●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える女子高生、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言える訳がなかった。 ●お仕事はブレイクゲートです。 「今からほぼ二年前。とあるアザーバイド、識別名ヒツジアリ討伐案件があって、それは何の支障もなく成功した」 モニターに、ヒツジとアリがつぎはぎされた生き物が谷底を埋め尽くしてリベリスタと交戦中の様子が映し出される。 「ずうっと、巻き戻すね。ここ。よく見ておいて」 スローモーション。 それよりもずっと前の時点の映像。 谷を進軍してくるヒツジアリの奥。 チラッと、何か映った様な気がしないでもない。 「調べたら、この奥にD・ホールが開放された状態だということがわかり、ちょうど二年前にここにリベリスタを送り込んで破壊した」 当時の記録映像がモニターに映し出される。 延々と続くアザーバイドの死骸に、枯れ落ちた草木。 「映像を見てもらえれば分かるとおり、この辺りの植生が非常に大きな被害を受けた。まだ知られていないけれど、ここに調査とかに来られると非常にまずい。未知の生物の死体がちょこっとなら世間もスルーだろうけど、今回は桁が二つ違う。至急、緑が復活するように土壌改良剤を撒くことにしたんだけど」 モニターに記録映像の文字。 タオルで覆面に麦藁帽子にゴーグルのリベリスタたちが大八車引きながら、白い粉を散布している。 陽炎立つ地面。 「酸を大量に吐かれて、リベリスタ以外には無理な環境。ブレイクゲートついでに、土壌改良剤撒きながら行ってもらった」 発生するガスに巻かれて、飛んだり跳ねたり戦闘したり、岸壁の影で秘密組織の一員という妄想に取り込まれたりオネエさんのお胸に脱衣ダイブしたり、阿鼻叫喚那リベリスタ。 顔にモザイク掛けてあげてください。 しかし、この作業量の多さ。 どっちかというと、ブレイクゲートの方がついでだったんじゃ……。 「そして、二年」 イヴは、現在の様子をモニターに映し出した。 緑は戻っている。 しかし、やっぱり周囲と比べると不自然に少ない。 「かなり状況はよくなっているが、継続的な土壌改良剤の散布が必要と判断した。だけど、ここは元々川で、この時期だけ干上がって通れる所。一般人では遭難の可能性がある。まだガスが残ってないとも限らないし」 で、あなたたちの出番。と、イヴは言う。 「みんなには、ハイカーとしてここに入ってもらう。天気予報では、これから数日間は快晴。紫外線情報、非常に強い。不快指数は低いけど、熱中症警報マックス」 野外作業は危険。 「強烈なガスだまりはこの二年でほとんどなくなったと思っていい」 よかった、今までのリベリスタの努力は無駄じゃなかったんだ。 「ただ、じんわりガスが漏れてるのは相変わらずみたいで、うっすい濃度が満遍なく浸透している」 つまり、どういうことですか。 「辛いと感じなくなるから、逆に体調管理に支障をきたす」 のどの渇きや空腹や疲労を覚えない多幸感に包まれて、限界になるまで気がつかないでいきなり電池が切れちゃうってことですね、分かりたくありません。 「タオルとかで口をふさいでいった方がいいかも」 ぶっちゃけ、楽しいハイキング。 川をさかのぼること50キロ踏破して、かつてのD・ホール跡地まで土壌改良剤撒くまで帰れません。 もちろん帰りも歩きです。合計100キロじゃないですか、やだー。 逆に言えば、それさえ済ませてしまえば、万事めでたしめでたしなのだ。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「戦いをしなくていいのは安心ですけれど、とっても暑くて強い日差しは怖いですね……」 『勇気ひとひら』大月 明里(BNE004528)、日傘をさしながらは、至難の業。 「クイーンだと思った? 残念、拙者でした!」 『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)、取り押さえられる三秒前。 ● 今年もヘリコプターでの現地入り。 「準備をしっかりして、皆さんと協力してなんとか成功させなくちゃ」 とか言ってるの「準備」に、熱中症対策と日焼け対策の水筒や日傘、スコップはなのは作業の性質上仕方のないことだが。 