● ザ、ザー…………。 『うらのべ? う・ら・の・べ☆ いっちにっの、じぃくはいるっ。はいるひふみとおさま!!! いぇーいどんどんぱふぱふ。さて今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』 特殊な無線機から流れるのは、ある組織の構成員のみが聴けるラジオ番組もどきだ。 『DJはいつものこのわたし『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけしま~す』 周波数は特殊回線の123。悪ふざけのお遊びで、構成員にとって然程重要な訳ではないが知っておきたい情報を隠語で知らせるラジオ番組。 DJである裏野部四八……、死葉のトークの軽妙さも相俟ってこのお遊びには組織内でも意外と支持者が多い。 しかし何時もと違うラジオの出だしに、そう言えば『親衛隊』とやらが今此の国で暴れていた事を思い出す。 …………つまりは其れに絡む話が今夜の主題なのだろう。 『今日はね、皆にひふみとーさまからの言葉を伝えるよ。でもちゃんと裏野部式脳内翻訳してね!』 さてさて我等が首領のお言葉は? 『えーとね、「ようオマエ等、オマエ等の事だから多分聞いてねェって奴も多いだろうが、今アークと交戦中の『親衛隊』って組織を七派が支援してる」』 ドイツが旧軍の残党、親衛隊。彼のバロックナイツが1人『鉄十字猟犬』リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターが率いる軍人達。 裏野部を含む主流七派は彼等と不可侵の協定を結び、且つフォーチュナによる情報提供をはじめとする各種の支援を行なっている。 七派が揃っての支援など異例の事態にも程があるが、何せ前回は一二三が直々に動いてアークと交戦までしたのだから事の大きさも知れようと言う物だ。 『「でもよ、折角あの面倒臭ェアークとドンパチやってくれてるんだぜ。親衛隊には単なる支援だけじゃなくてもっと真心の篭った応援が必要じゃねェかってオレは思ったのさ」』 …………真心(笑)。 『「と言う訳で親衛隊っぽい服を用意したからオマエ等此れ着て暴れて来いよ。精々派手に応援しようぜ、裏野部流によ。そしたら七派代表とか言ってるあの黒覇の奴も大喜びだろうさ」』 あぁ、成る程。 確かに自分等が親衛隊のコスプレをして目立てば、プライドの高い本物の親衛隊達は良い気はしないだろう。 彼等は白人至上主義であり、偶像への崇拝、象徴への信仰が大好きだ。 彼等の心象を損ねれば、彼等に七派の代表と認識される黒覇も面子を潰せるかも知れない。 イヤイヤ勿論そんな裏の考えがある訳では無く、純粋な善意と真心の応援ではあるのだけど、黒覇禿げろ。 『「此の国にはオレ等が、裏野部が在る事を見せつけてやろうぜ」だってさー。親衛隊制服ってかっこいいね~』 まあ無論そんな些細な意趣返しが本当の目的ではないだろう。 折角関わる羽目になったのだから、ならば小さな流れでも積極的に起こし、親衛隊や<逆凪>、彼等と言う激流の流れ着く先を少しでも見極めようと言うのが裏野部一二三の、我等が首領の考えの筈だ。一体彼等が此の国に何を齎すのかを。 或いは最近のお気に入りであるアークを突きたいだけの可能性もあるけれど。 『武装親衛隊って言えば無辜の民を皆殺し☆ だから皆も其れに倣えば良いね! 何時も通り何時も通り』 酷い偏見に満ちた死葉の言葉。 やれやれ、では我等が首領の御心のままに。 血と恐怖を我等が長に捧げよう。 「ハハハ、つーわけでさぁ、まあ悪いがお前ら死んでくれよ」 嗤いと共に引かれた引き金が、凶事の始まりの音を鳴らす。 ● 「諸君、早急に準備してくれ。裏野部がまた騒動を……、虐殺を起こす」 頭痛を堪える様に頭を押さえ、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)がリベリスタ達に告げる。 