地した狗島は、信じられないという顔で跳び箱の傍らに立つアーサーを見る。
「うん、やはりな。体重を後ろに残しているから失敗してたんだ。俺がしてやったように前へ体重を移してみろ。今みたいに飛べるはずだ」
 笑顔で何度も頷くアーサーは、箱を跳ぶ狗島の体を支え、前へ送り出すように押したのだった。
「は、はいっ」
 とまるで跳び箱が跳べて嬉しいように装いつつも、狗島が本当に嬉しかったのはアーサーに触られたこと。
 ――手が、大きかった。あったかかった。
 目が潤むほどに胸が騒ぐ。少し触られただけで、電流が走るようだった。
「さっきの感覚、忘れるなよ」
 忘れるわけが無い。アーサーに触ってもらえた感覚を忘れるなんて、勿体無いことは出来ない。
「はい!」
 狗島は、思い切り床を蹴った。
 力いっぱい踏み切って、手をつく位置も完璧、そしてアーサーの手を思い出す。
 すたんっ。
 難なく狗島はマットの上に着地した。
「と、とべた……」
「やったぞ、狗島! でかした!」
 アーサーが我が事のように喜んで、狗島の頭を撫でる。
「ありがとうございます!」
「ああ。もう遅いし、もう一度跳べたら補習はおしまいにしよう」
「はい!」
 感覚を掴んでしまえば、体育が苦手ではない狗島にとって、もはや跳び箱は敵ではない。
 出来て当たり前のように跳べてしまう。
「よかったよかった。これで夏休みは安泰だな。さあ、片付けるとするか。狗島は着替えたら、帰っていいぞ」
 と笑って踏み切り板を拾い上げるアーサーに、狗島は少しだけ寂しく思った。
 ――夏休みの間は、先生に会えない。補習が続けば、会えたのに。
「手伝います」
 狗島は跳び箱を掴んだ。片付ける間だけでも一緒にいる時間を引き延ばしたい。
「いや、もう遅いから、俺がやっておくよ」
「いえ、やらせてください。先生に遅くまで付き合ってもらったのは僕なんですから」
「……まじめだなあ。じゃあ、お願いするかな」
 と苦笑するアーサーは、狗島の下心など露ほども気づいていないのだ。
 それが寂しくて、悔しくて、でもほっとして。狗島はもう自分の本心が何処にあるのか分からない。
 二人で協力すれば、あっという間に体育館は片付いてしまう。
「せえのっ」
 ドサッと意外に重いマットを重ね終わり、フゥとアーサーは息を吐く。
「手伝ってくれたおかげで早く終わったな。さあ、かえ……!?」
 一瞬で視界が天井に変わり、ギョッとアーサーは目を見開いた。
「狗島!?」
「……」
 アーサーの背に顔をうずめた狗島は、アーサーを押し倒したまま突っ伏して何も言わない。
「狗島……どうした?」
 アーサーは優しく尋ねた。
「せんせい」
「うん」
「先生、先生、先生!」
 ムスクの香りを肺いっぱいに吸い込み、狗島は耐えられず叫ぶ。
「好きです……ッ!!」
 アーサーの体がこわばる。
「待て!? お、俺たちは男同士だ。それに俺はオッサンだぞ?!」
「いいんです! それでいいんです! それがいいんです!!」
 体育倉庫で怒鳴りあっても、もはや夜は遅い。目立ちはしない。
「狗島ッ」
 アーサーが身じろごうとするのを、狗島は渾身の力で押さえ込む。逃げられたくない一心で。
「……狗島、逃げないから、……前を向かせてくれ。お前の顔を見たい」
 ようやく拘束が緩み、アーサーはくるりと狗島の腕の中で寝返りを打つ。
「……そんな顔をするな」
 泣きそうな少年を優しく見、アーサーは情けなく笑った。
「俺は、こういう色恋の経験が無いんだ。大人の魅力とかリードとか、期待されても出来ないぞ」
「……そんなの、いいです」
「そうか。……教員と生徒は……禁断の関係なんだがなぁ……」
「先生?」
 クスクスと笑う震動が体越しに伝わったのだろう、狗島が怪訝そうにアーサーを覗き込んできた。
「いや、どうしようかなと思ってな。急に両思いになってしまって……」
「えっ」
「だが、卒業するまで色々とお預けだぞ、狗島」
「……三年間、付き合ってくれるんですね」
「…………お前さえよければな」
 真っ赤な泣きそうな顔で、二人は顔を見合わせた。
 それを、倉庫の窓から覗き込み、安部は微笑ましく笑うと、すっと壁から身を離す。