「それと、大事なのはガスマスクですっ」 と、貸与された無骨なそれを掲げ持つ図は切なさがにじんでくる。 なぜにこんな過酷な任務にきちゃったのだ。 「着けた事の無い物なので緊張しますけど、ガスを吸わない為にもきちんとつけないとですね」 マイナスイオンたっぷりの癒し系、ホンマモン女子である。癒される。 「ちょっとした茶目っ気なのに、皆酷いでござるYO」 三高平の名誉女子の中で、もっともぞんざいに扱われているのは智夫だろう。 簀巻きも、されて当然扱いだ。 本人がけろっとしているからそれならそれでいいのかもしれない。というか、今も逃げる気満々なのだ。 去年も参加してるから、自分をごまかすことが出来ない。訓練されたリベリスタなので、来ちゃったけど辛いのわかってるのだ。仕事はしたい。逃げたい衝動が抑えきれない。二律背反。 貸してもらった作業着の下が、えっちなボンテージスーツ。もう写真撮られちゃえばいいんじゃないかな。 ● 「ハッピーになれると聞いて☆」 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)、方向性是正の必要あり。 「まさかまたここに来ることになるとは……」 『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)、アークの依頼は志願制である。 「1.やる気のない牙緑です 2.金髪のカツラを被って牙緑になる 3.途中で帰る――この3大目標を持ってこの旅(度)の簡単な仕事を完遂したいと思います」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)、現在の状況をちゃんと把握せんとな。 ● とらは、幸福な少女でなくてはならない。ゆえに「ハッピーになれる」に食いつくのも分からなくもない。 しかし、弱毒性のガスによるハッピーって違うじゃないかな。 晃は、見覚えのある渓谷を眼下に見ながら、嘆息していた。 (鍛錬に最適なのは前回でよく知ってるが、恥ずかしい思い出もあって精神的に少しきつい) 変なガスでくらんくらんになって、晃にしか見えない巨大ロボを一生懸命くみ上げちゃったのだ。いいじゃん、年相応の趣味じゃん。 自分でも顔も少し引き攣ってるを自覚しちゃう、自意識過剰なお年頃。 もー気にすんなよー。智夫を見なさい。 (だが、ゲートの件もあるからな。大事にならない内に対処しておかないとな) 去年、開きかけのD・ホールにヒツジアリがみっしりしていたのを見た衝撃は忘れない。慌ててブレイクゲートした後の安堵感。 (……簡単な仕事に参加した時点で逃げられないしな。逃げるつもりもないが) そんな晃と対極にいる男、翔太とて簡単なお仕事の何たるかを知らない訳ではない。 過去数度、参加している。パートタイムのアルバイト要員として。 そう、ひいひい終わりなき作業でのた打ち回る本参加者を尻目に定時で『お疲れ~』と帰らなくてはならない(就業規則)アルバイト要員。 今回、うっかりフルタイムで登録しちゃったのが運の尽き。時間制限なしのお仕事です! 帰りたい。途中で。あくまで合法的に。 そんな翔太は、サポートに入った仲間を巻き込んだ。 「どこで気付かれるか挑戦だな」 帰りたがっている翔太のために、黒髪のカツラ装着してすりかわり作戦してくれる『輝く蜜色の毛並』 虎 牙緑(BNE002333)。 昨年参加の牙緑が途中で土壌改良剤まきロボットになってしまった詳細は、アークの資料室もしくはWEBで。 というか、身長体格気性行動何もかも違う二人がかつらごときで入れ替われる訳がないのだが、リベリスタ達は放置だ。 正直、それ所ではない。どうせ逃げられはしないのだ。 ● 「キョウモゲンキニカンタンナオシゴトハジメルヨー」 アメリア・アルカディア(BNE004168)、訓練されたリベリスタへの道。 「今日は一味違います」 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)、この写真を実家のメイド長宛に送ろう。 ● 初年、そこは折り重なるようにして焼き払われたアザーバイドの死体の山だった。 次の年、崩れた死骸堆積層の隙間から激しくガスが吹き上がっていた。 