溜息を一つ。深く、深く、心を落ち着け、逆貫は手短に伝えるべき事を脳内で纏め上げた。 「何故か揃って親衛隊のコスプレをしているが、中身は何時も通りの裏野部だ。遊び半分で人を殺す。だが遊びであるが故に今回の奴等の士気は然程に高くは無い」 虐殺が起きるまでに然程の時間は無い。 逆貫は手製の資料を手渡して、最後の一言告げる。 「時間が足りない人手が足りない。全てを相手にする必要は無い。全てを救う事は不可能だ。だからせめて、諸君等の最善を期待する。……頼む」 資料 グループA(北側から侵攻) フィクサード1:『マンドラゴラ』歪螺・屡 絞首刑になった男の精液から生じる植物の名前を称号に持つ、今回出てくる裏野部派のフィクサードのリーダー。 20代後半の男。其の言葉は甘い毒。 ジョブはマグメイガス。所持EXは『マンドラゴラの悲鳴』&『マンドラゴラの雫』。所持アーティファクトは『虚弱の指輪』と『貪欲なる鞄』。 『マンドラゴラの悲鳴』 聞けば死に至ると言われるマンドラゴラの悲鳴。神遠全、麻痺、崩壊、Mアタック。 『マンドラゴラの雫』 麻薬効果を持ち、古くは鎮痛薬として用いられたとも言われるマンドラゴラの癒し。神遠単、HP回復、物神攻上昇。 『虚弱の指輪』 このアーティファクト所持者を除く、アーティファクト所持者の近接範囲に入った者は、虚弱の付与を受ける。 『貪欲なる鞄』 金銭的価値が一定以上の物ならば質量、重量を無視して詰め込めるアーティファクト。中身の重量の影響も受けない。 フィクサード2:睦月・一 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブはナイトクリーク。1月1日生まれ。 20代前半の男。 フィクサード3:衣更着・憎 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブはスターサジタリー。2月29日生まれ。 20代前半の男。 他、クロスイージス、デュランダル、覇界闘士、プロアデプト、ホーリーメイガス、マグメイガス。 グループB(東側から侵攻) フィクサード4:花見月・燦 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブは覇界闘士。3月3日、ひな祭り生まれ。 10代後半の女。夢見がちな薬漬け。元リベリスタ。 他、クロスイージス、ソードミラージュ、マグメイガス、ホーリーメイガス。 グループC(南側から侵攻) フィクサード5:万愚・節 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブはナイトクリーク。4月1日、エイプリルフール生まれ。 30代前半の男。好色な道化師。 他、スターサジタリー、スターサジタリー、スターサジタリー、スターサジタリー。 グループD(西側から侵攻) フィクサード6:写月・遠 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブはクリミナルスタア。5月10日生まれ。 30代前半の男。地味なベテラン。元リベリスタ。所持EXは『遠い月を写す瞳』(テラーテロールを極限まで鍛え上げた技)。 他、デュランダル、覇界闘士、インヤンマスター、プロアデプト。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月31日(水)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 命は軽い。 引き金にほんの少し力をこめれば、パンッ!と乾いた音一つで容易く失われていく。 あまりにあまりにあまりに軽くて、例え何処かの偉人が命の大切さを語ろうともその事実は変らなくて、笑える。 