「青春だねぇ~」
 阿部が見上げる月の形は、三日月。
 二人を邪魔しないように、そっと阿部は用務員室へと歩いていく。その足取りは、どこか軽い。

●溺れる前の悪あがき
 朝、雪白はバイト先へ赴くべく、マンションの三階の自宅に鍵をかける。
 大学が休みになった今からが稼ぎ時だ。恋人の居ない彼にとって、夏休みは勤労の時間である。
「あれ」
 ふと振り向くと、親戚の阿部が白髪の少年を伴って歩いていた。
 彼が気づくと同時に、阿部も雪白に気づいたらしい。
「おっ、雪白じゃねえかぁ、久しぶりだな! んだ、そんなところに住んでたのか! ずっとここは散歩コースだったのに、ちっとも知らなかったぜ。灯台下暗しとはこのことだな!」
 大声で三階部分へと地上から話しかける阿部に、雪白は羞恥を覚える。
「阿部さん……朝から近所迷惑ですよ」
 慌てて階段を下り、阿部をたしなめる。
「すまんすまん」
 たはは、と後頭部を掻く阿部に、雪白はフゥと息を吐いて、少年を見ると尋ねた。
「その子は新しい恋人でしょうか?」
 阿部は意外にも手を振って否定した。
「いやいや、そんなことしたらアーサーに怒られちまうよ。悩める青少年の恋愛相談がてら朝の散歩をね」
「どうも、狗島です」
 少年らしさよりも男の逞しさを優先させたような少年だったが、物腰は丁寧だ。
「じゃあ、阿部さんは珍しくフリーなんですか」
「そういうお前はどうなのよ?」
「えっ……今は、私は関係ないでしょう」
 無表情のまま、雪白は反駁する。
「直征、こいつもお仲間なんだぜ?」
 ニヤニヤと親指で雪白を指し、阿部は狗島に雪白の嗜好について告げる。
「! その話はいらないでしょう……あ、遅れる! すみません、また今度」
 ここで阿部に関わっていると遅刻する。
 雪白は慌てて駅へと駆けて行った。

「桐さん、おはようございます」
「お、はようございます」
 駅から全力疾走して、どうにかタイムカードの打刻はギリギリ間に合った雪白に、社員が声をかけてくれる。
 神谷小夜は、男にしては長めの髪を揺らし、雪白に笑顔を向ける。
「そろそろ、三番シアターの入場始まるから、モギリお願いします」
 入場者特典が入った箱を抱えた神谷が、雪白に笑顔で早速指示を出した。
 雪白のバイト先は、街にある比較的大きな映画館だ。
「あ、はい!」
 彼の後ろを小走りに追い、今日もバイトが始まった。
「それにしても」
「はい?」
 今は、見終わった客が出てくるのを、ゴミ箱の前で待っているところ。
 しんとしたロビーに、漏れ聞こえてくる映画のエンディングテーマを聞いていた雪白は、神谷が呟くのも、聞きつける。
「いや、最近、桐さんとよく会うと思って」
「ああ。夏休みで、シフトいっぱい入れるようになったので」
「そうか、学生さんですもんね。でも、せっかくの休みなんですし、友達と遊びに行くのも大事ですよ」
「遊ぶのにもお金が必要なんですよ」
「ああ、そうですね」
 本当は違う。
「デートってお金かかりますし」
「いや、彼女とかいませんよ」
 彼氏にしたい人は居ますけれど、というセリフは飲み込む。
 そう、男を恋愛対象にする雪白は、神谷が気になっているのだ。
 好きな人ともっと一緒に居たいから、友達づきあいも放棄してバイトに勤しんでいるのである。
 神谷は社員だから、バイトよりもシフトを把握しやすい。
「あの」
 勇気を出した雪代が、神谷に『一緒に今度遊びませんか』と言いかけたとき、客がぞろぞろとシアターから出てきた。
「珍しいな。レオンハートさんが映画に付き合ってくれるとは。しかもメロドラマに。こういうのは分からないと言っていなかったか?」
 往年の名画をリバイバルしていた三番シアターから出てくるなり、セレアはアーサーにいたずらめいた口調で言う。
 アーサーとセレアは同僚というよりは、友人の間柄である。性格や外見には似通った場所がないのだが、なかなかどうして美意識やセンスが合致して話が盛り上がるのだ。
「それとも、分かるようになったとか?」
 セレアとしては、ほんの冗談だったのだが、押し黙っていたアーサーの顔が耳まで赤面していくのを認めてしまい、唖然と口を開く。