そして、今年。 「――草が――」 酸で焼かれた断崖にも、足元にも緑が戻っていた。 「うわー! あの蔦で崖とか登れそうだな、な!」 牙緑よ、君は今翔太なんだから、そんなアウトドアーな雰囲気を醸し出してはいけない。 「緑の匂いがするー」 回復してきているのだ。やっていることは無駄ではないのだ。そう思うと、なんだかがんばれそうな気がする。 うん、がんばれる。いける。100キロとか軽い。走っていける。と言うか、ダッシュで日帰り往復とかチョーよユーなんですけどー!? 「労働とはなんと甘美な喜びでしょうさあ皆さん立ち止まることなく前に進みましょう休憩などもってのほかです欲しがりません勝つまでは暑さも陽射しも精神の鍛錬と思えばどうということはありません泣き言は偉大なるアークへの反逆です偉大なるアークに献身できるとはなんという幸せでしょうわたしはしあわせで――」 こういうガスにはめっぽう弱い『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、高らかに労働の尊さを謳う。 「ガスだーっ!!」 翔太はそんなイキイキと叫んだりしない。 「一年でガスの効果が変貌してるとかどういう事だ!? これも神秘の仕業か!? それともアザーバイトだからか!?」 晃が叫ぶ。 笑気ガスだって、薄ければ麻酔だよ。用法・分量は正しくお使いください。 「道中で恥ずかしい思いをしないのは幸いだが、これはこれで辛い! この猛暑の最中にガスマスクが殆ど脱げないとか辛いぞ!」 去年脱いだ結果が、エアロボット建造だよ。 そう。ガスマスク外したら、負け。というか、外すとき、できるだけガス吸わないようにしないといけない。 「――というわけで、リアカーは任せろ。乗って休んでもいいが乗り心地などは保証しないぞ」 いきなり、晃が爽やかだ。いつも爽やかだが、1.5倍爽やかだ。何がどうつながって、と言う訳なのかが分からない。なんだかすごくいやな予感がする。忍び寄るガスの魔の手。 「さてさて、とりあえずリアカーに乗って散布する係やるね、子供だし。あたしフィジカル高くないし。あと脱走王が逃げないよう見張ってあげる☆」 アメリアが、とりゃー!と、リアカーに乗った。 「色々積んであって重いのはよく知ってるが、それでこそいい鍛錬になる」 「まず熱中症対策に飴を用意したよ。酸っぱいのと普通に甘いのと激辛! 酸っぱいのは塩分入りだから熱中症対策にバッチリだね。激辛は自分用だけどサボろうとした人には問答無用で食べさせよう。断熱素材のリュックに入れておくから溶けないはず。もちろん水分はスポーツドリンクを用意しておいた。ぬるめで。あ、大量だからリアカーに積むね?」 どかどかどかどか。アメリアがどんどん色々積み込む。もちろん、土壌改良剤も。いくら途中で撒くからってそんなに積んだら、いくらリベリスタでも過積載! 「ソレデコソ、イイタンレンニナル」 晃の発音が、なんかロボっぽくなってますー! スコップで土壌改良剤をまいているシュピーゲルの奥方様は、とてもご機嫌だった。 主人公が同じ名前のジャパニメーションの替え歌を高らかに歌いながら、ガチャガチャ音をさせている。 さすがの訓練されたリベリスタも絶句だ。 「地下神殿とかありそうな雰囲気ですね。自然というものは時として優れた建築家に勝るもの」 さぞかしニコニコしているに違いない。想像するしかないのだが。 角やら何やら仰々しい意匠の漆黒の全身鎧とマント。うん、それ敵キャラだから。顔など見えない。どれだけ太陽光線を遮断すれば気が済むのだろう、いや漆黒が紫外線を吸収しまくりである。 「いつもの簡単なお仕事ならば、この猛暑で一気にドラマ判定フェイト復活が危ぶまれたところでしたが――」 今日のアーデルハイトは一味違うの。だって、魔神王の手土産を実践中だから! そう、あの、どさくさまぎれて、アークにもたらされた、クールに過ごせるようになる素敵不戦スキル「弱冷気魔法」である。 「どうですか、この絶妙な涼しさは! 凍結させてしまうこともなく快適な生活をお約束。四季の中でも夏を最も苦手とする私には欠かせぬ技術。熱いのは、お茶と人肌だけで十分なのです!」 ムンムンムレムレどころか、高原の風ですよ。 「うふふ……憧れていたのです、鎧魔道士に! 魔道士のイメージを覆すも失わぬ荘厳さ!」 