「ぎゃはははっ、やっべ頭弾けた。クソウケル」 子供の頭部にこの口径の銃弾は荷が重いらしい。 親子連れが居たので子供の頭から狙ってみたのだが、発狂したように叫ぶ母親の様がまたぞろ笑いを誘う。 まあとは言え母親も同じ所に送ってやるのが慈悲ってものだと思うのでもう一度引き金は引いておく。優しさって大事だよな。 嗚呼、命はとても軽い。 だが無論軽いのは他人の命であって自分の命じゃない。 この世が弱肉強食だと言うのなら、死にたくなければ強い群れに属する事だ。 こうして弱者を踏み躙っている時、自分の選択が間違いじゃなかった事を実感出来る。 「よーし、お前等張り切って殺せよ。そうだな、大体8割殺して2割逃がせ。その位が一二三様もお望みだろうよ」 上司の気楽な命令に、けれども周囲の同僚達はブーイングを飛ばす。 「えーっ、歪螺さんつまみ食いは無しっすかー?」 殺しは確かに楽しいけれど、血に酔えば他にも昂ぶって来る物はある。 親衛隊に扮した自分達の姿を見せた上で、殺し、或いは恐怖に怯える物が恐怖を伝播する事を期待して逃がす。だが少し位の例外は作ったって良いでは無いか。 「あー、そりゃお前……、まあ担いで持って帰れる程度ならな。けどアークの連中も来るだろうし荷物増やし過ぎるなよ」 上司の許可に歓声が上がる。矢張り裏野部は最高だ。土産はじっくりと物色するとして、まずはサクサク殺していこう。 下らない邪魔が入る前に。 救わんとやって来る馬鹿共に、土産の悲鳴を聞かせるのも楽しそうではあるのだけど、余興で命を危険に晒すのも馬鹿馬鹿しい。 なあ? 「一般人嬲ッテンナラ、お前等更に上の奴に嬲ラレル覚悟がアルンダヨな?」 「リベリスタ、新城拓真。そこまでにして貰おう、裏野部よ!」 西では『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が圧倒的な速度で敵に先んじてナイフを振るい、更には『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が双剣を構えて闘気を放つ。 「―さあ、『お祈り』を始めましょう。右手に祈りを、左手に裁きを」 「ここで、潰えなさい」 東にて『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が二丁拳銃を両手に祈りを発せば、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)が携えた白銀の騎士槍が陽光を反射し冷たく光る。 けれども救いの手は全てには届かない。全てを救うことなんて叶わない。 流れる水の様に、彼等の指の間からすり抜けて零れ落ちていく人々。 例え西と東を食い止めようとも、北と南から裏野部達は人を喰らって行進を続ける。 とめどなく血は流れ、悲鳴が轟き、粗悪な紛い物の猟犬達は哂う。 ● 全てを救うことが出来ないなんてとても残酷だ。 救えるものを選ばなきゃいけない。選ばなかったものは消えていく。 それを『仕方ない』なんて思いたくない。 「私達がこの人たちをひきつけるから、その間に逃げて」 小さく唇を噛んだ『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は、それでもせめて手の届く範囲を守る為に逃げ惑う人々に声を飛ばす。 そしてその声よりも早く駆けつけて、親衛隊姿の裏野部ソードミラージュによって振り下ろされたコンバットナイフを弾くは『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)だ。 その瞳は怒りに燃える。金の為に悪事に手を染めるなら、その心中を理解は出来ずともまだ想像は出来ぬ事も無い。 だが彼等は違う。殺す事を楽しみ、唯自身の快楽の為に命を奪っているのだ。 セラフィーナにはそれがどうしても許せない。 