「ま、まさかの展開、だな……。もし、差し支えなければ、話を聞かせて貰いたいところだ」
 口は堅いぞ、とセレアは己の薄い唇を撫でてみせる。
「そうだ……な。吐き出す場所が、欲しかったところだ」
 アーサーはそう呟くと、映画館の近くにある雑居ビルの純喫茶へとセレアを誘った。
 カフェとは到底言えない、薄暗くどこかかび臭ささえ感じる古びた店は、若者を遠ざけていて、閑散としていた。
 無愛想な老店主に、コーヒーを二つ頼み、奥のボックス席の最も隅へ座ったアーサーは、深刻な顔で告げる。
 狗島と、恋仲になったと。
「……教え子じゃないか」
「そうだ。だから、一線は卒業後に、と言い含めているが」
 セレアは、アーサーの真面目なところを好ましく思う。
 どこかの硬派を気取ったナンパ男とは大いに違う……とまで考えて、セレアはぎょっとして、首を横に振る。一瞬でも、阿部のことを考えた事自体が信じられないセレアだ。
「どうした?」
「あ、あぁなんでもない。続けてくれ」
 アーサーはポツポツと、立場に大きな差がある恋人関係についての悩みや戸惑いを漏らしていく。
 愛しいのに、好きなときに触れられない切なさ。
 他人と仲良くしていることは、教師としては喜ばしいことのはずなのに、嫉妬の炎になめられる辛さ。
 互いの立場を考えれば、休日に連れ立って歩くことも憚られるもどかしさ。
「……正しいとは、思っているが。これで、彼が俺に愛想を尽かしてしまわないか、と毎日怖い。三年も待ってくれるだろうか。いや、待たなくたっていいとさえ思うんだ。彼は若いのだから、今こそ誰に遠慮することもない相手と青春を、謳歌すべきなんだと、思うのだ」
 アーサーは、教師と生徒という関係性以上に、歳の差に悩む。だからこそ、彼のために身を引くべきではないかという考えから逃げられない。
「へえ……。実際そうなったら、嫌なくせにか」
「……そうだ」
 足を組み、肘をついて、まるで女王めいた態度のセレンが投げた、意地悪い言葉を、アーサーは反論せず、唇を噛み締め受け止めて、うつむく。
 無言の肯定。女王の顔は不機嫌そうに歪む。
「自分の気持を押さえつけて、思い込みで身を引くのか。愚の骨頂だな。よく話しあえ。本当にそれが、彼の幸せかどうかを」
「……話せるものか。相手は年下で、俺は……、教師だぞ」
「ほぉ。教師が、いや大人が悩まないものだなんて、嘘を教える気か」
 ハッとしたように、アーサーがセレンの目を見る。
 セレンは横柄なポーズはそのままに、フッと笑った。
「話し合え。恋人に頼られて、嫌な奴はいないよ」
 コーヒーを飲み干すと、すっと立ち上がり、セレンはアーサーに背を向けたまま手を振る。
「相談料は、ここのコーヒー代で勘弁してやるよ。本当は、僕は高いんだぞ」
 言い捨てて、つかつかとセレンは明るい外へと、出て行った。
 アーサーを助手席に乗せて、映画にやってきたが、彼も大人だ。電車で帰る位できるだろう。
 セレンは、スポーツカーに乗ると、颯爽と発進する。
 学校に戻って、絵の続きをしなくてはならない。そもそも映画も息抜きの休憩に行ったのだから。
 学校の教職員用駐車場に、駐車するなりバタムと小気味の良い音を立て、スポーツカーから降りたセレアは一目散に美術室へと向かう。
 夏季休暇中の学校、しかも朝練習などとっくに終わった夕方に、人気はない。
「……あいつも、出かけているのか」
 用務員室に電灯がついていないことを、無意識に確認してセレアは独りごち、そして、愕然とした。
「っ、あいつがどうしていようが、僕には関係ない!」
 憤然と大股で美術室へ入ると、画架にかかったキャンバスへと絵筆を滑らせていく。
 いつまで描いていただろう。芸術家の常だが、没頭すると時間を忘れてしまう。
「っ、もうこんな時間か」
 もはや夜も更けた時間だということに気づいて、セレアは飛び上がった。
 そろそろ切り上げて帰宅しなければ。
 アトリエを借りる金を惜しんで、学校に無理を言って美術室を借りているのだ。あまり目に余る行動をすると、叱られる。
「よーぉ、せいが出るねえ。モデルにでもなってやろうか?」