とりあえず、ご父君の好みを確認したほうがいいかもしれない。ストップ・ザ・ナミダッシュ。 でも、なまじ体力がある奥方様は気づいていない。あくまで涼気魔法であって、鎧が軽くなってる訳じゃないということを。今、やったらと軽快に動けているのは、このあたりに蔓延しているガスにちょっとやられちゃっているからだということを。 「フフフ……スズシイ」 奥方様の発音が、カタカナに。 ● 明里がどじっ娘よろしくすってんすってんと良く転ぶ。 頭と体がうまくリンクしなくなってきているのだ。 シャベルで改良剤を撒こうとしているが、実際は足元に長い線が延々と続く状態になっている。まあ、効果はあるだろう。ドンマイ。 「これはとってもかんたんなおしごと……ミーノくらいのわんだふるサポーターならぽぽいのぽーいでおわらせちゃうくらいのかんたんなおしごと……っ」 『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011)、テテロ姉妹、今日は長女のお出ましである。 ぱっさぱっさと撒かれる土壌改良剤。すこぶる快調。 「あつい……あついの~……もってきたすいとーのジュースがもうないの~……」 いきなり来る燃料切れ。ペース配分と言う言葉を脳内から消し去る恐ろしいガス。 ばたりと倒れるミーノがリアカーに積み込まれる。 げごふぅっ! と言う悲鳴が聞こえたような気もするけど、大丈夫。気のせい。 「岩で、卵が焼けそうだよね」 翔太はそんなこと言わない。 「でも立ち止まれないからー」 とらは、平らな石をごろんとリアカーに放り込んだ。いきなり傾き、アメリアが頭から落下しかけるが誰も気にしない。そんなガスクオリティ。 慌てず騒がず、岩の上に卵を割り落とすとら。じゅー。 「サンドイッチにしよーな!」 翔太はそんなこと言わない。 「――牙緑君は、もっとアツイ男だったはず! ホラ、翔太君も頑張ってるよ」 牙緑はそんなアンニュイな雰囲気をかもし出さない。 とらは、蜂蜜のレモン付けをタッパーから摘み上げた。 「はい、アーン☆」 「え、いや、べつに――」 牙緑はそこで遠慮なんかしない。 「というかこれ……下手するとあっちで野宿するくらい時間かかるんじゃ……?」 アメリアが唐突にそんなことを言い出した。 「いやいや、流石に野宿は無い。となると時速8㎞位で歩かないといけない…? あ、これ今まで体験した中で一番過酷だ」 そんな計算を始めるアメリアに、晃はやけに闊達な笑いで答えた。 「シンパイスルナ、ダイジョウブダ」 発音がカタカナなのは置いておこう、そうか、大丈夫なのか。 「どうせ、お迎えは明日にしか来ないよー」 うふふ、あははと智夫は妙に茫洋とした笑顔を浮かべた。 「日帰りじゃ……ない? え?」 アメリアの顔がみるみる青ざめる。 「だから、そんなにハイペースでなくて大丈夫。りらっくす、りらっくすー」 えへへ、おほほな智夫の様子に、アメリア、覚悟完了。 「ええーい、血の掟発動して頑張るぞー」 極道モン、なめんなー! ● 「簡単な仕事か、初参加は二年前か懐かしい」 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)、家族を思い出してべそべそ泣いたのは内緒。 ● 定時が来ますよ、ぴっぴっぴ、ぽーん! 「え、頼んでた夏でも涼しい服が出来たの? うん、丁度必要な依頼があるから今すぐ行くよー」 こんな現場にドレスで来たある意味勇者の『アークのお荷物』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)がラボからの連絡に小走りでもと来た道を走り出す。 「ホリメの僕がいなくても、ちゃんと飲み物飲むんだよー!」 サポート組離脱時に、牙緑の不利をしようとしている翔太がきびすを返した。 帰る。 「なんたって俺は牙緑だからな。というわけで、皆頑張れ」 牙緑はそんな風に言わない。 「上沢牙緑よ、逃がしはしない。どうしても帰りたくば俺を倒してから行くがいい」 と、優希が翔太の前に立ち塞がった。 「何故だ、何故ばれた。完璧な変装のはずなのに、何故俺だとわかった」 分からなかったら逆に友情が疑われる。 おととしここを歩いていたとき、優希くんは友達を作ることを拒んだボッチ野郎。 