目は口ほどに物を言う。同じ報いを返してやる。セラフィーナの怒りは明確に相手に伝わったのだろう。 けれど裏野部からの返答は唇に浮かんだ嘲笑。 彼等にとってみれば、正義や良心と言ったお題目を盾に、結局は感情の赴くままに力を振るうリベリスタも、自分等と然して差を感じないから。 「何を夢見ているかは知りませんが、貴方達のそれが遊びなら私の『お祈り』は、貴方達を一人でも多く殺す事です」 叩き付けるは殺意。 引き金を引かれた銃口が弾丸を吐き、天より降り来るは炎。リリの放ったインドラの矢が裏野部達に降り注ぐ。 だがリリが技を放つとほぼ同時に、彼女の体はふわりと宙を舞い、激しく大地に叩き付けられた。衝撃に背が砕け、手足が萎える。 「ねぇ、なぁによぅ。やめてよぅ。邪魔しないでぇ。ちゃんとできないとおくすりもらえなくなっちゃうじゃないぃ」 頭の緩そうな口調とは裏腹の、激しい投げは明らかに達人級だ。 元リベリスタ、覇界闘士、花見月・燦。『マンドラゴラ』歪螺・屡に拠って薬漬けにされ、正気と正義を失い、半裸で、部下達からの扱いさえも散々な彼女だけれど、それでもその実力は未だ翳らない。 嘗ては眼前の彼等と同じく悪に向けられて居た筈のその力が、今は薬を得る為にリベリスタや一般人へと向いている。 倒れた仲間の命を救う為、歪螺に下った果ての姿。アリステアやリリがあの時奴の言葉に従っていれば、或いは今頃彼女と同じ姿を晒していたかも知れない。 ……けれど、宙を裂いた銀光はそんな事情を斟酌したりはしない。加減無く、容赦なく、その銀の槍は振るわれる。 放たれた疾風居合い切りは、眼前のクロスイージスを掠めて背後のマグメイガスを切り裂いた。 ノエルが敵を討つのは、憎しみや怒りの為では無い。 何者にも揺るがされぬ、もう彼女自身ですら変えられぬ、唯一つ絶対の価値観の為に。 ノエルの存在は世界の為にのみ使われ、磨り減っていくのだろう。最期のその瞬間まで、決して違える事は無く。 故に彼女はフィクサード達にとっては恐怖である。理解の出来ぬ行動理念の薄気味悪さに怖気が震う。 一方、西側でも同じく戦いが始まっていた。 野良犬達を打ち殺さんとリベリスタが武器を振るう。銃弾が舞い、剣戟が踊る。 「時ヨ加速シロ私ハ誰ヨリモ疾イノダカラ」 飛び交う銃弾よりも更に早く振るわれるリュミエールの刃。超越した身の軽さは時折彼女に追加の行動を可能とさせる程で、低い姿勢から突き上げられた短剣に血が二度噴き出す。 拓真の振るうガンブレードが銃弾を撃ち出す。無数の蜂の襲撃の如くばら撒かれる無数の銃弾、ハニーコムガトリングが裏野部陣営を抉って行く。 其れは誰が為の正義か、誰が為の力か、Broken Justiceと名付けられた魔女の鍛えし刃は火を吐き続ける。 だが裏野部達とてむざむざと虐殺の阻害を受けたままで終われよう筈がない。 唯の遊びとは言え、あの裏野部一二三にやって来いと仰せつかった遊びなのだ。リベリスタが出て来たから何も出来ずに大慌てで逃げて来ましたでは流石に面目が立ちやしない。 インヤンマスターが符をばら撒き、陰陽・結界縛、リベリスタ達の速度を低下させれば、プロアデプトは眼前のリュミエールをスーパーピンポイントで貫き後衛をも狙う。 更にはデュランダルや覇界闘士が己の得物を振り翳した……、けれどその時、 「裏野部一二三って、ひょっとして余り頭が切れる方でも無いのかな」 一時とは言え場を凍らせる言葉を呟いたのは『迷い星』御経塚 しのぎ(BNE004600)。 裏野部フィクサード達にとっては絶対の、或いは誰にとってもアンタッチャブルである筈の裏野部一二三にはっきりと喧嘩を売るその言動に一瞬衝撃が走り抜ける。 だが無論しのぎとて何の意味も無しにその言葉を吐いた訳では無い。 