 突然ガラリと扉が開くなり、阿部がそんなことを言いながら顔を出す。
 ドキリと心臓が跳ね上がったのは、突然のことで驚いたから……だけだろうか。
「っ、僕が書いているのは風景画だ。余計なお世話だ」
「なんだよ、せっかく愛車のライトがつけっぱなしだって教えに来てやったのに」
 と膨れる阿部に、セレアは青ざめる。
「なっ!!?」
 阿部を押しのけるように駐車場へ走ったが、後の祭りだった。
「……だめだ、バッテリーが上がっている」
 何度かエンジンを掛けようとしたが、セルモーターがびくともしないことを認めざるを得ず、セレアはがくりとうなだれた。
 セレアは心からため息をついた。ロードサービスを呼ばなくてはならないし、バッテリーも交換しなければならないだろう。
「あーあ、やっちまったなぁ~」
 と後を追いかけてきて、のんびり言う阿部に、セレアはキッと鋭い視線を向けた。
「もっと早く言え!!」
「何だ、その言い方。ジャンピングスタートくらいしてやろうと思ったのに」
「…………」
 セレアは、ふぅと息を吐いた。
「悪かった。カリカリしていた」
 どうにも、阿部にはツンケンしてしまう。何が不満なのか、自分でも分からないが。
「まぁでも、明日だな。暗いからケーブルの点検が出来ない。なんせ、滅多に使わないからなぁ。使えるかどうか、明るい所で確認しないとな。っつーわけで、今日は泊まっていけよ。夕飯できてるぜ」
 阿部は爽やかにセレアを用務員室へ誘った。
 セレアもよく考えれば、明るい室内でケーブルを点検し、懐中電灯で覗き込みながら作業をすればいいことは分かるはずだったのだが。
 その時、なぜかセレアは素直に阿部の口車に乗ってしまったのだ。
 用務員室につくなり、阿部はセレアを万年床へと押し倒す。
「!! 何を!」
「何を? セレア、隠してるつもりでも、分かるぜ。お前、俺が好きなんだろう?」
「はぁ?!」
「ずっと俺のことを目で追っかけるし、俺に恋人が居ないと聞けばあからさまにホッとする」
「違う! それは、生徒がホモの毒牙にかからないようにと……」
 セレアの反駁に、阿部は、そうかぁ? と間延びした返事をした。
「それに、だいたいその態度、小学生男子そのものだぞ。気になるからって俺にばっかりきつくあたるくせに、避けもしない。期待しちゃうぜ」
 セレアはもがきながらも、脳内のもやもやが氷解していく感覚を覚えていた。
 ――ああ、そうか、僕は阿部さんが好きなのか。
 そう考えれば全ての辻褄があうのだ。
「くそっ、だったら僕を上にしろ! 攻められるのは趣味じゃない!」
「おいおい、大きく出たね。だがそうはいかさないぜ?」
 夜通し、彼らは主導権を争った。
 喧騒もどこ吹く風とばかりに、真南には満月が静かに輝いている。

●そしてフィルムは丸まって
「お早うございます」
「おはようございます」
 駅への道を歩いていた神谷は、リュックを背負った狗島を認め、挨拶を交わす。
「大荷物ですね、どちらへ?」
「ハイキングです」
 少し遠方の山なら、さほどひと目を気にせずに会えると二人で考えたとっておきのデート先だ。
 狗島の顔は晴れやかである。
「最近、狗島さん、楽しそうですね。いいことでもありましたか?」
 近所の顔見知りだというだけなのだが、神谷は思わず尋ねてしまう。
「あ、いや、その……恋っていいものですね!」
「えっ?」
「いや、その、あの、失礼します!」
 きょとんとした神谷を見て、自分が恥ずかしいことを口走ったと気づいた狗島は、真っ赤になると、脱兎のごとく逃げ出した。
 その背を見送り、神谷は口を緩める。
「青春ですねぇ」
 そして、神谷は歩き出した。今日は映画館ではない。
 勤め先のバイト、雪白桐に家に呼ばれたのだ。
 神谷が気になっていた新作ゲームを手に入れたから、一緒にやろうと誘われれば、断る理由はない。
 可愛い後輩に懐かれて、嫌がる者はいなかろう。
「手土産は何がいいですかねえ?」
 料理は得意だから、材料を近所のスーパーで仕入れて食事を作ってみれば。彼の好物は何だろう……などと考えだし、まるで恋だな、と神谷は自嘲しながら、てくてくと着実に雪白へ近づいていく。