二年かかってこの谷の緑が戻ったように、優希の心にも少しずつ潤いが戻った。 「まだだ、俺達はリベリスタだ」 だからなんだってんだと言わせない。その一言に全てを凝縮させる。それが、潤いを覚えた主人公力。 特撮戦隊物でいう、レッドからブラックへの説得ベクトルである。 「だあああ、わかったよ。行けば良いんだろう行けば、ちゃんと一緒に行くよ」 ブラックは、ここで折れなくてはいけない。 「残されし底力と火事場の馬鹿力でもって任務を完遂するのだ!フハハハハ!」 優希は、爽やかさに欠ける笑い声を上げた。ダークヒーロー志望。 「俺もリアカーは引くよ。休ませて貰ったりもするしな、というか往復しないといけないわけだしさ。やるべきことはまぁ、一応はちゃんとやるさ」 そしてやけにかいがいしくなるブラック。 「じゃ、がんばれ!」 黒髪のカツラから開放された牙緑は、器用にもと来た道を戻っていった。 ● 「くそう、100キロは普通に自転車で走れる道ならば5~6時間、車だったら高速で1時間で済むのに 何故、歩かないといけないんだ」 「うぅ、大事なお仕事ですけど、やっぱり暑くて辛いです……」 「ガスマスクを必要とする者が居れば譲るとしよう」 「やめろー、俺は幸せになるんだー!」 「幸せな状態で眠ると更に幸せになれます」 「例え困難が待ち受けようと……ごほごほっ、マスクが痛んでいてガスが入っ――」 「この土地に綺麗な緑が戻るように願いを込めてしっかりと蒔きますよ」 「あ、優希。その肩貸してくれ、流石にもう疲れた」 「あれ? おじいちゃん? わたし、ずっとおじいちゃんに会いたかったんだよ。いまそっちに行くね」 「その川渡っちゃだめだぁ!」 「全ての道は気合いに通ずる。このような死地においても俺の崇高なる魂は挫かれることは無いのだ」 「俺は目的地まで引きずられても構わんほどにって、冗談冗談」 「子羊がいれば優しく導いてアゲルのがミラクルクイーンの努めですわ。天国におイキなさい!」 「あ゛っ――!!」 「ヒギィ、晒した肌が日に焼けて痛い!?」 「あ、河の向こうにシスター達が見える」 「その河も渡っちゃだめだぁ!」 「本来ならばティータイムにしたいところですが、お茶会を開ける場所でもないようですから」 「我々リベリスタにとって、労働が過酷であればある程人の役に立っているという実感を得られ、それこそが生存理由と存在価値に繋がるのだ」 「舞ちゃんのためなら、エーンヤコラ♪」 「まだリアカーにいる!」 「とらちゃんやナイチンゲールは毎度最後までしっかりとやっていて凄いわ」 「ごめんなさいね。まだ2回目だしキャラが不安定なのよ」 ● 河原を遡ること、数十キロ。 ジャブジャブと流れてくる水がマイナスイオンな感じである。 ガスは薄らぎ、つまりドーピング効果は収まり、正気と引き換えにとてつもない疲労感と筋肉痛がリベリスタを襲った。オーバーワークっすよ? そんな状態でがんばった沢登り――は、智夫の翼の加護で飛んで行けたので楽だった。 そうして、リベリスタはようやく約束の地にたどり着いたのだ、おめでとう! が、一瞥した途端、晃が叫んだ。 「やっぱりこうなってるよな!?」 何もない空間に、幽霊のごとくゆらゆら揺らめく上半身が羊で下半身がアリが折り重なるようにひしめき合っている。奴ら、産卵シーズンですよ。 「Dホール閉めたんじゃなかったっけ?」 アメリアが首をひねる。 「閉めたさ!」 去年来た晃、激しく主張。去年もこうなってた。 「癖になってる?」 そうかもしんない。ボトム・チャンネルは狙われている! 「何年も跨いだ今までの苦労を水の泡にしてたまるか!」 「ヒツジアリは犠牲となったのだ……墓標を心の中で打ち立てよう」 晃、ライト系。優希、ダーク系の主人公力。 「「「「ブレイクゲートぉ!!」」」」 「さぁ、自然環境を壊さずに帰るぞ! 熊を見かけたら即座に逃げるぞ! 前回でよく知ってるからな!」 嫌でもテンション上げなきゃ帰り道は乗り切れない。 がんばれ、リベリスタ! 残り半分、君達のお迎えが来るまであと八時間くらい! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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