例えば、この作戦が止められて失敗したとするのなら、裏野部は余計な事をした挙句、親衛隊の服装で誤魔化して自分たちに泥が被らないように細工してる軟弱集団と言われても仕方ないではないかと、しのぎはそう思ったのだ。 まあそんな真っ当な理屈が通じる相手で無い事は薄々理解していたけれど、それでも思わずに、そして言わずには居られない。 だって、何故なら、 「え? 口が悪いって? やだなあ。しのぎさんは、ちょっと怒ってるだけだよ」 それ以上でもそれ以下でも無く、ただこのやりようが腹に据えかねる。 しかし半ば挑発染みたその物言いは、一瞬ちらりと顔を見合わせた裏野部フィクサードには黙殺された。 如何にも早死にしそうな彼女の言動に付き合う事に意味は無い。そもそもこれは作戦ですらなく、余興。リベリスタの出現で多少命懸けになったけれど、達成目標も無ければ今すぐ逃げても良い遊びなのだから。 つまり必死にならなければなら無いのはお前達だけなのだと、馬鹿に仕切った表情で、デュランダルは剣を突き入れ、覇界闘士は炎の腕を振るう。 だが其れでも、彼等を率いるリーダーだけは少し趣きを異にした。 はしゃぐ部下達に疎ましげな視線を一つ向けて、静かに、リベリスタ達に向かって歩み寄る。 「元リベリスタ、現裏野部派フィクサード……写月・遠?」 そんな彼の瞳を真っ直ぐに見据えるは1人の女、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)。 遠の視線が危険である事は、ブリーフィングで配られた資料に明記されていた。 「あなたの瞳が遥けき『月』の何を写すのか――私に視せてください」 遠が独自に鍛え上げた技『遠い月を写す瞳』。瞳は、彼の心の様に白く寒々しい光を放つ。 ● 戦闘は続き、そしてやがて勝敗の明暗は誰の目にもはっきりと見え始めた。 花見月・燦や写月・遠が如何に手強くとも、チームとしての総合力は矢張りリベリスタ達が上回る。 裏野部フィクサード達も決して侮って良い雑魚と言う訳ではないのだが、其れでも油断無きアークの精鋭と噛み合うには程遠い。 低空の飛行状態から突き出される霊刀東雲が光の飛沫を描く。セラフィーナのアル・シャンパーニュに光に次ぐは血の飛沫。 翼は魔力の風を生む。フライダーク、深化したアリステアの翼に宿るは破壊の力。癒し手たる彼女の力は、けれども攻撃に転じれば破壊力となるのだ。掠めたエアリアルフェザードの威力に、敵の片腕が圧し折れた。 「――悪魔に呪いを、報いを。Amen」 祈りの言葉と共にリリの銃口が吐き出すは呪いの弾丸、カースブリッド。魔力と意思を押し固められて生み出されたその一撃は、敵の身の内に食い込んで抵抗の力を蝕む。 目には目を歯には歯を。例え呪いを繰る者が何れはその報いを受けるのだとしても、今彼等に罰を与えねばなら無い。 そして銀光が貫く。容赦なく、狙った敵の心臓を。デッドオアライヴ、ノエルが繰り出す必殺にして致命の一撃。敵の命を容易く奪う、正義の略奪。 リュミエールの動きは留まる所を知らない。継ぎ目無く繰り出される連続攻撃は、変則的に、けれど確実に敵を抉る。 通常ならあっと言う間にガス欠となるであろうリュミエールの猛攻も、インスタントチャージを持つ悠月の存在に支えられればラッシュを止める必要は無い。 「一般人相手に強気に出る事が出来ても、俺に対してはその程度か? 裏野部も随分と人材不足だな」 リュミエールの速度に怯んだフィクサードを打つは威の一撃。拓真の双剣が赤く濡れ、その身体も返り血に染まる。 そして切り伏せられたソイツすらをも巻き込んで、フィクサード達に襲い掛かるは光弾。しのぎのスターライトシュートが体力を削り、或いはトドメとなって命を奪う。 リベリスタ達の付与する呪いと魅了に、フィクサード達の戦列に混乱が走る。 けれど矢張り燦に遠、2人の元リベリスタ達だけは易々とは崩せない。