 新作ゲームは、爽快なアクションゲームだった。
 軽快なムービーや、面白いシステムに、雪白も神谷も夢中になる。
 雪白が、ミッションモードのクリアに必死になっている横顔を、微笑ましく見て、神谷はそっと席を立つ。
 そろそろ昼食時だ。
「はぁ。やりました。クリアですよ、小夜さん。……あれ?」
 ずいぶん夢中になってしまったらしい。
 ようやくエンディングムービーを始めたテレビから、目を離し、隣にいるはずの神谷を見やると、彼が居ない。
「あれ?」
「ああ、ちょっと待ってください」
 パタパタと小走りにキッチンから、神谷が出てきて、楽しみにしていたエンディングを見だす。
「小夜さんどこ行ってたんですか?」
 タイトル画面に戻った画面を見届け、雪白は神谷に話しかけた。
 すると神谷は笑顔で答える。
「ああ、ご飯を作ってたんです。今持ってきますね! 勝手に台所借りちゃいましたけど、材料はちゃんと自分で買って来ましたから」
「いえ、そんなのは、いいんですけど……」
 昼食は、近所のファミレスででも済ませようかと思っていたので、神谷の心遣いが嬉しい。
「そういうところが好きなんですよね」
「なにか言いましたか?」
 とんとテーブルにチャーハンを置きながら、神谷が尋ねたが、雪白は首を横に振った。
「さ、食べましょう。いただきます」
 無表情の雪白だったが、チャーハンの味をいたく気に入ったか、ものすごい勢いで米粒がなくなっていく。
 自分が作ったものに喜んでくれるのは嬉しいことだ。
「ごちそうさまでした」
 それを聞いて、神谷が笑顔で、
「お粗末さまでした」
 と言ったのが……限界だった。
「小夜さん!」
「えっ!?」
 何が何だか分からない間に、唇が合わさる。
「えっと? えっ」
 混乱する神谷に、雪白は心中を告げた。
「好きなんです、小夜さん」
「えっと……私、なんかでいいの……?」
「いいです。ううん、小夜さんがいいです!」
 雪白が叫んだ瞬間だった。

 かちり。
 世界の何処かから、何かが噛み合う音が響いた。

 全ての関係が成立し、円環となった瞬間だ。
 ばらばらと世界は、割れた鏡が崩れるように、崩壊していく。
「ああ、戻れる! 桐さん、戻ったら覚悟してくださいね!!」
 小夜が叫んだ。

●フリーズエンド
 気づいたら、ブリーフィングルームだった。
 狗島が、『はじめに』をクリックする直前と全く変わらない配置で、リベリスタは意識を取り戻す。
「え。夢?」
 セレアが思わず呟くが、狗島は首を横に振った。
「画面を見てください」
 ディスプレイには、『THE END』とだけ表示されていた。
「依頼は成功ってことだな! うぅん、あのまま全員で全校生徒をホモるぞ! と思っていたのに!」
 阿部が惜しむも、もうゲームは壊れきっている。
「じゃあ、私もう失礼するわね! 記憶が鮮明なうちに描き上げないと!」
 セレアが叫んで走り去った。もう、ブリーフィングルームの鍵も開いている。
「なんとか、内容は全年齢対象で済んだようだな……。家に帰って、シリウスたんをもふもふして癒されるんだ……」
 ぶつぶつ言いつつ、アーサーも去っていった。
 目的は達成できた。ボーイズラブゲームには、若干不相応なガチムチオッサンという自分だったが、なんとか配役をこなすことが出来たことは、素直に喜びたいアーサーである。
「さあ、桐さん、ひどい目にあってもらいましょうか!」
 と小夜はどこか機嫌よく、桐を引っ張っていく。
「ひどい目ってどういう目に……?」
 狗島が思わず尋ねると、小夜はコケティッシュに笑った。
「大丈夫です。お酒とお食事奢らせる程度、ですよ?」
 そのクエスチョンマークが、引っかかるが、兎にも角にもリベリスタは、世にも奇妙なゲームから生還を果たしたのであった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お世話になっております、あき缶でございます。
この度は、ご参加いただき本当にありがとうございました。

結構まじめにボーイズラブを書いた気がする。
ホモじゃなくてボーイズラブを。

またのご参加、お待ちしております。