燦の投技に再び大地に叩き付けられたリリや、余りの動きに目立ちすぎて遠の視線に囚われた、もっと有体に言えば目をつけられたリュミエール、更には技の選択に少し迷いを見せた拓真が彼等の攻撃に運命を対価にした踏み止まりを余儀無くされる。 ……そう、踏み止まりを余儀無くされたのだ。其れは決して軽いことでは無いけれど、だがそれ以上では無い。それ以上はさせない。 アリステアと悠月の癒しが、東と西でバラバラに仲間を癒す。 ● 戦いの最中に、悠月は彼へと問い掛けた。 或いは其れは蛇足だったのかも知れない。いや、結果だけを見れば蛇足だったのだろう。 『花見月・燦は――「あなた」の仲間ですか?』 ハイテレパスを用い、その心に問う。 例えばだ。本当に例えばの話だが、裏野部と戦った男女2人組のリベリスタが敗れ、女は瀕死の男の命を救う為に彼等に下った。 けれどもその先に待っていたのは薬に、暴力に、心を砕かれ陵辱される調教と懐柔の日々。逃げる事は出来ない。瀕死の男の命と言う鎖が彼女を縛るから。 やがて男が癒えた時、けれども今度は女が彼の鎖となった。 同じ元リベリスタがマンドラゴラの手下となっており、その片方が薬漬けであるならば、その想像はあながち荒唐無稽とは言えない。 あくまでそうなのかも知れないと言った想像の域を出ない話ではあるけれど。 「黙れ」 男は、遠ははっきりとそう口にした。 それでも悠月は其処に何かを感じる。 お互いの刃を鈍らせる茶番は必要ない。例え過去がなんであろうと、今は無意味な殺戮に走るフィクサードに、リベリスタが心を砕くは無意味だと。 まるで遠の月の瞳はそう語るようで。 一旦体勢を崩せば彼等の逃げ足は早い。 何せ名目上のリーダーは居ても、彼等は其れに心の底から従うわけではないのだから。 「親衛隊が気に入らないなら、彼らに直接喧嘩を売ればいいものを」 逃げる彼等を挑発するように、 「彼らが怖いんですよね。戦うと負けるから。だって、裏野部には一般人しか相手にできないフィクサードしかいないみたいですし」 嘲るセラフィーナ。唇を歪ませ、心の底から馬鹿にして。 だが裏野部からすればそんな事は知った事では無い。でかい面をするアレは確かに目障りだけれど、アレの相手はお前等だ。 お前等が戦ってお前等が殺せ。お前等が戦ってお前等が死ね。 諸共に死んでしまえ。 裏野部にも色々な奴が所属しているが、眼前の彼等ははっきりきっぱりクズなのだ。 自分勝手で自分の都合の良い事にしか耳を貸さない、覚悟も無ければ矜持も無いクズ。異能の力と言う暴力装置を振り翳すだけの存在。 「それはちょっと、虫が良すぎるかなって思うよ」 しかし、挑発に乗らないからと言って逃げ切れるかどうかはまた別の話だ。逃げる彼等の眼前に回りこんだのは、仲間達とは少しはなれた中衛、遊撃を自任していたしのぎ。 さて、裏野部達は一般人を殺し攫い弄ぶ。踏み付けて踏み躙って、笑いながら引き金を引く。北と南から、挟み込むように犠牲をばら撒く。 だがリベリスタ達もフィクサードを殺す。矜持無き虐殺者を、怒りと共に叩き潰す。 一般人にもフィクサードにも、大きいとは言えないけれど、決して小さくも無い無駄な犠牲を生み出して、戦いは終る。 クロスイージス、ソードミラージュ、マグメイガス、ホーリーメイガス、デュランダル、覇界闘士、インヤンマスター、プロアデプト。 自陣に出た犠牲を聞いて引き上げるマンドラゴラは噴き出した。「だせぇ」と。脱ぎ捨てたコスプレの上着を踏みながら。 損も得も無く、勝ちも負けも無い。無意味で無意味で無意味な犠牲者達の血で、町は少し赤く染まった。 余興で、遊びで、皮肉で、嫌がらせで、或いはにぎやかしの為の、赤への染色。 戦果を出したリベリスタ達は、徒労感に包まれる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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